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成長都市における住宅の環境負荷抑制方策の提案 [ PDF

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36-1 家族情報 住居情報 家電使用状況 光熱費 その他エネルギー源 太陽熱温水器 購入価格、設置時の規制等の有無、 維持費、買換え頻度 暖房の有無、使用期間 住戸の改修箇所、改修または購入希望、 生活及び住居に関する懸念や関心など 暖房 自由記入項目 家族構成(年齢含む)、職業、年収、月平均支出 住戸形態(戸建/集合住宅)、構造、 部位ごとの建材、部屋数 個数、出力、使用頻度 月毎の電気代、ガス(LPG)代、水道代 バイオガス、太陽光などの利用の有無

成長都市における住宅の環境負荷抑制方策の提案

上田 智士 1. はじめに 深刻な地球環境問題の原因の一つは、都市が成熟していく 過程に伴う建築環境負荷の著しい増加であると考えられる。社 会の持続的発展と環境負荷低減を両立する新たな都市の成長 過程を提案することは、重要な目標かつ緊急の課題である。寒 冷地域と乾暑地域には、今後成長が期待される多くの都市があ り、それらの都市に共通して適用可能な負荷抑制方策を明らか にし、その効果を求めることを本研究の目的とする。はじめに、 ラサとカイロを例として検討を行い、その結果を基に提案した負 荷抑制方策を他の都市に応用する。 2. チベット自治区ラサにおける環境負荷抑制方策の提案 ラサは近年経済発展を遂げているチベット自治区の首府で ある。海抜 3,658m に位置し高山気候であるため、空気の酸素 保有量は平地よりも少ない。日射量が豊富で、年平均日照時間 は 3,006 時間、年積算日射量は 8,160MJ/m2である。 2.1 現地アンケート調査 調査概要 : ラサの建築様式や住まい方と所得の関係性を明ら かにするため 2011年9 月に現地でアンケート調査を行った。所 得の異なる家庭での住居や住まい方の差異を見ることが、所得 が高水準へ移行していく将来予測に有効であると考えられる。 表 1 にアンケート調査内容を示す。チベット大学の学生 24 名を 対象に、家族と共に居住する住居に関して回答を得た。 調査結果 : 対象世帯の所得分布は二極化がみられた。ラサの 2010年度平均所得1)は18,787元である。どの所得層でも伝統的 構法である木造軸組と組積の混構造や、組積造、RC 造が見ら れた。対象世帯の 58%が太陽熱温水器を所有し、太陽熱の有 効利用への意識がみられる。多くの世帯が暖房器具に牛糞スト ーブを用いているが、利便性の高いエアコン等を購入希望の 世帯もあった。牛糞ストーブは利用時の室内空気質汚染が深刻 で、適切な換気計画を行う等の対策が必要である。室内環境の 快適性への関心は全体的にあり、自然光や日射、太陽熱への 意識が特に高いようであった。 2.2 ラサの住宅における省エネルギー方策の提案 ラサでは生活に必要最低限のエネルギーしか使用しておら ず、省エネルギーの概念は浸透していないと考えられる。この ままその概念を持たずに住宅規模の拡大や使用家電機器の増 加が起これば、住宅のエネルギー消費量は増え続ける。そこで、 現状を再現した住宅モデルに対し、各経済水準において導入 可能な省エネルギー手法を提案し、その導入効果をシミュレー ションにより検証する。 計算概要 : 集合住宅一戸当たりのエネルギー消費量を暖房、 家電機器、照明別に算出する。ラサは夏期平均外気温度が約 17℃と涼しいため、冷房負荷は考慮しない。機器や照明の電力 負荷は、SCHEDULE Ver. 2.02)で算出し、暖房負荷は照明と機 器の内部発熱を考慮し THERB3)を用いて算出した。気象デー タはラサの標準年気象データ4)を用いた。ラサの空気密度は平 地の約 60%であるため、外表面及び内表面対流熱伝達率にそ れぞれ 13.8W/m2K、3.4W/m2K を用いる。計算期間を 11 月から 2 月とし、在室時に温度 22℃、湿度 40%の設定で暖房を行う。 家族構成は夫婦、子供 2 人とする。 計算ケース概要 : 経済水準の向上による住宅規模、住まい方 の変遷を Case0、Case1、Case2、Case3 と設定し、環境負荷抑制 方策を施さない場合を「無対策シナリオ」、施す場合を「対策導 入シナリオ」とする。図 1 に各ケースの基準階平面図を示す。 表 1 ラサのアンケート調査内容 図 1 ラサ基準階平面図(単位:mm) c) Case1 対策導入シナリオ d) Case2, Case3

b) Case1 無対策シナリオ a) Case0

(2)

36-2 353 244 258 243 259 39 270 65 1,039 1,039 1,904 1,904 3,237 3,237 1,976 1,976 34 34 244 244 472 472 472 472 0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 3,500 4,000 4,500 無対策 対策導入 無対策 対策導入 無対策 対策導入 無対策 対策導入

Case0 Case1 Case2 Case3

年間電力消費量 [k W h] 暖房 その他機器 照明 1,801 740 399 464 510 1,201 2,221 1,196 464 510 740 797 927 1,595 2,782 4,083 1,364 2,334 2,736 3,254 3,264 1,311 2,265 2,589 3,035 3,021 0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 3,500 2010 2020 2030 2040 2050 人 口[ 千 人] 年間電力消費量 [MW h] 年 年収10,000元以下 年収20,000~30,000元 年収50,000~60,000元 年収60,000元以上 無対策シナリオ[MWh] 対策導入シナリオ[MWh] 生活スタイル 入浴回数, 入浴時間帯, 省エネルギーやエネルギー問題への意識 その他 現在の住居の改修希望, 今後購入を希望するもの, 将来の生活に関する関心や希望, 現住居の平面図 家族情報 性別, 年齢, 職業, 家族人数 住居情報 住戸形態(戸建/集合住宅), 構造, 窓ガラス仕様, 部屋数, 室用途 住宅設備情報 暖冷房機器の有無, 使用期間, 使用室用途, 使用家電機器, 所有台 数, 太陽熱温水器や太陽光発電設備の有無, 地下室への意識 Case0 : 最も庶民的な住宅及び使用機器とし、年間所得は 10,000 元以下と想定する。住居内に入浴・衛生設備、個人の寝 室を有さない。対策導入シナリオでは断熱材を導入する。 Case1 : Case0 より住宅規模が拡大、使用機器が増加し、年間 所得は 20,000 元~30,000 元と想定する。対策導入シナリオでは 住戸南側にサンルームを設置する。 Case2 : Case1 より住宅規模が拡大、使用機器が増加し、年間 所得は 50,000 元~60,000 元と想定する。住宅南側にサンルーム を有する。対策導入シナリオでは窓ガラスを複層ガラスにする。 Case3 : 住宅規模、使用機器は Case2 と同様であるが、所得が 増え、省エネルギーな家電機器を購入した場合を想定する。対 策導入シナリオではサンルームの内壁と床を蓄熱仕様とした。 計算結果 : 暖房、家電機器、照明の年間エネルギー消費量を 算出した。Case0 は居間と寝室、Case1、Case2、Case3 は居間と 全寝室において暖房を行う。図 2 に年間電力消費量を示す。暖 房の電力消費量が Case3 より Case2 の方が小さい。家電機器を Case2 では普及型を使用し、Case3 では省エネ型を使用するた め、Case2 の機器発熱が暖房負荷に有利に働いたものと考えら れる。しかし、照明やその他機器も含めた電力消費量は、Case2 が最も大きい結果となった。 対策導入シナリオと無対策シナリオについて、市の規模でも 省エネルギー効果を検討した。しかし統計の不足によりラサの 概算が困難であるため、チベット自治区全体の世帯を対象に住 宅のエネルギー消費量を算出する。計算方法は、統計を用い てチベット自治区の人口とラサにおける所得分布の推移を求め、 各所得層の世帯が人口に占める割合を求める。世帯人数は 4 人とする。予測した世帯数と各所得レベルに対応する住宅ケー スの電力消費量の積を求める。図 3 にチベット自治区における 住宅の年間電力消費量(線グラフ)と所得別人口分布の推移 (棒グラフ)を示す。最大で 7%の電力消費量削減となり、大幅な 改善とはならなかった。しかし、最も高い生活水準を想定した対 策導入シナリオ Case3 の年間電力消費量2,513 kWhは、中国の 一人当たり年間電力消費量 2,648 kWh を下回っているため、対 策導入シナリオは低環境負荷な成長過程であると考えられる。 3. カイロにおける環境負荷抑制方策の提案 エジプトの首都カイロは、アフリカで最多人口の都市である。 急速な発展に伴い国民の電力消費量が増加しており、今後の エネルギー消費量増加が懸念される。年間を通して高温で乾 燥している砂漠気候である。年間日照時間が 3,416 時間と長い ため日中の気温上昇も大きいが、夜間の気温低下も著しい。 3.1 アンケート調査 調査概要 : カイロにおける居住環境の実態把握のため、日本 に居住するエジプト人及びエジプト在住の市民を対象にアンケ ート調査を行った。調査期間は2013年1月、3月、12月である。 調査内容については、エジプトに居住する家族と住居を対象に 16 世帯から回答を得た。表 2 にアンケート調査内容を示す。日 本の調査では対面で聞き取りを行い、英語によって回答を得た。 エジプトの調査では Beni-Suief University 教員の Heba Ismail 氏 の協力の下、調査票を市民に配布し、記入後回収した。 調査結果 : エジプトではレンガ造や石造の住宅も一般的であ るが、対象世帯ではRC造が多い。開口部に木製の日射遮蔽装 置 Shish を設置する世帯も多い。入浴習慣は、7 世帯がほぼ毎 日入浴し、夏以外の入浴は週 2 回の世帯もある。主な入浴時間 帯は午前である。9 世帯がエアコンを所有し、5 月から10 月まで 冷房に利用する。1 日に 20~22 時間利用する世帯もあった。扇 風機は 13 世帯が所有しており、4 月~10 月に使用されている。 5 世帯が一日に 10 時間以上、1 世帯が一日中使用すると回答し た。暖房機器は電気ヒーターを4世帯が所有しているが、6世帯 は暖房器具を所有していない。部屋が暑くなった時の行動とし て、「窓を開ける」と「エアコンを利用する」という回答が 6 世帯ず つでみられた。また部屋が寒くなった時の行動として、7 世帯が 「暖房器具を利用する」とし、5 世帯が「服を着込む」とした。窓の 開け閉めや衣服の着込みによって温熱環境を改善するより、空 調などによって快適な温熱環境にする意識の方が高い。 3.2 カイロの住宅における省エネルギー方策の提案 環境負荷抑制方策を導入しない場合に、カイロの住宅のエ ネルギー消費量をケース検討する。それらのケースにカイロの 気候特性を活かした対策を、費用対効果も考慮した上で導入し、 その導入効果を検証する。 図 3 チベット自治区の住宅年間電力消費量の推移 表 2 カイロのアンケート調査内容 図 2 ラサ年間電力消費量

(3)

36-3 410 1,225 441 855 378 639 340 328 256 324 324 324 324 324 324 324 324 324 2,278 2,278 2,187 2,187 2,210 2,210 2,210 2,210 2,131 0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 3,500 4,000 4,500 対策導入(CASE D) 無対策 対策導入(CASE C) 無対策 対策導入(CASE B) 無対策 対策導入(CASE A) 無対策 無対策 CASE 4 CA SE 3 CASE 2 CASE 1 CASE 0 夏期積算電力消費量[kWh] 空調 照明 家電機器 2,711kWh 2,862kWh 2,873kWh 3,172kWh 2,911kWh 3,365kWh 2,951kWh 3,827kWh 3,012kWh

2040年 CASE1 CASE1 CASE2 CASE3 CASE4 CASE4 CASE4 2050年 CASE1 CASE1 CASE2 CASE4 CASE4 CASE4 CASE4 2020年 CASE0 CASE0 CASE1 CASE1 CASE2 CASE3 CASE3 2030年 CASE0 CASE1 CASE1 CASE2 CASE3 CASE4 CASE4 所得水準 / 分布割合 Lowest 4% Low 5% Lower Middle 21% Middle 16% Upper Middle 13% High 13% Highest 28% 2010年 CASE0 CASE0 CASE0 CASE0 CASE1 CASE1 CASE1

6,133.1 7,746.7 10,336.0 12,045.6 13,382.1 6,133.1 7,247.8 9,023.2 10,132.2 11,058.6 0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000 16000 2000 2010 2020 2030 2040 2050 2060 夏期積算電力消費量 [G W h] 年 無対策シナリオ 対策導入シナリオ 計算概要 : 図4に計算モデルの基準階平面図を示す。計算期 間を 6 月から 9 月とし、集合住宅一戸あたりの電力消費量を求 める。非定常熱負荷計算にはNew HASP/ACLD5)を用いて空調 電力消費量を求める。Energy Plus6)のカイロ標準年気象データ を使用する。家族構成は夫婦と子供 3 人とする。 計算ケース概要 : CASE0 から CASE4 にかけて所得及び生活 水準が向上すると想定し、CASE1 から CASE4 に対して環境負 荷抑制方策を施す場合を CASE A から CASE D とする。 CASE0 : 現在の平均的な居住環境を再現する。木製外付けの 日射遮蔽装置 Shish を住宅南側の開口部に設置する。居間在 室時の 19 時から 22 時に冷房する。各居室で夜間換気を行う。 CASE1・CASE A : CASE1 は CASE0 と比べて生活水準が少し 向上した場合を想定する。居間在室時の 16 時から 22 時に冷房 する。所有家電機器に液晶テレビ等を追加する。CASE A では、 対策として「RC 造の推奨」を CASE1 に導入する。 CASE2・CASE B : CASE2 は経済水準が向上し、空調設備が 増加する場合を想定する。寝室3にもエアコンを設置する。また、 エアコンによる冷房の便利さから空調可能な居室の夜間換気を 行わなくなると想定する。居間と寝室 3 で夜間換気を行わない。 CASE B では、CASE Aでの対策に加え「夜間換気を行う生活ス タイルの推奨」と「外壁への遮熱塗料の使用」を対策として CASE2 に導入する。対策導入後の寝室 3 では夜間に冷房する ため、19~22 時に換気をし、居間は 20~6 時に換気する。 CASE3・CASE C : CASE3 は全居室で冷房を行うと想定する。 全居室で夜間換気を行わない。また、高性能パソコン等を所有 家電機器に追加する。CASE C では、CASE B での対策に加え 「床下にレンガを設置」を対策として CASE3 に導入する。 CASE4・CASE D : CASE4 は空調設備が充実し、所有家電機 器数が最も多いと想定する。全居室に高性能パソコンと液晶テ レビを設置し、エアコンも全て高性能とする。CASE D では、 CASE C での対策に加え「庇(長さ 100cm)の設置」を対策として CASE4 に導入する。庇は南側の開口部全てに設置する。 計算結果 : 図5に夏期における集合住宅一戸の電力消費量を 示す。空調電力消費量は CASE1 から CASE2 にかけて約 1.9 倍に増加し、エアコンが高性能なCASE3、CASE4も増加してい る。これは夜間換気を行う生活スタイルの変化が大きな要因と 考えられる。これより気温が下がる夜間に換気を行う現状の生 活スタイルは維持すべきであり、空調開始前に換気し寝室の負 荷を下げる等の対策も必要である。対策導入によって、空調電 力消費量を CASE B で約41%、CASE C で約49%、CASE D で 約 67%削減しており、十分な省エネルギー効果が得られた。 カイロの「対策導入シナリオ」と「無対策シナリオ」について、 市の規模で省エネルギー効果を検討する。まず、人口統計7) ら 1 世帯 5 人としてカイロの世帯数を求める。そして、所得水準 分布の統計8)から各所得水準の世帯数と 2050 年までの平均年 間所得を推定し、各所得水準に適したケースを設定する。表 3 に所得分布とケースの設定を示す。各ケースの夏期電力消費 量と世帯数を積算し、カイロ全体での電力消費量とした。図 6 に カイロにおける住宅全体の夏期電力消費量の推移を示す。対 策導入による電力消費量削減効果は、2020 年で 6.5%、2030 年 で 12.7%、2040 年で 15.9%、2050 年で 17.4%となり、カイロでの 住宅エネルギー消費の状況は改善されている。 4. 成長都市のための環境負荷抑制方策の提案 ラサとカイロの方策では、「壁体構成の変更」や「開口部に工 夫を施す」等、太陽熱の取り扱いに重点を置く点が共通してい る。両地域ともパッシブデザイン方策を導入する際は太陽熱の 取り扱いを優先する必要があるといえる。しかし、ラサでは日射 図 4 カイロ基準階平面図(単位 : mm) 表 3 カイロの所得分布とケースの設定 図 5 カイロの夏期積算電力消費量 図 6 カイロの住宅全体における夏期電力消費量の推移

(4)

36-4 126,723 145,174 162,490 184,537 195,372 98,616 105,960 118,128 125,074 4,861 5,429 6,029 6,785 7,169 3,627 3,986 4,398 4,646 142,047 159,516 156,308 166,297 110,514 96,682 103,466 101,890 105,953 0 50,000 100,000 150,000 200,000 250,000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 2055 夏期積算電力消費量 [G W h] 年 無対策シナリオ(サンティアゴ) 対策導入シナリオ(サンティアゴ) 無対策シナリオ(プンタ・アレーナス) 対策導入シナリオ(プンタ・アレーナス) 無対策シナリオ(キエフ) 対策導入シナリオ(キエフ) 108,834 196,055 305,625 451,151 594,822 108,834 195,358 303,569 448,312 591,831 1,047,876 1,379,883 1,841,258 2,303,014 2,701,352 1,047,876 1,358,432 1,791,985 2,235,722 2,617,407 509,458 684,821 849,782 1,000,060 1,151,361 509,458 682,230 834,127 980,663 1,128,598 0 500,000 1,000,000 1,500,000 2,000,000 2,500,000 3,000,000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 2055 夏期積算電力消費量 [G W h] 年 無対策シナリオ(アブダビ) 対策導入シナリオ(アブダビ) 無対策シナリオ(カラチ) 対策導入シナリオ(カラチ) 無対策シナリオ(リヤド) 対策導入シナリオ(リヤド) を冬季の熱源として、カイロでは日射を夏季の熱負荷の原因と して取り扱っている点が異なっている。 4.1 乾暑地域における環境負荷抑制シナリオの提案 カイロの気候と類似した UAE のアブダビ、パキスタンのカラ チ、サウジアラビアのリヤドを対象にカイロと同様の方策を施し、 住宅の省エネルギー効果を算出し、2050 年までの都市全体の 住宅電力消費量の推移を検討する。計算は気象条件のみ変更 し、Energy Plus から得た標準年気象データを使用する。 計算ケース概要 : 無対策シナリオはカイロと同様である。各ケ ースへの導入対策は以下に示す。 CASE E : 「RC 造の推奨」を対策として CASE1 に導入する。 CASE F : CASE E での対策に加え「袖庇(長さ 50cm)を開口部 の両側に設置」と「外壁への遮熱塗料の使用」を対策として CASE2 に導入する。最低気温も高温である 3 都市では夜間換 気は室内負荷を増大させるため、袖庇を代替方策として施す。 CASE G : CASE F での対策に加え「床下にレンガを設置」を対 策として CASE3 に導入する。 CASE H : CASE G での対策に加え「住宅南側に庇(長さ 100cm)の設置」を対策として CASE4 に導入する。 計算結果 : 図 7 に各都市の住宅全体における夏期電力消費 量の推移を示す。2050 年において、アブダビでは 1%未満、カ ラチでは 3.1%、リヤドでは 2.0%電力消費量を削減した。各都市 で電力消費量を削減したが、その効果は極めて小さい。カイロ では効果のある方策でも他都市では同様の効果が得られず、 現地実態に即したシナリオの検討が今後必要である。 4.2 寒冷地域における環境負荷抑制シナリオの提案 ラサの気候と類似したチリのサンティアゴとプンタ・アレーナス、 ウクライナのキエフを対象にラサと同様の方策を施し、住宅の 省エネルギー効果を算出し、2050 年までの都市全体の住宅電 力消費量の推移を検討する。計算条件はラサと同様で、非定常 熱負荷計算には New HASP/ACLD を用いる。計算期間はキエ フが 12 月~2 月、サンティアゴとプンタ・アレーナスは南半球で あるため 6 月~8 月とする。 検討ケース概要 : 無対策シナリオはラサと同様である。各ケー スへの導入対策は以下に示す。 CASE I : 「壁体構成へ断熱材を使用」を対策として CASE0 に 導入する。95mm の断熱材を外壁に導入する。 CASE J : CASE I での対策に加え「住宅南側にサンルームを設 置」を対策として CASE1 に導入する。 CASE K : CASE J での対策に加え「開口部への複層ガラスの 利用」を対策として CASE2 に導入する。単板ガラスから厚さ 3mm、中空層厚さ 6mm の透明フロート二重ガラスに変更する。 CASE L : CASE K での対策に加え「サンルームの内壁、床を 蓄熱仕様とする」を対策として CASE3 に導入する。サンルーム の蓄熱性能を向上させ、住宅の暖房負荷を低減させる。 計算結果 : 図 8 に各都市の住宅全体における冬期電力消費 量の推移を示す。2050 年での対策導入効果は、各都市で 35% 前後の電力消費量削減であった。無対策シナリオでは環境負 荷が増加しているが、対策導入シナリオではほぼ一定に推移し ており、低環境負荷な成長をしていると言える。 5. おわりに 本研究では、はじめにラサとカイロの居住環境の実態把握を 目的として行ったアンケート調査の結果を示した。また、両都市 の住宅に対して、所得水準に合わせた環境負荷抑制方策を提 案し、方策の導入効果をシミュレーションによって検証した。次 に両都市に類似した気候の都市に同様の環境負荷抑制方策を 導入した際の導入効果を検証した。その結果、2050 年におい てラサでは 7%、カイロでは 17.4%の電力消費量を削減し、現地 実態に即した方策の導入が効果的であることを示した。また、 乾暑地域では日射を遮り、住宅内の熱負荷を発生させないこと により効果が得られること、寒冷地域では住宅の断熱、蓄熱性 能向上により大きな効果が得られることを示した。 【参考文献】 1) 西蔵自治区統計局:西蔵統計年鑑 2011 2) 空気調和・衛星工学会:シンポジウム 住宅における生活スケジュールとエネルギー 消費 テキストと付属プログラム SCHEDULE Ver2.0,2000 年

3) Ozaki A, Watanabe T and Takase S: Simulation Software of the Hydrothermal Environment of Buildings Based on Detailed Thermodynamic Models, eSim 2004 of the Canadian Conference on Building Energy Simulation, pp.45-54, 2004 年

4) 張晴原:中国における設備設計とシミュレーション用気象データベースに関する研究, 空気調和・衛星工学会論文集,No.161,pp11-16,2010 年

5) 社団法人建築設備技術者協会動的熱負荷計算・空調システム計算プログラム 「HASP」ダウンロードページ : http://www.jabmee.or.jp/hasp/ , 2014 年2 月参照 6) Energy Plus Weather Data ダウンロードページ :

http://apps1.eere.energy.gov/buildings/energyplus/weatherdata_about.cfm , 2014 年 2 月参 照

7) 国連統計局 世界都市化予測 : http://esa.un.org/wpp/Excel-Data/population.htm , 2014 年 2 月参照

8) The World Bank : http://data.worldbank.org/indicator?display=graph , 2014 年 2 月参照 図 7 乾暑地域の住宅全体における夏期電力消費量の推移

図 8  寒冷地域の住宅全体における冬期電力消費量の推移

参照

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