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教員間協働によるろう児の携帯メールプロジェクトの検証

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(1)

─研究論文─

教員間協働によるろう児の携帯メールプロジェクトの検証

佐々木 倫子  ・  鈴木 理子

要 旨

 本研究では、ろう児に対する携帯を用いたリテラシー育成プロジェクトを採りあげる。

このプロジェクトは、ろう学校教員と大学教員によって、小学校高学年のろう児を対象に 2012 年に企画・実施・分析されたもので、2013 年にかけても継続中である。本稿では、

この教育実践がろう児の書記日本語能力、および、携帯リテラシーの育成にどのような役 割を果たしたかという点と、教員間の協働研究のひとつの形態としてのあり方の2点を採 りあげ、分析した。

 日本手話を第1言語とし、教育言語とするろう児にとって、第2言語である書記日本語 能力の育成はそう容易ではない。多様な教育形態がとられる中でのひとつの試みとして、

夏休みを利用した携帯メールプロジェクトが実施された。本稿では、ろう児とろう学校教 員との間でおこなわれた「メール交換⇒メールを集めた作品集の作成⇒作品集をもとにし た作文作成」の流れを記述・分析する。教員間協働による実施計画・実践・分析の流れが 順調に進み、一部を残し、成果が得られた過程を検証する。

【キーワード】  ろう児、携帯メールプロジェクト、書記日本語教育、携帯リテラシー、

協働研究

1.はじめに

 本研究はろう児をめぐるリテラシーの育成のひとつの試みを採りあげるものである。本 稿における「ろう児」とは、聴覚に重度の障害を持ち、基本的に手話を第1言語(以後、

L1)とする子どもたちを指す。

 身体障害手帳の交付における聴覚障害の認定基準では、両耳の平均聴力レベルが 70 デ シベル(dB)以上のもの(40 センチメートル以上の距離で発声された会話語を理解し得な いもの)はもっとも軽度の6級で、両耳の聴力レベルが 90dB 以上のもの(耳介に接しな ければ大声語を理解し得ないもの)は3級とされている。3級、2級、1級の聴覚障害を 持って生まれた子どもが、音声言語を耳から聞いて自然習得することは、まず不可能で ある。

 厚生労働省の統計で、現在見られる最新データである 2006 年版によると、聴覚・言語 障害児は0歳から4歳までの子どもが 2,800 人、5 歳から 9 歳が 5,300 人、10 歳から 14 歳が 5,300 人となっている。この子どもたちの全員が先天的な聴覚障害者というわけではない。

誕生時からある時点までは聞こえたのだが、4歳とか5歳の時に高熱を発し、以後、聞く

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能力を失うといった中途失聴の子もいる。そのような子どもの場合は、失聴時期にもよる が、L1 が日本語であることが予想される。しかし、重度の先天的聴覚障害をもつ日本在 住の子の場合は、L1 は日本手話となる。

 言語習得理論では現在、一般的に2つの枠組みが知られている。生成文法と認知言語学 によるものである(塩谷 :  2002、小林ほか :  2008)。生成文法は、全ての人間が生まれなが らに言語獲得装置を持っていると考える言語生得説をとる。認知言語学では、例えば、ト マセロ(2008)は言語能力を社会的認知能力、他者の意図を推測する能力を言語獲得にお けるもっとも基盤的な能力だと考える。どちらにしても、子どもは半年ころから喃語、1 歳頃に単語、1歳半頃に二語文、2歳すぎには文法が発達する道筋をとると考えられてい る。そして、鳥越(2000, 2008)は手話の習得過程が音声言語のそれとかなり共通している ことを示している。

 本稿で扱うのは、年齢相応の L1 である日本手話を育てつつ、将来の日本社会への十全 たる参加を考えて、日本語の読み書き能力の育成も必須である子どもたちである。本稿で 報告する「携帯メールプロジェクト」は、多様なリテラシーの育成を視野に置き、企画・

実施された。教育実践は現在も継続中であるが、本稿では 2012 年夏休みの実践を中心に 採りあげる。さらに、このプロジェクトによって期待され、得られた成果のひとつは、ろ う学校教員と大学教員の密接な協働関係である。両者の協働関係が成立してはじめて本プ ロジェクトの研究が成り立つ。本稿ではプロジェクトの経過を丹念に追うことで、当初の 目的がどこまで達成されたかを検証したい。

 以下、はじめに、本研究のキーワードの概念整理と課題の明確化を行い、2で研究経過 を、3でタスクの内容を説明する。次に、4で、教員間の協働、および書記日本語の変化 について分析する。そして、5でまとめを行いたい。

 以下、本稿の基本的概念を整理する。

1.1 手話と日本語

 手話はろう者が使用する視覚言語で、日本のろう者が使うのは「日本手話」であり、日 本語とは異なる構造を持つ自然言語である(木村ほか 1995)。これに対して、日本語の文 法に手話単語をつけた、手指日本語(日本語対応手話)がある。手話の詳細については市 田泰弘「手話文法研究室」に詳しいが、手話は手の形だけでなく、表情、視線やうなずき、

口型などがすべて文法である(岡・赤堀:2011)。だからこそ目による十全たる意味伝達 が可能になる。その L1 としての手話を育てようとせず、本来、音声言語である日本語を、

聞こえない耳をもつ子に対する音の訓練で定着させようとした問題こそ消えつつあるが、

目からの刺激だけで日本語を覚えさせようとする学校教育も多くの失敗例を生み出してき た。音声インプットなしに、表記システムを理解し、意味を抽出することが容易にできる はずもない。例えば以下は子どもに対して、「言語聴覚士」という仕事を説明する文章の 一部である。

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   病院のリハビリテーション科や福祉施設などで、医師や理学療法士(→ p.75)などと    一緒に働きます。 (『仕事の図鑑』p.72)

 漢字、片仮名、平仮名、数字、記号、そして、アルファベットのpまでが二次元の紙の 上に並んでいる。これを、指文字や口型で示す形も十分なはずもなく、結局、優れた頭脳 を持つ子どもと、ひとつひとつの単語の仮名表示から始めて常に献身的な教師役の親がい なければ、日本語習得は難しい。それに対して、目だけで十分な情報が伝えられる日本手 話は、どれほどろう学校で禁止されても生きのびてきた。教員の視野に入らない場所で、

夜の寮で、ろう児たちは日本手話でコミュニケーションをとることで、自分たちの L1 を 育ててきたのである。

 繰り返すが、聴覚障害を持つ子どもがすべて「ろう児」というわけではない。障害を持 つ子どもはおおよそ 1000 人に 1.5 人の割合で生まれると言われる。2011 年の日本の出生数 は 105 万 698 人(厚生労働省)であるから、少子化の現在でも、1年に 1500 人ぐらいの子ど もが何らかの聴覚障害をもって生まれてきていることになる。現在、新生児聴覚スクリー ニング検査がかなり普及してきており、聴覚障害は早期に発見されるようになってきた。

そこで、「要再検査」となり、やがて重度の難聴であることが確定すると、まず補聴器の 着用などが勧められる。医療関係者は難聴の「治療」が専門であり、当然、なるべく聴児 に近づける治療をおこなう姿勢をとる。さらに、聴覚障害を持つ子の親も 90%以上が聴者 である。親もわが子を聴者の世界に近づけたいと考えることが多い。補聴器をつけても音 に反応しないわが子に心配をつのらせる親に、1歳半になると人工内耳手術の可能性が提 示される。あせっている親にとって、それは一筋の光に見えよう。少しでも聞こえる方向 へと考える聴者の親の反応は当然予想されることである。

 しかし、現状では人工内耳に、先天的重度聴覚障害児を聴児に生まれ変わらせるほどの 機能はない。聴覚の障害は残ることになる。それは、学齢期前の言語発達・認知発達にと ってきわめて重要な時期を、聞き取れない / 聞き取りにくい耳からの刺激と、目からの不 十分な情報にたよって過ごすことを意味する。それだけでなく、日本語の音声訓練にかな りの時間とエネルギーが費やされることも多い。いくら聴覚障害児にとって、自然に習得 できるのは手話のみだと言っても、周りに手話環境がなければ発達のしようもなく、第1 言語としての日本手話を発達させる機会がみすみす失われることになる。

 このような貧しい言語環境の中で、多くの聴覚障害児は、日本手話も日本語も不十分な 発達状況のまま、小学校に入学することになる。

1.2 聴覚障害児の進学先

 日本国内で学齢期に達した聴覚障害児の進路先は、図1に示すように、近隣の小学校が 多く、さらに、口話中心の国公立ろう学校(特別支援学校)・私立ろう学校、そして、日 本手話を教授言語とする私立ろう学校の3つに大別される。

 文科省による学校基本調査の調査結果によれば、2012 年の小学校数は全国で 21,460 校

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であり、ろう学校(特別支援学校─聴覚障害のみ)は公立 88 校、国立1校、私立2校の計 91 校である。当然、利便性の高い近隣の小学校(含む・難聴学級)には、聴覚障害児の最 大グループが進み、近年ますますその比率は高まる方向にある。その最大グループは近隣 校でどんな生活をおくることになるか。聴児の中にたったひとり存在することの限界、わ かったふり、孤独感、は改めて述べるまでもない (中野 2001: 331、上農 2003: 113-123)。

図 1 聴覚障害児の進学先

 次に多いのが、国公立ろう学校への進学である。聴覚口話法一本やりの時代とは違い、

現在ではかなりのろう学校が「手話」を教育で用いると述べている。が、それは日本語の 文法に手指単語を付ける「手指日本語」である。日本手話の持つ多くの文法要素が抜け落 ちてしまい不十分な情報伝達となる上に、手指日本語から日本手話への翻訳過程を経て理 解されることにもなる。つまり、ろう児は、基本的に日本語1)の言語環境下で教育を受け ることになる(佐々木 2006, 2008)。

 最後に残った、日本全国においてたった1校だけ存在するのが、日本手話を授業言語と する私立ろう学校である。本稿の研究協力校はこの学校で、日本手話が日常生活の言語と しても、学習を支える言語としても使用され、育てられる。

1.3 携帯メール

 日本のろう者は年少時から、圧倒的に日本語が強い社会で生きており、日本語を身につ けなければ、十分な社会生活をおくることは出来ない。従って、本来の L1 である日本手 話と、必須の L2 である書記日本語能力が、教育の過程の中で十全たる言語手段として育

 1)   公立ろう学校では口話 / 書記 / 指文字 / 手指と多様なモードの日本語が用いられる。つまり、ろう児に とっての L1 である日本手話が教授言語となることは、ごく一部の「日本手話クラス」以外にはない。

聴覚障害児

近隣の小学校

日本手話中心の 私立ろう学校 日本語中心のろう学校

(私立1校を含む)

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つことがすべての教育機関に望まれている。しかし、近隣の小学校は言うまでもなく、多 くのろう学校でさえ、教員の大半が聴者だという制約もあって、口話と書記による日本語 教育に時間とエネルギーを取られ、日本手話にも教科にも遅れをきたしてしまっている。

これに対して、本発表の研究協力校は日本手話で教育を推進しているため、日本手話能力 および教科の育成は順調である。が、書記日本語能力の育成には課題がある。学校内では 書記日本語を使わなくても、日本手話ですべて順調に通じるのである。しかし、今後の彼 らのキャリア形成、そして、書記言語に支えられた思考の重要性を考えるとき、書記日本 語能力の育成は必須である。そこで、より充実した日本語教育のために、筆者もかかわっ て5年間にわたって独自の日本語教科書とコンピュータ・ゲームの共同開発を行ってきた

(佐々木ほか :  2011)。そして、2012 年に新たに取り組んだのが携帯メールプロジェクトで ある。なぜ携帯メールなのか。

 ろう児にとって携帯メールは非常に重要なコミュニケーション手段である。道に迷った ときの保護者への連絡、遅刻しそうなときの先生への連絡、友だちとの待ち合わせ連絡な どに欠かせない。そのような実用的な目的に加えて、携帯メールは普段、日本手話でやり とりすることが多いろう児と教員が、自然な形で書記日本語によってコミュニケーション を交わす機会を作りだす。日本語でのやりとりをごく自然に行い、それを重ねることで、

語彙・文法・表記の基礎的リテラシーが育成されていく。書記日本語の読み書きへの抵抗 感が軽減されよう。さらに、ろう児たちの生活範囲にある、意味不明の日本語表記を写真 に撮り、教師に尋ねることで、機能的リテラシーが育成される。そして、携帯リテラシー が育成される。このような多様なリテラシーズの育成を目的に、協働実践研究「夏休み携 帯メールプロジェクト」が設定された。以下その経過を報告し、分析する。

2.研究経過

 携帯メールプロジェクトは、ろう学校の4年生7名、5年生4名、6年生3名の計 14 名が、自分が関心を持ったものについて教員にメールを送るところから始まった。図2の ように、STEP1 でメールのやりとりをおこない、STEP2 においてメールをまとめた作品 集を作成する。そして、STEP3 で作品集の一部をもとに作文を書き、STEP4 では、ピア・

ラーニングをおこなって作文の質を高め、STEP5 において完成作品を学内で公開すると いう、STEP1 から STEP5 の5種のタスクを実施することで、一連の流れが完成する。本 稿では、下図の STEP1 から STEP3 までを中心に、本実践研究を検証する。

図 2 タスクの流れ

STEP1 STEP2 STEP3 STEP4 STEP5

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図 3 協働研究経過  2012 年 5 月〜2012 年 9 月

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 前頁の図3は、プロジェクトの実施経過を図示したものである。2012 年5月の開始時 より同年9月までの、5・6年生、計7名の経過を示す。図3の通り、まず、大学教員が 上記を企画し、共同研究者である、ろう学校教員 H を通して、担任教員と保護者から研究 に対する同意を得た。実施決定後、研究用携帯レンタルなども検討されたが、個々の生徒 がすでに携帯を保有しており、慣れた携帯の利便性から、個人所有の利用を決定した。そ して、協働研究のための専用メールアカウントを作成し、以後、プロジェクトに関係する すべてのメールのやりとりは、携帯メールの転送も含めて、ひとつのアカウントに集積さ れることとなった。7月中旬に生徒に対してサンプルを示しつつ夏休みの携帯メールプロ ジェクトが説明され、ただちに生徒と教員 H との間で、STEP1 のメールのやりとりが開 始された。実施中、大学教員は、ろう児を直接知る教員とは異なる客観的な立場で、メー ルデータの整理と分析を行い、教員 H によるメールの返信内容に、時に感心し、時にフィ ードバックを送った。

 以下の一覧は、夏休み中のメールのやりとり回数の多い順に生徒を並べたものである。

表 1 メール回数

生徒発信 教員発信 合 計

F1M 21 15 36

F4C 14 14 28

F3A 11 10 21

F2M 9 8 17

M2S 8 8 16

M1K 7 8 15

M3J 2 2 4

 最多の F1M の場合、自分から先生に送ったメール数は 21 通で、それに対する教員 H の 返信は 15 通、計 36 通である。一方、最少の M3J は発信が2通、それに対する教員 H の発 信も2通で、計4通となっている。これは M3J の次に少ない M1K が計 15 通であることを 見てもわかるように各段に少ない。M3J の少なさが影響して、平均は生徒発信が計 10.3 通、

教員 H の発信が一人当たり 9.3 通となった。

 大学教員は当初、M3J のメール数が少ない理由を、M3J にとって日本語で書くことが非 常に困難であるからだと考えた。しかし、のちに、教員 H から、M3J の場合、携帯の使用 が父親とのテレビ電話に限られていて携帯メールの操作に慣れていないこと、宿題がまだ 習慣化していないことなどが説明された。

 夏休み明けの9月に、大学教員はメールのやりとりからなる作品集を提案した。教員 H は早速作文セッションを設け、作品集を刺激とする作文授業がもたれた。作文の授業では、

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まず、それぞれが作品集をもとに、最も自分が気に入った話題のメール群を選びだし、そ れを出発点として自力で作文を書いた。そのオリジナル作文はいったん教員によって集め られ、コピーがとられた。次に、返却された作文をもとにピア・ラーニングのセッション が持たれた。教員 H の指導のもと、ろう児たちは順々に友だちの作文に目を通し、色違い の付箋のひとつに質問、もうひとつにコメントを書き込んで、お互いの作文に貼りあった。

全員の作文が皆の間を一巡していくうちに、それぞれそこに貼られたピンクとブルーの付 箋はふえていく。そして、友だちの数だけ付箋のついた自分の作文は、めぐりめぐって手 元に戻り、生徒たちはそれをもとに、作文の改訂をおこなった。最後に、清書された作文 は廊下に貼りだされ、他の教員、他学年の生徒たちに公開された。作文を書いた生徒たち は、多様なフィードバックを得てほこらしげだったという。そして、最終的には、作文デ ータも含めて、言語面・運用面の分析結果を教員と生徒たちに伝えることで、すべての段 階が完成する。

3.タスクの説明

3.1 STEP1 メールのやりとり

 STEP1 は生徒たちがそれぞれ、教員 H に写真付きのメールを送り、それに対して、教 員 H が返信をするというタスクである。教員 H は現在はこれらの生徒たちのクラスは教え ていないものの、過去に彼らのクラスを担当したことがあり、彼らにとっては、「普段あ まり会わないが、よく知っている教師」という位置づけとなる。

 メールのやりとりの開始にあたり、教員 H から「携帯メールを送ろう」という宿題につ いて、保護者の了承を得たのち、生徒たちに対して、以下の4つの指示が、例とともに与 えられた。

 (1) 夏休み中に5通以上、送る。

 (2)  身の回りの「不思議に思ったこと」 「わからないことば」を見つけ、写メールを 送る。

 (3) タイトルをつける。

 (4) 本文を書く。

   「いつ、どこで、なぜ、この写真をとったか。」を書く。

 プロジェクトの対象となった生徒たちは、以前から保護者との連絡用に携帯を持ってい た。学校のルールとして、生徒たちからクラス担任の教員にあてて直接メールを送ること はできないことになっているが、プロジェクトのため、教員 H の携帯メールアドレスが生 徒たちに伝えらえた。教員個人のアドレスを生徒たちに伝えることについては、生徒たち が携帯の利用について学ぶいい機会であるとして、他の教員にも受け入れられた。

 さらに、携帯メールの利用時の注意点として、ことばの使い方と個人情報について、説 明がなされた。生徒たちは、読み方のわからない漢字、旅行中の風景、教員 H に自慢した いもの等の写真とともにメールを送った。教員 H からの返信の内容は、メールの内容に関

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する不明点や、さらに情報を引き出す質問、生徒たちの書記日本語の誤用の訂正、生徒た ちがメールを書く意欲を継続させるフィードバックなどである。何往復もの双方向コミュ ニケーションが続き、写真付きのメールから始まるひとつのテーマに関するやりとりが 10 通にも上った例もあった。データ 1 は M1K(6年生男子)が送ったメールとそれに対す る教員 H の返信の例である。メールのやりとりはすべて、教員共有のメールアカウントに 転送された。

データ 1 M1K からのメールと教員 H の返信  

3.2 STEP2 作品集

 STEP2 として、すべてのメールを、写真・教員 H からの返信も合わせ、カラーの作品 集にした。成果物をまとめることにより、学習プロセスを可視化することを目的としてい る。

 作品集はトピックごとにメールのやりとりをひとまとめにしたものの案を大学教員が提 示し、教員 H・ろう教員らが協議して、デザイン・内容を決定した。図4は F1M の作品 集の一部である。作品集では、写真付きのメールで始まるやりとりの最初のページの左上 に、そのトピックについて生徒が最初にメールを送信した日付とメールタイトルを記載し たが、タイトルがない場合は、空欄にした。F1M の場合、写真付きのメールが6通、作 品集に収められたメールの総数は 34 通に上り、静止画像やアニメーション画像の多用が 見られることから、F1M がメールのやりとりを楽しんでいる様子がうかがえる。

 生徒たちは、夏休み後の教室で作品集を受け取り、自分が送った写真とそれに関するや りとりを見直すと同時に、他の生徒たちと作品集を見せ合い、意見交換をした。また、自 分が伝えたかったことを教員に説明する、適切な表現を質問するとともに、メールタイト ルの不備や敬語の使用等についてクラス全体で考え、振り返りを行った。さらに、タイト ルがなかったメールについては、送信時の気持ちを思い起こし、タイトルをつけた。

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図 4 作品集の例

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3.3 STEP3 作文

 STEP3 では、夏休み後の教室で、作品集を通した振り返り後、生徒自身が気に入った 写真とやりとりを選択し、写真についての作文を書いた。メールでは、一語文や説明が足 りない表現が許容される上に、保護者の手助けを得て書くことも考えられる。しかし教室 でメールのやりとりをもとに文章化することにより、複数のメールに散在する情報をどう わかりやすくまとめるかを考える機会となるとともに、短文では回避できる助詞や接続表 現の使い方に生徒の意識が向く。生徒たちは、建築中の自宅の写真、おばあさんにもらっ た犬のぬいぐるみ、北海道旅行での経験などについて、作品集のメールの表現を利用し、

伝えきれなかった部分を工夫して補いながら、作文を書いた。F1M の場合、作品集の中 からの富士山についてのメールを選び、自分でタイトルを付けて、作文を書いた(図5)。

                     

  図 5 F1M の作文と写真

 ちなみに、作文を書く前に、書いた作文は校内の廊下に貼って、誰もが見られるように することが伝えられた。

4.分析 4.1 協働の効果

 教員 H と生徒たちとのメールのやりとりを大学教員ら・研究協力校のろう学校教員が共 有することで、研究者・実践者ともに学びがあった。

(1)生徒との接し方に関する教員 H の気づき

 データ1で、教員 H の「人形はお母さんの人形ですか?」と問いかけに対し、M1K は「人 形のお母さんじゃない  他人です」と答えている。この返信では、助詞「の」と語彙「他人」

の使用の問題により、「人形の所有者は M1K のお母さんではなく、他人の物」なのか、他

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人という語彙の意味を誤解していて、単に「お母さんではない、ほかの人という意味」だ ったのか、または「人形は、お母さんをかたどったものではなく、他人をかたどったもの である」と言いたいのか、わからなかった。そこで、教員 H は M1K にさらに事実関係をは っきりたずねるメールを送ると、「2 です」とだけ書かれたメールが返ってきた(データ 2)。

データ 2 教員 H と M1K のメールのやりとり

① M1K ⇒教員 H 人形のお母さんじゃない 他人です

②教員 H ⇒ M1K M1K くん、返事ありがとう。

人形は、誰が持っている人形ですか?

1.M1K くんのお母さん 2.M1K くんのおばあさん 3.家族のもの

4.誰の人形か、わからない

③ M1K ⇒教員 H 2 です

 このメールのやりとりに関して、大学教員 M は、教員 H にコメントを送った。これに 対して教員 H は「どうしても教えすぎちゃう」と、生徒たちに対する日常の接し方を振り 返っている(データ3)。学習過程においては、教員が与える・教えるという意識をコン トロールし、子どもから引き出す・自律性を重んじる姿勢が求められるが、仕事に忙殺さ れる日々の中では、教員が自身の行動について、客観的に考える時間的余裕が持てないこ とも多い。教員 H にとって第三者の存在が振り返りの機会となった。

データ 3 教員 H の気づき

①大学教員 M ⇒ 教員 H

M1K くんとのやりとり、楽しく読みました。

H さんの負担が大きくなりすぎないことを祈りつつ。

以下のやりとりにはやっぱり H さんの教師根性(!)が現れているかも。

もう少し、話し言葉のやりとりに近いもので、 

それは M1K くんの人形?それとも、お母さんの人形?

ぐらいで返すほうが、相手も気がらくかもしれないと思いました。

(後略)

②教員 H ⇒大学 教員 M

M 先生、ありがとうございます。

そうなんですよね。どうしても教えすぎちゃうというか、余計なことを やってしまっているようだと携帯プロジェクトが始まって、反省するこ としきりです。

(2)メールの書き方に関するろう教員からのアドバイス

 本プロジェクトは、研究協力校の日本語担当教師・ろう教員らの意見を取り入れつつ、

進められている。8月に行われた学内職員研究会における経過報告の際、ろう教員から、

(13)

ろう児の特性として、教員 H のメールの質問の仕方では、データ2の③のような短い返答 しか得られないことが指摘された。さらに、前置きが長すぎるメールでは、ろう児は丁寧 に読まないとの意見がろう教員から出た。データ 4 の M2S(6年)と教員 H とのメールのや りとりを見ると、②にある教員 H の質問のうち、「いつ完成しますか?」については、③ の返信で答えられていない。この返信を見た大学教員は、M2S にとって、返信が負担であ るか、興味がなく、面倒なのかと考えた。しかし、ろう教員のアドバイスにより、ろう児 のコミュニケーションスタイルに起因する可能性が浮かび上がってきた。

データ 4 M2S の返信

① M2S ⇒教員 H 新しいビルの現場へ見に行きました。こちらは僕の部屋です。

②教員 H ⇒ M2S M2S くん、こんにちは!  元気でしたか?

新しい家の工事ですね。

M2S くんの部屋は広いですか。いいなあ。

いつ完成しますか?

③ M2S ⇒教員 H 僕は元気です。

 M2S が「新しい家」という題で書いた作文では、完成時期、部屋で何をしたいか、今 の心情などが詳しく書かれており(データ5)、新しい家について人に伝えたい・楽しみ であるという気持ちが感じられる。本プロジェクトを通して、大学教員・教員 H 共に、生 徒たちとのメールのやりとりについて理解を深めることができた。

データ 5 M2S の作文  

(3)メール数の少なさに関する大学教員らの認識の変化

 2で触れた M3J のメール数の少なさに関しても、「書記日本語能力」の問題の他、M3J が宿題に慣れていなかったという「学習習慣」の問題、そして、携帯を買ってもらったば かりで、本プロジェクト以前はメールを書いた経験がなかったという「携帯リテラシー」

の問題の3要因が存在した。しかし、教員 H の説明を受けるまで、大学教員らは書記日本 語能力の低さだけに少なさの要因を求めており、生徒を多面的にみられる立場にある教員

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H との協働があってこその新たな認識があった。

4.2 書記日本語の変化

 教員 H は、生徒たちが教員 H とメールでやりとりをすることに慣れてきたころを見計ら い、生徒たちの学年や書記日本語能力に合わせて、適宜、日本語の誤用を指摘している。

この誤用訂正の影響を検討する。

(1)誤用の消滅

 F3A(5年)は旅行についてのメールを何度も送った。8月7日のメール「今日和歌山県 行ってました。昨日滋賀県行ってました。(後略)」に見られた誤用が、8月 13 日にも「8 月5日滋賀県プール行ってました。」と繰り返されており、教員 H は返信で適当な表現を 提示した(データ6)。

データ 6  F3A の誤用に対する教員 H の訂正 1

① F3A ⇒教員 H    8 月 5 日滋賀県プール行ってました。おもしろい!

②教員 H ⇒ F3A F3A さん、こんにちは!  メールありがとう。

プールは楽しかったですか?大きなプールでしたか?

写真もあったら送ってくださいね。

それから、文章に助詞を入れてみましょう。

>   8 月 5 日滋賀県プール行ってました。おもしろい!

→ 8 月 5 日に滋賀県のプールに行ってきました。おもしろかった!

みたいに書いてみてね

 しかし、8月 14 日にも同様の間違いを繰り返したため、教員 H は再度訂正を行った(デ ータ7)。

データ 7  F3A の誤用に対する教員 H の訂正 2

① F3A ⇒教員 H 8 月 7 日広島県原爆行ってました。恐い。

②教員 H ⇒ F3A F3A さん、メールありがとう。

(中略)

文章に助詞を入れてみましょう。

> 8 月 7 日広島県原爆行ってました。恐い

→ 8 月 7 日に広島県原爆資料館に行ってきました。恐かった。

 その後の F3A のメールでは、「広島県に行ってきました。」(8月 15 日メール)、「滋賀県 に行きました。」(8月 16 日メール)、「山口県の錦帯橋に行きました。」(8月 22 日メール)と、

「〜に行く」に関する誤用が見られなくなった。

 F1M の場合も、メールを書く際に、過去のメールの送受信すべてを読み返していない からか、指摘された誤用を繰り返している。F1M はデータ8②のメールで「富士山を見

  8 月 5 日滋賀県プール行 F3A さん、こんにちは!  

プールは楽しかったですか 写真もあったら送ってくだ それから、文章に助詞を入

>     8 月 5 日滋賀県プール

→ 8 月 5 日に滋賀県のプー みたいに書いてみてね

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えるよ」と助詞の間違いをした。それに対し、教員 H は、データ 8 ③にあるように「富士 山を見えるよ→富士山が見えるよ。が正しいんですよ。」と訂正をした。これを受け、

F1M はすぐに「そっか 教えてくれてありがとう」(データ8④8月 10 日)と肯定的に受 け止めた様子の返信をしている。

データ 8 F1M の誤用(1 回目)

①教員 H ⇒ F1M      (8 月 10 日)

F1M さん、おはようございます。

昨日は返事ありがとう。遅くなってごめんなさい。

F1M さんからのメールは雲の写真が一回です。

浜松で面白い写真を見つけたら、送ってくださいね。

楽しみにしています。

② F1M ⇒教員 H      (8 月 10 日)

そうですか わかりました 楽しみにして

富士山を撮って送るよ 浜松は静岡県だから 富士山を見えるよ

③教員 H ⇒ F1M      (8 月 10 日)

富士山の写真、楽しみにしています。

最後の文章、

 浜松は静岡県だから  富士山を見えるよ  →富士山が見えるよ。

が正しいんですよ。または 「を」 を使うんだったら、

 →富士山を見ることができるよ。

になります。

浜松は浜名湖も有名だよね。うなぎがおいしいでしょう?    一回だけ浜 松でうなぎを食べました。一番おいしかったです。

④ F1M ⇒教員 H      (8 月 10 日)

そっか

教えてくれてありがとう そう

ウナギが有名だよ 誰でも知ってるか じゃあ、富士山を 送るまで待っててね 出発するのは

明日か今日の夕方だよ そうですか

わかりました 楽しみにして

富士山を撮って送るよ 浜松は静岡県だから 富士山を見えるよ

富士山の写真、楽しみにしていま 最後の文章、

浜松は静岡県だから 富士山を見えるよ

→富士山が見えるよ。

が正しいんですよ。または 「を」

→富士山を見ることができるよ になります。

浜松は浜名湖も有名だよね。うな 松でうなぎを食べました。一番お そっか

教えてくれてありがとう そう

ウナギが有名だよ 誰でも知ってるか じゃあ、富士山を 送るまで待っててね 出発するのは

明日か今日の夕方だよ

(16)

 しかし、同日の夕方、F1M は東京タワーに関するメールで、「東京タワーを見えました」

と同様の間違いを重ねた。

データ 9 F1M の誤用(2 回目)

① F1M ⇒教員 H      (8 月 10 日)

F1M です 8 月 10 日、

浜松へ行く途中に 東京タワーを見えました

でも、おかしなところがあります。

東京タワーって いつもは

光ってないですよね。

それなのに光ってます!!

不思議です

②教員 H ⇒ F1M      (8 月 10 日)

F1M さん、さっそくメールありがとう。

東京タワーの写真がきれいですね。東京タワーは夜になると電気がつ くんです。夜中の 12 時になると消えるそうですよ。

スカイツリーも夜になると光ります。

きれいな東京タワーが見られてよかったですね。

浜松まで気を付けて行ってらっしゃい。

 教員 H は、データ9①のメールを受けて、「きれいな東京タワーが見られてよかったで すね。」と、さりげなくリキャストを行ったが、F1M は「富士山を見えなかったんですよ」

(データ 10 ①)と、さらに誤用を繰り返している。

データ 10 F1M の誤用(3 回目)

① F1M ⇒教員 H      (8 月 15 日)

(前略)

富士山、行きの時 とってメールすると 言ったよね。

それなのに しなかった理由は 行きの時、くもりで

富士山を見えなかったんですよ それと富士山ことで

もう一つ写真を メールします

 このように「〜を見える」という誤用が化石化しているかに見えた F1M だが、自力で す

日、

行く途中に ワーを見えました

おかしなところがあります。

ワーって は

ないですよね。

のに光ってます!!

です

ん、さっそくメールありがとう。

ワーの写真がきれいですね。東京 す。夜中の 12 時になると消えるそ ツリーも夜になると光ります。

な東京タワーが見られてよかったで で気を付けて行ってらっしゃい。

ールを受けて、「きれいな東京 ャストを行ったが、F1M は「富士 用を繰り返している。

データ 10 F1M の誤用(3 回目)

行きの時 メールすると よね。

のに った理由は 時、くもりで

を見えなかったんですよ 富士山ことで

つ写真を します

(17)

書いた、添削前の作文(データ 11)では「富士山が見えないのです」と助詞を正しく用い ており、F1M が自身の誤用を認識したことを示している。

データ 11 F1M の作文「富士山と雲」

「富士山と雲」

 八月十四日、新東名という高速道路で撮りました。撮ったのは、富士山です。でも、お目 当ては富士山じゃなくて雲です。なぜなら雲が富士山にのっかけています。そのせいで富士 山が見えないのです。

(後略)

 F3A の場合、すぐに返信が来る携帯メールだからこそ、同じ誤用を続けて指摘しても らう機会があり、「(場所)に行きました」という表現が正しく使えるようになった。 F1M  の場合は、STEP1 のメールのやりとりだけでは学べなかった助詞の使い方に関して、

STEP2 の作品集、STEP3 の作文と段階を経ることで、理解した。

 夏休み後の作品集の配布と作文を書く授業で、「またやりたい」 「おもしろかった」 「返 事が返ってくるのでよかった」との意見が生徒から出ており、生徒が意欲的に取り組んだ ことがわかる。

 研究協力校では作文を書く機会は頻繁にある。しかし、教員 H の話によれば、運動会や 文化祭など、生徒全員が体験する「みんな共通の」大きなイベントについての作文であり、

「似たり寄ったりになっちゃうし、毎年毎年、それ書かされている」ものだという。いわば、

授業のために書いているものとも言えよう。これに対して、携帯メールプロジェクトでは、

メールの相手である教員 H が知らない、自分だけの経験に関して、感じたこと・伝えたい ことを書くタスクである。しかも、作文ほど長く書く必要はなく、心理的負担が少ない。

生徒の中には、「H 先生に送ると、ちゃんと返事をしてくれて、質問をしてくれるから、

それにまた答えようと思うので、何回かやり取りが続くのがすごく面白い」と感じた子も おり、書記日本語を用いた本当のコミュニケーションとなっていた。

 間違いを直したメールについても「あれはよかった」「参考になった」と、ほぼ全員が 述べている。前述の F3A と F1M の学習例は、身近なコミュニケーションツールである携 帯メールを用いたこのプロジェクトの教育的効果の一つと言えるのではないだろうか。

5. おわりに

 携帯メールを用いたこの教育実践は、携帯環境さえ整えば、ろう児だけでなく、日本語 を母語としない聴児や大学生、社会人などにも応用できるものである。そもそも大学教員 が本プロジェクトを提案した目的は、多様なリテラシーの育成にあった。

 ろう児たちの生活範囲にある意味不明の表記を解決するという計画当初の目的のひとつ こそ、ほとんど達成されなかったが、むしろ生徒たちが関心を持ったことを話題にしたこ とで、彼らはごく自然に読み書き行動を繰り返した。ピア・ラーニングも進み、作文にも 意欲的に取り組むという態度が見られた。長い夏休み中に2通しかメールを送らなかった

(18)

M3J も、携帯の使い方を身につけ、秋休みには写真付きメールを含むメール4通を自発的 に教師に送っている。真のコミュニケーションの場を得た生徒たちは、自ら率先して、日 本語の読み書き能力だけではなく、携帯リテラシーなども、実質運用の中で育成したので ある。

 この協働研究では、大学教員は、ろう児の書記日本語の習得を促進する視点から、実践 のアイディアを出すとともに、第三者的立場で客観的に観察・分析を行った。そこに、生 徒たちをよく知り、信頼関係を既に築いている、ろう学校の聴者教員との連携、および、

自らがろう者として生きてきたろう教員の、当事者としての意見があったことが、生徒た ちの肯定的な評価につながったと考えられる。ろう児の書記日本語教育の方法論が確立さ れていない中で、各学校でそれぞれの教師が試行錯誤している現状を少しでも改善するた めには、このような協働研究の積み重ねが重要なのではないだろうか。

 本稿では、生徒たちが作文を書く STEP3 までを中心に報告した。その後、STEP4 のピ ア・ラーニング後に清書された作文は、STEP5 で作品集、拡大した写真とともに校内の 廊下に貼り出され、他の学年の生徒や教員にも公開された。最終段階である STEP5 までに、

それぞれの生徒の日本語にどのような変化が見られたか等は、他の機会を得て報告したい。

また、このほかに、携帯利用調査を行い、携帯リテラシーなどをまとめたが、後日、改め て報告したい。携帯メールとひとつの作文で書記日本語能力を一夜にして高めることは到 底出来るはずもない。が、自身の見聞、感情を短い文言でコミュニケーションの相手に送 ることから出発する「携帯メール⇒作文」のシステムが、ろう児に好感を持って迎えられ たことは確かである。本プロジェクトはその後の秋休みも生徒の希望で継続され、さらに、

冬休みにも継続希望が寄せられて、休みごとに継続していく予定になっている。

付記

 本稿は 2012 年 11 月 25 日に行われた第9回国際日本語教育・日本研究シンポジウム(香 港城市大学)での口頭発表に加筆したものである。

 本論文の執筆は著者2人の討議のもとに進めたが、佐々木が1、2、5、鈴木が3、4 と図表の主担当となっている。

謝辞

 本研究は、科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金(基盤研究(C)「ろう児の書記 日本語教育におけるマルチリテラシーズ概念の有用性」研究代表者:佐々木倫子の研究成 果の一部である。

共同研究者:長谷部倫子(明晴学園)

参考文献

上農正剛(2003)『たったひとりのクレオール  ─視覚障害児教育における言語論と障害認

(19)

識』ポット出版

岡典栄・赤堀仁美(2011) 『日本手話のしくみ』大修館書店

木村晴美・市田泰弘(1995) 「ろう文化宣言 ─言語的少数者としてのろう者─」 『現代思想』

第 23 巻 第 3 号,354-362

小林春美・佐々木正人(編)(2008) 『新・子どもたちの言語獲得』大修館書店

佐々木倫子(2006)「ろう児の言語発達と教育 ─言語教育の観点から」『ろう教育が変わ る!』明石書店,101-136

佐々木倫子(2008)「第 5 章  日本におけるバイリンガルろう教育」 『バイリンガルでろう児 は育つ』生活書院,133-170

佐々木倫子・白頭宏美・酒井邦嘉・古石篤子(2011) 「ろう児のための日本語ゲーム  ─開 発と試行─」 『桜美林言語教育論叢第 7 号』,115-131

塩谷英一郎(2002)「認知言語学 vs. 生成文法  科学論的一考察」 『帝京大学紀要  米英言語文 化』,151-171

[仕事の図鑑]編集委員会(編)(2006) 『仕事の図鑑1』あかね書房

鈴木理子・佐々木倫子(2012) 「ろう児のコミュニケーション環境の課題  ─手話と書記日 本語をつなぐ辞書を例に─」 『桜美林言語教育論叢第 8 号』,71-83

トマセロ・マイケル(2008) 『ことばをつくる』慶應義塾大学出版会

鳥越隆士(2000) 「聴覚障害児の手話の発達」『ことばの障害と脳のはたらき』ミネルヴァ 書房 175-222

鳥越隆士(2008) 「手話の獲得」『新・子どもたちの言語獲得』大修館書店 231-258

中野聡子(2001) 「インテグレーションのリアリティ」 『聾教育の脱構築』明石書店,83-112 長谷部倫子(2004) 「ろう児の教育の現在と今後の動向」『ろう児への言語教育のあり方を

求めて』慶應義塾大学湘南藤沢学会,68-84 

参考サイト 

市田泰弘 手話文法研究室 http://slling.net/intro/intro1.htm(2012.10.10 検索)

学校基本調査 特別支援学校

   http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?̲toGL08020103̲&tclassID=00000 1044871&cycleCode=0&requestSender=dsearch (2013.1.6 検索)

厚生労働省平成 18 年身体障害児・者実態調査結果

  http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/shintai/06/index.html 厚生労働省平成 23 年度人口動態統計月報年計

  http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai11/dl/gaikyou23.pdf   (2013.1.6 検索)

身体障害認定基準等について http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/10/dl/s1027-11d.pdf   (2013.1.6 検索)

図 3 協働研究経過  2012 年 5 月〜2012 年 9 月
図 4 作品集の例

参照

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