和光大学
〒1958585 東京都町田市金井町2160 連絡先 末木 新
Wako University
2160 Kanaicho, Machida, Tokyo, 1958585 Corresponding author h_sueki@wako.ac.jp
研究資料
高校野球における試合の勝敗に影響を与える要因
投手力・打撃力・守備力の比較
末木 新
Hajime Sueki: Factors in‰uencing victory or defeat in the All-Japan Senior High School Baseball Cham-pionship Tournament: A comparison of team skills in pitching, batting, and defense. Japan J. Phys. Educ. Hlth. Sport Sci. 62: 289295, June, 2017
AbstractBaseball is a thriving sport in Japanese high schools. However, there have been demands to shorten the instructional time for school extracurricular activities, resulting in a need to increase the eŠectiveness of such instruction. The present study was designed to examine the eŠects of 3 elements of team strength in high school baseball―pitching strength, batting strength, and defensive strength― on the outcome of a game. The materials used for analysis were the records of all of the 390 games and 780 teams involved in the National High School Baseball Championship from 2008 to 2015. Pitching strength, batting strength, and defensive strength were calculated using Fielding Independent Pitching (FIP), On-base Plus Slugging (OPS), and Defensive E‹ciency Rating (DER), respectively. Logistic regression analysis(forced entry method) was conducted on the game outcome as the dependent varia-ble and team FIP, team OPS, and DER as the independent variavaria-bles. This analysis showed that the team FIP (odds ratio 0.80, 95 conˆdence interval 0.74―0.86), team OPS (odds ratio 8145, 95 con-ˆdence interval 1957―33898), and DER (odds ratio 5699019, 95 concon-ˆdence interval 341274― 95169408) were signiˆcantly associated with the outcome of the game. An assessment of the Wald statistic, which indicates the contribution rate of the dependent variables, showed that batting strength had the strongest eŠect on game outcome, followed by defensive strength. Compared to batting and defensive strength, pitching strength appeared to have only a small in‰uence on game outcome. There-fore, for e‹cient improvement of team strength, it is considered that resources should be directed towards improving batting and defensive strength over pitching strength.
Key wordsall-japan senior high school baseball championship tournament, koshien, sabermetrics キーワード全国高等学校野球選手権全国大会,甲子園,セイバーメトリクス
問題・目的
高 等 学 校 に お け る 部 活 動 の 1 つ で あ る 野 球 は , 我 が 国 で 最 も 盛 ん な ス ポ ー ツ の 1 つ で あ る.日本高等学校野球連盟(online)によると 2015年の高校における野球部員数は約17万人で あり,これは全高校生の約 5を占める.文部科 学省(online 1, online 2)の「運動部活動の在り 方に関する調査研究報告」及び「運動部活動の実 態に関する調査」によると,運動部に所属する高 校生の約 8 割は週 6―7 日をその活動にあててお り,75超の運動部員は勝つことを活動の目標 としている.つまり,我が国では多くの高校野球 部員が毎日のように勝つことを目標に部活動を行 っている.これは同時に,教員が毎日のように課 外活動の指導を行っていることを意味している. 2013年頃より部活動の指導時間を制限する社会的な動きが活発化している.経済協力開発機構 の行った国際比較調査で明らかになったように, 日本の教員の週当たりの勤務時間は参加国中最長 であり,その中でも部活動等の課外活動の指導時 間が大きな負担となっているからである(国立教 育政策所,2014).こうした問題を解決するため, 2016年 4 月には文部科学省に「次世代の学校指 導体制にふさわしい教職員の在り方と業務改善の ためのタスクフォース」が設置された.同年 6 月に出された「学校現場における業務の適正化に 向けて」と題するタスクフォースのとりまとめ文 書には(文部科学省,online 3),教員の部活動 における負担を大胆に軽減するために部活休養日 の設定の徹底化の必要性が記載された.同年 5 月の自民党の教員の長時間労働の是正に関する議 員連盟(online)が出した「教員の長時間労働の 是正に関する中間取りまとめ」でも同様の方向性 が示されている.このような社会情勢を鑑みれ ば,勝利を目指すという生徒の希望をかなえるた めに,教員の限られた時間的資源を効率的に用い た練習が行われることが期待される. それでは,どのような要因が高校野球における 試合の勝敗に影響を与えるのであろうか.これま で,高校野球の試合においては,先攻・後攻の別 や先制点の取得が検討されてきた(福田,2009 宮津・新行内,1999雜賀,2010,2011).具体 的には,後攻のチームおよび先制点を取ったチー ムの勝率が高いことが繰り返し示されている(福 田,2009宮津・新行内,1999雜賀,2010, 2011).後攻有利の背景には,先攻にかかる心理 的プレッシャーがあることも指摘されている(川 村・中村,2007).このように試合の状況が選手 に与える影響について検討されてきたものの, チーム全体のどのような力が試合の勝敗にどの程 度の影響を与えるのかという点については明らか にされていない.また,高校野球の指導経験者の 意見からは,投手力の育成を重視する傾向が読み 取れるが(例えば,功力,1991小倉,2015), これらは現場での経験則であり,データに基づく 知見は存在しない. そこで本研究では,高校野球におけるチーム力 を,投手力・打撃力・守備力の 3 要素に分け, チームにおける各スキルが試合の勝敗に与える影 響を検討した.チームの有するどのようなスキル が試合における勝利をもたらすのかという点を検 討することは,限られた練習時間を効率的に使う ことが求められる社会状況の中で,指導者が新た な育成方針を策定することに寄与するという点で 有意義なものだと考えられる.
方
法
. データ収集 分析対象は,2008―2015年の全国高等学校野 球選手権全国大会(夏の甲子園)の全390試合で ある.各試合に関するデータについては,主催者 である朝日新聞より取得した.収集した具体的な データは,各試合における両チームの打数,打 点,安打数(単打数,二塁打数,三塁打数,本塁 打数),三振数,四死球数,犠打数(犠飛数を含 まない),盗塁数,残塁数,失策数,併殺数,暴 投数,ボーク数,捕逸(パスボール)数,打撃妨 害数である.朝日新聞では犠飛に関するデータが 取得できなかったため,各試合の犠飛数について は日刊スポーツよりデータを得た.なお,本研究 は上述のように既に公開されている記録の分析の みを行っているため,倫理審査は受けていない. . 分析に使用した変数 チーム全体の投手力を表す指標としては,上記 デ ー タ よ り チ ー ム 全 体 の Fielding Independent Pitching(以下「FIP」と略す)を計算して分析 に用いた.FIP は,守備が関与せず投手のみの影 響によって決まる被本塁打・四死球・奪三振とい う 3 項目から計算される投手力を測る指標であ り,トム・タンゴ(Tango, online)により考案 された(岡田ほか,2013).FIP の開発の背景に は投手間のホームラン以外のフェアボールを安打 にしない能力に差がないという事実の発見が基礎 となっている.本研究における FIP は,以下の 数式により求めた.なお,本来の FIP の公式で は,四死球ではなく「四球-敬遠+死球」と計算すべきであるが,朝日新聞のウェブサイトから敬 遠のデータが得られなかったため,敬遠の数は引 かれていない.そのため,本研究におけるチーム FIP は敬遠を考慮した場合よりやや高い数値を示 していると考えられる.また,オリジナルの指標 と計算方法が一部異なることから,以下では修正 FIP と記した. チーム修正FIP=(13×被本塁打数+3×四死 球数-2×奪三振数)/投球 回 なお,取得したデータから算出可能なチーム全 体の投手力を表す他の指標としては WHIP が挙 げられる.WHIP は投球回あたりの与四球と被 安打数の合計を算出したものである.しかし, WHIP を用いた場合,守備力の影響がある被安 打数が指標に含まれるため,守備力と投手力の相 関が高くなり,統計分析上の問題(多重共線性の 問題)が生じる可能性が高くなることが想定され る.そのため,本研究では守備力と投手力をより 厳密に分けた FIP を用いることとした. チーム全体の打撃力を表す指標としては,上記 データより On-base Plus Slugging(以下「OPS」 と略す)を計算して分析に用いた.OPS は出塁 率と長打率を単純加算した値であり,総合的な打 撃能力を表す(岡田ほか,2013).OPS は出塁率 と長打率から成り立つが,これはランナーを出し それを返すことにより得点が入るという野球にお ける攻撃のあり方を象徴しているためである.高 校野球における OPS の分析は筆者の知る限り存 在しないが,日本におけるプロ野球の30年分の データ分析ではチーム OPS がチーム得点と強い 相関を示すことが明らかになっている(鳥越・ データスタジアム野球事業部,2014).本研究に おけるチーム OPS は,以下の数式により求めた. チーム OPS=チーム出塁率+チーム長打率 チーム出塁率=(安打数+四死球数)/(打数+ 四球数+死球数+犠飛数) チーム長打率=(1×単打数+2×二塁打数+ 3 × 三 塁 打 数 + 4 × 本 塁 打 数)/打数 チーム全体の守備力を表す指標としては,失策 数ではなく上記データより Defensive E‹ciency Rating(以下「DER」と略す)を計算して分析 に用いた.DER は本塁打を除くフェアゾーンに 飛んだ打球のうち,どの程度の割合をアウトにす ることができたかを計算したチーム全体の守備能 力を表す指標である(岡田ほか,2013).本研究 における DER は,以下の数式により求めた. DER=(打席数-安打数-四死球数-三振数 -失数策)/(打席数-本塁打数-四死 球数-三振数) チーム全体の守備力の指標を算出する場合,他 の方法として,失策数を用いることが第 1 に想 定される.しかし,失策数という記録は主観的で あるという問題を含んでいる.第 2 に,例えば 出場選手の UZR (Ultimate Zone Rating)得点を 総合するといった方法も考えられる.しかし,本 研究で取得したデータでは,当該指標の算出は困 難である.そこで本研究では,守備指標算出上の 簡便性を考慮し,最終的に DER を選択した. . データ分析 全390試合780チームの試合データにおける取 得データの記述統計量を集計し,その値をもとに チ ー ム 修 正 FIP , チ ー ム OPS, DER を 算 出 し た.その後,チームの勝敗を従属変数,チーム修 正 FIP,チーム OPS, DER を独立変数としたロ ジスティック回帰分析(強制投入法)を行い,3 変数が勝敗に与える影響を検討した.ロジスティ ック回帰分析においては,各チームの先攻/後攻 の別をダミー化した上で独立変数として同時に投 入し,その影響を除外した.これは,先攻/後攻 の別が交絡因子となることが予想されたためであ る(福田,2009宮津・新行内,1999).なお, 本研究における分析には全て SPSS ver.19を使用 し,有意確率は 5(両側検定)とした.
表 取得したデータの各項目の記述統計量と勝ちチームと負けチームのデータの比較 全チーム (n=780) (n=390)勝ち (n=390)負け 検定 t/x2 P 取得データmean (SD) 打数 33.08(4.35) 33.62(4.98) 32.53(3.54) T 検定 3.50 <0.001 打点 4.18(3.37) 6.00(3.42) 2.36(2.09) T 検定 17.90 <0.001 安打 9.38(3.85) 11.11(3.90) 7.65(2.92) T 検定 14.01 <0.001 単打 7.02(3.01) 8.06(3.05) 5.97(2.58) T 検定 10.34 <0.001 二塁打 1.55(1.39) 1.91(1.52) 1.19(1.16) T 検定 7.41 <0.001 三塁打 0.43(0.72) 0.61(0.84) 0.25(0.51) T 検定 7.25 <0.001 本塁打 0.38(0.67) 0.53(0.79) 0.24(0.49) T 検定 6.18 <0.001 三振 5.90(3.12) 5.02(2.72) 6.78(3.25) T 検定 8.18 <0.001 四死球 3.53(2.33) 4.08(2.44) 2.98(2.09) T 検定 6.73 <0.001 犠打 2.10(1.56) 2.65(1.59) 1.55(1.31) T 検定 10.52 <0.001 犠飛 0.23(0.50) 0.35(0.59) 0.12(0.34) T 検定 6.43 <0.001 盗塁 0.93(1.25) 1.17(1.44) 0.68(0.96) T 検定 5.69 <0.001 残塁 7.60(2.73) 8.12(2.78) 7.08(2.57) T 検定 5.44 <0.001 失策 1.18(1.15) 0.93(0.94) 1.43(1.28) T 検定 6.26 <0.001 併殺 0.64(0.81) 0.60(0.79) 0.68(0.83) T 検定 1.41 0.159 暴投 0.44(0.75) 0.36(0.66) 0.53(0.82) T 検定 3.06 0.002 ボーク 0.05(0.22) 0.05(0.21) 0.06(0.24) T 検定 0.63 0.527 捕逸 0.09(0.31) 0.07(0.26) 0.11(0.34) T 検定 1.53 0.127 打撃妨害 0.01(0.13) 0.01(0.07) 0.02(0.18) T 検定 1.07 0.284 チーム力指標mean (SD) 修正FIP(投手力) 4.36(5.01) 3.56(4.44) 5.15(5.41) T 検定 4.47 <0.001 OPS(打撃力) 0.72(0.24) 0.85(0.22) 0.59(0.17) T 検定 18.40 <0.001 DER(守備力) 0.66(0.10) 0.70(0.09) 0.62(0.09) T 検定 12.38 <0.001 先攻/後攻n () カイ2 乗検定 4.02 0.053 先攻 390(50.00) 181(46.41) 209(53.59) 後攻 390(50.00) 209(53.59) 181(46.41) SD: Standard Deviation
FIP: Fielding Independent Pitching OPS: On-base Plus Slugging DER: Defensive E‹ciency Rating
結
果
2008―2015年の全国高等学校野球選手権全国 大会全390試合,780チームの試合記録を分析し た結果,各項目の記述統計量は表 1 の通りであ った.分析対象全チームの平均チーム修正 FIP は4.36(SD=5.01),平均チーム OPS は0.72(SD =0.24),平均 DER は0.66(SD=0.10)であり, 勝ちチームと負けチームの間にはチーム力を代表 する 3 つの指標全てで統計的に有意な差が見ら れた.先攻チームの勝率は46.4であり,カイ 2 乗検定の結果,先攻/後攻と勝敗との間には有意 な 関 連 は 見 ら れ な か っ た (x2( 2 ) = 4.02, P = 0.053). 次に,上記の 3 変数が勝敗に与える影響を分 析するためにロジスティック回帰分析を行った. その結果(表 2 参照),チーム修正 FIP・チーム OPS・DER はいずれも勝敗と統計的に有意な関 連 を 示 し た . モ デ ル 適 合 度 を 調 べ る Hosmer-Lemeshow 検定の結果(Model 1: x2 (8)=3.55, P=0.896, Model 2:x2(8)=5.73, P=0.677),各表 勝敗を従属変数としたロジスティック回帰分析の結果 分析モデル 独立変数 偏回帰係数 標準誤差 Wald オッズ比†) 95CI 下限 95CI上限 P モデル1 (補正なし) FIP -0.07 0.02 9.40 0.94 0.90 0.98 0.002 OPS 9.05 0.71 164.04 8532 2135 34089 <0.001 DER 15.70 1.40 125.13 6553617 418929 102523131 <0.001 モデル2 (補正あり)††) FIP -0.23 0.04 32.66 0.80 0.74 0.86 <0.001 OPS 9.01 0.73 153.22 8145 1957 33898 <0.001 DER 15.56 1.44 117.28 5699019 341274 95169408 <0.001 FIP: Fielding Independent Pitching
OPS: On-base Plus Slugging DER: Defensive E‹ciency Rating CI: Conˆdential Interval
†)OPS のオッズ比は,8145であるが,これは OPS が 1 増加した時に「勝ち」が出現する確率が8145倍となること を意味する.なお,OPS が0.1増加した時のオッズ比は約2.46(=EXP(9.01×0.1))である.DER が0.1変動した 時のオッズ比は約4.73である. ††)モデル 2 では,先攻/後攻の差を補正している. 分析モデルが十分な適合度を示していることが示 唆された.従属変数への寄与率を示す Wald 統計 量は,チーム修正 FIP が32.66,チーム OPS が 153.22,DER が117.28であった.
考
察
本研究の結果,我が国の高校野球夏の甲子園大 会においては,投手力・打撃力・守備力のいずれ もが試合の勝敗に影響を与えていることが明らか になった.オッズ比から,チーム修正 FIP が 1 点増 加すると 勝利の確率 は約0.8倍 に,チー ム OPS が0.1増加すると勝利の確率は約2.5倍に, DER が0.1増加すると勝利の確率は約4.7倍にな ることが示唆された.従属変数への寄与率を示す Wald 統計量を考慮すると,打撃力が最も勝敗に 与える影響が強く,次に守備力が重要であり,投 手力は打撃力・守備力に比較して試合の勝敗に与 える影響が少ないと考えられる.そのため,チー ムを効率的に強化するためには,投手力より打撃 力や守備力を高める指導・練習を行うべきだと考 えられる.特に守備力(DER)を向上させるた めには個人練習のみならず野手間の連携を促す必 要があるため,集団に対する指導者の影響が強 い.こうした点に集中的に指導者の時間を割いて いくべきであろう.また,近年では教員の負担軽 減と部活動指導の充実化の両立のために外部人材 を活用することが推奨されているが,打撃や守備 に関する指導が可能な者に指導を依頼することが 勝率を上げるという観点からは重要となると考え られる.また,個人の技能ではなくチームメン バーでの連携等を重視する指導・練習は,勝つこ とを目標としながらも勝利至上主義に陥らない部 活動本来の目的(文部科学省,online 3)を達成 する一助となることが考えられる. 本研究の結果は,高校野球における投手力の重 要性を指摘する現場の声と矛盾する一方で(功力, 1991小倉,2015),プロ野球の試合データを分 析したセイバーメトリクス研究と一貫している. 控えレベルの選手に比べて 1 年間で何勝分の貢 献 を し た か を 示 す 指 標 で あ る Wins Above Replacement(以下「WAR」と略す)は投手と 野手のチームへの貢献度を比較することができる 指標の 1 つである(岡田ほか,2013).WAR の 研究では,日本及び米国のいずれにおいても野手 の勝利への貢献度は投手よりも高いことが繰り返 し示されている(鳥越・データスタジアム野球事 業部,2014).そもそも野球の勝敗は得点の多寡 で決定するため,論理的に考えるとオフェンス (打撃力)とディフェンス(投手力+守備力)の勝利への寄与度は均等となるはずである.実際, 本研究で得られた Wald 統計量を見ると,おおむ ね「打撃力(153.22)≒投手力(32.66)+守備力 (117.28)」となっており,このことは統計的にも 支持されたと考えられる.このようにチーム全体 で見た場合,投手力は勝敗への寄与度が打撃力や 守備力よりも低くなる.プロ野球の場合,投手と 野手の分業が高校野球より進んでいるため,投手 のポジションにある者は投手力のみに寄与し,そ の他のポジションにある者はチーム全体の打撃力 と守備力に寄与する.そのため上述の WAR に 関する分析では,野手の評価が高くなる.一方 で,高校野球の場合,プロ野球に比べ投手と野手 間の分業化が進んでいないため,投手のポジショ ンにある者がチームの中軸を担うことも多い.結 果として,チームを構成する個人単位で考えた場 合,投手のポジションにある者の勝敗への寄与度 はより高くなり,投手の重要性が指摘されるもの と推察される. 上記の要因に加え,投手力の重要性が強調され る背景には,少なくとも 2 つの要因があると考 えられる.第 1 に,文化的な問題である.米国 メジャーリーグでは年間最優秀選手に投手が選ば れることは非常に稀であるが,日本のプロ野球で は野手ではなく投手が選出されることが多い(鳥 越・データスタジアム野球事業部,2014).つま り,我が国では勝利への投手の貢献を過大評価す る文化的基盤があるということである.これは裏 返せば敗北の責任をも投手に負わせるものとな り,投手力の勝敗への寄与率をデータが示す以上 に高く認識することにつながっていると考えられ る.第 2 に,原因帰属に関する心理学的な問題 である.全てのプレーが投球から始まるという野 球の性質上,人々の注目は必然的に投手に集ま る.これが試合の勝敗に関する原因帰属にバイア スを生じさせている可能性があると考えられる. ただし,第 2 点についてはこれを支持するデー タ等は存在しないため,今後の検証が必要である. 本 研 究 で 算 出 し た チ ー ム 修 正 FIP , チ ー ム OPS, DER の数値はいずれも妥当性の高いもの であり,そのため分析結果も妥当なものだと考え られる.第 1 に,チーム修正 FIP について考察 する.FIP はそもそも防御率と類似の数値になる ように被本塁打数・四死球数・奪三振数にかかる 係数が調整されている.夏の甲子園における試合 の各チームの平均得点は時代による変化はあるも のの近年は約4.5点である(Student, 2014).本 研究で得られたチーム修正 FIP の平均値(4.36) はその値に近いものである.また,勝ちチームの チーム修正 FIP は負けチームのチーム修正 FIP より統計的に有意に低くなっている.第 2 に, チーム OPS と DER について考察する.高校野 球に関するチーム OPS や DER の分析は筆者の 知る限り存在しないが,NPB のデータではチー ム OPS はおおむね0.6―0.85の間におさまり, DER は0.6―0.7である.本研究で得られた結果 はこれらの数値と類似する.また,勝ちチームの チーム OPS および DER は負けチームのそれよ り統計的に有意に高くなっている.以上より,本 研究の結果は十分に妥当性の高いものと考えるこ とができる. 本 研 究 の 限 界 及 び 問 題 点 は 3 点 あ る . 第 1 に,本研究では投手力と守備力を分けて分析を行 っているが,両者の間にある相互作用については 分析をすることができていない.例えば,フライ ボール率の高い投手が投げている場合には野手の 守備力の相対的重要性は低くなり,反対にゴロ率 の高い(フライボール率の低い)投手が投げてい る場合には野手の守備力の相対的重要性は高くな るであろう.しかし,投手のフライボール率等の データは公式記録に残されていないため,本研究 では上述の問題を扱うことはできていない.第 2 に,扱った指標の問題がある.本研究では FIP, OPS, DER を基礎として投手力・打撃力・守備 力の影響の分析を行ったが,投手力・打撃力・守 備力の算出方法には他の方法も存在する.例えば, NPB のデータでは,データ放送の発展に伴い各 野手が同じ守備位置の平均的な選手が守る場合に 比 べ て ど の 程 度 余 分 に 失 点 を 防 い だ か を 表 す UZR 得点が算出されるようになっているが,同 様のシステムが甲子園における高校野球の分析に 用いられれば,より精緻な指標を用いて分析を行
うことも可能になるであろう.今後は,他の指標 と勝敗との相関に関する分析を積み重ねることに よって,より確からしい結果が得られると考えら れる.第 3 に,一般化可能性の問題がある.本 研究で扱ったデータは全国高等学校野球選手権全 国大会(夏の甲子園)であり,選抜高等学校野球 大会(春の甲子園)や地方大会のデータは分析し ていない.高校野球においては,「春は投手力, 夏は総合力」といった格言がある.このことを考 慮すれば,大会の実施時期やその質により,投手 力・打撃力・守備力が勝敗に与える影響もそれぞ れ変化する可能性が存在する. 以上のような限界は有するものの,本研究は日 本における高校野球の試合のデータを用いて試合 の勝敗に与える投手力・打撃力・守備力の影響を 検討した最初の研究として重要な意義を有すると 考えられる. 文 献 福田将史(2009)スポーツの試合における先手に関す る研究高校野球の先取点と勝敗について.作新学 院大学紀要,19: 113. 川村 卓・中村 計(2007)徹底データ分析甲子園戦 法セオリーのウソとホント.朝日新聞社. 国 立 教 育 政 策 所 編 (2014 ) 教 員 環 境 の 国 際 比 較 OECD 国際教員指導環境調査(TALIS) 2013年調査 結果報告書.明石書店. 功力靖雄(1991)アマチュア野球教本練習のマニュ アル.ベースボール・マガジン社. 教員の長時間労働の是正に関する議員連盟(online)教 員の長時間労働の是正に関する中間取りまとめ学 校での働き方改革を通して教員と児童生徒の健全な 環境づくりを.http://keitaro-ohno.com/wp-content/ uploads / 2016 / 05 / fcd279cae8d13ed6ea99cdb24c 42711b.pdf,(参照日2016年 9 月23日). 宮津 隆・新行内康徳(1999)野球における統計的解 析ジンクスと国民性.ベースボーロジー,1: 76 93. 文部科学省.(online 1)運動部活動の在り方に関する 調 査 研 究 報 告 .http: // www.mext.go.jp / b _ menu / shingi/chousa/sports/001/toushin/971201.htm,(参 照日2016年 8 月26日). 文部科学省.(online 2)運動部活動の実態に関する調 査.http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo /chukyo5/009/gijiroku/__icsFiles/aˆeldˆle/2011/ 09/14/1310757_04.pdf,(参照日2016年 8 月26日). 文部科学省.(online 3)学校現場における業務の適正 化 に 向 け て .http: // www.mext.go.jp / a _ menu / shotou/uneishien/detail/__icsFiles/aˆeldˆle/2016/ 06/13/1372315_03_1.pdf,(参照日2016年 9 月23日). 日本高等学校野球連盟.部員数統計.http://www.jhbf. or.jp/data/statistical/index_koushiki.html,(参照日 2016年 8 月26日). 小倉清一郎(2015)小倉ノート甲子園の名参謀が明 かす「トップチーム」の創り方.竹書房. 岡田友輔・道作・三宅博人・morithy・蛭川皓平・高多 薪吾・Student・水島仁(2013)プロ野球を統計学と 客観分析で考えるセイバーメトリクス・リポート 2.水曜社. 雜賀亮一(2010)高校野球の地方大会における先制点 の考察.太成学院大学紀要,12: 127138. 雜賀亮一(2011)第92回全国高等学校野球選手権大会 に お け る 先 制 点 の 考 察 . 太 成 学 院 大 学 紀 要 ,13: 157163. Student(2014)高校野球における「得点」.http:// www.plus-blog.sportsnavi.com/student/article/225, (参照日2016年11月30日)
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