小型発信機を用いたキタサンショウウオ
(Salamandrella keyserlingii)の行動追跡の試み
○パシフィックコンサルタンツ株式会社 正会員 小林 功 パシフィックコンサルタンツ株式会社 正会員 山田 浩行 東北大学高度教養教育・学生支援機構 太田 宏 NPO法人 環境把握推進ネットワーク PEG 照井 滋晴 北海道開発局釧路開発建設部釧路道路事務所 高山 博幸 北海道開発局釧路開発建設部釧路道路事務所 小池 直幸 1. はじめに
日本では釧路湿原(ほかに北方領土の国後島の湿 原 域 ) で の み 生 息 す る キ タ サ ン シ ョ ウ ウ オ
(Salamandrella keyserlingii)は、その希少性か ら釧路市の天然記念物に指定されているほか、絶滅 のおそれのある野生生物として、環境省のレッドリ ストで準絶滅危惧種、北海道のレッドデータブック で絶滅危惧種に指定されている 1)。このため、建設 事業においては、保全対策が検討・実施されている ところである 2)。しかし、本種の行動特性について は、これまで墜落わな法やラジオテレメトリー法に よる把握が実施3)されているが、その情報はまだ断 片的であり、その多くは明らかになっていない。今 後の適切な環境影響評価に基づく保全対策の検討・
実施にあたっては、本種の行動特性について、さら なる知見の蓄積が必要である。本稿では、小型発信 機を用いたキタサンショウウオの行動追跡の試みに ついて、その手法および結果を報告するものである。
2. 調査手法 1)発信機
発信機は、キタサンショウウオへの取り付けなど を考慮した形状・サイズで特注したものを使用した。
発信機の仕様を表-1に示す。
発信器の装着は、サンショウウオの身体的特徴、
すなわち、肩、腰が不明瞭でしかも皮膚が柔らかく 弱いことから非常に困難である。また、発信機の装 着箇所によっては、移動の阻害になり、個体への大 きなダメージとなる。このことから、発信機の装着 の際は、動物に痛みを与えないように装着個体に麻 酔をかけ、尾部に人用の手術針と糸で縫い付け装着 する手法とした1)(写真1参照)。発信機が、移動の障 害となった場合でも尻尾が切れる形で脱落するよう
に、尻尾の半分より先に装着した。なお、尻尾は切 れても再生するため個体が死んでしまうことはない。
表-1 発信機の仕様
サイズ 重量 電池寿命 周波数 本体:約1.0cm
アンテナ部:約4.5cm 約
0.3g 約30日 48MHz帯
写真-1 発信機装着個体 2)追跡対象個体の採取・放逐など
ラジオテレメトリー法による追跡期間は、キタサ ンショウウオが活発に移動する時期を考慮し、2013 年9~10月および2014年6月、9~10月とした。
追跡箇所は、キタサンショウウオの産卵が過年度 より確認されている湿原域100m×100m程度の範 囲とした(図-1参照)。
図-1 調査地位置図
キーワード:キタサンショウウオ、両生類、希少生物、発信機、行動特性 発 表 者 連 絡 先 : 札 幌 市 北 区 北 7 条 西 1-2-6 TEL 011-700-5227、FAX 011-709-0628
本種産卵場所
(ハンノキ群落)
人工盛土 (推定越冬地) 土木学会第70回年次学術講演会(平成27年9月)
‑213‑
Ⅶ‑107
追跡対象個体は、春季に繁殖水域において任意捕 獲した成体及び春季から秋季に捕獲わなにおいて捕 獲した成体のうち、比較的サイズの大きなものを用 いた(2013年:計4個体、2014年:計9個体)。個体 に発信機を装着後、個体に異常行動がないか確認し た後、捕獲地点付近に放逐した。なお、追跡に用い る個体は、体サイズ(全長、頭胴長、湿重量など)
の計測及び記録用の写真撮影を行った。
3)追跡手法
個体追跡は、放逐直後は活発に移動し、見失う可 能性があるため4時間毎、6時間毎等短間隔で電波を 受信して位置を特定し、その後は12時間毎、24時間 毎に位置特定を行った。なお、位置特定に際しては 感度の悪いアンテナを用い、受信機の感度を落とす ことによって、数センチの精度で位置を特定できた。
調査期間は装着した発信機が脱落した場合を除き、
原則として5日間以上追跡を実施した。個体の確認の 際は、毎回リターや土壌を除去すると、個体を不必 要に刺激して移動に影響を与える可能性があるため、
PITタグを併用し、確認作業による負荷を最小限とし た。
3. 追跡結果 1) 2013年追跡結果
調査を行った4個体の発信機すべてが脱落し、明確 な移動の傾向は確認できなかった。人工盛土側の捕 獲わなで捕獲した個体は、北西方向に移動する傾向 がみられた。その中でも10月の放逐個体は、放逐位 置からやや北西方向(湿原方向)へ計77.54mの移動 が確認された(図-2参照)。その他の個体では活発な 移動は確認できなかった。
2) 2014年追跡結果
9月に捕獲わなで捕獲した2個体は、ともに長期間 で追跡(総移動距離32.09m、52.92m)することが できた。移動の方向については、両個体とも放逐後 湿原方向へ移動し、その後人工盛土方向へ戻るよう に移動した(図-3参照)。その他の個体では活発な移動 は確認できなかった。
図-2 2013年 個体番号4の追跡結果
図-3 2014年 個体番号5の追跡結果
4. おわりに
今回の追跡結果により、夏季よりも越冬場所への 移動時期に当たる秋季に活発に移動する傾向が見ら れた。しかし、移動の方向性に一定の傾向は見られ ず、越冬地への移動と言うような目的等について、
明らかな結果は得られなかった。こういった課題に ついては、今後継続的にデータを蓄積することでよ り明確な知見を得ることが可能であると考えられる。
参考文献
1) 佐藤孝則・松井正文(2013)「北海道のサン ショウウオたち」
2) 小林 功ほか(2014)「道路事業におけるキ タサンショウウオの保全の取り組みについ て」第69回 土木学会年次学術講演会
3) 太田 宏・植田健仁(2007)「美濃地区にお けるテレメトリー法を用いた行動圏調査」環 境省
土木学会第70回年次学術講演会(平成27年9月)
‑214‑
Ⅶ‑107