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行政執行における実効性と権利保護

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行政執行における実効性と権利保護

  ドイツ行政執行法制の法的構造に関する考察   宮 尾 亮 甫

序 章

第 1 章 日本法の議論状況

 第 1 節 権利保護の欠缺が生じる問題状況  第 2 節 行政執行と訴えの利益・違法性の承継論   ⑴訴えの利益からみた行政執行

  ⑵違法性の承継論からみた行政執行  第 3 節 小 括

第 2 章 ドイツ行政執行法制の仕組み

 第 1 節 ドイツ行政執行法を検討する際の注意点 連邦法と州法の統一的把      握の困難性

 第 2 節 行政執行の基礎と行政執行手続の類型   ⑴行政執行の基礎

  ⑵行政執行手続の類型① 延長手続   ⑶行政執行手続の類型② 即時強制   ⑷行政執行手続の類型③ 略式執行   ⑸まとめ

 第 3 節 行政執行の積極要件   ⑴不可争力の発生

  ⑵争訟提起に係る停止効果の排除及び即時の執行命令   ⑶基礎処分の有効性

  ⑷まとめ

 第 4 節 行政執行の消極要件・執行障害

(2)

序 章

 本稿は、ドイツの行政執行制度の構造を検討することで、代執行、執行 罰、直接強制に代表される行政上の強制執行( 1 )(以下、「行政執行」という)

の実効性とこれに対する継続的権利救済という二つの要請の均衡を図る行政 執行制度( 2 )のあり方を明らかにすることを目的とする( 3 )

 行政行為( 4 )が違法であっても、適法に行政執行をすることができる。この義 務賦課処分と執行行為の分離は、行政行為はたとえそれが違法であっても正 式の手続において取り消されるまでは有効であるとする公定力の理論、また は、先行行為の違法性は後続行為の違法性に原則影響しないとする違法性の 承継理論から説明される( 5 )。したがって、行政行為が法的瑕疵を帯びていて も、それが有効である限りは一応その有効性を前提として適法に当該行為が

 第 5 節 小 括

第 3 章 ドイツにおける行政執行と権利救済

 第 1 節 仮の救済と基礎処分の即時の執行に伴う問題   ⑴仮の救済

  ⑵争点 不可争力発生前の行政執行に係る問題状況  第 2 節 違法性関連による救済

  ⑴違法性関連の意義

  ⑵関連法制における違法性関連

  ⑶不可争力発生後の行政執行における違法性関連   ⑷不可争力発生前の行政執行における違法性関連  第 3 節 費用徴収に係る費用決定に対する訴訟による救済  第 4 節 基礎処分の決着の否定による救済

 第 5 節 継続確認訴訟による救済  第 6 節 小括 行政執行制度と司法関与

終 章 行政執行に対する権利保護と行政執行法制のあり方  第 1 節 日本法の評価

 第 2 節 残された課題

(3)

強制執行され得る。迅速な行政執行により公益を実現する要請が高い場合、

法的瑕疵を有した行政行為の強制執行がなされる。他方で、強制力( 6 )を伴う行 政執行は、私人に対する権利侵害の程度という観点からは慎重になされるべ きものである。

 以上の公定力理論及び違法性の承継論に基づいて、本稿は、違法な行政行 為を行政執行により適法に貫徹し得るか、という問いを設定する。そして、

この問いを通じて、上記の課題に取り組むこととする。

 この課題に取り組む本稿の問題意識は、行政執行又は行政上の義務履行確 保の拡充と同時にそれらに対する権利救済も併せて考察する必要があるとい うことにある。確かに、宝塚市パチンコ店等規制条例最高裁判決が、行政上 の義務の民事執行を認めないと判断したことにより 当該判決に賛同するか はともかく( 7 ) 少なくとも、行政上の義務の実効性確保に関する議論が活発化 してきている( 8 )。そして、現行の行政代執行法をはじめとする行政執行制度の 機能不全が従前より語られていたこともあり( 9 )、現在に至るまでの行政上の義 務履行確保に係る議論の方向性は、行政上の義務履行確保に対する消極主義 を何らかの立法的措置によって克服することに向けられている(10)

 しかし、本稿は、行政執行又は行政上の義務履行確保制度の拡充を考える ならば、当該制度に係る手続や当該制度と行政訴訟との関係に関する議論を も同時に深化させる必要があると考える(11)。このような問題意識の下、実効的 行政執行とそれに対する権利救済システムのあり方を探求する(12)

 そこで、本稿は、行政執行の種類が酷似し、戦前の日本法が参考にしたド イツ法(13)を比較対象に本稿の検討を進めていくこととする。機能不全ゆえに判 例及び理論的発展に乏しい日本法に比べてドイツ法は、行政執行に関する判 例・理論の蓄積が豊富だからである。また、第 2 章以下でみるように、ドイ ツ行政法学は、実効的法執行と行政執行に対する権利救済という問題につい ても日本法以上に活発な議論を展開しているからである。

 ところで、行政執行に関する先行研究としては、既に広岡隆による一連の

(4)

研究が存在する。しかし、広岡による研究は、ドイツにおいて行政執行に係 る立法整備が不十分な時代においてそれを補充するドグマーティク(行政行 為に内在する執行力)の克服(14)を目的としたものであったし、行政執行と行政 訴訟との関係についての検討も十分ではなかった。また、近時の重本達哉に よる研究は、適法な行政執行を行う一般的要件に係る議論を、関連法制史も 辿りつつ検討し、現在のドイツ行政執行法制に関する研究の基礎を得ること を目的としたものである(15)。本稿は、重本と同じ検討素材を扱うが、実効的法 執行とそれに対する権利救済の調整という観点から、行政執行システムの在 り方についての考察を行うことを目的とする。

 検討は以下の順序で行う。まず、行政執行とこれに対する権利救済につ いて日本法の問題点を訴えの利益と違法性の承継論の 2 つの観点からみてい く(第 1 章)。次に、ドイツ行政執行法の仕組みを、行政執行手続の類型・

要件等に着目しつつ概観し(第 2 章)、この仕組みを踏まえてドイツにおけ る行政執行に対する権利救済の検討をし、ドイツ行政執行法制の構造を明ら かにする(第 3 章)。最後に、前章の検討を踏まえた日本法の考察を行い、

実効的法執行とこれに対する継続的権利保護との均衡を図る行政執行法シス テムのあり方と今後の課題を提示する(終章)。

第 1 章 日本法の議論状況

 第 1 節 権利保護の欠缺が生じる問題状況

 本節は、行政代執行を例に問題となる状況を提示し、次節以降の検討のた めの布石とする。なお、実効的法執行とそれに対する権利救済の調整という 課題を扱う本稿が権利救済の問題についてまず論じる理由は、序章で述べた ように、現在の行政法学は実効的法執行について活発な議論状況にある一方 で、行政執行に対する権利救済に係る議論は十分になされていないからであ る。したがって、行政執行に係る権利救済の問題点について重点を置いて以 下の検討を進めていくこととする。

(5)

 行政代執行は、法律又は義務賦課処分により課された命令を前提として、

戒告、代執行令書、強制手段の適用という手続過程を経て実施される。そし て、代執行終了後にそれに要した費用の徴収手続である費用納付命令が発付 される。

 このような手続を経て行われる代執行と権利救済の問題について、日本法 には次のような問題が存在する。すなわち、違法な行政行為が適法に執行さ れ得るかという問題が存在する。日本法は本稿が比較対象とするドイツ法と は異なり、執行不停止原則を行政訴訟制度として採用している(16)。また、日本 において、行政執行の実施は義務賦課処分の不可争力の発生とは無関係に行 われ、行政執行の要件は義務賦課処分が無効でない限り満たされている。し たがって、行政執行は、行政行為に不可争力が発生する前や義務賦課処分等 に対する争訟が係属している場合でも、実施される得るのである。よって、

日本法においては、違法な義務賦課処分が行政執行により適法に貫徹され得 るのである。

 このような行政執行制度に伴う問題は、次節でみる行政執行に係る訴えの 利益に関する理論及び行政執行における違法性の不承継という 2 つの論点と 併せて検討するとより顕著になる(17)。そしてかかる場合において、行政執行に 対する権利保護は、国家賠償請求による事後的救済のみとなってしまう。

 そこで第 2 節では、日本法における行政執行と訴えの利益との関係及び行 政執行と違法性の承継論との関係について検討する。その理由は、前者に関 しては、仮に義務賦課処分等の効果が執行により消滅したとしても訴えの利 益を肯定することにより義務賦課処分等の適法性審査を裁判所が行うことで きる。このため実効的権利保護への配慮がなされる。後者との関係では、違 法性の承継を肯定することが前者と同様の意味を持つからである。

 第 2 節 行政執行と訴えの利益・違法性の承継論  ⑴訴えの利益からみた行政執行

(6)

 行政執行に係る訴えの利益と違法性の承継について、日本法はどのように 考えてきたのか(18)。これが本節において検討する論点である。結論を先取りす るならば、日本法は、行政執行に係る訴えの利益及び違法性の承継の両者に ついて否定的に解しており、このことが行政執行とこれに対する権利救済と の関係で問題を孕んでいるのである。すなわち、前者については、義務賦課 処分等の効果が執行により消滅するため、義務賦課処分等に係る争訟は維持 されないとされ、後者については、義務賦課処分と戒告等の執行措置、ひい ては行政執行に要した費用に係る費用納付命令いずれについても違法性は不 承継であるとされてきたことにより、行政執行の相手方に対する権利救済よ りも行政執行を行う公権力の行使に有利な状況を呈しているのである。ま ず、行政執行と訴えの利益の問題についてみていく。

 行政執行に係る訴えの利益を否定した下級審判決の例として、原告が国定 公園内に設置した建築物について自然公園法に違反するものであるとして当 該建築物の撤去命令及び代執行をなすべき旨の戒告を経て代執行を行なった 事案に係る東京地判昭和41年10月 5 日判時470号35頁(以下、「東京地判昭和 41年判決」という)がある。本件は、戒告について処分性を肯定するなど(19)行 政代執行に係る論点について少なからず重要な判決であるが、本節では訴え の利益に係る論点についてのみ取り挙げる。同判決は、代執行の実施が完了 した後においては、戒告及びこれに対する審査請求を却下した裁決の取消の 訴えの利益はなく、代執行費用徴収手続が終了していなくても、右戒告等の 取消を求める法律上の利益はないと判断した(20)

 また、最高裁判例も行政執行と訴えの利益について否定的に解している。

建築基準法 9 条 1 項に基づく除却命令を受けた建築物について行政代執行に よる除却工事を行なった事案に関する最判昭和48年 3 月 6 日最高裁判所裁判 集民事108号387頁がそれである。同判決は、除却命令を受けた違反建築物に ついて代執行による除却工事が完了した以上、当該除却命令及び代執行令書 発付処分の取消を求める訴えの利益はないとした原審の判断を是認した。ま

(7)

た、代執行費用の納付義務を免れることが訴えの利益を基礎付けるとした原 告の主張についても、費用納付命令自体を争えばよいとしてそのような主張 は「独自の見解」であるとして退けた(21)

 このように行政執行と訴えの利益に係る先例は、義務賦課処分が執行によ り完了することをもって当該処分又は戒告等執行措置の取消を求める法律上 の利益を否定的に解している。この点につき学説は、裁判例同様、義務賦課 処分の執行により当該処分の法的効果が消滅することを理由に否定的に解し てきた(22)。そして、このような場合における行政執行に対する救済方法として は、事後の国家賠償請求訴訟によることとされているのみである(23)

 以上の論理は、行政庁が迅速に行政執行を実施し完了させることにより義 務賦課処分等の法的効果は消滅するから相手方が当該処分等を争えなくなる ということを帰結する。また、このような場合には、次に検討する費用納付 命令に対する争訟において先行行為の違法を争えないとするならば、行政執 行に対する救済としては国家賠償請求が存在するのみである。

 しかし、このような論理には問題がある。というのも、訴えの利益は、処 分の法的効果が消滅したことにより一般的に失われるわけではなため(行訴 法 9 条括弧書き)、行政執行の完了により処分の法的効果が消滅したことを もって訴えの利益を否定する論理は適切ではないからである(24)。また、行政執 行の終了後は国家賠償請求をもって行政執行に対する救済は事足りるとする 現況については、国家賠償訴訟が違法性に加え、故意・過失の立証が求めら れる点について十分に配慮していないという問題が残る(25)

 ⑵違法性の承継論からみた行政執行

 次に行政執行と違法性の承継の関係についてみていく。この論点に関して 学説は、戒告と代執行令書との間では違法性の承継を肯定するということを 除いて、義務賦課処分と戒告、代執行令書等の執行措置、義務賦課処分また は執行措置と費用納付命令の各行為間での違法性の承継を異論なく否定して いる(26)。その理由は、行政執行が「相連続して行われる行為が 1 つの目的の実

(8)

現に向けられた行為で」「先行処分と後行処分が相結合して 1 つの効果の実 現を目指し、これを完成させるもの」(以下、「実体的一体性」という)では ないからである(27)

 裁判例においても、行政執行における違法性の承継は学説と同様の論拠に 基づいて否定的に解されている。具体例をみていこう。まず、義務賦課処分 と戒告等の執行措置との違法性の承継に係る例をみる。前掲東京地判昭和41 年判決は、傍論ではあるが、義務賦課処分と行政強制は別個の法的根拠に基 づくものであるから、義務賦課処分の違法性は戒告の違法を直ちに招来する ものではないとした(28)。また、豪雨よる土砂崩れより隣地の建物が倒壊したた め行政庁が宅造法に基づいて改善命令発付後、緊急代執行を行いこれに要し た費用の納付命令を発したが、原告がこれに対して取消訴訟を提起した事案 に係る東京地判平成25年 3 月 7 日判自377号65頁は、違法性の承継について 最高裁として初めて本格的に判断した最判平成21年12月17日民集63巻10号 2631頁(以下、「平成21年最判」という(29))に基づき上述した実体的一体性の 判断基準を示した上で、改善命令と代執行とは相連続した一連の手続を構成 していないため改善命令の違法性は後続の代執行には承継されないと判断し

(30)た

 続いて、義務賦課処分または戒告等の執行措置と費用納付命令間の違法 性の承継に関する事例をみる。名古屋地判平成20年11月20日判自319号26頁

(以下、「平成20年名古屋地判」と言う)がある(31)。同事案は、廃棄物処理法19 条の 5 第 1 項に基づく措置命令及び同法19条の 8 第 1 項に基づく代執行を経 て、費用納付命令を受けた原告が同費用納付命令の取消訴訟を提起した事案 である(32)。同判決は、措置命令・代執行・費用納付命令がそれぞれ別個の手続 で、別個の法律効果を目的するものであることを理由に、違法性の承継を否 定した。

 行政処分は通常取消訴訟又は職権や不服申立てで取消されなければ原則と して有効であり、重大かつ明白な瑕疵が存在する場合に例外的に無効とな

(9)

る。その一環として、違法性の承継も原則否定される。これは、行政処分の 法律効果を早期に確定させるためという法的安定の要請を理由とする。他方 で、この原則を貫徹すると国民の権利救済が十分に図られない事態が生じ る。そこで国民の権利救済という観点から違法性の承継も例外的に認められ る。前掲平成21年最判も違法性の承継を認めるに当たり実体的一体性という 基準に加え、救済手続の保障という観点という基準を提示した(33)。したがっ て、違法性の承継は、法的安定の要請と権利救済の要請の機能的見地から判 断される(34)

 以上を前提に行政執行に係る違法性の承継をみると、先に示したように日 本法は、義務賦課処分、戒告等の執行措置、費用納付命令に実体的一体性が ないことを理由に承継を否定してきた。

 しかし、このような日本法の現状は権利救済という観点に十分配慮してい ないという問題がある(35)。第一に、行政執行において違法性の承継が否定され る場合、義務賦課処分や代執行手続の違法は、義務賦課処分や代執行手続の 各段階で差止訴訟または取消訴訟を提起するという方法が考えられる。ただ しこれらの訴訟では、仮の差止や執行停止という仮の救済が認められなけれ ば、行政執行の完了時に訴えの利益が失われるという点に問題がある(36)。第二 に、費用納付命令に係る取消訴訟において、先行行為の無効を主張するとい う手法が考えられる。しかし、この方法についても、無効事由の立証自体が 容易ではないという問題がある。そうすると、行政執行に対しては、事後的 に国家賠償請求による救済しか残されていないことになる。ただし、国家賠 償請求には訴えの利益の検討の中で指摘した問題が当てはまることに注意を 要する。

 したがって、行政執行と違法性の承継という観点からみても日本法は、権 利救済という点で問題が残るのである(37)

 第 3 節 小 括

(10)

 以上の検討により明らかになったことをまとめると、日本における行政執 行の問題点は以下の通りである。義務賦課処分は、行政訴訟制度が執行不停 止原則を採用していることから、不可争力の発生前に行政執行なされ得る。

そのため、行政庁は義務賦課処分に瑕疵があるとしてもそれを迅速かつ適法 に執行することができる。このことに加え、義務賦課処分に対する争訟は、

仮の救済が認められない限り、行政執行の完了により訴えの利益を否定され る。また、義務賦課処分と行政執行手続、ひいては費用納付命令の間では違 法性は不承継であるとされており、これらの処分を争う他の方法として費用 納付命令の争訟における先行行為の無効主張などがあるところである。しか し、他の救済方法には無効事由の立証が容易でないなどの問題がある。そし て、このような場合には、事後的に国家賠償請求による救済しか残されてい ない。したがって、日本における行政執行制度は、実効的法執行と権利救済 という観点からみたとき、後者の点について十分配慮していないという問題 が存在するのである(38)

 そこで、第 2 章以下では、まず、ドイツ行政執行法を検討し、それがいか なる法的構造を有しているかをみる。続いて、それに基づいて行政執行につ いてどのような場合に権利保護の問題が生じ、この問題に対してドイツ法が どのように対処しているかを検討する。この検討を基に、現在の日本法を評 価した上で、行政執行の観点から実効性を確保しつつ、これに対する継続的 な権利保護を組み込んだ行政執行法制のあり方を提示する。

第 2 章 ドイツ行政執行法制の仕組み

 第 1 節 ドイツ行政執行法を検討する際の注意点 連邦法と州法の統一的      把握の困難性

 ドイツ行政執行法制は、1953年 4 月27日に施行された連邦行政執行法によ り一応連邦全体で整備された(39)。しかし、重本が正当に指摘するように、州法 にまで目をやるとドイツ行政執行法制の全体像を把握することは容易ではな

(11)

い(unübersichtlich(40))。連邦国家であるドイツ(41)においては、基本法が連邦と 州の立法権限について定めている。ただ、一般行政法について基本法は明示 的な立法権限を定めておらず、一定の領域に関する立法権はそれと関連する 手続法を形成する権限も含むと解されているため(42)、一般行政法に関する立法 権限は、連邦と州に基本法70条以下で付与されている実質的管轄の必要的 かつ憲法上許容された付随的権限(Annexkompetenz)であるとされてい

(43)る

。そして、行政執行法は以上のような法状態に依拠している。このことに 加えて、連邦は州行政に関して行政執行手続をあらかじめ指示する権限を有 しないとされていること(基本法30、70、72、74条 1 号(44))、行政は基本的に 州に割り当てられていること(基本法30条)などから連邦法と州法が異なり 得る。したがって、連邦法に対する州法の比重の大きさを無視し得ず、ドイ ツ行政執行法制を検討する際には州法にも留意しなければならない。

 また、州の行政手続法につき連邦行政裁判所への上告可能性を限定する行 政裁判所法137条 1 項 2 号が、連邦法と州法の見通しを困難にする要因とし て挙げられる(45)。というのも、学説上、同条項にいう「行政手続法」に行政執 行法が含まれると解されており(46)、このことが判例上も確立している。したが って、州の行政執行法に関しては連邦行政裁判所による判例形成は望めない という意味で連邦と州法の統一的解釈が阻まれ得る。

 以上のことから、多様な州法と連邦法の内容は一致しているため法的安定 が形成されていると解する余地があるものの(47)、ドイツ行政執行法制を検討す る際には、連邦法のみならず州法についても十分配慮する必要がある(48)。  本稿は、州法の多様性にも十分配慮しつつ、連邦行政執行法を対象として ドイツ行政執行法制の仕組みを検討していく。

 第 2 節 行政執行の基礎と行政執行手続の類型  ⑴行政執行の基礎

 通例、行政執行は行政行為を基礎としてしている(49)。この行政行為は、基礎

(12)

行政行為(Grundverwaltungsakt(50))とか基礎処分(Grundverfügung(51))な どと言われ(以下、「基礎処分」と言う)、民事執行の債務名義に準じて名義 機能や執行機能を付与されている(52)。そこで、本稿は行政行為を基礎とする行 政執行を対象として検討を進める(53)。なお、ドイツ行政執行法制の体系を理解 する上で必要かつ実務上も重要な手続類型であることから、行政行為を基礎 としない行政執行の一つである即時強制について必要な範囲で触れる。以 下、即時強制を含む行政執行手続についてみていこう。

 ⑵行政執行手続の類型① 延長手続

 基礎処分を強制的に貫徹するための行政執行手続としてまず取り挙 げられるのが、連邦行政執行法 6 条 1 項で定められている多行為手続

(mehraktigen oder mehrtaktigen Verfahren(54))とか延長手続(gestreckte Verfahren(55))と言われる手続である(以下、「延長手続」と言う)。

 延長手続は、基礎処分の発付、強制手段の戒告(Androhung)、確定

(Festsetzung)、適用(Anwendung)という 4 段階の過程を経て行われ

(56)る

。戒告は、行政執行が行われることを前もって知らせるという警告機能

(Warnfunktion)を持つ(57)。この機能は、相手方の権利保護に資することに 加え、むしろ、処分に自主的に従わせることで行政執行を遅らせ、強制手段 の適用を避けることを目的としており、確定にも同様の機能が付与されてい

(58)る

。このように延長手続は、行政執行を慎重に実施するための手続であると 考えられ得る。この点に、延長手続がドイツ行政執行法制において原則とし て位置付けられている所以がある(59)。なお、上記 3 段階の手続以外に、行政執 行に要した費用を徴収するための手続である費用決定があり、通常、独自の 規定に基づいて発せられるため、基礎処分はもとより、戒告などの執行措置 とも区別されている(60)。ただし、後にみるように、費用決定は、権利保護との 関係で重要な手続となることについては注意が必要である。

 ⑶行政執行手続の類型② 即時強制

 延長手続に対して、緊急の場合または差し迫った危険状況に対処する必要

(13)

性から、戒告等はおろか、基礎処分の発付すら存在しないという点でドイツ 行政執行法体系の例外として位置付けられているのが、即時強制である(61)。  即時強制については、連邦行政執行法 6 条 2 項が、先行する行政行為のな い行政執行手続として定め、刑罰または過料の構成要件を実現する違法な行 為の防止あるいは差し迫った危険の回避のために必要で、行政庁が法律上の 権限内で行動する場合に発動することができるとしている。他方で、即時強 制に関する州法の状況は、州行政執行法で定められていることもあれば、

州警察法で定められている場合もあり、ばらつきがある(62)。また、一部の州 では、直接執行(unmittelbarer Ausführung)という制度が見受けられる が、少なくともそれはプロイセン法においては即時強制とほぼ同じ概念であ

(63)る

。さらに、両者ともに法的性質は事実行為であるとするのが通説である(64)。  連邦行政執行法は、基礎処分が前提である延長手続を原則とする。そし て、同法は、即時強制を発動するためには、基礎処分の省略の必要性や刑罰 や過料の構成要件を実現する差し迫った危険の存在を要求している。これに より、即時強制の許容性((「危険」の存在、権限の発動の必要性など)が審 査される(65)

 したがって、即時強制は、緊急性の高い場合に基礎処分や戒告等の発付を 省略して発動される手続である一方、危険の回避の必要性などの観点から即 時強制の許容性が判断(審査)されるという点で延長手続に対する例外であ ると位置付けることができよう。

 ⑷行政執行手続の類型③ 略式執行(66)

 基礎処分の前提を原則とする延長手続とこれに対する例外である即時強制 との中間形態に位置付けられるのが、短縮執行手続(abgekürztes Vollstre- ckungsverfahren)とか早められた執行(beschleunigter Vollzug)と言わ れる手続である(以下、「略式執行」と言う(67))。これは、基礎処分を前提とす る点で延長手続と共通し、当該処分が先行しない即時強制とは区別される(68)。  略式執行は、基礎処分を執行の基礎とするが、基礎処分の不可争力あるい

(14)

は強制手段の戒告などの手続形式が省略される(69)ことによって、基礎処分が実 現を意図している目的を無に帰さないようするという点で、略式執行は基礎 処分の迅速な執行を意図する手続類型である(70)。ただし、略式執行は、連邦行 政執行法に規定はなく、一部の州行政執行法において存在するに過ぎず、ま た、その州法においてさえ、要件の定め方や手続の省略についてばらつきが あるため、ドイツ行政執行法制における略式執行の全体像を把握することは 困難である(71)

 略式執行の発動については、州法における規定の精査が必要であるが、少 なくとも、差し迫った危険の存在が必要とされるなど即時強制と類似の要件 が定められている(72)ことに加え、延長手続で対処するか(義務者の利益)、そ れとも有効な危険予防への対処を優先するかという比較衡量が必要となる(73)。 したがって、略式執行を発動する必要性について、延長手続との関係でその 発動が適切かどうかなどについて審査がなされ得る。

 ⑸まとめ

 このようにドイツ行政執行法制は、行政行為たる基礎処分を所与とする延 長手続を原則として、その例外に即時強制を位置付け、さらに、略式執行を 両者の中間形態として配置することで、慎重な行政執行の実施と多様な行政 実務に応じた行政執行を可能にしていると考えられる。したがって、このよ うなドイツ法の観点に基づくと、即時強制は、差し迫った危険や損害を防ぐ 目的で最終手段として用いられるべきであり、相手方の権利保護との関係で は極力行政行為を基礎とする行政執行が望ましいと考えられよう(74)

 第 3 節 行政執行の積極要件  ⑴不可争力の発生

 行政執行の一般要件について定めている連邦行政執行法 6 条 1 項は次のよ うに定める。

 「物の引き渡し、作為の履行、受忍または不作為に対して向けられる行政

(15)

行為は、それが不可争である場合、その即時執行(sofortiger Vollzug)が 命ぜられた場合またはその争訟手段(Rechtsmittel)に停止効果(aufschie- bende Wirkung)が付与されていない場合に、第 9 条による強制手段によ って貫徹され得る。」

 そして、これとほぼ同様の規定を全ての州行政執行法に見出すことができ

(75)る

 同条項は、基礎処分を強制手段によって執行するための要件として、基礎 処分が不可争であること、行政庁による即時の執行命令がなされた場合また は争訟手段に停止効果が付与されていないことの 3 つを選択的に挙げてい る。また、ドイツ行政執行法制度は、争訟提起に伴い生ずる停止効果の排除 及び即時の執行命令という選択要件を介して行政裁判所法上の仕組みと結合 しており、この点がドイツ行政執行法制度の一つの特徴である。まず、不可 争力の発生からみていこう。

 基礎処分は、法的救済手段に係る期間の徒過や相手方が法的救済手段を明 確に放棄した場合あるいは終局的な判決が言い渡された場合など正式の争 訟手段によってはそれを争い得なくなった場合に確定する(不可争力の発

(76)生

)。そして、これにより基礎処分は執行可能となる。

 しかし、第 3 章第 1 節で検討するように、行政裁判所法80条 2 項各号に基 づいて争訟手段に係る停止効果が排除される場合または公益または関係人の 優越的利益のために即時の執行が命じられる場合には、不可争力の発生とい う要件は、それほど役割を果たさないと言われることがある(77)

 ⑵争訟提起に係る停止効果の排除及び即時の執行命令

 行政裁判所法80条 1 項は、関係人の争訟提起により基礎処分の執行が停止 されると定めている。この場合、基礎処分はその確定を待って執行される。

 これに対する例外として(78)、基礎処分は同条 2 項 1 文各号により当該処分 が不可争となる前に執行されることがある。すなわち、同条項各号は、① 公租公課及び費用(öffentliche Abgaben und Kosten)の請求、②警察執

(16)

行官吏の延期できない命令及び措置(unaufschiebbare Anordnungen und Maßnahmen von Polizeivollzugsbeamten)、③その他、連邦法律によって または州法については州法律によって規定されている場合、特に、投資また は雇用創出に係る行政行為に対する第三者の異議審査請求及び取消訴訟の場 合、④即時の執行が、公益のためまたは関係人の優越した利益(überwiege- ndes Interesse eines Beteiligten)のため、行政行為をなした行政庁または 異議審査請求について決定すべき行政庁により特に命じられた場合に停止効 果が排除されると定めている。

 そして、法律または即時の執行命令による停止効果の排除は、危険予防や 秩序維持に係る多くの法律において見出される(79)。また、警察執行官吏による 延期できない命令及び措置がなされる場合、執行警察は通常緊急の場合にの み活動しているから相手方による基礎処分に対する異議は初めから停止効果 を付与されていないと言われている(80)。さらに、(基礎処分に関してではない

(81)が

)ほとんどの州の行政執行法において停止効果の排除が定められている。

 他方で、停止効果の排除及び即時の執行命令については次の 2 点に注意し なければならない。第一に、基礎処分の発付行政庁または異議審査庁による 執行の中止(行政裁判所法80条 4 項(82))及び裁判所による停止効果の回復また は執行の取消(83)(同条 5 項)である(84)。第二に、いわゆる二重効果的行政行為(85)に 係る場合における裁判所による即時の執行命令の発付である(行政裁判所法 80a条 2 、 3 項(86))。前者は、裁判所の介入により迅速な行政執行に対して実 効的権利保護を基礎処分の名宛人に保障するものであり(87)、後者は、行政執行 による利益を享受する第三者との関係で裁判所が行政庁に執行を促す仕組み である。

 このようにドイツ行政執行法は停止効果の排除及び即時の執行命令という 選択要件によって基礎処分を迅速に執行することを可能にしている一方で、

仮の救済という枠組みの中で裁判所が介入することによって義務の名宛人及 び第三者に対して配慮をしている。ただし、停止効果の排除及び即時の執行

(17)

命令については、第 3 章第 1 節でみるように、迅速な行政執行に対する実効 的権利保護という観点からなお問題を孕んでいることに注意する必要があ る。

 ⑶基礎処分の有効性

 行政執行を可能にするために上記各選択要件に加えて何よりも必要とされ ている一般要件が有効な基礎処分の存在である(88)。基礎処分の有効性により当 該処分の瑕疵は、執行の適法性になんら影響しないとされている(89)。すなわ ち、基礎処分が違法であるとしてもその処分に基づいて適法に行政執行を行 うことが可能となる。この点は、第 3 章で検討する基礎処分の違法性が行政 執行の違法を帰結するかといういわゆる違法性関連の問題に関連して重要と なる。

 ⑷まとめ

 本節では、行政執行を適法に行うための要件について検討してきた。この 検討により以下のことを明らかにした。ドイツ行政執行法制は行政執行を行 うために選択要件によって相手方の権利保護に配慮しつつ、公益性の高い状 況において迅速な行政執行を可能にするシステムを構築している。また、仮 の救済という枠組みにおいて裁判所が介入することにより、迅速な行政執行 に対する権利保護及び第三者との関係で行政執行を促す仕組みとなってい る。

 以上の仕組みは、行政執行法が要件を通じて行政裁判所法と結合している ことによる。この点にドイツ行政執行法制の特徴が存在する。

 そして、行政執行を適法に行うために不可争力の発生などの選択要件以外 に必要とされる一般要件は基礎処分が有効であることであるが、この点は行 政執行の適法性に関わる議論において重要な出発点となる。

 第 4 節 行政執行の消極要件・執行障害

 前節では、ドイツ行政執行法の体系が 3 つの執行手続類型によって多様な

(18)

行政実務に対応しつつ、原則と例外関係を明確にすることで行政執行を規律 していることを示した。また、行政執行の積極要件は、相手方の権利保護に 配慮する一方、迅速な法執行を可能にするものである。以上のことから、ド イツ行政執行法制は、行政執行手続の類型及び積極要件の面で、実効的法執 行とこれに対する権利保護の均衡を図っていると評価することができる。

 他方で、行政執行に対する実効的権利保護の観点から重要(90)なのが、行政執 行の消極要件とか執行障害(Vollstreckungshindernisse)と言われるもの である(91)。これは、行政執行手続の全ての段階において執行に歯止めをかける 機能を有している(92)。ただし、執行障害は、行政執行法の中で包括的に規定さ れているわけではなく、一部で定められているに過ぎない(93)。例えば、連邦行 政執行法では15条 3 項が、執行の目的が達成されるや否や(sobald)、強制 手段の執行は中止されなければならないと定めているに過ぎない(94)

 そこで、一般的に挙げられている他の消極要件及び執行障害について簡単 に触れておくと、消極要件については、①執行権限の欠如、②義務の相手方 が負っている義務の対象について相手方の処分権の欠如、③連邦行政裁判所 または州憲法裁判所による執行の基礎である規定の無効宣言、④その他執行 が不当である場合などを挙げることができる(95)。執行障害については、(a)

執行の要件が消滅した場合、(b)執行の目的が消滅した場合、(c)行政庁 が、相手方に義務を履行することについて猶予を与える承諾をした場合、

(d)相手方に拒否権(Weigerungsrecht)が与えられている場合(例:租 税通則法393条 1 項など)などを挙げることができる(96)

 第 5 節 小 括

 本章は、行政行為を基礎とする行政執行について連邦行政執行法を中心 に、それが依拠する法状況、手続類型、要件などに注目して検討してきた。

 そこでは、行政行為を前提とする行政執行手続を原則として行政執行を慎 重に実施することを志向しつつも、略式執行や即時強制といった簡略な手続

(19)

を設けることで、多様な行政実務の状況に応じている。また、行政執行の要 件についてみると、基礎処分の不可争力発生後の執行を行う一方、公益また は関係人の利益のために停止効果が排除され迅速な執行がなされ得る。もっ とも、後者の場合においては、裁判所に停止効果の回復を申し立てなどによ り行政執行を基礎付ける「公益」について裁判所の関与が期待できる。ま た、行政執行の中止の申し立てをすることが可能であり、行政執行に対する 実効的権利保護という観点から執行の消極要件・執行障害と併せて検討する 必要性が高い(97)

 このようにドイツ行政執行法制は、執行手続類型という点でも、執行の要 件という点でも、実効性を確保する一方、相手方の権利保護や執行の慎重性 に配慮する構造となっている。ただし、即時の執行命令が発せられる場合な ど不可争力発生前の行政執行については、その迅速性という性格から権利保 護との関係で問題を孕んでいることを示唆した。

 そこで、次章では、不可争力発生前の行政執行を中心に、これに伴う権利 保護の問題とそれに対してドイツ法がどのように対処しているかについて検 討を行う。

第 3 章 ドイツにおける行政執行と権利救済

 第 1 節 仮の救済と基礎処分の即時の執行に伴う問題  ⑴仮の救済

 第 2 章第 3 節において検討したように、行政執行に対する権利保護として まず挙げられるのが仮の救済である。これには、基礎処分に対する争訟の提 起に伴い生ずる停止効果の付与がある。また、停止効果が排除される場合及 び即時の執行命令が発せられる場合にも、行政庁または異議審査請求庁に対 する執行中止の申立や裁判所による停止効果の命令または回復などによる権 利救済が存在することは既にみた。したがって、行政執行に対する救済とし ては仮の救済で一見足りるようにみえる。

(20)

 しかし、仮の救済は、警察法領域などにおいて危険予防の要請が高まる場 合には有効な救済手段ではない。警察法領域において措置が執行される場 合、基礎処分が発付されるとその後即座に執行が行われることから相手方が 執行の中止や停止効果の回復などの申立を行う余地がほとんど残されていな

(98)い

。また、この場合には即時の執行により原状回復困難な状態が形成され る。その結果、基礎処分が不可争力の発生を待たずに(即時の執行)強制手 段によって執行されるとその処分は決着してしまう(erledigt(99))。そして、

基礎処分が決着した後には停止効果の回復などを申立てることはもはや不可 能になるとされているのである(100)

 したがって、不可争力発生前で、訴えの提起前に基礎処分が執行され決着 すると仮の救済は相手方の権利保護手段として必ずしも有効ではない(101)。  ⑵争点 不可争力発生前の行政執行に係る問題状況

 以上に示したように基礎処分が執行により決着した場合、基礎処分に係る 停止効果の回復などの仮の救済による救済を得られないという意味で権利保 護の欠缺が存在する。また、この場合、基礎処分に対する異議請求や取消訴 訟も権利保護の必要性がない(訴えの利益がない)として不適法とされる(102)。  このように基礎処分の不可争力発生前で、訴えの提起前に行政執行の目的 が実現される(基礎処分が「決着」する)場合(103)にはもはや基礎処分の違法性 に対して異議を提起することができない。したがって、不可争力発生前の行 政執行は、違法な基礎処分が執行されるというリスクを常に伴っているので ある(104)

 そこで次節以下ではドイツ法がこの違法な基礎処分の執行に対して仮の救 済以外でどのように対処しているのかについて、(行政訴訟、行政手続の)

制度及び解釈論の検討を行い(105)、基礎処分の即時の執行命令の発動により高め られた公益の追求と行政訴訟制度等による行政執行に対する実効的権利保障 との均衡を図る行政執行制度の構造を明らかにする。

(21)

 第 2 節 違法性関連による救済  ⑴違法性関連の意義

 違法な基礎処分の執行に対する対処手法としてまず第一に挙げられるの が、「違法性関連(Rechtswidrigkeitszusammenhang(106))」や「牽連性原則

(Konnexitätgrundsatz(107))」などと言われる解釈論(以下、「違法性関連」と 言う)である。これは、行政執行の要件として基礎処分の有効性のみならず

(取消可能な瑕疵すら帯びていないという意味での)適法性までが要求され るか、あるいは執行手続段階や執行措置に対する争訟の中で基礎処分の違法 性が考慮され得るかという議論であり、ドイツ行政執行法の中心的論点であ る(違法性の承継に類似する問題(108))。

⑵関連法制における違法性関連

 この点について、まず、行政実体法と執行法の分離により違法性関連を否 定している関連法制度がある。例えば、「執行される行政行為に対する異議 は、執行手続外において、当該行政行為に対して許容された法的救済手段に よって追求され得る。」と定める租税通則法(Abgabenordnung)256条を 挙げることができる。同条により執行手続における租税賦課処分に対する異 議が排除されているため、執行行政庁は租税賦課処分の適法性等について審 査する必要はないとされる。

 そして、このことが州の行政執行法についても妥当するとした裁判例(109)が存 在することや、「執行すべき請求権に係る執行に対する異議については、命 令行政庁が判断する。」と定めるバイエルン行政送達法21条、「請求権自体に 係る異議は、行政行為を発した行政庁において主張され得る。この異議は、

根拠とする理由が行政行為の発付後に生じたこと及び取消によってもはや主 張し得ない場合にのみ認められる。」とするラインラント・プァルツ州行政 執行法16条 2 項など複数の州行政執行法の存在に鑑みると 一般化できるか どうかはともかく(110) 関連法制度は実体行政法と執行法とを分離している(111)。  ⑶不可争力発生後の行政執行における違法性関連

(22)

 次に、不可争力の発生後の場合についてみると、現在のドイツ行政法学は 法的安定性の原則及び有効な法執行原則の優先を理由に(112)その処分が無効であ るか特別な規定(113)が存在する場合を除いて違法性関連を認めない点で一致して いる(114)

 連邦行政裁判所判例の中にも不可争力発生後の違法性関連を否定する例 がある。連邦行政裁判所1984年 4 月13日判決(115)は、建築上の欠陥を除去する ために実施された代執行に要した費用に係る決定が争われていたところ、

代執行の戒告と確定に不可争力が生じた事案である。同判決は「作為の実 施に向けられた行政行為、代執行の戒告及びその確定が適法であるかどう かは、それらが無効ではない、または、取消し得ない場合には問題となら ない。行政執行法の根本原則 (Tragender Grundsatz der Verwaltungs- Vollstreckungsrechts)は…先行する行政行為の有効性が後続行為、最終的 には強制手段の適用の要件であり、適法性はそれらの要件ではないというこ

とである(116)。」と判示した。このように、判例においても基礎処分の不可争力

発生後においては、基礎処分と行政執行の法的関連性は否定されている(117)。  このように、関連法制度及び不可争力発生後についてみると、基礎処分

(行政実体法)と行政執行(執行法)との法的関連性は否定的に解されてい ると言い得る。これは、不可争力の発生後は、法的安定性が確保されなけれ ばならないからであるとされている(118)。なお、この場合でも、行政手続の再開 や執行中止などによる救済が認められており、行政執行に対する継続的権利 救済が図られており、違法性関連について問題となるのは不可争力の発生前 についてである。したがって、以下、不可争力発生前における違法性関連の 問題をみていく。

 ⑷不可争力発生前の行政執行における違法性関連

 基礎処分に不可争力が生じる前で、訴えの提起前の行政執行の実施により 当該処分が決着すると権利救済の必要性がないとして仮の救済はおろか取消 訴訟等も認められなくなるという点で権利救済の欠缺が顕著である不可争力

(23)

発生前の行政執行についてみていく。

 このような場合においても連邦憲法裁判所及び連邦行政裁判所、ひいては 州行政裁判所裁判例は違法性関連を否定的に解している。

 違法性関連を否定した例としてよく引き合いに出される連邦憲法裁判所 1998年12月 7 日判決(119)は、退去命令に応じなかったデモ隊に対する放水車によ る強制退去(直接強制)の違法性が争われた事案である。同判決は、「放水 車の導入という形態で行われた直接強制の適用の適法性は、広場及び道路か ら退去することに向けられた基礎処分の適法性、とりわけ基本法 8 条との適 合性には依存しない。というのも、執行措置の適法性判断の際には基礎処分 の適法性は問題とならないからである。このことは判例及び学説の通説の見 解に完全に一致している(120)。」と判示した。

 連邦行政裁判所判決としては、土壌汚染調査の一環として行われて地下水 のボーリング調査の(即時の執行命令がなされた)代執行に要した費用請求 に係る決定が争われた連邦行政裁判所2008年 9 月25日判決(以下、「2008年 連邦行政裁判所判決」と言う(121))がある。この判決は、「作為に向けられた行 政行為は、それが不可争となるか、即時の執行が命じられるか、または法的 救済手段に停止効果が生じていない場合に強制手段によって貫徹される。適 法な執行の不可欠な基礎は有効性であって、基礎処分の適法性でない…。バ ーデン・ヴュルテンベルク州行政手続法43条 2 項によれば、行政行為が完結 していない限りその行為は有効である。行政行為の執行によって不可逆な事 実が形成されたとしても、作為義務を課す行政行為の執行は完結しない。む しろ、行政行為の決着が生じる場合とは、まず、当該行政行為に法的効果が 生じるのに適していない場合、または行政行為に本来的に内在している制御 機能(Steuerungsfunktion)が事後的に消滅した場合である。このことに 照らせば、2003年 3 月14日の秩序処分は、代執行によって執行される作為義 務を課す行政行為を前提としている。同時に、基礎処分は執行費用の基礎を なしている。基礎処分の名義機能は存続しているのである(122)。」と述べた。

(24)

 さらに、州行政裁判所の裁判例の中にも、不可争力発生前の行政執行が行 われた場合において違法性関連を否定する例が散見される。例えば、「有効 かつ即時執行可能であると宣言された基礎処分が存在する場合、強制金の確 定に対する異議の停止効果の命令に係る申立において、この基礎処分(及び 強制金の戒告)が適法であるかどうかについては審査され得ない。このこと は、適法な行政行為ではなく、執行可能な行政行為のみの存在を明確に要求 している行政執行法の文言から導き出される(123)。」と判示したバウツェン上級 行政裁判所1998年 5 月28日決定(124)や「即時執行可能な基礎処分に対する異議 は、当該即時執行可能な基礎処分に対する仮の権利保護手続の中でのみ提起 し得るのであり、強制手段の確定に対する権利保護手続においては提起し得 ない(125)。」と述べるカッセル行政裁判所1995年10月 4 日決定(126)などがある(127)。  以上の裁判例の概観からは不可争力発生前の行政執行についても基礎処分 と行政執行との法的関連性が否定されていることが分かる。

 ところで、2008年連邦行政裁判所判決は違法性関連を否定した一方、行政 執行による基礎処分の決着を否定することで当該処分に対する適法性審査を 可能にした。その結果、この基礎処分と行政執行との法的関連性を認めるの と同様の結論を導いた。そうすると、違法性関連を肯定しなくとも、違法な 基礎処分の執行に対して他の解決手法によって対処することができると考え られる。そこで、 違法な基礎処分の執行に対する他の解決手法をみていこう。

 第 3 節 費用徴収に係る費用決定に対する訴訟による救済

 違法な基礎処分の行政執行に対する救済として次に挙げられる手法が、行 政執行に要した費用を徴収するためになされる費用決定に対する訴訟であ る。

 費用決定は、基礎処分、戒告、確定、適用という行政執行過程の後に執行 に要した費用徴収のためになされる行政行為である。行政執行の終了後は、

基礎処分が発付されたり、執行手続が行われることはないため、費用決定の

(25)

みが行政執行に関連して唯一残された手続である。

 そして、複数の裁判例おいて行政執行終了後は基礎処分に対する訴訟に係 る訴えの利益がないとされることがあるため、費用決定に対する訴訟におい て基礎処分等の適法性審査を行うとするのがこの見解である。この方途は、

費用決定に対する争訟において基礎処分の適法性審査を認めるという意味で 行政執行の要件として基礎処分の適法性までを要求するものではないが、戒 告等の執行措置を飛び越えて基礎処分と費用決定との間に法的関連性を認め る。

 裁判例においてもこの解決手法を採用するものがある。バーデン・ヴュル テンベルク高等行政裁判所1986年 3 月20日判決(128)や同裁判所1988年 9 月 6 日判

(129)決

は、決着が生じた基礎処分は、形式的存続力(不可争力)を獲得すること はなく、その適法性は費用決定に係る訴訟において初めて審査される限り で、裁判所による統制は、執行される基礎処分の適法性にも拡大されるとし た。

 そして近年、連邦行政裁判所判決もこの解決手法を容認している。連邦行 政裁判所2014年 5 月 8 日判決(130)は、外国人法に基づく大使館への出頭命令(基 礎処分)に対する訴訟を提起せず、当該命令の執行に要した費用に係る費用 決定に対してのみ訴訟(継続確認訴訟)を提起した事案である。同判決は、

「行政行為は、争訟期間の経過中に執行により決着した。その結果、法治国 家性という原則から導かれる存続力という効力…は、費用請求の実施の枠組 みの中での付随審査とは矛盾し得ない。(争訟期間に拘束される)取消訴訟 は決着によりもはや許容されない(131)。」として、費用決定に対する訴訟におけ る基礎処分の適法性審査を認めた(132)

 警察法学において用いられている第一次段階と第二次段階という議論も、

上記と同様の解決手法である。前者は危険予防のために違法な措置の執行も 許容するという事前評価の観点(ex-ante-Sicht)、後者は適切な負担分担の 観点が重視される事後評価の観点(ex-post-Sicht)を言う。この議論は、

(26)

警察が基礎処分の適法性を誤ったにもかかわらず執行を行なった場合、この 違法な基礎処分に基づく行政執行による費用負担を回避することを目的とし ている(133)

 ただし、この解決手法には、基礎処分の決着を理由になぜその処分と行政 執行の結合が生じるのかという、実体法的観点からの批判が加えられてお り、この批判は第一次段階と第二次段階の議論についても妥当する(134)。  基礎処分と費用決定は、共に法的基礎及び効果が異なる。前者は行政実体 法を根拠に義務を課す行為であるのに対して、後者は行政執行に係る費用徴 収を目的とした行為である。それゆえに、基礎処分と費用決定との法的関連 性を否定する上述の批判はその限りでは妥当である。他方で、この解決手法 は、基礎処分の決着を理由にこの処分に対する取消訴訟が認められない場合 において、そのような決着による取消訴訟却下という権利保護の欠缺を埋め るという、実効的権利保護に配慮した見解であり(135)、行政執行の実効性とこれ に対する権利保護に柔軟に対応している(136)

 第 4 節 基礎処分の決着の否定による救済

 次に、基礎処分の決着を否定するという解決手法についてみる(137)。これは、

基礎処分の行政執行により生ずる決着を否定することで当該処分に対する適 法性審査を維持するという方法である。2008年連邦行政裁判所がこの方途を 採用して以降、同判決を引用する州行政裁判所裁判例もみられる(138)

 基礎処分は、執行等による義務の履行後はその法的効果はもはや存在しな くなる。それにもかかわらず、費用決定を防ぐ目的で、基礎処分の決着を否 定する(費用決定を理由に基礎処分に対する訴えの利益を認める)のがこの 見解である。確かに、この解決手法は費用決定を争いたい者に基礎処分の取 消訴訟を強要するという負担の大きな回り道を経由することになる。しか し、このような負担が生ずるのは、専ら実体法が行政執行の適法性を基礎処 分の適法性ではなく、その有効性に結びつけていることの結果であるから、

(27)

基本法にも適合的であるとして肯定的に評価する論者がいる(139)

 他方で、この解決手法に対してはいくつかの批判が提起されている。第一 に、訴えの利益を認める根拠としての費用決定が存在しない場合には有効な 解決手法ではないという批判である。この批判は、相手方が執行に要した費 用を支払う資力がないことなどを理由に行政庁が費用決定がなされなけれ ば、基礎処分に対する訴えは却下されるとして、この解決手法の問題点を指

摘する(140)。第二に、基礎処分の決着を否定する法解釈の根拠がないという批判

である。すなわち、2008年連邦行政裁判所判決が基礎処分の名義は費用決定 にまで拡大されるとしたことに対して、そのような解釈の実定法的根拠が存 在しないし(141)、請求権と同時に強制執行費用を請求できるとする民事訴訟法 788条 1 項のような規定も存在しない(142)という批判が加えられている。

 この解決手法は、違法性関連を否定する代わりに決着を否定して基礎処分 に対する訴訟を維持するという点で、行政実体法と執行法の分離に忠実であ る。ただし、費用決定の存在が取消訴訟を認める根拠になっているため、そ の決定がなされない場合には難点が残る。さらに、2014年連邦行政裁判所判 決と2008年連邦行政裁判所判決との関係も問題となるところであり、どの解 決手法によるかは依然として定まっていない(143)

 第 5 節 継続確認訴訟による救済

 継続確認訴訟とは、行政行為等が決着した場合で、かつ当該行為の違法確 認をする正当な利益が存在する場合に認められる訴訟である(144)

 基礎処分と行政執行との違法性関連について近年包括的に検討しているシ ュヴァイケルトは、基礎処分の形式的存続力と並んでこの処分に認められる 特殊な効力としての拘束力を排除する必要性から、基礎処分に対する継続確 認訴訟による解決手法を提示する(145)。この見解によると、基礎処分に決着が生 じると取消訴訟ではなく継続確認訴訟が妥当し、この訴訟において、基礎処 分の違法確認がなされることで、当該処分に後続する執行措置、ひいては費

(28)

用決定も違法となる(146)

 もっとも、継続確認訴訟の判決は、基礎処分の違法性の確認に過ぎないか ら、その処分の取消を導かず、したがって、なお有効に存在している処分に 基づいて執行措置などを適法に実施することができる、とする批判が加えら れており(147)、この救済手法の有効性は依然として未知数である(148)

 第 6 節 小括 行政執行制度と司法関与

 以上の検討の結果、ドイツ行政執行法制は、停止効果の排除や即時の執行 により高められた公益実現を目的として迅速な行政執行を認める一方、行政 手続、仮の救済、行政訴訟制度、解釈論などの多様な手法により違法な基礎 処分の執行に柔軟に対処するシステムを構築していることが明らかとなっ た。

 このような行政執行に対する多様な権利救済手法の関係については、次の ように考えることができよう。仮の救済段階では、行政庁による執行の中止 及び裁判所による執行の取消しが重要である。これは、即時の執行によって 生じる基礎処分の決着による権利救済の欠缺を防ぐ意味で重要である一方、

処分の決着後は有効な権利救済手法ではない(149)

 そこで、仮の救済に伴う問題を次のような手法によって補完している。第 一に、費用決定を中心とする権利救済手法についてみると、費用決定を根拠 として基礎処分の決着を否定する(基礎処分に対する訴え利益を認める)手 法と費用決定に係る争訟において基礎処分の適法性を審査する手法(基礎処 分と費用決定との法的関連性を肯定)とがある。前者については、執行の終 了によって基礎処分に対する訴えの利益が消滅することに対抗し得る手段と して有効である一方、基礎処分の違法性はこの処分に係る手続で争うという いわば排他性の現れ(150)と考えることができる。後者は、基礎処分の執行により 実現した状態を覆すことが反公益的である場合、基礎処分の違法性に基づい て費用負担を免除するという点で公益追求と(費用負担の免除であるが)権

(29)

利救済に配慮した手法であり、前者の解決手法ほど強固に排他性を及ぼすの ではなく柔軟に権利保護に配慮する方法である。

 次に、継続確認訴訟による解決手法については、これを認めるための訴訟 要件である「正当な利益」の根拠が費用負担の免除であるならば、基礎処分 の決着を否定する手法と同様の手法であると言い得る。しかし、これらの解 決手法は、いずれも費用決定を根拠としており、この決定がなければ訴えは 却下されるなどの場合には、権利救済手法として多くを期待することはでき ない(151)

 そして、仮の救済が有効ではなく、それを補う他の権利救済手法も有効で ない場合において、違法性関連による救済が最も意味を持つと考えることが

できよう(152)。こうして、ドイツ行政執行法制は、迅速な行政執行を可能にする

一方、それによって生じる違法な基礎処分の執行というリスクが生じ得る場 合があることに鑑み、こうした状況に応じた多様な権利救済手法(153)を構築する ことにより、行政執行過程全体を通じて適宜司法の関与を認め、行政執行に 対する権利保護のシステムを構築しているのである(154)

終 章 行政執行に対する権利保護と行政執行法制の     あり方

 第 1 節 日本法の評価

 前章までの結論は、日本法の問題点が、行政訴訟法制上、執行不停止原則 が採用されていることに加え、義務賦課処分の執行後の訴えの利益の否定及 び当該処分と執行措置、費用決定のいずれについても違法性の承継が否定さ れていることによって生じる権利保護の欠缺にある。ドイツ法は、執行停止 原則により争訟の提起に伴い行政執行は中止され得るが、即時の執行等が行 われると、日本法と同様、仮の救済はおろか、取消訴訟等が許容されなくな るという問題が生じている。

 他方で、この問題に対してドイツ法では、多少の批判はあるものの、違法

参照

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