家計の金融リテラシーと情報接触に関する考察
著者 阿萬 弘行
雑誌名 商学論究
巻 69
号 1
ページ 135‑159
発行年 2021‑07‑10
URL http://hdl.handle.net/10236/00029778
情報接触に関する考察
阿 萬 弘 行
要 旨
本稿は、金融リテラシー調査(金融広報中央委員会)と独自調査による アンケートをもとにして、家計の金融リテラシーと情報接触の関係を分析 した。主な結果として、第一に、金融情報への接触頻度が高い場合、リテ ラシーも高い傾向があった。第二に、個別の情報源利用の有無は、その情 報接触チャネルに応じて、リテラシーとの相関関係に相違があった。マス メディアやインターネット情報源については、金融リテラシーとの強い正 の相関関係が見られた。対照的に、家族・友人などの身近な人からの情報 とリテラシーでは、その正の相関は小さいか、または、負の相関のケース もあった。第三に、情報源の信頼性の効果については、情報源利用の有無 とは異なる結果が一部に観察された。
キーワード:金融リテラシー(financial literacy)、情報接触(information
access)、情報信頼性(information reliability)、マスメディア
(mass media)、フ ァ イ ナ ン シ ャ ル ア ド バ イ ス(financial advice)
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はじめに家計の健全で安定した経済生活をサポートし、また、退職後・老後の生活 を安心なものとするために、自己責任にもとづく資産運用へのニーズが高 まっている。たとえば、確定拠出年金制度の拡充や少額投資非課税制度の導 入は、政策面から自助努力による資産運用を後押しするものである。家計の 資産運用の望ましい行動を考えるとき、金融リテラシーのあり方は、実務的
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にも、また、学術的な面からも、最も重要視される要素の一つである。単に 安全性を重視した銀行預金だけでなく、株式・債券・投資信託などの複雑な 金融商品の資産運用には、リスクや収益率の概念など最低限の金融知識、さ らに進むと、具体的な金融商品特性の理解が必要である。近年では、個人向 け金融サービスの商品開発も活発であり、多様性のある商品群を比較検討す るためにも、相応の金融リテラシーが必要である。通常の財・サービスの消 費に関しては、消費者個人の興味関心が情報収集への情動的な誘因となって 働くため、知識水準が判断・選択での障壁となることは、金融商品と比較す れば少ないと考えられる。つまり、ごく自然な形で、個人の興味関心が、消 費者を通常の財・サービスの情報収集に向かわせるケースも相対的に多いと 思われる。しかしながら、金融商品の場合、消費ではなく、投資という性格 上、情報面のハードルは高い。資産運用のための投資費用、労力、時間コス トの投入に対して、その成果である運用利益享受のタイミングは長期的な将 来時点であり、また、不確実性・リスクも便益の実感を曖昧とさせる。その ため、金融知識獲得への誘因は過小なものとなる懸念がある。
金融リテラシーの定義は、最も国際的に認知されているものとして、
OECD/INFE
(2012)、Atkinson and Messy(2012)に即して要約すると、健 全な資産運用を実現するために必要となる、認知・知識・スキル・態度・行 動といった複数の要素を含んでいる。日本においても、これに準じて、金融 経済教育研究会(2013)が、知識面だけでなく、判断能力・家計管理・生活 習慣などの行動面を幅広く含むリテラシーの重要性を強調している。類似し て、Lusardi and Mitchell(2014)は、適切に情報を処理し、各種の資産運用 の意思決定を情報に基づいて行う能力として定義している。Hastingset al.(2013)は、金融リテラシー全体を、金融商品の知識、金融概念の知識、数 理計算能力、特定の活動に分類している。要するに、知識の習得、それをも とにした具体的な応用・判断力、そして最終的には実際の資産運用の行動面 につながる体系が、広義の求められる理想的な金融リテラシー像である。
本稿の主目的は、資産運用に伴う情報獲得の問題を念頭に、家計の情報接
触がどのように金融リテラシーに影響を与えているかについて考察すること である。幅広く定義される金融リテラシーの体系の中でも、特に、知識面に 焦点を絞った分析を行う。既存の金融リテラシー研究では、教育面から、学 歴や教育プログラムが金融知識・金融情報獲得へ与える効果研究が進展して いる(Hastingset al.
2013, Lusardi and Mitchell 2014)。本稿では、学校での
受講経験や各種プログラムの効果ではなく、人々が日常的に接触する金融・経済情報の頻度やその情報形態と金融リテラシーの相関関係を検証する。
情報接触と金融リテラシーの相関関係には、双方向の因果関係が理論的に 想定できる。情報接触が金融リテラシーへ与える効果として、日々の金融情 報への接触が知識蓄積につながることにより、金融リテラシーが高まるかも しれない。逆の方向性、つまり、金融リテラシーが情報接触に与える効果と して、金融知識が豊富になるほど、金融情報の理解力・応用力が高まるため、
積極的に情報収集の機会を利用するかもしれない。今回利用したアンケート 調査では、どちらの因果関係が強いかどうかについては厳密にテストするこ とは困難であるため、相互の相関関係の有無・程度を検証する。
具体的には、情報接触の量的側面と質的側面の双方の効果をアンケートに よって分析する。量的側面としては、日常的に家計が接している金融・経済 情報の頻度を尋ねている。情報接触量と金融リテラシーには正の相関関係が 予想される。たとえば、習慣的に金融・経済ニュースを視聴する人たちは、
その日々の経験を通じて、金融リテラシーが形成されるかもしれない。ある いは、逆の因果関係ならば、高い金融リテラシーを備えている人は、資産運 用のために積極的に日々のニュースをチェックするかもしれない。
質的側面として、情報接触チャネルを分析する。一つ目に、個人が自律的 に情報収集する媒体として、伝統的なマスメディア形態(新聞・テレビ・ラ ジオ・雑誌)との相関が強いのかどうかテストする。二つ目に、近年発展著 しいインターネット形態(ニュースサイト、SNS、動画サイトなど)が効果 をもっているのかどうか分析する。三つ目に、個人が相談・アドバイスなど 双方向のコミュニケーションを通じて情報を得る経路として、金融機関窓
口・ファイナンシャルアドバイザーなどの効果を検証する。四つ目に、より ソフトな情報接触形態として、身近な人との情報交換も分析に含める。マス メディアや金融機関は金融情報を専門的・職業的に提供する極めてフォーマ ルな情報接触チャネルであるが、家庭・友人関係は、インフォーマルな形で、
情報源・情報コミュニケーション相手としての役割を果たすかもしれない。
家族・友人からの情報やアドバイスは、マスメディア・金融機関と比較する と、専門性を欠き、情報の正確性は劣るかもしれない。他方で、物理的・心 理的距離から見ればマスメディア・金融機関よりも、家族・友人関係は非常 に近いため、利用可能性・信頼性が高いかもしれない。そのため、家族・友 人からの情報は、金融リテラシー形成に資する可能性がある。反対に、情報 の専門性・信憑性の乏しさから、金融リテラシーが高い人は、あえて家族・
友人からの情報利用を控える可能性もある。
次に、金融リテラシーと情報収集、家計の資産運用に関わる国内外の先行 研究を整理しておく。金融機関やファイナンシャルアドバイザーなどからの 投資助言の効果を分析した研究は近年注目を集めている。専門家による助言 は、専門的知識に乏しい家計にとっては、追加的に有益な情報源となること で、望ましい資産運用に資するメリットがある。また他方では、助言する主 体と顧客の間での利益相反がある場合には、むしろ、家計の資産運用にとっ てはデメリットもありうる。
海外での研究から見ていくと、van Rooijet al.(2011)は、オランダのデー タを用いて、金融リテラシーが高い場合、株式市場参加の程度が高まること を示している。また、その中で、情報源についても分析しており、リテラシー が低い人の顕著な特徴として、両親・友人・知人からの情報を重要視する傾 向がある。他方で、リテラシーが高い人は、新聞・雑誌やファイナンシャル アドバイザーからの情報を重要視している。また、Andersonet al.(2017)
は、SNSサービスの
誤った投資判断や専門家のアドバイスを避ける傾向とも相関している。Von
Gaudecker
(2015)は、オランダでの家計のポートフォリオデータを用いてリターン損失を計測した。その中で、自分自身の判断よりも専門家の助言を 重視する人は、損失が少ない傾向にあり、外部の情報・アドバイスの有用性 を示唆している。Hackethal et al.(2012)は、ドイツのデータを用いてアド バイザーの効果を分析している。それによると、助言のある口座のほうが、
助言の無い自己判断の口座よりも、リターンが低くなっており、その要因の 一つが取引コストである。また興味深いことに、同じアドバイス業務の中で も、銀行のアドバイスは、独立ファイナンシャルアドバイザーよりも、リ ターンの劣化に結び付いており、銀行アドバイスのインセンティブ構造の問 題点を示唆している。Calcagno and Monticone(2015)は、情報の非対称性 と情報提供主体のインセンティブを考慮したモデルにもとづいた実証分析を 行っている。その分析では、金融リテラシーが低い投資家には、金融アドバ イスが提供されにくいという結果を発見している。
経済メディアや金融機関などのフォーマルな情報源だけでなく、よりソフ トな形態として、家族・友人関係の金融リテラシーや資産運用への効果も先 行研究では分析されている。Hanson and Olson(2018)は、家庭内での会話 などのコミュニケーションが密なことが、高い金融リテラシーと相関するこ とを発見している。Honget al.(2004)は、社会的な相互コミュニケーショ ンを近隣住民との関係の強さで測定し、それが資産運用に及ぼすポジティブ な効果を発見している。
日本の家計を対象として、情報源の効果や投資アドバイスの効果を分析し た研究もなされている。野方・竹村(2017)は、情報源とリスク資産保有の 関係を分析している。その結果では、証券会社の推薦やアナリスト情報を利 用している個人投資家は、より積極的にリスク資産への投資を行っている。
他方で、知人からの情報は、リスク資産保有を低下させる傾向がある。顔ほ か(2019)では、家計の情報源とリスク資産運用の関係を分析している。そ の結果によると、専門家からの助言を受けている人は、投資信託を購入しや
すく、身近な人からのインフォーマルな情報を利用する人は、リスク資産に 投資しない傾向がある。認知された投資リターンも、専門家の助言があると 高まる傾向がある。Kadoya and Khan(2020)は、金融広報中央委員会の金 融リテラシー調査2016を用いている。マスメディア等からの情報取得意欲が 高い人は、リテラシーが高く、適切な金融行動をとり、金融に対するポジ ティブな態度を示している。Fujiki(2020b)は、金融広報中央委員会の金融 リテラシー調査2019を用いている。その結果によると、暗号通貨(仮想通貨)
の保有者は、非保有者と比較して、頻繁にマスメディア等の情報に接触して いる。Fujiki(2020a)は、金融広報中央委員会による家計の金融行動に関す る調査を用いて、望ましい金融知識の情報源(金融機関・専門家・家庭・友 人など)と実際に使用する情報源にはギャップがあり、それは金融知識、学 歴などと相関していることを発見している。
本稿の学術的な貢献・特徴は、以下の三点に要約できる。第一に、金融リ テラシーに相関する要因分析にあたって、既存の金融広報中央委員会による 金融リテラシー調査と本稿独自のアンケート調査から、二つの異なるデータ セットを用いて比較することで、結果の頑健性・相違点を分析できる。第二 に、独自調査においては、マスメディアやインターネットなどの大きな情報 源区分を、より詳細な区分に分割することで、どのような情報媒体が重要か を明確に識別できる。たとえば、マスメディアの中には、新聞・テレビ・ラ ジオ・雑誌といった異なる情報媒体形式が含まれる。インターネットも、
ニュースサイト情報・ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)・ネッ ト掲示板など異なる形式がある。金融リテラシーとの関係性が、どの媒体形 式において強いかを定量的に明らかにする。第三に、単に特定の情報源を利 用しているかという情報接触形態の分析だけでなく、その情報源への信頼性 の効果も分析に加味している。日々の情報源として接している媒体であって も、質的な意味での信頼性が乏しい場合、金融リテラシー形成への効果は小 さいかもしれない。実際に、分析結果からは、単純な情報接触の分析とは異 なるパターンも観察されている。
本稿の構成は、以下の第2節では、まず、利用した二つのアンケート調査 の概要を説明する。次いで、金融リテラシーの計測方法、回答者の情報接触 形態の概要を解説する。そして、金融リテラシーと情報接触の関係について、
各アンケート調査からの分析結果の相違を比較して提示する。第3節では、
得られた結論を要約する。
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アンケート調査の定量分析Ⅱ.1 アンケート調査の概要
本稿では以下の二つのアンケートを用いて分析を行った。一つ目は、金融 広報中央委員会による「金融リテラシー調査 2019」である。これは、2019 年3月1日から3月20日に、全国の25000人(18歳~79歳)を対象として実 施された。また、この調査は、日本の人口構成を近似しており、金融リテラ シーに関しては、日本での最大規模アンケート調査の一つである。その質問 項目は多岐にわたるが、本稿では家計の情報接触に焦点を絞って分析を行う。
これ以降は、簡略化のため、このアンケート調査名を「金融リテラシー調査」
と表記する1)。
二つ目に、独自のアンケート調査も実施し、金融リテラシーと情報接触の 相関関係を分析する。この調査は、筆者を含む共同プロジェクトの一環とし て実施された。ウェブ上で一般的な回答者を対象として、アンケートをマイ ボイスコム社に依頼した。期間は、2020年12月23日から2020年12月28日まで で実施した。回答者が全国の男女比・年齢層・都道府県分布と近似するよう に設計されており、対象は3001人である。金融リテラシー調査よりもサンプ ルサイズは小さくなるが、情報接触関係について、より詳細な質問項目を設 定している。これ以降は、このアンケート調査名を「独自調査」と呼ぶ。
金融リテラシー調査から、以下の項目を金融リテラシー指標として用いる。
括弧内は元々の調査票の質問番号である。具体的には、先行研究で最も頻繁 1) 詳細は、下記を参照。
<https://www.shiruporuto.jp/public/data/survey/literacy_chosa/2019/>
第 1 表 金融リテラシー質問の内容
項目 金融リテラシー調査 2019 独自調査 2020 複利計算 (Q18.100万円を年率2%の利息がつ
く預金口座に預け入れました。それ以 外、この口座への入金や出金がなかっ た場合……)
Q19.では、5年後には口座の残高は いくらになっているでしょうか。利息 にかかる税金は考慮しないでご回答く ださい。(1つだけ)
Q12.あなたは10,000円の普通預金があり、
利子率は年2%です。預金をそのままにし ておくと、5年後の残高はいくらになりま すか。
インフレ Q20.インフレ率が2%で、普通預金
口座であなたが受け取る利息が1%な ら、1年後にこの口座のお金を使って どれくらいの物を購入することができ ると思いますか。(1つだけ)
Q13.あなたの普通預金口座の金利が年1
%で、インフレ率(物価上昇率)が年2%
であるとします。1年後に、あなたはこの 口座のお金でどれだけのものを買うことが できますか。
分散投資 Q21_4.1社の株を買うことは、通常、
株式投資信託(※)を買うよりも安全 な投資である※何社かの株式に投資す る金融商品
Q15.資産を一つの企業にまとめて投資す るより、複数の企業に分散して投資したほ うが安全な収益が得られる。この文章は正 しいですか、間違っていますか。
リスク Q21_3.平均以上の高いリターンのあ
る投資には、平均以上の高いリスクが あるものだ
Q18.高い収益が見込める投資は、大きな リスクを抱えていることが多い。この文章 は正しいですか、間違っていますか。
住宅ローン Q21_2.住宅ローンを組む場合、返済 期間が15年の場合と30年の場合を比較 すると、通常、15年の方が月々の支払 い額は多くなるが、支払う金利の総額 は少なくなる
Q14.住宅借入において、15年ローンは30 年ローンに比べると月々の支払は多いが、
返済期間中の総金利支払い額は少ない。こ の文章は正しいですか、間違っていますか。
債券 Q22.金利が上がったら、通常、債券
価格はどうなるでしょうか。(1つだ け)
流動性 Q17.金融資産を急いで売ろうとすると、
値段が下がる傾向があります。この下がり 方は、不動産と国債で比較すると、どちら が大きいでしょうか。
外国為替 Q16.為替レートが円高になると、外国通
貨建てで保有する金融資産の円建ての価値 はどうなるでしょうか。
「金融リテラシー調査 2019」は、金融広報中央委員会によって実施された。質問形式には、多 肢選択式、正誤判断式が含まれる。詳細は以下HPを参照。
<https://www.shiruporuto.jp/public/data/survey/literacy_chosa/2019/>
「独自調査 2020」は、筆者を含む研究プロジェクトの一環として実施された。
に使われる、複利計算(Q19)、インフレーション(Q20)、分散投資(Q21_4)
の主要三質問を用いる(Lusardi and Mitchell 2014)2)。これに加えて、リス ク(Q21_3)、住宅ローン(Q21_2)、債券(Q22)を加えて六つを用いた。金 融リテラシー調査では保険分野など含む多数の質問項目があるが、本稿では、
基礎的な金融知識のみを採用している。独自調査の金融リテラシーでは、主 要三質問の複利計算(Q12)、インフレーション(Q13)、分散投資(Q15)に、
リスク(Q18)、住宅ローン(Q14)、流動性(Q17)、外国為替(Q16)を加え て、七つの質問項目を用いた。これらの質問は、金融リテラシーの中でも、
ファイナンスの理解にとって重要かつ基盤となる概念を問うものであり、金 融商品の個別具体的な知識を問うものではない。金融リテラシーの体系的な
2)Lusardi and Mitchell(2014)は、リテラシーを測る質問が備えるべき性質として、単
純性(simplicity)、妥当性(relevance)、簡潔性(brevity)、差異化性(capacity to differ- entiate)の四つを挙げ、主要三質問はこれらを満たすとしている。
第 2 表 金融リテラシー計測結果
金融リテラシー調査 2019 独自調査 2020
平均値 標準偏差 平均値 標準偏差
複利計算 0.436 0.496 0.637 0.481 インフレーション 0.551 0.497 0.610 0.488 分散投資 0.473 0.499 0.633 0.482 リスク 0.767 0.423 0.694 0.461 住宅ローン 0.703 0.457 0.628 0.483
債券 0.238 0.426
外国為替 0.499 0.500
流動性 0.353 0.478
金融リテラシー(3問) 0.487 0.374 0.627 0.382 金融リテラシー(6問) 0.528 0.308
金融リテラシー(7問) 0.579 0.337
「金融リテラシー調査(2019年)」(金融広報中央員会)および「独自調査(2020年)」(筆者 を含む研究プロジェクト)をもとに作成。回答者の金融リテラシーは、質問に正解の場合 は1、不正解・わからない場合は0となるように設定。
知識は、基礎的な概念理解の上に成り立つものであるから、これらの基礎的 クイズの正解率は、金融リテラシー全体の代理変数としても捉えることがで きる。実際の質問文言は第 1 表に掲載している。
各調査からの金融リテラシーの正解率は第2表に掲載している。これによ ると、金融リテラシー調査について、最も正解率が高いのはリスクに関する 質問であり、平均約77%である。反対に、最低の正解率は債券の質問であり、
平均約24%となっている。複利・インフレ・分散投資を平均化した主要三質 問、 6 問すべて含む正解率は、それぞれ、49%、53%であり、全体の約半分 となっている。独自調査での金融リテラシー質問の正解率は、全体としては おおよそ 6 割前後である。金融広報中央委員会の 5 割前後の正解率と比べる と、相対的に高い正解率となっている。具体的には、主要三質問では63%、
全 7 問では58%となっている。個々の質問項目ごとでは、リスク問題の正解 率が最も高く(69%)、最も難しい問題は、流動性(35%)となっており、
そのギャップは大きい。
第 3 表 情報接触チャネル(情報源):金融リテラシー調査 2019
番号 選択肢 頻度 %
1 金融機関の窓口での相談(販売員の説明) 5997 24.0 2 金融機関においてあるパンフレット 3982 15.9
3 講演会・セミナーへの参加 1550 6.2
4 専門家・アドバイザーへの相談 1367 5.5
5 マスメディア(テレビ・ラジオ番組、新聞・雑誌等) 3747 15.0
6 ウェブサイト 6692 26.8
7 家族・友人との会話(クチコミ) 3740 15.0 8 学校(社会人向けを含む)での授業・講義 378 1.5
9 その他の情報源 253 1.0
10 どこで知識・情報を取得すればいいかわからない 1219 4.9 11 金融商品を選択することはない 9483 37.9
「金融リテラシー調査(2019年)」(金融広報中央員会)をもとに作成。選択肢は三つまで選 択可。N=25000。
第 3 表は、金融リテラシー調査での、情報源ごとの人数・比率である。金 融リテラシー調査の質問文は『Q35あなたは、金融商品を選択する際の知 識・情報を主にどのような機会で得ていますか。金融商品とは、預金、有価 証券、保険などとします。( 3 つまで)』である。選択肢を見ると分かるよう に、マスメディア・ウェブサイトで得られるニュースから、金融機関窓口や アドバイザーとの相談・助言まで、一方的な情報接触と相互の情報コミュニ ケーションの双方を含んでいる。本稿では、これらの情報機会を総称して
「情報接触チャネル(情報源)」とする。最も多い情報接触チャネルは、ウェ ブサイトであり(26.8%)、次いで、金融機関窓口での相談(24.0%)となっ ている。マスメディアはこの中では中程度の比率を占めている(15.0%)。 講演会・セミナー、専門家・アドバイザー、学校は比較的少数である。
独自調査では、情報接触チャネル(情報源)を、情報接触機会全体ではな く、「①情報媒体利用」による金融情報・ニュース提供、「②相談・アドバイ ス」による情報コミュニケーションに分けて質問している。「情報媒体利用」
第 4 表 情報媒体利用と信頼性:独自調査 2020
情報媒体利用 情報信頼性
番号 選択肢 頻度 % 頻度 %
1 新聞 1620 54.0 910 30.3
2 テレビ 2268 75.6 895 29.8
3 ラジオ 711 23.7 63 2.1
4 ビジネス雑誌 381 12.7 62 2.1
5 インターネットニュースサイト 1962 65.4 450 15.0
6 SNS 716 23.9 84 2.8
7 動画配信サイト 547 18.2 53 1.8
8 インターネット掲示板 556 18.5 42 1.4 9 証券口座に付随した投資情報サービス 492 16.4 156 5.2
10 どれも見ない 286 9.5 286 9.5
「独自調査(2020年)」(筆者を含む研究プロジェクト)をもとに作成。情報媒体は複数選択 可、情報信頼性は一つだけ選択。N=3001。
の質問では、情報源からの一方的な情報収集を選択肢に含んでいる。金融リ テラシー調査よりも、選択数に制限がない点や内容の点で細かくなっており、
選択しやすいものとなっている。同時に、情報媒体の中での「信頼性」につ いても尋ねている。質問文は『Q52.⒜あなたが、日常的に経済や金融の ニュースを知る主な情報源に当てはまるものを選んでください。【複数選択 可】 ⒝また、この中で、最も信頼性が高いと考えるものを一つ選んでくだ さい。』である。質問作成の際には、総務省(2020)による情報メディア利 用のアンケート調査を部分的に参考にしている。集計結果の第 4 表左列を見 ると、回答者全体にとって最も多い情報媒体はテレビ(75.6%)であり、も う一つの伝統的マスメディアである新聞(54.0%)よりも比率が大きい。二 番目にネットニュースが位置している(65.4%)。インターネット情報源の うち、SNS、動画サイト、掲示板は、20%前後の中程度の比率となっている。
提示された情報媒体をまったく見ない人たちも一定割合存在している(9.5
%)。従来からの伝統的なマスメディア(新聞・テレビ・ラジオ・雑誌)で の大きな区分で計算すると、表には記載していないが、82.8%の人がマスメ ディアからの金融情報に接触している。インターネット全般(ネットニュー ス・SNS・動画サイト・掲示板)では、71.1%であり、伝統的マスメディア よりもやや小さな比率であり、金融リテラシー調査とは大小関係が反転して いる。
独自調査での情報信頼性に関する結果は第 4 表右列にまとめている。最も 信頼性が高かったのは、新聞とテレビがほぼ同率の30%程度である3)。情報 媒体利用としては、テレビを選択した人のほうが非常に多かったことを考慮 すると、伝統的マスメディアの中でも、新聞の情報信頼性の相対的な高さが うかがえる。つまり、テレビを情報源として利用している人は多いが、その 中でもテレビを最も信頼する割合は小さくなる。また、インターネット
3) 総務省(2020)(p. 99)の調査結果では、金融・経済に限定しない幅広い情報メディ ア利用対象という違いはあるが、同様に、新聞とテレビの信頼性はほぼ同等であり、
インターネットはその約半分である。
ニュースも情報媒体としては多数利用されていたが、その信頼性は15%と なっており、新聞・テレビの約半分で、情報利用割合と信頼性の乖離が顕著 である4)。
独自調査の相談・アドバイス質問は『Q53.⒜あなたが、日常的に資産運 用の相談をしたり、アドバイスを受ける相手を選んでください。【複数選択 可】 ⒝また、この中で、最も信頼性が高いと考えるものを一つ選んでくだ さい。』である。第 5 表左列を見ると、資産運用の相談・アドバイスの相手 としては、家族関係が最も多く、約三割の回答者が選択している(31.5%)。 次いで、友人・知人関係が多く選択されている(16.9%)。相談・アドバイ スには、相談相手との心理的・物理的距離の近さが、重要であることを示唆 している。銀行・証券・保険など含む金融機関、アドバイザーはそれに比べ ると小さな比率となっている。近年注目を浴びているロボアドバイザーは、
2 %程度の人たちが利用している。第 5 表右列の相談・アドバイスの情報信 4) ただし、回答形式上、情報媒体利用は複数選択可、信頼性は一つのみ選択という違い
があり、一定の比率の格差は必然的に生じる。
第 5 表 相談・アドバイスと信頼性:独自調査 2020
相談・アドバイス 情報信頼性
番号 選択肢 頻度 % 頻度 %
1 家族・親戚 946 31.5 732 24.4
2 友人・知人 508 16.9 125 4.2
3 勤務先の同僚 197 6.6 40 1.3
4 証券会社の職員・担当者 264 8.8 115 3.8 5 銀行の職員・担当者 282 9.4 121 4.0 6 保険会社の職員・担当者 141 4.7 15 0.5 7 ファイナンシャルプランナー・
ファイナンシャルアドバイザー 202 6.7 113 3.8 8 ロボアドバイザー(AI) 61 2.0 24 0.8 9 相談しない・アドバイス受けない 1716 57.2 1716 57.2
「独自調査(2020年)」(筆者を含む研究プロジェクト)をもとに作成。相談・アドバイスは 複数選択可、情報信頼性は一つだけ選択。N=3001。
頼性については、家族関係が極めて高い比率であり(24.4%)、友人・知人 関係を大きく引き離しており(4.2%)、相談・アドバイス利用の差よりも格 段にそのギャップは大きい。友人・知人とは資産運用について話はするが、
強く信頼しているのは家族であることを示している。この表から分かる大き な特徴の一つとして、まったく相談しない、アドバイスを受けない人が過半 数(57.2%)に達している。第 4 表では、情報を見ない人は全体の 1 割程度 であったことと比較すると、この数字はかなり大きな割合である。つまり、
金融情報に関して、一方的で単純な情報接触・情報収集は何らかの形でなさ れているが、双方向のコミュニケーションは相対的に普及していない傾向が 読み取れる。
Ⅱ.2 情報接触頻度と金融リテラシー
金融リテラシー調査の情報接触頻度の質問文は『Q53あなたは、新聞、
雑誌、テレビ、インターネットなどを通じて、金融・経済情報をどのくらい みていますか。( 1 つだけ)」である。第 6 表 は、金融リテラシー調査をも とにした、情報接触頻度ごとの金融リテラシー平均値である。全体的には、
情報接触頻度は、選択肢ごとに回答は集中せずに、分散している。頻度の選 択肢番号の平均値(「その他」を除く)は4.25、中央値は 5 である。したがっ て、平均的な回答者は、月一回よりやや多い頻度から週一回程度の頻度で情 報に接触している。大きな特徴として、情報接触頻度が高い場合、金融リテ ラシーも高くなる傾向がある。とくに、「まったく見ない」回答者の金融リ テラシー平均値は0.312であるのに対して、「ほぼ毎日」見る回答者の平均値 は0.643となっており、その格差は顕著である。このパターンは、金融情報 への接触が、実際に金融知識を高める傾向、または、金融知識が豊富な人は 頻繁に金融情報を収集する積極性を示している。
独自調査の情報接触頻度の質問文は『Q54.あなたは、現在、どのくらい の頻度で、経済や金融のニュースをチェックしていますか? 最も近いもの を選んでください。』である。第 6 表 に結果を示している。「ほぼ毎日」と
答えた人は、全体の約 3 割を占めており、「ほとんどチェックしない」と答 えた人も 3 割以上いる。金融リテラシー調査と類似して、頻繁な接触頻度に 高い金融リテラシーが対応したパターンを示している。ただし、金融知識の 正解率については、独自調査では、情報接触頻度間での相応の差は見られる が、金融リテラシー調査の結果よりもバラツキは小さい。「ほとんどチェッ クしない」人たちの平均正解率は0.419であり、「ほぼ毎日」チェックする人 たちは、0.687である。
第 6 表 情報接触頻度と金融リテラシー 金融リテラシー調査 2019
番号 選択肢 頻度 % リテラシー
( 6 問)平均
同左 標準偏差
1 その他 16 0.1% 0.615 0.217
2 まったくみない 4840 19.4% 0.312 0.278 3 下記より少ない頻度 4819 19.3% 0.470 0.281 4 月に 1 回程度 2402 9.6% 0.545 0.277 5 週に 1 回程度 4977 19.9% 0.602 0.272 6 ほぼ毎日 7946 31.8% 0.643 0.293
「金融リテラシー調査(2019年)」(金融広報中央員会)をもとに作成。金融リテラシーは6問 の平均正解率。N=25000。
独自調査 2020
番号 選択肢 頻度 % リテラシー
( 7 問)平均
同左 標準偏差 1 ほとんどチェックしない 1,028 34.3% 0.419 0.341 2 年に2,3回程度 104 3.5% 0.566 0.315 3 月に2,3回程度 337 11.2% 0.604 0.306 4 週に2,3回程度 610 20.3% 0.674 0.291 5 ほぼ毎日 922 30.7% 0.687 0.303
「独自調査(2020年)」(筆者を含む研究プロジェクト)をもとに作成。金融リテラシーは7問 の平均正解率。N=3001。
Ⅱ.3 情報接触チャネルと金融リテラシー
情報源の種類ごとに、その情報接触の有無でサブサンプルに分割し、両群 での金融リテラシー平均値の差異を
t
検定によってテストした。第 7 表では、金融リテラシー調査に関して、全般的に、各種の情報源を利用している場合 第 7 表 情報接触チャネル(情報源)と金融リテラシー:
金融リテラシー調査 2019
選択肢 平均値 t値 選択肢 平均値 t値 1.金融機関の窓口相談 7.家族・友人
1 0.624 1 0.593
0 0.498 0 0.517
差 0.126 28.07 *** 差 0.076 14.05 ***
2.金融機関パンフレット 8.学校の授業・講義
1 0.663 1 0.587
0 0.503 0 0.527
差 0.160 30.75 *** 差 0.060 3.75 ***
3.講演会・セミナー 9.その他の情報源
1 0.701 1 0.782
0 0.517 0 0.525
差 0.184 23.09 *** 差 0.256 13.24 4.専門家・アドバイザー 10.わからない
1 0.626 1 0.447
0 0.522 0 0.532
差 0.104 12.17 *** 差 !0.086 !9.49 ***
5.マスメディア 11.金融商品を選択することはない
1 0.726 1 0.362
0 0.493 0 0.630
差 0.233 44.40 *** 差 !0.268 !73.62 ***
6.ウェブサイト 1 0.697 0 0.466
差 0.230 55.56 ***
「金融リテラシー調査(2019年)」(金融広報中央員会)をもとに作成。正確な選択肢文 言は、第3表を参照。該当する選択肢を選んだ場合には1、そうでない場合には0を とる。金融リテラシーは6問の平均正解率。***1%水準で統計的に有意。N=25000。
に、金融リテラシーが高い傾向が見受けられる。特に、両群の差が大きいの は、マスメディアとウェブサイトのケースである。自分自身で情報検索・情 報収集する人たちは、金融リテラシーが身につく効果が特に大きいのかもし れない。あるいは、逆の因果関係として、金融リテラシーが高い人は、新聞・
テレビ等のマスメディアやインターネット検索を通じて、より積極的に独自 に情報収集を行うことで、金融商品選択に生かしている可能性も示唆される。
そして、金融機関窓口、パンフレット、講演会・セミナー、専門家・アドバ イザーのケースについて、両群の差は、マスメディア・ウェブサイトのケー スに次ぐ規模となっている。また、家族・友人、学校の授業のケースでは、
両群の差異は一層小さくなっている5)。
独自調査での情報利用形態と金融リテラシーの関係は第 8 表である。ここ では単純化のため、情報接触有り(=1)と無し(=0)の平均値の差と
t
値 のみを記載している。第 8 表左列を見ると、全体的に、何らかの情報媒体に 5) 紙幅の制約のため掲載していないが、単純な相関係数も別途計算し、両群の差の検定結果と類似することを確認している。
第 8 表 情報利用形態と金融リテラシー:独自調査 2020 情報媒体 差 t値 相談・アドバイス 差 t値 1 新聞 0.174 14.63 *** 1 家族・親戚 !0.010 !0.76 2 テレビ 0.172 12.30 *** 2 友人・知人 !0.010 !0.58 3 ラジオ 0.085 5.90 *** 3 勤務先同僚 !0.011 !0.45 4 ビジネス雑誌 0.176 9.65 *** 4 証券会社 0.169 7.87 ***
5 ネットニュース 0.202 16.27 *** 5 銀行 0.131 6.28 ***
6 SNS 0.014 1.00 6 保険会社 0.096 3.32 ***
7 動画配信サイト 0.059 3.70 *** 7 FP・FA 0.090 3.69 ***
8 ネット掲示板 0.107 6.84 *** 8 ロボアド 0.054 1.25 9 証券口座 0.253 15.87 *** 9 相談しない !0.036 !2.92 ***
10 どれも見ない !0.331 !16.50 ***
「独自調査(2020年)」(筆者を含む研究プロジェクト)をもとに作成。正確な選択肢文言 は第4表、第5表を参照。選択肢を選んだ人とそうでない人の金融リテラシー(7問)の 差とt値。*、**、***10%、5%、1%水準でそれぞれ統計的に有意。N=3001。
接触している場合には、金融リテラシーが高い傾向が観察される。これは、
第 7 表での金融リテラシー調査の結果と類似している。個々の情報媒体ごと の比較では、伝統的マスメディアの中でも、新聞、テレビ、雑誌に関して、
情報接触有無でのリテラシー格差が顕著である。インターネット情報源の中 では、インターネットニュースサイトへの情報接触効果が特に大きい。SNS、
動画配信サイト、ネット掲示板に対しては、情報接触有無による差異の規模 は相対的に小さい6)。独自調査での相談・アドバイス(第 8 表右列)につい ては、家族・友人・同僚を区分とした比較について、全体的にこれらの身近 な人に相談している人たちの金融リテラシーは低い。ただし、それらは統計 的に有意な差ではない。この弱い相関は、金融リテラシー調査の結果とも類 似している。身近な人との情報交換は金融リテラシー格差とは関係が希薄な ようである。対照的に、金融機関(証券、銀行、保険)や専門家(FP・FA)
との相談やアドバイスについては、それらを利用している人たちの金融リテ ラシーは高い傾向がある。
Ⅱ.4 情報信頼性と金融リテラシー
独自調査では、情報接触の有無だけでなく、その信頼性についても質問し ているため、これを用いて、情報信頼性と金融リテラシーの相関関係を分析 した(第 9 表)。当該の情報媒体を最も信頼している群(高い信頼性・信頼 性あり)とそうではない群(低い信頼性・信頼性なし)に分割して、両群の 差を検定している。全体的に、第 8 表での情報利用形態(その情報を利用し たかどうか)での比較とは異なったパターン、つまり、情報信頼性と金融リ テラシーの負の相関関係が多々見受けられる。情報媒体への信頼性と金融リ テラシーの関係(第 9 表左列)を見ると、伝統的マスメディアでは、新聞お よびビジネス雑誌を最も信頼している人たちの金融リテラシーは高く、そう
6) 証券口座付随の投資情報を利用している人の金融リテラシーは顕著に高い傾向もある。
ただし、この選択肢は、証券口座を既に保有している経験者に限定されるため、本稿 での分析では例外的に扱い、結果の解釈の対象からは外している。
ではない人たちとの差は顕著である。活字情報メディアを信用して読んでい る人たちは、金融リテラシーが高い傾向がある。または、金融リテラシーが 高い人たちは、様々な情報収集手段の中でも活字情報メディアを特に信頼し ている。反対に、テレビの信頼性と金融リテラシーには負の相関関係が見ら れるのは興味深い。つまり、テレビを最も信頼している人たちの金融リテラ シー水準は有意に低い。テレビによる情報収集は金融リテラシー形成にとっ てはネガティブな効果をもっているかもしれない。もう一つの解釈として、
金融リテラシーが高い人は、テレビを金融情報源として信頼していないのか もしれない。ただし、テレビでの負の相関関係の規模は比較的小さい。イン ターネット情報源に関しては、インターネットニュースサイトへの信頼性の 有無は、金融リテラシーの有意差にはつながっていない。先の第 8 表で示さ れたネットニュース利用とリテラシー間の顕著な正の相関とは異なる結果と なった。SNSの信頼性と金融リテラシーには負の相関関係が見られる。SNS を信頼して利用することは、金融リテラシーの向上を妨げる効果をもつ。ま たは、金融リテラシーが高い人は
SNS
で発信されている情報には強い信頼第 9 表 情報信頼性と金融リテラシー:独自調査 2020
情報媒体 差 t値 相談・アドバイス t値
1 新聞 0.126 9.59 *** 1 家族・親戚 !0.030 !2.08 **
2 テレビ !0.052 !3.92 *** 2 友人・知人 !0.034 !1.11 3 ラジオ 0.001 0.03 3 勤務先同僚 !0.087 !1.63 4 ビジネス雑誌 0.192 4.46 *** 4 証券会社 0.182 5.71 ***
5 ネットニュース 0.010 0.56 5 銀行 0.146 4.68 ***
6 SNS !0.143 !3.83 *** 6 保険会社 !0.046 !0.53 7 動画配信サイト 0.066 1.42 7 FP・FA 0.122 3.79 ***
8 ネット掲示板 !0.080 !1.53 8 ロボアド 0.040 0.58 9 証券口座 0.233 8.53 *** 9 相談しない !0.036 !2.92 ***
10 どれも見ない !0.331 !16.50 ***
「独自調査(2020年)」(筆者を含む研究プロジェクト)をもとに作成。正確な選択肢文言 は第4表、第5表を参照。選択肢を選んだ人とそうでない人の金融リテラシー(7問)の 差とt値。*、**、***10%、5%、1%水準でそれぞれ統計的に有意。N=3001。
性を置いていない。
相談・アドバイスの信頼性と金融リテラシーの関係は、第 9 表右列に掲載 している。家族・友人・同僚の区分で見ると、それらの身近な人々とのコ ミュニケーションによる情報信頼性と金融リテラシーには負の相関がある。
とくに、家族との情報交換への信頼性が高い人は金融リテラシーが統計的に 有意に低い。身近な人たちへの日常的な信頼性の延長線上で、資産運用につ いても信頼している人たちは、金融知識が乏しくなっている。または、金融 リテラシーが高い人は、家族からの情報を重視していない。ただし、負の相 関の規模は比較的小さいことには留意したい。他方で、対照的に、金融機関
(証券、銀行)、アドバイザー(FP・FA)への情報信頼性と金融リテラシー には、正の相関関係が観察される。証券会社・銀行・アドバイザーを最も信 頼する人は、金融リテラシーが高まっている。または、金融リテラシーが高 い人は、そうした金融機関や専門家からの情報を強く信頼する傾向がある。
Ⅱ.5 回帰分析結果
単純比較分析の結果を補足的に確認するために、独自調査データにもとづ く回帰分析を行い、推定結果を第10表に掲載している。推定モデルでは、被 説明変数には金融リテラシーを、主要な独立変数には情報接触に関する項目 を用いている。ただし、既に述べたように、情報接触と金融リテラシーの関 係性は双方向ありうるため、このモデルは情報接触が金融リテラシーを形成 するという関係を仮定して解釈を進める。金融リテラシーが情報接触形態に 与える効果との厳密な識別は今後の課題としたい。情報接触頻度は選択肢か ら変数を作成し、数字が大きいほど、頻度が高まるように設定している。情 報源は、二つの変数を作成した。マスメディア変数は、新聞、テレビ、ラジ オ、雑誌の伝統的マスメディアから少なくとも一つを選択していれば 1 とし て、そうでなければ 0 をとる二値変数である。インターネット変数は、ネッ トニュース、SNS、動画サイト、ネット掲示板の利用に関して同様の二値変 数を作成した。情報アドバイスについては、身近な人々とのコミュニケー
ションを捉えるために、家族、友人、同僚からのアドバイスがある場合には 1を、そうでない場合には0をとる二値変数を作成した。また、金融機関関 係からのアドバイスとして、証券会社、銀行、保険会社、ファイナンシャル アドバイザーからのアドバイスの有無で二値変数を作成した。情報信頼性に 関する変数も同様に作成した。その他のコントロール変数には、回答者本人
第10表 金融リテラシーの回帰分析結果:独自調査 2020
⑴ 情報利用形態 ⑵ 情報信頼性 情報接触頻度 0.0387*** 0.0476***
[11.16] [13.71]
マスメディア 0.0770*** 0.0511***
[4.96] [3.12]
インターネット 0.1120*** 0.0336*
[9.03] [1.80]
家族・友人関係 !0.0664*** !0.0487***
[!5.72] [!3.88]
金融機関・アドバイザー 0.0683*** 0.0596***
[4.69] [3.42]
学歴 0.0536*** 0.0571***
[11.75] [12.28]
性別:男性 0.0338*** 0.0324***
[3.10] [2.90]
ln(年齢) 0.1982*** 0.2155***
[12.34] [13.10]
所得レベル 0.0132*** 0.0137***
[3.37] [3.41]
定数項 !0.6544*** !0.6610***
[!10.48] [!10.27]
F値 124.2*** 104.9***
調整R2 0.270 0.238
「独自調査(2020年)」(筆者を含む研究プロジェクト)のデータよりOLSで推定。被 説明変数は、金融リテラシー(7問)の平均正解率。上段は推定係数、下段カッコ内 はt値。*、**、***10%、5%、1%水準でそれぞれ統計的に有意。
の学歴、性別、年齢、所得レベルを加えている。推定方法は通常の最小二乗 法によっている。
情報利用形態に関する推定結果(第10表左列)を見ると、第一に、情報接 触頻度の推定係数は、統計的に有意に正値を示している。個人にとって、金 融情報に接触する頻度が高いほど、その金融リテラシーが高まっている。こ れは単純比較の結果とも類似しており、この傾向の頑健性は高いと言える。
第二に、情報媒体の違いを見ると、マスメディアとインターネットの情報源 変数は正値であり、統計的にも有意である。二つの情報源効果の規模を比較 すると、マスメディアの推定係数は相対的に小さく(0.0770)、インターネッ ト情報源のほうが推定係数規模は大きい(0.1120)。情報アドバイスについ て見ると、金融機関などからの情報提供は、統計的に有意な水準で、金融リ テラシーを高める効果をもっている。しかしながら、家族・友人等の身近な 人々からの情報の推定係数は、統計的に有意な水準で負の符号を示しており、
むしろ情報交換がリテラシーを低める効果を示している。既に示した単純比 較分析での結果とも類似している。また、野方・竹村(2017)や 顔 ほ か
(2019)で示された身近な人たちからの情報がリスク資産投資を低めるネガ ティブな効果とも類似している。情報信頼性に関する推定結果(第10表右列)
によると、マスメディアとインターネット情報源は両方ともに、情報利用形 態の効果と同様に、金融リテラシーに対してポジティブな係数を示している。
しかしながら、一つの違いは、インターネットよりも、マスメディア効果の 規模のほうが大きな点である。マスメディアを情報源として信頼している人 たちのほうが、相対的に金融リテラシーは高くなっている。家族・友人関係 を信頼している人たちの金融リテラシーは低く、金融機関・アドバイザーを 信頼性している人たちのリテラシーは高い。これは、情報利用形態の推定モ デルとも一致した結果である。
!
まとめ本稿では、個人を対象とした二つのアンケート調査結果を利用して、家計
の情報接触の形態と金融リテラシーの関係を分析した。一つは、金融広報中 央委員会による金融リテラシー調査2019であり、類似の金融調査の中でも最 大規模のものの一つである。もう一つは、著者が属する研究グループが独自 に行ったアンケート調査であり、対象となる回答者数サイズは小さいが、情 報接触について、より詳細な質問項目を設定している。
本稿で得られた結論を要約すると、第一に、情報接触の量的な面として、
両方のアンケート調査結果で共通して、日常的な金融・経済情報への接触頻 度が高い場合には、金融リテラシーが高い。第二に、金融リテラシー調査で の情報接触チャネル分析の結果、新聞・テレビなどのマスメディアとイン ターネットによる情報接触がある場合、双方ともに金融リテラシーは高い。
これらの情報源タイプからの情報収集行動は、金融リテラシーを高める効果 をもつと解釈できる。あるいは、逆の方向での因果性として、金融リテラ シーの高い人々は、マスメディアやインターネット情報源を積極的に活用し ている。独自調査による詳細な分類からの分析結果では、インターネット ニュース、新聞、テレビ、ビジネス雑誌が、金融リテラシーとの正の相関が 特に強くなっている。第三に、二つの調査に共通して、資産運用に関する相 談・アドバイスの観点からは、金融機関やアドバイザーとの情報コミュニ ケーションがある場合、金融リテラシーは高いという正の相関関係がある。
他方で、身近な人々(家族・友人など)との相談・アドバイスがある場合、
正の相関は小さいか、むしろ、負の相関が観察されるケースもある。最後に、
情報の信頼性に関する分析の結果、活字情報メディア(新聞・ビジネス雑誌)、
金融機関(証券会社・銀行)、アドバイザーへの信頼性が高い場合に、高い 金融リテラシーが観察された。他方で、テレビ、SNS、家族への情報信頼性 が高い場合には、低い金融リテラシーとなっていた。単に、情報収集チャネ ルだけでなく、それらへの信頼性の程度もまた金融リテラシー形成にとって は重要であることを示唆している。
(筆者は関西学院大学商学部教授)
(謝辞)本研究に対しては、全国銀行学術研究振興財団・関西学院大学特別研究・JSPS科
研費18K01716からの研究助成を得ている。金融広報中央委員会(事務局:日本銀行情報
サービス局内)からは、『金融リテラシー調査』の個票データを学術目的の利用に対して 提供いただいた。また、本稿の用いたアンケートデータは、春日教測氏・本西泰三氏・山 根智沙子氏と共同実施したアンケート調査結果を一部活用しおり、調査過程において有益 な助言をいただいた。関係各位には厚く感謝したい。
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