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抗腫瘍性化合物 Taxol の収束的不斉全合成研究

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抗腫瘍性化合物 Taxol の収束的不斉全合成研究

Studies on Convergent and Enantioselective Total Synthesis of Antitumor Agent, Taxol

2008 年 2 月

早稲田大学大学院理工学研究科 化学専攻 化学合成法研究

宇津木 雅之

(2)
(3)

序論

天然物の全合成、それは自然界において複雑な構造を持つ化合物を産生する微 生物に対しての人類の挑戦であり、人類の不断の努力により、多くの天然物の征 服を可能としてきた。天然物の全合成の主な目的は、1) 天然物の構造の確認、2) 希 少天然物の大量供給、3) SARのための類縁体供給、4) 有用な新規合成法の開発で ある。しかし、近年の全合成に対する風当たりは非常に厳しいものがある。S. V. Ley のグループが 22 年かけて達成した、難攻不落の azadiracthin の全合成でさえ、生 物が大量供給可能な化合物を高いコストをかけてまで合成する必要があるのか、

という批評が一部でされている。しかしながら、天然物の全合成に適用可能な新 規方法論の開発は有機合成化学上重要であり、他の天然物合成への更なる応用展 開が期待できる。筆者は全合成の重要性をここに主張したい。そこで、筆者はtaxol® を標的化合物として独自の新規方法論に基づく合成計画を立案した。

taxol (paclitaxel)は 1971年にWaniらにより西洋イチイTaxus brevifolia の樹皮成 分より単離構造決定された化合物である。1979 年に微小管脱重合阻害作用による 新規な作用機序での高い抗癌作用が明らかとなって以来、世界中で様々な分野で 研究が行われてきた。taxolは膵臓癌、卵巣癌、乳癌、肺癌などに有効な20世紀最 高の抗癌剤として現在も重要な地位を占めている。また、より高活性な誘導体

taxotere®が開発され、taxol 同様幅広く臨床に用いられている。しかし、いずれも

低水溶性と副作用が問題視され、第2世代のtaxolの創製が盛んに研究されている。

構造としてtaxol はオキセタンを含む高度に歪んだ4環性骨格を有し、11個の不 斉炭素を有する有機合成上、非常に構築困難な化合物の1つである。合成困難な 最たる理由は単独でも構築困難な 8 員環に官能基が集中しているためである。従 って、いかにB環部位の構築を行うかが全合成への鍵である。現在までに、R. A.

Holton, K. C. Nicolaou, S. J. Danishefsky, P. A. Wender, 向山光昭, 桑島功らによる全 合成と高橋孝志らによる形式全合成が達成されているが、効率的な収束的不斉全 合成はいまだ達成されていない。

そこで、筆者は独自の合成手法を開発し、taxol の収束的不斉全合成を行うべく 研究を行ってきた。その結果、高収率で簡便な分子内 B-alkyl 鈴木-宮浦カップリ ング反応による8員環構築法、アリルホスホニウム塩 の高ジアステレオ選択的な SN2’還元によるtrans 及びcis縮環部位構築法、cyanideを用いた 1,4-付加反応によ る立体選択的なtrans縮環部位構築法、そして、連続的な1,5-ヒドリドシフトベン ジリデン形成反応による trans 縮環部位構築法と分子内 Buchwald-Hartwig-三浦カ ップリングによる高収率での 8 員環合成法の開発に成功した。それらの詳細と

taxane骨格構築後の合成研究についてここに述べる。

(4)

Abbreviations

Ac : acetyl

acac : acetylacetonate

AE : asymmetric epoxidation 9-BBN : 9-borabicyclo[3.3.1]nonane

Bn : benzyl

brsm : based on recovered starting material

Bu : butyl

Bz : benzoyl

CoA : coenzyme A

CPME : cyclopentyl methyl ether CSA : camphor-10-sulfonic acid dba : dibenzylidene acetone

DBU : 1,8-diazabicyclo[5.4.0]undecene DCE : dichloroethane

DDQ : 2,3-dichloro-5,6-dicyano-1,4-benzoquinone DEAD : diethyl azodicarboxylate

DIBAL-H : diisobutylaluminum hydride DIPEA : N, N-diisopropylethylamine

DMAP : 4-N,N-dimethylaminopyridine

DMBM : 3,4-dimethoxybenzyloxymethyl DMF : N,N-dimethylformamide

DMPM : 3,4-dimethoxyphenylmethyl DMSO : dimethyl sulfoxide

dppf : 1,1'-bis(diphenylphosphino)ferrocene dppp : 1,3-bis(diphenylphosphino)propane ee : enantiomeric excess

EE : 1-ethoxyethyl

Et : ethyl

IBX : 1-hydroxy-1,2-benzioxol-3(1H)-one 1-oxide John-Phos : 2-(di-tert-butylphosphino)biphenyl

KHMDS : potassium hexamethyldisilazane KPB : potassium phosphate buffer pH

LDA : lithium diisopropylamide

Me : methyl

MOM : methoxymethyl

(5)

MPM : p-methoxyphenylmethyl

Ms : methanesulfonyl MS : molecular sieves

NADPH : nicotinamide adenine dinucleotide phosphate NBSH : o-nitrobenzenesulfonylhydrazine

NHPI : N-hydroxyphthalimide NMM : N-methylmorpholine NMP : N-methyl-2-pyrrolidinone

NOESY : nuclear Overhauser effect spectroscopy N.R. : no reaction

PCC : pyridinium chlorochromate PDC : pyridinium dichromate

Ph : phenyl

Pr : propyl

PPTS : pyridinium p-toluenesulfonate

PTLC : preparative thin-layer chromatography PTSA : p-toluenesulfonic acid monohydrate Py : pyridine

Red-Al : sodium bis(2-methoxyethoxyl)aluminum hydride rt : room temperature

SAR : structural activity relationship SEM : trimethylsilylethoxymethyl

S-Phos : 2-dicyclohexylphosphino-2',6'-dimethoxybiphenyl TBAF : tetrabutylammonium fluoride

TBAI : tetrabutylammonium iodide TBHP : tert-butylhydroperoxide

TBS : tert-butyldimethylsilyl temp : temperature TES : triethylsilyl

Tf : trifluoromethanesulfonyl THF : tetrahydrofuran

TMS : trimethylsilyl tol : methylphenyl

Triton X-100 : polyethylene glycol mono-4-octylphenyl ether Ts : p-toluenesulfonyl

X-Phos : 2-dicyclohexylphosphino-2',4',6'-triisopropylbiphenyl

(6)

目次

第1章 taxol B環の8員環構築法の開発

1.1 背景 … 1

1.2 分子内野崎-檜山アリル化反応による8員環構築法の開発 … 3 1.3 分子内B-アルキル鈴木-宮浦カップリングによる8員環構築法の開発 … 5

第2章 taxol A環フラグメントおよびC環フラグメントの不斉合成

2.1 逆合成解析 … 10

2.2 A環フラグメントの不斉合成

2.2.1 ケイ素架橋型分子内求核付加反応を利用したA環の不斉合成 … 11

2.2.2 有機触媒を利用した不斉酸化によるA環の不斉合成 … 14

2.3 C環フラグメントの不斉合成

2.3.1 2-benzyloxymethyl-2-methylcyclohexane-1,3-dioneの合成 … 17

2.3.2 環状4置換アルケンを有するC環フラグメント31aの不斉合成 … 19

2.3.3 環状3置換アルケンを有するC環フラグメント31bの不斉合成 … 22

第3章 taxol B, C環trans縮環部位の構築法開発

3.1 背景 … 24

3.2 アリルホスホニウム塩のSN2’還元によるtrans縮環部位構築 … 25

3.3 cyanideの1,4-付加反応によるtrans縮環部位構築 … 31

3.4 連続的な1,5-ヒドリドシフト-ベンジリデン形成反応によるtrans縮環部位構築

… 35 3.5 分子内B-アルキル鈴木-宮浦カップリングによるタキサン骨格構築 … 40

第4章 taxol A, B環のアリル位の酸化による酸素官能基導入

4.1 背景 … 43

4.2 C10, C13位のアリル位の酸化による酸素官能基導入 … 44

第5章 分子内Buchwald-Hartwig-三浦カップリングによるtaxol B環構築

5.1 背景 … 48

5.2 モデル化合物を用いた検討 … 49

5.3 実際の系への適用 … 53

5.4 今後の合成戦略 … 55

(7)

第6章 総括 … 56

実験項 … 57

第1章 taxol B環の8員環構築法の開発 … 58

第2章 taxol A環フラグメントおよびC環フラグメントの不斉合成 … 67

第3章 taxol B, C環trans縮環部位の構築法開発 … 80

第4章 taxol A, B環のアリル位の酸化による酸素官能基導入 …106

第5章 分子内Buchwald-Hartwig-三浦カップリングによるtaxol B環構築 …110

参考文献 …123

(8)

第 1 章 taxol B 環の 8 員環構築法の開発

1.1 背景

有機合成化学上、中員環(8-11 員環)の合成は立体ひずみ、渡環相互作用およ びエントロピー的要因のために反応点が接近しづらく、一般的に構築困難な構造 である 1)。しかし、自然界で産生される(–)-taxol、(–)-variecolin、ophiobolin 類、

steganone 類などの多くのテルペノイドは構造として中員環を含む多環式化合物で

ある。そのため、立体ひずみ等の要因を凌駕した強力な中員環形成反応の開発は 非常に価値があるといえる。

(–)-taxol (1)は6-8-6に縮環した高度に歪んだ3環性炭素骨格に加え、オキセタン

を有する特異な構造を持つ化合物である 2)。さらに、3 つの不斉 4 級炭素を含む 11個の不斉炭素を持ち、不斉3級アルコール, trans-1,2-ジオール, trans 縮環, 不斉 4級炭素, アシロイン, 橋頭位2重結合のすべての官能基が集中したB環とエステ ル側鎖を有している。(Fig.1)

H H O H O

HO H

O

(+)-ophiobolin A

H H O H O

HH

(-)-variecolin

O H

H MeO

MeO MeO

O O

O O

(-)-steganone O OH

O HO

R2O

H OBz OAc O

NH

O

OH Ph O R1

(-)-taxol (paclitaxel) (1) (-)-taxotere (docetaxel) (2)

A B C

1 2 3

4 8 10 9

12 13

D

R1= Ph, R2= Ac R1= Ot-Bu, R2 = H

Figure 1. Natural products including eight-membered ring.

これまでに1は200以上のグループが合成研究を行っているが、全合成は6例、

形式全合成1例に留まっている 3)。合成戦略として A, B, C, D環を順次構築する 直線的ルートによる合成が4例、A, C環を別途調製後カップリングし、B環を構 築する収束的なルートによる合成が3例であった。いずれの合成も高度に歪んだ8

(9)

員環をいかに効率的に構築するかが鍵であり、多くの研究グループが全合成に至 っていないことからも困難な課題であることが伺える。直線的ルートによる全合 成は合成困難な B 環を早期に構築できる利点を持ち、工程数、収率ともに良い結 果が報告されている。しかし、8員環はchair-chair, chair-boat等環境に応じてその 立体配座が変化するためにその制御が難しく、またSARのための誘導体合成は行 いにくい。一方、収束的ルートによる全合成は別途 A,C 環フラグメントを調製で きるため、合成効率が高く、誘導体合成も容易である。問題点としては A 環と C 環のカップリング後のB 環の 8員環構築が困難なことである。Nicolaou らによる

C9-C10位間のピナコールカップリングでは環化の収率は23-25%程度であり、100

mg 以上のスケールでは収率が悪化するものであった 4)。Danishefsky らによる

C10-C11位間の溝呂木-Heck反応では化学量論量以上の Pd錯体を要し、環化の収

率は中程度の46%であった。高橋らによるC9-C10位間のシアノヒドリンを用いた アルキル化では最高の収率 49%が報告されているが、高収率とはいえない上、

microwaveの使用を必要とした(Scheme 1)。

Nicolaou's Pinacol Coupling

OTBS

O OTf

O H OBn

O

O

OTBS

O O

H

O

OBn O Pd(PPh3)4 (110 mol%)

K2CO3, MS4A CH3CN, 90 oC

46%

OBn

O O

O H

O O O

O

OBn

O O

H

O 23-25%

O O HO OH

TiCl3(dme)1.5, Zn-Cu DME, 70 oC

Danishefsky's Mizoroki-Heck Reaction

OBOM

TMSO OBn H

OTs OBOM

TMSO OBn H LHMDS, microwave

1,4-dioxane, 110 oC 49%

Takahashi's Alkylation with Cyanohydrin

EEO CN EEO CN

Scheme 1. Construction of the eight-membered ring.

そこで、筆者は効率的な収束的不斉全合成を行うため、問題となる 8 員環構築 を簡便に行える新規合成法の開発に着手した。

(10)

1.2 分子内野崎-檜山アリル化反応による 8員環構築法の開発

野崎-檜山アリル化反応は各種のアリルハライドと CrCl2を混合させ、反応系中 にてアリルCr試薬を調製し、化学選択的にアルデヒドと反応させることのできる

Barbier型の有用な炭素-炭素結合形成反応である 5)。しかし、分子内反応では各種

ハライドとアルデヒドを共存して合成することには一般的に困難が伴う。

野崎らと Knochel らはアリルハライドだけでなく、アリルリン酸エステルにお いても分子間の野崎-檜山アリル化反応が進行することを報告している 6)。また、

アリルリン酸エステルを用いる際には LiI の添加が必要であると記述している。

我々はアリルリン酸エステルの取り扱いが容易かつ安定であることに注目し、

taxol モデル化合物 3 を基質とし、分子内野崎-檜山アリル化反応の検討を行った

(Table 1)。

R'

R X

X = Cl, Br, I, OMs, OPO(OEt)2 CrCl2

R CrCl2

CrCl2X

R CrCl2

R'CHO

O CrCl2 R

H R

CrCl2

R'

OCrCl2

R R'

OH

R

Scheme 2. Proposed mechanism of Nozaki-Hiyama allylation.

アルデヒド3に対し、10当量のCrCl2を加えて反応を行ったところ、やはりLiI を加えない場合反応は進行せず(entry 1)、LiIを 1.0当量加えた場合、rt では環化 せず、60 oCで加熱した際に8員環環化体5を低収率で得る結果となった(15%)

(entry 2,3)。いずれの場合もプロトン化体 4を主生成物として得た。さらに、系

中に存在するH2Oを捕捉する目的でMS4Aを添加すると5の収率は向上したもの の21%に留まった(entry 4)。

低収率の原因として渡環相互作用により反応点の接近が困難であり、6員環遷移 状態を形成できずにアルデヒドの α 位の水素原子、または系中に微量に存在する H2Oによりプロトン化が進行するために 4が多量に副生したものと思われる。

1炭素短い7員環であれば反応点が十分に接近し、プロトン化は進行しないもの と推定し、7員環を構築後、環拡大により8員環構築を行うこととした。1炭素短 いアルデヒド6, 8を調製し、分子内野崎-檜山反応を行ったところ予想通り高収率

(11)

にて7員環環化体7, 9が得られた。興味深いことに、保護基がカーボネートの生 成物 7 よりもアセトニドの生成物 9 の方がジアステレオ選択性は低いものとなっ た(Scheme 3)。得られた7のDess-Martin酸化 7)を行い、11への環拡大反応を試 みた。しかし、前駆体合成のためのケトンへのシアノシリル化、ジアゾメタンの 付加、カルベノイドの付加を行ったが、いずれの反応も進行しなかった。かご型 分子である10はconcave面からの求核体の攻撃が困難であり、convex面からもA 環のジメチル基と求核体との間の立体反発が生じたためと考えられた。

Table 1. Intramolecular Nozaki-Hiyama allylation of 3.

H

H O O

O HO H

H O O

O O

CrCl2 (10 equiv) conditions, 12 h

entry LiI (equiv) solvent temp (oC) 4 5

1 0 THF 60 0 0

2 1.0 THF rt 30 0

3 1.0 THF 60 60 15

4 1.0 THF 60 67 21

5 1.0 DME 70 39 11

a

aMS4A was added.

H

H O O

O O (EtO)2(O)PO H

3 4 5

yield (%)

b

H

H O O

O H

10 O H

H O O (EtO)2(O)PO

O

a

H

H O O H

OH

R1R2 R1R2

7

H

H O O

O H

11 O 6 R1 = R2 = O

8 R1 = R2 = Me

7 R1 = R2 = O 9 R1 = R2 = Me

Scheme 3. Reagents and conditions: (a) 7: CrCl2 (6.0 equiv), LiI (1.0 equiv), THF, 60 oC, 2 h, 88% (dr = 6.3:1); 9: CrCl2 (6.0 equiv), LiI (1.0 equiv), THF, 60 oC, 3 h, 85% (dr = 3.3:1); (b) Dess-Martin periodinane, CH2Cl2, rt, 2 h, 95%.

(12)

1.3 分子内 B-アルキル鈴木-宮浦カップリングによる 8員環構築法の開発

Pdを用いたクロスカップリング反応は温和な条件で反応でき、反応効率の高い ことから有機合成上非常に有用な手法であり、溝呂木-Heck反応、小杉-右田-Stille カップリング、鈴木-宮浦カップリング、根岸カップリング、辻-Trost 反応など強 力な炭素-炭素結合形成反応とそれらの反応を適用した多くの天然物の全合成が報 告されている 8)

B-アルキル鈴木-宮浦カップリングは 1986 年に鈴木と宮浦らによって報告され た反応 9)であり、アルキルボランとアリールまたはアルケニルハライド、トリフ ラート、リン酸エステルに対して有効な反応である。分子内反応も研究されてお り、小員環、大員環の構築に有用であり、多くの天然物合成への応用例が報告さ れている。しかしながら、筆者の知る限り、中員環では10員環以外の構築例はな く、8員環においては全く報告例がない(Scheme 4)。しかし、筆者は分子内B-ア ルキル鈴木-宮浦カップリングの持つ潜在的な有用性を根拠とし、効率的な8員環 構築の条件を探索した。

PdL2

R1X

R1PdXL2

B R2 B HO

R2 HO R1L2Pd R1R2PdL2

R2B OH B

OH HO

X OH

R1-R2

I O

1) 9-BBN, THF 2) PdCl2(dppf), AsPh3

Cs2CO3 THF/DMF/H2O

23%

O O O

Scheme 4. Proposed mechanism of B-alkyl Suzuki-Miyaura coupling and its example.

当初は単純なモデル基質である12を用い、検討することを考え、その基質合成 より開始した。市販のアルデヒド13をGrignard試薬で処理し、生じたアルコール をMOM基で保護することで基質12へと導いた。

(13)

I CHO

I

OH

I

OMOM

a b

12

13 14

Scheme 5. Reagents and conditions: (a) 5-bromo-1-pentene, Mg, Et2O, –78 oC, 2.5 h, 87%; (b) MOMCl, DIPEA, NaI, CH2Cl2, rt, 15 h, 94%.

合成された12に対して9-BBNを用い、位置選択的なヒドロホウ素化を行った。

9-BBN は電子豊富なボランであるため、トランスメタル化の促進が期待できる。

ヒドロホウ素化後、one-pot にて B-アルキル鈴木-宮浦カップリングで最も用いら れるJohnson’s conditions 10)を適用したが(Table 2, entry 1)、長い反応時間を必要と し、得られた環化体15 は 32%と低収率であった。続いて塩基として Tl2CO3 11)を 用い、反応を行った。Tl2CO3を用いると、高い塩基性と系中で生じる TlX が析出 するため、反応の律速段階であるボレートもしくは L2PdOH の生成を促進する効 果が岸らにより報告されていた 11)。しかしながら、収率はわずかしか改善しなか った(entry 2)。溶媒をMeCN/H2O (10:1)とすると、さらに収率は向上した(entry 3)。

溶媒を MeCN/H2O (10:1)に固定し、続いて Pd 錯体の検討を行った。Johnson’s

conditionsで用いる PdCl2(dppf)の dppf 12)は二座配位子であり還元的脱離を促進す る効果があるが、反面、酸化的付加の反応は単座配位子よりも遅い。そのために、

Johnsonらはσ供与性の低いAsPh3 13)を添加し、酸化的付加を促進しているが、今

回は十分な効果が得られなかった。そこで、Pd(PPh3)4 を用いて反応を行った。塩 基として Tl2CO3を用いたときは極めて低収率であったが、NaOHのとき 33%、弱 塩基である CsF 14)のときでは最大 51%で 8 員環環化体 15 を得ることに成功した

(entry 5-7)。CsFを用いた場合は、求核性の高いF- によりボレートが生じるもの

と推定されている。本結果を踏まえ、文献既知の taxol のモデル化合物 16 を用い て検討を開始することとした。

化合物16を 9-BBNでヒドロホウ素化を行い、Johnson’s conditionsを適用すると 環化は進行したものの、カーボネートの脱保護を伴った8員環環化体 18をわずか 9%で得るに留まった(Table 3, entry 1)。ここで、溶媒をTable 2で有効であった MeCN/H2O(10:1)としたところ、収率31%と若干改善したが、塩基として Tl2CO3, NaOHを用いた場合、収率は向上しなかった(entry 2-5)。今回も塩基にCsFを用 いたとき、保護基を保持した環化体17が中程度の収率で得られた(61%)。CsFを 用いる際は溶媒としてMeCN/H2O(10:1)を用いることが重要であった。このMeCN の効果は、MeCNが乖離しやすいリガンドとして機能し、9員環パラダサイクルを 形成しやすいためと推測している。

(14)

Table 2. Intramolecular B-alkyl Suzuki-Miyaura coupling of 12.

1) 9-BBN, THF reflux, 3 h 2) conditions reflux, 72 h

entry Pd (mol%) ligand (mol%) base (equiv) solvent yield (%) 1 PdCl2(dppf) (50) AsPh3 (100) Cs2CO3 (2.0) THF/DMF/H2O (6:3:1) 32 2 PdCl2(dppf) (50) AsPh3 (100) Tl2CO3 (2.0) THF/DMF/H2O (6:3:1) 37 3 PdCl2(dppf) (50) AsPh3 (100) Tl2CO3 (2.0) MeCN/H2O (10:1) 41 4 PdCl2(dppf) (50) Tl2CO3 (2.0) MeCN/H2O (10:1) 18 5 Pd(PPh3)4 (50) Tl2CO3 (2.0) MeCN/H2O (10:1) 8

12 15

I

OMOM MOMO

6 Pd(PPh3)4 (50) NaOH (4.0) MeCN/H2O (10:1) 33 7 Pd(PPh3)4 (50) CsF (4.0) MeCN/H2O (10:1) 51

Table 3. Intramolecular B-alkyl Suzuki-Miyaura coupling of 16.

entry Pd (mol%) ligand (mol%) base (equiv) solvent result (%) 1 PdCl2(dppf) (50) AsPh3 (100) Cs2CO3 (2.0) THF/DMF/H2O (6:3:1) 18/ 9 2 Pd(PPh3)4 (50) Cs2CO3 (4.0) MeCN/H2O (5:1) 18/ 31 3 Pd(PPh3)4 (50) Tl2CO3 (2.0) MeCN/H2O (10:1) 18/ 22 4 Pd(PPh3)4 (50) NaOH (4.0) MeCN/H2O (10:1) 18/ 14 5 Pd(PPh3)4 (50) NaOH (4.0) THF/H2O (10:1) 18/ 36 6 Pd(PPh3)4 (50) CsF (4.0) MeCN/H2O (10:1) 17/ 62 7 Pd(PPh3)4 (50) CsF (4.0) DMF/H2O (5:1) 17/ 28

O O

O

O O

O

HO OH

I 1) 9-BBN, THF

reflux, 3 h 2) conditions reflux, 72 h

16 17 18

a Reaction time was 74 h. b Reaction temperture was 85 oC.

a

b

taxolモデル化合物 16 を基質とした 8員環構築を中程度の収率で行うことに成功し

たが、16では塩基により環化前にカーボネートが脱保護され、生じた3級のアルコキ シドより結果としてアレン生成物を生じる転位反応が進行し、基質が分解しているこ とが推測された(Scheme 6)。そこで、強塩基に耐えうる基質に変換し、反応を試みた。

(15)

O O O I

16

OH

O O

I

O OH

O O

O OH -I

B B B

Scheme 6. Degradation mechanism of 16.

即ち、アセトニドで保護した基質19とC1位をMOM基、C2位をBn基で別々に保 護した基質20を合成した(Scheme 7)。文献既知のアルデヒド21に対し、還元、TMS 基の脱保護を行いジオール 22 とした。アルデヒドの還元の際、TMS基は 3 級から 1 級に転位した。化合物22の1級アルコールを選択的にAc基で保護し、3級アルコー ルを MOM 基で保護、Ac 基の脱保護、Dess-Martin 酸化を行うことによりアルデヒド 23を合成した。続いて、2-リチオスチレンを付加し、高立体選択的にカップリン成績 体を得(quant, α/β = 10:1)、生じた水酸基をBn基で保護して環化前駆体20を合成し た。

I

TMSO CHO

I

HO OH

a, b c-f

I

MOMO CHO g, h

MOMO OBn I

20

21 22 23

Scheme 7. Reagents and conditions: (a) NaBH4, MeOH, 0 oC, 10 min, 87%; (b) K2CO3, MeOH, rt, 1 h, quant; (c) Ac2O, Py, DMAP, CH2Cl2, rt, 1 h, 96%; (d) MOMCl, DIPEA, NaI, CH2Cl2, rt, 48 h, 97%; (e) K2CO3, MeOH, rt, 1.5 h, 96%; (f) Dess-Martin periodinane, CH2Cl2, 30 min, rt, 97%; (g) n-BuLi, 2-iodostyrene, THF, –78 oC, 10 min; then 23, 1 h, quant.

(α/β = 10:1); (h) BnBr, NaH, TBAI, THF/DMF (10:1), rt, 2 h, 88%.

環化前駆体 19 に対し、Table 3 で最適化した条件を適用すると、驚くべきことに NaOHを用いた場合、さらに高い収率(70%)で8員環環化体24を得ることを見出し た(Table 4, entry 1-3)。Johnson’s conditionsを適用した場合、モデルの基質の際と同様 に中程度の収率であった。非環状の保護基を有する 20 に対しても NaOH が効果的で あり、これまでで最高の収率(82%)で環化体 25 を得ることに成功した。化合物 19 よりも化合物20の方が、高収率で環化体が得られることから、環化の際には保護基の 選択が重要であることを見出した。環状の保護基を有する19の場合、C1-C2位間の自

(16)

由な回転を規制すると考えられるが、反応の遷移状態において歪みが高まるためにエ ネルギー的に不利になり、自由な配座をとることが容易な非環状の保護基を有する20 の方が反応しやすいものと推測された 15)

また、アルケニルヨージドの代わりにトリフラートとした基質では、環化反応は進 行しなかったことから、本反応においてはアルケニルヨージドの存在が必須であるこ とを見出した。アルケニルヨージド部位により触媒量の Pd 錯体存在下、高収率な 8 員環構築が実現できたものと考えている。

Table 4. Intramolecular B-alkyl Suzuki-Miyaura coupling of 19 and 20.

R1O OR2

I 1) 9-BBN, THF, reflux, 3 h

2) Pd (50 mol%), ligand (100 mol%) base (4.0 equiv),

19 R1 = R2 = -CHMe2- 20 R1 = MOM R2 = Bn

R1O OR2

entry Pd base yield (%)

1 70

2 58

3 PdCl2(dppf) 50

4 82

5 59

MeCN/H2O (10:1), reflux, 72 h

ligand

NaOH CsF NaOH CsF NaOH Pd(PPh3)4

Pd(PPh3)4

product 24 24 24 25 25

24 R1 = R2 = -CHMe2- 25 R1 = MOM R2 = Bn

Pd(PPh3)4

AsPh3

Pd(PPh3)4

以上のように筆者は前例のない分子内 B-アルキル鈴木-宮浦カップリングを用いた 高収率での8員環構築条件を確立し、taxolのモデル基質においても高収率で環化体を 得ることに成功した。また、非環状の保護基の選択により環化体の収率が向上するこ とを見出した。

(17)

第 2 章 taxol A 環フラグメントおよび C 環フラグメントの不斉合成

2.1 逆合成解析

第1 章で述べた通り、分子内 B-アルキル鈴木-宮浦カップリングによる高収率での8 員環構築法を確立できたため、本反応を鍵反応とする収束的な逆合成解析を以下のよう に行った。即ち、taxol (1)は26よりアシロイン形成と還元に続く側鎖導入により得られ るものとし、化合物2627のC10, C13位のアリル位の酸化により得られるものとし た。化合物2728からの分子内B-アルキル鈴木-宮浦カップリングによる8員環構築 を経由して得られるものとした。化合物2829からtrans縮環部位を構築し、合成で きるものとした。化合物29はA環フラグメント30とC環フラグメント31aまたは31b をカップリングすることにより得られるものとした。詳細は第 3 章以降に述べるが、

trans縮環部位構築法として、アリルホスホニウム塩のSN2’還元、cyanideの1,4-付加反 応そして連続的1,5-ヒドリドシフト-ベンジリデン形成反応の3つの手法を行うため、2 種類のC環フラグメント合成を計画した。化合物30は1つ、化合物31a,bは2つの不 斉炭素を有することからそれぞれエナンチオ選択的な不斉合成が必要となる。そこで、

まずA環フラグメント30の不斉合成より合成を開始した。

O OH

O HO

AcO

H OBz OAc O

NH

O

OH Ph O Ph

(-)-taxol (1)

OTES

O HO

O

H OBz OAc O

OTES

BnO H OBn OBn

OTES

BnO R1 R2

I trans-fused

B,C-ring juction formation O H

allylic oxidation

OTES

BnO R1 R2 I

intramolecular B-alkyl Suzuki- Miyaura coupling

coupling

I

BnO CHO

O O

Br

ODMPM 26

27 28

29 30

31a

OBn

I 31b

+ or

Ph

Scheme 8. Retrosynthetic analysis of 1.

(18)

2.2 A環フラグメントの不斉合成

2.2.1 ケイ素架橋型分子内求核付加反応を利用したA環の不斉合成

A環フラグメント30の不斉3級アルコールの合成のため、森らが報告した、光学活 性な β-ヒドロキシケトン 32 16)の有用性に注目し、32 を用いて 30 の合成を開始した

(Scheme 10)。

O

O

baker's yeast Triton X-100 sucrose

H2O, EtOH, 30 oC, 2 d

OH

O 32 87% (68% brsm)

> 99% ee

Scheme 9. Preparation of β-hydroxyketone 32 via baker’s yeast reduction.

OH

O 32

a, b

O

O 33

Si

I c

O

O Si

Li

O

34

Si HO

d-f

O

O O 35

g

O

O O 36

O

O O 37 +

NNH2

O O 38

I

O O 39

I

O O 40 Ph

h i

j, k l, m

I

30 BnO CHO

Scheme 10. Reagents and conditions: (a) ClMe2SiCH2Cl, imidazole, CH2Cl2, rt, 1.5 h, 96%; (b) NaI, acetone, reflux, 10 h, 98%; (c) t-BuLi, THF, –78 oC, 5 min; (d) H2O2, KHSO4, KF, THF/MeOH (1:1), 10 h, rt; (e) CSA, acetone, rt, 1 h; (f) Dess-Martin periodinane, CH2Cl2, rt, 2 h, 83% (4 steps); (g) MeI, NaH, THF/DMF (4:1), rt, 19 h (h) H2NNH2, Et3N, EtOH, sealed tube 130 oC, 4 d; (i) I2, DBU, Et2O, 0 oC → rt, 15 min; benzene, reflux, 3 h, 29% (3 steps); (j)

(19)

PTSA-H2O, MeOH/H2O (10:1), reflux, 1.5 d, 95%; (k) PhCH(OMe)2, CSA, CH2Cl2, rt, 1 h, 100% (dr = 1:1); (l) DIBAL-H, CH2Cl2, rt, 4 h; (m) Dess-Martin periodinane, CH2Cl2, rt, 5 h, 87% (2 steps).

ヒドロキシケトン32 の2 級水酸基をClCH2Me2Si基で保護し、Clを Iへと変換し、

33とした。ここで化合物33に対し、筆者の見出したケイ素架橋型分子内求核付加反応

17)を行った。即ち、化合物33t-BuLiで処理すると、ケトンへの付加反応よりもハロ ゲンリチウム交換が優先し、分子内より求核付加反応が進行し、単一の異性体として 34が得られた。ハロゲンリチウム交換はSiのp-σ*相互作用によるアニオン安定化とケ トンα位の4級炭素による立体障害のため、ケトンの付加反応よりも優先したものと考 えられた。環化体34はシリカゲルカラムクロマトグラフィー中で一部分解することか ら、精製を行わずに続く玉尾酸化 18)、アセトニド保護、Dess-Martin 酸化を行い、ケト ン35とした。化合物35のモノメチル化はLDAを用いた場合、反応の完結に3当量以 上を要し、反応の再現性は得られなかった。NaH と MeI を用いて反応を行ったが、モ ノメチル体36とジメチル体37が分離不可能な混合物として得られた(36/37 = 2:1)。そ のため、混合物のままヒドラゾン38へと変換し、Bartonの手法19)によりアルケニルヨ ージド39へと誘導した。ここで化合物39は精製可能であった。

第1章の検討では3級アルコールにMOM基を導入していたが、環化後にMOM基の 脱保護を試みるとC1位に3 級カチオンが生じ、C11-15位の結合が転位し、5-7-6員環 化合物20)が得られた。そこで、脱保護容易なBn基で保護することとした(Scheme 11)。

Scheme 11. Undesired rearrangement of 25 during the deprotection of MOM.

39のアセトニドをベンジリデンへ変換し、DIBAL-Hのtoluene溶液で処理して還元的 にベンジリデンを開裂後21)、生じた1級アルコールをDess-Martin酸化をし、A環フラ グメント 30 へと誘導することに成功した。DIBAL-H での還元的開裂の際、DIBAL-H

のhexane溶液を用いると試薬の反応性が高いため、基質の分解を伴ったが、toluene溶

液を用いることで収率の向上が見られた。しかし、溶媒を tolueneとすると位置異性体 である1級のベンジルエーテルが多く得られた。

A環フラグメント 30の不斉合成に成功したものの、総収率と実験効率に難を残した ため、合成ルートの改良を行うこととした。問題の工程としてはケトン35のモノメチ ル化であった。LDAやNaHを用いるとエノラートが完全に生成せず、メチル化した生

MOMO OBn 25

H

OBn -MOMOH

OBn

H2O

OBn OH

(20)

成物がさらにエノラートとなることでジメチル体が生じたものと考えた。そこで、ケト ン35から完全にエノラートへと誘導できれば、モノメチル体36が得られるものと考え、

Stork法22)を用いてモノメチル化を試みた。化合物35をシリルエノールエーテル41

変換することを試みたが、LDA、TMSClを用いる条件では対応する41への変換は進行 しなかった。しかし、Et3N、TMSOTf を用いる条件により収率良く41へ変換できた。

得られた41に MeLiを反応させ、Liエノラートへと変換後、MeI との反応によりジメ チル体37の生成を抑制できた。続いて、化合物36をヒドラゾン38へ変換し、Barton のヨウ素化を行う際、これまではEt2O中で反応させた後、benzeneを加え、Et2Oを除去 し、還流していた。ケトンのα位にメチル基を有する基質の場合、反応が遅いことから

benzene中還流することが必要であった。当初からbenzeneを用いるとI2とDBUの塩が

溶解しないため、反応は進行しなかった。このEt2Oを除去する工程が煩雑であるため、

Et2Oほどの極性で高沸点のエーテル系溶媒であるCPME(沸点105oC)を溶媒として用 いたところ反応は期待通り進行し、簡便な実験操作で同様の収率で反応を実現できた

(71% (4 steps))(Scheme 12)。

O

O O 35

a

OTMS

O O 41

b

OLi

O O

O

O O 36 NNH2

O O 38

I

O O 39 d

c

Scheme 12. Reagents and conditions: (a) TMSOTf, Et3N, CH2Cl2, –20 oC, 2 h, 100%; (b) MeLi, THF, rt, 30 min; then MeI, 0 oC → rt, 12 h, 93% (dr = 2:1); (c) H2NNH2, Et3N, EtOH, sealed tube, 110 oC, 5 d, 89%; (d) I2, DBU, CPME, 0 oC → rt, 20 min; then reflux, 2 h, 90%.

また、35 のアセトニドの代わりにベンジリデンで保護した化合物ではシリルエノー ルエーテルへの変換の際、ベンジリデンの脱保護を伴った。

以上のように筆者が見出したケイ素架橋型分子内求核付加反応により、光学活性なヒ ドロキシルケトン32から14 工程総収率48%、平均収率95%という合成効率の良いル ートでA環フラグメント30の合成に成功した。

(21)

NNH2

O O 38

I2

N

O O

I N

O O I DBU

-H-DBU I

N

I

O O -N2

H

DBU

I

O O -H-DBU

I

39 I I NH

H H

N

O O

I N

H

I N

O O

I N

I DBU

-H-DBU I

N

O O

I N

Scheme 13. Proposed mechanism of Barton’s iodination.

2.2.2 有機触媒を利用した不斉酸化によるA環の不斉合成

分子内ケイ素架橋型求核付加反応により30 の効率的合成ルートを確立したが、更な る短工程化と有機触媒を用いた反応の簡便さと興味から新たな合成計画を立案した。

有機触媒は 1970 年にプロリンを用いた分子内不斉 aldol 反応により Hajos-Parrish-

Eder-Sauer-Wiechert ケトンが合成されて以来、およそ 20 年間殆ど研究されていなかっ

た。しかし、近年の金属を用いた不斉触媒反応は金属のリーチングにより生成物に金属 が残存する問題を孕んでおり、その点、有機触媒は金属を用いないため、金属が生成物 に残留しないことからグリーンケミストリーとして非常に注目を集め、盛んに研究が行 われている 23)

NH

CO2H

R O

H

N CO2H H R

N CO2H R H

N O

O H O Ph N

R N CO2

H R PhHNO

H2O O

H R PhHNO O PhNO

H R PhNO

N OH Ph

PhNNPh O

O H R HO

D(+)-proline

Scheme 14. Proposed mechanism of asymmetric oxidation with D(+)-proline.

(22)

中でも、Zhong 24)、MacMillan 25)、林26)、Cordová 27)らによってそれぞれ独立に報告さ れたプロリンとPhNOを用いたアルデヒド、ケトンの不斉酸化はカルボニルのα位に天 然物に多く含まれる不斉2級アルコールを導入できる有用な手法である(Scheme 14)。

しかし、我々の知る限り、これまでは単純な基質への適用例のみであり、不斉3級ア ルコールの合成例は未だ存在しない。本反応を利用した30の合成は挑戦的であるが、

アルデヒドのα位に不斉4級炭素を有することから反応面の制御が容易と考えられ、高 い選択性の発現が期待できた。実際に反応を検討すべく、文献既知のケトン42 28)から

Wittig反応、続く酸加水分解を行い得られるプロキラルなアルデヒド 44 を用いて検討

を開始した。

I

O

I

MeO

I

CHO

a b

42 43 44

Scheme 15. Reagents and conditions: (a) KHMDS, MeOCHPPh3Cl, THF, rt, 3 h; (b) PTSA- H2O, CH2Cl2, rt, 30 min, 67% (2 steps).

44に対しZhongらの条件を参考にD(+)-プロリンを30 mol%、PhNOを3当量、rtで DMSO を溶媒として反応を試みると、反応は進行したが、想定したアミノオキシ体 45 ではなく、N-O結合が切断されたヒドロキシアルデヒド46が得られた。化合物46は試 薬由来の副生成物との分離不可能な混合物であったため、精製せずに NaBH4 を用いて アルデヒドを還元し、ジオール47を 2工程45%で得た。光学純度の決定は47 をアセ トニドで保護した39にて行った。中程度の収率ながら期待通り86% eeと高いエナンチ オ選択性で不斉3級アルコールの合成に成功した(Table 5, entry 1)。ジオール47は分 子内ケイ素架橋型求核付加反応を経由したA環不斉合成ルートの中間体であり、3工程 でA環フラグメント30への変換が可能である。更なる収率向上を期待し、シリンジポ ンプでPhNOのDMSO溶液を12 hかけて滴下したが、結果はほぼ変わらなかった(entry 2)。次に、各種溶媒を検討することとした(entry 3-8)。プロリンを触媒とする他の反応 では H2O の添加による収率向上が見られるため行ったが、本反応では収率、エナンチ オ選択性ともに低下した。反応の遷移状態において、カルボン酸とPhNO間の水素結合 がH2Oにより阻害されることが原因であるものと推定した。DMF、NMP、MeCN、MeNO2

などの極性溶媒でもDMSOを上回る結果は無く、CH2Cl2以外の非極性溶媒、エーテル 系溶媒では反応さえしなかった。

従って、溶媒をDMSOに固定し、他の有機触媒を探索した。Scheme 14に示した通り、

反応の遷移状態ではPhNOの窒素原子と(E)-エナミンを有するプロリンのカルボキシル 基の水素原子間で水素結合した擬いす型の 6 員環遷移状態を経由した反応機構が提唱

(23)

されている。即ち、エナミン形成可能な2級アミンと水素結合可能な官能基を持つ不斉 有機触媒が良い結果を与えるはずである。

上記の仮説を証明するように(–)-プロリノール 29)を用いた場合、全く反応しなかった

(Fig. 2)。さらに、チアゾリジン48 30), 49 31)や酸性度の高い水素原子を有するメタンス ルホンアミド50 32)においても全く反応の進行が見られなかった。

Table 5. Asymmetric oxidation of 44 with organocatalyst.

I

CHO

I

PhHNO CHO

I

HO CHO +

NaBH4

MeOH rt, 10 min

I

HO conditions, rt, 48 h

44 45 46 47

entry catalyst (mol%) solvent yield (%)

1 D(+)-proline (100) DMSO 45

2 D(+)-proline (100) DMSO 43

3 D(+)-proline (100) DMSO/H2O (9:1) 8

4 D(+)-proline (100) 22

5 D(+)-proline (100) NMP 20

6 D(+)-proline (100) 11

7 D(+)-proline (100) trace

PhNO (3.0 equiv)

ee (%) 86 84 59 75 79 16 nd DMF

MeCN MeNO2

8 D(+)-proline (100) CH2Cl2 5 38

9 DMSO 15 59

NH O HN

SO2 51

10 DMSO 21 20

NH O HN

SO2

52 NO2

11 DMSO 53 85

NH HN N 53 N N

(30)

(30)

(100)

aIsolated yield of diol 47. ee of 39. Slow addition of PhNO solution with syringe pump over 12 h.b

a

c

OH CSA acetone rt, 30 min

I

O O 39

c

b

NH

OH

(-)-prolinol

S NH

CO2H

S NH

CO2H N

H O

HN SO2

Me

48 49 50

Figure 2. Other organocatalysts.

(24)

さらに酸性度の高い水素原子を有するベンゼンスルホンアミド51 では低収率、低選択性 ながら反応が進行したため、酸性度を高めることを目的とし、p-ニトロベンゼンスルホンア ミド52 で反応を行ったが、改善は見られず、逆に選択性が低下する結果となった。Leyら が報告した極性溶媒中でカルボン酸と同程度の酸性度を示すテトラゾール53 33)で反応を行 ったところ53%、85% eeとプロリンと同程度のエナンチオ選択性でこれまでの最高収率で 47を得ることができた。

以上のように我々は有機触媒のプロリンを用いた触媒的不斉酸化反応により、これまで に適用例のない高エナンチオ選択的な不斉3級アルコールの導入に成功し、12工程でA環 フラグメント30の不斉合成を達成した。現時点では実用レベルではないが、今後更なる改 良を加えることで効率的な30の合成ルートになりうるものと考えている。

2.3 C環フラグメントの不斉合成

2.3.1 2-benzyloxymethyl-2-methylcyclohexane-1,3-dioneの合成

C環フラグメント31a,bは不斉4級炭素と不斉2級アルコールを有しており、その効 率的な不斉構築が合成の鍵である。筆者は当研究室で開発されたプロキラルなジケトン

54のbaker’s yeast還元により高エナンチオ、高ジアステレオ選択的に得られるキラルビ

ルディングブロック55 34)を利用することを計画した。

O BnO

O

baker's yeast Triton X-100 sucrose

H2O, EtOH, 30 oC, 2 d under Ar

OH BnO

O 75% (85% brsm)

54 55

>99% ee

Scheme 16. Preparation of β-hydroxyketone 55 via baker’s yeast reduction.

初期の54の合成ルートは以下の通りである(Scheme 17)。市販されている2,6-ジメ トキシ安息香酸からBirch還元し、カルボン酸をエステル化35)、生じたエステルのα位 をメチル化し、エステル部位をDIBAL-H還元して59を得た。生じた水酸基をBn基で 保護し、最後に酸加水分解をすることでプロキラルなジケトン54を合成した。しかし、

Birch 還元後、生じたアルケニルエーテルが耐えうる条件でカルボン酸を得るため、溶

液をpH 3に調整する工程が煩雑であり、実験効率が低い。そのために、大量合成が困 難であった。また、Li, MeI, DIBAL-Hを大量に用いるため、反応効率の点でも問題があ った。そこで、ジケトン54のより簡便で実用性のある合成法を探索した。

(25)

HO2C

OMe

HO2C

OMe

MeO2C

OMe

MeO MeO MeO

MeO MeO

OMe OMe

MeO2C

HO

MeO

OMe BnO

O O BnO

a b

c d e

f

56 57

58 59

60 54

Scheme 17. Reagents and conditions: (a) Li (excess), MeOH, liq. NH3, –78 oC → reflux, 10 min; (b) MeI (excess), K2CO3, acetone, reflux, 10 h, 67-91% (2 steps); (c) LDA, MeI, THF, –78

oC → 0 oC, 1 h, 96%; (d) DIBAL-H, CH2Cl2, –78 oC, 15 min, 96%; (e) BnBr, NaH, TBAI, THF/DMF (10:1), rt, 10 h, 89%; (f) THF/2M HCl (2:1), rt, 15 min, 95%.

Schultzらは2,6-ジメトキシ安息香酸メチルよりBirch還元後、MeIでの後処理により

1工程で4級炭素が構築されたエステル58の合成を報告している36)。本手法はNaを3 当量用いるだけで 4 級炭素を構築できる素晴らしい手法である。この報告を参考に 54 の合成を行うものとし、まずカルボン酸からエステルへの変換を試みた。オルト位に置 換基を有する 2,6-ジメトキシ安息香酸からのエステル化は通常立体障害により進行し づらいが、化学量論量の BF3-OEt2、MeOH の条件 37)で処理することにより反応性の高 いアシリニウムカチオン中間体を経由し、定量的にエステルを得ることに成功した。続

いて、Birch還元により58を得た。この際に分離しがたい副生成物が生じたため、ショ

ートカラムを通して混合物のまま以降の反応を行った。安価な LiAlH4でエステル部位 を還元し、これまでと同様に生じた水酸基をBn基で保護し、酸加水分解を行うことで ジケトン54を 5工程70%で得ることに成功した。本合成法は簡便かつ100gスケール においても適用可能な非常に優れた合成プロセスである。

続く、54のbaker’s yeast還元はyeast extractの添加により発酵が高まり、わずかに原 料回収するものの高収率で55を得ることができた38)。その効果はいまだ不明であるが、

還元活性が向上し、一部さらに還元の進行したジオールが得られた。

キラルビルディングブロック55 の安定供給が可能となったので、C環フラグメント

31a,bの共通中間体61 の合成を行った。化合物55の Bn基を加水素分解し、生じたジ

オールをベンジリデンで保護し、61 へと誘導した。加水素分解で生じる β-ヒドロキシ ルケトンは室温で分解するため短時間での反応完結を要した。

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