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M g - N i 薄 膜 の 水 素 セ ン サ へ の 応 用 に 関 す る 研 究

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

Mg-Ni薄膜の水素センサへの応用に関する研究

内山, 直樹

https://doi.org/10.15017/1807026

出版情報:Kyushu University, 2016, 博士(工学), 課程博士 バージョン:

権利関係:Fulltext available.

(2)

.

M g - N i 薄 膜 の 水 素 セ ン サ へ の 応 用 に 関 す る 研 究

九 州 大 学 大 学 院 工 学 府 水 素 エ ネ ル ギ ー シ ス テ ム 専 攻

内 山 直 樹

(3)

i

目次

第1章 序論 ... 1

1-1 研究背景 ... 2

1-1-1 はじめに ... 2

1-1-2 Mg 系水素吸蔵材料 ... 5

1-1-3 調光ミラー ... 6

1-1-4 水素センサ ... 8

1-1-4-1 水素センサに求められる性能 ... 8

1-1-4-2 燃焼式水素センサ ... 9

1-1-4-3 半導体型水素センサ ... 9

1-1-4-4 熱電変換式水素センサ ... 9

1-1-4-5 貴金属触媒担持水素吸蔵材料薄膜水素センサ ... 10

1-1-5 ナノ材料による水素吸蔵 ... 11

1-2 本論文における研究目的 ... 13

1章の参考文献 ... 14

第2章 スパッタリングを用いたMg-Ni薄膜の制作とその水素吸蔵・放出特性 ... 16

2-1 はじめに ... 17

2-2 実験 ... 19

2-3 結果と考察... 21

2-3-1 X線反射率法(GIXR、XRR)による膜厚測定 ... 21

2-3-2 ラザフォード後方散乱法(RBS)による組成比の測定 ... 27

2-3-3 Mg-Ni薄膜の水素化前後の光学特性 ... 33

2-3-3-1 Mg-Ni層の膜厚による光学特性 ... 33

2-3-3-2 Mg-Ni層の組成比による光学特性 ... 37

2-3-3-3 Pdキャップ層の膜厚による光学特性 ... 39

2-3-4 X線薄膜測定法によるMg-Ni層の結晶状態の確認 ... 43

2-4 まとめ ... 45

第2章の参考文献 ... 46

(4)

ii

第3章 Mg-Ni薄膜のXAFS分析 ... 47

調光薄膜材料の局所構造に関するXAFS分析 ... 48

3-1 はじめに ... 48

3-2 実験 ... 48

3-3 結果と考察 ... 49

3-4 まとめ ... 51

第3章の参考文献 ... 52

第4章 透過型電子顕微鏡 (TEM : Transmission electron microscopy)観察 ... 53

4-1 マグネトロンスパッタ法により成膜したMg-Ni薄膜の透過顕微鏡断面観察 ... 54

4-1-1 はじめに ... 54

4-1-2 実験方法 ... 55

4-1-3 結果と考察 ... 56

4-1-3-1 Mg-Ni薄膜微構造に対するMg/Ni比の影響と水素吸蔵放出特性 ... 56

4-1-3-2 水素化サイクル後のMg6Ni薄膜微構造 ... 62

4-1-4 まとめ ... 65

4-1-5 参考文献 ... 66

4-2 マグネトロンスパッタ法で成膜したMg-Ni薄膜の 水素吸蔵反応のTEMその場観察 ... 68

4-2-1 はじめに ... 68

4-2-2 実験方法 ... 70

4-2-3 結果と考察 ... 71

4-1-3-1 水素化前(その場観察前)のMg6Ni薄膜断面微構造と組成分布 ... 71

4-1-3-2 Mg6Ni薄膜の水素雰囲気中in-situ TEM観察結果 ... 73

4-2-4 まとめ ... 76

4-2-5 参考文献 ... 77

(5)

iii

第5章 Mg-Ni薄膜の水素センサへの応用... 79

スパッタ成膜したMg-Ni薄膜を用いる新しい水素センサ ... 80

5-1 はじめに ... 80

5-2 実験方法... 81

5-3 結果と考察 ... 82

5-4 まとめ ... 88

第5章の参考文献 ... 89

第6章 金属ナノ粒子を用いた水素吸蔵材料の 分光学的手法による化学状態分析 ... 90

6-1 はじめに ... 91

6-2 実験方法 ... 93

6-2-1 試料作製... 93

6-2-2 水晶振動子微量天秤(QCM)を用いた水素吸放出特性評価 ... 95

6-2-3 化学状態分析 ... 96

6-2-3-1 X 線光電子分光(XPS) ... 96

6-3 結果と考察 ... 99

6-3-1 XPS による表面化学状態分析 ... 96

6-3-2 Mg-Pd ナノ粒子の水素吸放出特性 ... 99

6-3-3 水素曝露前後における XAFS 分析 ... 101

6-4 まとめ ... 104

第6章の参考文献 ... 105

第7章 総論... 106

7-1 総括 ... 106

7-2 今後の展望 ... 109

謝辞 ... 111

(6)

- 1 -

第1章

序論

(7)

- 2 - 1 序論

1-1. 研究背景

1-1-1. はじめに

人類は生活する上で利便性を求める代償として多くの地球資源を利用している。衣 類から始まり道具の進化、移動する手段などすべてにおいて資源やエネルギーを利用 してきた。さらに豊かな経済を支えていく為に多くのエネルギーを消費している。20 世紀には後進国であった国々が21世紀には高度成長期を迎え地球温暖化や大気汚染が 加速してきた。持続可能なエネルギーを考える上で、資源的及び環境的制約の大きな化石 燃料から自然エネルギーへの転換を段階的に行っていくことは避けられない状況にあり、そ の有効利用のためには化石燃料依存のエネルギーシステムから自然エネルギー利用を前提 に最適化する必要がある。太陽光発電や風力発電をはじめとした自然エネルギーのデメリッ トとして日照時間や天候などの条件によって送電量が変化するという点がある。これまでの大 型で局所的な発電施設から大電力を需要地に送電するというシステムにおいて、送電が不 安定な自然エネルギーによる発電は適用困難であり、電力をいったん貯蓄しそれを必要に応 じて使用するといったシステムに転換していくことが望ましい。電力という形態で大量のエネル ギーを貯蓄するには大量の二次電池が必要となり、電極材料の資源的制約を考慮すると現実 的ではない。それに代わる手法として、電力によって水素を生成し、電気エネルギーではなく 化学エネルギーとして貯蓄、運搬する手法が提案されている 1)。水素は水の電気分解反応 や燃料電池を用いることで容易に電気エネルギーとの相互変換が可能な物質であり、その変 換反応も単純なため環境負荷も小さい。送電システムに加えて、自動車の燃料までも水素で 置き換えることで環境負荷を大幅に低減することができ、社会に与える波及効果は非常に大 きい。このような水素を主な二次エネルギーとして利用した社会の形態を水素エネルギー社 会と呼び、東京都は水素エネルギーが普及した将来像を図 1のようにしている。

(8)

- 3 -

図 1. 水素エネルギーが普及した将来像 2)

水素エネルギー社会を実現するためには水素生成技術、水素貯蔵技術の確立が不可欠 であり、それらの研究開発が盛んに行われている 3)。我が国では2020年に東京オリンピック の開催が予定されており、水素社会を目指す自治体活動も活発になりつつある。一昨年の東 京モーターショーでは水素製造の地産地消化を視野に入れた燃料電池車の発表もあり、水素 精製技術、水素貯蔵技術も研究開発段階から実証試験段階へと移行しつつある。このような 状況にあって移動体については高効率内燃機関、車体の軽量化、タイヤを含めた転が り抵抗の削減、太陽光発電パネルの搭載、廃熱発電や排ガス発電による電気回生によ る燃費向上、電気自動車やハイブリッド車、内燃機関効率を向上させた超低燃費車へ の期待が高まり究極のエコカーとして燃料電池車が2015年から発売が開始された。現 段階では電気自動車やハイブリッド車などバッテリーに蓄電された電気を利用する自 動車がエコカーの中心であり、今後10年間はバッテリー搭載車が増え続けると予想さ れる。図 2に新車(乗用車)販売台数に占めるEV・PHV の割合のイメージを示す。

(9)

- 4 -

図 2. 新車(乗用車)販売台数に占めるEV・PHV の割合のイメージ 4)

しかしながらバッテリー材料そのものの安全性や資源性、さらにはリサイクルといった課題もあり 早期に燃料電池車の普及が必要であるという声も強い。燃料電池車、水素エネルギー社会の 実現のためには水素を効率的に製造し輸送し供給するシステムと車両で容易に搭載して使用 できるシステムが重要である。これを達成するには安価で容易に車両に搭載できる水素の車 上搭載システムが必要である。また水素エネルギーに対する国民の理解、安全に利用できる 環境など技術的な課題解決と同時に社会普及活動も必要である。本稿では水素を安全に利 用することを目的とした常温・常圧で水素吸蔵可能な材料を目指した研究と水素センサや水 素貯蔵材料など、その応用について述べていく。

(10)

- 5 - 1-1-2. Mg系水素吸蔵材料

Mg は水素吸蔵材料として古くから知られており、水素化物 MgH2 を形成することに よって水素を吸蔵する。Mg自身が軽元素であるため質量あたりの理想的な吸蔵量は非 常に多く、7.6 wt%と見積もられる。遷移金属や希土類元素を多く含む材料の吸蔵量が

1~2 wt%程度であることを考慮すると、Mgは非常に高い水素吸蔵量を有していること

が分かる。さらに、Mgを水素吸蔵材料として用いる利点として比較的安価な点が挙げ られる。 Mg は地殻中に多く含まれており、鉱物としても多く産出されているため低価 格で流通している。

Mg 系材料の実応用における問題点は、水素吸放出における反応温度の高さと水素吸 放出速度が遅いことである 5)。Mg 単体の場合、300℃以上の高温条件下でしか水素吸放 出をしないことが知られている。FCV に搭載される燃料電池の廃熱は 80℃程度である ため、Mg 単体を FCV に車載しても加熱装置などが必要となり車輛システムとして成立 しない。300℃以上の温度条件下においても、Mgの水素吸放出には数時間程度の時間を 要する。Mg の水素吸放出反応温度の高さと水素吸放出速度の遅さは Mg 表面上におけ る水素分子解離活性の低さとMg 内部における拡散速度の遅さに起因している。

5. Mg 及び MgH2 の結晶構造 6,7)

水素吸蔵材料が水素を吸蔵する際には①水素分子の材料表面上への飛来及び吸着、② 水素分子の解離、③表面から材料内部への拡散、④材料内部における水素原子の固定化、

4 つの過程を経ることになる。このうち、Mg 表面上における水素分子の解離活性が極 めて低いために、高温条件下でのみ水素分子の解離が生じる。また、たとえ水素分子が解 離して材料内部に拡散したとしても、MgH2 相が水素原子の拡散を妨げるバリア層とし て働くため、その後の Mgの水素化が迅速に進行しない 5)。以上 2点の問題点を克服し ない限り、Mgを水素吸蔵材料として実用することは困難である。

(11)

- 6 - 1-1-3. 調光ミラー

1996年 にオランダのグループにより、触媒層をつけたイットリウムやランタンな どの希土類金属薄膜が反射型のクロミック特性をもつことが発見され、彼らにより

"Switchable Mirror"と名付けられ新しい調光素子として注目されるようになった 8)(本 論文では調光ミラーとする)。薄いパラジウムをコーティングした希土類金属薄膜は、

水素雰囲気に曝すことで、水素化して透明になり、酸素雰囲気に曝すことで元の金属 状態に復帰して鏡状態になる。このような変化は、ガスクロミック的に雰囲気のガス を切り替えることで起こすこともできるし、また、電解質を用いて電気的にスイッチ ングができることが報告されている。その後、Gd-Mg 9)、Sm-Mg 10)、Y-Mg 11) といった希土類 とマグネシウムの合金も同様の調光ミラー特性をもつことが見いださ れている。また、2001年にはアメリカのローレンス・バークレー研究所のグループに より、Mg-Ni合金薄膜が同様の調光ミラー特性をもつことが発見された 12)。これら 調光ミラー特性を示す材料の中でも、マグネシウム・ニッケル合金は、原料としてマ グネシウムとニッケルという豊富で安価な材料を使うことから、調光ミラーの大型ガ ラスへの応用を考える場合、最も適した材料であると考えられる。そのため、このマ グネシウム・ニッケル系の調光ミラー薄膜の研究が進められている。Mg-Ni合金薄膜 を水素化した場合、2種類の水素化物が形成される 13)。ひとつはMg2Niの水素化物 であるMg2NiH4、もうひとつはマグネシウムの水素化物であるMgH2である。このう Mg2NiH4はバンドギャップが1.7-2eV程度の半導体で、バルクの結晶は赤色(錆色) をしている。これに対してMgH2はバンドギャップ5.1eVの絶縁体で、バルクは無色 透明である。一方、X線回折などによる解析では、スパッタ法で作製したMg6Ni等の マグネシウムに富んだMg-Ni合金薄膜は、水素化するとMgH2とマグネシウムの混晶 になっている。Mg2Niを水素化すると、主としてMg2NiH4が形成されるので、濃い茶 色に変わる。これに対して、マグネシウムに富んだマグネシウム・ニッケル合金で は、MgH2の量がMg2NiH4に対して相対的に多くなるため透明度が上がっていくものと 解釈されている。調光ミラーは主に窓ガラスへの光や熱の出入りをコントロールする 調光ガラスとして従来は研究が進められてきた。14)

この材料は、室温において1気圧の水素雰囲気下に曝露するだけで水素を吸蔵し、その 後材料を乾燥空気に触れさせるだけで水素を放出するという驚くべき水素吸放出 特性を有し ている。さらにこの水素吸蔵と放出は共に数十秒以内に完了するという点も 特筆すべき性能 の一つである。これは Pd の高い水素分子解離活性による反応温度の低下と材料のスケール

(12)

- 7 -

ダウンによる水素拡散の短距離化の複合的な効果による成果であり、調光薄膜としてだけでは なく水素吸蔵材料としても高いポテンシャルを有している。常温・常圧条件で水素を吸蔵し 調光特性を持つMg-Ni薄膜は水素に対して選択的に反応することから新たな水素セン サとしての応用も期待できる。

(13)

- 8 - 1-1-4. 水素センサ

1-1-4-1. 水素センサに求められる性能

水素ガスは無色透明、無味無臭の気体であり、標準状態での密度は0.090g/L、空気に対 する比重は0.0695と非常に軽くて小さい分子である。大気中濃度4.0~74.2vol%の範囲にお いて爆発する危険性があり、その燃焼速度は最大で水素濃度42vol%の時3.46m/sにもおよ

16)。ここで可燃性ガスの一例としてメタンガスとの比較を表2に示す。

2. メタンガスと水素ガスの諸特性の比較 16)

項目 メタン 水素

分子量 (g/mol) 16.043 2.0158

比重 (空気=1) 0.55 0.0695

ガス密度 (Kg/m3) 0.651 0.083 沸点 (℃) -161.5 -252.9

発火温度 (℃) 580 572

爆発濃度範囲 (vol%) 5.015.0 4.074.2 拡散係数 (m2/s) 1.6 6.1 最大燃焼速度 (m/s) 0.4 3.46

水素ガスは他の可燃性ガスと比較して非常に拡散や浸透性が高いため、漏洩の危険性が 高い。さらには燃焼性も高いため、より低濃度の水素ガスを迅速に検知する必要がある。その 他のセンサ性能として、長期信頼性や温度、ガス圧力、湿度の環境耐性などの様々な因子が 求められている。現在市販されている水素ガスセンサは、接触燃焼式、半導体型などが主に

普及 17)しており、他にも熱電変換材料と接触燃焼式を複合化させたセンサ素子が開発され

て注目を集めている 18,19)。それぞれの水素センサには検知可能な濃度範囲や温度環境、

検知速度などに特徴があり、改善点が残されているのが現状である。以下にそれぞれの水素 センサの特徴をまとめる。

3. 水素ガス漏洩検知用センサの種類と諸特性の一例 16,18-21)

半導体型 接触燃焼式 熱電変換式

検知濃度範囲 1ppm~2% 100ppm~4% 0.5ppm~5%

検知時間 (s) ~20 1~10 ~60 駆動温度 (℃) 500 100~200 100

(14)

- 9 - 1-1-4-2. 燃焼式水素センサ

接触燃焼式ガスセンサは、Pt線コイルがPtおよびPt触媒を担持したアルミナ多孔質マトリ ックス中に内包された構造を持つ。使用には100℃ から200℃ 程度のセンサ温度を必要と する。マトリックスの構造などにより検知ガスの選択制を付与することができる。可燃性ガスはPt Pdなどの触媒金属によって燃焼し、そのときに発生する熱によってPtコイルが過熱され、

Pt線の電気抵抗が増加する。この電気抵抗を検出することで水素ガスの存在を検知する。出 力電圧がガス濃度に対して比例するため、このセンサはガス濃度検知用として非常に適した 特性を持っている。一方、周囲温度の影響を受けやすく、高感度化に限界があるなどの問題 点があり、水素爆発下限付近の高濃度領域のセンサとして用いられる。

1-1-4-3. 半導体型水素センサ

半導体型の検知素子は、SnO2などの酸化物半導体に触媒としてPdなどを担持させたセラ ミックスによって構成されている。これらのセンサは400℃ ~500℃ 程度の温度環境で使用さ れ、多くの種類のガスの検知に利用されている。可燃性ガスの検知にはn型半導体が用いら れる。

水素などの可燃性ガスを検知する場合、半導体セラミックス表面に存在する吸着酸素が可 燃性ガスによって還元され、表面および粒界付近の電位障害が変化する。つまり、水素ガスが 半導体セラミックスを還元し、センサ素子の電気伝導度が増大することにより水素ガスを検知 する。半導体型水素ガスセンサは、ガス検知が一般に高く、特に低濃度ガスの検知に適して いる。構造や電気回路が単純で大きな出力が得られるためにセンサ全体を小型化することが でき、また製造コストも低く抑えられていることが特徴として挙げられる。半導体型ガスセンサ は、プロパンガスや都市ガスのガス漏洩用、環境ガスや匂いの検知用として広く応用され、低 価格で高感度という利点を持つ一方、高濃度水素ガスの検知が難しく、400℃程度の高温に 保持する必要があるという問題がある。

1-1-4-4. 熱電変換式水素センサ

熱電変換式センサは、熱電変換材料SiGe(シリコンゲルマニウム)などの上に水素ガス燃焼 触媒としてのPt膜を一部分のみ形成する。Pt膜状に水素分子が到達すると、酸素との燃焼反 応により、Pt膜部分が過熱され、熱電変換部分に温度差が生まれる。この素子内での温度勾

(15)

- 10 -

配によって起電力が生じる。こうして生まれた起電力を検出することで可燃性ガスを検知する。

このセンサは、ガス濃度に対して非常に直線性の良い出力を示し、濃度検知センサへの応用 も期待が持てる。

1-1-4-5. 貴金属触媒担持水素吸蔵材料薄膜水素センサ

WO3に代表される貴金属触媒担持水素吸蔵薄膜は、水素ガス雰囲気化におけるガスクロミ ズム特性から光学的水素センサとして活発に研究がなされている。作成方法は乾式法、湿式 法、電気泳動法などの様々な方法が考案されている。特にスパッタリングによる作成がもっとも 一般的であり、水素吸蔵材料薄膜は以下のような特徴を持つ。

・原子オーダーで緻密・均質・均一な薄膜を得られる。

・膜厚をモニター制御できる。

・不純物混入量が少ない。

・膜厚制御性が高い。

WO3薄膜の場合、クロミック材料として使用する場合、スパッタリングによる作成ではWO3 が緻密になり、着色速度が遅くなるという難点がある。この対策として、結晶化が低く、疎な構 造を持つWO3薄膜を得るには、不活性ガスを注入し圧力を変化させ、基盤とターゲットの距 離を長くする必要があるが、これらの方法ではスパッタ効率が悪くなるという工業的なデメリット を持つ。

しかし、貴金属触媒担持水素吸蔵材料薄膜水素センサは水素検知に際して

・加熱する必要がなく、熱源を必要としない。

・光学的な水素検知が可能であり、自己防爆と判断される。

・水素漏洩箇所近傍に配置することが可能となる。

・水素の可視化が可能となるため、漏洩箇所の特定が可能である。

という他の水素センサにはない特徴も持つ。

(16)

- 11 - 1-1-5 ナノ材料による水素吸蔵

Mg の水素化、脱水素化における反応温度を下げ、かつ反応速度を上げるためには3つの 方法がある。ひとつはボールミリングによる構造の乱れを導入する方法である。ボールミリング とは、金属製やセラミック製のボールと金属粉末をミルポットと呼ばれる容器に導入し、ミルポッ トとその土台をそれぞれ高速回転させることで金属粉末を機械的に粉砕する手法である。ボー ルミリングによって金属粉末が微細化すると共に、結晶粒界がナノ化し、結晶構造中に欠陥が 導入され、アモルファス化するなどといった効果も同時に得られる。以上の結晶構造に関連し た乱れによって水素化及び脱水素化エンタルピーが変化するため、Mg の反応温度を下げる ことが可能である。A. Zaluska et al.は Ar ガス雰囲気下で 20 時間ボールミリングした Mg 粉末が 300℃、10 bar の水素雰囲気下において 6 wt%の水素を吸蔵することを示した 22)。

このときに要した時間は 120 分程度であり、ボールミリング前の Mg 粉末が 400℃の加熱条 件で同程度の時間をかけて も 1.5 wt %しか水素を吸蔵しなかったことを考慮すると、水素吸 蔵特性は飛躍的に向上したといえる。これに関して A. Zaluska et al.は、ボールミリングによっ て Mg 表面上に 粒界や点欠陥が導入されたことによって水素吸蔵特性が向上したと言及し ている。粒界や欠陥といった構造の乱れ部分は、それ以外の結晶格子に比べてポテンシャル が低く、水素などの原子が安定化しやすい23)。そのため、構造の乱れた部分に水素が蓄積さ れ、その部分を核として水素化物が形成されやすくなったと考えられる。

二つめの手法は、触媒金属の添加である。初期段階における Mg の水素化において、 速過程は Mg 表面上における水素分子の解離反応である。これは、前述のとおり、 Mg 面における水素分子の解離活性が低いことが原因であるため、表面活性を向上させる目的で 触媒金属原子を表面に添加することは非常に有効である。多くの遷移金属及び希土類元素 は水素分子解離活性を示すため、それらを Mg 表面に担持するだけでも水素吸蔵における 反応温度は低下すると考えられる 24)。さらに触媒金属が Mg と合金を形成することによって、

脱水素化反応におけるエンタルピーが低下することが報告されている。最も顕著な例が Ni Mg に添加し た場合 であり、Mg が Ni と合金化した Mg2Ni は水素を吸蔵するこ と で Mg2NiH4 という 3 元系の結晶構造を形成する。この脱水素化時の反応エンタルピーは 65 kJ/molであり、MgH2 の場合(78 kJ/mol)に比べて脱水素化温度が 100℃程度低下する。

反応温度の低下と水素原子拡散速度の向上に関する 3 つ目の手法が、材料のナノサイズ 化である。前述のボールミリング、触媒金属の添加の 2 つの手法は、水素化及び脱水素化に おける反応温度を低下させるのには有効だが、固体中における水素原子の拡散速度の向上 に関しては大きな効果は期待できない。初期の水素化反応以降においては水素化物による

(17)

- 12 -

水素原子拡散の抑制が反応を律することになるため、材料自身が数十ミクロンオーダー以上 のスケールを有している限り水素吸放出に要する時間を短縮化することは難しい。最も望まし いのは固体中における水素の拡散距離を極限まで短くすることであり、その要求を満たすのが ナノ材料である。ここでナノ材料とは、材料の持つスケールが 100 ナノメートル以下の材料を 指す。

材料のスケールダウンの手法としてナノ粒子化がある。ナノ粒子は直径が 100 nm以下の粒 子状物質であり、ここでは主に金属ナノ粒子について記述する。ナノ粒子がバルク材料に対し て有する利点として、①膨大な比表面積、②表面活性の向上、③量子サイズ効果の 3 つを挙 げることができる。バルク材料を粉砕すると、微細化した材料粉末のそれぞれに対して新たな 表面が生まれるため、体積あたりの表面積(比表面積)が増加する。これを極限まで繰り返した ものがナノ粒子であり、数 nm のナノ粒子はその構成原子のほとんどが表面原子に相当する

(表 1-1)。さらにナノ粒子化によって、その表面にEdge などの不飽和結合を有する表面構造 が多く導入されるため、表面活性が向上する。今日では、これら膨大な比表面積と高活性な点 を利用して、Pd や Pt などの白金族元素のナノ粒子が自動車排気ガスの浄化触媒に利用さ れている。1-1-2で述べた調光ミラー材料(Pd キャップ Mg-Ni薄膜)は金属薄膜層を担持させ る基板が必要となるため、優れた水素吸蔵性能を利用した水素貯蔵システムとしてはそのまま では利用しにくい。こうした優れた水素吸蔵性能を有効に利用するには薄膜からナノ粒子化す る方法も必要と考える。

1-1. ナノ粒子の粒径と表面原子数の割合の関係 25)

1辺の原子数 表面の原子数 全体の原子数 表面の原子数の全体に 対する割合

原子間距離が0.2nm 仮定した場合の粒径

1000 60×106 1×109 0.6 200 nm

100 58800 1×106 5.9 20 nm

10 488 1000 48.8 2 nm

2 8 8 100

(18)

- 13 - 1-2. 本論文における研究目的

水素を安全に利用することを担保するためには、水素の濃度を簡便かつ確実に知ることを 可能にする水素センサの実現が必要かつ不可欠である。本論文では、Mg をベースとした薄 膜材料が水素との反応で金属から半導体へと速やかに転移することを利用した水素センサの 開発とその機構解明を行った結果を報告する。

Mg-Ni薄膜を水素センサに応用するにあたり、水素化・脱水素化に影響する材料的な

要因、水素化・脱水素化の繰り返しによる劣化の材料的な要因を把握すること。その結 果を、材料組成、層構造、層の膜厚など仕様に反映することにより、信頼性の高い水素 センサの実用化の実現が可能と考える。なお、触媒金属としては空気中での水素化・脱 水素化時の大気酸化の影響を排する酸化防止膜としても有効であり、高い水素分子解離 活性を有する Pd を選択した。

以下のことを本論文において考察する。

1. Mg-Ni薄膜の製作と水素吸蔵・放出特性(第 2章)

2. Mg-Ni薄膜の局所構造に関するXAFS分析(第 3章)

3.透過型電子顕微鏡 (TEM : Transmission electron microscopy)観察(第 4章)

4. Mg-Ni薄膜の水素センサへの応用(第 5章)

5.金属ナノ粒子を用いた水素吸蔵材料の分光学的手法による化学状態分析(第6章)

Mg-Ni 薄膜の水素化・脱水素化特性は特異的であり、そのメカニズムを把握し、調光特性を

利用した水素センサへの応用に際して材料的な知見を構築し、さらには薄膜からナノ粒子化し た材料による水素貯蔵材料への応用に関する検討を行い、材料の高度化に関する知見を得る。

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- 14 - 第1章の参考文献

1) 太田健一郎,石原顕光:;「水素エネルギー社会への展望」表面技術56,4,pp.170-175 (2005).

2) 東京都環境局都市エネルギー部計画課 “水素エネルギー”について 普及啓発リーフ レット

3) 秋葉悦男:『水素エネルギー技術の展開』 普及版(シーエムシー出版,2010).

4) 経済産業省 EV・PHV ロードマップ検討会「EV・PHV ロードマップ検討会 報告書,

p6」(2016323日版)

5) I.P. Jain, C. Lal, A. Jaini, Int. J. Hydro. Ener. 35, 5133–5144 (2010).

6) G. V. Raynor, W. A. Hume-Rothery, Journal of the Institute of Metals 65, 477-485 (1939).

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(20)

- 15 -

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22) Zaluska, L. Zaluski and J.O. Strom–Olsen, J. Alloys Compd. 288, 217 (1999).

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25)木村宏: 材料強度の考え方(東京アグネ技術センター 2002).

(21)

第 2 章

スパッタリングを用いた

Mg-Ni 薄膜 の製作

とその水素吸蔵・放出特性

(22)

2 スパッタリングを用いたMg-Ni薄膜の製作とその水素吸蔵・放出特性

2-1. はじめに

自然エネルギー、再生エネルギーへの期待が高まる中、石油依存からの脱却やエネルギ ー使用の効率化の観点から、水素エネルギー利用技術の実用化開発が活発化している。開 発の主眼は水素の製造と貯蔵に関する技術、燃料電池の効率化技術、自動車への応用に 関する技術である。これらにおいて金属材料は、触媒や水素吸蔵、電極材料として重要な役 割を果たしている。現状ではバルク材料や微細粒子として利用されているが、これを微細結 晶化することで他の要素技術への応用が期待されている。マグネシウム系の水素吸蔵合金 は、水素吸蔵量 3.6mass%とされる Mg2Ni 組成の合金が研究され、特性改善のためには第 三元素の添加や微細結晶化が有効とされている。微細結晶化のひとつとして、薄膜作成によ る手法が考えられる。Mg は真空中における蒸気圧が他の金属と比較して著しく高い金属の 一つで、溶融・気化する真空蒸着法では蒸発速度の制御が困難であり、目的の組成の合金 薄膜を得ることはさらに困難となることが予想される。そのため、Mg には固体から直接金属 粒子を叩き出すことができる、スパッタリング法が有効と考えられる。

一方で 1996 年にオランダのグループにより、触媒層をつけたイットリウムやランタンなどの 希土類金属薄膜が反射型のクロミック特性をもつことが発見され、彼らにより"Switchable

Mirror"と名付けられ新しい調光素子として注目されるようになった 1)。薄いパラジウムをコー

ティングした希土類金属薄膜は、水素雰囲気にさらすことで、水素化して透明になり、酸素雰 囲気にさらすことで元の金属状態に復帰して鏡状態になる。このような変化は、ガスクロミック 的に雰囲気のガスを切り替えることで起こすことができる。その後、Gd-Mg 2)、 Sm-Mg 3)、

Y-Mg 4)といった希土類とマグネシウムの合金も同様の調光ミラー特性をもつことが見いださ れている。また、2001 年にはアメリカのローレンス・バークレー研究所のグループにより、マグ ネシウム・ニッケル合金薄膜が同様の調光ミラー特性をもつことが発見された 5)。これら調光 ミラー特性を示す材料の中でも、マグネシウム・ニッケル合金は、原料としてマグネシウムとニ ッケルという豊富で安価な材料を使うことから、調光特性を利用した製品の市場への適用を 考える場合、最も適した材料であると考えられる。薄いパラジウムをコーティングしたマグネシ ウム・ニッケル合金薄膜(以下、PdキャップMg-Ni薄膜とする)は水素ガスに曝されることで水 素化物を形成し、図 1 に示すように、可視光の透過率が変化する調光特性を有している 6)。

大量に水素を吸蔵する物質(Mg)と低温で水素を吸放出する物質(Pd)を、ナノメーターサ イズで構造制御することにより複合化協力現象を誘発させ、大量に水素を吸放出してかつ低 温で使用できる物質を開発する試みもされている。これまでに、100℃、0.1MPa・H2の条件に

(23)

おいて Mg に対し水素を 4.4wt%吸蔵し、真空中 120℃以下にてすべての水素を放出する ナノメーターサイズで複合化したPd-Mg 系多層薄膜を作製することが可能とされている 7)。

本章では、マグネトロンスパッタリング法による Pd キャップ Mg-Ni 薄膜の基本的な水素化 特性を金属薄膜の調光特性を用いて調べた結果を報告する。

1.PdキャップMg-Ni薄膜の水素化による光学特性の変化

(a) 水素化前(可視光を反射), (b)水素化後(可視光を透過),(c)水素の拡散状態可視化

(24)

2-2. 実験

2 3連マグネトロンスパッタリング装置の概略図を示す。Mg-Ni薄膜、及び Pdキャッ プ層は、金属マグネシウムと金属ニッケル、金属パラジウムのターゲットを3本のスパッタ銃に 装填したマグネトロンスパッタ装置により作製した。装置を真空引きした後、同時スパッタによ Mg Ni の合金薄膜をガラス基板上に蒸着した。その上に、真空中で引き続きパラジウム の薄膜をスパッタ蒸着した。このパラジウム層は、室温でMg-Ni層を水素化する触媒として働 くと同時に、下層の Mg-Ni 層の酸化を防ぐ酸化防止層としての働きも担っている。原子間力 顕微鏡(AFM)、X 線反射率(GIXR、XRR)を用いて薄膜の膜厚を分析した。ラザフォード後 方散乱法(RBS)を用いて薄膜の組成を分析し、組成 MgxNi (2<x<6)の膜を得るための、Mg Niに引加するパワー比を調整し、Mg-Ni 層の膜厚および Mg-Ni 層の組成比を変化させ た。ここではMgNiの組成比を示すため、Mg2Niのように記述する。

2. 3連マグネトロンスパッタリング装置の概略図

3に水素による光学特性を測定するための装置概略を示す。光学測定は、波長670nm のレーザーとシリコン・フォトダイオードを用いて、PdキャップMg-Ni薄膜の透過率をモニター した。計測にあたっては、サンプルの上にシリコンのスペーサーを挟んでガラス板を置き、

100%水素、あるいは乾燥空気と水素の混合ガスをこの間の空間に導入し、その際の光学透

(25)

過率変化を記録した。しばらく 100%水素あるいは混合ガスを流した後、このガスを止めて空 気を導入することで、脱水素化が起こり、薄膜は水素化状態から金属状態に復帰した。すべ ての測定は室温(25℃)で行った。

3. 水素による光学特性評価装置の概略図

(26)

2-3. 結果と考察

2-3-1. X線反射率法(GIXR、XRR)による膜厚測定

X線に対する物質の屈折率は1よりもわずかに小さいため、表面が平坦な物質の表面 すれすれに X 線を入射すると全反射を起こす。入射 X 線強度に対する全反射 X 線強 度(反射率)の薄膜表面への入射角度依存性を測定することにより、振動周期のプロファ イルを得ることができ、薄膜の構造パラメータ(各層の密度、膜厚、ラフネス)を非破壊で 評価することが可能となる。図4X線反射率測定装置の光学系イメージを示す。

4. X線反射測定装置の光学系イメージ

MgNiに引加するパワー比を調整し、Mg-Ni層の膜厚を80nm、Pdに印加するパワ ーを調整しPd層の膜厚を4nmとしたPdキャップMg2Ni、Mg6NiについてRigaku製全 自動水平型 X 線解析装置を用い X 線反射率測定を行った。試料はそれぞれについて 2試料とした。

5PdキャップMg2NiX線反射率測定プロファイルを示す。

(27)

5. PdキャップMg2NiX線反射率測定プロファイル

プロファイルには、膜厚に由来する振動周期のほかに 2θ=4.6°付近にピークが観測さ れた。このピークは周期構造に由来するものと仮定すると、周期間隔は 19Å程度であると示 唆される。このピークは2つの試験体とも観測された。

6. PdキャップMg2Niの反射率プロファイルと計算プロファイルの比較

1. フィッティングから求めた構造パラメータ(Mg2Ni)

Material Thickness(nm) Density(g/cm3) Roughness(nm) Material Thickness(nm) Density(g/cm3) Roughness(nm)

Pd 3.58778 15.1276 1.98082 Pd 3.99579 14.355 2.211

Mg2Ni 81.81 6.04282 0.401562 Mg2Ni 79.8552 4.91583 0.427463

Si 0.0[--] 2.32[--] 0.48086 Si 0.0[--] 2.32[--] 0.48

6PdキャップMg2Niの反射率プロファイルと計算プロファイルの比較を示す。Mg2Ni

の膜厚は短い振動周期に由来し、表 1 に示すようにその膜厚は 80nmとなった。AFM の結

(28)

果では膜厚の合計は86.33nmであったため、反射率測定より求めた Mg2NiおよびPdの膜 厚に表面粗さを加味すると十分相関が取れているといえる。

次に同様の測定を Pdキャップ Mg6Niについて行った。図 7Pd キャップMg6NiX 線反射率測定プロファイルを示す。

7. PdキャップMg6NiX線反射率測定プロファイル

8. 反射率プロファイルと計算プロファイルの比較

2. フィッティングから求めた構造パラメータ(Mg6Ni)

Material Thickness(nm) Density(g/cm3) Roughness(nm) Material Thickness(nm) Density(g/cm3) Roughness(nm)

Pd 3.588 13.0814 1.42711 Pd 3.2710 14.02 1.527415

Mg2Ni 69.179 3.56919 2.007 Mg2Ni 71.6010 1.6629 2.007

Si 0.0[--] 2.33[--] 0.45056 Si 0.0[--] 2.33[--] 0.2305

8PdキャップMg6Niの反射率プロファイルと計算プロファイルの比較を示す。Mg6Ni

の膜厚は Mg2Ni と同様に短い振動周期に由来し、表 2 のようにその膜厚はどちらもおよそ

70nmとなった。

(29)

AFM により測定した薄膜のトータル膜厚は、70.67nm であり求めた膜厚は妥当な値である と考えられる。

Mg2Ni、Mg6NiともにX線反射率法による膜厚測定が妥当であることが確認された。破壊

測定となるAFMによる膜厚測定では、膜厚測定試料と光学特性評価試料が別になるため厳 密な膜厚の整合が不十分であった。X線反射率法による膜厚測定は膜厚測定試料と光学特 性評価試料を同一のものとすることが可能となった。また、MgNiに引加するパワー比を調 整し、Mg-Ni層の膜厚を 80nmとし、Pdに印加するパワーを調整し Pd層の膜厚を4nmとし た成膜条件の確からしさが証明された。ただし、今回のX線反射率法による膜厚測定では全 反射臨界角やPdの膜厚に由来する長い振動周期が明確に観測されていないためフィッティ ングから求めた膜の密度や Pd の膜厚については概算レベルとなっている。今回観測されて いないPdの膜厚に由来する長い振動周期が Mg2Ni層、Mg6Ni層の膜厚測定に影響がな いことを確認する目的でPdキャップなしの Mg2Ni、Mg6Niについても X線反射率法による 膜厚測定を行った。

9. PdキャップなしのMg2NiX線反射率測定プロファイル

9PdキャップなしのMg2Ni試料の反射率測定結果を示す。いずれの資料にも膜厚 に由来するフリンジおよび構造由来と考えられる回析ピークは観測された。また今回のプロフ ァイルにも、膜厚に由来する振動周期のほかに 2θ=4.6°付近にピークが観測された。この ピークは 2 つの試験体とも観測された。この膜厚に由来するフリンジについて振動成分を抽 出して拡張フーリエ解析を行い膜厚を算出した。

(30)

10. 拡張フーリエ回析による膜厚評価

10PdキャップなしのMg2Niのフーリエ変換プロファイルを示す。MgNiに引加す るパワー比を調整し、Mg-Ni層の膜厚を80nmと見込んだ設計仕様の膜厚に相当するピーク 位置より膜厚を求めたところ、2試料それぞれ78.07nm、79.10nmとなった。この結果によりPd

キャップ Mg2Ni 試料では明確に確認されなかった Pd の膜厚に由来する長い振動周期が

Mg2Ni層の膜厚測定に影響のないことを確認した。

次に同様の測定を PdキャップなしのMg6Niについて行った。図 11Pdキャップなしの

Mg6NiX線反射率測定プロファイルを示す。

11. PdキャップなしのMg6NiX線反射率測定プロファイル

11PdキャップなしのMg6Niの反射率測定結果を示す。いずれの資料にも膜厚に 由来するフリンジが観測された。また Mg2Ni の試料で観測されていた構造由来と考えられる 回析ピークについてはPd キャップMg6Ni の測定結果と同様に観測されなかった。この結果 について振動成分を抽出して拡張フーリエ解析を行い膜厚を算出した。

(31)

12. 拡張フーリエ回析による膜厚評価

12に各試料のフーリエ変換プロファイルを示す。Pdキャップなし Mg2Ni の測定結果と

同様にMg-Ni層の膜厚を80nmと見込んだ設計仕様の膜厚に相当するピーク位置より膜厚

を求めたところ、2 試料それぞれ 78.00nm、75.90nm となった。この結果により Pd キャップ

Mg6Ni試料では明確に確認されなかったPdの膜厚に由来する長い振動周期が Mg6Ni

の膜厚測定にも影響のないことを確認した。

(32)

2-3-2. ラザフォード後方散乱法(RBS)による組成比の測定

ラザフォード後方散乱法の原理は、試料に高速イオン(He+、H+等)を照射すると、入射イ オンのうち一部は試料中の原子核により弾性(ラザフォード)散乱を受ける。散乱イオンのエネ ルギーは、対象原子の質量及び位置(深さ)により異なる。この散乱イオンのエネルギーと収 量から、深さ方向の試料の元素組成を得る方法である。

MgNiに引加するパワー比を調整し、Mg-Ni層の組成比率をMg2Ni、Mg6NiとしたPd キャップMg2Ni、Mg6NiについてNational Electrostatics Corporation製 Pelletron 3SDH 用いラザフォード後方散乱(Rutherford Backscattering Spectrometry)測定を行った。また、膜 厚測定は2-3-1で述べた X 線反射率法(GIXR、XRR)を用いた。試料はそれぞれについて 2試料とした。なお測定条件は表3のとおりである。

3. 測定条件

MCA分解能(/keV/ch) 2.4 エネルギー分解能(/keV) 18

入射イオン 4He++

入射エネルギー(/eV) 2.0 入射角(/deg) -55 試料電流 (/nA) 20 入射ビーム径 (/nm) 2 試料回転 (/deg) 0 照射量 (/µC) 100 チャンバー真空度 (/Pa) 4.4×10-5

13PdキャップMg2Niのラザフォード後方散乱法による試料の後方散乱スペクトルを

示す。図の中で、黒点は実測データを示し、実線は理論計算によって求めたスペクトルを表 している。ここで各々の色付きの実線が各元素の寄与によるスペクトル成分(各元素のシグナ ル)を表し、赤色の実線が合計の理論スペクトルを表している。

14に試料の深さ方向元素分布図を示す。

13 の理論スペクトルの計算時に仮定した各試料の組成分布であり横軸の単位、1015 atoms/cm2は、約1原子層に相当する。

通常RBSで用いられる深さ(厚さ)の単位は、1015 atoms/ cm2である。これは、試料内部で の入射イオンのエネルギー変化が、「イオンが通過した距離」ではなく「イオンが通過した範囲

(33)

内にある試料構成原子の面密度(atoms/ cm2)」に依存するためである。この単位をnmに換算 するためには、試料の原子数密度(単位体積当りの原子数)が必要になる。

14に図15の横軸をnmに換算した試料の深さ方向元素分布図を示す。換算には密度 に対する仮定が必要となる。換算において、Pd膜、Mg-Ni 薄膜の原子数密度は、膜厚が、X 線反射率法で測定した値と等しくなるよう以下の換算式を用いて決定した。

深さ(cm) 深さ(atoms/ cm2)/原子数密度(atoms/ cm3)

また、Si基板については密度例中Siバルク密度(5.00)の値を用いた。

13. ラザフォード後方散乱スペクトラム(PdキャップMg2Ni)

(34)

14. ラザフォード後方散乱法による薄膜の組成比分析結果

(PdキャップMg2Ni)

15. nmに換算したラザフォード後方散乱法による薄膜の組成比分析結果

(PdキャップMg2Ni)

(35)

ラザフォード後方散乱法により得られた組成はMg/Ni=2.39であり、MgNiに引加するパ ワー比を調整し、Mg-Ni層の組成比率をMg2Niとした設計仕様との整合性が図れた。

PdキャップMg2Niと同様にPdキャップMg6Niについてもラザフォード後方散乱法による

組成比率を測定した。図16に試料の深さ方向元素分布を示す。

16. nmに換算したラザフォード後方散乱法による薄膜の組成比分析結果

(PdキャップMg6Ni)

ラザフォード後方散乱法により得られた組成はMg/Ni=6.16であり、MgNiに引加するパ ワー比を調整し、Mg2Niと同様にMg-Ni層の組成比率をMg6Niとした設計仕様との整合性 が図れた。

次にPdキャップMg-Ni薄膜の水素化状態でラザフォード後方散乱法による水素も含めた

試料深さ方向の元素分布を確認した。

17に試料深さ方向の元素分布を示す。

(36)

17. ラザフォード後方散乱法による薄膜の組成比分析結果(水素化状態)

17のように試料の深さ方向において水素はほぼMg-Ni層に均一に存在していると考え られる。なお測定中の水素の離脱も考えられるため参考とはなるが本測定時の Mg-Ni 層中 の平均原子数比はH/MgNi=1.45となった。

18PdキャップされたMg単相膜においても同様に水素化状態でのラザフォード後方 散乱法による試料の深さ方向元素分布を示す。図18のようにMg単相においてもほぼ均一 に水素が存在していると考えられる。Mg-Ni 相と同様に測定中の水素の離脱も考えられるた め参考データとはなるが本測定時のMg単層膜中の平均原子数比はH/Mg=1.42となった。

Mg単相膜に対し、Mg-Ni薄膜の平均原子数に大きな差がないことは注目すべき結果と考え る。これは結晶性の高い Mg 単相膜に対し、Mg-Ni 薄膜は非晶質な状態であり原子間距離 が大きくなっていることに起因していることも考えられる。なお第3章からXAFSによる局所構 造解析結果、透過型電子顕微鏡(TEM)観察によるMg-Ni層の結晶化状態について述べて いくこととする。

(37)

18. ラザフォード後方散乱法による薄膜の組成比分析結果(Mg単層の水素化状態)

(38)

2-3-3. Mg-Ni薄膜の水素化前後の光学特性

2-3-3-1. Mg-Ni層の膜厚による光学特性

19PdキャップMg-Ni薄膜の水素化、脱水素化に伴う光学的透過率変化を示す。ま

た図20に水素化段階の光学的透過率変化の拡大図を示す。膜厚は3-1で述べたX線反射 率法にて測定した。Mg-Ni層の組成比は膜厚のみの影響を確認するため Mg6Ni とした。組 成比は3-2で述べたラザフォード後方散乱法にて測定した。薄膜は 100%の水素に曝される と図19、図20のように膜厚が厚くなるに従い水素化前の初期透過率が低くなっている。水素 化に対する光学的透過率の変化は Mg-Ni20nm 40nmでは水素化が飽和状態なる透 過率までが 3 秒程度と極めて高速であり、水素化の速度はほぼ同じである。これに対して

Mg-Ni層が 50nmより厚い薄膜では10nmの膜厚変化に従い水素化の速度が遅くなる傾向

にある。また乾燥空気に曝されると薄膜は脱水素化により透過率が初期値に戻ることが確認 された。ただし水素化の速度に比べ脱水素化の速度は遅く、膜厚による影響は水素化過程 に比べて少ないことが確認された。

図 3.  水素による光学特性評価装置の概略図
図 5.  Pd キャップ Mg2Ni の X 線反射率測定プロファイル  プロファイルには、膜厚に由来する振動周期のほかに 2θ=4.6°付近にピークが観測さ れた。このピークは周期構造に由来するものと仮定すると、周期間隔は 19Å程度であると示 唆される。このピークは 2 つの試験体とも観測された。  図 6
図 10.  拡張フーリエ回析による膜厚評価  図 10 に Pd キャップなしの Mg2Ni のフーリエ変換プロファイルを示す。Mg と Ni に引加す るパワー比を調整し、Mg-Ni 層の膜厚を 80nm と見込んだ設計仕様の膜厚に相当するピーク 位置より膜厚を求めたところ、2 試料それぞれ 78.07nm、79.10nm となった。この結果により Pd キャップ Mg2Ni 試料では明確に確認されなかった Pd の膜厚に由来する長い振動周期が Mg2Ni 層の膜厚測定に影響のないことを確認した。  次
図 12.  拡張フーリエ回析による膜厚評価  図 12 に各試料のフーリエ変換プロファイルを示す。Pd キャップなし Mg2Ni の測定結果と 同様に Mg-Ni 層の膜厚を 80nm と見込んだ設計仕様の膜厚に相当するピーク位置より膜厚 を求めたところ、2 試料それぞれ 78.00nm、75.90nm となった。この結果により Pd キャップ Mg6Ni 試料では明確に確認されなかった Pd の膜厚に由来する長い振動周期が Mg6Ni 層 の膜厚測定にも影響のないことを確認した。
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