「説 唱芸 能 <唱 南 港 >の語 り」
鹿 田 律 子
観音の信仰 について漸江、福建 または台湾、 シソガポールで信仰 されている陳 夫人の事例を提示 してみ よう。陳夫人 またの名 を臨水夫人、順天聖母 ともい うが、
この女神 は陳靖姑 とい う女性が神 になった といわれ る。伝説 によれば陳靖姑 は、
唐代、正月十四 日に今の福建省福州に生 まれ、出生 に際 して母 が観音 の指 か ら流 れた血 を飲 んで妊娠 した とされ る。闇山で法術 を学 び、その後、妖怪 を退治 し民 を救 う。大早の折、雨請 いを行 うが、 この とき堕胎 し、それが もとで死ぬ。死後 現われ、福建省古田県臨水郷の 白蛇洞の蛇精 を封 じ、その地 に廟 (臨水宮) が建 て られ紀 られた とされ る。観音の化身 と考 え られ る。 この陳靖姑 の一生 と所業 を 題材 に した芸能は多種多様であるが、その うち鼓詞 、唱南港、唱竜船、評話 の四 種頬 の説唱芸能 と人形劇 を調査 した。特 に唱南辞 は除災 を 目的 と して行 われ、追 灘 と関連す ると思われ るので取 り上げ る。
<唱南洋 >は、広 く漸江省温州 ・永嘉地区一帯 に行 われ る。 この地域 では各村 ごとに陳靖姑を紀 る太陰官 を見出せ るといって も過言ではない。永嘉県の太陰官 では、三年 ごとに中秋節前後の七 日七晩をかけて、芸人 に よって陳靖姑 の物語 が 歌 われ る。村中の病気などの災いを払 う目的で村人達 の主催 で行 われ る。費用 は 合わせ ると一万元 (調査時で約二十五万 円) に も達す る。太陰官 の陳靖姑 の前 に は供物のほか、 さつまい もを台に米粉で登場人物 が作 られて飾 られ る。 また陳靖 姑の修行の様子や妖怪退治を描 いた紙 の張 り子 が飾 られ る。一 メー トルを越 える 大 きな ものか ら十五 七 ソチほどの小 さな もの まで赤 いろ うそ くが点 され、なん と
も幻想的な空間を演出す る。
まず、陳靖姑の物語 が語 られ る前 に、祭紀 を務 め る道士 が陳靖姑 に向か って拝 礼を し、演者 に向かって拝礼を し、その場 を清め、観音 などの神 々を招 く呪文 を 唱える。演者は これを うけ、黄色の旗 を振 りなが ら、やは りこの場 を清 め る文句 か ら始め、神々の名 を呼びなが らお越 し頂 くよ うに歌 う。 そ して、健康 で、福多 く、長生 きし、 自然 に恵 まれ、作物 が豊 かに実 り、子供 を授 か り、家畜 も増 える
等々の祝言 を歌 う。 また、天上の菩薩や宿星や土地神 について歌 った後、陳靖姑 の物語を歌 い始 め る。語 りは七言の講談調で、板切れを打 ち鳴 らした り、 ドラや 太鼓 を伴奏 に入れ る。陳靖姑 の所業 を歌 うなかで、 ご当地永嘉 の地 に到来す る場 面になると、道士 の先導で皆で神輿 を担 ぎ出 し、甑江の岸 まで行 き、線香 をたき、
陳靖姑 を迎 えて戻 る。 また陳靖姑 が永嘉で人 々に災いをなす 白蛇 を退治す る場面 では、紙製 の蛇 の張 り子 が剣 に よってずたずたに破 られ、燃や され る。物語 を歌 い終わると、竹の枠 に紙 を張 って作 った ジャソクに先程の蛇の燃 えかすを載せて、
村中を巡 って最後 に甑江 に流す。蛇 はすべての災いを代表 させた もの といえる。
これを自分達 の領域 か ら永 く去 ら しめ ようとい うのである。紙で ジャソクを摸 し た船 は、実際 に今 も付近 の海で漁船 と して使 われてい るが、竹 を縦 に割 った よう な横 の隔壁構造 を持 つ箱型の、中国を代表す る船である。船尾に、額 に王の字 を 記 した虎 の よ うな顔 が措 かれ る。船首で大 き く反 り上がった舷側 には、黒 目が措 かれてい る。 これは実際の漁船で も魚のい る場所 を見据 える意味で、同様 に黒 目 が付け られている。
この事例 は、村 の除災の儀礼が陳靖姑の語 りと同時進行で行われ る点で、 とて も重要だ といえる。陳靖姑 の妖怪退治 を語 ることで、つま り過去の伝承の世界 を 今に生 き返 らせ ることで、現在の種 々の災い も取 り除いて しまえると考 えている。
この基礎 にあるのは、やは り陳靖姑 ・女神 ‑の人 々の信仰心以外のなにもので も ないだろ う。現 に女神の名 が物語で歌 われ るたびに じっと聞 き入 る老女達 は、手 を合わせているのだ。
唱南港 は、一つの観音信仰 の形 と して、 また除災を行 う灘 と機能 と目的を同 じ くす る祭 りと して注 目で きる。漸江省 には仮面 を被 った神 による追灘行事は今の ところ見出せないが、陳靖姑 を示巳る廟 はどの村 に もあ り、それぞれの村の廟で、
永嘉県の唱南洋 の よ うな逐疫除病等 を 目的 とす る祭 りが行われている。健の神の 行 う祭 りの重要 な機能 は、健 と称 されてはいない ものの、地方神 によって受け継 がれ、人 々の願望 に応 じてい る。仏教 の観音 と結 びつ くと思われ る民間の女神信 仰 のなかに も取 り入れ られてい ることか ら分 か るよ うに、健 の儀礼は中国の民間 には欠 くことので きない信仰儀礼で ある。信仰 の対象 とされ る神 は違 って も、除 災の儀礼 は必ず と り行われている.今回演者越連欽が行 った<唱南港 >の語 りを、
金崇柳 が採取記録 した 「南
港」 (
『陳靖姑地方神研究資料之二夫人詞』上海民俗学会等編所収) をテキス トと して、前半部分 を翻訳 して紹介す る。
唐代の天保年間、天子 さまは朝廷 において、立派 な文武の役人 に補佐 されて、国をよ く治めた。
今語 るのは、福州の候官県、鉄板橋 の端 にあ る陳 の家の ことだ。
老法師の名前は陳嘉義 といい、号 は上元 とい う。
幕氏夫人 と縁組 を結び、息子二人 とも法師 となった。
兄の法師法通 は十九才にな り、弟の法師法青 は十七才 になった。
先祖から茅山の教えを伝 えて きたが、後 に闇山の許真君 を信奉す るようになっ た。
闇山の祖師の教 えも同 じで、兄法師は七才の頃 に、夢 の縁で闇山に行 った。
最初 に、竜風の占いを学び、過去 と未来 を知 るよ うになった。
第一冊の法術の書 を熟読す ると、川や海 の水 を干 して妖精 を捉 えることがで きる。
第二冊 の法術の書 を熟読す ると、岩石や洞窟 を切 り開いて妖精 を捉 え ること がで きる。
第三冊の法術の書 を熟読す ると、万物 を育成す る雨 を降 らせて百姓 を救 うこ とがで きる。
弟法師は話 がはっき りで きない上 に、振舞 もい ささかおか しい。
しか し、不思議 にも彼 は心眼の持主で、鬼怪妖魔 を見破 ることがで きる。
うららかな春 の季節 がめ ぐって きたある日に、老法師は気晴 らしのために郊 外 を散歩 した。
西の二重の城門を出て、上下三 つの村 の名所 を遊覧 した。
上の村 には、林姓 の林百万 が住み、下の村 には王姓 の王富豪 が住 んでい る。
中の村 には、李姓 の李金持 が住み、上下三つの村 で よ く知 られてい る。
聖人は南江殿 か ら出た。 この人 は福州の侯官県の鉄板橋 の端 にある陳 姓 の家に生 まれた。
名前 は陳嘉義 といい、号 は上元 とい う。葛氏夫人 と縁組 を結 び、法通 、法青 と い う二人の法師を育てた。
兄法師法通 は十九才で、弟法師法青 は十七才であ る。
先祖 か ら茅山の教 えを伝 えて きたが、後 に間山の許真君 を信奉す るようになっ た。
法通 は七才 の頃 に、夢 の縁 で闇山に行 って、先 に七算 と六霊 とい う占いの術 を学 んだ。
闇山で竜風 の 占いを習得 して、過去 と未来 を よ く知 ることがで きる0 老法師は中の村 の李相二 とは、契 りを結 んだ義兄弟で、 よい友達 で も あ った。老法 師 は中の村 の李宅 を訪 ねた。李相二 は立 ち上 が って迎 えなが ら、
「老法師、 よ くい ら した。」 と言 うと、 「相二 兄 さん、 ご機嫌 よ う。」 と老法師は 答 えた。 「老法師、 ど うぞ、おかけな さい。」「相二 兄 さん、 ご親切 あ りが と う、
一緒 にかけ よ う
。 」
「老法師、今 日お見 えにな らなか った ら、わた しはお宅 まで 伺 うつ も りだ った。」「ど うい うことですか。」「ど うい うことか とい うと、あな たはいつ もこの三 つの村で仕事 を してい るのに、城 内に住 んでい るか ら、夜 に行 来す るのは不便 だ ろ う。 よいお天気 な ら我慢 して もいいが、雨 の 日には困 るだ ろう。城外 ‑引越 しては如何 だ ろ うか
。 」
「城外 ‑引越す には家 があ るだ ろ うか。」「目下、わた し一軒 の小 さな家 を持 ってい る。忙 しい時 にはそ こに とまるが、暇 の時 には空 き家 にな るか ら、あなたはそ こに住 んで もよい。」「それな ら、わた しは家 に帰 って家内に話 してみ よ う
。 」
「そ うだ、奥 さんに相談す るのは当前だ。」「その よ うに しよ う」 と話 を交 わ した。
二人 は話 を止 めてか ら別れ、老法師 は家 に帰 って行 く。
老夫人 は立 ち上 が って迎 え、老法師は 自家の門 に入 った。
「老法師、お帰 りな さい
。 」
「ただい ま。」老法師は李相二 と相談 した こと一部始終 を夫人 に話 した。 「今 日、俺 は李相二 の家 を訪ねた。相二兄 さんは、俺 が三 つの村 で仕事 をす るのに、城 内に住 んでい るか ら、夜 に戻 ると城門を開け て もらうのが不便 だ。 だか ら、城外 に住 む方 が よい と俺 に勧 めた。彼の家は三 つ の部星 のある家 を もってい る。忙 しい時 には、彼 はそ こに泊 るが、暇 な時 に空 き 家 にな る。 ち ょっと掃 除 す れ ば 、俺 た ちをそ こに住 ませ て もい い と言 った.」
「相二兄 さんがそ う考 えてい るな ら、わた したちはそ こ‑引越 した方がよいで しょ う。」 と夫人 は答 えた。老法 師は法通 に 「お前 はいい と思 うか。」 と聞 くと、 「と て もいい ことだ。」 と答 えた。 「法青 、お前 の考 えは ど うだ.」「と‑ と‑ とて も いい、あの‑の‑の人 か ら俺 たちをそ こに住 まわせて くれ るな ら、引越 し‑ し‑
しよ う。」
陳の家の人たちは皆 よ く理解 してか ら、人 を遣 わ して李 の家 に知 らせ た。
李相二はそれを聞 くと嬉 しくなって、その家 を掃除 して陳の家の人たちを待 っ た。
老法師は暦 を見て 日を選 んで、吉 日に引越 しす るよ うに定 めた。
吉 日の 日にな ると、陳 の家 はい ろいろの ことを整 えて引越 す る。
陳の家の保護神 、三 つの紙 の馬、三 つの壇 は集 まって引越 す る。
観音 さまには馬車一台、老夫人 に馬車一台、老夫人 は観音 さまを捧 げて引越 す る。非常 に賑やかな光景だ。
大人たちには馬車一台、若者 たちには馬車二 台、父子 、兄弟は引越す る。
城内を出て李の家に行 き、陳の家の老若 そ ろって李の家 に住 む よ うになった。
陳の家は李の家に住 んだ ことは さてお き、 この霊経 を語 ることは暫 く止めて、
後 に語 ることに しよ う。
この人は福州の侯官県 に生れ、川 のほ と りにあ る中の村 の李宅 の者で あ る。
大金持 の員外李文責 は、百万 の財産 の持主 と して よ く知 られてい る。
新 しく建 て られた家屋 には、前後 に重 な って い る建物 が三 つ あ り、床板 が敷 かれた床 は とて もきれいだ。
吉 日に新 しい家屋 に引越 して、親戚、隣人 や同族 のお祝 いが続 いた0 祝賀 の宴 が終 わ って客 が帰 って行 き、夕方 にな った。
夜食 を済 した頃は、夜 回 りの始 まる時刻 にな って も、町 は賑や かで さわが し い。
夜 が静 まって二 回めの夜 回 りの知 らせが聞 こえ ると、家族 の老若 とも寝室 に 行 った。
夜 が深 まって三回めの夜 回 りの知 らせが聞 こえ ると、奥 の方 か らラー ラー ラ と戸 を開け る音 が した。
使用人 はその昔 がは っき り聞 こえたので、 この新 しい家屋 に妖怪 が出た と言 う。
仕方 な く員外 に申 し上 げて、李文貴 は この ことの始末 を聞いた。
再 び引越 して古 い家 に戻 り、三棟 の新 しい家 の扉 を閉 じた。
新 しい家屋 に妖怪 が出た とい ううわ さが立 つ と、任 の李相二 は この うわ さを 耳 に した。
急 いで叔 父の家 に来 て、 この ことについて話 し出 した。
李相二 は、 「叔 父 さん、あなたは ど うして新 しい家屋 に住 まないで古 い家 に住 むのか。」 と聞 くと、 「君 にか くきず に言 うと、新築 の家 には夜 中に鬼 が出てたのだ、誰 が恐 れず に住 も うか。俺 はそれ を売 り払 お うと思 ってい る。」
「叔父 さん、何 をお っ しゃってい るのか。新築 の家屋 を売 り払 うと言い出 した ら、
ほかの人 はつ ま らぬ ことをい うだ ろ う。男の不運 だ と、新築 の家屋 を売 り払 い、
女 が不運 だ と飼 っている鶏 を売 るのだ と言 われ るのだ。他 の人の ことは さてお き、
李文責 の家 は安泰 だ とい うのに、風説 が流布 された ら困 るだ ろ う。 お金 を持 って い るか ら、家屋 を建 て るのは当前 の ことだが、出来上 ってか ら二 日半 しか住 まな いで、三 日間に もな らないのに
。 」
「新 しい家屋 に妖怪 が出て住 めないのだ。」李 相二 はち ょっと してか ら、 「めでたい吉 日に工事 を始 めたのに、妖怪 が ど うして 出 るのだ ろ うか。 おや、妖怪 が出 るのは 口先 ばか りの ささいなことだが、お金持 ちの家 に不吉 な ことが起 きれば大変 だ。」李相二 は叔父がそんな家 に住 みた くないのな ら、それを老法師 に紹介 して住 ま わせ よ うと考 えついた。彼 は急 いで 自分 の小 さな家 に戻 って、 「老法師、おめで と う、おめで と う。」 と陳上 元 に言 った。 「家 は無事 で、仕事 は順調 で、 これは 日常 の ことだが、何 とのめでたい ことが俺 の番 に巡 って くるのだろ うか。」「何 と言 った ら、あなたは家屋 などと言 った ことがあ ったね。家屋 はあ るが、ただ手 数 がかか るのだ。今手元 にあるのだ
。 」
「何 だ って。 」
「俺 の叔父の新築 の家 さ。」「そ うか、彼 の家屋 に、俺 はそ こに住 む ことがで きるのか
。 」
「難 しくはない。い くらかの銀で酒 を飲 ませて くれは、成功 の見込 み を もって話 しあってみ よ う。」
「そ うか、君 は俺 を話 し合 いにつれて行 って くれ。」
李相二 は老法師 をつれて出かけた。一路止 ま らず に李宅 についた。
門番 が中門 を開いて迎 え、李相二 と老法師は中に入 って行 く。
李相 二 はす ぐ飽 いて 、 「叔 父 さん、 ご機嫌 よ う、 お伺 い します。」
「お上 が りな さい
。 」
「叔 父 さん、あ りが と う。 」
「おかけな さい。 」
「叔 父 さん、お言葉 にあ まえて。」
李文責 は陳上元 を見 て 「この方 は どなたです か
。 」
「おお、 あなたはお忘れ になったで しょうね。 この方 は陳姓 の老法 師です。」「ほ、 ほ、老 法師、 ど うぞお かけ下 さい。」「あ りが と う。」「お茶 とお菓子 を出 して くれ。」
李相二 はす ぐに聞出 した。 「叔 父 さん、新築 の家屋 に住 んだばか りなのに、 ど うして また古 い家 に戻 られ ま したか。」 「君 、 そ の ことは言 わ な くて い い よ。」
「ど うして、ち ょっと話 して下 さい。」 「思 いがけない ことだ。新築 の家屋 に引 っ 越 したばか りで、夜 中 に ラー ラー と戸 を開 け る音 が した。妖怪 が出た か ら、
そ こに住 んではいけない と思 った。」「おや、新築 の家屋 に妖怪 が出た とか、わ た しは信 じない。吉 日に工事 を始 めたの に、 ど うして妖怪 が出 られ よ うか。」李 相二 は さらに 「あなたは先ず鍵 と門の札 をわた しに持 たせて、私 は老法師 を連 れ て新 しい家に行 ってみま しょ。妖怪がいれば、老法師 にそれを捉 えて もらいま しょ う。」 と言 うと、 「君 、それはいい ことだ
。 」
「問題 はない。 わた しと老法 師 とは 友達 だか ら、あなた も同 じで しょう。」 と李相二 は言 った。彼 は鍵 を受 け取 って、老法 師をつれて立 った。
新築 の家 に来て、す べての庭 と部屋 を くまな く見回 った。
第一の庭 か ら、第二 の庭 、第三 の庭 、母屋 、次 の家 、 また次の家、廊 下、事、楼 閣、花園、柴小屋、牛小屋 、便所 な どをすべて見 回 った。 閉め るべ き 処 を閉めてお き、開け るべ き処 を開けてお き、大 門 を出てか ら鍵 をかけた。 「老 法師、 こんな家 に君 を住 まわせ るな ら、 ど うだ。」 と李相二 は言 うと、 「本 当か。
この家 は とて も素敵 だ。大門に入 ってか らす ぐの家だけに住 まわせて もらえば、
もう望外 の喜 びだ。」 と老法師 は答 えた。 「君 はそんなに欲 の ない話 を した らだ めだ。君 は黙 ってい くれて、俺李相二 が君 のため に話 をてみ よ う。」 と李相二 は
さらに言 った。
李相二 は鍵 を持 って新 しい家 を出て、李宅 の古 い家 に行 って叔 父 に会 うと、彼 は鍵 と門の札 を叔 父に返 して、 「私 も失礼 します。」 と言 うと、 「君 、彼 は見 て か ら、 ど う言 ったか
。 」「今話せ ません、話せ ませ ん、その うちゆ っ くり話 しま し ょ う。」
「任 さん、君はわざわ ざ彼 を連れて見に行 ったのに、彼のかわ りに話すべ きだ。」
「そ うか。」 と李相二 は言 った。 「叔 父 さんの ことは、 わた しの ことと同 じだ。
そ うね、話 して上 げ よ う。老法 師 は、 『あなたの新 しい家 に大 きな妖怪 が
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い て、妖怪 の子孫 は7000余 りに もな る。妖怪 は繁殖 で きるもので、一年 に二 回半 のお産で、新 しい家 に住 み きれ くな ったな ら、 あなたの古 い家 にも移 って来 るか も しれ ない。』 と言 ったのだ。」李相二 はでた らめな話 を して叔 父を編 した。 「あな たの新 しい家 は、焼 き払 って も売 り払 って も壊 して もだめだ。売 るな ら、 自分 が 恐 が って住 まない ものは、誰 も買わないのが当然 の ことだ。焼 くな ら、炎が天 に まで燃 え る、隣家 ‑の防火 が難 しい。壊す な ら、ば らば らになって も仕 よ うがな い。 あなたのために考 え ると、老法師 に住 まわせて、妖精 を全部退治 させ るのが よい。彼 が住 めば、朝早 くか ら、夜 おそ くまで、妖怪 を一つ一つゆ っ くり退治す るだろ うか らね
。 」
「任 さん、君の考 えでは、ただで彼 を住 まわせ ようとい うか。 」
「叔 父 さん、ただで住 まわ よせてはいけない。 この家 の妖怪 が全部退治 されて し まえば、従兄弟たちは、ただで老法師を この家 に住 まわせた と言 うか も知れない。
あなたはそ うい うつ ま らない話 を聞 きた くないだ ろ うか らね。」
「任 さんの話 に も道理 がある。 当時 、俺 の三重 の家 の敷地 が もうで きたが、後 の東側 の半分 の敷地 だけが志 艮 と志‑ の ものだ った。彼 らはそれを敷地 と して俺 に贈 ると言 ったが、他 の人 に唆 されて俺 を訴 えた。 その訴訟 で六、七百両 の銀 を 費 した。 この家 を作 るだけで も六 、七百両 の銀 を払 った。匠人たちの三年 の食事 代 、黄 金や煉瓦 な どは勿論 、 白玉 や牡蛎 の灰 なども数 えに入れていない。君 は老 法師 とち ょっと相談 してみて、千五百両 に して くれれば、彼 をそ こに住 まわせ よ
う。」
老法師 はその話 を聞 くと、 「実 を言 えば、俺 は法師で、 ど うしてそんな大金が 出せ るだ ろ うか。」 と言 った。 「老法師 、高 い値段 をふ っかけ られた ら、 うん と 値切 ってや ると言 うものだ。老法師、かけ引 きを してみ よ う。酒 を買 うぐらいの 一両 の銀 で ごまか して移 転 してみ て もい い じゃな いか。」 と李相二 は勧 めた。
「君 、本 当に酒 を買 うぐらいの一両 の銀 の値段 でかけ引 きるなんて、それはだめ だ。」
李相二 は さらに叔 父に 「千五百両 とお っ しゃるのは多す ぎるが、老法師が一両 の銀 と言 うの も少 なす ぎだ。 あなたは値段 を うん と下 げなければな らない。老法 師が千五百両 もの銀 を持 っていれば、 自分 が木 を切 って新 しい家 を作 る方 が ま し だ、 ど うしてあなたの妖怪 の出 る家 なんて買お うとす るだ ろ うか。」 と言 った。
「千五百両 が多す ぎると言 うのだね。 も し妖 の字 がつかないな ら、一万五千両 の値 もあ るだ ろ う
。 」
「それ はそ うだ。 あなた はな るべ く値段 を下 げて、老法師を住 まわせ るな ら、妖怪 が彼 に退治 された後 で も、家 はや は りあなたの ものだ。」
「そ うね、端数 を削 って、一千両 で老法師 を住 まわせ よ う。」 と李文責 は言 った。
李相二 は老法師に、 「叔父 さんは一千両の銀 に下げたが、君 はいかが と思 うか。」
と聞 くと、 「俺 の考 えでは、五 、六両 の銀 な ら、引越 して住 んで もいいが。」 と 答 えた。
「叔 父 さん、あなたが一千両 とお っ しゃるのは多過 ぎで、老法 師 が五 、六両 と 答 え るの も少なす ぎだ。叔 父 さん、あなたは大樹 で樹皮 も大 きいか ら、お金 の こ とをそんなに気 に しな くて もいい じゃないか。妖怪 さえ退治 で きればいい ことだ ろ う。値段 をさらに下 げて下 さね
。 」
「君 の考 えに よって五百 に しよ う。」李相二 は、 「老法師、叔 父 さんは五百 と言 ったが、君 は。」 と聞 くと、 「十五 、 六両 な ら住 んでみ よ う。」 と答 えた。
相二 は文責 に、 「叔 父 さん、今 日、わた しはお願 いをす る。 た とえば、任 が叔 父 さんのお宅か らの借用 と して、 さらに大半 を下 げて、百五十両 の銀 に して下 さ い。老法師、君 も値切 らないで。」 と言 うと、 「君 の考 えに任 せ よ う」 と老法 師 は言 った。
李相二 は さらに行 った。 「叔 父 さん。 その うち、老法師 が家 を買 うために、酒 を用意す るはずだが、法師 は一滴 の水 の氷 ぐらいの もの しか持 っていない し、酒 を用意 して もあなたの気 に入 らないで しょう。私 の考 えで は、お宅 の酒 のかめが 大 きく、酒の味 も濃 いか ら、やは りあなたが一席 の酒 を設 け る方 が ま しだ。第一、
この任 にお宅 の酒 を味わせ、第二 、家の契約書 を書 くために。」
相二 は心 を尽 くして陳の家 を助 け、李宅 は一席 の酒 を設 けて買 い手 を 招待す る。
酒一杯 を飲 んでから、ロをきかず、酒二杯 を飲 んでから、気分 が和 やかになる。
酒三杯飲 んでか ら、大切 な ことを持 ち出 し、李相二 はゆ っ くり話 し出す。
「叔 父 さん、買い手 は売買の契約書 を作 って、その期 日に二本 の線 を 書 いてお くよ うに願 ってい る。」「誰 に書 いて もらお うか。」 と李文責 は言 うと、
「ご心配 なさらないで、叔父 さんの ことだか ら、任 が書 くのはあた り前 だ。」 文房具 を持 って きて、相二 は卓 につ く。
さらさらと文章 を書 き、家 の売買の契約書一枚 がで きた。
悪賢い李相二 は、銀 の数字 を袖 で擦 った。
員外 が書名 を した後 に、や っと叔 父に この契約書 の文字 を見せ る。
「君 が書 いた ものだか ら、叔 父は君 に頼 って心配 しないんだ。」
「老法師、君 も見 て ご らん。」 と李相二 は言 うと、 「君 は員外 に信頼 されてい る以上、俺陳上元 も君 に頼 らないでお られ よ うか。」 と。
「ほ ら、 よ し、お二人 ともわた しを信頼す るな ら、何 ごとも うま くで きないは ず はないだ ろ うね。今、読 んで聞 かせて上 げ よ う。」
家屋 を売 る契約書 を作 る人李文責 は、新築 の前後 に重 な ってい る三棟 の家及 び 庭 があ る。板 を敷 いた床 、彫刻 した梁、絵 を描 いた棟木。家 は十三都三里三保 、 臨水中村 にあ る。家が北側 に建 て南 向 きにな って い る。右 は川 の道 まで、左側 は 水 田、前 は通 り、後 は小路。前後 に重 なってい る家 は三棟 、軒 のあ る正面 の室 が 二つ、両側 に回廊 があ る。上 には瓦で作 られた屋根、木の板の天井 、扉、窓、壁 、 下 には石灰 で作 られた家の土台、前 には大門 まで、井戸や道路 に通 じ、内には事 や楼 閣、美 しい花 園、薪小屋 、牛小屋 、便所 な どを含 んで い る。李文責はお金 が 入用 のために、 自らこの家 を売 る。任李相二 は中間 に立 って、銀五百両で陳宅 に 売 る契約書 を作 る。陳宅 が この家 を 自分の財産 と して管理 す ることは、李姓 と関 係 がない。契約書 がは っき り書 かれて あ り、銀 も全部払 われ、今後 たが うことが で きない。 これは両方 とも同意 した ことで、 どち らも後悔 して改め ることがで き ない。 この契約書 を書 いて証拠 とす る。
李文貴 はそれ を聞 いて か ら聞 き返 す 「僅 さん、君 は書 き間違 った。」「おや、
書 き間違 ったか、裂 いて しまお うか
。 」
「慌 て ないで、君 は ど うして俺 がお金 が 入用 と書 いたのか。 」
「叔 父 さん、契約書 にはそ う書 くべ きだ。 」
「また一句ある。君 は俺 に百五十両 と言 ったのに、 あの契約書 には ど うして五百 と書 いたのか。」
「おや、 この句は本当に書 き間違 った。裂 いてはいけない。家の契約書 は‑回 し か書 くことがで きない。 この句 の ことな らか まわない。今後 わた しは保証 で きる し、わた しの書 いた ものだか ら、か まわないんだ」 と李相二 は契約書 の ことを こ んなに ごまか した。
彼は叔 父を助 けないで、友達 に助力 し、心 を尽 くして陳の家をかばった。
老法師 は手続 きを済 ませてか ら、家 に帰 ると、兄法師、弟法師に聞 く0
「よい ことか、 ど うか。」 と。 「とて もすぼ ら しい」 と法通 は言 い、 「お父 さん、
立派 な広間 に住 ‑す ‑す んな ら、 なん といい。」 と法青 は言 った。
一家の老若 とも喜んで、暦 で吉 日を選 ぶ。
陳宅の保護神、紙 の馬三匹、三つの壇 は集 まって引越先 に行 く。
百事 に書 とい う日に、陳宅は手配 して引越 し先 に行 く。
観音大士の馬車一台、老夫人の馬車一台、老夫人 は観音菩薩 を抱 いて引越 し 先 に行 く。
大人の馬車一台、若者たちの馬車一台、父子兄弟は引越 し先 に行 く0 陳宅の若者 は引越 し先 に行 き、親戚 、隣人、同族 の人たちは、お祝 いを述べ に来 る。
祝いの酒席 が終わ ると、客 は各々帰 って行 き、老法師はゆ っ くり話 しだす。
「今、我々は立派 な家 に住む よ うになった。些細 な法事 のために呼は れ ることがあるな ら、行 かない ことに しよ う
。 」
「お父 さんの言 うことは ごもっ ともだ。」 と法通 は言い、 「狸 を一つ一 つつか まえる くらいの法事 な ら、当然 ご 免だ。」 と法青が言 うと、 「お前のよ うな奴は ロを きくと、ろ くな言葉 がないな。」 と老法師は叱 った。陳宅の若者 が話 しを してい ると、 もう夕方 にな る。
夜食 を済 ます と、夜回 りの始 まる時刻 にな り、街頭 は賑やかだ。
鼓楼からの二回目の夜の時刻の知 らせが聞 こえると、一家の老幼は寝室に行 く。
夜 が静 まって、鼓楼 か らの三回 目の夜の時刻の知 らせが聞 こえると、裏 の方 か らラー ラー ラとい う戸 を開け る音 がす る。
老法師は これをはっき り聞 くと、思いめ ぐら して推測す る。
おや、戸 を開け る音 が して、兄弟二人 は出て来たのか。 「法通 、お前 は屋内にいて、 ど うして弟が出て来たのか。」 と老法師は叫んだ。 さらに 「法青、
法青。」 と呼んだ。 「夜中なのに、人 を殴‑な‑な ぐり殺 したかの よ うに、 なん で こんなに叫ぶのか
。
」 と法青 は言 うと、 「お前 は部屋 の中にい るのか、誰 か戸 を開けていた。」 さらに 「法青 、法青 、お前 は兄 と一緒 に起 きて、何 か音 が して いるのを見て こい。」 と言 った。兄弟二人は急 いで起 きて、灯 をつけて扉 を開いた。
弟法 師は神 眼で ち ょっと照 らす と、 「鬼 が い‑い る、鬼 がい る。」
「どんな鬼。」「黄 い鬼がい‑ るい る。 白い鬼がい‑ るい る。」
ぴかぴかす る三尺の剣 を手に提げて、黄 と、白の二人の妖怪 に迫 った0
早 く逃 げ よ う、早 く逃 げた ら助 か るが、で ない と、命 が危 ういぞ。
この生死 にかかわ る地 を離 れて、海 を渡 って行 こ う。身 を翻 して この危 うい ところを飛 びだす。
天 の門を打 ち こわ して、 きれいな鳳風 が飛 んで行 き、金 の鍵 をね じ切 って寵 が飛びだす。
鯉 が金 の釣 を抜 けて、い っさいか まわず急 いで逃 げ る。
前 の庁堂や後 の壇 まで追 いつめ るな り、妖怪 が土 に伏 して姿 を変 じた。
弟法師 は追 いかけて来て、神剣 で地面 を切 って、 「わーわーね じふせ てや るぞ。」 と言 った ら、黄 と白の金 、銀の神 が も う逃 げ られ ない と分 って、姿 をあ らわ した。弟法師はは っき りとその姿 を見 とった。 「い一祝 いを申す。金が め‑あーあ り、銀 があーあ り、や一役 に立 つ金、や一役 に立 つ銀、五百両 の金、
五百両 の銀。」
兄弟二人 はお父 さんに知 らせて、 「新 しく移転 し、新 し く栄 え る。」 と老法師 は言 った。黄 金、 白銀千両 を得 たので、外 の広間 に祖 師の壇 を立て、師に祭 りを 捧 げ る法事 をす る。大法師 は神 の篭 を担 ぎ出 し、法器 を取 り出す。
外 の広間 に祖師の壇 を立て、壇 を立 てて法事 を行 い始 め る。
頭 に神雲 や神額 をつけ、身 に法衣や神袴 を着 る。
足元 に卦 とい う占いの用具 をお き、手 印わ結 び、 口に間山の玄妙 な法術 の書 を読む。
左手 に鈴 を持 ち、右手 に竜角 を持 ち、 まが った竜角 が霊壇 でひび く。
竜角 の音 が遠 山 と茅 山にひび きわた り、竜角 が一 回吹かれて長 くひび く。
間山、茅 山、竜虎 山、神兵神将 が三つの神壇 に集 まる。
雷の兵 、地 の将 が徳勝壇 に、雷 の よ うな太鼓 や竜角 が迎香壇 にあ る。
家の保護神 、紙 の馬三匹、雲三切 、銭三十 、三壇 の神 が徳勝壇 に集 まる。
(観客 たちは香 を持 って礼拝す る。)
老法師は外 の広間 に端座 してい る。国が太平で、神 さまの気分 が よい0 役人 が清廉 で、民衆 は 自ら安 らかにな る。妻 が賢 く、夫婦 は喜ぶ。子 が孝行で、
父の心 はゆ った りす る。
陳宅 は 目下成金 とな り、 自分の家 で銀 の神 を配 る。
老法師が外 の広 間に坐 ってい ると、上村 か ら生年月 日を書 いた赤 い書状 が送
られて きた。
「老法師
。 」
「君 は誰ですか。 」
「わた しは上村 の林員外 の命 を奉 じて、生年月 日を書 いた書状 を大法師 に送 って来 た
。 」
「本 当 か。彼 は立派 な家 の主人 で、俺 は道教 の信者 だ。 ど うして彼 らに釣合 お うか。 」
「そ うお っ しゃらないで、人間 は情 義 に頼 る もので 、皇太子 さまの縁 組 もお姫 さまに限 らな いだ ろ う。」
「そ うかね。俺 は祖師か ら食 べ させて もら う者 で、祖師 に頼 るものだか ら、祖師 に伺 ってみ よ う。」
老法師は立 ち上 が って、お香 を焚 き、 ろ うそ くをつけて祖師 を拝 む。
相手 の人柄 が よ く、縁組 もふ さわ しい、神様 に伺 い、おみ くじをひいて、縁 組 が思 い通 りにい く。
老法師は喜 んで、人 を遣 わ して林 の家 に知 らせ る。
両方 の老若 とも喜 んで、暦 で吉 日を選 ぶ。
めでたい吉 日にな ると、陳宅 は婚約 のために準備す る。
金の札、銀 の札、四つそ ろって、結納 と しての金や銀 が盆 にのせ られてい る。
色彩椴子は言 うまで もな く、鷲 と鳳 の模様 のついた婚約書 があかあか と輝 く。
桂園、秦、栗 な ど干 した果物 がそ ろえ られ、 ドラや、太鼓 を鳴 ら して林 の家 に送 る。
結納 の品を拝受 した とい う詩 を書 いて、それ を陳宅 に送 り返 した。
陳宅の若者 は喜 び、光陰 は矢 の如 し。
少年 と少女 は大人 にな り、陳宅 は 日を選 んで花嫁 を迎 えに行 く。
めでたい吉 日が来 ると、両方 の家 とも掃 除 を し、赤 い提灯 を掲 げ る0 地面 まで垂れている色彩の布や五色の幕、赤 い械塩が外の広間に敷 かれている。
五世代 まで も栄 えるとい う祝詞 が左右 に分 ち、琴芝相和 し、黄金 の飾 りがつ け られてい る。
新婚の部屋 が整 って、対句が左右 に分 って い る。
左の方 は、天上 の婦蛾 は玉 の蝶 を飛ば しとあ り、右 の方 は、世 間のお嬢 さん は藍橋で立派 な方 に会 うとあ る。
朝 と夕方 に相応 しい音楽 が奏で られ、花嫁 を迎 え る花 か ごが林宅 につ く。
爆竹 を鳴 らして花 か ごを家 の中に人 らせ、花 か ごが外 の広 間の前で止 って花 嫁 を待 つ。
女 中はお湯 を温 めて階上‑送 り、花嫁 に体 を清め させてか ら、身 ご しらえを して上 げ る。
内壇 の女神 さまに紙 の馬一匹、七星女神 さまは花嫁 の世話 をす る。
頭 にかぶ った赤 い布 が七尺 、竜 の模様 を刺 しゅ うした真赤 な着物 に長 い袴。
足 に緑 の靴 、赤 い ズポソ、お しど りの網 の紐 が左右 に垂 れてい る。
お嬢 さんは女 中に伴 われて階上 か ら降 りて、 目上 の者 に礼拝 してか ら花 か ご に乗 る。
爆竹 を どめ どな く鳴 ら して見送 り、花嫁 を迎 え る花 か ごが出立 して行 く。
林宅 は幸運 を祈 りつつ戸 を閉め、花 か ごが威風堂 々 と して道 を進 んでい く。
歌 の声 や玉 の笛 の音 がひび きなが ら南 へ、一人 の花嫁 は四人 に担 がれ る。
花 で飾 った陳宅 に帰 って、爆竹 の音 が賑 やかにひびいて花 か ごが門に入 って 来 る。
下男 がお湯 を温 めて法師の部屋 に送 り、兄法師は浴 して花婿 の身 な りをす る。
花 か ごの前 に来 て挨拶 を し、か ごを出た花嫁 と神 さまを拝む。
一生涯 の伴侶 と して新婚 の部屋 に入 り、酒 の杯 を交換す る。
閑人が皆退いて、戸が閉め られ、花嫁 の頭 にかぶった赤 い布が取 りはず され る。
『夫人伝』 を小説 の よ うに語 ってはな らず、むだ話 をその中に入れてはな ら ない。
むだ話 を 『夫人伝』 に入れれば、天上 の法律 を犯 して、洗 い清め ることがで きない。
瞬 く間 に夜 があけ、男 は衣冠 を整 え、女 はお化粧 をす る。
部屋 の扉 を開け ると、お祝 いの言葉 が聞 え、お祝 いを述 べ る者 は部屋 に入 っ て来 る。
花婿 は外 の広 間で客 を接待 し、七 日間の酒宴 が終 ると客 が帰 って行 く。
七 日間の酒宴 が終 ってか ら、八 日目に始末 をつけ、玉 の瓶や皿 や箸 などを食 器戸棚 の中に しま う。
老法師は外 の広間に座 り、生年月 日を書 いた赤 い紙が下村 か ら送 られて来 る。
「老法師、い らっ しゃいます か。」「外 の人 は誰 です か。」「私 は下村 の王員外 の命 を奉 じて、弟法師のために生年月 日を書 いた赤紙 をお宅 に届 けに来 た。」「本 当 か。 彼 は役 人 で、俺 は道 教 の者 だ。 ど うして彼 らに釣 合 お うか。」
「縁組 とい うことは情義 だけを重 じ、地位 な どを重 じない。太子 さまは必ず お姫 さまと縁組 をす るもので もないだ ろ う。」「そ うかね。俺 は祖 師 か ら食 べ させて もらう者で、祖師 に頼 る者 だか ら、 ち ょっと祖師 に伺 ってみ よ う。」
老法師は立 ち上 が って、お香 を焚 き、 ろ うそ くをつけて祖 師を拝 む。
相手 の人柄 は よ く、縁組 もふ さわ しい。神 さまに伺 い、おみ くじをひいて、
縁組.が思 い どお りにゆ く。
老法師は喜 んで、人 を遣 わ して王 の家 に知 らせ る。
両方の老若 とも喜 んで、暦 で吉 日を選 ぶ
めでたい吉 日になると、陳宅 は婚約 のために準備す る。
金の札、銀 の札、四つそ ろって、結納 と して の金や銀 が盆 にのせ られてい る。
色彩の鍛子は言 うまで もな く、鷲 と鳳の模様 のついた婚約書 があかあかと輝 く。
桂囲、桑、栗など干 した果物がそろえられて、 ドラや太鼓を鳴 らして王の家に送 る。
結納 の品を拝受 した とい う詩 を書 いて、それ を陳宅 に送 り返 した。
結納 の老若 は喜 び、光陰 は矢 の如 し。
少年 と少女 は大人 とな り、陳宅 は 日を選 んで花嫁 を迎 えに行 く。
めでたい吉 日が来 ると、両方 の家 とも掃除 を し、赤 い提灯 を掲 げ る。
地面 まで垂れている色彩の布や五色の幕、赤 い紙塩が外の広間に敷 かれている。
五世代 まで も栄 えるとい う祝詞 が左右 に分 ち、鷲 と鳳 が ともに鳴 く絵 が扉 に 貼 られてい る。
新婚 お部屋 が整 って、対句 が左右 に分 って い る。
左の方 は、鳳風 が麹 を伸 ば し、草 が茂 げ り、科挙及第 の喜 び とあ り、右 の方 は、蓮 の花 が咲 いて地面一杯赤赤 と してい るとあ る。
『夫人伝』 を小説 の よ うに語 ってはな らず 、むだ話 をその中に入 れてはな ら ない。
むだ話 を 『夫人伝』 に入れれば、天上 の法律 を犯 して、洗 い清 め ることがで きない。
瞬 く間 に夜 があけ、男 は衣冠 を整 え、女 はお化粧 をす る。
部屋 の扉 を開け ると、お祝 いの言葉 が聞 え、お祝 いを述 べ る者 は部屋 に入 っ て来 る。
花婿 は外 の広間で客 を接待 し、七 日間 の酒宴 が終 ってか ら客 が帰 ってい く。
七 日間 の酒宴 が終 って、八 日目に始末 をつけ、玉 の瓶 や皿や箸 などを食器戸 棚 の中に しま う。
老法師は外 の広間 に座 り、老夫人 はゆ っ くり話 し出す。
老法 師 は 目下李宅の家 に住 み、林 、壬 の二人 の嫁 が迎 え られて きた。
読経 して仏 を拝 むために、部屋 を整 えたい。
「林 、王 の嫁 が この家 に来てか ら、 この家 はい くらか狭 くなった よ うで、読経 に都合 が よ くない。経 堂 を立てて、落 ち着 いた部屋 で読経 して仏 を拝みたい。 い かがで しょうか。」
「お母 さん、今言 った ことは もっともだ。」 と老法 師 は答 えた。老法 師は衣冠 を整 えて家 を出かけた。
日を選 ぶ店 に来 ると、店 の主人 は老法師の知 り合 いで、 「老法師、あなたは敵 店 にい ら して、何 の ご用 です か。」 と聞 いた。 「たい した ことで もない。家 内が 読経 し、仏 を拝 むために 経 堂 を立 てたいか ら、 日を選 んで下 さい。」
「老法 師、 ど うい う方 向か。」「北側 に建 てて南 向 きにな るのだ。」
美丁 に丑末、彼 は暦 を待 って吉 日を選 ぶ。 「老法師、期 日があ るが、時刻 がな い
。 」
「それ はど うしよ うか。 」
「『采』 を捉 えなければな らない。 その 日の黄昏 に、ち ょっとおそ く、大工 さんのために一席 の酒宴 を設 けな さい。 あなた 自身は 東南 の方 に立 って待 つ。南 の方 か ら一筋 の 白雲 がただ よって くれば、その時刻 に 乗 じて、家 の柱 を立 てた ら、立派 な賢人 がお宅 に生 まれ るよ。 」
「本当か、俺 の 家 は道 教 の信者 だが、 どんな立派 な賢人 が俺 の家 に生れ るのかな。 」
「あなたが その 『采』 を しっか り捉 えた ら、必ず立派 な賢人 が生れて くるよ。」「そ うか。」「このお礼 をあげ よ う。」
日を選 ぶ先生 は、彼 がけちだ と知 ってい るか ら、 「あなたのお金 は もらわない、
あなたの銀 を取 れば人 間で はない。」 と急 いで誓 いを立 てた。彼 が言 い終 わ らな い うちに、老法師 は、 「ど うしよ うか、 ど うしよ うか」 と急 いで言 いなが ら、お 礼 の小包 を取 り返 してそ こを離 れた。
老法師 は吉 日を選 ぶ店 を出て家 に帰 った。老夫人 は彼 を迎 えて部星 に入れ る。
「吉 日が選 ばれた。法通 に木 を切 らせ、大工 さんを頼 ませ よ う。」
兄法師 を遣 わ して、川辺 か ら抜 いた木 を家 に持 って帰 る。
頼 まれた大工 さんは、地突 きを した り、木材 を切 った りして手配す る。
長 い木材や短 い木材、木材 をよ く組み合わせてお く。
めでたい吉 日が くると、夕方 に酒宴 を設 けて師匠 を招待す る。
老法師は一人で東南の方 に立 って、二回めの夜 の時刻 の知 らせが過 ぎて、三 回 目となった。
南の方か ら一筋の白雲 がただ よって来て、老法師は これを見 るな り、
「時刻 が来た。家屋 の骨組 を立て よ う。」 と呼び掛 けた。
一言の言付 けによって仏閣が建て られ、斧やのみの音 がチ リソチ リソ とひび く。
三室の仏閣が高 く聾 え、東西南北 の兄は らしが とて もよい。
四面 に彫刻 を施 した窓、屋根の瓦 もよ く整 った。
階段が朱の漆で塗 られ、it字の手す りが全部金色で絵 かれた。
仏閣の工事が順調 に進 んで、銀や錫 などが使 われた ことは詳 しく話 さない。
老法師は長男の嫁 に、 「林嫁 さん、仏閣が建て られた。仏 閣、仏閣、
何 と名前 をつけよ うかね。何楼 と名づけた らよかろ う。」 と言 うと、 「お父 さん、
わた したちは南の方の雲 を 『采』 と して捉 えて仏閣を建てたので、南雲楼 と名づ けた ら如何で しょう。」 と林嫁は答えた。 「南雲楼 とは よ し、南雲楼 とは よ し。」 と老法師は言 った。
林嫁 は仏閣を名づけて、南雲楼 とい う。
老夫人はこれを聞いて喜び、始 めて南雲様 に上が る。
家の保護神、紙の馬三匹、紙の鶴三羽、銭三十、三壇が集 まって南雲に上がる。
内壇大士 に紙の馬一匹、女神 に紙 の馬一匹、老夫人 は観音 さまを抱 いて南雲 に上が る。
内壇の大衆 に紙 の馬一匹、小衆 に紙 の馬二匹、父子兄弟 は南雲 に上 が る。
階段が華やかに絵 かれ、記字の手す りが全部金色で塗 られた。
すべての垂木の先 に鏡 が族め られ、太陽に照 らされてぴかぴかす る0 南雲楼 の上に上が って、左右の対句が 目に留 まる。対句は、
雷の印が黄金 に鎮 され、お経 が尊 ばれて世の中が和 かになる。
上に三教の祖師の香机 が置 かれ、左右 の対句が 目に留 まる。対句 は、
三教の祖師が上座 に坐 り、山川 の五雷が霊壇 を守 る。
家の保護神 に紙 の馬三匹、女神 に紙の馬一匹、老夫人 は祖師を拝 む0
雷窪大士観音仏、左右 の対句が 目に留 まる。対句は、
西天の竹の葉 が千年 まで も緑、南海 の蓮 の花 が至 って香 しい。
内増大士 に紙 の馬一匹、女神 に紙 の馬一匹、老夫人は観音 さまを拝む。
老夫人は階上 にいて、仏 を拝 んだ り、読経 した りす る。
南雲楼上の ことはさてお き、 この 『夫人伝』 の話 をち ょっとかえ、時 を戻 し て語 ろ う。
七宝霊山の雷音寺で、二月十九 日に観音 さまは播桃大会 を催す。
瑠池 を多いに開けて、お誕生 日のお祝 いに来 る八洞の神仙 を迎 える0
もてなすために、仙茶があ り、仙林 があ り、仙黒 もある。
観音 さまは、 「どの大仙 の法術 が もっとも優 れ、 もっとも神妙 なのか。」 と言 うと、呂純陽は洛陽で銀 を投げて観音 さまを汚 した ことがある。今度観音 さまが 個人的恨みを公の事 を利用 しては らすのではないかと心配 しているので、先 に上 奏す る。 「仏母 、法術 と言 えば、私 の法術 がかな りよいのだ。」「君 の法術 は ど
うい うものか。」「私 は鉄 で作 った網杓子 があ るか ら、海 の水 を汲み干す ことが で きる
。 」
「お‑、 よ し、 よ し。」鉄 の杖 をつ く老若 は、 「仏母、私 は鉄で作 った鉄 の杖 を持 ってい るか ら、海の 岩 を引 き抜 いて天井 に移す ことがで きる。」 と言 うと、 「よ し、 よ し。」 と仏母 は
言 っ た 。
四大金剛は、 「われわれ四人 の兄弟の法 も劣 らない。」 と言 うと、 「君 たちの 法はどうい うものか。」 と聞かれた。 「海や山を天上に挙げてお くことがで きる。」
「よ し、 よ し。」 と仏母 は言 った。
「仏母 、法 の ことを申せば、われわれ十八人の兄弟 も劣 らない。」 と十八人 の 羅漢 は上奏す ると、 「君 たちの法 は ど うい うものか。」 と聞かれた。 「われわれ 十八人 の兄弟は各 々一 つの靴 を脱 いで、海 の水 を全部汲みはせ る
。 」
「よ し、 よ し。君たちは 自分 の法力がそんなに高いと言 ったね。他の ことは さてお き、天 を 支 えてい るこの 白玉の柱 を今の位置 か ら三分 ほど移せば、それは本当に法 が高い と言 えるの よ。」 と仏母は言 った。 「天 を支 えてい るどの柱ですか。 」
「そ この一 本の柱 だ。 」
「その柱 か、それを背 うことがで きる。三十 回背 ってか ら仏母 さま にお渡 し申すの も難 しくない。 」
「みなさん、 ほ らを吹 くな。 」
「仏母 さま、 ごら んなさい、わた したちの身丈は こんなに大 きいか ら、 この一本の天の柱 ぐらいたい した ことはない
。 」
「君 たちの身丈 は本 当に立派 な ものだ。 」
「四大金剛 は麻 の 家の者で、肘王の門前 の四人の上将 だ った。後 に四大金剛 となって、力 が とて も 強 いのだ。 」
「三十 回背 ってみ る必要 はない。 ただ三分 は ど もとの位置 か ら移 せ ば、それは本当に法力がす ぐれてい ると言 え よ う。」 と四大金剛 は仏母 と言葉 を 交わ した。四大金剛の一人 は柱 の ところに行 って引 き出そ うと したが、ち っとも動 かせな い。三番 目と四番 目の兄弟は一緒 に行 って、や ろ う、や ろ うと言 いなが ら引いて みたが、少 しも動 かせない。
十八人 の羅漢 の一人 は先 に行 って引いてみたが、動 かせ なか った。続 けて三人 も、四人 も一緒 に行 って引 いて も動 かせなか った。
「みな さんは各各 自分の法 がすぼ ら しいい と言 ったね。 わた しは一本 の指 で弾 けば、それ を三 分 は ど もとの位 置 か ら離 す ことがで きる。」 と仏 母 は言 うと、
「わた したち四人 兄弟 はあなたの一本 の指 に も及 ば ないで しょ うか。」 と四大金 剛は言返 した。 「わた しは さらにそれ を もとの位 置 に戻す ことがで きる
。
」 と仏 母 は言 うな り、 「あなたは指でそれを三分 ほ ど離 して、 さらに もとの位置 に戻す ことがで きれば、わた したち四人兄弟は、あなたのために山門を守 って上げま しょ う。」 と四大金剛は言 い、 「仏母 さまが指 でその玉 の柱 を三分 ほ ど離 して か ら、さらに もとの位置 に戻す ことがで きれば、わた したち十八人 の兄弟 は、あなたの ために両側 の廊下 を守 って上げ ま しょう。」 と十八人 の羅漢 は言 った0
仏母 が天 を指す指 で、天 を支 えてい る白玉 の柱 の上 をち ょっと弾 くな り、それ を三分 ほど離 した。 も う一度弾 くと、 もとの位置 に戻 した。
四大金剛が山門を守 ってい ると、仙人たちはその有 りさまを見て、びっ くりして呆然 とす るばか りだ。
金剛は大 きいけれ ども、山門の外 に立 って、若 い観音 は殿堂 の正面 に坐 って い る。
羅漢 はその有 りさまを見 るや、みず か ら両側 の廊下 を守 りたい と言 いだす。
内壇 に羅漢十八人、十八人 の羅漢 は西側 の廊下 に分 かれてい る。
葦駄菩薩 は総管理人 とな り、弥勤菩薩 はに こに こ してい る。
譲 「人間 は勝負 をかけ ることが好 きだが、負 けた ら気 の毒 ね。」 と香 山 仏母は言 った。仏 は指で天 を支 えている白玉の柱 を弾 いて、三分 ほど離 したため、
指先 が充血 してほれて痛 み出 した。 そ して、金 の針 、金の皿 を取 り出 し、指先 を 突 き刺 して、仏 の血 を金 の皿 に垂 した。 わた しは千里眼、順風耳 を三天門‑遣 わ して、俗世 の ことを よ く調 べ、男 の子 が生 れ る家 に李貴 を送 り、女 の子 が生れ る 家 に、仏 の血 を送 って妊娠 させ るよ うに しよ う、 と香 山仏母 は思 った。
香 山仏母 は諭 旨を下 し、千里眼、順風耳 を三天門の下 ‑遣 わ して実情 を調べ させ る。福州侯官県 に住 んでい る黄 、陳 の二姓 の家 の者 が よ く修行す る ことを調 べて明 らかに した。
黄宅 には男の子が生れ、陳宅 には女 の子 が生れ る、 と大悲観世音 に上奏 した。
香 山仏母 は高元帥を遣 わ して、子 を抱 く張 山を俗世 の家 に送 る。
この人 は福 州侯官県 に生れ、城 内に住 んでい る黄宅 の者 で ある。
この四品の役人 は老齢 で職 を辞 し、名前 が黄元中 とい う。
文姓 の夫人 も爵損 を受 けたが、男 の子 が授 け られなか った。
仁徳 を修行す る夫婦 は、貧乏人 を心 にかけて よ く修行す る。
橋 が倒 れた り、道 が陥没 したす ることがあれば、それを修復 し、仏像 が古ぼ け ると金で塗 りかえさせれ る。
この年寄 に長年 の借金 を返 せば、若者 は本金だけを返 せば よい。
ある 日、三 回めの夜 の時刻 を知 らせ る頃 に、夫人は悪夢のために叫び出 した。
「よ く眠 って い るの に、何 の悪夢 で叫 び出 したのか。」 と黄大人 は聞 いた。 「わた しは夢 中で三天 門が大 き く開いて、竜虎 が地 に下 りたのを見た。」
と夫人は答 えた。 「おや、夫人 、妊娠 で きるに違 いない。男の子 が授 け られ るは ず だ。女 の子 じゃない。男の子 が授 け られた ら、文滝 と名づけ よ うね。」
家の保護神 に紙 の馬一匹 を供 え、文掩坊 ち ゃんのために神 に捧 げ る。
二人 のお年寄 りは嬉 しくな り、夫人 は部屋 に こもって養生す る。
この 『夫人伝』 で黄宅 の ことは さてお き、話 かわ って陳宅 の ことを語 ろ う。
老夫人 は南雲楼 で読経 してい る うちに、喉 が渇 いて声 がかれ る。
階下 に降 りて お茶で渇 をいやす はず だが、お経 は まだ一段落が終 らな いので、降 りては不便 だ。丁度外 に雨 が降 ってい るか ら、銅 の鉢 を持 って少 し雨 水 を受 け入れて渇 をいやそ う、 と老夫人は思 った。老夫人 は窓 を開けて、取 り出
した銅 の鉢で雨水 を受 け入れ る。
一滴の赤 い雨 が銅 の鉢 に落 ちて、極楽世界の仏 の弟子がお腹 に入 った。
一夜 が過 ぎて翌朝 にな り、林 、王二人 の姉妹 は南雲楼 に上 が った。
お茶 を机 の上置 いて、姑御 に挨拶す る。
姑御 は、何 の ことで、少 しし配 そ うに して い らっ しゃるのか.
お前 たちは聞かないな ら、私 は言わないが、 ど うい うことかと聞かれたか ら、
率直に話 そ う。
私 は南雲楼 で読経 していた ところ、 どこか らか変 な ものがわた しの身 につい
た 。
姑御 、おめで と う、妊娠 された こと、おめで と う、姑御 は妊娠 な さった お前 たちはわた しを笑わないで、姑 と して何 の面 目があって他人 に会 お うか。
「姑御 、家 に二人 の法師 がい るが、三番 目の妹 さんは まだいない。三 番 目の妹 がいればおめでたい三人そ ろ うはずだ。姑御 、姑御。」
読経 な さるには、南雲楼 は不便 にな ったので、階下 に降 りてお父 さま に知 らせ ま しょうね。
「姑御 、家 に二人 の法師 がい るが、三番 目の妹 さんは まだいない。三 番 目の妹 がいれば、おめでたい三人 にな るはず だ。姑御 、姑御。」
読経 な さるには、南雲楼 が不便 になったので、階下 に降 りてお父 さま に知 らせ ま しょうね。
お前 たちの言 うことは道理 があ る。 わた しは一緒 に南雲楼 か ら降 りて行 こう。
家の保護神 に紙 の馬三匹 を供 え、姑 と嫁 は南雲楼 か ら下 りて来 る。
老法師 に知 らせてか ら、老夫人 は部屋 に帰 って養生す る。
老法師はすべての廟 に行 って願 かけを し、お香 を点 し、 ロウソクをつけて神 霊 を拝 む。
光陰 は矢 の如 く、水 の流れの如 し、月 日のたつのは俣 が動 くよ うに、風 が雲 を吹 くよ うに速 い。
爆竹 の音 の中で一年 は終 り、春風 が暖 か さを もた ら して、誉蘇酒 を飲 む。
輝 か しい朝 日が人家 の軒 に射 し、 どの家 も桃 の木 の板 に絵 いた門神 の像 を新 しいのに取替 え る。
冬の終 りが過 ぎて早春 とな り、正 月の一 日は賑 やかだ。
一 日、二 日か ら三 日まで、香炉 の香 が尽 き、水時計 の音 も弱 くな った。
四 日が過 ぎて、五 日とな り、五 目に竜 の紋様 のついた衣 を干す。
新年 も、旧年 と同様 にめ どで く、家 ごとに新春 を賑やかに祝 う。
正月の八 日は長 い八 日と言 い、廟 に入 り、香 を点 じて神 さまを拝 む0 九 日、十 日、十一 、十二 日、十三 日か ら元宵の灯篭 をかけてお く。
十三 日の夜 が過 ぎて、十四 日とな り、極楽世界の仏 さまの弟子 は俗世 の家 に 生 まれ る。
四つの山の聖人 が迎 えに来 、橋 に逢 えば、橋 の神 が女神 を迎 え る。
地元 の城陸 が迎 えに来、三界 の神 明は女神 を迎 え る。
祭壇 を設 けた家 は爆竹 を鳴 ら し、極楽世界の仏 の弟子 は祭壇 を降 りて来 る。
(そ こで芸人 が 『陳十 四夫人伝』 を語 って、祭壇 を設 けた家の名前 を知 らせ ると、香 を点 じて黙 って聞 く。)
林嫁 は、 「三番 目のお嬢 ち ゃんは まだ声 を出 さない。金 の くLを抜 い て、玉 の皿 の中でち ょっと動 か してみ よ う。」 と言 った。
三番 目のお嬢 ち ゃんは声 を出 した。 「おや」彼女 は静 け さが好 きだか ら、靖 お 嬢 ち ゃん と名づけ よ う。
林嫁 は名 づけて、靖 お嬢 ち ゃん とい う。
『南遊』では、一度 だけ この名前 を呼ぶが、 これか らお名前 を言 わない。
男 の子 が生 れて も、女 の子 が生れて も、お香 を点ず る。
林嫁 はお香 を金 の炉 に楯 して、福 が高 く、寿命 が長 い。
老夫人 は赤 ち ゃんを抱 いて、災殊 な く早 く大 き くなるよ うに祈 る0 翌 日、黄宅 の僕 が来 て、赤 ち ゃんが生 れて三 日祝 いのために法師に願 う。
「老法師 は ご在宅です か
。 」
「外 は誰 です か。 」
「黄旦那様 の ご命令 を 奉 じて 、赤 ち ゃんが生 れて三 日祝 いのために、老法師 にお願 い 申す。」「おや、家で も赤 ち ゃんの三 日お祝 いをす るはず だ。」「お父 さん、わた したち法師 の家 では忌み とい うことはない。 あなたは黄宅 の三 日祝 いを してか ら、家 のお嬢 ちゃ んのためにお祝 いを しては如何 で しょうか。」 と林嫁 は言 った。 「お前 の言 うこ とは もっともだ。」
老法師 は衣冠 を整 えて、黄宅 の僕 について立 った。
途 中で止 ま らず に城 内に入 り、黄宅 は中門を大 き く開いて迎 え る。
陳老法師はい くつかの庭 を通 り、黄旦那 さんは迎 えに出 る。
「老法師、 ど うぞおかけな さい。」「あ りが と う。」
黄宅は供 え物 を庁堂の前 に並 べてお く。
お香 を点 じ、 ロウソクをつけて神 の ご庇護 を祈 り、黄宅 には男の子 が 授 け られた。
家の保護神 に紙 の馬一匹、黄文掩 の福 を祈 るために三 日祝 いを行 う。
三 日祝 いが終 ると、 「老法師 、お礼 の小 包 を差 し上 げ よ う。」 と黄旦 郡 さんは言 った。
「あ りが と う、実 を言 えば、家 に昨夜 の子 の時刻 に一人 の娘 が生 れた。 わた し は家 に帰 って三 日祝 いをや るはず だ。」「おお、 お宅 の兄法 師 の お娘 です か。」
「違 い ます
。 」
「お宅 の弟法師 の娘 さんです か。 」
「違 います。 」
「あなたの娘 さ んです か。 」
「そ うです。 」
「おめで と う、おめで と う。 」
「十三 日の夜 中が十 四 日になる。暦 に よれば、 甲子 の 日、 甲子 の時刻 で、春 の水 の よ うなめでたい生れ の年月 日で、立派 な人の生れ る月、立派 な人 の生れ る時刻だ。」 と黄旦那様 は言 っ た。
三 とい う月 日に生れた男 の子 が抜群 にな り、三 か七 とい う月 日に生れ た女 の子 が黄金の よ うに貴 い。
めでたい年月 日に生れた赤 ち ゃんは、天下 の大賢人 にな るに違 いない。
∋ 「老法師、お宅 のお嬢 ち ゃんは生 れの年月 日が よいか ら、大賢人 がお 宅 に生 れた。」「そ うか、わた しは道教 の者 で、 どんな大賢人 が家 に生 まれ よ う か。」「お宅 にお嬢 ち ゃんが生 れ、家 に坊や が生 れた。 お宅 のお嬢 ち ゃんは家 の 黄文滝 と縁組 を しては如何 で しょうか。」「それ はいい ことだけ ど、家 は道教 の 者で、貴 い役人 のお宅 に釣合 わない と思 うね
。 」
「縁組 とい うことは情義 だけが 大切で、高低 とい うことはかまわない。両方 とも心 か ら願 うな らいい じゃないか。」と黄旦那様 は言 うと、 「そ うお っ しゃるな ら、家 の娘 をお宅 の文滝 の許嫁 と しよ う。何 を結納 の贈物 に しよ うか。」 と老法師は答 えた。
衣の裾 を結納 の贈物 に して、鉄 を出 して裾 を切 ろ うとす る。 「老法師、 ど うぞ、
お先 に。」「黄旦那様 、 ど うぞ、お先 に。」
おお、主人 は 自分 の裾 をお客 に先 に切 らせ るよ うにすす め ると、老法師 は手 を 伸 ば して、黄旦那 さんの裾 を 自分 の方 ‑ひ っぼ った。ず いぶん上 までひ っぼ って か ら‑ きれ切 った。 これで 自分 の帽子 で も作 れ るよ うにと思 って、彼 はで きるだ け大 き く切 りとった。
こん どは黄元 中の番 だ。彼は老法師の粗末 な衣 の裾 をひ っぼ って、銅銭 ほどの 大 きさに‑ きれ切 った。 そ してその切 れに刺 しゅ うをつけてか ら彼 に返す よ うに、
女 中に言 いつけた。
印 と して裾 を切 り取 ってか ら、二人 は さらに挨拶 をす る。 「陳宅 の婚戚 さん、
ど うぞ
。 」
「黄旦那 さん、 ど うぞ。」「おや、二人 は姻戚 の間柄 で、 ど うして黄旦那 さん、 ど うぞ、 と言 うのか。陳 姻戚 さん ど うぞ
。 」
「黄姻戚 さん ど うぞ。」黄 、陳 の姻戚 は互 いに挨拶 し、祝 いのお酒 を出 して法師 を もてなす。
祝賀宴 が終 ってか ら、陳老法師はお別 れ を告 げ る。
途 中で止 ま らず に家 に帰 り、帰 ってか ら部屋 に入 る。
「お父 さん、お帰 りな さい。家の三番 目の嬢 ち ゃんのために三 日祝 い を しな さいね、」 と林嫁 は言 うと、 「お前 は この娘 に名前 をつけて、文書 にで も 書 け るよ うに。」 と老法 師 は言 った。 「お父 さん、家 は陳姓 で、十三 日の夜 中、
十 四 日にかけて いた時刻 に生 まれたか ら、陳十 四 と名 づけては如何で しょうか。」 家の保護神 に紙 の馬一匹 、陳十 四のために、福運 に恵 まれ るよ うに三 日祝 いをす る。
老夫人 は娘 を抱 き上 げて、十 四 と呼 びなが ら可愛 が る。
夫上 の星 が俗世 に降 りて、災厄 な く成長 して行 く。
陳宅 の ことは さてお き、別 の ことを少 し挿入れてか ら、 もとに戻 ろ う。
南洋 の大海 に水底洞 があ り、雌 と雄 の蛇 はそ こで五百年 ほど妖怪 の仕業 を し て きた。
彼奴 らは占いがで き、いろい ろな ものに化 け ることもで きる。
人間 に化 ければ人間 にそ っ くり、鳥 に化 ければ鳥 の よ うに高 く飛びあが るこ とがで きる。
あ る日、雌 と雄 の蛇 の妖怪 は、互 いに話 しあ う。
「あなた
」
「お前」
「わた したちは南 の大海 でいつ も蝦や蟹や魚 など を食 っててはおい しくない。生 ぐさ くていやだ。 その上 に湛 の水 に浸 って困 る。」「お前 、晴れの場 には俺 た ちの分 がない
。 」
「あなたは この洞窟 を よ く守 って、わた しは外 ‑訪 ねてみ るわ。 も しどこか廃 れた宮殿 や廟 があれば、わた したちは そ こ‑行 って、お香 を受 け、福 を もた らそ うね。」
蛇婆は一つ もんど りうって洞窟 を出てか ら、鳥 に化 けて空 を飛ぶ。
この妖怪 は指折数 えて占い、方 々の様子 を占った。
占いで当ったのは、寛猪 にある一つの県の こと。南江殿平侯殿祖師の住 んで いるところである。
彼は法 を教 えるために南天 に行 き、留守番の土地神 が廟 の門を守 っている。
そ この隣組の頭、祭 りを捧 げ るべ き多 くの家は、仏 を も神 を も礼拝 しない。
廟 に収 めるべ き献納金がな くな り、供 え品 もな くな り、南江殿 にお香 と灯 が 絶 えて、ひっそ りしている。
蛇婆妖精は嬉 しくな り、急 いでか らだの向 きをかえて洞窟の中に帰 る。
「あなた
」
「お帰 り。廃 れた宮殿 や廟 があ ったか。 」
「あ るわ よ」断固に一つの県があ り、南江殿平水侯王殿 の祖師がそ こにい る。
「どこか。」
彼は法を教 えるために南天 に行 き、留守番の土地爺 が廟 の門を守 ってい る。
そ この隣組の頭、祭 りを捧げ るべ き多 くの家は、仏 を も神 を も礼拝 しない。
廟 に納 めるべ き献納金がな くな り、供 え品 もな くな り、南江殿 にお香 と灯 が 絶 えて、ひっそ してい る。
蛇公はこの様子 を聞 くや、嬉 しくな り、お香 と灯 を受 け、福 を もた らすため に、南江‑行 きたがる。
雌 と雄の蛇 は、 もんど りを うって、洞窟 を離れ、鳥 に化 け、麹 を伸 ば して南 江へ行 く。
驚か された留守番の土地爺 は、 ロを切 って罵 り出す。
この無炉の妖怪、 この不時着め。 この廟 の中に飛び込 んではいかん。
早 く出で うせ ろ。仏 さまの顔 に免 じて許 してや るぞ。
二十三 日、二十四 日に出て行 かない と、俺 が不人情 だ と思 って くれ るな。
ロを切 って、土地爺 と呼び、わた しの言 うことを聞いて くれ。
正面の壇にわた し夫婦 に坐 らせて くれは、 この壇 を守 る土地爺 も引立て られ、
光栄 になろ う。
正面の壇 にわた し夫婦 に坐 らせて くれない と、先ず お前土地爺 をお菓子 に し てや るぞ
壇 を守 る土地爺は仕方な く、 この妖怪 を廟 内に迎 える。