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大久保山学とサイエンティフィックリテラシー

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(1)

§1 はじめに

「大久保山学」は2017年度から高校 3

年生を対象に始まった週

コマの授業である。大久保山に はキジやイノシシ,希少野生動物のオオタカなど多くの野生動植物が生息する。古墳が多数あり古 代の埴輪や土器も多く出土する。その自然環境や歴史的遺産を「生きた教材」として,学際的かつ 総合的な視点から取り組む教育プログラムである

。ただし,この企画は新しいものではなく1982

年の本学院創設時からのもので,大久保山の自然を授業に取り入れる試みは当時からあった。

 一方,the Global Scientific Literacy Questionnaire

(GSLQ と略す)

は,韓国で開発されたもので,

世界市民として必要なサイエンスの教養を測定する道具である。これは,サイエンティフィックリ テラシーを「社会的,文化的に造られた概念で,常に使われ方の文脈と時代の変化によって変わる もの。」ととらえ,これを現代的に問い直したものである。

 筆者は,「大久保山学」において,大久保山を大きな実験場ととらえ,大久保山にある材料をも とに我々の生活を考えることを試みた。大久保山の自然,歴史,風土,気候,大久保山に関わった 人々,そのような事柄の

つを題材に,社会的な視点や,文学的視点,そして純粋にサイエンティ フィックな視点など,

つの事柄を中心として我々の生活を考えていく事が,今の学生にとってと ても大切なことと考えた。

 そこで,大久保山学の他の講座で文学的な立場から扱われていた 松根油 を題材にすること を考えた。アジア太平洋戦争中に本庄地区の松の根から油を製造したという記録から,大久保山で も同じような作業が行われたことがわかる。石油につき調査し,戦争当時の石油の状況を考え,国 家体制や外国特にアメリカとの関係を知り,なぜ松根油を製造したのか,松根油製造は意味があっ たのかなどを学生と考えることにした。サイエンティフィックな立場からも,松の根はどの程度地 中に延びているのか,

本の松からどの程度の量の油がとれるか,そもそも松の根から良質な油は とれるか,などの疑問が学生に生まれてくることを期待した。

 松根油に関する基礎的な知識を学生がもった段階で,松の根を切り出し細かくして,鉄の容器中 で乾留する実験を行った。これにより松根油を得る事が実際は如何に困難なことで,戦争当時の国 の策がいかに無謀で意味をなさないことであったかを学生の全員が体験した。また,松根油製造に 必要なサイエンティフィックな知識,技術,材料と,当時の日本を取り巻く世界情勢や日本の経済

大久保山学とサイエンティフィックリテラシー

── 韓国梨花女子大学開発 GSLQ による評価 ──

上 野 幸 彦

(2)

の問題など,学生たちの頭の中は整理のつかない状態になったと考えられる。

 この授業の目的は,社会の現象が政治や法律,経済などと結びつくのと同様に,工業技術や資源 などサイエンティフィックな事柄とも深く結びついていることを知り,将来サイエンティフィック な学問や職業に興味をもってもらうと同時に,そのような分野以外に進むものたちにもサイエン ティフィックな視点をもってもらうことであった。今回,GSLQ の結果では,松根油を扱った試み はある程度の成果があったと言える。すなわち GSLQ の平均値(Mean scores)が,

ポイントが 満点であるが,この活動の前後で,全平均 0.20 ポイントの上昇を示した。測定から除外した(

1 )

基礎知識(科学の核となる知識)を除いて,次元(

2 )科学の心構え(科学の実践),次元( 3 )

人格と価値観,次元(

4 )人類の成果として科学を認識する能力,次元( 5 )メタ認知と自発性の

上昇ポイントは,それぞれ 0.26,0.25,0.07,0.19 となった。それぞれの次元でもスコアが上昇した。

 さらに GSLQ を用いた調査により明らかになったことは,大久保山学によって学生にどのよう な影響があったかという点である。大久保山学の受講で理科の演習問題がよく解けるようになる訳 ではなく,知識が急に増える訳でもない。しかし,次元

( 2 )

科学の心構え

(科学の実践),

次元

( 3 )

人格と価値観,次元(

5 )メタ認知と自発性のスコアの伸びが,次元( 4 )人類の成果として科学

を認識する能力に比べ確実に上昇していた。従来の科学の授業ではなかなか実現がされていなかっ た,学生が責任ある市民として生きるための教養を深めることに役立つ授業となったと言える。

§2 序論

(2.1)大久保山学の概要(一部引用)

「大久保山学」の授業は,「大久保山と地球環境」「『平家物語』からみる武蔵武士」「本庄市周辺

の文学」「不確実性下における意思決定入門」「大久保山で

『変化を捉える』」「大久保山で科学する」

「大久保山の植生と森林生態学」「大久保山に生活する人たちって,どんな人?」などのコースの中

から

学期と

学期に,別々のコースを選ぶ。

 敷地内の恵まれた環境を利用し,個別に存在していた授業を統合し,学校の特徴として打ち出す 動きである。世界のどこへ行っても活躍できる人になるように,高校時代を過ごす大久保山につい て学び,生徒のアイデンティティを確立する,あるいはその足がかりをつくることを目指している。

史料や文学を題材とし,本庄市周辺の歴史・文化を学び,現代社会を考察する。

 例えば,野鳥の観察では,

種類の野鳥を観察し,姿・行動・鳴き声などの特徴を精確に記録す る。写真を撮り,鳴き声を録音する。ヒヨドリ,シジュウカラ,ウグイス,ヒバリなどが生息して いて,目で見て観察するのは自然科学の基本と言える。大久保山の植生と森林生態学では二酸化炭 素の測定器により地面付近の二酸化炭素量を測定し,地面がどれだけ「呼吸」しているかを調べ,

地中の微生物の活動量を測定する。また,大久保山に生活する人たちって,どんな人?では統計学 を学びプレゼンテーションの練習を行なう。これらは「大久保山」を共通の題材とした統合型の学 習であり,文理融合の非常に興味深い取り組みと言える。

 筆者は,大久保山学の

講座を担当したが,その名称を「大久保山と生活科学」とした。大久保

(3)

山を含む学校敷地内の環境問題や,松や杉や雑木林のなかにテーマを見出すことを考えて名称を決 めた。大久保山の松の根から油をとる実験や,戦争中の松根油製造の歴史,石油のエネルギーとし ての位置づけなどを調べ,「アジア太平洋戦争における松根油製造から考える,市民にとって『国 家』とは何か」という小レポートの提出を課した。「身近にある題材」と

「学生に好まれるもの」 「社

会との関連の深い自然科学」という方針のもと,理科系に進学希望者にはより深い内容を学べるよ うに,文科系進学者で理科に興味の無いものにはなるべく興味がわくように工夫した。全ての学生 に社会と理科の密接な関係を知ってもらい,理科が責任ある市民としての必要不可欠な教養である ことを認識してもらう試みでもある。

(2.2)GSLQ について

 Kongju Mun らは科学リテラシーの概念をもう一度見直し,21世紀サイエンティフィックリテラ シーの新たな概念の枠組みを基礎とした,the Global Scientific Literacy Questionnaire(GSLQ と 略す)と呼ばれる新しい科学リテラシー測定法を開発した。彼らは,鍵となる要素をそれぞれが含 む

つの次元を規定した。

つの次元とは,(

1 )基礎知識(科学の核となる知識)( 2 )科学の心

構え(科学の実践)(

3 )人格と価値観( 4 )人類の成果として科学を認識する能力,そして( 5 )

メタ認知と自発性である。そして,かれらは GSLQ を用いて3202人の韓国学生

(7

th‒12th

に対して,

世界市民としてのこれらの能力をどの程度の有するかを測定して研究を行なった。数値の妥当性と 信頼性は,クロンバックの

α

信頼性係数

(the Cronbachʼs α coefficient)

と探索的因子分析

(explor-

atory factor analysis)や確認的因子分析(confirmatory factor analysis)をはじめとする多種の統 計的手法により検証している。この測定の実施と評価は,性差や学年をまたいだそれぞれの次元に おける学生の考えを比較するとともに,韓国中等教育在学の学生の全体的な科学リテラシーを精査 する事により議論されている。

 現代社会は世界市民として 総体的社会意識 を個人がもつことを要求する。すなわち,もし原 発事故のような深刻な事故が起こるようなことがあれば,当該の国だけでなく世界のコミュニ ティーが関係することになり,問題解決に責任をもつことになる。全く異なる地域の個人であって も,共感し応援することになる。それ故,我々科学を教えるものの究極の目的は,世界市民として 充実した責任ある人生を学生が送れるように準備させることであると言える。

 世界市民であれば科学に関係した社会問題

(例えば,地球温暖化,遺伝子組み替え,幹細胞研究,

ナノテクノロジー,石油流出など)につき,考え論じあうことに参加し,科学的思考による根拠に 基づいて思慮深い決定を行い,そして地球社会のより大きい福祉の為に問題解決の社会政治活動を 起こすべきである。

 韓国の科学教育関係者は国の科学教育の基準を変革してきた。それは,21世紀のリーダーシップ をとる,自発的で創造的な才能を有する中等教育卒業生を育てることを目指したものであった。し かしながら,韓国の学生たちは世界規模の環境変化や遺伝子組み替え食品の問題には,あまり関心 を示さないという調査結果が示された。

(4)

 このような理由から,GSLQ の開発者達は,韓国社会の要請と世界の変化に対応できる科学リテ ラシーの意味をもう一度問い直し,21世紀の新しい科学リテラシーの概念的枠組みを提案した。多 くの議論がされるなか,科学リテラシーのとらえ方の明確な意味を定式化することは,非常な困難 をともなった。多くのとらえ方がある中で,GSLQ 研究者は Miller(1998)と Laugksch(2000)

らの考えに同意している

。それは,サイエンティフィックリテラシーは,「社会的,文化的に造

られた概念で,常に使われ方の文脈と時代の変化によって変わるもの。」ととらえるものである。

そして,彼らはサイエンティフィックリテラシーの概念構築にあたって,次の事柄を強調している。

(Ⅰ)

  21世紀における個人的,社会的,世界的な観点で生じた複雑な問題を他人と協力し,コミュ ニケーションを通して,適切な情報を探し出し,活用して,そして十分な根拠と理由付け をしつつ,いろいろな立場に対して賛否の主張することのできる学生の能力を伸ばす。

(Ⅱ)

  他人を尊重し共感し応援すること,環境を大切にすること,それ故我々科学を教えるもの の究極の目的は,世界市民として充実した責任ある人生を学生が送れるように準備させる ことである。

それは,以下のような次元に分けられている。

次元(

1 )科学的内容についての知識(科学の核となる知識,Content knowledge)

 グローバル化した社会において,誰もが理解すべき科学的内容は,核となるアイデア,即ちコア アイデアである。これは,概念,原理や個人が人生で経験する多くの現象の説明や記述における考 えの架け橋となる。それは,人の一生を通じて与えられ発展する統合された概念の理解を可能にす る。コアアイデアを統合的に理解した個人は新しいアイデアを理解し,問題を解決したり,必要に 応じて決断するために活用する基礎を身に着けている。具体的には,エネルギー,生物多様性,再 生可能性などである。

次元(

2 )科学の心構え(科学の実践,Habits of mind)

 21世紀では,科学を発展させ個人的,社会的,世界的な問題を解決する能力が求められている。

ここでは,コミュニケーションや協力してものごとを成し遂げる能力,論理的思考(解決の道筋が 不明な問題解決を含む),証拠を示しての主張やモデルの構築,そして情報の処理に重点が置かれ ている。即ち,相互理解を築くために異なる背景を有する人たちと会話し,協力していく中で,働 き,耳を傾け,そして情報を解釈するという個人の能力が求められる。また,問題を精査し,論理 的な手続きにより適切ないろいろな視点からの知識と証拠を用いて問題解決するための能力も求め られる。根拠を示して会話することが,科学教育のカギとなる要素となる。

(5)

次元(

3 )人格と価値観(Character and values)

 科学的態度や動機だけでなく,個人は地球市民として人格と価値観を確立すべきである。世界的 な問題に敏感で,他人を敬い環境をまもり,問題解決のため責任ある行動をとるために本質的に必 要なものである。人格と価値観には生態学的世界視野も含まれる。例えば,人類は自然界に生き,

それ故どのような自然に対する影響であろうとも人類に跳ね返ってくる。伝染病や発展の恩恵から 取り残された人々に同情すること,モラルや倫理的感受性,それと社会と深く結びついた科学的説 明責任,それは当事者としての世界規模の伝染病への責任や,苦痛を軽減したり回避したりするた めの責任を共有しようとする意志などである。

次元(

4 )人類の成果として科学を認識する能力(Science as human endeavor)

 21世紀に生きる我々は科学の現代的理解を求める。それは将来の選択や意志決定,科学に可能で あるか否かを知的に問う場合に,科学の知識により助けられるからである。科学の実践は本質的に 社会的に支配されているので,科学の知識や科学の産物は仮のものであり,主観的にならざるを得 ず,人類の生活としばしば内部でつながっている。それ故,人は科学と社会の相互関係を理解しな くてはならない。加えて,伝染病などを理解し社会的そして世界的な文脈において,意志決定の試 みに応えるため科学の精神を用いることを求められる。

次元(

5 )メタ認知と自発性(Metacognition and self-direction)

 メタ認知と自発性とは,認知能力を頻繁にもちいて自身の思考を正常化し,理解力を高める個人 の特性である。これは,長い人生には必須の能力である。21世紀においては,科学的技術的変革を 遂げることを目指して,他の人々との継続した相互作用の結果として学びが生じる。メタ認知力は,

個人的,社会的,世界規模の問題に出会ったとき,地球市民にとって重要な役割を果たす。特定の 科学の知識を把握し,他の考え方との関連を知るとき,めいめいが妥当な判断ができる。また,十 分かつ適切な証拠を基に議論を重ねるとき,他の人々の見方と自分のものが同一かそれとも異なる かを知ることができる。メタ認知と自発性は,計画し,導き,自身の取り組みを改善するための関 連情報を得ることを評価することに役立つ。

つの重要な側面は,自身による計画立案,自身をモ ニターリングすること,そして自身の評価である。自身による計画立案は,自分が目的達成のため に何をすべきかを決定するときに役に立つ。自身をモニターリングすることは,特定の課題を墜行 する過程で理解と課題墜行の程度を気づかせてくれる。モニターリングは,課題を完成させる過程 をたどったり,限界を明らかにすることを助ける。そして,課題達成のための努力に影響を及ぼす。

自身の評価とは,成果の過程を振り返り,判断と解決方法が適切であったか,なかったかを評価す ることである。

(6)

§3 本論

(3.1)授業の進め方

 授業は,2018年

月から11月にかけて週

回実施され,

回が50分である。受講した学生数は高 校

年生(Grade 12th

)の44名であった。 1

回目の授業において,GSLQ の調査をして学生のサイ エンティフィックリテラシー調査を行い,最後の授業で再び GSLQ の調査を行った。

回の GSLQ 測定において,どちらも参加できたのは35名の学生であったので,GSLQ データの解析はこの35名 について行なった。Table 1 に授業の概略を示した。学生は,基本的に

名程度の11班に分かれ活 動した。また,Table 2 に,参加した学生の性別,現在の学習コースを示した。

Table 1 松根油を題材とした大久保山学の授業計画

授業回 内     容

1 GSLQ  1 回目

2 石油・松根油の基礎知識(文献調査)

3 班ごと発表(石油・松根油の基礎知識)

4 松の根掘り起こし(大久保山)

5 松の根掘り起こし(大久保山)

6 松根水蒸気蒸留

7 松根油製造実験(文献に基づく方法)

8 レポート作成

9 生徒が全てのレポートを参照してコメント

10 GSLQ  2 回目

Table 2 参加者の性別と学習コース

Notes: R (Science course), B (the other course) participant gender and 

course 1 (Male, R)

2 (Male, B)

3 (Female, B)

4 (Female, B)

5 (Male, R)

6 (Female, B)

7 (Male, R)

8 (Female, B)

9 (Female, B)

10 (Female, R)

11 (Female, B)

12 (Male, B)

participant gender and  course 13 (Male, B)

14 (Female, B)

15 (Male, B)

16 (Male, B)

17 (Male, B)

18 (Male, B)

19 (Female, R)

20 (Female, R)

21 (Male, B)

22 (Male, B)

23 (Female, B)

24 (Male, R)

participant gender and  course 25 (Male, B)

26 (Female, B)

27 (Male, R)

28 (Female, B)

29 (Female, B)

30 (Female, R)

31 (Male, B)

32 (Male, R)

33 (Male, B)

34 (Male, B)

35 (Male, B)

─ ─

(7)

(3.2)GSLQ によるサイエンティフィックリテラシーの測定

 筆者は以前からサイエンティフィックリテラシーはどのように定義されるものか,また,学生が それをどの程度有しているものかを調査する手段を模索していた。そこで見出したのが,Kongju  Munらの開発した GSLQ である。彼らは(

1 )基礎知識(科学の核となる知識,Content knowl-

edge)(

2 )科学の心構え(科学の実践,Habits of mind)( 3 )人格と価値観(Character and 

values)(

4 )人類の成果として科学を認識する能力(Science as human endeavor),そして( 5 )

メタ認知と自発性

(Metacognition and self-direction),

つの次元のうち

( 1 )

基礎知識

(科学の

核となる知識)を除く

つの次元についての48項目のアンケートを英語により作成した。それぞれ の次元の質問の数は,それぞれ(

2 )H1〜H13 の13問で,( 3 )C1〜C9 の 9

問,(

4 )S1〜S13 の

13問,(

5 )

M1〜M13 の13問である。それぞれの次元の質問項目には記号が付されており,(

2 )

の H は Habits of mind,

( 3 )

の C は Character and values,

( 4 )

の S は Science as human endeavor, 

( 5 )では M は Metacognition and self-direction である。

 このアンケートに日本語の訳をつけたものを今回の調査では用いた(資料

。調査ではアンケート

の項目を,教員がいちいち読み上げ学生に選択肢から回答を選んでもらった。全ての実施時間は約 20分であった。選択肢は,Kongju Munらの文献どおりの Linkert スケールで,① Never(決し てしない)② Seldom/Rarely

(ほとんどしない)

③ Sometimes

(時々する)

④ Often/Frequently

(し

ばしば,頻繁にする)⑤ Always(常にする)の

つである。次元(

1 )基礎知識(科学の核とな

る知識)が除かれたのは,これについては学力試験などの別の調査が適切と考えられたからである。

(3.3)松根油に関する授業の実施

 石油に関して,学生がアジア太平洋戦争前後の状況や現在の産業や経済への影響を考えるため と,この戦争中の松根油の製造について基礎的な知識を得ることを目的として,次の文献の中から 班ごとテーマを決めて調査した。

文献名:

「木材・石炭・シェールガス」,石井 彰,PHP 新書(2014)

「石油で読み解く『完敗の太平洋戦争』」,岩間 敏,朝日新書(2007)

「日米開戦と人造石油」,岩間 敏,朝日新書(2016)

「石油の『埋蔵量』は誰が決めるのか?」,岩瀬 昇,文春新書(2014)

「日本軍はなぜ満州油田を発見できなかったのか」,岩瀬 昇,文春新書(2016)

 調査後,班ごとにテーマにつきアブストラクトを作成し,全員に対し発表した。

 石油に関する基礎的な知識と,アジア太平洋戦争における松根油の製造に関する具体的な方法や 当時の市民の対応などにつき知識を得た後,実際に大久保山にある松の根を掘り起こした。直径 30cm 程度の松であったが,授業

回では掘り起こすことはできず,授業の後数名の学生に協力し てもらい,数時間掘る必要があった。結局,根の先端までは掘り出すことはできず,最後はゴボウ

(8)

根の部分をチェーンソーで切らなくてはならなかった(写真参照)。

 掘り起こした松根は,ノコギリで細かくし,一部は水を加えて水蒸気蒸留により蒸留を行った。

水蒸気蒸留は水蒸気の蒸気圧を利用するもので,安全に容易に松のテルペン系の油を取り出すこと ができる。今回も少量であるが,容易に得ることができ,学生は,蒸留の様子や松のテルペン系の 油の匂いを体験することができた(写真参照)。

 次に,スチール缶に松根を詰め,蓋をして酸素の供給をなるべく少なくして,家庭用のガスコン ロを用い屋外で実験を実施した(写真参照)。結果は,ほんの少しのテルペン系の油の匂いがした だけで,煙が多量に発生した。30分ほど加熱を行ったが,家庭用のガスコンロでは火力が足りず,

ほとんど松根油らしきを得ることはできなかった。実験の最後にスチール缶に水を注ぎ観察した が,ほんの少量の油分が水の表面に観察されただけであった。松根油を得るためには相当の温度で 熱する必要があったと予想され,松根油を得るために人力のみならず大量の熱源を消費したと思わ れる。

 松根油製造に大変な労力を要したことが体験により理解できたと思われたので,ここまでの授業 の総括を行なった。「なぜ松根油を製造することになったのか?」という疑問を掘り下げていくと,

「国家」というものをどう捉えるかという問題に到達する。そこで,学生全員で「アジア太平洋戦

写真:松の根の乾留 写真:水蒸気蒸留

写真:松の根掘り

(9)

争における松根油製造から考える,市民にとって

『国家』

とは何か」という小レポートの作成を行っ た。さらに,提出されたレポートの結論部分(資料を全員で閲覧し,これらの結論に対する賛成ま たは反対のコメントを書くという授業を行った。松根油に関する授業はこれを最後とした。

(3.4)GSLQ によるサイエンティフィックリテラシーの再測定

回目の GSLQ によるサイエンティフィックリテラシーの測定と,なるべく同じ条件で

回目 の測定を行った。すなわち,教員がいちいち読み上げ学生に選択肢から回答を選んでもらった。全 ての実施時間は約20分であった。

(3.5)GSLQ による授業評価

 この学習の前後のそれぞれの学生の GSLQ スコアを資料

に示す。これをもとに次元ごとの平 均値と標準偏差を Table 3 にまとめた。Table 3 をグラフにしたものが,Figure 1 である。理科系 進学コース履修者と文科系などその他の進学コース履修者を分けて,GSLQ の平均を表したものを Table 4 に,これをグラフにしたものを Figure 2 に示した。

Figure 1  Dimension and Mean scores of GSLQ before and after the unit of study

Dimension Before After

Total 3.60(0.51) 3.68(0.64)

Habit of minds  3.44(0.58) 3.70(0.60)

Character and values  3.22(0.64) 3.47(0.72)

Science as human endeavor  3.81(0.66) 3.89(0.69)

Metacognition and self-direction 3.35(0.78) 3.54(0.78)

Note: The numbers in parentheses indicate standard deviations. The questionnaire before the  unit of study was implemented on 15th Sep, and the after on 29th Nov. 2018 respectively.

Table 3  Mean scores and standard deviations for GSLQ scores before and after the unit of study

(10)

 Figure 1 より分かることは,この学習の前後で GSLQ 各次元のスコアが上昇していること,次 元によりその伸びが異なっていて,次元(

2 )科学の心構え(科学の実践),次元( 3 )人格と価

値観,次元(

5 )メタ認知と自発性のスコアの伸びが,次元( 4 )人類の成果として科学を認識す

る能力の次元に比べおおきい。この傾向は Figure 2 においてもみられる。特に理科系進学コース 履修者においてこの傾向が顕著であり,次元(

3 )で伸びが 0.41 となり,次元( 4 )の伸び 0.11

よりも

倍近くの値を示した。文科系などその他の進学コース履修者においても同じ傾向を示して いるが,伸びの大きさ自体が小さい。

Participants of science course

Dimension Before After

Habit of minds 3.78(0.41) 4.02(0.44)

Character and values 3.31(0.54) 3.72(0.56)

Science as human endeavor 4.15(0.51) 4.26(0.44)

Metacognition and self-direction 3.76(0.50) 3.92(0.45)

Participants of the other courses

Dimension Before After

Habit of minds 3.50(0.60) 3.62(0.67)

Character and values 3.30(0.69) 3.40(0.84)

Science as human endeavor 3.83(0.61) 3.76(0.76)

Metacognition and self-direction 3.37(0.72) 3.40(0.83)

Note: The numbers in parentheses indicate standard deviations. The questionnaire before the  unit of study was implemented on 15th Sep, and the after on 29th Nov. 2018 respectively.

Table 4   Mean scores and standard deviations for GSLQ scores before and after the unit of study  for the particitants of science course or the other courses

Figure 2   Dimension and Mean scores of GSLQ before and after the unit of study 

for the participants of science course(R-) and the other courses(B-)

(11)

 Figure 1 と 2 より,次元(

4 )人類の成果として科学を認識する能力に関しては,従来からの

教科書を用いた授業や演習問題を解く学習により学生の能力を伸ばすことができると考えられる。

次元(

2 )科学の心構え(科学の実践),次元( 3 )人格と価値観,次元( 5 )メタ認知と自発性

に関しては,どのように授業に取り組んで能力を伸ばすかという方法論が確立されておらず,模索 の段階である。今回の学習では,学生に次元(

4 )以外のサイエンティフィックリテラシーの伸び

がみられ,特に学生が責任ある地球市民として成長するのに必要な,次元(

3 )人格と価値観の伸

びがおおきく特徴的である。今まで教員は学習の到達度による評価にもっぱら取り組んできたと言 える。しかも,過去の学問の内容についての学習がおおくを占めている。学生の興味,関心,好み を考慮し,身近な題材による,社会と関係の深い学習がほとんどされてきていない。特に学校の理 科授業において,その傾向が強い。今回の GSLQ の調査で,(

4 )人類の成果として科学を認識す

る能力が他の次元よりも高いスコアを示していることからもこのことが分かる。言葉をかえれば,

従来,教員が行なってきた授業は,サイエンティフィックリテラシーのうちの一部分をねらいとし てきたという事である。学生の将来の進路や,その動機,未来への展望,人生の目的などを,授業 を通しては十分に教えきれていなかったということである。

 今回の学習の取り組みは,普段目にする身近な自然を相手として 自然環境や歴史的遺産を「生 きた教材」として,学際的かつ総合的な視点から取り組む教育プログラム であるが,従来の授 業では,学生の能力を伸ばすことのできなかったサイエンティフィックリテラシーの側面を,意識 して伸ばすことのできる示唆に富んだ取り組みであることが明らかとなった。

(3.6)結論

 韓国梨花女子大学で開発された,サイエンティフィックリテラシーを測定する道具である GSLQ を用いて,大久保山学の授業の学生への影響を調べた。GSLQ の信頼性は,韓国学生の3000人以上 に対して検証され,統計的な妥当性を有している。その結果,大久保山学の授業を通じて,普段の 教室ではなかなか育成できなかった面,特にサイエンティフィックリテラシーの目的の

つである

「人格と価値観」の次元を伸ばすことができることが判明した。サイエンスコースの学生に関して

は,学習の前後で「人格と価値観」の次元の伸びは 0.41 と特におおきく,「人類の成果として科学 を認識する能力」の次元の伸びの 0.11 よりも明らかな差となった。「人類の成果として科学を認識 する能力」に関しては,学習の前の時点で

点満点中 4.15 と,もともと高く従来の学力観に基づ く学習方法で成果を上げることができていたことがわかる。

 大久保山学は,人格と価値観など学生たちの将来を豊かにし,責任ある地球市民としての自覚を 促すもので,従来の高校教育では見られない,学院が組織として取り組んだ画期的なものであるこ とが GSLQ の調査を通じて判明した。

§5 参考文献・資料

⑴  早稲田直系の付属校は「山」で秀才を育てる

,おおたとしまさ,東洋経済 ONLINE(2018

(12)

年参照)

⑵ 

「本庄市周辺の文学」,吉田茂,ibid.,(2018年参照)

⑶ Kongju Mun, Namsoo Shin, Hyunju Lee, Sung-Won Kim, Kyunghee Choi, Sung-Youn Choi & 

Joseph S. Krajcik, International Journal of Science Education, 2015, http://dx.doi.org/10.1080/09  500693.2015.1045956

⑷ Miller, J. D., Public Understanding of Science, 7 (3), 203‒223 (1998) and Laugksch, R. C., Science  Education, 84(1), 71‒94 (2000)

〈資料1〉

 サイエンティフィックリテラシーの測定に用いた,GSLQ の質問を以下に示す。アンケートであ るが,クラス,番号,氏名も書いてもらった。

 以下,GSLQ 調査用紙。

年(  )組(  )番(文・理)系,氏名(         ) サイエンスリテラシーに関する調査です。ご協力お願いします。

各問の①〜⑤から

つを選びマークしてください。選択肢は各問共通です。

選択肢:

① Never 

(決してしない)

② Seldom/Rarely 

(ほとんどしない)

③ Sometimes 

(時々する)

④ Often/Frequently 

(しばしば,頻繁にする)

⑤ Always 

(常にする)

 

.自分の自然科学的思考についての他人からの批判的意見ををよろこんで受け入れる。(I am 

willing to accept critical comments that others have about my scientific ideas)

 

.他人とグループを組んで共同作業をする時に,グループの目指すゴールを頭にいれて活動す

る。(When I work with others, I take into consideration the goals of the group)

 

.みんなが自然科学の意見を述べた時に,どの意見が重要なのか取捨選択する。(I am able to 

select key ideas when people present their scientific opinions)

 

.他人の自然科学の考えを聞いて,

有効な助言をする。

(I give useful feedback to others about 

their scientific ideas)

 

.自然科学の考えを明らかにする時,その考えを正確で分かり易い方法で表現する。(When I 

express my scientific ideas, I try to present them in a complete and comprehensive manner)

 

.自然科学の問題解決において,どの考えが結果に重要な影響を与えるかを考慮する。(When 

(13)

solving a scientific problem, I select important ideas to determine which of them might influ- ence the result)

 

.意義ある結論を導くため実験のデータを慎重に分析する。(I carefully analyze data from an 

experiment to draw valid conclusions)

 

.自然科学の問題解決において,実験データの規則性を見つけるように努力する。(When 

solving a scientific problem, I try to find patterns in experimental data)

 

.自分の観察を説明するために,

科学的モデルを開発したり,既存のモデルを使う。(I develop  Scientific models or use existing models in order to explain my observations)

H10 

.もんだい解決に際していろいろな方面から関連情報を集めようとする。(When solving a 

problem, I try to find relevant information from various resources)

H11 

.情報を集めたり検索したりするとき,それらの類似性や相違を見つけることができる。

(When I collect data or find information, I am able to find similarities and differences)

H12 

.科学の問題を解決するとき,どの情報が最も関連しているか決めるために情報を比較し評価

する。(When solving a Scientific problem, I compare and evaluate information to determine  what is most relevant)

H13 

.情報を集めたり検索したりするとき,系統的に行う。(When I collect data or find informa-

tion, I do it in an organized way)

 

.環境に影響を与えるであろう何かをするとき,水,土地,空気,生命などの全てがどのよう

に関わり合っているかを考える。(I think about how the water, land, air, and life are all con- nected when I do something that might affect the environment)

 

.世界の全ての人々が,健全な環境で暮らせるように環境保護を保護するため責任をとる。(I 

take  responsibility  to  protect  the  environment  so  that  others  in  the  world  can  live  in  a  healthy environment)

 

.世界に影響する科学の問題を真剣に考えるようになる,そのような人格を人は育てる必要が

あると信ずる。(I believe we need to develop personal characteristics that will help us care  about Scientific issues that affect the world)

 

.世界に影響を与える決定を下さなければならないとき,不利益を受ける人々のために行動し

ようと強く思う。(When I need to make a decision about issues that affect the world, I feel  passionate about acting on behalf of disadvantaged people)

 

.地球の遠く離れた地域に住む人々の感情を尊重し理解するように務めている。(I try to 

respect and understand the feelings of others who live in different parts of the world)

 

.地球の遠く離れた地域に住む人々にとって深刻な問題の解決によろこんで参加する。(I am 

willing to participate in solving problems that impact people living in different parts of the 

(14)

world)

 

.世界に影響を与える諸問題についての意思決定の活動によろこんで参加する。(I am willing 

to take part in decision-making activities about issues that affect the world)

 

.個人的な振る舞いが世界中の環境に影響するかもしれないと考える。(My personal behav-

iors can influence the environment throughout the world)

 

地球規模の問題に対する自分の意志が,世界を変えることに貢献するかもしれないと考える。

(My decisions on global issues can contribute to changing the world)

 

.科学者により発見された新たな証拠により科学は変わるかもしれないと考える。(Scientific 

ideas can change when scientists find new evidence)

 

.科学的知識は自然の観察から生まれたものであると考える。(Scientific knowledge derives 

from observations of the natural world)

 

.同じ現象を見たとき,異なる理論を信じる人は異なる観察をすると考える。(People who 

believe different theories will make different observations of the same phenomena)

 

.創造性が科学的知識の発展に重要な役割をすると考える。(Creativity plays an important 

role in developing Scientific knowledge)

 

.自然科学,

工学,社会はお互い密接に関わっていると考える。(Science, technology and soci- ety are closely related to each other)

 

.自然科学の進歩には公的な援助が必要であると考える。(Public support for Scientific 

research is needed for science to advance)

 

.自然科学の研究には多くの予算が必要であるので,研究は企業や政府からの影響を受けると

考える。(Because Scientific research requires financial support, it can be influenced by com- panies or governments)

 

.自然科学の理論(例えば,プレートテクトニクス,進化論)は人間の努力から生まれたと考

える。(Scientific theories (i.e. Plate tectonics, evolution) result from human effort)

 

.人々がどのように自然科学と工学を使うかによって,多くの社会的,環境的,そして健康に

関する問題を引き起こしている可能性があると考える。(How people make use of science and  technology can cause many social, environmental and health problems)

S10 

.人々がどのように自然科学と工学を使うかによって,多くの社会的問題を解決する可能性が

あると考える。(How people make use of science and technology can help to resolve social  problems)

S11 

.科学者は研究や研究発表に関して正直であるべきであると考える。(Scientists  should  be 

intellectually honest when conducting and reporting their research)

S12 

.科学の研究課題が複雑で明快な解答が得られなくとも,科学者は解答を求め続けるべきと考

(15)

える。(Although Scientific problems are complex and have no clear solution, scientists con- tinually try to find solutions)

S13 

.科学者は寛容であると同時に実験については疑い深いと思う。(Scientists are open-minded 

and skeptical in conducting their research)

 

.科学の問題を解こうとするとき,まず問題を理解しているかを自身に問う。(Before I try to 

solve a Scientific problem, I ask myself do I understand the problem)

 

.新たな科学的問題に取り組むとき,問題解決に必要な情報について考えを巡らす。(When 

beginning a new Scientific problem, I think about what information I need to solve the prob- lem)

 

.新たな科学的問題に取り組むとき,自身の言葉にしてから考える。(Before I try to solve a 

Scientific problem, I put the problem into my own words)

 

.新たな科学的問題に取り組むとき,以前に同様な問題がなかったか思い出そうとする。

(When I start to solve a new Scientific problem, I try to remember if I have worked out a 

similar problem before)

 

.新たな科学的問題に直面したとき,問題解決に至る全ての段階の作業について考える。

(When I face a new Scientific problem, I think about all the steps as I work through the 

problem)

 

.科学的問題を解決できても,課題を成し遂げた後の問題を注視し続ける。(While solving a 

Scientific problem, I keep looking back at the problem after I complete a step )

 

.一歩一歩努力して科学的問題を解決する。(When solving a Scientific problem, I work step-

by-step)

 

.問題の解答が得られたとき,正しい手続きを踏んだか確かめるために振り返る。(When I 

finish solving a problem, I look back to see if I did the correct procedures)

 

.科学の問題を解決できたとき,次に進む前にこの問題をあらゆる面から完全に理解できてい

るか自問する。(When solving a Scientific problem, I ask myself whether I completely under- stand all aspects of the problem before I go forward)

M10 

.科学の問題を解決できたとき,

他の解決方法がないか考えてみる。(Once I solve a Scientific  problem, I consider if there are other ways to solve it)

M11 

.問題が解けたとき,これにより何が得られたか自問する。(Once I solve a problem, I ask 

myself what I learned from my work)

M12 

.実験の一部を終えたとき,自分の目指した目標に近づいているか自問する。(After I finish 

a part of an experiment, I ask myself if I have achieved my goal)

M13 

.地球規模の問題を考え結論を得るために科学的証拠と情報を積極的に探す。(I am willing 

(16)

to look for Scientific evidence and information to make decisions about global issues)

〈資料2〉 学生のレポート抜粋

*国民に一番保障されるべき権利は表現の自由である。これさえ保障されれば,話し合いによって 他の権利を手に入れることができる。

*国家の勝手な目的に多くの国民が犠牲にされたのであり,国民は国家にとっての使い捨ての道具 同然である。

*日本は我々国民に強制といった形態で物資を求めるも誤った戦略によって本来の目的を達成する 事ができずその上,日本海軍の敗北,つまり日本国家敗北に終わったのである。国民からしたら 国家はこのままで大丈夫なのか?任せられない,といった反発する,されるの関係にあったので はないかと考える。

*国家と我々の間には,国家権力の大きさ故に無益な松根油製造が押し付けられ,総動員された国 民は労働力の浪費をするだけという,陰惨な関係が築かれていた。

*情報を伝えるメディアが国家によって統制されていて,国家にとって不利になるような情報が報 道されなかったことが,この状況を引き起こした一つの大きな原因であると考える。……もっと 意見を言える機会を増やし,市民の意見を政策に反映させることができれば,市民にとっても国 家にとっても良い結果が生まれると考える。

*現在の「国民国家」とは「政治的に統一された国家」と定義されている。今も昔も国民は,たと え国家に対して思うことがあったとしても国家には逆らえないというのが現実なのである。本 来,国民がいてこその国家であるというのに。

*戦争はまだ歴史ではない。周りの情報を鵜呑みにし,過去の愚かさや過ちを忘れ,平和を創るの ではなく,個々人が果たすべき責任を見つけるべきなのではないだろうか。

*終身雇用制や年功序列型賃金等がいい例である。幸いにも国を復興させる明確な志を持った優秀 な官僚,経営者の統率で日本は復興を果たしたが,差を生まない制度の中で結果的に「一億総中 流」の日本が誕生した。そして中流社会により優秀なリーダーが消えた今,労働者たちは酷使さ れ盲目に消耗されている。

*政府,官僚,軍,そして国民と社会の関係性が明らかに変容した戦中,戦後の世の中だが,多く の国民は今も変わらず盲目的に国に使用され,社会主義的な国家形成の要素になっているのかも しれない。近年の IT 業界等後発の真の民主主義的な業界の躍進により,我々には進路の選択権 が与えられたが,どちらを選ぶのが吉かはもはや自明の理である。

*松根油のケースから,国家はその本質として暴力的であるということを再認識した。国家は我々 にとって必要なものであるが,同時に国家は我々から搾取することが可能であり,そのために 我々は国家に対して常に懐疑的でなければならないと思う。

*当時の日本の状況は現在の北朝鮮と似ており,政治的にも経済的にも厳しい状況にいた。この状 況から脱却するため,国内でも製造可能な新たな代用燃料の開発が進められ,登場したのが松根

(17)

油であった。

   当時は国民と国家の間には密接な関係があったと言える。多数の国民を犠牲にしてまでも戦争 をしたのは,日本の国際的地位向上のためであっただろう。しかし,松根油製造に踏み出したこ とは誤った選択であり,より最適な製造方法はなかったのか考えさせられる。

*国民の労働力を無駄遣いするといったことは国家がやってはならない。国家は国民の労働力を最 大限生かす努力をすることで,国民と国家どちらにも利益が出るような政策を作り出すべきだ。

国家は一億総括役社会を目指していて,働き方改革を施すことで労働者の権利を確立してきた。

国家はこれからも国民の労働をしやすい環境を作っていき,国民全員で豊かな国を作っていくこ とが世界有数の経済大国日本の役割だと考える。

*私が考える我々と国家の関係は国家とそれを支える我々労働者の長時間労働とその分に見合わな い低賃金で働かされることである。そして,それはどの時代にも共通しており,これからも続く であろう。

*日本は自国の資源力や技術力などの国力を正確に把握し,判断をすることで,日本の国家への影 響を軽減することができたのかもしれない。

*今と昔で日本国家の中身さほど変わっていないことがわかる。しかしながら私たち国民ができる ことはほとんどなく,現状の打開策を見つけるのは難しい。

*現在の国家と我々の関係性を考えると,戦時中のように「国家が国民(我々)を支配する」ので はなく,「国民(我々)が国家を制御する」ことが必要であるといえる。日本においては,間接 民主制という形でそれがなされており,この体制は崩してはならないと考えられる。

*実用化の難しい松根油の製造を本格化しようとしていた国家の考えは,国民一人一人を戦争の道 具と見なし,軽んじていたというところから生じたのではないだろうか。それにより,その当時 の国民は権威に押しつぶされるという形で,国家に服従させられていたと考える。

*資本主義にしろ,民主主義にしろ,社会主義にしろ,国家が大きな影響を国民に与えることに変 わりはなく,その変遷は大きな混乱と葛藤をもたらすのだと考えられる。

*多様化が進んでいる中,「国家」とはより様々な意見を言い合い,受け入れ合いながら日々良い 方向へ進んでいくべきのものであるだろう。

*大量なマツの木が掘り起こされて国民は自分たちの国に信頼を抱いていたからだ。ただ信頼を抱 くべきではないと思う。自分たちが住む国だからといって,ただ国家のために働くのではなく,

自分たちの住む国のために働くべきだと思う。本当に国民や国が必要とするもの,目指すべきも のを常に考えるべきだと思う。

   また戦争するとなったときに,政府から似たような要求をされたら国民はどうするのだろう か。

*我々と『国家』の関係は互いにゴール,目標としているものに対しての認識が違うと考える。…

互いに松根油を作って日本を支えようとしている点では共通していても,その時の視点は全然 違ったのである。つまり,このような現象が我々と『国家』の関係のすれ違い,認識の違いを生

(18)

んでしまっていると考える。

*彼らは大規模事業を行う際には予想を立てるのはもちろんのこと,起きそうな問題への対処,そ して何より他国との交易状況・立場などから自国の現在の状況をしっかりと把握する必要があ る。そして我々国民は,それらに対して受け身な構えをするのではなく,批判的な思考を持って 政府を干渉していくことが互いの関係性ではないだろうか。

*国家と国民の絶対的優位性がうかがえる。それは現代に至っても変わらない。民主主義と言いつ つも結局国民は国家に従うしかないため,国家と国民の関係は今も昔も変わらないのだろうか。

*戦争のためなら如何に非効率的なことも全く顧みずに行う「国家」に対して,我々はただ従わな ければいけなかったという関係が見える。

*国民の安全を保障するためにあるものだと私は思う。歴史をたどってみれば,いくつもの国家は 国民を騙し,誑し込み,欺き,利用してきた。無論,それらの国々は国民の反発等により,見事 に崩壊してきている。……国民は国家の暴走を防ぎ,民主主義を維持していかなくてはならない と思う。国家は国民のための機関であり,国民は国家を制御し,正しい方向へ導ける存在であり 続ける,これこそがあるべき国家と国民の関係性だ。

*国家と国民の間には大きな意識の差があったと考えられる。…日本国家は手はずを整えない「無 鉄砲」な国家であるために国民との間に意識の差を生んでしまったと考えられる。

*我々の意識や感覚,知識までもが政府によって造られていると言っても過言ではない。そのため,

いくら自分の所属する国家が発表した情報だからといって,鵜呑みにしてしまうと第三次世界大 戦で松根油を積んだ航空機が墜落するという事故が起きてしまう可能性があるということを我々 は忘れてはいけない。

*松根油を当時の航空機用エンジンの燃料とするには更なる工程が必要で,分子量の大きな炭化水 素を分解し,分子量の小さな軽質油にし,さらに硫化モリブデンを触媒として水素添加しオクタ ン価を高める必要があった。実際に航空機燃料として利用された記録はない様である。

*国家はその無謀な計画のためだとしても徴兵で多くの労働力を奪われている国民を働かせ続け た。これは,餓死してもいいと捉えてもおかしくないことである。国家は国民のことをただの戦 争の道具とでしか考えてなかったのだと感じた。

*太平洋戦争中の日本では,国民が軍のため,国のために,無理をして働くのは当たり前とされて いたのではないだろうか。当時の国民は,「国家」という名の絶対指導者のもとで働かされてい たのである。

*松根油製造の無為な強制労働に次いで,死を恐れず突撃できるように「愛国心」を植え付ける日 本はどの国の目から見ても悪である。私はこのような邪悪な日本政府にこき使われ,買い殺され る立場だった国民に同情する。

*理論上は松根油による製造でまかなえるといった虚偽の情報を発信し,取り組み続けた国家。そ の国家により我々日本国民は被害に遭ったのである。

*この松根油がいかに無駄なものなのかなど,考える余地も与えなかった。つまり,戦争継続のた

(19)

めの「神風」として考えていた軍部や国家によって,多くの国民が犠牲になったといえる。

*この時代の国民は国家の人々と受けてきた教育の差が大きく天皇が人間ではないと信じていたの と同様に国家に丸め込まれやすく上手く扱われてきたのではないかと私は考える。

*都合の悪い情報は隠蔽され,都合の良いニュース,もしくはフェイクニュースが国民の元に届く のは今も昔も変わらないことだ。政府が発表している情報は,本当に信じる価値があるのか,私 たちは見極める必要がある。

*国家は国民を強制し,国家の求める状態を維持させる。多くの国民にとってこれが強制だという 自覚はないのかもしれないが,この関係は今も変わってない。

*人手がとても重要であるため松根油を作るのはとても大変である。また,実験から松根からとれ る油はとてもわずかであり,それを利用するにしても様々な問題が発生したため松根油を使うこ とはできない。

*国家において権力の弱い若者世代が政治に関心を持ち続けることが重要である。例えば,SNS を有効活用して自分の意見を発信することが可能だろう。今後国家から緊急指令が出された場合 には,普段通りクリティカルな視点から物事を冷静に考えることができ,そのような人が多けれ ば多いほど,国家の歩む道は正しい方へと向かっていくのではなかろうか。

*いまで言えば,東京オリンピックはそれに該当するのだろうか。国民は,国家の権力と決定に従 うばかりで,水面下では何が起きているのか我々には分からない。国家は愚かであるが,何も変 わらなければ国民もまた愚かだ。歴史を繰り返さないために,我々にできることを日々考えなけ ればならない。真実を知る努力は不断であるべきだと考える。

*50年ほど育成に時間がかかるマツ

本をわずか18秒で消費してしまうことになる。バイオマスエ ネルギー資源としては効率および再生産性に欠けている。このことは,計算をするとすぐに分か ることである。国家と国民が上記のような関係であったため,国民は国家に逆らうことをせず,

言われるがままに松根油を作り続けたのだと思う。

このように,国民のために国家が存在するのではなく,戦時中は国家のために国民が存在していた。

*現在の日本は,当時の悲惨な国家と国民の主従関係は解消され,国民主権・民主主義の中で動い ている。しかし,また国家が困窮した状況に陥った時,アジア太平洋戦争時の状況が繰り返され ることはあり得る。なぜなら,国家は法や指令といった,国民を統括する強力な権利を持つから だ。我々は当時の異常な関係性を再び起こさず,国民主権・民主主義国家を築き続けるために,

様々な知識の習得,国外内政治等の情報収集を日ごろから行い,他人事ではない,我々国民全員 が国家を築き上げていくことが重要だと私は考える。

(20)

〈資料3〉

before after before after

1 (Male, R ) 3.85 3.69 3.11 3.67

2 (Male, B ) 2.69 3.15 2.89 3.00

3 (Female, B ) 3.23 3.77 4.78 5.00

4 (Female, B ) 4.23 4.38 3.67 4.33

5 (Male, R ) 4.69 4.85 3.44 4.67

6 (Female, B ) 3.62 4.00 2.78 2.56

7 (Male, R ) 3.08 3.31 2.67 3.67

8 (Female, B ) 4.23 4.38 4.11 3.89

9 (Female, B ) 3.15 3.77 3.00 3.44

10 (Female, R ) 3.92 3.77 3.44 2.67

11 (Female, B ) 3.77 4.38 4.67 4.22

12 (Male, B ) 2.77 3.46 2.56 2.44

13 (Male, B ) 4.08 3.54 2.56 3.00

14 (Female, B ) 4.23 3.69 3.67 3.78

15 (Male, B ) 3.54 3.62 2.33 2.22

16 (Male, B ) 3.77 3.92 3.00 2.56

17 (Male, B ) 3.46 2.85 3.33 3.22

18 (Male, B ) 4.08 4.85 3.11 5.00

19 (Female, R ) 3.38 4.46 4.11 3.89

20 (Female, R ) 3.85 3.92 3.78 3.67

21 (Male, B ) 3.69 2.85 4.00 3.11

22 (Male, B ) 2.92 3.38 3.78 3.67

23 (Female, B ) 3.38 2.85 3.00 2.89

24 (Male, R ) 3.46 4.00 2.22 3.00

25 (Male, B ) 3.23 3.15 3.22 3.67

26 (Female, B ) 3.85 3.77 3.11 2.78

27 (Male, R ) 3.92 3.54 3.00 3.56

28 (Female, B ) 4.08 4.08 3.78 3.67

29 (Female, B ) 4.54 4.92 4.56 5.00

30 (Female, R ) 3.92 4.38 3.67 4.00

31 (Male, B ) 2.00 2.08 2.33 2.89

32 (Male, R ) 3.77 4.23 3.67 4.44

33 (Male, B ) 2.54 2.77 2.44 2.22

34 (Male, B ) 3.38 3.23 3.56 2.78

35 (Male, B ) 2.85 3.15 2.78 2.56

before after before after

1 (Male, R ) 4.00 3.54 3.23 3.69

2 (Male, B ) 3.77 3.69 2.69 3.15

3 (Female, B ) 4.23 3.92 4.54 4.38

4 (Female, B ) 3.77 4.69 3.62 4.69

5 (Male, R ) 4.54 4.54 4.54 4.08

6 (Female, B ) 3.77 4.38 4.00 2.77

7 (Male, R ) 3.08 3.77 3.00 3.62

8 (Female, B ) 4.08 3.77 3.85 4.46

9 (Female, B ) 3.92 4.08 3.38 3.85

10 (Female, R ) 4.15 4.92 3.92 4.62

11 (Female, B ) 4.23 4.54 4.23 4.31

12 (Male, B ) 3.31 3.46 2.46 2.62

13 (Male, B ) 4.23 3.31 3.69 2.85

14 (Female, B ) 3.92 4.08 3.62 3.85

15 (Male, B ) 2.85 2.85 3.08 2.77

16 (Male, B ) 4.69 4.69 3.00 3.62

17 (Male, B ) 2.85 2.85 3.08 2.31

18 (Male, B ) 4.15 5.00 4.00 4.92

19 (Female, R ) 4.54 4.15 4.08 4.08

20 (Female, R ) 5.00 4.85 3.00 3.00

21 (Male, B ) 3.38 2.92 3.92 3.08

22 (Male, B ) 4.00 3.54 1.77 3.46

23 (Female, B ) 4.46 3.92 3.62 2.69

24 (Male, R ) 3.85 4.31 3.85 4.08

25 (Male, B ) 3.23 3.23 3.38 3.15

26 (Female, B ) 4.69 4.00 3.46 3.46

27 (Male, R ) 3.69 3.85 3.69 3.54

28 (Female, B ) 4.62 4.54 3.54 3.46

29 (Female, B ) 4.77 4.92 4.46 4.85

30 (Female, R ) 4.23 4.62 4.31 4.00

31 (Male, B ) 3.85 4.08 1.85 2.08

32 (Male, R ) 4.46 4.08 4.00 4.46

33 (Male, B ) 2.54 2.15 2.54 1.85

34 (Male, B ) 3.62 2.69 3.77 3.38

35 (Male, B ) 2.92 2.77 2.62 3.00

Note: The questionnaire before the unit of study was implemented on 15th Sep, and the after on 29th Nov. 2018 respectively.

R: Science course, B: the other course Participants ( N = 35 )

Science as human endeavour Dimension

Participants ( N = 35 )

Dimension Habitsofmind Characterandmind

Metacognition and self-direction GSLQ scores for each participant before and after the unit of study

Figure 1  Dimension and Mean scores of GSLQ before and after the unit of study

参照

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