2004 年度 卒業論文
Boid の実装とアフォーダンス理論による考察
指導教授 村岡洋一教授 2005 年 2 月 2 日
早稲田大学 理工学部 情報学科
1G99P014-4
岩田 隆
目 次
第1章 序論 1
1.1 本研究の背景 . . . . 1
1.1.1 フレーム問題 . . . . 1
1.1.2 一般化フレーム問題 . . . . 1
1.1.3 擬似解決 . . . . 2
1.2 本研究の目的 . . . . 3
1.3 本研究の内容 . . . . 4
1.4 本論文の構成 . . . . 5
第2章 アフォーダンス理論 6 2.1 アフォーダンス理論とは . . . . 6
2.1.1 アフォーダンス . . . . 6
2.1.2 知覚システム . . . . 6
2.2 人間の一般化フレーム問題の擬似解決 . . . . 7
第3章 Boid 8 3.1 Boidとは . . . . 8
3.2 Boidの3つのルール . . . . 9
3.2.1 Separation . . . . 9
3.2.2 Alignment . . . . 10
3.2.3 Cohesion . . . . 11
3.3 Boidの実装 . . . . 12
3.3.1 Boidの描画 . . . . 12
3.3.2 Separationの実装 . . . . 13
3.3.3 Alignmentの実装 . . . . 13
3.3.4 Cohesionの実装 . . . . 13
3.3.5 Boidの移動ベクトル . . . . 13
3.4 実装したBoidの実行画像 . . . . 14
第4章 考察 15 4.1 Boidの一般化フレーム問題の擬似解決 . . . . 15
4.1.1 Boidの一般化フレーム問題とは . . . . 15
4.1.2 Boidの擬似解決. . . . 15 i
4.2 Boidへのアフォーダンス理論の適用 . . . . 15 4.2.1 Boidの持つアフォーダンス . . . . 16 4.2.2 Boidの知覚システム . . . . 16
第5章 結論 17
5.1 総括 . . . . 17 5.2 今後の課題 . . . . 18
謝辞 19
参考文献 20
第 1 章 序論
本論文では人工生命Boidについて、アフォーダンス理論による一般化フレー ム問題の擬似解決について述べる。
1.1 本研究の背景
人工知能研究における最大の難問にフレーム問題という問題がある。Lispを考
案したMcCarthyらによって指摘されたこの問題は、それ以来人工知能の知識表
現における本質的な問題として様々な議論がなされてきた。フレーム問題は問題 の定義も研究者によって異なり、人工知能研究だけではなく、認知心理学的側面、
哲学的側面などからも多くの議論がなされてきた。現在このフレーム問題の議論 はその解決不可能性を踏まえた上で、なぜ人間や動物はフレーム問題に悩まされ ることなく生活できるのか、という擬似解決の問題へ焦点が変わってきている。
1.1.1 フレーム問題
McCarthyらが指摘したフレーム問題は当初、二つの状態の間で何が変化して何
が変化しないかをどのように効率的に記述すればよいか、という問題であった。こ の記述の量をいかに減らすかというフレーム問題は、McDermottらの非単調論理 などの解決のアプローチがなされてきた。
1.1.2 一般化フレーム問題
一般化フレーム問題というのは、従来の人工知能におけるフレーム問題の議論 が記述の問題のみであったことを踏まえて、記述の問題だけではなく処理の問題 も統合して考えるべきであるという立場から、松原らによって提唱されたフレー ム問題の定義である。一般化フレーム問題は、情報処理の主体が有限であること から、膨大な情報のうちの一部分しか参照することができないことから生じる問 題であり。有限の情報処理能力しか持たない主体にとっては完全に解決すること は不可能である。
1
1.1.3 擬似解決
一般化フレーム問題が解決不可能であるにもかかわらず、人間や動物は日常に おいてこの問題が障害になっていない。多くの場合に人間や動物があたかも一般 化フレーム問題を解決しているのは何故かという問題を、擬似解決の問題と呼ぶ。
1.2 本研究の目的
人間がどのようにしてフレーム問題を回避しているか、擬似解決の問題は今も なお未解決のまま残されている。本研究では、人工生命Boidを実装し、Bo idがなぜフレーム問題に遭わないか、どのようにして擬似解決しているかを明 らかにすることを目的とする。この研究により、Boidの擬似解決の方法を明 らかにすることは、コンピュータ上に人間の知能モデルの構築を目指す人工知能 研究における難題であるフレーム問題の擬似解決を実現するための手がかりにな ると考えられる。
3
1.3 本研究の内容
本論文では、アフォーダンス理論が人間の一般化フレーム問題の擬似解決の説 明となりうることを述べた上で、人工生命Boidを実装し、Boidにアフォー ダンス理論を適用してBoidがいかにして擬似解決をおこなっているかを検証 した。Boidは3つのルールによりアフォーダンス理論を部分的に実現し、擬 似解決を達成しているが、人間並みの擬似解決を行わせるためには、環境そのも のの変化に対応するアフォーダンス理論における動的な知覚システムを構築する 必要があることが分かった。
1.4 本論文の構成
本論文は5章からなる。
第1章 本論文の研究背景、目的、概要、構成について述べる。
第2章 アフォーダンス理論についてと、人間の擬似解決について述べる。
第3章 人工生命Boidについてと、Boidの実装について述べる。
第4章 Boidに対しての考察を述べる。
第5章 本論文のまとめと、今後の課題について述べる。
5
第 2 章 アフォーダンス理論
本章ではアフォーダンス理論について述べる。
2.1 アフォーダンス理論とは
アメリカの知覚心理学者Gibsonによって提唱された知覚の理論。初期の人工知 能のベースとなっていたデカルトの知覚理論などの従来の知覚理論では、人間は 環境から刺激を受け、それを脳の中で処理して意味のある情報を得ていると考え られてきた。しかし、アフォーダンス理論では、情報は人間を取り巻く環境その ものに実在していると考える。
2.1.1 アフォーダンス
アフォーダンスとは、知覚者へ環境が与える価値のある情報である。環境内の 存在するものは全てアフォーダンスを持ち、ぞれぞれのものに無数のアフォーダ ンスが存在している。知覚者はそれらのアフォーダンスを知覚システムによって ピックアップして行動しているのである。
2.1.2 知覚システム
Gibsonは脊椎動物には、「基礎的定位づけシステム」・「聞くシステム」・「触るシ
ステム」・「味わい・嗅ぐシステム」・「視るシステム」の5つの知覚システムを持 つとした。知覚システムは、動物がいままでどのような環境と接触してきたかに よって個性的であり、知覚システムの動作は環境にあわせて変化しつづける。
2.2 人間の一般化フレーム問題の擬似解決
では、アフォーダンス理論は人間の擬似解決の問題の解決方法となりうるだろう か。Gibsonはアフォーダンス理論において、フレーム問題に関しての言及は行っ ていない。アフォーダンス理論によれば、人間は知覚システムによって環境内に 存在する無数の情報の中から価値のある情報を探索している。擬似解決の問題と は、有限の処理能力しか持たない人間がどのようにして膨大な情報を処理してい るかという問題であり、アフォーダンス理論は擬似解決の問題の解答の1つにな りうると考えられる。
7
第 3 章 Boid
本章ではBoidについてと、本研究で実装したBoidについて述べる。
3.1 Boid とは
Reynoldsによって作られた人工生命で、Birdoid(鳥もどき)の 略称。簡単な3つのルールで、鳥の編隊飛行を実現した。Boidの考え方は、群 れ行動生成アルゴリズムともよばれ、生態系のシミュレーションやCGアニメー ションにおける生き物の集団の行動に応用されている。
3.2 Boid の3つのルール
Boidの3つのルールは以下の通り。
3.2.1 Separation
視野の中で最も近くにいるBoidの反対方向へ向かう
9
3.2.2 Alignment
視野の中の全てのBoidと同じ(平均化された)方向を向く
3.2.3 Cohesion
視野の中にいる全ての個体の中心点へ向かう
11
3.3 Boidの実装
本研究で実装したBoidの概要について述べる。
3.3.1 Boid の描画
Boidの行動を分かりやすくするために、Boid本体に加えて、視野範囲 と反発範囲を描画した。
3.3.2 Separationの実装
視野内にいる一番近いBoidが、反発範囲にいた場合反対方向への移動ベク トルを計算する。
3.3.3 Alignmentの実装
視野内にいるBoidとの平均方向への移動ベクトルを計算する。
3.3.4 Cohesionの実装
視野内にいるBoidの重心へ向かう移動ベクトルを計算する。
3.3.5 Boidの移動ベクトル
3つの移動ベクトルを足したものがBoidの移動ベクトルとなる。
13
3.4 実装したBoidの実行画像
第 4 章 考察
本章では、Boidの一般化フレーム問題の擬似解決についての考察を述べる。
4.1 Boid の一般化フレーム問題の擬似解決
4.1.1 Boid の一般化フレーム問題とは
Boidの一般化フレーム問題の擬似解決を考える上で、Boidの一般化フ レーム問題とは何かということを明らかにする必要がある。一般化フレーム問題 とは、1章でも述べた通り、無数の状態の全てを記述、処理することはできないと いう問題である。Boidは3つのルールに従い、時間の経過とともに無数の状 態を作り出す。もし、Boidが一般化フレーム問題に直面しているのであれば、
Boidは無数の状態を記述、処理できずに動けなくなってしまうはずである。
4.1.2 Boid の擬似解決
Boidが一般化フレーム問題に直面していた場合、Boidは動けないはず であるにも関わらず、Boidは何の問題もなく動いている。つまり、擬似解決を 行っているのである。Boidはその実装において、Boidの無数の状態に関 しての記述、処理は行っていない。従来の人工知能においては、知識表現をいか に記述、処理するかという研究がなされてきたが、Boidはそれを行わず、一 般化フレーム問題を回避しているのである。
15
4.2 Boid へのアフォーダンス理論の適用
知識表現を記述、処理するという人工知能の考え方は、デカルトの知覚理論が ベースとなっていたが、Boidは状態の記述、処理は行っていない。つまり、デ カルトの知覚理論とは異なる理論で情報処理を行っていると考えられる。そこで、
新しい知覚理論であるアフォーダンス理論をBoidに適用して考えてみた。Boi dはアフォーダンス理論を元にして作られたわけではないが、以下の点において アフォーダンス理論を部分的に実現していると考えられる。
4.2.1 Boid の持つアフォーダンス
アフォーダンス理論では、環境内に存在する全てのものが無数のアフォーダン スを持つとする。アフォーダンスを言葉で表現することは難しいが、Boidの 行動を踏まえたうえで各Boidが持つアフォーダンスを考えると、ぶつかる・は ぐれる・並ぶなどが挙げられる。これらのアフォーダンスがBoidの知覚シス テムを通してBoidの動きを決定している。
4.2.2 Boidの知覚システム
Boidの知覚システムは、2章で述べた知覚システムのうちの、「基礎的定位 づけシステム」と「視るシステム」の二つと似た知覚システムを持っていると考 えられる。視野内に存在するBoidは全て、並ぶアフォーダンスを持ち、Bo idの「基礎的定位づけシステム」によって視野内のBoidと同じ方向を向く。
視野内の存在するBoidは全て、はぐれるアフォーダンスを持ち、Boidの
「視るシステム」によって視野内のBoidの中心へ向かう。反発範囲内に存在す るBoidは、ぶつかるアフォーダンスをもち、Boidの「視るシステム」の よって反発範囲内のBoidの反対方向へ向かう。
第 5 章 結論
5.1 総括
本論文では、アフォーダンス理論という認知科学の理論の観点から、人工知能 の難題であるフレーム問題の擬似解決に関して、人工生命Boidの擬似解決に ついて考察を行った。Boidは状態の変化を記述、処理するのではなく、3つの ルールによってアフォーダンス理論を部分的に実現することによって擬似解決を 達成している。このことは、ある環境内におけるアフォーダンスと、そのアフォー ダンスに対応する知覚システムを構築できれば、あらゆる状態の変化に対応する ことができることを示している。
17
5.2 今後の課題
Boidは3つのルールにより、Boidの環境内に存在する3つのアフォー ダンスに対応する知覚システムを構成している。しかし、人間や動物が活動する 環境は、環境そのものが常に変化している。人工知能の目標は人間であり、人間 が行っている擬似解決を実現するためには、変化し続ける環境内のアフォーダン スをどのように定義し、そのアフォーダンスに対応する動的な知覚システムをど のように構築するかが課題となる。
謝辞
貴重な時間を割いて研究の方向性を御指導頂きました村岡洋一教授に心から感 謝致します。
貴重な御意見,様々な御提案を頂いた村岡ゼミ、研究室の先輩方、同輩に深く感 謝します。
最後に,私をここまで育てて下さった家族に深く感謝します.
2005年2月2日
19
関連図書
[1] 人工知能学会
What’sAI人口知能の問題
http://www.ai-gakkai.or.jp/jsai/whatsai/AItopics.html [2] Hiroyasu-Aoki
量子系と複雑系のパラダイム
http://aokihiro.at.infoseek.co.jp/paradigm/paradigm-web.htm [3] マッカーシー・ヘイズ・松原仁
人工知能になぜ哲学が必要か フレーム問題の発展と展望 [4] 佐々木正人
アフォーダンス新しい認知の理論 [5] Craig Reynolds
Boids (Flocks, Herds, and Schools: a Distributed Behavioral Model) http://www.red3d.com/cwr/boids/