任意の株主総会決議と株式買取請求権
著者 伊藤 靖史
雑誌名 同志社法學
巻 69
号 2
ページ 621‑650
発行年 2017‑06‑30
権利 同志社法學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2019.0000000420
( )任意の株主総会決議と株式買取請求権同志社法学 六九巻二号二八九六二一
任 意 の 株 主 総 会 決 議 と 株 式 買 取 請 求 権
伊 藤 靖 史
目 次一 はじめに二 簡易組織再編に関する会社法のルール 1 吸収合併契約等の承認と簡易組織再編 2 簡易組織再編によることができない場合三 任意の株主総会決議 1 簡易組織再編の要件の充足に関する判断 2 任意の株主総会決議のニーズと許容性 3 任意の株主総会決議についての問題四 任意の株主総会決議と株式買取請求権 1 平成二六年改正前の議論
( )同志社法学 六九巻二号二九〇任意の株主総会決議と株式買取請求権六二二 2 平成二六年改正後の議論 3 検討五 おわりに
一 はじめに 本稿は、会社法が定める簡易組織再編の要件を満たすにもかかわらず、株主総会の決議による承認を受けた上で吸収合併等が行われるとき、そのような決議の法的な意味をどう捉えるべきか(以下ではそのような決議を﹁任意の株主総会決議﹂という)、また、その場合に会社法が定める株式買取請求権に関するルールをどのように適用すべきかを検討するものである。現在の会社法の規定では、簡易組織再編に関するルールが複雑なものになっており、そのことが、任意の株主総会決議のニーズを生じさせているともいえる。そこでまずは、二で、会社法のルールを確認していく。
なお、組織再編について株主総会の決議を要しない旨が会社法に定められる場合のうち、本稿で扱う﹁簡易組織再編﹂とは、会社法七九六条二項以下が定める場合(存続株式会社等 )1
(において株主総会決議による承認を要しないもの)をいう。これに加えて、会社法七八四条二項が定める吸収分割(吸収分割株式会社において株主総会決議を要しないもの)も、﹁簡易分割﹂﹁簡易吸収分割﹂と呼ばれることがある )2
(。しかし、前者の場合に株主総会決議を要しないのは、組織再編対価が少ないことから、そのような組織再編が存続株式会社等の株主に及ぼす影響が軽微であるからである )3
(。これに対して、後者の場合に株主総会決議を要しないのは、承継させる資産が少ないことから、そのような吸収分割が分割会社の株主に及ぼす影響が軽微であるからである )4
(。事業の重要でない一部の譲渡については以前から株主総会の特別決議が不要であり(会社四六七一項二号) )5
(、これとのバランスからそのようなルールが定められた )6
(。以上のように、株主総
( )任意の株主総会決議と株式買取請求権同志社法学 六九巻二号二九一六二三 会決議を要しない理由は、両者でやや異なる。
また、現在はいずれの場合においても反対株主は株式買取請求権を行使することができないが(会社七八五条一項二号・七九七条一項ただし書)、平成二六年の会社法改正(以下では﹁平成二六年改正﹂という) )7
(の前は、前者の場合には反対株主は株式買取請求権を行使することができた。そのことに関連して、前者の場合については、平成二六年改正の前から、任意の株主総会決議が行われた場合の株式買取請求権の取扱いについて議論されていた )8
(。
以上のことから、本稿では、前者の場合だけを検討の対象にする。
二 簡易組織再編に関する会社法のルール 1 吸収合併契約等の承認と簡易組織再編 株式会社が吸収合併等 )9
(をする場合 )₁₀
(、原則として、消滅株式会社等 )₁₁
(および存続株式会社等は、効力発生日 )₁₂
(の前日までに、株主総会の決議によって、吸収合併契約等 )₁₃
(の承認を受けなければならない(会社七八三条一項・七九五条一項)。同決議の要件は特別決議である(会社三〇九条二項一二号)。
ただし、会社法には、消滅株式会社等または存続株式会社等が株主総会の決議による吸収合併契約等の承認を受けることを要しない場合が、いくつか定められる。そのうちの一つが、簡易組織再編である。
すなわち、消滅会社等の株主等 )₁₄
(に対して交付する対価の額が、存続株式会社等の純資産額の五分の一を超えない場合には、会社法七九五条一項から三項までの規定は、適用しないものとされる(会社七九六条二項本文および各号)。会社法七九五条一項から三項までの規定を適用しないことから、存続株式会社等は、株主総会の決議による吸収合併契約
( )同志社法学 六九巻二号二九二任意の株主総会決議と株式買取請求権六二四
等の承認を受けること(会社七九五条一項参照)を要しないし、取締役は株主総会で一定の事項についての説明義務(会社七九五条二項三項)を負わない。
より正確には、次の数式が成り立つ場合が、以上の場合にあたる。以下では、そのような場合を、﹁会社法七九六条二項本文に規定する場合﹂という。
(イ)+(ロ)+(ハ) ≧ 存続株式会社等の純資産額として 法務省令で定める方法により算定される額
15
ただし(イ)=消滅会社等の株主等に対して交付する存続株式会社等の株式の数に一株当たり純資産額を乗じて得た額
(ロ)=消滅会社等の株主等に対して交付する存続株式会社の社債、新株予約権または新株予約権付社債の帳簿価額の合計額 (ハ)=消滅会社等の株主等に対して交付する存続株式会社等の株式等以外の財産の帳簿価額の合計額
( )任意の株主総会決議と株式買取請求権同志社法学 六九巻二号二九三六二五 以上にいう﹁存続株式会社等の純資産額﹂の算定方法は、会社法施行規則に定められる。同規則によれば、算定基準日における次の①から⑥までの額の合計額から⑦の額を減じて得た額(当該額が五〇〇万円を下回る場合にあっては、五〇〇万円)をもって、存続株式会社等の純資産額とされる(会社則一九六条)。
①資本金の額 ②資本準備金の額 ③利益準備金の額 ④会社法四四六条に規定する剰余金の額 ⑤最終事業年度(臨時計算書類につき株主総会ないし取締役会の承認を受けた場合には臨時決算日までの期間、また、この期間が二以上ある場合にはそのうち最も遅いもの)の末日(最終事業年度がない場合にあっては存続株式会社等の成立の日)における評価・換算差額等に係る額
⑥新株予約権の帳簿価額 ⑦自己株式および自己新株予約権の帳簿価額の合計額 以上の計算の基準になる﹁算定基準日﹂とは、原則として、吸収合併契約、吸収分割契約または株式交換契約を締結した日をいう。ただし、これらの契約によって、契約締結日後からこれらの行為の効力発生時の直前までの間の時を算定基準日と定めることができる(会社則一九六条柱書)。
( )同志社法学 六九巻二号二九四任意の株主総会決議と株式買取請求権六二六
2 簡易組織再編によることができない場合 もっとも、会社法七九六条二項本文に規定する場合であっても、会社法七九五条二項各号に掲げる場合または七九六条一項ただし書に規定する場合は、この限りでないとされる(会社七九六条二項ただし書)。そのような場合には、会社法七九六条二項本文が定めるのとは異なり、七九五条一項から三項までの規定も適用されることになる。そのため、すでに述べた会社法の原則どおり、存続株式会社等は、効力発生日の前日までに、株主総会の決議によって、吸収合併契約等の承認を受けなければならない。
⑴ 存 続 株 式 会 社 等 に 差 損 が 生 じ る 場 合
会社法七九五条二項各号に掲げる場合とは、①承継債務額が承継資産額を超える場合、②吸収合併存続株式会社または吸収分割承継株式会社が対価として交付する金銭等(吸収合併存続会社または吸収分割承継株式会社の株式等 )₁₅
(を除く)の帳簿価額が承継資産額から承継債務額を控除して得た額を超える場合、および、③株式交換完全親株式会社が株式交換完全子会社の株主に対して交付する金銭等(株式交換完全親株式会社の株式等を除く)の帳簿価額が株式交換完全親株式会社が取得する株式交換完全子会社の株式の額として法務省令で定める額を超える場合である。以上のルールから、吸収合併等によって存続株式会社等に差損が生じる場合には、会社法七九六条二項本文に規定する場合であっても株主総会の決議を省略することができないことになる )₁₆
(。また、そのような場合、取締役は、株主総会において差損が生じる旨を説明しなければならない(会社七九五条二項)。
以上の①②にいう﹁承継債務額﹂﹁承継資産額﹂の算定方法は、会社法施行規則に定められる。 ﹁社に吸収合併存続株式会ま直たは吸収分割承継株式後の承に継債務額﹂は、基本的は割、吸収合併または吸収分会
( )任意の株主総会決議と株式買取請求権同志社法学 六九巻二号二九五六二七 社の貸借対照表の作成があったものとする場合における当該貸借対照表の負債の部に計上すべき額から、吸収合併または吸収分割の直前に貸借対照表の作成があったものとする場合におけるそれに相当する額を減じて得た額である。これは要するに、吸収合併または吸収分割によって存続株式会社等の負債の部に計上すべき額が増加した分を指す。さらに、存続株式会社等が対価として社債(吸収合併等の直前に有していたものを除く)を交付した場合、これは消滅株式会社等から承継する債務ではないため、これについて会計帳簿に付すべき額が減じられる(以上について、会社則一九五条一項) )₁₇
(。
簿つ価額が加えられる(以上にい帳て、会社則一九五条二項)等の ₁₈) これさ定算に少過が額の産す資継承らか等社会式株滅消るるとがを金たし付交てしと価対銭防社会式株続存、めたぐ等 は割によ式って存続株収分合吸はたま併収、吸にるす要社会す等加、にらさ。す指をのたし分増に資がの部産計上べき額 得れこ。るあで額たて貸にあが作の表照対借前た直の割分収吸はじっ成もそ減を額るす当のにれ相けおに合場るすると るるのとすけ場合にたもおっあが成作の表照対借貸該当収貸べたま併合社吸、らか額きす借上計に部の産資の表照対の ﹁会は収吸はたま併合収吸、に割的本基、は﹂額産資継分の式社株継承割分収吸はたま会直式株続存併合収吸に後承
(。
ただし、﹁承継資産額﹂の計算については、例外がある。まず、吸収合併存続株式会社が連結配当規制適用会社である場合において )₁₉
(、吸収合併消滅会社が吸収合併存続株式会社の子会社であるときは、承継資産額は、承継債務額または承継資産額(会社法施行規則一九五条二項によって計算されるもの)のうちいずれか高い額とされる(会社則一九五条三項)。また、吸収分割承継株式会社が連結配当規制適用会社である場合において、吸収分割会社が吸収分割承継株式会社の子会社であるときは、承継資産額は、承継債務額または承継資産額(会社法施行規則一九五条二項によって計算されるもの)のうちいずれか高い額とされる(会社則一九五条四項)。以上の二つの場合には、承継債務額が承継資産
( )同志社法学 六九巻二号二九六任意の株主総会決議と株式買取請求権六二八
額を超えることはない(会社法七九五条二項一号に該当することはない)ということである )₂₀
(。
先に述べた③にいう﹁法務省令で定める額﹂は、株式交換完全親株式会社が株式交換により取得する株式交換完全子会社の株式につき会計帳簿に付すべき額および会社計算規則一一条の規定により計上したのれんの額の合計額から、会社計算規則一二条の規定により計上する負債の額(株式交換完全親株式会社が連結配当規制適用会社であり、株式交換完全子会社が当該会社の子会社である場合は零)を減じて得た額とされる(会社則一九五条五項)。
⑵ 存 続 株 式 会 社 等 が 公 開 会 社 で な い 場 合
会社法七九六条一項ただし書に規定する場合とは、消滅会社等の株主等に対して交付する金銭等の全部または一部が存続株式会社等の譲渡制限株式である場合であって、存続株式会社等が公開会社でないときである。公開会社でない株式会社は、募集株式の発行等をする場合には、募集事項の決定を原則として株主総会の決議によらなければならない(会社一九九条二項)。そのこととの権衡から、存続株式会社等が吸収合併等に際して対価として株式を交付する場合にも、株主総会の決議による吸収合併契約等の承認を省略することができないものとされている )₂₁
(。
⑶ 一 定 数 の 存 続 株 式 会 社 等 の 株 主 が 反 対 の 通 知 を し た 場 合
さらに、会社法七九六条二項本文に規定する場合であっても、法務省令で定める数の株式を有する株主が、会社法七九七条三項の規定による通知または同条四項の公告(存続株式会社等が効力発生日の二〇日前までにその株主にしなければならない吸収合併等をする旨等の通知または公告)の日から二週間以内に、吸収合併等に反対する旨を存続株式会社等に対して通知したときは、当該存続株式会社等は、効力発生日の前日までに、株主総会の決議によって、吸収合併
( )任意の株主総会決議と株式買取請求権同志社法学 六九巻二号二九七六二九 契約等の承認を受けなければならない(会社七九六条三項。簡易組織再編に対する反対権)。
以上にいう﹁法務省令で定める数﹂とは、次の①から④までのうちいずれか小さい数とされ(会社則一九七条)、ここで問題とされる株式は、会社法七九五条一項の株主総会(吸収合併契約等の承認を受ける株主総会)において議決権を行使することができるものに限る(会社七九六条三項)。なお、以下に記す特定株式とは、当該吸収合併等 )₂₂
(に係る株主総会において議決権を行使することができることを内容とする株式のことである(会社則一九七条一項)。
①次の数式によって得られる数 特定株式の総数×
(*1)× (*2)+1
12 1 3
ただし(*1)当該決議の定足数割合について定款の定め(定款では三分の一以上の割合を定めることができる。会社三〇九条二項柱書かっこ書)がある場合には、その定足数割合
(*2)当該株主総会の決議が成立するための要件として当該株主総会に出席した当該特定株主(特定株式の株主)の有する議決権の総数の一定の割合(定款では三分の二を上回る割合を定めることができる。会社三〇九条二項柱書かっこ書)以上の多数が賛成しなければならない旨の定款の定めがある場合には、一から当該一定の割合を減じて得た割合
( )同志社法学 六九巻二号二九八任意の株主総会決議と株式買取請求権六三〇
②当該吸収合併等に係る決議が成立するための要件として一定の数以上の特定株主の賛成を要する旨の定款の定め(会社三〇九条二項柱書後段参照)がある場合において、特定株主の総数から株式会社に対して当該吸収合併等に反対する旨の通知をした特定株主の数を減じて得た数が当該一定の数未満となるときにおける当該吸収合併等に反対する旨の通知をした特定株主の有する特定株式の数 ③当該吸収合併等に係る決議が成立するための要件として以上の①②の定款の定め以外の定款の定めがある場合において、当該吸収合併等に反対する旨の通知をした特定株主の全部が当該吸収合併等を承認する株主総会において反対したとすれば当該決議が成立しないときは、当該行為に反対する旨の通知をした特定株主の有する特定株式の数
④定款で定めた数 以上のルールによって、要するに、当該吸収合併契約等を承認するための株主総会が開催されるとすれば、承認が否決される可能性があるだけの数の株式を有する株主が、会社法七九六条三項に定める反対の通知をする場合に )₂₃
(、当該存続株式会社等は、効力発生日の前日までに、株主総会の決議によって、吸収合併契約等の承認を受けなければならないことになる。また、﹁法務省令で定める数﹂は、以上の①から④までのうちいずれか小さい数とされているため、たとえば、④の定款所定の数が①によって得られる数よりも大きい場合にも、後者の数の株式を有する株主が反対の通知をすれば、株主総会の決議による吸収合併契約等の承認を省略することはできない。
( )任意の株主総会決議と株式買取請求権同志社法学 六九巻二号二九九六三一 三 任意の株主総会決議 1 簡易組織再編の要件の充足に関する判断 二で確認したように、会社法および会社法施行規則が定める簡易組織再編の要件(どのような場合に簡易組織再編として存続株式会社等の株主総会による吸収合併契約等の承認が不要になるのか)に関するルールは、複雑なものである。そして、ある吸収合併等が簡易組織再編の要件を満たすかどうかを判断することは、容易ではないことがあるといわれる。
たとえば、吸収合併等の対価の額が、存続株式会社等の純資産額の五分の一を超えない(会社七九六条二項本文および各号)という要件については、﹁合併対価の決定方法として一定の算式を用いた場合や消滅会社における反対株主の買取請求権行使の動向によって左右される場合﹂には、その充足が合併期日の直前まで判明しないといわれる )₂₄
(。もっとも、存続株式会社等の純資産額は原則として吸収合併契約等の締結日における数値をもとに算定される )₂₅
(。また、吸収合併等の対価について吸収合併契約等で算定方法が定められる場合(会社七四九条一項二号・七五八条四号・七六八条一項二号)として通常考えられるのは、たとえば、吸収合併の対価として交付する存続株式会社株式の数を、吸収合併の効力発生日の前日の最終の消滅株式会社の株主名簿に記載または記録された消滅株式会社株主が保有する消滅株式会社株式の合計数に一定の割合を乗じて算定するといった方法である )₂₆
(。その場合、消滅株式会社において株式買取請求が行われれば、その分だけ、交付すべき存続株式会社株式の数は減少するのであり )₂₇
(、吸収合併契約締結時の見込みよりも吸収合併の対価の額が増加した結果、簡易合併の要件に該当しなくなるということは、考えにくい )₂₈
(。
また、存続株式会社等に差損が生じるかどうかは、吸収合併契約等の締結の際には判明しないことがあるといわれ
( )同志社法学 六九巻二号三〇〇任意の株主総会決議と株式買取請求権六三二
る )₂₉
(。差損が生じるかどうかを判定する基礎となる﹁承継債務額﹂﹁承継資産額﹂は、吸収合併または吸収分割の直前・直後に吸収合併存続株式会社または吸収分割承継株式会社の貸借対照表の作成があったものとする場合におけるそれらの貸借対照表の負債の部・資産の部に計上すべき額をもとに算定される )₃₀
(。そのような額は、吸収合併契約等の締結の際には判明しないことがある。
さらに、会社法七九六条三項によって簡易組織再編によることができなくなるだけの数の株式を有する株主が吸収合併等に反対する旨を存続株式会社等に対して通知するかどうかは、吸収合併の手続を開始した後でなければ分からない )₃₁
(。
2 任意の株主総会決議のニーズと許容性 以上のように、ある吸収合併等が簡易組織再編の要件を満たすかどうかを判断することは、容易ではないことがある。他方で、吸収合併等が簡易組織再編の要件を満たすという前提で手続を進めていたにもかかわらず、後でそのような要件を満たさないことが判明した場合には、改めて存続株式会社等の株主総会によって吸収合併契約等を承認しなければならない。会社法上要求される吸収合併契約等の株主総会決議による承認を欠くことは、吸収合併等の無効原因と考えられる )₃₂
(。以上のようなリスクを避けるために、簡易組織再編の要件を満たす可能性があっても、あらかじめ株主総会の決議による承認を受けるニーズがあるといわれる )₃₃
(。
会社法制定前には、簡易合併の要件を満たす場合にも、必ず簡易合併の手続によらなければならないわけではなく、通常どおりの手続によることもできると考えられていた )₃₄
(。会社法の下でもこのことは変わらず、﹁存続会社が株主総会の決議により吸収合併契約の承認を受けようとする場合において、当該決議の時点で簡易合併の要件が満たされている
( )任意の株主総会決議と株式買取請求権同志社法学 六九巻二号三〇一六三三 ときであっても、存続会社は、当該決議を行うことができ、また、当該吸収合併の効力発生日の直前の時点において簡易合併の要件が満たされていた場合であっても、いったんされた当該決議の効力が覆ることはない﹂とされることがある )₃₅
(。﹁存続会社が簡易合併の手続を選択するか否かは自由であり、強制されるものではない﹂ )₃₆
(とされるのも、これらと同様の趣旨であろう。
四1に述べるように、会社法の下では任意の株主総会決議の法的な意味の捉え方について争われるが、任意の株主総会決議を経ることが禁止されるとする見解はないようである )₃₇
(。そして、いずれの見解によっても、少なくとも、任意の株主総会決議を経て行われた吸収合併等が最終的に簡易組織再編の要件を満たさないことが判明した場合に、任意の株主総会決議は、会社法上必要であった株主総会決議だと評価されることになる。
3 任意の株主総会決議についての問題 以上に述べてきたように、任意の株主総会決議を経て吸収合併等を行うことが許容されること自体については、争いはないといってよい。しかしながら、任意の株主総会決議については、主に、そのような決議が行われた場合に株式買取請求権に関する会社法のルールをどのように適用すべきかをめぐって、争いがある。このような議論が生じるのは、簡易組織再編として吸収合併等のために株主総会決議を要しない場合と、通常の吸収合併等として決議を要する場合とで、株式買取請求権に関する会社法のルールに相違があるからである。
たとえば、平成二六年改正の前には、吸収合併等が簡易組織再編の要件を満たす場合にも、そうでない場合と同様、存続株式会社等の株主は、株式買取請求権を行使することができた(平成二六年改正前と改正後の会社七九七条一項対照)。しかし、(a)﹁吸収合併等をするために株主総会⋮の決議を要する場合﹂に、株式買取請求権を行使することが
( )同志社法学 六九巻二号三〇二任意の株主総会決議と株式買取請求権六三四
できる﹁反対株主﹂とは、(イ)吸収合併等をするために必要な株主総会において議決権を行使することができる株主のうち、当該株主総会に先立って当該吸収合併等に反対する旨を当該存続株式会社等に対して通知し、かつ、当該株主総会において当該吸収合併等に反対した株主と、(ロ)当該株主総会において議決権を行使することができない株主だけをいう(会社七九七条二項一号)。これに対して、(b)そうでない場合には、﹁反対株主﹂とは、すべての株主をいう(会社七九七条二項二号)。このように、吸収合併等をするために株主総会の決議を要する場合と、そうでない場合とで、﹁反対株主﹂の範囲が異なった(前者の方が狭かった)わけである。
また、平成二六年改正によって、会社法﹁第七百九十六条第二項本文に規定する場合(第七百九十五条第二項各号に掲げる場合及び第七百九十六条第一項ただし書又は第三項に規定する場合を除く。)﹂については、存続株式会社等の株主は、株式買取請求権を行使できないことになった(会社七九七条一項ただし書)。このような改正が行われたのは、次の理由による。すなわち、簡易組織再編で存続株式会社等において株主総会決議を要しないものとされているのは、存続株式会社等やその株主に及ぼす影響が軽微であるからである。つまり、会社法は、これらの場合には会社組織の基礎に本質的変更がもたらされるわけではないと評価していることになる。そうだとすれば、このような場合には、株主が株式買取請求権も有しないものとすることが相当だと考えられた。また、吸収合併や会社分割では、存続株式会社等が潜在債務を承継する可能性もあるが、これについては、一定数の株式を有する株主による簡易組織再編への反対の制度(会社七九六条三項)や、役員等の損害賠償責任の追及によって対処できるものと考えられた )₃₈
(。このように、平成二六年改正後には、簡易組織再編として吸収合併等のために株主総会決議を要しない場合かどうかで、存続株式会社等の株主が株式買取請求権を行使できるかどうかが異なるのである。
以上のように、簡易組織再編として吸収合併等のために株主総会決議を要しない場合と、そうでない場合とでは、株
( )任意の株主総会決議と株式買取請求権同志社法学 六九巻二号三〇三六三五 式買取請求権に関する会社法のルールには相違がある。そこで、簡易再編の要件を満たす(そのため、会社法上は株主総会決議を要しない)にもかかわらず、株主総会決議による承認を受けた上で、吸収合併等が行われる場合(任意の株主総会決議を経て吸収合併等が行われる場合)について、株式買取請求権に関するルールをどのように適用すべきかが問題とされる。
以下では、このような問題について検討していきたい。
四 任意の株主総会決議と株式買取請求権 1 平成二六年改正前の議論 平成二六年改正の前には、三3に述べたように、簡易組織再編として吸収合併等のために株主総会決議を要しない場合にも、そうでない場合と同様、存続株式会社等の株主は、株式買取請求権を行使することができた。他方で、(Ⅰ)後者の場合に﹁反対株主﹂の範囲は限られたものであった(会社七九七条二項一号)のに対して、(Ⅱ)前者の場合には存続株式会社等の株主がすべて﹁反対株主﹂に含まれた(会社七九七条二項二号)。そして、これを前提に、任意の株主総会決議を経て吸収合併等が行われる場合に、﹁反対株主﹂の範囲については(Ⅰ)のルールによるべきか(Ⅱ)のルールによるべきかが争われていた。
この問題について、会社法制定後にまず表明されたのは、(Ⅰ)のルールによるとする見解である。この見解は、次のように述べる。すなわち、当該吸収合併等の承認を株主総会の特別決議事項とするような定款変更(たとえば、会社法七九六条二項柱書かっこ書が定めるように、同項一号に掲げる額の二号に掲げる額に対する割合を五分の一よりも引
( )同志社法学 六九巻二号三〇四任意の株主総会決議と株式買取請求権六三六
き下げる定款変更)を行った上で、当該吸収合併契約等について株主総会で承認することは可能であり、そのために必要な決議要件は特別決議(会社三〇九条二項一一号一二号)である。そうだとすれば、単に当該吸収合併契約等について株主総会の特別決議によって承認された場合にも、そのような承認を株主総会の決議事項とすることについて株主の黙示的な承認があると考えられ、任意の株主総会決議には法的な効力が認められるべきである )₃₉
(。そして、このように任意の株主総会決議に法的な効力があると考えるのであれば、(Ⅰ)のルールによって﹁反対株主﹂の範囲が決せられるべきである。(Ⅱ)のルールに従えば、任意の株主総会決議が行われた場合も、当該決議で賛成票を投じた株主や、当該株主総会に欠席した株主など株主総会での意見表明の機会があったにもかかわらずこれをしなかった者に株式買取請求権が与えられるが、それが会社法の趣旨に照らして相当なのかについて、議論の余地も十分ある )₄₀
(。以上のような見解は、主に実務家によって支持されていた )₄₁
(。
これに対して、(Ⅱ)のルールによるとする見解は、その根拠を次のように述べる。すなわち、会社法七九七条二項一号は、﹁吸収合併等をするために株主総会⋮の決議を要する場合﹂に適用されるものであり、任意の株主総会決議が行われる場合はこれに該当しない(決議を﹁要する﹂場合に該当しない)と解釈するのが、文言の素直な解釈である。また、簡易組織再編の要件が満たされている場合、吸収合併契約等を承認する株主総会決議がなくとも(また、その決議が取り消されたり、無効であったとしても)、当該吸収合併等が﹁有効であるということには疑いを差しはさむ余地はない﹂。任意の株主総会決議は、その﹁有無によって、簡易合併等の効力が左右されない(いわば、勧告的決議にすぎない)と位置付ける以上﹂、当該決議で賛成票を投じた株主や当該株主総会に欠席した株主に﹁買取請求権を認めることがきわめて不当であるとも評価できない )₄₂
(﹂。
以上の議論をまとめれば、平成二六年改正前には、次の二つの見解があったということである。
( )任意の株主総会決議と株式買取請求権同志社法学 六九巻二号三〇五六三七
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平成二六年改正によって、三3に述べたように、簡易組織再編として吸収合併等のために株主総会決議を要しない場合には、存続株式会社等の株主は、株式買取請求ができないものと定められた。そのため、同改正後は、任意の株主総会決議を経て吸収合併等が行われる場合に、存続株式会社等の株主は株式買取請求ができないのかが問題になる。
1に述べた(Ⅱ)のルールによるとする見解は、簡易組織再編の要件が満たされている場合、任意の株主総会決議は
( )同志社法学 六九巻二号三〇六任意の株主総会決議と株式買取請求権六三八
いわば勧告的決議にすぎないとするものであった。この見解によれば、任意の株主総会決議が行われた場合に、当該吸収合併等が簡易組織再編かどうかは、簡易組織再編の要件が満たされているかどうかで決まる。このような見解からすれば、平成二六年改正後は、任意の株主総会決議が行われた場合も実際に簡易組織再編の要件が満たされているのであれば、存続株式会社等の株主は株式買取請求ができないと考えるのが素直であろう。
平成二六年改正後にこの問題に触れる文献では、たとえば、会社法七九七条一項ただし書にいう﹁第七百九十六条第二項本文に規定する場合﹂とは、文言上、(株主総会の決議による承認が行われなかった場合ではなく)簡易組織再編の基準に該当する場合をいうことから、そのような場合に株式買取請求権を適法に認める余地はないとするものがある。その上で、簡易組織再編の要件を満たすにもかかわらず反対株主から株式を買い取った場合、これは違法な自己株式取得だといわれる )₄₃
(。また、平成二六年改正の前から簡易事業譲渡の場合(会社四六七条一項二号・四六八条一項・四六九条一項)・分割会社側の簡易吸収分割の場合(会社七八四条二項・七八五条一項二号)には、任意の株主総会決議による承認が行われたとしても株式買取請求権は生じないものと考えられていたということも、この場合に存続株式会社等の株主は株式買取請求ができないと考える根拠とされることがある )₄₄
(。
以上に対して、平成二六年改正後のルールを前提に、任意の株主総会決議が行われた場合の﹁反対株主﹂の範囲について、会社法七九七条二項二号による(1に述べた(Ⅱ)のルールによる)ことが実務的には無難だとする見解がある )₄₅
(。このように述べる前提として、1に述べた(Ⅰ)のルールによるとする見解と(Ⅱ)のルールによるとする見解がともに紹介されているが )₄₆
(、(Ⅱ)のルールによることが実務的には無難だとする理由としては、任意の株主総会決議に法的効力があり、存続株式会社等の株主は株式買取請求ができると解する余地はあると考えられるのであろう。
( )任意の株主総会決議と株式買取請求権同志社法学 六九巻二号三〇七六三九 3 検 討
⑴ 株 式 買 取 請 求 の 可 否
以上のように、平成二六年改正後には、任意の株主総会決議を経て吸収合併等が行われる場合に、存続株式会社等の株主は株式買取請求ができないとする見解が多く表明されているようである。しかし、著者は、平成二六年改正後にも、任意の株主総会決議には法的効力が認められ、そのような決議を経て行われる吸収合併等は、簡易組織再編ではなく、通常の吸収合併等として行われると考えること、また、それを前提として、そのような場合は会社法七九七条一項ただし書にいう﹁第七百九十六条第二項本文に規定する場合﹂にも該当せず、存続株式会社等の株主は株式買取請求ができるという解釈をすることにも、そうではないとする見解と同程度の根拠があると考える。
以下に述べるように、会社法七九七条一項ただし書の文言と、平成二六年改正の趣旨は、任意の株主総会決議が行われた場合について、同決議を勧告的な決議にすぎないと考えるための決定的な根拠とはいえない。
⒜ 会社法の文言 平成二六年改正によって追加された会社法七九七条一項ただし書は、﹁ただし、第七百九十六条第二項本文に規定する場合(第七百九十五条第二項各号に掲げる場合及び第七百九十六条第一項ただし書又は第三項に規定する場合を除く。)は、この限りでない。﹂と定める。たしかに、2に紹介した見解がいうように、﹁第七百九十六条第二項本文に規定する場合﹂という文言は、簡易組織再編の基準に該当する場合をいうと解釈することが素直なのかもしれない。しかし、会社法の文言は、必ずしもそのように解釈しなければならないものではないと考える。
( )同志社法学 六九巻二号三〇八任意の株主総会決議と株式買取請求権六四〇
三2に述べたように、会社法制定前には、簡易合併の要件を満たす場合に必ず簡易合併の手続によらなければならないわけではなく、通常どおりの手続によることもできると考えられていた。ここでいう﹁通常どおりの手続による﹂場合に行われる株主総会決議は、通常どおりの手続で必要とされる株主総会決議と同じ性質を有するものと捉えられていたものと思われる。そして、会社法制定後にも、簡易組織再編の要件を満たす場合に必ずその手続によらなければならないわけではないということに、変わりはないはずである )₄₇
(。
たしかに、会社法制定前と後で、これに関連した法律の文言は改められている。すなわち、平成一七年改正前商法四一三条ノ三第一項本文は、﹁合併後存続スル会社ガ合併ニ際シテ発行スル新株ノ総数ガ其ノ会社ノ発行済株式ノ総数ノ二十分ノ一ヲ超エザルトキハ其ノ会社ニ於テハ第四百八条第一項ノ承認ハ之ヲ得ルコトヲ要セズ﹂と規定する。﹁第四百八条第一項ノ承認ハ之ヲ得ルコトヲ要セズ﹂という表現からは、簡易合併の要件を満たす場合には同法四〇八条の承認(株主総会の承認)を必要としないが、そのような承認を行うことは禁じられておらず、また、そのような場合の任意の株主総会決議の承認は同法四〇八条の承認そのものであると解するのが自然だったのであろう。
これに対して、会社法七九六条二項本文は、﹁前条第一項から第三項までの規定は、第一号に掲げる額の第二号に掲げる額に対する割合が五分の一(これを下回る割合を存続株式会社等の定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えない場合には、適用しない。﹂と規定する。﹁前条第一項から第三項までの規定は、⋮適用しない﹂という表現からは、会社法七九六条二項本文の要件が満たされる場合に同法七九五条一項~三項が適用されなくなる結果、任意の株主総会決議が行われても、その決議は同法七九五条一項所定の株主総会決議ではなく、勧告的な決議にすぎないと解釈することもできそうである。
しかしながら、会社法制定時のこのような文言の変更によって、任意の株主総会決議の性質に関する理解を変更する
( )任意の株主総会決議と株式買取請求権同志社法学 六九巻二号三〇九六四一 ことが意図されていたとは考えがたい。むしろ、﹁承認を得ることを要しない(通常どおりの手続によることもできる)﹂という意味で、﹁前条第一項から第三項までの規定は、⋮適用しない﹂という文言が用いられていると考えるのが自然なのではないだろうか。また、1に述べた(Ⅰ)のルールによるとする見解が述べるように、任意の株主総会の決議は、いわば、簡易組織再編の要件を満たす場合についてもその承認を株主総会の権限とする定款変更を行った上で、当該承認決議を行うのと、同等のものと考えることもできる。
以上のことからすれば、任意の株主総会決議が行われた場合に、その決議は、会社法七九五条一項所定の決議にほかならないと考えることにも、相応の根拠があるというべきである。そのような場合が会社法七九七条一項ただし書にいう﹁第七百九十六条第二項本文に規定する場合﹂には含まれないと解釈することは、それと異なる解釈論と比べて、文理解釈という点で劣るものではない。
⒝ 平成二六年改正の趣旨 三3に述べたように、平成二六年改正は、簡易組織再編の要件を満たす組織再編は会社組織の基礎に本質的変更をもたらすものではないという判断を前提に、そのような場合に反対株主は株式買取請求ができないものとした。任意の株主総会決議を行うかどうかで、当該組織再編が会社組織の基礎に本質的変更をもたらすかどうかが変わるものでもないだろう。同改正の趣旨からすれば、そのような場合に存続株式会社等の株主は株式買取請求ができないと解することが素直なようにも考えられる。
しかし、平成二六年改正後も、たとえ会社法七九六条二項の要件を満たす場合であっても、一定数の株式を有する株主が吸収合併等に反対する旨を存続株式会社等に対して通知したときには、株主総会の決議によって吸収合併契約等の
( )同志社法学 六九巻二号三一〇任意の株主総会決議と株式買取請求権六四二
承認を受けなければならない(会社七九六条三項)。この株主総会の決議で吸収合併契約等の承認が可決される場合には、会社法七九七条一項ただし書かっこ書の﹁(⋮第七百九十六条⋮第三項に規定する場合を除く。)﹂という文言から、反対株主は株式買取請求ができる。その場合、会社法七九六条三項によって株主総会の決議を要するのであるから、﹁吸収合併等をするために株主総会⋮の決議を要する場合﹂(会社法七九七条二項一号)として、﹁反対株主﹂の範囲については1に述べた(Ⅰ)のルールによる。つまり、このような場合、会社法七九六条二項の要件自体は満たされており、当該吸収合併等は存続株式会社等にとって会社組織の基礎に本質的変更をもたらすものとはいえないが、それにもかかわらず、存続株式会社等の株主には株式買取請求が認められるのである。
このように、平成二六年改正後の会社法のルールの下でも、存続株式会社等の株主が株式買取請求をできるかどうかは、吸収合併等が存続株式会社等にとって会社組織の基礎に本質的変更をもたらすかどうかということだけで決まるものではない。したがって、上記のような平成二六年改正の趣旨は、任意の株主総会決議が行われた場合に存続株式会社等の株主は株式買取請求ができると解することの障害にはならないと考えられる。
⑵ 「
反 対 株 主 」 の 範 囲
⑴に述べたように、任意の株主総会決議が行われる場合に、存続株式会社等の株主は株式買取請求ができると解することには、そうではないとする見解と同程度の根拠がある。この場合に株式買取請求ができると解するのであれば、﹁反対株主﹂の範囲について、1に述べた(Ⅰ)のルール(会社七九七条二項一号)によるのか(Ⅱ)のルール(会社七九七条二項二号)によるのかが問題になる。⑴に述べたように、任意の株主総会決議は会社法七九五条一項所定の決議にほかならないと捉えるのであれば、﹁反対株主﹂の範囲については、(Ⅰ)のルールによると考えるのがむしろ素直であ
( )任意の株主総会決議と株式買取請求権同志社法学 六九巻二号三一一六四三 ろう。
これに対して、2に述べたように、この場合に、(Ⅱ)のルールにより、承認議案に反対の議決権行使をしなかった株主も株式買取請求権を有するものとするのが、実務的には無難だとする見解もある。しかし、ここで存続株式会社等の株主は株式買取請求ができると考えるのは、問題となる吸収合併等が通常の吸収合併等であり、会社法七九七条一項ただし書にいう﹁第七百九十六条第二項本文に規定する場合﹂には含まれないと考えるからこそである。﹁反対株主﹂の範囲についてだけ通常とは異なる吸収合併等に関する会社法七九七条二項二号を適用するというのは、一貫しない。
⑶ 任 意 の 株 主 総 会 決 議 に 取 消 事 由 が あ る 場 合
1に述べたように、平成二六年改正前に﹁反対株主﹂の範囲について(Ⅱ)のルールによるとしていた見解は、吸収合併契約等の﹁承認決議がなくとも(また、その決議が取り消されたり、無効であったとしても)、簡易合併等の要件が満たされていれば、その合併等が有効であるということには疑いを差しはさむ余地はない﹂としていた。しかし、⑴に述べたように任意の株主総会決議が会社法七九五条一項所定の決議にほかならないと考えるのであれば、当該決議に取消事由がある場合、通常の吸収合併等と同様に )₄₈
(、当該吸収合併等には無効原因があると考えるべきではないか。たしかに、三2に述べたように、任意の株主総会決議は、簡易組織再編の要件が満たされるかどうかが不確実なため、﹁念のために﹂、あるいは、﹁リスクを回避するために﹂行われるものである。しかし、いったん存続株式会社等が通常の吸収合併等の手続を選んだのであれば、吸収合併等の無効に関するルールも通常のルールに従わなければならないと考えることは、不当なことではない。任意の株主総会決議を行うかどうかは、そのようなリスクも考慮に入れて決定されるべきものであろう。
( )同志社法学 六九巻二号三一二任意の株主総会決議と株式買取請求権六四四
⑷ 略 式 組 織 再 編 の 要 件 を 満 た す 場 合 と の 関 係
簡易組織再編の要件を満たす場合と異なり、略式組織再編の要件(会社七八四条一項・七九六条一項)を満たす場合には、株主総会決議が省略された会社の株主は、株式買取請求権を有する(会社七九七条一項ただし書には七九六条一項の場合とは定められていない)。そこで、存続株式会社等の側で略式組織再編の要件を満たすにもかかわらず、吸収合併等について株主総会決議による承認が行われた場合には、株式買取請求ができる﹁反対株主﹂の範囲が問題になる(1に述べたような平成二六年改正前に簡易組織再編の要件を満たすにもかかわらず任意の株主総会決議が行われた場合と同様の問題)。そして、この場合に株式買取請求ができる﹁反対株主﹂の範囲は、1に述べた(Ⅱ)のルールによると考えられる )₄₉
(。この場合、株主総会決議による承認が行われたとしても、当該組織再編は略式組織再編として扱われるわけである。
しかし、このように解すべき理由は、その場合に任意に株主総会決議が開催されたとしても組織再編が承認されることは確実であり、被支配会社の株主にとって当該組織再編が会社の重要な変更であることに変わりがないということ、また、その場合に﹁反対株主﹂の範囲が会社法七八五条二項一号・七九七条二項一号によるのだとすれば、恣意的に反対株主の範囲が狭められることが可能になることに求められる )₅₀
(。したがって、略式組織再編の要件を満たす場合について以上のように考えることは、⑴に述べたように任意の株主総会決議が行われる場合に存続株式会社等の株主は株式買取請求ができると解することの妨げにはならないというべきである。
⑸ 差 止 請 求
平成二六年改正では、組織再編について一般的な差止めの制度が導入された(会社七八四条の二・七九六条の二・八
( )任意の株主総会決議と株式買取請求権同志社法学 六九巻二号三一三六四五 〇五条の二)。しかし、会社法七九六条の二ただし書は、﹁ただし、前条第二項本文に規定する場合(第七百九十五条第二項各号に掲げる場合及び前条第一項ただし書又は第三項に規定する場合を除く。)は、この限りでない。﹂と定める。簡易組織再編の要件を満たす場合には、差止請求ができないものとされるのである。そのような場合には、組織再編が株主に及ぼす影響が軽微であるとして株主総会決議が不要とされていることに鑑み、組織再編の差止請求もできないこととされた )₅₁
(。
会社法七九六条の二についても、任意の株主総会決議が行われた場合に、同条ただし書に該当し、存続株式会社等の株主が当該吸収合併等の差止めを請求できないことになるのかが問題になる。そして、この問題についても、﹁改正会社法の文言からすれば、⋮形式的に簡易組織再編の要件を満たす場合であれば、組織再編等の差止請求制度に基づく差止めの対象とはならない﹂とする見解がある )₅₂
(。﹁改正会社法の文言﹂とは、会社法七九六条の二ただし書の﹁前条第二項本文に規定する場合﹂という文言を指すものと思われる。
しかし、そのような会社法の文言が決定的な根拠とならないことは、⑴⒜で株式買取請求権に関連して述べたのと同様である。⑴に述べたように、任意の株主総会決議が行われる場合には通常の吸収合併等の手続がとられたのだと考えるのであれば、そのような場合は会社法七九六条の二ただし書にいう﹁前条第二項本文に規定する場合﹂には含まれず、存続株式会社等の株主は同条による差止請求ができると解釈することも可能であろう。
五 おわりに 平成二六年改正の前には、任意の株主総会決議が行われた場合について、そのような決議に法的効力があるというこ