地の呼吸を頒つ : 風穴を氷集落と移住者のための 共有地へ更新する建築
著者 稲垣 知樹
出版者 法政大学大学院デザイン工学研究科
雑誌名 法政大学大学院紀要. デザイン工学研究科編
巻 9
ページ 1‑3
発行年 2020‑03‑02
URL http://doi.org/10.15002/00023487
法政大学大学院デザイン工学研究科紀要 Vol.9(2020年3月) 法政大学
地の呼吸を頒つ
-風穴を氷集落と移住者のための共有地へ更新する建築-
DISTRIBUTE THE BREATH OF THE EARTH
-ARCHITECTURE THAT UPDATES A CAVE FROM WHICH A COLD WIND BLOWS TO A COMMON AREA KŌRI SETTELEMENTS AND MIGRANTS-
稲垣知樹 Tomoki INAGAKI
主査 赤松佳珠子 副査 高村雅彦・出口清孝
法政大学大学院デザイン工学研究科建築学専攻修士課程
Humans have been moving and establishing places for a comfortable thermal environment since ancient times. At present, there are many buildings where uniform electric air conditioning is required and their uses are hardened. In the "air hole" created by the topography change 10,000 years ago, the cold wind and the hot wind change with the season. This air hole was used as a natural refrigerator in the sericulture industry and experienced a decline from prosperity. I doubt that the air hole that coexists with nature will decay with
"preservation", rely on a large energy infrastructure such as electricity, and feel the fragility Now that the inheritance of the earth can be brought closer to modern life Isn't there? Geocommons promotes the circulation of nature, architecture and people by proposing architecture that takes root in the lives of residents and accepts migrants.
Key Words : Cave, Hut, Vernacular
1. 研究背景・目的
ヒトは昔から快適な熱環境を求めて移ろい、場所を設 けてきた。
現在では均一な電気空調が求められ用途が固まってし まった建築が多く見られる。1万年前の地形変化によっ て生まれた「風穴」では冷風と温風が季節に伴い変化す る。この風穴が自然の冷蔵庫として養蚕業に利用され繁 栄から衰退を経験した。
自然と共生してきた風穴が「保存」と共に朽ちていく事 に疑問を持ち、電気のような大きなエネルギーインフラ に依存し、脆さを実感した今だからこそ大地の遺産と現 代の生活を近づける継承の仕方があるのではないか。
本計画は風穴が共有自然遺産=Geocommons として住民 の生活に根付き、移住者を受け入れる建築を提案するこ とで自然・建築・ヒトの循環を促進する。
2. 事前調査
(1)風穴の仕組み
風穴(*1)とは 1 万年前の地滑りによって生まれた崖錐地 形の礫の隙間から吹き込む空気の循環によって夏季には
季節で外気温と地温の上下が入れ替わり、冷風穴から冷 たい空気が冬季には温風穴で温かい空気が流れます。
さらに冷風穴では礫の間に浸透した雪解け水が再び氷 として冷却層になることで通常の地下の温度よりも低い 冷気が発生する。
風穴による現象として冷風穴・温風穴ともに外気との 気温差の影響で風穴霧が起こり風穴のある地域特有の風 景・環境が生まれる。
(*1)風穴というと富岳風穴のような溶岩洞窟を想像する が、日本では崖錐地形からなる縦穴型の風穴が大多数を 占める。
図 1 季節によって変化する環境
(2)微気候から生まれる営み
固有の風景は風穴霧だけでなく、風穴での人の営みか ら貴重な植物など生態系に関係している。
人の営みは風穴小屋を建てることで氷や蚕種を保存し 集落から日本全国へ産業の発展の助けになった。
また風穴小屋の周辺にも環境は影響し、北海道のよう に冷涼な地域に生息する植物が長野県の風穴周辺に生息 する現象が発生し絶滅危惧種にも指定される植物が風穴 によって守られている。
図 2 氷集落の生業と生態系
3. 地域に根ざす氷風穴
(1)風穴対象敷地:長野県小諸市氷風穴
調査対象として長野県小諸市氷地区に位置する氷風穴 を挙げる。
全国的にも最も多く風穴を所有する長野県の中でも小 諸市の風穴は最も蚕種貯蔵量を誇っている。
また関越自動車道小諸 IC から自動車で約9分と風穴の 中でも集落・主要交通が近くに位置するためアクセスが 比較的用良い方である。
図 3 全国風穴分布と小諸市交通
(2)共有地としての可能性
所有パターンから風穴を比較すると群馬県の世界遺産 荒船風穴の場合、資金は入るが小屋として残すことは出 来ずに対し氷風穴は現在も民間で運営しているので新規 で小屋を建て補修するなどを許容でき、コモンズとして の可能性を持っている。
入沢風穴の場合、個人住宅の裏に風穴があり、空調ダ クトで住宅と風穴をつなぐ点では参考になるが公共性は 無い。
図 4 風穴所有の比較と公共性
4. 実測調査
風穴の現状を把握するためにも寸法・風速・温度の実 測を行った。中でも四号風穴は計画敷地で唯一残る風穴
小屋であるため設計の手がかりとして調査対象に挙げた。
風速計で計測を行うと瞬間最高風速 0.1-0.4m/s 程度の 冷気が流れており湿度は高く 90%以上が占めていた。
またサーモカメラで計測を行うと安山岩の野面積みで 積まれた石垣から冷気が出ていることと開口の必要性が わかる。
(使用機材おんどとり Jr FLIR ONE 風速計 testo405-V1)
図 4 四号風穴実測結果
5. 提案
風穴を食品保存のみの利用から移住体験・生産・販売 と自立したプログラムとして Geocommons を提案する。
しかし運営体制として風穴のみで完結せずに氷集落に関 する生業、自然環境を接続させることで小規模のメンバ ーシップを保ちつつ風穴の維持、まちおこしを行うこと が可能である。
■ scheme0 来訪者の誘致
■ scheme2 移住者の受け入れ
■ scheme3 先輩移住者からの案内
■ scheme4 年長者の情報提供
上記の Scheme をつなげる役割をもつ農業、産業などの 移住体験施設を大枠として氷集落内の既存の農地、空き 家、空き地、荒地を貸し農地として提供し氷風穴保存会 の年長者たちがレクチャーすることで農業と移住体験を 通して集落の住民ともコンタクトが取れ、少しでも実際
に移住する契機となる。
図 5 Geocommons 連関図
6. 設計手法
前章までの調査を踏まえ設計は下記の設計 Scheme を通 して建築空間まで行った。
■ scheme1-1 集落の文化的風景の収集
■ scheme1-2 環境操作の作法
■ scheme2 微気候アイコンの生成
■ scheme2.5 接続方法
■ scheme3 風穴に接続
図 6 文化的風景の収集
図 7 微気候アイコンの生成
(1)微気候アイコン
Scheme1 で抽出した要素を組み合わせ微気候アイコン として構築することで氷集落の文化的景観に調和をとり、
且つ温度のムラを生み出すアイコンとしての役割を両立 し、より環境的なアフォーダンスを促す。
(2)接続方法
微気候アイコンを風穴に接続する手がかりとして呼吸 器としての建築の接続、風穴を補強する接続方法を提案 する。
共通部分を持ちつつ、それぞれの場の性質、形状に対 応することで土着的かつ象徴となるような空間を構成し た。
図 8 微気候アイコンの生成
(3)風穴へ接続
冷風穴・温風穴へそれぞれ接続することで生活者、移 住者の生活が付加され、風穴の空気循環を促進する。
図 9 左から冷風穴、温風穴へ接続する微気候アイコン
7. 結び
風穴に微気候アイコンが加わることで集落の生活に根 付き、且つ環境と風穴に関わる生業が可視化されること で風穴が移住者を迎える共有自然遺産=Geocommons と して利用し後世へと継承していく契機となることを願う。
謝辞:この度修士設計を行うにあたり、ご指導ご鞭撻い ただいた赤松佳珠子 教授に深く御礼申し上げます。また、
副査の高村雅彦教授、出口清孝 教授、デザインスタジオ 11 でお世話になりました大野秀敏先生はじめ、ご指導い ただきましたすべての先生方に感謝申し上げます。また、
ご相談に乗ってくださった先輩方、お手伝いをしてくれ た後輩の皆、共に修士設計を頑張った同期達にも感謝を 申し上げたいと思います。最後になりますが、献身的な 協力を頂きました両親にも感謝いたします。
参考文献
1)րؙؤٞةٜ٬ظٓؠٚب٭ױהטׂכ气䡢溷㝂坎 䙎חם׃ظاؕ٤ցٚ٤غٜن٬5٬تذ٭ 詇 ㏸ 良 澵☭ 脌陹멮䀁⮂曫⚶
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