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及ぼす影響の検討

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短時間のマインドフルネス呼吸法が ストループ課題・逆ストループ課題に

及ぼす影響の検討

1

斎 藤 翔一郎

1.はじめに

近年,抑うつや不安への介入に対する概念として,マインドフルネスに基づ く技法が開発され,注目を集めている。

マインドフルネスは原始仏教に起源を持つ概念であり,心理学の分野におい ては様々な定義がある。引用されることの多い定義として,「意図的に,現在 の瞬間に,そして瞬間瞬間に展開する体験に,判断をせずに注意を払うことで 現れる気づき」(Kabat-Zinn, 2003)や,「意図的に,評価せずに,心を開き,

瞬間瞬間に生じる経験に注意を向けること」,「出来る限り反応をせず,価値判 断を加えず,瞬間瞬間に気づきを向けるという特別な方法によって養われるも の」(Kabat-Zinn, 2005)というものがある。

Jha, Stanley, & Baime(2010)は,判断をせずに注意を払うというマイ ンドフルネスのトレーニングを行うことによって,注意機能における自発的な 入力レベルと反応レベル(コンフリクトモニタリング)の機能の選択のプロセ スを変えることを示唆している。また,このコンフリクトモニタリングを評価 す る 上 で, ス ト ル ー プ 課 題 は 有 用 な 知 見 と な る こ と が 報 告 さ れ て い る

(Botvinick, Cohen, & Carter, 2004)。

斎藤・越川(2014),斎藤(2020)はこの点に着目し,2週間のマインドフル ネス呼吸法の訓練を行った上で,自己記入型のストループ検査・逆ストループ 検査を用いて注意機能に生じる変化の検討を試みている。

1 本研究結果の一部は,日本心理学会第77回大会(2013)で発表された。本稿は,

その発表内容を元として加筆・修正を加えたものである。

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また,一回限りのマインドフルネス呼吸法を行った場合のストループ課題と 逆ストループ課題の遂行数の変化について,斎藤・越川(2013)は,一回限り という限られた状況では注意機能に影響を及ぼしにくいことを報告している が,本研究ではより詳細に分析を行い,その検討・考察を試みたい。

本研究では,斎藤(2020)で報告した研究内容と関連するものとして,以下 の仮説を検討することとする。

2.仮説

仮説1: マインドフルネス瞑想を1回限り行った群(技法群)は,統制群に 比べ,ストループ干渉率が減少する。

仮説2: マインドフルネス瞑想を1回限り行った群(技法群)は,統制群に 比べ,逆ストループ干渉率が減少する。

仮説3: マインドフルネス傾向の高い者ほど,ストループ干渉率,逆スト ループ干渉率が減少する。

仮説4: 脱中心化傾向の高い者ほど,ストループ干渉率,逆ストループ干渉 率が減少する。

3.方法

3.1.実験参加者

都内の私立大学生・大学院生17名(男性2名,女性15名:平均年齢20.9歳,

SD=0.88)であった。技法群には,本実験の期間中に他の心理学実験に参加 していないことを確認した上で,技法群・統制群の2群にランダムに配置され,

人数の内訳は技法群7名(男性1名,女性6名),統制群10名(男性1名,女 性9名)であった。

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3.2.実験状況

2012年7月27日(金)に行った。技法群は早稲田大学戸山キャンパス36号館 赤松記念室1にて,統制群は同31-206教室にて,集団法によって行った。

3.3.実験材料

本実験で使用した実験材料は,以下の通りであった。

(1)プリント版ストループ検査

箱田・佐々木(1990)によって作成された集団用ストループ検査Ⅰと同様の 検査を作成し,予備調査を行った上で等質な質問紙としてみなすことができる と確認された「プリント版ストループ検査」を用いた。

(2)マインドフルネス尺度

前川(2011)によって作成されたマインドフルネス尺度であり,31項目,5 件法からなる。マインドフルネスの概念を重要視し,逆転項目が無いように作 成されている。また,他の既存のマインドフルネスを測定する尺度に含まれて いない要素として,コンパッション(compassion)を挙げ,質問項目に取り 入れている。

(3)日本語版Experiences Questionnaire

栗原・長谷川・根建(2010)によって作成された,脱中心化の度合いを測定 の対象とする尺度である。この尺度は,Fresco, Moore, van Dulmen, Segal, Teasdale, Ma, & Williams(2007)によるThe Experiences Questionnaire

(EQ:20項目,5件法)の原項目を邦訳し,因子分析の結果得られた,「脱中 心化」(10項目)と「反すう」(6項目)の2因子から成る尺度である。そのう ち,本研究においては下位尺度の「脱中心化」の10項目のみを対象として使用 した。

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(4)内観報告書

実験参加者に対し,実験終了後に内観報告書への記入を求めた。内観報告書 は,技法群用と統制群用を用意した。技法群に対しては,マインドフルネス呼 吸法の実施前後における気分の変化の有無や,気分の変化の内容,マインドフ ルネス呼吸法に関して気づいたことや感じたことの記入を求めた。統制群に対 しては,途中の11分間の安静期間中に,何を考えていたかについて記述するよ う求めた。また,両群に共通して,実験全体を通じて気づいたこと,感じたこ とについて内観報告を求めた。

(5)フェイスシート

実験参加者の年齢,性別,所属学部・研究科,他の実験への参加の有無,瞑 想経験の有無を問うものであった。

(6)「呼吸を用いたマインドフルネス瞑想」が録音された教示用CD

教示時間は11分11秒であった。技法群がマインドフルネス呼吸法を実施する 際に,CDラジカセを使用して再生した。本研究では,Segal, Williams, and Teasdale(2002)によって開発された3分間呼吸空間法を基に,越川が改良 したものを技法群に実施した。この教示は,「自動操縦状態から一歩抜け出す ために,自分がその瞬間に体験していることに気づいて認めること」,「散漫に なった心をまとめて,呼吸への注意を向けること」,「注意を呼吸や全身の感覚 へと広げること」という3段階から成り立っている。

(7)ストップウォッチ(SEIKO社製)

ストループ検査の際,制限時間を測定するため使用した。

(8)CDラジカセ(SAD-4780,小泉成器製)

技法群において,マインドフルネス呼吸法の教示を行うために用いた。

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3.4.実験手続き

実験参加者が所定の椅子に着席した後,実験者は,データは研究目的にのみ 使用すること,個人のプライバシーは守られることを参加者に口頭で伝え,同 意を得た。次に,参加者は年齢,性別及び学籍番号のチェックデジットを除い た下二桁の数字をストループ検査の表紙に記入した。

続いて,実験者は「この検査では,まず練習1を行ったあと,次に,本試行 1を行うというように,必ず練習,本試行,練習,本試行というように進めて 行きます。所要時間は練習10秒,本試行40秒です。できるだけ,速く,正確に やってください。途中で誤りに気づいたら,すぐにそこを修正して,続けてく ださい。なお,筆記用具は黒のサインペン,あるいはボールペンを使って下さ い。」と質問紙の表紙にある教示を読み上げた後,「では,検査を始めます。1 枚めくり,練習と書かれているページを出して下さい。『1』と書かれている ところをご覧ください。ここでは,左の言葉が表すインクの色の下の空欄に チェックしてください。例えば,最初は,あおですから,左から3番目の空欄 にチェックすればよいのです。」と教示した後,一呼吸置いて「制限時間は10 秒です。では,始めて下さい」と教示し,開始を指示した。

10秒経過後,実験者は「では,やめて下さい」と指示し,「では,1枚めくっ て下さい。今と同様のことをやっていただきます。制限時間は40秒です。では,

始めて下さい」と教示した。

40秒経過後,「では,やめて下さい。再び,『練習』と書かれているページを 出して下さい。では,『2』と書かれている欄をご覧下さい。ここでは,言葉 とインクの色の組み合わせがちぐはぐですが,インクの色に惑わされないよう にして,言葉が表すインクの色の下の欄にチェックしてください。最初は,く ろですから,左から4番目の空欄にチェックすればよいのです。」と教示した後,

一呼吸置いて「制限時間は10秒です。では,始めて下さい」と開始を指示した。

10秒経過後,実験者は「では,やめて下さい」と指示し,「では,2枚めくっ て下さい。再び,今と同様のことをやっていただきます。制限時間は40秒です。

では,始めて下さい」と教示した。

(6)

40秒経過後,「では,やめて下さい。再び,『練習』と書かれているページを 出して下さい。では,『3』と書かれている欄をご覧下さい。ここでは,左の インクの色に当たる言葉を選んでこの上にチェックしてください。例えば,最 初は,きいろですから,最初の欄にチェックすればよいのです。」と教示した後,

一呼吸置いて「制限時間は10秒です。では,始めて下さい」と開始を指示した。

10秒経過後,実験者は「では,やめて下さい」と指示し,「では,3枚めくっ て下さい。再び,今と同様のことをやっていただきます。制限時間は40秒です。

では,始めて下さい」と教示した。

40秒経過後,「では,やめて下さい。再び,『練習』と書かれているページを 出して下さい。では,『4』と書かれている欄をご覧下さい。ここでは,言葉 とインクの色の組み合わせがちぐはぐですが,言葉に惑わされないようにして,

言葉に書かれているインクの色に当たる言葉を選んでその上にチェックしてく ださい。最初は,あかですから,左から2番目の欄にチェックすればよいので す。」と教示した後,一呼吸置いて「制限時間は10秒です。では,始めて下さい」

と開始を指示した。

10秒経過後,実験者は「では,やめて下さい」と指示し,「では,4枚めくっ て下さい。再び,今と同様のことをやっていただきます。制限時間は40秒です。

では,始めて下さい」と教示した。40秒経過後,「では,やめて下さい。これ でストループ検査は終了です。」と教示し,ストループ検査を終了した。

その後,前川(2011)によるマインドフルネス尺度(31項目),栗原・長谷川・

根建(2010)による日本語版Experiences Questionnaire(EQ)の下位尺度 である脱中心化尺度(10項目)への記入を求めた。

そして,技法群にはSegal, et al.(2002)による「呼吸へのマインドフル ネス」を基に,越川によって改良された「呼吸を用いたマインドフルネス瞑想」

を録音したものを,CDラジカセによって再生し,約11分間実施した。(なお,

CDによる教示内容は斎藤(2020)にて用いたものと同一であるため,割愛す る。)

CDの教示が終了した後,参加者に「では,深呼吸をしましょう。伸びをし

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ていただいても構いません」と教示した。

一方,統制群は,マインドフルネス呼吸法を行わず,実験室内で11分間,何 もせず安静に過ごした。その際,「では,これから10分程度安静に過ごしてい ただきます。座ったままゆったりと何もせずお過ごしください。ただし,眠ら ないようにしてください。また,本や携帯電話を見ることや,会話をすること もしないで下さい。」と教示した。

その後,再び,技法群・統制群双方に対してプリント版ストループ検査を行っ た上で,マインドフルネス尺度,EQ脱中心化尺度ヘの回答を求めた後,内観 報告の記入を求めた。

4.結果

統計解析には,SPSS24.0J for WindowsとANOVA4を使用した。

4.1.ストループ干渉率・逆ストループ干渉率の変化 4.1.1.技法群・統制群間のストループ干渉率の変化

技法群と統制群との間でストループ検査の干渉率がどのように変化したかを 確認するため,ストループ検査,逆ストループ検査の正答数についての干渉率 を計算した。なお,干渉率は,箱田・佐々木(1990)の計算式に基づき,以下 の通り算出した。

・ ストループ干渉率(%)= (課題3の正答数-課題4の正答数)÷課題3の 正答数×100

その結果,ストループ干渉率の変化は以下のTable 1のようになった。

(8)

Table 1

技法群,統制群におけるストループ干渉率の変化

これをグラフに表したものがFigure 1である。

Figure 1.技法群・統制群におけるストループ干渉率の変化

技法群 統制群

pre post pre post

平均

12.68 13.78 10.96 9.86

SD 6.24 7.10 12.36 9.53

(9)

各群のプレ・ポストにおけるストループ干渉率の変化を比較する前段階とし て,群間でプレ得点に差があるかを調べるために,対応のないt検定を行った。

その結果,群間で有意な差は見られなかった((15)=0.35,t n.s.)。そこで各 課題について,群(技法群・統制群)×時期(プレ・ポスト)の2要因混合計 画による分散分析を行ったところ,Table 2のようになった。その結果,群の 主効果に有意傾向が見られた(F(1,15)=4.06, p<.10 )。

Table 2

技法群・統制群間のストループ干渉率の変化

4.1.2.技法群・統制群間の逆ストループ干渉率の変化

技法群と統制群との間でストループ検査の逆ストループ干渉率がどのように 変化したかを確認するため,ストループ検査の干渉率を算出した。なお,干渉 率は箱田・佐々木(1990)の計算方法に基づき,先と同様に以下の通り算出し た。

・ 逆ストループ干渉率(%)= (課題1の正答数-課題2の正答数)÷課題1 の正答数×100

その結果,逆ストループ干渉率の変化はTable 3のようになった。

変動因

SS df MS F p

群

誤差

124.31 489.47

1 16

124.32 30.59

4.06 0.06

+

時期 群×時期 誤差×時期

2.91 98.69 1509.17

1 1 16

2.91 98.69 94.32

0.03 1.05

n.s.

n.s.

全体

2224.55 35

※+

p <.10

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Table 3

技法群,統制群における逆ストループ干渉率の変化

また,これをグラフで表したものがFigure 2である。

Figure 2.技法群・統制群における逆ストループ干渉率の変化

各群のプレ・ポストにおける逆ストループ干渉率の変化を比較する前段階と して,群間でプレ得点に差があるかを調べるために,対応のないt検定を行っ た。その結果,群間で有意な差は見られなかった((15)=-2.08, t n.s.)。技 法群と統制群との間で逆ストループ検査の干渉率がどのように変化したかを確 認するため,各課題について,群(技法群・統制群)×時期(プレ・ポスト)

の2要因混合計画による分散分析を行った(Table 4)。その結果,群の主効

技法群 統制群

pre post pre post

平均

1.11 3.57 11.32 13.76

SD 9.17 6.99 10.83 12.84

(11)

果に5%水準で有意差が見られた(F(1,15)=4.55, p<.05 )。

Table 4

技法群・統制群間の逆ストループ干渉率の変化

4.2. マインドフルネス尺度,EQ脱中心化尺度とストループ干渉率,逆スト ループ干渉率との相関の検討

マインドフルネス尺度と,EQの脱中心化尺度とストループ干渉率,逆スト ループ干渉率の相関についての検討を試みる。

4.2.1.マインドフルネス尺度とストループ干渉率,逆ストループ干渉率との相関 マインドフルネスの達成度と,ストループ干渉率・逆ストループ干渉率の関 係を明らかにするため,マインドフルネス尺度得点と,ストループ干渉率・逆 ストループ干渉率についてピアソンの積率相関係数を算出したところ,Table 5に示す結果が得られた。マインドフルネス尺度と逆ストループ干渉率との間 に,有意水準10%で中程度の有意な負の相関の傾向が見られた。一方,マイン ドフルネス尺度とストループ干渉率,ストループ干渉率と逆ストループ干渉率 との間に有意な相関は見られなかった。

変動因

SS df MS F p

群

誤差

351.68 1236.22

1 16

351.68 77.26

4.55 0.04 *

時期 群×時期 誤差×時期

6.65 0.17 1573.39

1 1 16

6.65 0.17 98.34

0.07 0.00

n.s.

n.s.

全体

3168.11 35

※

* p <.05

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Table 5

マインドフルネス尺度,EQ脱中心化尺度とストループ干渉率との相関

4.2.2.EQ脱中心化尺度とストループ干渉率,逆ストループ干渉率との相関 脱中心化の達成度と,ストループ干渉率・逆ストループ干渉率の関係を明ら かにするため,EQ脱中心化尺度と,ストループ干渉率・逆ストループ干渉率 についてピアソンの積率相関係数を算出したところ,Table 6に示す結果が得 られた。その結果,EQ脱中心化尺度とストループ干渉率,逆ストループ干渉 率との間に有意な相関は見られなかった。

Table 6

マインドフルネス尺度,EQ脱中心化尺度と逆ストループ干渉率との相関

4.3.マインドフルネス尺度得点・EQ脱中心化尺度との相関

本実験について,補足としてマインドフルネスの達成度の指標として用いた マインドフルネス尺度得点とEQ脱中心化尺度得点との関係を確認するため,

マインドフルネス尺度の合計点の変化量(プレ-ポスト)と,EQの下位尺度 である脱中心化尺度得点の変化量(プレ-ポスト)についてピアソンの積率相

T S R T S F M マインドフルネス尺度(MF)

ストループ干渉率(ST) 逆ストループ干渉率(RST)

- .09 -

-.46 .11

- +

※ +

p

<.10

T S R T

S Q

E EQ脱中心化尺度(EQ)

ストループ干渉率(ST) 逆ストループ干渉率(RST)

- .25

-

-.36 .11

-

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関係数を算出した。その結果,有意な強い正の相関が認められた(r=0.72, p<.01)。

5.内観報告

技法群の参加者から,「眠くなってしまった」,「ボーっとしてしまった」(各 2件),「何も考えないようにしなくてはと思った」,「気持ちがすっきりした」

という内観報告が見られた。

また,統制群の参加者からは,「11分の間,何をしていれば良いのか困った」

(2件),「この後の予定を考えていた」,「早く終わって欲しかった」といった 内観報告が見られた。

6.仮説の検証並びに考察

結果を踏まえ,本研究における仮説について検証し,考察する。

6.1.仮説の検証

仮説1の検証: 「マインドフルネス瞑想を1回限り行った群(技法群)は,統 制群に比べ,ストループ干渉率が減少する。」

これに関しては,分散分析の結果,群の主効果にのみ有意傾向が見られた。

しかし,技法群はプレ時と比較して,ポスト時に平均値が増加しているのに対 し,統制群はプレ時と比較して,ポスト時に平均値が減少していることから,

統計的な有意差は無いものの1回限りの瞑想を行った結果,ストループ干渉率 が増加する有意な傾向が見られたことから,仮説とは逆の結果となった。

仮説2の検証: 「マインドフルネス瞑想を1回限り行った群(技法群)は,統 制群に比べ,逆ストループ干渉率が減少する。」

分散分析の結果,群の主効果にのみ5%水準で有意差が見られた。技法群は

(14)

プレ時と比較して,ポスト時に平均値が増加しており,統制群もプレ時と比較 して,ポスト時に平均値が増加していることから,1回限りの瞑想を行った結果,

技法群は時期についての差はないものの,逆ストループ干渉率が増加する傾向 が見られ,仮説は成立しなかった。

仮説3の検証: 「マインドフルネス傾向の高い者ほど,ストループ干渉率,逆 ストループ干渉率が減少する。」

マインドフルネス尺度と逆ストループ干渉率との間に,有意水準10%で中程 度の負の相関の傾向が見られた。一方,マインドフルネス尺度とストループ干 渉率,ストループ干渉率と逆ストループ干渉率との間に有意な相関は見られな かった。

このことから,マインドフルネスの達成度が高い者ほど,逆ストループの干 渉率が減少している傾向が示唆された。

仮説4の検証: 「脱中心化傾向の高い者ほど,ストループ干渉率,逆ストルー プ干渉率が減少する。」

EQ脱中心化尺度とストループ干渉率,逆ストループ干渉率との間に弱い負 の相関があったものの,有意差は見られなかった。

6.2.考察

仮説の検証を元に,考察を試みる。

今回の実験では,ストループ干渉率に関して統制群,技法群ともに有意差は 見られなかったが,逆ストループ干渉についての群の主効果にのみ5%水準で 有意差が見られ,時期に主効果は見られなかった。

逆ストループ課題において,注意欠陥多動性障害(ADHD)のうち,不注 意優勢型ADHD(ADD)患者は,干渉率が健常者に対して有意に高くなるが,

これについて,箱田・宋(2010)は,ADD患者は全体情報の処理,部分情報 から全体情報への切り替えが不得意であるためであると指摘している。また,

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同研究では,ADHD患者は競合する情報のコンフリクトを検出し,認知的制 御において重要な役割を果たしている前帯状皮質(ACC)の活動が弱いこと,

ま た, 逆 ス ト ル ー プ 課 題 に お い て はACCの 背 側 部 の 活 動 が 活 発 に な る

(Emond, Joyal, & Poissant,2009)ことから,ADDの患者において逆スト ループの干渉が強く現れるのは,ACCの働きが弱いためではないかと述べて いる。

今回の実験では,マインドフルネスの達成度の指標として用いたマインドフ ルネス尺度と,逆ストループ干渉との間に中程度の負の相関の有意傾向が見ら れた。即ちマインドフルネスの達成度が高くなればなるほど,逆ストループ干 渉の生起が減ると考えられる。つまり,マインドフルネスの「状態」が生起さ れることにより,ACCの活動が活性化し,競合する情報のコンフリクトが抑 制されるといえる。

一方,マインドフルネス尺度とストループ干渉率との間に有意な相関は見ら れなかった。これは,ストループ干渉と逆ストループ干渉との間で起こる情報 処理過程の機序の違いが考えられる。課題の目的と関係のない刺激入力時に,

コード化された属性(色に反応するストループ干渉課題であれば,「色名の言 語的コード」,色名に反応する逆ストループ干渉課題であれば,「色の知覚的 コード」)による干渉の強さが,反応様式によって決定されることから,ストルー プ干渉と逆ストループ干渉の生起メカニズムは異なることを主張した箱田・

佐々木(1990)の研究と矛盾しないといえる。

また,ストループ干渉と逆ストループ干渉との間に有意な相関が見られな かったことからも,情報処理メカニズムの違いが示唆されている。

一方,脱中心化の指標として用いたEQの下位尺度である脱中心化尺度と,

ストループ干渉,逆ストループとの有意な関係は見られなかった。これは,脱 中心化尺度の質問項目が「困難な状況に対してあるがままに受け入れることが 出来る」「自分自身を思いやりを持って扱うことが出来る」といった,自己の 観察についての質問項目が含まれていることや,EQ脱中心化尺度の日本語化 の際に用いられたマインドフルネスの定義では,「思考や感情を,それ自体に

(16)

真実があるかもしれないが,ないかもしれない,心の中を過ぎゆく一時の出来 事」として体験している状態を指す(Teasdale et al., 2002)というもので あることから,「観察」に主眼が置かれており,注意に対して直接的な影響を 及ぼしにくかったと考えられる。

また,実験状況にもいくつか問題があった可能性がある。

参加者数について,統制群7名,技法群10名と少なかったことに加え,集団 法にて実施したため,技法群において,マインドフルネスの「意味」や,目指 すものの背景に関する教示が少なく,1回限りという限られた状況ではマイン ドフルネス状況が生起しにくかったことが示唆される。瞑想という技法につい て,West(1987,春木・清水・水沼監訳,1991)は,「臨床の場で瞑想をうま く活用するには,患者が瞑想法をうまく使いこなせるように指導することが大 切である。これは,つい見過ごしがちな注意点である。」と指摘しており,適 切なスーパーバイズを行うことが必要であるとしている。

この実験では,実験室内にて集団法で一斉に呼吸を用いたマインドフルネス 瞑想を行い,かつ1度限りのものであったため,マインドフルネスという概念 との「向き合い方」が不十分であったことが示唆される。

今回の研究では,実験参加者に長期に渡って継続的にマインドフルネスの瞑 想訓練を行っていた者はいなかった。マインドフルネスという注意のあり方を 検討するためには,1度限りのマインドフルネス呼吸法を行うだけではなく,

マインドフルネス特有の注意の向け方に熟達した瞑想経験者との比較を行う必 要があるだろう。マインドフルネス特有の注意機能の検討を行う上で,今後の 研究の課題としたい。

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図

Figure 1.技法群・統制群におけるストループ干渉率の変化
Table 3 技法群,統制群における逆ストループ干渉率の変化 また,これをグラフで表したものがFigure 2である。 Figure 2.技法群・統制群における逆ストループ干渉率の変化 各群のプレ・ポストにおける逆ストループ干渉率の変化を比較する前段階と して,群間でプレ得点に差があるかを調べるために,対応のないt検定を行っ た。その結果,群間で有意な差は見られなかった( (15)=-2.08, t n.s

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