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医療的ケア児の地域生活支援と地方自治体の役割

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(1)

医療的ケア児の地域生活支援と地方自治体の役割

─医療・福祉・教育による総合的な施策展開に向けて─

The role of local government in integrated community care for children requiring medical care

―Toward the comprehensive development of medical, social welfare, education policies―

竹 田 幹 雄 TAKEDA, Mikio

立教大学大学院 コミュニティ福祉学研究科 コミュニティ福祉学専攻 博士課程後期課程 2 年 キーワード:医療的ケア児、地域生活支援、地方自治体

Children requiring medical care living in community are increasing, but the actual condition is not disclosed, and social support is not delivered well. For support of children requiring medical care living in community, policies of medical, social welfare, education are necessary, and comprehensive administrative management by local government is important. This pa- per reviews the current status and issues concerning policies for children requiring medical care, and analyzes the implementation of these policies by local government. And viewpoints regarding the development of policies for children requiring medical care are also considered.

Ⅰ.医療的ケア児を取り巻く状況 1.増加する医療的ケア児と把握されていない

生活実態

我が国の小児医療は、この30年間で乳児死亡 率が約 8 割も改善するなど大きな進歩を見せて いるが

1)

、医療の高度化は、医療的なケアを必 要とする子どもの増加という状況も生み出して いる。こうした課題の顕在化により、医療的ケ アを必要とする子どものことを「医療的ケア児」

と呼ぶようになっているが、その確定した定義 はなく、正確な人数も把握されていない。

重症心身障害児に限っていえば、医学的管理 下に置かなければならない子どもについて、表 1 の「超重症児スコア」の点数が 25 点以上の子 どもを「超重症児」、10 点以上の子どもを「準 超重症児」とするという一定の基準が定められ ているが

2)

、その人数や生活実態は、部分的に しか明らかにされていない。また、医療的ケア が必要ではあるが、運動能力や知能が正常もし

表 1 超重症児スコア

1. 運動制限 (スコア)

2. (1) レスピレーター管理 10 (2) 気管内挿管・気管切開 8 (3) 鼻咽頭エアウェイ 5 (4) O2またはSPO2 90%以下 5 (5) 1 回/時以上の吸引 8 6 回/日以上の吸引 3 (6) ネブライザー6 回以上/日または継続使用 3

(7) IVH 10

(8) 経口摂食(全介助) 3 経管(経鼻・胃ろうを含む) 5 (9) 腸ろう・腸管栄養 8 (9’) 持続注入ポンプ加算 3 (10) 手術、服薬でも改善しない過緊張で 発汗による更衣と姿勢修正を3 回/日以上 3

(11) 継続する透析 10

(12) 定期導尿 3 回以上/日 5

(13) 人工肛門 5

(14) 体位交換 6 回以上/日 3 注 1: 毎日行う機械的気道加圧を要するカフマシン・

NIPPVなどは、レスピレーター管理に含む。

注 2:2.(1)(2)は重複加算可。

注 3: (8)(9)はどれか 1 つ、

(9’)は、(9)施行の場合のみ。

*基準:準超重症 10 点以上、超重症 25 点以上 出典:鈴木・武井・武智ほか(2008:304)

(2)

くは正常に近く、重症心身障害児の枠に入らな い子どもが相当数存在することが報告されてい るが

3)

、どのような状態像の子どもがどのよう な生活を送っているのかということは、ほとん ど明らかになっていない。

こうした状況を踏まえ、名倉・田村(2017:

45) は、社会医療診療行為別調査のデータと特 別支援学校等の医療的ケアに関する調査結果を 比較分析し、 「在宅自己注射指導管理料を除く全 ての在宅療養指導管理料の算定件数」が、最も 信頼性の高い医療的ケア児数を算出する方法で あるとの研究結果を示した。その上で、この定 義に基づく2015年5月における0歳から19歳ま での医療的ケア児数は 17,209 人であり、同年齢 の人口 1 万人あたり 7.82 人の割合で医療的ケア 児が存在すると推計している。併せて、この定 義による 2005 年 5 月の医療的ケア児が 9,987 人 であったことから、この10年間で医療的ケア児 が1.7倍増加しているとの推計結果も明らかにし ている(名倉・田村 2017:59-60)。

これらの研究成果によって、医療的ケア児の おおよその規模感は把握されたものと思われる が、施策として支援策を講じていくためには、

支援ニーズを有する子どもたちのそれぞれの生 活圏域の中で、個々のニーズと社会資源とのマ ッチングを図っていかなければならない。した がって、医療的ケア児施策を進めるためには、

単なる人数の把握に止まるのではなく、一定の 地域ごとに医療的ケア児の所在や支援ニーズの 内容を把握する必要がある

4)

2.地域で生活する医療的ケア児の支援ニーズ

近年、先天異常や新生児仮死に起因して NICU(新生児集中治療室)に長期入院する子 どもや、代謝性疾患や神経疾患の進行・重症化、

脳腫瘍・外傷等による合併症や後遺症によって 急性期小児科病棟に長期入院している子どもが 増加している(奈須・田村 2014:894-896)。そ

の一方で、長期の入院・入所ニーズに対応する 医療機関や障害児施設には、医療的ケア児の増 加に対応できるだけの定員が確保されていない。

このため、呼吸管理をしながらNICUから退院 する子どもの 66%が自宅に転出するなど、多く の医療的ケア児が地域で生活を送るようになっ てきている(山崎・高田・田村 2016:184)。

ところが、前田(2017:98)が実施した全国 の在宅療養支援診療所に対するアンケート調査 によると、回答があった5,092ヶ所のうち、小児 患者を診療したことがないと回答した診療所が 4,030ヶ所に上るとともに、経験がある診療所で あっても、5 人以上 9 人未満の診療経験は 103ヶ 所、10人以上の診療経験は93ヶ所しかなく、地 域の中に小児在宅医療の経験が豊富な医療機関 がほとんど存在しないことが明らかになってい る。すなわち、医療的ケア児は、地域の中で生 活しているにもかかわらず、身近な医療機関で はほとんど対応してもらえず、ケアの多くを専 門医療機関に頼らざるを得ない状況となってい る。

また、医療的ケア児が地域で生活していくた めには、家庭内はもとより、保育園や学校、通 院や外出・旅行等の様々な場面において、切れ 目なく医療的ケアが提供される必要があるが、

現在のところ、その担い手の多くは親となって

いる。2012 年から、医師の指示、看護師等との

連携の下に、介護福祉士や一定の研修を受けた

介護職員等によるたんの吸引・経管栄養ができ

るようになったが、小児の医療的ケアを実施で

きる人材はほとんど育成されておらず、あらゆ

る場面で親の付き添いが求められているのが現

実である

5)

(高橋 2014:905) (日本小児科学会

倫理委員会 2007:3-4)。結果として、医療的ケ

ア児の親は、精神的・肉体的に過重な負担を強

いられたり、経済的に厳しい状況に置かれたり

する場合が少なくない。さらには、親が医療的

ケア児の養育に注力せざるを得ないことから、

(3)

兄弟姉妹がいる場合には、そちらの子育てに影 響を及ぼすことも懸念されている(高橋 2016:

1429)。

それにもかかわらず、医療的ケア児支援の取 り組みが進まないのは、医療的ケア児のニーズ が希少かつ複雑であるがゆえに常時一定のニー ズが存在していないことと、一旦ニーズが発生 すると、幅広い分野に跨って高度かつ個別的な 対応が長期間に渡って求められることに原因が ある。成長過程にある子どもという年代的な特 性上、本人や家族の変化、進学や成人期への移 行等によって生活環境や支援機関が変遷してい くことになるが、それに合わせて、関係者がお しなべて医療的ケア児を支援できるよう専門的 な知識や技術を習得するためには、多大な時間 と労力が必要となる。地域で生活する医療的ケ ア児の支援ニーズに応えるためには、こうした 困難な課題に対応しながら、一人ひとりの状況 に応じた支援の確保と、それらのネットワーク 化を図っていくことが求められる。

Ⅱ.医療的ケア児支援の現状と課題 1.小児在宅医療体制の構築

医療的ケア児が地域で生活できるようにする ためには、高度な医療を提供する専門医療機関 を充実させるだけでなく、①地域におけるかかり つけ医、②訪問看護や訪問リハビリテーション、

③緊急時の受け入れ体制を確保していくことが 重要である(大阪発達総合療育センター2014:

1)。このため、2014 年度の診療報酬改定では、

在宅療養後方支援病院が新設されるとともに在 宅療養指導管理料の算定方法が見直され、在宅 医療の充実と後方支援体制を強化するための対 応が図られた。さらに、2016 年度の診療報酬改 定によって、機能強化型在宅療養支援診療所や 訪問看護ステーションの実績要件に、15 歳未満 の超・準超重症児に対する実績が追加される等、

小児在宅医療のさらなる普及が進められようと

している(桑木 2016:1439)。

また、専門医療機関と地域の医療機関との連 携が希薄な状況では、地域の医師が医療的ケア 児の経験が乏しいままであり、専門医療機関へ の偏重と小児在宅医療の不足は解消されない

(小保内・大澤・大林2016:178)。そこで厚生労 働省は、地域の医療資源と専門機関とのネット ワークを構築することによって、小児等の在宅 医療の受け入れが可能な医療機関・訪問看護事 業所数の拡大を図るとともに、地域における医 療・福祉・教育の連携体制の構築や、医療と連 携した福祉サービスを提供できるコーディネー ター機能の確立を図るため、2013年度と2014年 度に「小児等在宅医療連携拠点事業」を実施し た。その成果として、小児在宅患者の実態把握 が行われたことや、行政との連携体制、分野を 跨いだ多職種協働体制が構築されたことなどが 挙げられているが、ニーズが大きいレスパイト 支援の病床確保や、全体をコーディネートする 人材の育成等の課題が残されていることも指摘 されている(中村 2016:159-161)。

加えて、この事業は、全国的に実施されたわ けではなく、2013 年度は 8 都県、2014 年度は 9 都県での実施に止まっていた。2015年度からは、

地域医療介護総合確保基金の事業として全国で 実施できるようになったが、高齢者の医療介護 基盤の整備を主たる目的として設置された基金 の中で、小児在宅医療の取り組みをいかに広げ ていくかということも大きな課題となってくる。

2.医療と連携した福祉サービスの展開

医療的ケアを必要とする子どもの入所型施設

として大きな役割を担ってきた重症心身障害児

施設は、2014年の法改正によって、18歳未満に

ついては児童福祉法に基づく医療型障害児入所

施設、18 歳以上については障害者総合支援法に

基づく療養介護としてサービスを提供すること

になった。ただし、重症心身障害児施設からの

(4)

円滑な移行を確保するために、両方のサービス を一体的に提供できる仕組みが設けられている。

これには、重症心身障害児施設の入所者のほと んどが 18 歳以上であったことが背景にあるが、

2015 年度の医療型障害児入所施設(18 歳未満)

の利用者数は約 0.2 万人に対し、療養介護(18 歳以上)の利用者数は2.0万人となっており、そ の傾向に大きな変化はない(厚生労働省 2016:

3-5)。言い換えれば、医療型障害児入所施設の 数がほとんど増加していない中で、医療的ケア 児が入所施設を利用することは、非常に難しい 状況が続いている。ノーマライゼーションの理 念を具現化する観点からも、今後も増加が見込 まれる医療的ケア児を地域の中で支援する福祉 サービスを展開していくことが望まれる。

現行制度における障害児の在宅生活を支える 福祉サービスとしては、障害者総合支援法によ って、ホームヘルプや移動支援、短期入所や日中 一時支援等の事業が規定されている。また、障害 児の発達を支援するサービスについては、2014 年の改正児童福祉法による児童発達支援(福祉 型・医療型)や放課後等デイサービスの創設と ともに、重複障害があっても身近な地域で支援 を受けられるよう、障害種別を問わないサービ ス体系に変更された。ところが、これらのサー ビスは、身体障害や知的障害がある子どもを想 定して組み立てられたサービスであり、各施設 や事業所に医療的ケアを提供できる体制が必ず しも確保されていないため、医療的ケア児がこ れらのサービスを利用することは、実際には難 しい状況にある(奈須・田村 2014:897)。同様 の課題は、子育て支援施策である保育園や幼稚 園、一時預かりや放課後児童クラブにおいても 存在しており、医療的ケア児の社会との関わり を広げる観点からも、保護者の生活を支援する 観点からも、活用できる福祉資源がほとんどな いことは大きな問題である。障害児福祉施策と 子育て支援施策のいずれの施策も市町村が実施

主体とされている趣旨を踏まえ、施設や事業者 に対する理解の促進や受け入れ体制の確保に向 けて、自治体による実効性のある対策が求めら れる。

また現状では、こうした福祉ニーズについて も医療側で対応せざるを得ないため、地方自治 体の単独事業として医療機関におけるレスパイ ト事業が実施されている場合もあるが、それさ えも利用できない場合には、医療保険による訪 問看護だけが、利用できる唯一の生活支援サー ビスとなっているケースも少なからずある。い ずれにしても、小児在宅医療の資源も不足して いる中で、医療だけに依存した生活支援体制を 整備することは不可能であり、貴重な資源を有 効に活用する観点からも、医療と連携した福祉 サービスの充実を図っていくことが急務となっ ている。

3.教育における医療的ケア児支援

病気や障害のある子どもに対する教育は、

1979年の養護学校の義務制実施と訪問教育の制 度化、2007 年からの特別支援教育の実施等を経 て、現在はインクルーシブ教育が推進されてい る。インクルーシブ教育を構築するためは、① 障害のある者が一般的な教育制度から排除され ないこと、②障害のある者に対する支援のため に必要な教育環境が整備されること、③障害の ある子供が、他の子供と平等に「教育を受ける 権利」を行使するため、個々に必要となる適当 な変更・調整(合理的配慮)が提供されること 等が必要であるとされている。このため、イン クルーシブ教育の導入に当たっては、就学先の 決定に際し、本人・保護者の意見を最大限尊重

(可能な限りその意向を尊重)し、教育的ニーズ と必要な支援について合意形成を行うことを原 則とするなどの対応が図られた。

こうした取り組みの中で、公立学校における

日常的に医療的ケアが必要な幼児児童生徒の在

(5)

籍状況は、2016 年 5 月現在、特別支援学校に 8,116 人、通常学校に 766 人となっており、とり わけ特別支援学校については、2006年度の5,901 人から大幅に増加している(文部科学省 2017)。

これに伴い、医療的ケアに対応する教員数も、

2006年度の2,738人から、2016年度は4,196人へ と増加しているが、教員が行える医療的ケアは ニーズ全体の 5 割程度であり、すべての医療的 ケアに対応できるわけではないことが報告され ている(丹羽 2016:201)。このため文部科学省 は、2013 年からインクルーシブ教育システム推 進事業を開始し、学校への看護師等の配置を進 めており、2016 年 5 月現在、特別支援学校には 1,665 人、通常学校には 420 人の看護師が配置さ れている状況にある。

こうした対策が講じられているにもかかわら ず、教職員や看護師による対応には学校ごとに 差があり、実際には常時親の付き添いを求めら れたり、親による送迎を求められたりすること が少なくないといった指摘がなされている(横 山 2016:1414)。下川(2013:197)は、こうし た問題に対して、各地域の社会資源や地域の特 性、歴史・背景が異なることを踏まえた対応が 必要であるとしているが、現実的な解決を図る ためには、医療的ケアを実施できる人材の確保 とともに、リハビリテーションや福祉用具の専 門家等との連携体制を構築し、教育現場に医療 的ケア児を受け入れることができる環境を整備 していく取り組みを具体化させていくことが必 要である。

4.総合的な相談支援体制の整備

以上のように、医療的ケア児が地域で生活し ていけるようにするためには、医療・福祉・教 育それぞれの分野の支援体制を地域の中に確保 していくことが求められるわけであるが、法制 度によって分野ごとに支援の種類や方法が複雑 に規定されている中で、様々な支援を全体的に

調整しながら、総合的に支援を提供してくとい うことも重要な課題となっている。このため、

2012年に施行された改正障害者自立支援法と改 正児童福祉法では、全ての障害児者に福祉サー ビスの利用計画を作成することとされ、この計 画を作成する相談支援専門員が、いわゆるケア マネジャーとして相談支援を実施しながら、生 活全般に渡るコーディネートを行っていくこと となった。

しかし、相談支援専門員には医療的ケアに関 する知識が不足しているため、医療的ケア児の 相談支援を実施できる相談支援専門員がほとん どいないということが指摘されている(前田 2013:91-93)。また、相談支援を実施しように も、活用できる資源が非常に少なく、単に関係 機関の調整をするだけでは支援を完結すること ができない状況にあることから、医療的ケア児 の相談支援には、活用できる資源の開発にも同 時に取り組んでいくことが必要とされる。

こうした課題の解決を図るため、厚生労働省 は、2012年度から2014年度まで実施した「重症 心身障害児者の地域生活モデル事業」の成果を 踏まえ、2015 年度から「重症心身障害児者支援 体制整備モデル事業」を実施している。この事 業は、都道府県、指定都市、児童相談所設置市 を実施主体として、地域の中核となる重症心身 障害児者支援センターを設置するとともに、 (仮 称)重症心身障害児者支援スーパーバイザーを 配置し、都道府県全体の支援体制の構築、市町 村・広域のバックアップ、スーパーバイズ機能

(市町村・事業所等の支援、新規資源の開拓、地

域住民に対する情報提供)、重症心身障害児者

支援者とコーディネーターの育成・登録管理を

行うものとなっている。とりわけ、地域の中で

関係機関・関係者間の調整を行うコーディネー

ターを確保していくことが重要となるが、これ

を担う人材には、福祉と医療の両方の知識が求

められる。このため、相談支援専門員として看

(6)

護師を配置したり、相談支援専門員と看護師の 両方を配置することで連携が円滑化したことが 報告されているが、その一方で、全ての地域で こうした体制を確保することは困難であるとい った指摘もなされている(田中2016:1443)。い ずれにしても、2016 年度は 2 府県でしか事業が 実施されていない状況であり、医療的ケア児に 対応できる相談支援体制をどのように全国的に 構築していくかということも、大きな課題とな っている。

Ⅲ.地方自治体における医療的ケア児 施策の実施状況

1.医療的ケア児施策における地方自治体の役割

医療的ケア児施策の推進に向けて、国は様々 な制度や事業を打ち出してきているが、これら を活用して地域のニーズに即した支援を提供し ていくのは、地方自治体の役割である。しかし、

行政における事務事業の実施主体は、都道府県 になっているものと市町村になっているものが あり、様々な取り組みを一体的に実施しようと すると、同一の自治体内で完結することができ ない場合がままある。このため、高齢者施策で は、全市町村において在宅医療・介護連携推進 事業を実施することとされ、市町村が在宅医療 を推進していく役割も担いながら、住まい・医 療・介護・予防・生活支援を一体的に提供する 地域包括ケアシステムの構築に取り組むことと なった。医療的ケア児施策についても同様に、

2016 年の改正児童福祉法によって、全市町村に 障害児福祉計画を策定することが義務付けられ るとともに、2018 年度末までに、医療的ケア児 支援に関する保健・医療・福祉・教育等の関係 機関の協議の場を設置することが求められてい る。各市町村の医療的ケア児の人数や社会資源 の分布、専門職の配置状況等を勘案すると、都 道府県や近隣自治体と連携しなければ取り組み を進められない自治体も少なくないと思われる が

6)

、在宅医療や介護・福祉施策の実施主体が

市町村に集約化してきており、医療的ケア児施 策についても、市町村が主体性をもって取り組 んでいくことが望まれる。

ただし、支援の専門性の高度化とともに供給 主体の多元化が進んでおり、実施主体としての 自治体の役割は、直接支援を提供するというこ とではなく、多様な主体によって地域のニーズ に対応できる支援体制を構築するという位置づ けになっている。すなわち、医療的ケア児の支 援ニーズを適切に把握しながら、活用可能な地 域資源を開発し、ネットワーク化を図っていく ことを通して、自治体がいかに地域をマネジメ ントしていくかということが問われることとな る。自治体がこうした任務を十分に果たせるよ うにするためには、医療的ケア児施策における 企画立案の視点や調整の進め方、関係機関との 連携方法等について、具体的に整理していくこ とが必要である。

2.調査の概要 1)調査の目的

地方自治体における医療的ケア児施策の展開 方法について考察することを目的として、実態 把握や支援施策の実施状況、関係機関との連携 に関する取り組み状況を把握するための調査を 実施した。

2)調査対象

施策の企画から実施に至る過程を一体的に把 握するためには、医療的ケア児と社会資源があ る程度まとまって存在している大規模な自治体 を対象として調査を実施することが適切である と考えられる。このため、関係事務事業の実施 権限が最も集約されており、行政運営体制も充 実している政令指定都市を対象として調査を実 施した。

3)調査方法

全20政令指定都市の医療的ケア児施策所管課

に対して、電子メールにより調査票を送付・回

(7)

収することとした。調査期間は、2017 年 8 月か ら 10 月であり、全ての都市から回答を得た。

4)倫理的配慮

本調査の実施に当たっては、 「日本社会福祉学 会研究倫理指針」を順守するとともに、立教大 学コミュニティ福祉学部・研究科倫理委員会の 承認を得た。

3.調査結果

まず、医療的ケア児の実態把握については、

保護者や福祉施設・事業者等に対して調査を実 施している都市が 9 市、小児慢性特定疾患医療 費助成の受給状況や保育園・学校への入園・就 学時の情報を活用している都市が11都市(調査 を実施している都市と重複あり)あったが、全 く実態を把握していない都市が 6 市あった。ま た、国が2018年度末までに設置を求めている関 係機関の協議の場については、すでに設置して いる都市が 6 市、障害者総合支援法第 89 条の 3 第1項に規定される協議会(自立支援協議会)

等において協議している都市が 4 市となってお り、まだ医療的ケア児について協議・検討する 場がない都市が 10 市と半数に上った。

次に、医療的ケア児に関する施策の実施状況 についてであるが、医療機関等におけるレスパイ ト事業を実施している都市が10市、福祉施設・

事業者等に対する受け入れ補助等を実施してい る都市が 7 市(レスパイト事業を実施している 都市と重複あり)であり、これらの事業を実施 していない都市は 6 市であった。また、医療的 ケア児が医療機関や福祉施設・事業者等におけ る一時入院・短期入所等を円滑に利用できるよ う調整を図っている都市は 9 市、在宅サービス 等の利用支援等を行っている都市が 6 市(一時 入院・短期入所等の利用調整を実施している都 市と重複あり)であり、こうした支援を行って いない都市は 7 市であった。

これらの取り組み状況と協議の場の設置状況

との関係について分析すると、レスパイト事業 や一時入院・短期入所等の利用調整といった医 療的ケア児施策として一般的な事業の実施に関 しては、協議の場が設置されている都市も設置 されていない都市もほぼ同数であったが、それ 以外の先駆的な取り組みが実施されているのは、

協議の場が設置されている都市がほとんどであ った。(表 2・表 3 参照)

表 2   医療的ケア児施策の実施状況と協議の場 の設置の関係

協議の場の設置

(自立支援協議会 等における検討)

施策の 実施状況

レスパイト事業を実施 5 5

福祉施設・事業者等に対 する受け入れ補助等を実

施* 6 1

事業は実施していない 3 3

*レスパイト事業を実施している都市と重複あり (市)

出典:筆者作成

表 3   サービス利用支援の状況と協議の場の設 置の関係

協議の場の設置

(自立支援協議会 等における検討)

サービス 利用支援 の状況

一時入院・短期入所等の

利用調整 4 5

在宅サービス等の利用支

援* 6 0

利用支援を行っていない 2 5

* 一時入院・短期入所等の利用調整を実施して いる都市と重複あり

(市)

出典:筆者作成

そして、医療的ケア児に対する専門的な相談

等の実施状況についてであるが、児童相談所に

おいて専門職による相談等を行っている都市は

6 市であり、残りの 14 市は、児童相談所では判

定や措置以外の支援は実施していない状況であ

(8)

った。また、児童発達支援センターや児童発達 支援事業所において専門職による相談等を行っ ている都市が 14 市あった。

Ⅳ.まとめ ― 医療的ケア児施策の総 合的な展開に向けて

以上の調査結果を踏まえて、地方自治体にお ける医療的ケア児施策の現状と課題についてま とめるとともに、今後のとるべき方策について、

主として市町村による施策の推進を図る観点か ら検討することとしたい。

まず、医療的ケア児の実態把握については、

政令指定都市であっても独自に詳細な調査を実 施している都市は半数以下に止まっており、自 治体レベルでの実態把握は、全国的に進んでい ないことが推察される。現行の障害児施策や小 児慢性特定疾患施策の対象とはならない医療的 ケア児が相当数存在していることが想定される ため、ニーズの内容や量を正確に把握するため には、自治体による独自調査の実施が不可欠で ある。しかし、医療的ケア児は、他市町村の専 門医療機関にかかっている場合が多数あり、市 町村において所管区域内の医療機関に対する調 査を実施しても、実態を正確に把握することは できないであろう。もちろん、都道府県と連携 して医療機関に対する調査を実施することも選 択肢の一つにはなるが、乳幼児健診を実施して いる母子保健部門や義務教育を実施している教 育部門では、自治体内のほぼ全員の子どもの身 体・生活状況を把握する機会があることから、

自治体による継続的な関わりを確保する観点か らも、これらの部門と協調して医療的ケア児の 実態把握を行うための手法を標準化していくこ とが望ましいと考えられる。

次に、関係機関の協議の場についてであるが、

政令指定都市であっても半数の都市で協議・検 討の場がない状況となっていることを踏まえる と、多くの自治体において、医療的ケア児が政 策課題として十分に認識されていない可能性が

高いものと思われる。政令指定都市においてさ え、その 3 分の 1 が、医療的ケア児施策として は一般的なレスパイト事業や一時入院・短期入 所等の利用調整を全く実施していないことから も、同様の恐れを指摘することができるだろう。

どのような取り組みを実施するかは地域の実情 に応じて決定されるべきであるが、医療的ケア 児支援を課題として認識し、どのような対策を 講じるべきか協議・検討するというプロセスは、

全ての自治体において必要とされる

7)

。先駆的な 取り組みを実施しているのは、協議の場を設置 している自治体がほとんどであったことが、そ の有効性を証明しているといえる。

その上で、自治体による施策の展開方策につ いてである。今回の調査によって、児童全般に 関する専門機関である児童相談所では、政令指 定都市のうち 3 分の 2 の都市が、医療的ケア児 に対して、判定や措置以外の支援を実施してい ないことが明らかになった。理由としては、児 童相談所は虐待相談対応に追われており、それ 以外のケースにまで手が回らないという部分も あるかもしれないが、行政の相談機関では、医 療的ケア児のような高度な専門性を必要とする 支援に対応し切れなくなっているという側面も あるのではなかろうか。児童発達支援センター や児童発達支援事業所において医療的ケア児の 相談に応じている都市が 3 分の 2 に上っている ことに鑑みると、臨床現場を有する施設や事業 所との連携を図らなければ、実情に即した支援 を展開することは難しいように思われる。

しかしながら、施策の調整手法や参画させる 関係機関は、画一的に決められるものではない。

医療的ケア児に対応できる専門的な医療機関や 障害児施設が所管区域内に存在する自治体は、

こうした機関や施設を中心とした支援体制を構 築することができるが、それらがない場合には、

事業者団体や職能団体等による協議会を構成す

るなどして支援ネットワークを形成する手法を

(9)

採らざるを得ない。また、行政機関が専門的な 支援機能を有している場合には、その機能を十 分に活用すべきであるが、多くの医療機関や福 祉施設が民間主体によって運営されていること を踏まえると、民間施設や事業所と積極的に連 携を図っていく必要がある。いずれにしても、

医療的ケア児支援は、一つの機関や施設で完結 させることは不可能であり、地域の関係者の理 解と協力を得ながら施策を構築していくことが 重要であることから、それぞれの組織の特性や 運営実態を考慮しながら、地域の多様な主体に よる協働関係が形成されるように調整していく ことが求められる

8)

医療的ケア児支援は、既存制度の枠組みでは 対応し切れない複雑多様な支援ニーズと、少数 ではあるが深刻な生活実態に対応するという、

福祉行政の根源的な政策課題であるといえる。

非常に難易度の高い課題であり、短期間で解決 することは難しいかもしれないが、こうした問 題への取り組みによって、地域住民に寄り添う 地方自治体の真価が問われるのではなかろうか。

【注】

1) 1975年の乳児死亡率は、出生千人に対して10.0人 であったが、2015年は1.9人まで低下した。 (厚生 労働省政策統括官 (統計・情報政策担当) 2017:

43)

2) 診療報酬においては、厚生労働省保健局医療課長 通知「基本診療料の施設基準等及びその届出に関 する手続きの取扱いについて」(平成28年3月4日 保医発第1号) 別添6別紙14「超重症児 (者)・準 超重症児(者)の判定基準」に基づき、同様の判定 スコアによって、超重症児(者)入院診療加算・

準超重症児(者)入院診療加算等が算定される。

3) 前田(2016:165)は、自らが運営する医療法人 において、1999 年から 2015 年までの間に小児在 宅医療を実施した465人のうち、重症心身障害児 には該当しないが、重症児スコアで 10 点以上に

該当する患者が 52 人、25 点以上に該当する患者 が 19 人いたことを報告している。

4) 中村(2016:159)は、在宅患者の生活の細かな 部分については、個々の患者の実態調査が必要で あり、そのためには市町村の協力が不可欠である としている。また、前田 (2017:100) は、世田 谷区と松戸市による取り組みから、どんな医療的 ケアを必要とする子どもがどこに住んでいるとい う情報を把握しなければ、支援の構築が困難であ ることを指摘している。

5) 日本小児科学会倫理委員会が実施した調査によ れば、医療的ケアが必要な重症心身障害児のう ち、97%は家族によって医療的ケアが実施されて おり、うち 93%のケースで母親が実施していた。

また、公的支援の利用率は、訪問診療が 7%、訪 問看護が18%、ホームヘルプが12%であった(日 本小児科学会倫理委員会 2007:10)。

6) 関係機関の協議の場は、都道府県単位や二次医療 圏、障害保健福祉圏域での設置・開催も認められ ている。

7) 山本(2015:158)は、自治体が共生社会の創出 を自らの役割であることを自覚しつつ、自立支援 協議会など市民との共同の取り組みを図るなか で、その要望を具体化し施策化を図ることが必要 であると指摘している。

8) 中村(2016:160)は、小児等在宅医療連携拠点 事業の成果を踏まえ、医療的ケア児施策を推進す るためには、行政機関内の部門間連携や多業種協 働、コーディネート職の配置を図ることが重要で あるとしつつ、保健所や児童発達支援センター、

障害児相談支援事業所の専門職を活用すること や支援チームによって対応するなど、地域の実情 に応じた取り組みを進めるべきであると指摘して いる。

【文献】

厚生労働省政策統括官(統計・情報政策担当)(2017)

『平成 29 年我が国の人口動態』

(10)

厚生労働省(2016)「第 3 期及び第 4 期障害福祉計画の サービス見込量と実績」(社会保障審議会障害者部 会(第 81 回)参考資料 4)

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名倉道明・田村正徳(2017)「医療的ケア児数と資源 調査」『医療的ケア児に対する実態調査と医療・福 祉・保健・教育等の連携に関する研究 平成 28 年 度総括・分担研究報告書』(厚生労働科学研究疾病・

障害対策研究分野障害者政策総合研究) pp. 21-94 中村和夫(2016)「わが国の現状と方向性 ─ 厚生労働

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児科 57(12)』pp. 1425-1431

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山本雅章(2015)『地域で暮らす重症者の生活保障 ─ 自治体職員の役割と行政職員たちの挑戦』クリエイ ツかもがわ

山崎和子・髙田栄子・田村正徳(2016)「病院から地域 への移行の進め方」『小児科診療 79(2)』pp. 183-190 横山美奈(2016)「慢性重度障がい児のケアシステム

の現況」『小児科 57(12)』pp. 1409-1417

参照

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