厚生労働省)は,高齢化や医療の高度化などが影響して42兆6千億 円で過去最高額となった。国民1人あたりの医療費は33万7千円で, 75歳未満が22万2千円なのに対し,75歳以上は93万9千円で,4倍 以上となっている。2022年から2025年(令和4~7年)にかけて,団 塊の世代が後期高齢者となるため,今後も医療費の増加が見込まれ る。 2025年を目途に地域包括ケアシステムなどの構築が進められて いる今日,管理栄養士の使命は,保健・医療・福祉の専門職と連携 して,人々の適切な栄養管理ができる能力を身につけることである。 各疾患の治療指針やガイドラインは日進月歩で,2019(令和元) 年度には管理栄養士養成課程のコアカリキュラムや国家試験のガイ ドラインも改訂され,食事摂取基準2020年版も公表された。 本書は,2003(平成15)年に初版を刊行し,臨床栄養学に関連し た制度や指針が新しくなるたびに内容の見直し・刷新を行ってきた。 執筆は主に現職の教員が担当し,より教育効果の上がる工夫なども 盛り込んで改訂作業を重ねてきた。 第Ⅰ部は総論で,第1章「臨床栄養の意義」,第2章「傷病者や要 支援・要介護者の栄養アセスメント」,第3章「栄養・食事療法, 栄養補給法」,第4章「傷病者や要支援・要介護者の栄養ケア」,第 5章「薬と栄養・食品の相互作用」とし,第Ⅱ部は疾患・病態別栄 養ケアマネジメントで,第1章から第18章までに栄養食事相談が必 要なほとんどの疾患を網羅し,「病態・生理生化学」と「栄養管理」 について記述した。 管理栄養士国家試験ガイドラインに準拠した構成とし,管理栄養 士養成課程の学生が必要な知識を得る教科書として広く使用される ことを願いつつ,読者からのご批判・ご教示を頂きながらさらに修 正を重ね,より使いやすい教材にしたいと願っている。 2020年3月 . 編著者一同
*.疾患名・用語等については,各疾患の治療指針・ガイドライン等を考慮し,必ずし
第 1 章 臨床栄養の概念...2 1.意義と目的...2 1.1. 臨床栄養の意義と目的... 2 1.2. QOL(生活の質,人生の質)の向上... 3 2.医療・介護保険制度の基本...4 2.1. 医療保険制度... 4 2.2. 介護保険制度... 4 2.3. 医療保険制度と介護保険制度における算定の基本.... 5 3.医療と臨床栄養...7 3.1. 医療における臨床栄養管理の意義... 7 3.2. 医療における管理栄養士の役割と職業倫理... 7 3.3. インフォームドコンセント... 7 3.4. リスクマネジメント... 8 3.5. クリニカルパスと栄養ケア... 8 3.6. チーム医療... 9 4.福祉・介護と臨床栄養...11 4.1. 福祉・介護における栄養管理の意義と管理栄養士の役割... 11 4.2. 地域包括ケアにおける栄養改善... 11 4.3. 在宅ケアと施設連携... 12 第 2 章 傷病者や要支援・要介護者の栄養アセスメント... 14 1.意義と目的...14 2.栄養スクリーニングと栄養アセスメント...15 2.1. 栄養スクリーニング... 15 2.2. 栄養アセスメントの目的... 16 3.適正栄養量の算定...21 4.臨床検査・症状と疾病...24 4.1. 血液生化学検査... 24 4.2. 尿・便検査... 27 4.3. 生理機能検査... 28 4.4. 内分泌検査... 29 4.5. 免疫能検査... 29 4.6. 体組成測定... 30 4.7. 臨床症状と疾患... 31 第 3 章 栄養食事療法,栄養補給法... 33 1.栄養食事療法と栄養補給法...33 1.1. 栄養食事療法と栄養補給法の歴史... 33 1.2. 栄養食事療法と栄養補給法の特徴... 33 第Ⅰ部 臨床栄養管理総論
臨床栄養管理
1.3. 栄養補給法の選択... 34 2.経口栄養補給...35 2.1. 目 的... 35 2.2. 病 人 食... 35 2.3. 一般治療食と特別治療食(療養食)... 37 3.経腸栄養補給...42 3.1. 適.応.疾.患... 42 3.2. 投与ルート... 42 3.3. 経腸栄養製品の種類と成分... 43 3.4. 投.与.方.法... 44 3.5. 栄養補給に必要な用具・機械... 44 3.6. 経腸栄養の合併症... 45 4.静脈栄養補給...46 4.1. 適.応.疾.患... 46 4.2. 中心静脈栄養と末梢静脈栄養... 46 4.3. 輸液の種類と成分... 47 4.4. 静脈栄養の合併症... 48 4.5. 輸液の調整と機材... 49 4.6. 在宅静脈栄養管理... 49 第 4 章 傷病者や要支援・要介護者の栄養ケア... 50 1.傷病者や要支援・要介護者の栄養ケアのプランと実施...50 1.1. 栄養ケアの目標設定とプラン作成... 50 1.2. 栄養ケアの実施... 51 1.3. モニタリング,再評価... 52 1.4. 栄養ケアプロセス... 53 2.傷病者や要支援・要介護者への栄養食事相談...54 2.1. 傷病者への栄養食事相談... 54 2.2. 要支援・要介護者への栄養食事相談... 56 3.栄養ケアの記録...57 3.1. 栄養ケアを記録することの意義... 57 3.2. 問題志向型システムの活用... 58 第 5 章 薬と栄養・食品の相互作用... 60 1.栄養・食品が医薬品に及ぼす影響...60 2.医薬品が栄養・食品に及ぼす影響...63 2.1. 味覚,食欲,栄養系の消化・吸収・代謝・排泄に及ぼす医薬品の影響.. 63 2.2. 水・電解質に及ぼす医薬品の作用... 66
第 1 章 栄 養 障 害... 68 1.たんぱく質・エネルギー栄養障害(Protein-energy.malnutrition),栄養失調症(Malnutrition)...68 2.ビタミン欠乏症(Avitaminosis)・過剰症(Hypervitaminosis)....69 3.ミネラル欠乏症(Mineral.deficiency)・過剰症(Mineral.overload)....70 第 2 章 肥満と代謝疾患... 71 1.肥満(Obesity)...71 2.メタボリックシンドローム(Metabolic.syndrome)...74 3.糖尿病(Diabetes.mellitus)...75 4.脂質異常症(Dyslipidemia)...81 5.高尿酸血症(Hyperuricemia),痛風(Gout)...86 第 3 章 消化器疾患... 90 1.口内炎(Stomatitis),舌炎(Glossitis)...90 2. 胃食道逆流症(Gastroesophageal.reflux.disease)...92 3.胃潰瘍(Gastric.ulcer),十二指腸潰瘍(Duodenal.ulcer)...95 4. たんぱく漏出性胃腸症(Protein-losing.gastroenteropathy)...98 5.炎症性腸疾患(Inflammatory.bowel.disease)... 100 5.1. クローン病(Crohnʼs.disease)... 100 5.2. 潰瘍性大腸炎(Ulcerative.colitis)... 102 6.過敏性腸症候群(Irritable.bowel.syndrome)... 104 7.便秘(Constipation)... 106 8.肝炎(Hepatitis)... 108 9.肝硬変(Liver.cirrhosis)... 111 . 10.脂肪肝(Fatty.liver)... 115 11.胆石症(Cholelithiasis)... 118 12.胆嚢炎(Cholecystitis),胆管炎(Cholangitis)... 119 13.膵炎(Pancreatitis)... 120 13.1. 急性膵炎(Acute.pancreatitis)... 120 13.2. 慢性膵炎(Chronic.pancreatitis)... 122 第 4 章 循環器疾患... 124 1.高血圧(Hypertension)... 124 2.動脈硬化症(Arteriosclerosis)... 128 3. 狭心症(Angina.pectoris),心筋梗塞(Myocardial.infarction).... 130 4.心不全(Heart.failure)... 131
5.脳出血(Cerebral.hemorrhage),脳梗塞(Cerebral.infarction),くも膜下出血(Subarachnoid.hemorrhage)... 134 第Ⅱ部 疾患・病態別栄養ケア・マネジメント
臨床栄養管理
第 5 章 腎・尿路疾患... 135 1.急性糸球体腎炎(Acute.glomerulonephritis)... 135 2.慢性糸球体腎炎(Chronic.glomerulonephritis)... 136 3.ネフローゼ症候群(Nephrotic.syndrome)... 137 4.急性腎不全(Acute.renal.failure)... 138 5.慢性腎不全(Chronic.renal.failure)... 140 6.糖尿病腎症(Diabetic.nephropathy)... 143 7.CKD(慢性腎臓病)(Chronic.kidney.disease)... 145 8.尿路結石症(Urolithiasis)... 147 9.透析療法(Dialysis.therapy)... 148 第 6 章 内分泌疾患... 153 1.甲状腺機能亢進症(Hyperthyroidism)... 153 2.甲状腺機能低下症(Hypothyroidism)... 155 3. クッシング症候群(Cushingʼs.syndrome),クッシング病(Cushingʼs.disease)... 156 第 7 章 神 経 疾 患... 157 1.神経疾患(Neuropathy),筋疾患(Myopathy)... 157 2.パーキンソン病(Parkinsonʼs.disease)・症候群(Parkinsonʼs.syndrome)... 157 3.認知症(Dementia)... 158 第 8 章 摂 食 障 害... 160 1.神経性やせ症(神経性食欲不振症)(Anorexia.nervosa)... 160 2.神経性大食症(Bulimia.nervosa)... 161 第 9 章 呼吸器疾患... 162 1.COPD(慢性閉塞性肺疾患)(Chronic.obstructive.pulmonary.disease).... 162 2.気管支喘息(Bronchial.asthma)... 164 3.肺炎(Pneumonia)... 164 第 10 章 血液系の疾患・病態... 165 1.貧血(Anemia)... 165 1.1. 鉄欠乏性貧血(Iron.deficiency.anemia)... 165 1.2. 巨赤芽球性貧血(Megaloblastic.anemia)... 167 2.白血病(Leukemia)... 168 3.出血性疾患(Hemorrhagic.disease)... 169 第 11 章 筋・骨格疾患... 170 1.骨粗鬆症(Osteoporosis)... 170 2.骨軟化症(Osteomalacia),くる病(Rickets)... 172 3.変形性関節症(Osteoarthritis)... 173
4. サルコペニア(Sarcopenia)... 174 5.ロコモティブシンドローム:運動器症候群(Locomotive.syndrome).... 175 第 12 章 免疫・アレルギー疾患... 176 1.食物アレルギー(Food.allergy)... 176 2. 膠原病(Collagen.disease),自己免疫疾患(Autoimmune.disease)... 178 3.免疫不全(Immunodeficiency)... 179 第 13 章 感 染 症... 180 1.病原微生物... 180 2.院内感染症... 181 第 14 章 が ん... 182 1.がん(Cancer)... 182 2.がん疾患・がん治療時の副作用対策... 184 3.消化器がん... 185 3.1. 上部消化器がん... 185 3.2. 下部消化器がん... 185 4.緩和ケアと終末期医療(ターミナルケア)... 186 第 15 章 手術・周術期患者の管理... 188 1.術前・術後の管理... 188 1.1. 術 前... 188 1.2. 術 後... 188 2.胃・食道にかかわる術前・術後... 189 2.1. 食道切除術... 189 2.2. 胃.切.除.術... 189 3.小腸・大腸にかかわる術前・術後... 192 3.1. 短腸症候群(Short.bowel.syndrome)... 192 3.2. 大腸切除術(人工肛門増設)... 193 4.消化管以外の術前・術後の管理... 194 第 16 章 クリティカルケア... 195 1.熱傷(Burn.injury)... 195 2.外傷(Wound)... 199 第 17 章 摂食機能障害... 200 1.咀嚼・嚥下障害(Dysphagia)... 200 2.口腔障害(Oral.disorder),食道障害(Esophagus.disorder)... 203 3.消化管通過障害(Gastrointestinal.obstruction)... 203 第 18 章 身体・知的障害... 204 1.身体障害(Physical.disability)... 204
臨床栄養管理
2.知的障害(Intellectual.disability)... 205 3.精神障害(Mental.disability)... 205 第 19 章 乳幼児・小児の疾患... 206 1.消化不良症(吸収不良症候群)(Malabsorption.syndrome).... 206 2.周期性嘔吐症(Autointoxication)... 207 3.アレルギー疾患(Allergic.disease)... 208 4.小児肥満(Childhood.obesity)... 209 5.先天性代謝異常(Inherited.metabolic.disease)... 210 5.1. フェニルケトン尿症(Phenylketonuria)... 211 5.2. 糖原病(Glycogenosis)... 211 5.3. メープルシロップ尿症(Maple.syrup.urine.disease)... 212 5.4. ホモシスチン尿症(Homocystinuria)... 212 5.5. ガラクトース血症(Galactosemia)... 212 6.糖尿病(小児 1 型糖尿病)(Childhood.diabetes.mellitus,.Type.1).... 212 7.腎疾患(Renal.disease)... 214 第 20 章 妊産婦・授乳婦の疾患... 216 1.つわり(Morning.sickness),妊娠悪阻(Hyperemesis.gravidarum).... 216 2.妊娠糖尿病(Gestational.diabetes.mellitus)... 217 3.妊娠高血圧症候群(Hypertensitive.disorders.of.pregnancy).... 219 第 21 章 老年症候群... 222 1.誤嚥(Misswallowing)... 222 2.転倒(Fall.down),失禁(Incontinence)... 223 3.フレイル(Frailty)... 224 4.褥瘡(Pressure.ulcer)... 225 資 料... 227 索 引... 250
第1章 臨床栄養の概念
臨床栄養の概念
臨床栄養管理とは,傷病者や要支援・要介護者の栄養状態を的確に評価・判定(栄 養アセスメント)し,身体の状況に見合った適切な栄養補給を行い,栄養状態を改善 することにより,疾病の発症を予防・治癒することである。また,効果的な栄養食事 相談を行い患者自身の自己管理能力を育成することをマネジメントするプロセスであ る。1 .意義と目的
1 . 1 臨床栄養の意義と目的 臨床栄養の意義は,傷病者や要支援・要介護者への栄養ケア・マネジメントを行う ことで,疾患の予防を図り,治癒促進や増悪化と再発の防止に寄与し,栄養状態の改 善につなげることである。それには内部環境の恒常性と栄養支援を的確に行うことで, 人体組成やバイタルサインを知ることが重要である。 人体は受精した1個の細胞が分裂を繰り返し,約30~60兆個の細胞の集まりとして 誕生する(新生児)。細胞は新陳代謝を繰り返しながら成長に伴って組織を形成し, 栄養補給(食物)を受けながら寿命(100~150年)をまっとうする。人体は外見や体 重の変化がみられなくても体内では物質の交代(代謝回転)が盛んに行われ,栄養素 や体構成成分の分解(異化,酸化)と合成(同化,還元)がほぼ同じ速度で進行している。 内部環境の維持とは,外部環境の変化があっても人体が安定して活動できるように, 体内をつねに一定の状態に保っていることで,この恒常性を維持する作用をホメオス タシスという。手術後の身体的ケアは,ホメオスタシスを援助することが基本となっ ている。細胞外液には恒常性維持作用があり,腎臓や肺などの諸器官が分担して,体 液成分や体温,血液のpHを一定に保っている。体内では物質が分解されるときに熱 を生じるが,体温を一定に保つためにその熱は絶えず身体の外に放散される。血液の pHが一定(7.36~7.44)に保たれているのは,血液中の緩衝作用(重炭酸塩による調節) や呼吸による炭酸ガスの排泄,腎臓での水素イオンの排泄による。病態時にはホメオ スタシスの乱れの原因を知り,輸液や透析,酸素吸入などで恒常性を維持することが 重要である。 バイタルサインとは患者が生きていることを示す証で,意識状態や対光反射の有無 (瞳孔散大),体温や呼吸数,脈拍,血圧などをいう。救急のA(airway;気道確保),B (breathing;呼吸援助),C(circulation;循環確認)は看護の基本といわれ,手術直後第
1
章
差はわずかに1℃以内で,成人の体温は午前11時ごろから午後2時ごろでは36.5℃前 後である。体温が上昇して体重の2%の水分が減少すると渇きを覚え,7~15%の減 少で精神状態が侵され生命が危険な状態になる。 呼吸は救急医療や全身麻酔では重要視される。安静時の呼吸数は通常,成人では深 くゆっくりで15~20回/分(換気量7.5~10.L/分),新生児では肺胞の未発達により浅 く速いので40~55回/分(換気量0.6.L/分)である。体内の酸素不足や炭酸ガスの増加, 興奮や体温の上昇でも呼吸は速くなる。 脈拍は,新陳代謝が激しい新生児では成人の倍にも及ぶ。通常,成人では安静時で 60~80拍/分,ただし個人差が大きく喫煙や飲酒,精神状態,体位,疲労などさまざ まな要因で変化する。緊張すると頻脈(100拍/分以上)となり,リラックスで徐脈(60 拍/分以下)となるが,臨床的に問題となるのは50拍/分以下である。 血圧は心臓の収縮によって押し出された血液が末梢の血管を押し広げる力(圧力) で,通常はこの圧力を腕の動脈で測定して血圧としている。血圧は心拍出量や血管の かたさ,心臓の収縮力に左右され変動する。一般には収縮期120~130.mmHg,拡張 期70~80.mmHgで, 失 血 で は 低 血 圧 が 起 こ る。 収 縮 期 血 圧 が180.mmHg以 上,. 90.mmHg以下のときは注意を要する。 1 . 2 QOL(生活の質,人生の質)の向上 医療・福祉・保健の総合的な取り組みの中で,臨床栄養管理の目的は,何よりも当 人のQOL(quality.of.life;生活の質,人生の質)の向上であり,生活環境のノーマリゼー ションの実現である。高齢者のQOL向上のためには介護施設で,がんなどのターミ ナルケアにおけるペインコントロールは緩和ケアで,精神的サポートを重視した取り 組みが行われる。さらに,高齢者やがん患者だけではなく,障がい者においても,社 会的不利をできるだけ少なくするために,障害者総合支援法などによる福祉対策事業 による援助がある。さまざまな制度により傷病者や要支援・要介護者のQOLを向上 させる取り組みが行われているが,十分とはいえない。障がい者に接する場合,忘れ てならないことは,「障害は不便ではあるが不幸ではない」(ヘレン・ケラー)の言葉 であり,障害に対する正しい理解や障がい者とのコミュニケーション手法(手話,点字, 車椅子者への介護技術など)を習得することは,今後,管理栄養士にとって必要になる。 ノーマリゼーション(Normalization)とは,1960年代に北欧諸国から始まった社会福 祉をめぐる社会理念のひとつで,障がい者と健常者とは,お互いが特別に区別されること なく,社会生活を共にするのが正常なことであり,本来の望ましい姿であるとする考え。
臨床栄養の概念
臨床栄養管理とは,傷病者や要支援・要介護者の栄養状態を的確に評価・判定(栄 養アセスメント)し,身体の状況に見合った適切な栄養補給を行い,栄養状態を改善 することにより,疾病の発症を予防・治癒することである。また,効果的な栄養食事 相談を行い患者自身の自己管理能力を育成することをマネジメントするプロセスであ る。1 .意義と目的
1 . 1 臨床栄養の意義と目的 臨床栄養の意義は,傷病者や要支援・要介護者への栄養ケア・マネジメントを行う ことで,疾患の予防を図り,治癒促進や増悪化と再発の防止に寄与し,栄養状態の改 善につなげることである。それには内部環境の恒常性と栄養支援を的確に行うことで, 人体組成やバイタルサインを知ることが重要である。 人体は受精した1個の細胞が分裂を繰り返し,約30~60兆個の細胞の集まりとして 誕生する(新生児)。細胞は新陳代謝を繰り返しながら成長に伴って組織を形成し, 栄養補給(食物)を受けながら寿命(100~150年)をまっとうする。人体は外見や体 重の変化がみられなくても体内では物質の交代(代謝回転)が盛んに行われ,栄養素 や体構成成分の分解(異化,酸化)と合成(同化,還元)がほぼ同じ速度で進行している。 内部環境の維持とは,外部環境の変化があっても人体が安定して活動できるように, 体内をつねに一定の状態に保っていることで,この恒常性を維持する作用をホメオス タシスという。手術後の身体的ケアは,ホメオスタシスを援助することが基本となっ ている。細胞外液には恒常性維持作用があり,腎臓や肺などの諸器官が分担して,体 液成分や体温,血液のpHを一定に保っている。体内では物質が分解されるときに熱 を生じるが,体温を一定に保つためにその熱は絶えず身体の外に放散される。血液の pHが一定(7.36~7.44)に保たれているのは,血液中の緩衝作用(重炭酸塩による調節) や呼吸による炭酸ガスの排泄,腎臓での水素イオンの排泄による。病態時にはホメオ スタシスの乱れの原因を知り,輸液や透析,酸素吸入などで恒常性を維持することが 重要である。 バイタルサインとは患者が生きていることを示す証で,意識状態や対光反射の有無 (瞳孔散大),体温や呼吸数,脈拍,血圧などをいう。救急のA(airway;気道確保),B (breathing;呼吸援助),C(circulation;循環確認)は看護の基本といわれ,手術直後第1章 臨床栄養の概念
2 .医療・介護保険制度の基本
2 . 1 医療保険制度 医療保険は,安心・安全な暮らしを保障するため,疾.病に備えて国民が加入する社 会保険制度である。医療保険 には職業や年齢などにより, いろいろな種類がある。運営 する保険者は,国や市町村, 民間団体などさまざまな主体 からなる。 診療報酬とは,保険医療機 関および保険薬局が保健医療 サービスに対する対価として 保険者から受けとる報酬であ る。その一部は患者が負担し, 残りは保険者から審査支払機 関を通して医療機関に支払わ れる。この仕組みが診療報酬 制度である(図Ⅰ︲1︲1)。 診療報酬の額は,厚生労働 大臣が中央社会保険医療協議会(中医協)の議論を踏まえ決定し,「診療報酬点数表」 に記載し告示する。 診療報酬および薬価基準などの算定は,健康保険法に規定する保険医療機関にかか る療養に要する費用として,医科・歯科・調剤の3種類の診療報酬点数表により算定 される。費用の額は,原則として1点の単価を10円とし,定める点数を乗じて算定さ れる。一部,特別療養費や入院時食事療養費は円建てとなっている。 2 . 2 介護保険制度 高齢化が進み,要介護高齢者の増加,介護の長期化などによる介護ニーズが急激に 増加している。そのような中,社会全体で支える新たな仕組みが必要となり,2000 年4月より介護保険制度が社会保険制度方式で導入された。2005年4月には,予防を 重視した新たなサービスが創設されるなど,問題に合わせ基盤整備が進められている。 介護保険の運用は各市町村単位で行われている。介護サービスの利用にあたって, まず被保険者の要介護認定が必要である。該当者がどの程度のサービスを必要として いるかが介護支援専門員(ケアマネジャー)により評価され,合議体(介護認定審査会) により介護度(要支援1~2,要介護1~5,表Ⅰ︲1︲1)が決定される。その介護度により, 介護サービスごとに利用できるサービスの上限額が決定される。 被保険者(患者) 医療保険者 保険医療機関等 (病院,診療所,調剤薬局 等) 審査支払機関 (社会保険診療報酬支払基金 国民健康保険団体連合会) ④診療報酬の 請求 ②診療サービス (療養の給付) ⑦診療報酬の 支払い ⑥請求金額の 支払い ⑤審査済の 請求書 送付 ③一部負担金の 支払い ①保険料(掛金)の 支払い 保険医 診療報酬は,まず医科,歯科,調剤報酬に分類される。 具体的な診療報酬は,原則として実施した医療行為ごとにそれぞれの項目に対応 した点数が加えられ,1 点の単価を 10 円として計算される(いわゆる「出来高払い 制」)。例えば,盲腸で入院した場合,初診料,入院日数に応じた入院料,盲腸の手 術代,検査料,薬剤料と加算され,保険医療機関は,その合計額から患者の一部負 担分を差し引いた額を審査支払機関から受けとることになる。 図Ⅰ︲ 1 ︲ 1 保険診療の概念図 (厚生労働省資料)2 . 3 医療保険制度と介護保険制度における算定の基本 ( 1 ) 保険医療機関における管理栄養士にかかわる算定 1 ) 入院食事療養 ① 入院時食事療養費 入院時食事療養費は健康保険法により,診療報酬点数表 とは別に,入院時における食事料を定めたものである。算定基準により,入院時食事 療養費(Ⅰ),(Ⅱ)に区分される。2016年4月の診療報酬改定では,市販の濃厚流動 食品を使用した場合の減額区分が追加された(資料,p.245参照)。 ② 届出および報告 入院時食事療養費(Ⅰ)および特別メニューの食事の提供 をしている保険医療機関は,毎年7月1日現在で届出書の報告が必要である。また, 健康増進法に基づく特定給食施設である場合は,都道府県,保健所を設置する市ある いは特別区に対して,月報などにより給食施設の状況を報告する必要がある。 ③ 入院時食事療養費の標準負 担額 入院時食事療養費の費用負担は,厚生労働 大臣が定めた標準負担額(表Ⅰ︲1︲2)が患者負担で, 残りが保険者より給付される。なお特別メニューの 食事の提供を受けた場合の費用は患者負担となる。 ④ 入院時食事療養の加算内訳 入院時食事療 養費(Ⅰ)に伴う各種加算を食事療養の提供により 算定できる(加算の内訳は,資料,p.245を参照)。 2 ) 基本診療料 ① 栄養管理体制の確保 2012年の改定で栄養管理実施加算が廃止され,入院基 本料および特定入院料の要件に栄養管理体制の確保の項目で包括された。しかし2014 年の一部改定で有床診療所では包括化を見直し栄養管理実施加算が再度設けられた。 ② 管理栄養士がかかわる医療チームでの加算 保険医療機関で管理栄養士が所 定の条件をクリアしてチームの一員として活動した場合,栄養サポートチーム加算, 摂食障害入院医療管理加算,糖尿病透析予防指導管理料や2020年4月より新設された 連携充実加算,早期栄養介入管理加算,栄養情報提供加算が算定可能となった(資料, p.244,.245参照)。 3 ) 医学管理等 栄養食事指導料 屋内禁煙の当該保険医療機関において,医師の指示に基づき管 理栄養士が厚生大臣の定める対象患者に栄養食事指導を行った場合,所定の点数を算 社会的な支援が必要である状態。 予防給付のサービス 要支援2 要介護1 部分的ではあるが,介護を必要とする状態。 介護給付のサービス 要介護2 軽度の介護を必要とする状態。 要介護3 中等度の介護を必要とする状態。 要介護4 重度の介護を必要とする状態。 要介護5 最重度の介護を必要とする状態。 表Ⅰ︲ 1 ︲ 2 入院時食事療養費の標準負担額(1食につき) 一 般 460円 低所得者(住民税非課税世帯など) 入院90日目まで 入院90日目以降 (過去1年間の入院日数) 210円 160円 低所得者世帯の老齢福祉年金受給権者 100円 . (2018年4月)
第1章 臨床栄養の概念 定できる(資料,p.244参照)。2020年4月の診療報酬改定では,特別食の一部とがん患 者,摂食機能もしくは嚥下機能が低下した患者または低栄養状態にある患者が追加さ れ,点数も見直された。 4 ) 在 宅 医 療 医療制度でも在宅栄養支援の一環として,従来から設けられている在宅患者訪問栄 養食事指導料に加え,2014年4月の診療報酬改定により在宅患者訪問褥瘡管理指導料 (資料,p.244参照)が新設された。 ( 2 ) 介護報酬における管理栄養士にかかわる算定・加算 介護保険制度でも栄養管理が重視され,管理栄養士・栄養士の職能にかかわる介護 報酬の加算が設定されている(表Ⅰ︲1︲3)。 なお,2018年の改定では,管理栄養士以外の介護職員等でも実施可能な栄養スク リーニングを行うことを評価する「栄養スクリーニング加算」,多職種連携による「低 栄養リスク改善加算」も新設されている。 居宅療養管理指導費 医師の食事箋に基づく特別食を必要とするか,医師が低栄 養状態であると判断した利用者に対して,管理栄養士が居宅または居住系施設等を訪 問し,栄養管理に関する情報提供・栄養食事相談・助言(1回30分以上)を行った場 合に,月2回を限度に算定する。 表Ⅰ︲ 1 ︲ 3 介護保険制度における管理栄養士がかかわる主な加算(2018年4月) 加算の種類 単位数 概 要 栄養マネジメント加算 14単位/日 ・.低栄養状態の入所者個別の栄養ケア計画の作成と栄養管理,栄養状 態の定期的な記録・評価と見直し。 ・.常勤管理栄養士は,同一敷地内の他の介護保険施設との兼務も認め るられる。 栄養改善加算 150単位/回 ・.低栄養状態またはそのおそれのある利用者に対する,心身の状態の 維持・向上に資する栄養食事相談等の栄養管理。 ・.当該事業所の職員または他の介護事業所・医療機関・栄養ケアステー ションとの連携による管理栄養士1名以上の配置。 経口移行加算 28単位/日 ・.経口移行計画に従い,医師の指示を受けた管理栄養士・栄養士による栄養管理および言語聴覚士・看護職員による支援。 経口維持加算(Ⅰ) (Ⅱ) 400単位/月 100単位/月 ・.摂食機能障害や誤嚥を有する入所者に対して医師・歯科医師の指示 に基づき,多職種が共同して経口維持計画を作成し,医師・歯科医 師の指示に基づき管理栄養士等が栄養管理を行う。 療養食加算 8単位/回 6単位/回 ・.主治医が発行した食事箋に基づき,管理栄養士・栄養士の管理のもと, 療養食(糖尿病食,腎臓病食,肝臓病食,胃潰瘍食,貧血食,膵臓 病食,脂質異常症食,痛風食)を提供する。 ・1日3食を限度とし,1食を1回として1回単位で算定。 再入院時栄養連携加算 【平成30年改定にて新設】400単位/回 ・.入所者が医療機関に入院し,施設入所時とは異なる栄養管理が必要 となった場合,介護保険施設の管理栄養士が医療機関での栄養食事 指導に同席し栄養ケア計画の原案を作成して,当該介護保険施設へ 再入所した場合。