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数学教育学会誌 2017/Vol.58/No.1 2 Regular Paper フランスの数学教育とバカロレア - 経済 社会系分野における数学の視点から - * 森園子 概要 : 現在, 我が国の大学生の数学学力は低下傾向にあり, さまざまな問題を抱えている この傾向 は, 私立大学文系学部に特

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数学教育学会誌 2017/Vol.58/No.1・2 Regular Paper

フランスの数学教育とバカロレア

-経済・社会系分野における数学の視点から- 森 園子* 1

フランスの数学教育とバカロレア

-経済・社会系分野における数学の視点から-

森 園子

* 概要:現在,我が国の大学生の数学学力は低下傾向にあり,さまざまな問題を抱えている。この傾向 は,私立大学文系学部に特に著しい。このような問題の背景には,①入試における数学の取り扱 い,②高校の履修内容で,必修は数学Ⅰまたは数学基礎のみであり,数学Ⅱ以降の内容が不徹底 となりがちな傾向がある事などが,その要因として挙げられる。また,経済・社会系学部で必要 とされる数学の内容と,入試に課される数学の内容・範疇において齟齬が見られる事も,新に浮 かび上がってきている。本稿では,上記の観点からフランスの数学教育について訪問調査した結 果を述べ,振り返って我が国の数学教育を考えるものである。 検索語:バカロレア,リセ,コレージュ,数学教育,経済・社会分野

Abstract:Recently, mathematics scholastic ability of Japanese students of university has been declining and it causes various problems. The reasons caused the current situation are largely considered as ①the current Math classes in high schools, ②a positioning of math at entrance exams. That is, the required subject is only math I or the math basics, subjects after mathematics II are optional, so, student does not learn mathematics enough. In addition, it might be pointed out that there is competency variance between universities and high schools, which means variance between math skill required at the economic/business faculties and its contents they learned in high schools.

In this paper, We report investigation results about math education in France, from these points and consider mathematics education in Japan.

Keyword:Baccalauréat,Lycée,Collège,coeffiient,Mathematics Education,Faculty of Economics 1 はじめに 変容する社会,雇用形態のなかで大学改革が進 んでいる.そこで共通に求められるのは,ソフト スキル・ジェネリックスキルといった産学を共同 とした社会性を育む基礎力,さらにはグローバル 化に伴う語学力である[1].翻って,我が国では学 部学生,特に文系・社会系学部の学生の数理的能 力の低下が各所で指摘されるところである[2]-[4]. この数学力低下の傾向は,私立大学文系学部では さらに厳しい[5]- [7]。このような現状の要因として は,数学は受験科目に含まれないという我が国の 大学入試制度が挙げられる。我が国の大学入試で, 数学は受験科目に含まれない場合が多く,たとえ 含まれる場合でも,数学Ⅰと数学A のみであり, しかも選択科目となっているため,多くの学生は 数学を受験せずに入学してくるといった現状が ある。私立文系大学においては,経営上の問題か ら,特にこの傾向が強い。さらに,高等学校にお ける数学履修においても,数学基礎または数学Ⅰ 以外は選択教科であるため,大学入試の受験科目 からはずれた場合,実際の授業における教育やそ の習熟度には,疑問符が付けられる。しかしなが ら,大学の文系(経済・ビジネス)学部における学生 の学力低下の問題は,このような入試制度上の問 題のみでは無いように思われる。大学の経済・ビ ジネス学部で必要とされる数学的な内容を調査・ 研究した結果,文系学部の試験範囲である数学 *Sonoko MORI 拓殖大学政経学部 - 1 -

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2 Ⅰ・A というくくりと大幅にずれているという事 も大きな要因として挙げられるのである[6]- [9] 。実 際に,経済・ビジネス系・社会系学部に進むと, 非常に多くの数学的リテラシーが必要とされる ため,現在,日本の大学(特に私立大学経済・社会 系学部)では,深刻な問題が起きている。 海外の大学入試制度,数学教育の内容や取り扱 い,現状はどうなのであろうか? 本稿では,フ ランスの教育制度及び現状について,2016 年2 月,フランスの国民教育省,ストラスブール市庁, ストラスブール大学,マルグリッド・ユルスナー ルリセ・コラージュ等を訪問調査した結果を報 告・考察すると共に,翻って我が国の数学教育を 考えるものである。上述の我が国の現状を振り返 り,海外調査の目的として,本稿では,特に以下 の3点に焦点を当てる。 ①大学入試制度 ②大学入試における数学の位置付けと取り扱い ③高校における数学履修内容 2 フランスの学校制度とバカロレア フランスの教育は,日本と同様,中央集権制で あり,教育制度及びプログラムは統一されている。 プログラムは,およそ10 年毎に改訂される。本 章では,フランスの教育制度と高校終了時に実施 されるバカロレア(Baccalauréat 全国共通統一試 験)について調査した結果を述べる。 2-1 フランスの教育制度 初めに,フランスの教育制度について概略を述 べよう。フランスの教育制度[10]を,日本との比較 から述べると表1のようである。 フランスの義務教育は6歳から始まり,16 歳ま での10 年間である。表1より,日仏間で,学年に 多少の相違はあるが, 表1 初 等 教 育 : エ コ ー ル エ レ モ ン テ ー ル(École élémentaire,5 年間),日本の小学校に相当。 前期中等教育:コレージュ(Collège,4 年間),日 本の中学校に相当。 後期中等教育:リセ(Lycée,3 年間),日本の高 校に相当すると言ってよいであろう。リセのセ コンド(2de)までが義務教育となる。従って,日本 のような高校入試は存在しない。このセコンド時 に,以下のような(1)中等教育前期修了試験

DNB(Diplôme National du Brevet)と,(2)進路選

択が行われ,生徒達は,各々のコース(series)に振

り分けられていくことになる。 (1) DNB(Diplôme National du Brevet)

中 等 教 育 前 期 修 了 時 に ,DNB(Diplôme

National du Brevet)を受験して中等教育前期修

年齢 日本

初等教育 6~7 小学校1年 CP(11ème) Ecole élémentaire

7~8 小学校2年 CE1(10 ème) 8~9 小学校3年 CE2(9ème) 9~10 小学校4年 CM1(8ème) 10~11 小学校5年 CM2(7ème)

中等教育前期 11~12 小学校6年 6ème (6ème) Collège 12~13 中学校1年 5ème(5ème) 13~14 中学校2年 4ème(4ème) 14~15 中学校3年 3ème(3ème) 中等教育後期 15~16 高校1年 Seconde(2de) Lycée 16~17 高校2年 Première(1re) 17~18 高校3年 Terminale(Term or Tle) 高等教育 18~19 大学 Université 日本・フランスの教育制度比較 フランス

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了証明書を取得する。DNB には,2つのコース

(series),即ち,一般コース(la series generale)と

職業コース(la series professionnel)が用意されて

いる。フランスでは小学校から飛び級や落第があ るので,同じ年齢の生徒が学んでいるとは限らな い。受験する生徒の年齢は14 歳~16 歳であるが, 16 歳で受験するのは非常に稀であると言う。 2016 年受験者数は,838 ,554 人であり,内一般 コースが757, 446 人,職業コースが 81, 108 人で ある。2015 年においては,DNB 試験の登録者は 836, 176 人であり、実際に受験したのは 817, 089 人。合格者は 705, 596 人なので合格率は 86 %ほ どである[11]。例年,合格率は約 85%であって 100%ではないが,合格しなくても義務ではない ので進級できる。結果として,殆どの生徒が16 歳 で義務教育を修了し,リセ・Première(1ere)に進 学する。 (2)リセ(Lycée)におけるコース選択 リセには,以下の3つの種類がある。 ①リセ・ジェネラル(Lycée general) 普通科高校 ②リセ・テクノロジック(Lycée technologieque) 工業高校 ③リセ・プロフェッショネル(Lycée professionnel) 職業高校 進学する割合としては,普通科高校は例年約 50%であり,この普通科高校卒業者が全国統一共 通試験であるバカロレア(Baccalauréat)[注1]を受 験して,大学に進学することになる。工業高校は 約20~25%で減少傾向にあり,職業高校 (約 25% ~31%)は増加傾向にある。2015 年時の数値を挙 げると,リセ・ジェネラル:51.2%,リセ・テク ノロジック:20.2%,リセ・プロフェッショネル: 28.5%である[12]。時に,職業高校の方が工業高校 よりレベルが高かったりする場合もあるが,職業 高校は,とかく吹き溜まりになり易いので注意し ているとのことであった。リセの種類を選択・決 定することについては,教員が保護者・生徒とオ リエンテーション(進路指導)等を開いて決定する と言う。 普通科高校にバカロレア(全国統一高校修了資 格取得試験)が用意されていると述べたが,表2に 示すように,実は,高校の種類に併せてバカロレ アは用意されている。普通バカロレア(Bac general),技術バカロレア(Bac technologieque), 職業バカロレア(Bac professionnel)である。1985 年,フランス国民教育省は,バカロレア取得率を 2000 年までに当該年齢層の 80%まで引き上げる 方針を打ち出し,その後,技術バカロレア及び職 業バカロレアが敷設された。技術バカロレア及び 職業バカロレアでも大学に進学できるが,もとも との教育内容が異なっているため,特に職業バカ ロレアの場合は滞留率が高く,いろいろな意味で 大学での就学が困難な現状があるという。 2-2 普通科高校の3つのコースと,バカロレア[注 2] 第1章に述べた,大学入試制度の観点から,本 節では,普通科高校に焦点を当てよう。普通科高 校(Lycee general) に お い て は , 科 学 系 (scientifique,S),経済・社会系(économique et sociale,ES),人文系(littéraire,L)の 3 つの系 (série)が用意されていて,2 年次(premiere,1era) に進級するときに決定する。ES や L を選ぶと, 理系の学部には進めないが,S を選んでおけば, どの学部にも行けるのでつぶしが利くという意 味で,S を選ぶ生徒も多い(50~60%)という。一 般に,優秀な生徒がS に集まる傾向がある。 高校(Lycée)での学習内容に関しては,その修了 証書とも言える全国統一共通試験(バカロレア)を 受験する。大学の入試は,このバカロレアで決め るので,日本におけるような所謂,大学入試は無 い。バカロレアの目的は高校卒業資格の証明であ るが,ナポレオンの時代からあるという古い制度 なので,親にとっても馴染深いということであっ た。バカロレアは,口語では略してBAC(バック) と呼ばれ,毎年6月に実施される。バカロレア試 験の種類及び,2016 年度における受験者数と合 格率を示すと,表2のようである。 表2 2 Ⅰ・A というくくりと大幅にずれているという事 も大きな要因として挙げられるのである[6]- [9] 。実 際に,経済・ビジネス系・社会系学部に進むと, 非常に多くの数学的リテラシーが必要とされる ため,現在,日本の大学(特に私立大学経済・社会 系学部)では,深刻な問題が起きている。 海外の大学入試制度,数学教育の内容や取り扱 い,現状はどうなのであろうか? 本稿では,フ ランスの教育制度及び現状について,2016 年2 月,フランスの国民教育省,ストラスブール市庁, ストラスブール大学,マルグリッド・ユルスナー ルリセ・コラージュ等を訪問調査した結果を報 告・考察すると共に,翻って我が国の数学教育を 考えるものである。上述の我が国の現状を振り返 り,海外調査の目的として,本稿では,特に以下 の3点に焦点を当てる。 ①大学入試制度 ②大学入試における数学の位置付けと取り扱い ③高校における数学履修内容 2 フランスの学校制度とバカロレア フランスの教育は,日本と同様,中央集権制で あり,教育制度及びプログラムは統一されている。 プログラムは,およそ10 年毎に改訂される。本 章では,フランスの教育制度と高校終了時に実施 されるバカロレア(Baccalauréat 全国共通統一試 験)について調査した結果を述べる。 2-1 フランスの教育制度 初めに,フランスの教育制度について概略を述 べよう。フランスの教育制度[10]を,日本との比較 から述べると表1のようである。 フランスの義務教育は6歳から始まり,16 歳ま での10 年間である。表1より,日仏間で,学年に 多少の相違はあるが, 表1 初 等 教 育 : エ コ ー ル エ レ モ ン テ ー ル(École élémentaire,5 年間),日本の小学校に相当。 前期中等教育:コレージュ(Collège,4 年間),日 本の中学校に相当。 後期中等教育:リセ(Lycée,3 年間),日本の高 校に相当すると言ってよいであろう。リセのセ コンド(2de)までが義務教育となる。従って,日本 のような高校入試は存在しない。このセコンド時 に,以下のような(1)中等教育前期修了試験

DNB(Diplôme National du Brevet)と,(2)進路選

択が行われ,生徒達は,各々のコース(series)に振

り分けられていくことになる。 (1) DNB(Diplôme National du Brevet)

中 等 教 育 前 期 修 了 時 に ,DNB(Diplôme

National du Brevet)を受験して中等教育前期修

年齢 日本

初等教育 6~7 小学校1年 CP(11ème) Ecole élémentaire

7~8 小学校2年 CE1(10 ème) 8~9 小学校3年 CE2(9ème) 9~10 小学校4年 CM1(8ème) 10~11 小学校5年 CM2(7ème)

中等教育前期 11~12 小学校6年 6ème (6ème) Collège 12~13 中学校1年 5ème(5ème) 13~14 中学校2年 4ème(4ème) 14~15 中学校3年 3ème(3ème) 中等教育後期 15~16 高校1年 Seconde(2de) Lycée 16~17 高校2年 Première(1re) 17~18 高校3年 Terminale(Term or Tle) 高等教育 18~19 大学 Université 日本・フランスの教育制度比較 フランス - 3 -

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http://www.education.gouv.fr/cid56455/le-baccalaureat-2016-session-de-juin.html より作成 [注 2] 2016 年の受験者数は,フランス全体で 695,682 名(フランス教育省)。内,普通バカロレア(BAC general)受験者が 362,634 名(52.1%),技術バカロ レア(BAC technologique)受験者:137,119 名 (19.7%) , 職 業 バ カ ロ レ ア 受 験 者 (BAC professional): 195,929 名(28.2%)である。 前述のように,高校の系はS,ES,L の3つの 系に分かれているが,表2から分かるように,普 通バカロレアは,この系(Série)に沿う形で,さら に BAC・S,BAC・ES,BAC・L に分かれている。 経済・社会系は,BAC・ES に分類される。普通バ カロレア受験者の内,BAC・S 受験者は 190734 名(53%)であり,BAC・ES 受験者数 109267 名 (30%),BAC・L 受験者数:62633 名(17%)である。 この数字からもBAC・S の人気が高いことがわか る。 2-3 バカロレアの合格率と推移 2016 年 6 月バカロレア全体の合格率は 88.5% で2015 年の 87.8%よりわずかに向上したとフラ ンス教育省はホームページ上[12]で発表している が,その推移をグラフで表すと図1のようである。 図1バカロレア合格率の推移 http://www.education.gouv.fr/cid56455/le-baccalaureat-2016-session-de-juin.html 図1より,普通バカロレア,技術バカロレア, 職業バカロレアのいずれにおいても,多少の変動 があるものの,年々増加傾向にあり,1995 年には 約 75%であった合格率(全体)は,2016 年には 88.5%まで増加していることが分かる。2016 年に おける分野別合格率は,普通バカロレア(91.4%), 受験者数 バカロレア合格率 S(Science) BAC・S Lycee general(50%) BAC general ES(Economics) BAC・ES L(Literature) BAC・L STL Lycee technologieque(20%)↓ BAC technologiequeSTi2D STMG Lycee professionnel(30%)↑ BAC professionnel 195929(28.2%) 82.2% 合計 695682(100%) (全体)88.5% 高校(Lycee) 362634(52.1%) 137119(19.7%) 91.4% 90.7% バカロレア受験 Lycee 3 了証明書を取得する。DNB には,2つのコース

(series),即ち,一般コース(la series generale)と

職業コース(la series professionnel)が用意されて

いる。フランスでは小学校から飛び級や落第があ るので,同じ年齢の生徒が学んでいるとは限らな い。受験する生徒の年齢は14 歳~16 歳であるが, 16 歳で受験するのは非常に稀であると言う。 2016 年受験者数は,838 ,554 人であり,内一般 コースが757, 446 人,職業コースが 81, 108 人で ある。2015 年においては,DNB 試験の登録者は 836, 176 人であり、実際に受験したのは 817, 089 人。合格者は 705, 596 人なので合格率は 86 %ほ どである[11]。例年,合格率は約 85%であって 100%ではないが,合格しなくても義務ではない ので進級できる。結果として,殆どの生徒が16 歳 で義務教育を修了し,リセ・Première(1ere)に進 学する。 (2)リセ(Lycée)におけるコース選択 リセには,以下の3つの種類がある。 ①リセ・ジェネラル(Lycée general) 普通科高校 ②リセ・テクノロジック(Lycée technologieque) 工業高校 ③リセ・プロフェッショネル(Lycée professionnel) 職業高校 進学する割合としては,普通科高校は例年約 50%であり,この普通科高校卒業者が全国統一共 通試験であるバカロレア(Baccalauréat)[注1]を受 験して,大学に進学することになる。工業高校は 約20~25%で減少傾向にあり,職業高校 (約 25% ~31%)は増加傾向にある。2015 年時の数値を挙 げると,リセ・ジェネラル:51.2%,リセ・テク ノロジック:20.2%,リセ・プロフェッショネル: 28.5%である[12]。時に,職業高校の方が工業高校 よりレベルが高かったりする場合もあるが,職業 高校は,とかく吹き溜まりになり易いので注意し ているとのことであった。リセの種類を選択・決 定することについては,教員が保護者・生徒とオ リエンテーション(進路指導)等を開いて決定する と言う。 普通科高校にバカロレア(全国統一高校修了資 格取得試験)が用意されていると述べたが,表2に 示すように,実は,高校の種類に併せてバカロレ アは用意されている。普通バカロレア(Bac general),技術バカロレア(Bac technologieque), 職業バカロレア(Bac professionnel)である。1985 年,フランス国民教育省は,バカロレア取得率を 2000 年までに当該年齢層の 80%まで引き上げる 方針を打ち出し,その後,技術バカロレア及び職 業バカロレアが敷設された。技術バカロレア及び 職業バカロレアでも大学に進学できるが,もとも との教育内容が異なっているため,特に職業バカ ロレアの場合は滞留率が高く,いろいろな意味で 大学での就学が困難な現状があるという。 2-2 普通科高校の3つのコースと,バカロレア[注 2] 第1章に述べた,大学入試制度の観点から,本 節では,普通科高校に焦点を当てよう。普通科高 校(Lycee general) に お い て は , 科 学 系 (scientifique,S),経済・社会系(économique et sociale,ES),人文系(littéraire,L)の 3 つの系 (série)が用意されていて,2 年次(premiere,1era) に進級するときに決定する。ES や L を選ぶと, 理系の学部には進めないが,S を選んでおけば, どの学部にも行けるのでつぶしが利くという意 味で,S を選ぶ生徒も多い(50~60%)という。一 般に,優秀な生徒がS に集まる傾向がある。 高校(Lycée)での学習内容に関しては,その修了 証書とも言える全国統一共通試験(バカロレア)を 受験する。大学の入試は,このバカロレアで決め るので,日本におけるような所謂,大学入試は無 い。バカロレアの目的は高校卒業資格の証明であ るが,ナポレオンの時代からあるという古い制度 なので,親にとっても馴染深いということであっ た。バカロレアは,口語では略してBAC(バック) と呼ばれ,毎年6月に実施される。バカロレア試 験の種類及び,2016 年度における受験者数と合 格率を示すと,表2のようである。 表2

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5

技術バカロレア(90.7%),職業バカロレア(82.2%)

であるが,ここ数年,おおよそこの位の値で推移 し,ほぼ飽和状態に達していると思われる。バカ ロレアの合格率は,毎年,高校のランキング (palmarès des lycées)として公表され [13],教員の 指導力が問われるので,教員が生徒のお尻を叩き 過ぎる傾向があるという。一般に日本のような塾 は非常に少なく,大学生等が家庭教師をする場合 が多い。つまり,フランスでは受験産業が成り立 ちにくい傾向がある。ここで注意することは,バ カロレア合格率が100%ではないことである。問 題は,このバカロレアに不合格となった生徒であ るが,技術バカロレアや職業バカロレアに変更し ても合格する訳ではないので,社会的な問題とな るということであった。 職業バカロレアは,各種事務,製造業,サービ ス業,建設業等,各職業分野について必要な職業 資格に繋げるもので,多種多様であるが本稿では 触れない。参考として,技術バカロレアの種類を 挙げておく(表3)。 表3 技術バカロレアの種類 3 バカロレアにおける数学の位置付け 第2章で述べたように,大学の進学は,バカロ レアの成績によって決められ,この成績は一生つ いてまわるという。そのため,バカロレアは大学 制度の一部であるばかりでなく,社会制度の一部 であるとも言われてきた[14]。試験内容は,コース (S,ES,L)における全教科の学習内容の試験を行 うようなものであり,フランス独特とも言える哲 学の論述試験があったり,試験時間も長く,非常 に特徴のある試験である。中等教育修了の認定と 大学入学許可という2つの機能を有するが,修了 の認定と言った側面が強く日本のような大学入 試として篩にかけるというより,人間として社会 に生きる素養・資格を問うといった側面が強く感 じられる試験である。 この普通バカロレア(Bac general)における,各 教科の採点・評価方法はどのようなものであろう か?数学はどのように位置付けられているので あろうか?ここでは,第1章に述べた観点から, その位置付けを探ってみよう。バカロレアは,評 価得点方法としては各教科20 点で,各教科に重 み付け(coeffiient)処理がなされる。トータル平均 が50%以上であれば合格である。不合格でも,8 点以上であれば追試験を受けることができると いう。8点に満たない場合でも,最大5年は再受 験が可能。また,過去に高得点を取得した科目は その点数を残し,再受験を免除される。BAC・S, BAC・ES,BAC・L における試験科目と,各科目 の得点にかけられる重み付け係数を示すと,表4, 表5のようである。 名 称 略 称 内 容

Baccalaur é at sciences et technologies

de l'industrie et du développement (STI2D) 技術・開発 Baccalaur é at sciences et technologies

du design et des arts appliqués (STD2A) 設計・応用化学 Baccalaur é at sciences et technologies

de laboratoire (STL ) 科学技術

Baccalaur é at sciences et technologies

de la santé et du social (ST2S) 保健・ソーシ ャルワーク Baccalaur é at sciences et technologies

du management et de la gestion (STMG ) 経営管理 Baccalaur é at sciences et technologies

de l'agronomie et du vivant (STAV) 農学・生活

Baccalauréat hôtellerie ホスピタリティ

Baccalaur é at techniques de la musique

et de la danse (TMD) 音楽・舞踊 技術バカロレア 4 http://www.education.gouv.fr/cid56455/le-baccalaureat-2016-session-de-juin.html より作成 [注 2] 2016 年の受験者数は,フランス全体で 695,682 名(フランス教育省)。内,普通バカロレア(BAC general)受験者が 362,634 名(52.1%),技術バカロ レア(BAC technologique)受験者:137,119 名 (19.7%) , 職 業 バ カ ロ レ ア 受 験 者 (BAC professional): 195,929 名(28.2%)である。 前述のように,高校の系はS,ES,L の3つの 系に分かれているが,表2から分かるように,普 通バカロレアは,この系(Série)に沿う形で,さら に BAC・S,BAC・ES,BAC・L に分かれている。 経済・社会系は,BAC・ES に分類される。普通バ カロレア受験者の内,BAC・S 受験者は 190734 名(53%)であり,BAC・ES 受験者数 109267 名 (30%),BAC・L 受験者数:62633 名(17%)である。 この数字からもBAC・S の人気が高いことがわか る。 2-3 バカロレアの合格率と推移 2016 年 6 月バカロレア全体の合格率は 88.5% で2015 年の 87.8%よりわずかに向上したとフラ ンス教育省はホームページ上[12]で発表している が,その推移をグラフで表すと図1のようである。 図1バカロレア合格率の推移 http://www.education.gouv.fr/cid56455/le-baccalaureat-2016-session-de-juin.html 図1より,普通バカロレア,技術バカロレア, 職業バカロレアのいずれにおいても,多少の変動 があるものの,年々増加傾向にあり,1995 年には 約 75%であった合格率(全体)は,2016 年には 88.5%まで増加していることが分かる。2016 年に おける分野別合格率は,普通バカロレア(91.4%), 受験者数 バカロレア合格率 S(Science) BAC・S Lycee general(50%) BAC general ES(Economics) BAC・ES L(Literature) BAC・L STL Lycee technologieque(20%)↓ BAC technologiequeSTi2D STMG Lycee professionnel(30%)↑ BAC professionnel 195929(28.2%) 82.2% 合計 695682(100%) (全体)88.5% 高校(Lycee) 362634(52.1%) 137119(19.7%) 91.4% 90.7% バカロレア受験 Lycee 3 了証明書を取得する。DNB には,2つのコース

(series),即ち,一般コース(la series generale)と

職業コース(la series professionnel)が用意されて

いる。フランスでは小学校から飛び級や落第があ るので,同じ年齢の生徒が学んでいるとは限らな い。受験する生徒の年齢は14 歳~16 歳であるが, 16 歳で受験するのは非常に稀であると言う。 2016 年受験者数は,838 ,554 人であり,内一般 コースが757, 446 人,職業コースが 81, 108 人で ある。2015 年においては,DNB 試験の登録者は 836, 176 人であり、実際に受験したのは 817, 089 人。合格者は 705, 596 人なので合格率は 86 %ほ どである[11]。例年,合格率は約 85%であって 100%ではないが,合格しなくても義務ではない ので進級できる。結果として,殆どの生徒が16 歳 で義務教育を修了し,リセ・Première(1ere)に進 学する。 (2)リセ(Lycée)におけるコース選択 リセには,以下の3つの種類がある。 ①リセ・ジェネラル(Lycée general) 普通科高校 ②リセ・テクノロジック(Lycée technologieque) 工業高校 ③リセ・プロフェッショネル(Lycée professionnel) 職業高校 進学する割合としては,普通科高校は例年約 50%であり,この普通科高校卒業者が全国統一共 通試験であるバカロレア(Baccalauréat)[注1]を受 験して,大学に進学することになる。工業高校は 約20~25%で減少傾向にあり,職業高校 (約 25% ~31%)は増加傾向にある。2015 年時の数値を挙 げると,リセ・ジェネラル:51.2%,リセ・テク ノロジック:20.2%,リセ・プロフェッショネル: 28.5%である[12]。時に,職業高校の方が工業高校 よりレベルが高かったりする場合もあるが,職業 高校は,とかく吹き溜まりになり易いので注意し ているとのことであった。リセの種類を選択・決 定することについては,教員が保護者・生徒とオ リエンテーション(進路指導)等を開いて決定する と言う。 普通科高校にバカロレア(全国統一高校修了資 格取得試験)が用意されていると述べたが,表2に 示すように,実は,高校の種類に併せてバカロレ アは用意されている。普通バカロレア(Bac general),技術バカロレア(Bac technologieque), 職業バカロレア(Bac professionnel)である。1985 年,フランス国民教育省は,バカロレア取得率を 2000 年までに当該年齢層の 80%まで引き上げる 方針を打ち出し,その後,技術バカロレア及び職 業バカロレアが敷設された。技術バカロレア及び 職業バカロレアでも大学に進学できるが,もとも との教育内容が異なっているため,特に職業バカ ロレアの場合は滞留率が高く,いろいろな意味で 大学での就学が困難な現状があるという。 2-2 普通科高校の3つのコースと,バカロレア[注 2] 第1章に述べた,大学入試制度の観点から,本 節では,普通科高校に焦点を当てよう。普通科高 校(Lycee general) に お い て は , 科 学 系 (scientifique,S),経済・社会系(économique et sociale,ES),人文系(littéraire,L)の 3 つの系 (série)が用意されていて,2 年次(premiere,1era) に進級するときに決定する。ES や L を選ぶと, 理系の学部には進めないが,S を選んでおけば, どの学部にも行けるのでつぶしが利くという意 味で,S を選ぶ生徒も多い(50~60%)という。一 般に,優秀な生徒がS に集まる傾向がある。 高校(Lycée)での学習内容に関しては,その修了 証書とも言える全国統一共通試験(バカロレア)を 受験する。大学の入試は,このバカロレアで決め るので,日本におけるような所謂,大学入試は無 い。バカロレアの目的は高校卒業資格の証明であ るが,ナポレオンの時代からあるという古い制度 なので,親にとっても馴染深いということであっ た。バカロレアは,口語では略してBAC(バック) と呼ばれ,毎年6月に実施される。バカロレア試 験の種類及び,2016 年度における受験者数と合 格率を示すと,表2のようである。 表2 - 5 -

(6)

6 表4 BAC・S の試験科目と係数(フランス国民教育省)[14] 表5 BAC・ES,BAC・L の試験科目と係数(フランス国民教育省) 科目 係数 必修・初期 1. フランス語 2 1ereで受験 2. フランス語 2 TPE(監督個人の仕事) 2 (1) 必修・最終 3. 歴史と地理 3 Termで受験 4. 数学 7または9 ( 2) 5. 物理化学 6または8 ( 2) 6. 生命科学と地球 6または8 ( 2) 6.または生態学、農学と地域 * * 7または9 ( 2) または6 理工 6または8 *** 7. 外国語1 3 8. 外国語2 2 9. 哲学 3 10. スポーツと体育 2 専門・選択 11. 数学  統合テスト4 Termで受験 または理化学  統合テスト・5号 または生命科学と地球  統合テスト・6号生命科学と地球 または  コンピュータとデジタルサイエンス  2 または生態学、農学や地域 ** 2 体育とスポーツサプリメント (5) 2 オプション 外国語3(外来または地域) Termで受験 フランス手話 言語と古代文化:ラテン 古代の言語や文化:ギリシャ 体育とスポーツ 芸術  音楽 Hippologieと乗馬 ** 社会・文化的慣習 ** バカロレア S 科目 係数 科目 係数 必修・初期 1. フランス語 2 1. フランス語、文学 3 1ereで受験 2. フランス語 2 2. フランス語、文学 2 3. 科学 2 3. 科学 2 TPE(監督個人の仕事) 2 (1) TPE(監督個人の仕事) 2 (1) 必修・最終 4. 歴史と地理 5 4. 文学 4 Termで受験 5. 数学 5または5 + 2 (2) 5. 歴史と地理 4 6. 社会経済学 7または2 + 7 (2) 6. 外国語1 4または4 + 4 (2) 7. 外国語1 3 7. 外国語2 4または4 + 4 (2) 8. 外国語2 2 8. 外国文学の外国語 1 9. 哲学 4 9. 哲学 7 10. スポーツと体育 2 10. スポーツと体育 2 専門・選択 徹底した経済 2 言語と古代文化:ラテン 4 Termで受験 または数学 2 または言語と古代文化:ギリシャ 4 または社会政治学  2 または外国語1または2の深さ 4 テストのもう一つのタイプ または外国語3 4 体育とスポーツサプリメント(4) 2 または数学 4 または権利と現代世界の主要な問題 4 またはビジュアルアーツ 3 + 3 またはシネマ視聴覚 3 + 3 あるいは美術史 3 + 3 または音楽 3 + 3 または劇場 3 + 3 またはダンス 3 + 3 またはサーカス芸術 * 3 + 3 テストのもう一つのタイプ 体育・スポーツサプリメント (3) 2 オプション 3外国語(外来または地域) 外国語3(外来または地域) Termで受験 フランス手話 フランス手話 言語と古代文化:ラテン 言語と古代文化:ラテン 古代の言語や文化:ギリシャ 古代の言語や文化:ギリシャ 体育とスポーツ 体育とスポーツ 芸術  芸術 音楽 音楽 バカロレアES バカロレアL

(7)

7 表4,表5で,必修・初期とあるのは,高校2 年生(1 ere)で実施される試験である。バカロレア のフランス語の試験は,高校2年生(1 ere)で行な われる。他教科の試験は高校3年(Terminal,おお よそ18 歳)の6月に実施される。 表4からわかるように,BAC・S における数学 の重み付け係数(coeffiient)は 7~9 であり,フラン ス語(2)及び歴史・地理(3)に比して,非常に高い。 トータル平均が 50%以上であれば合格であるか ら,苦手科目があっても,他の教科で補うことが できるが,数学の場合は,係数が高いので他教科 で補う事が難しい。理系学部であっても,入試で 数学が課されていない大学もある,最近の我が国 の現状と比較して,大きな相違を感じる。 BAC・ES の場合,歴史・地理は係数が 5 とな り,歴史や地理を重視する傾向がBAC・S より高 くなる。数学はBAC・S と同様必修であり,係数 はS よりは低いが,5~7 とやはり高い。さらに選 択教科としてスペシャリテES[注4]も係数が2とし て含まれている。合計すると7~9 となる訳であ り,BAC・S と同様,無視したり軽視することが できない。 BAC・L においては,数学は選択科目となるの で,数学を軽視または無視することも可能かと思 われる。総じて,BAC・S(科学系),BAC・ES(経 済・社会系)における数学の位置付けは,他教科に 比して非常に高く,必修・重要科目として位置付 けられていると言えよう。BAC・L(人文系)におい ては,この限りでは無く,日本の入試の状態に近 い。さらに,BAC・ES においては,経済学(社会 経済学,徹底した経済学(Économie approfondie)) が含まれている。高校において,経済学を学んで いる訳であり,この事も日本と比較して大きな特 徴であると言えよう。 4 普通科高校における数学教育内容 第2章で述べたように,フランスの教育は中央 集権制であり,小・中・高校のプログラムは統一 されている。10 年ごとに改訂され,検査官(アン スペクタ) [注3]と教員が相談して決めるという。但 し,教科書については,その編集や表現を国がチ ェックすることは無い。授業は,アンスペクタが チェックし指導するが,教科書をどのように用い るかについては,教育の自由という理念があり, 100%教科書と同じ内容でなくとも良いという。 実際,フランスの授業ではプリント学習が主であ り,教員独自のプリントを作成するので,教育方 法は教員に任されていると言っても良いと思わ れる。 高校の数学学習内容としては,図2 に示すよう に高校1年では,共通の内容を学び,1re で S, ES,L のコース(série)毎の内容に分かれる。 Terminal が最終学年である。S série と ES série

には,学習内容として Math 1 ere と Math

T(Terminal)まで学ぶが,LにはMath 1 ere のみ, しかもオプションとして位置付けられているの で,内容的に軽いものになる(図2)。L の履修内容 は,おおよそ日本の数学Ⅰレベルに当たると思わ れる。 図2 4-1 教科書及びプログラム(教育省)に見る,ES,L, S の数学教育内容 リセにおける数学の教育内容を,教科書[15]及び プログラム(教育省)[16]で見てみよう。

(1)1re における ES/L と S の比較(Mathematics 1re ES/L 教科書 Hachette より)

ESとLは教育省の内容項目は同じである。が,

教科書(Hachette)を見ると,Mathematics 1re

ES/L 約 288 ページに対して,Mathematics 1re

S は,360 ページで内容が豊富である[15]。

ES/L と S の内容項目を挙げると,表6のよう である。

日本 高校3年生

フランス Terminal

S(Science) Math 1re Math T ES(Economics) Math 1re Math T

L(Literature) Math 1re

フランスの数学カリキュラム(1re T) 高校2年生 1re 6 表4 BAC・S の試験科目と係数(フランス国民教育省)[14] 表5 BAC・ES,BAC・L の試験科目と係数(フランス国民教育省) 科目 係数 必修・初期 1. フランス語 2 1ereで受験 2. フランス語 2 TPE(監督個人の仕事) 2 (1) 必修・最終 3. 歴史と地理 3 Termで受験 4. 数学 7または9 ( 2) 5. 物理化学 6または8 ( 2) 6. 生命科学と地球 6または8 ( 2) 6.または生態学、農学と地域 * * 7または9 ( 2) または6 理工 6または8 *** 7. 外国語1 3 8. 外国語2 2 9. 哲学 3 10. スポーツと体育 2 専門・選択 11. 数学  統合テスト4 Termで受験 または理化学  統合テスト・5号 または生命科学と地球  統合テスト・6号生命科学と地球 または  コンピュータとデジタルサイエンス  2 または生態学、農学や地域 ** 2 体育とスポーツサプリメント (5) 2 オプション 外国語3(外来または地域) Termで受験 フランス手話 言語と古代文化:ラテン 古代の言語や文化:ギリシャ 体育とスポーツ 芸術  音楽 Hippologieと乗馬 ** 社会・文化的慣習 ** バカロレア S 科目 係数 科目 係数 必修・初期 1. フランス語 2 1. フランス語、文学 3 1ereで受験 2. フランス語 2 2. フランス語、文学 2 3. 科学 2 3. 科学 2 TPE(監督個人の仕事) 2 (1) TPE(監督個人の仕事) 2 (1) 必修・最終 4. 歴史と地理 5 4. 文学 4 Termで受験 5. 数学 5または5 + 2 (2) 5. 歴史と地理 4 6. 社会経済学 7または2 + 7 (2) 6. 外国語1 4または4 + 4 (2) 7. 外国語1 3 7. 外国語2 4または4 + 4 (2) 8. 外国語2 2 8. 外国文学の外国語 1 9. 哲学 4 9. 哲学 7 10. スポーツと体育 2 10. スポーツと体育 2 専門・選択 徹底した経済 2 言語と古代文化:ラテン 4 Termで受験 または数学 2 または言語と古代文化:ギリシャ 4 または社会政治学  2 または外国語1または2の深さ 4 テストのもう一つのタイプ または外国語3 4 体育とスポーツサプリメント(4) 2 または数学 4 または権利と現代世界の主要な問題 4 またはビジュアルアーツ 3 + 3 またはシネマ視聴覚 3 + 3 あるいは美術史 3 + 3 または音楽 3 + 3 または劇場 3 + 3 またはダンス 3 + 3 またはサーカス芸術 * 3 + 3 テストのもう一つのタイプ 体育・スポーツサプリメント (3) 2 オプション 3外国語(外来または地域) 外国語3(外来または地域) Termで受験 フランス手話 フランス手話 言語と古代文化:ラテン 言語と古代文化:ラテン 古代の言語や文化:ギリシャ 古代の言語や文化:ギリシャ 体育とスポーツ 体育とスポーツ 芸術  芸術 音楽 音楽 バカロレアES バカロレアL - 7 -

(8)

8 表6

表6より,Math 1re ES/L と Math 1re S は, [代数と解析]及び,[統計と確率]では,殆ど内容が

同じである。Math 1re ES/L の特徴的なことは,

①[代数と解析]の初めに,パーセンテージ(割合の 取り扱い)の項目が章として含まれていることで ある。Math 1re S には,このパーセントの項目 が無い。さらに,②Math 1re S では,以下のよう な幾何学の項目内容が含まれているが,Math 1re ES/L には無いことが分かる。 Trigonométrie 三角関数 Parallélisme et colinéarité ベクトルの共線 性

Orthoogonalite et produit scalaire 直交とス カラー積 (2) Terminale(最終学年)における ES/L と S の比較 Terminale における ES/L と S の数学の内容項 目を,プログラムDirection générale de l'enseignement scolaire[16](フランス教育省)に見 ると,表7のようである。 表7

■Mathematics 1re ES/L ■Mathematics 1re S

Algebre et analyse 代数と解析 Analyse 解析  Pourcentages パーセンテージ

Fonctions de reference 関係と関数 Fonctions de reference 関係と関数 Second degré 二次関数 Second degré 二次関数

Nomre dérivé et function dérivée 微分係数と導関数 Nomre dérivé et function dérivée 微分係数と導関数 Applications de ala derivation 微分の応用 Applications de la derivation 微分の応用

Suites numériques 数列 Suites numériques 数列

Comportement d'une suite いろいろな数列,漸化式 Comportement d'une suite いろいろな数列,漸化式

Géométrie 幾何

Trigonométrie 三角関数

Parallélisme et colinéarité ベクトルの共線性 Orthoogonalite et produit scalaire 直交とスカラー積

Statistiques et probabilités 統計と確率 Statistiques et probabilités 統計と確率

Statistiques 統計 Statistiques 統計

Variables aleatoires 確率変数 Variables aleatoires 確率変数

Loi binomial 二項分布 Loi binomial et échantillonnage 二項分布と標本調査 Échantillonnage 標本調査

Direction générale de l'enseignement scolaire(フランス教育省)

■Programme des séries ES/L ■Programme de la série S

objectif general 全体的な目標 objectif general 全体的な目標

raisonnement et langage matehmatiques 数学的推論と言語 raisonnement et langage matehmatiques 数学的推論と言語 Utilisation d'outils logiciels ソフトウェアツールを使用して Utilisation d'outils logiciels ソフトウェアツールを使用して Diversite de l'activité de l'élève 学生の活動の多様性 Diversite de l'activité de l'élève 学生の活動の多様性 Organisation du programme プログラムの構成 Organisation du programme プログラムの構成

Géométrie 幾何学

Analyse 解析 Analyse 解析

Probabilités et statistiques 確率と統計 Probabilités et statistiques 確率と統計

Algorithmique アルゴリズム Algorithmique アルゴリズム

Notations et raisonnement mathématiques 表記と数学的推論 Notations et raisonnement mathématiques 表記と数学的推論 Enseignement de spécialité,série ES  ES分野における専門教育 Enseignement de spécialité  S分野における専門教育

(9)

9 表7から分かるように,ES と S の内容項目は 1re と同様,殆ど同じである。唯一異なるのは,S にはGéométrie(幾何学)が含まれ,ES には含まれ ないことである。さらに,ES の Analyse と Probabilités et statistiques に含まれる項目内容 を見ると,以下のようである。 Analyse Suites 数列と級数

Notion de continuité sur un intervalle 関数 の連続性

Fonctions exponentielles 指数関数

Fonction logarithme népérien 自然対数関数 Fonction convexité 逆関数

Intégration 積分

Probabilités et statistiques

Probabilités conditionnelles 条件付確率 Lois de Probabilité à densité 確率密度関数 Intervalle de fluctuation 変動区間 Estimation 統計的推測 さらに,スペシャリテ ES[注4]として行列 (Matrices),グラフ理論(Graphes),グラフと確率 (Graphes Probabilistes)が含まれている。

教科書(Trans math Term ES/L Nathan)

上記の内容から分かるように,ES のターミナ ルには,①数列と級数,指数,対数(自然対数),逆 関数,積分が含まれ,②スペシャリテとして行列, グラフ理論,グラフと確率等が含まれる一方,③ 幾何学は含まれない。つまり,三角比・三角関数・ ベクトル・スカラー等の図形教育内容はsérie S の みに含まれるのであって,série ES/L には含まれ ないことが分かる。④微分・積分はレベルに差が あって,少々内容が異なるとのことであるが,微 分は1ere で学び,積分は Term で学んでいるこ とが分かる。一方,⑤条件付き確率,確率密度関 数,推定等の確率・統計及び,アルゴリズム等は série S,ES,L のすべてに含まれる。 後述(第4章)するが,ES におけるこれらの数学 内容は,大学の経済・ビジネス系学部で必要とさ れる数学内容に極めて酷似し,一致している[6]-[9]。 BAC・ES においても,必修受験科目として位置付 けられ,他教科に比して係数が非常に高い。ES に おける数学教育は,経済・ビジネス系学部に照準 を合わせた内容であり,高大接続の観点からその 機能を果たすカリキュラムとなっていると感じ られる。 (3)授業の実際 フランスの学校事情 ここでは,訪問調査(2016 年 2 月)の結果興味深 かった実際の授業の様子や,フランスの学校事情 をいくつか述べておく[17]。 ■関数電卓の利用 授業では,IT ツール(関数電卓)をよく活用して いる。カシオ(日本)とテキサスインストルメント (米国)の 2 種類があり,教科書でも盛んに取り入 れられている。 授業では,電卓を盛んに利用する。 ノートは方眼罫を用いる。 教員用IT 機器(コンピュータ,OHP)がすべて 8 表6

表6より,Math 1re ES/L と Math 1re S は, [代数と解析]及び,[統計と確率]では,殆ど内容が

同じである。Math 1re ES/L の特徴的なことは,

①[代数と解析]の初めに,パーセンテージ(割合の 取り扱い)の項目が章として含まれていることで ある。Math 1re S には,このパーセントの項目 が無い。さらに,②Math 1re S では,以下のよう な幾何学の項目内容が含まれているが,Math 1re ES/L には無いことが分かる。 Trigonométrie 三角関数 Parallélisme et colinéarité ベクトルの共線 性

Orthoogonalite et produit scalaire 直交とス カラー積 (2) Terminale(最終学年)における ES/L と S の比較 Terminale における ES/L と S の数学の内容項 目を,プログラムDirection générale de l'enseignement scolaire[16](フランス教育省)に見 ると,表7のようである。 表7

■Mathematics 1re ES/L ■Mathematics 1re S

Algebre et analyse 代数と解析 Analyse 解析  Pourcentages パーセンテージ

Fonctions de reference 関係と関数 Fonctions de reference 関係と関数 Second degré 二次関数 Second degré 二次関数

Nomre dérivé et function dérivée 微分係数と導関数 Nomre dérivé et function dérivée 微分係数と導関数 Applications de ala derivation 微分の応用 Applications de la derivation 微分の応用

Suites numériques 数列 Suites numériques 数列

Comportement d'une suite いろいろな数列,漸化式 Comportement d'une suite いろいろな数列,漸化式

Géométrie 幾何

Trigonométrie 三角関数

Parallélisme et colinéarité ベクトルの共線性 Orthoogonalite et produit scalaire 直交とスカラー積

Statistiques et probabilités 統計と確率 Statistiques et probabilités 統計と確率

Statistiques 統計 Statistiques 統計

Variables aleatoires 確率変数 Variables aleatoires 確率変数

Loi binomial 二項分布 Loi binomial et échantillonnage 二項分布と標本調査 Échantillonnage 標本調査

Direction générale de l'enseignement scolaire(フランス教育省)

■Programme des séries ES/L ■Programme de la série S

objectif general 全体的な目標 objectif general 全体的な目標

raisonnement et langage matehmatiques 数学的推論と言語 raisonnement et langage matehmatiques 数学的推論と言語 Utilisation d'outils logiciels ソフトウェアツールを使用して Utilisation d'outils logiciels ソフトウェアツールを使用して Diversite de l'activité de l'élève 学生の活動の多様性 Diversite de l'activité de l'élève 学生の活動の多様性 Organisation du programme プログラムの構成 Organisation du programme プログラムの構成

Géométrie 幾何学

Analyse 解析 Analyse 解析

Probabilités et statistiques 確率と統計 Probabilités et statistiques 確率と統計

Algorithmique アルゴリズム Algorithmique アルゴリズム

Notations et raisonnement mathématiques 表記と数学的推論 Notations et raisonnement mathématiques 表記と数学的推論 Enseignement de spécialité,série ES  ES分野における専門教育 Enseignement de spécialité  S分野における専門教育

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10 の教室に完備されている。 ■フランスの教科書 フランスの教科書は,カラフルで非常に豊かで ある。ES の教科書では,経済学者のサミュエル ソンの紹介や,所得格差を示す指数としてのジニ 係数の計算方法等が説明され,経済学分野の話題 を取り入れている感がある。また,方程式の解法 等においては,記号論理学の記号をよく用い,ア ルゴリズムを重視している。対数においては,Log ではなくIn(自然対数)が用いられるが,場合によ ってはLog(常用対数)にも触れている。 ■プロフェッショネルの数学 プロフェッショネルの数学では,%(割合の取り 扱い)や統計など,日常に必要な数学を学ぶ。また, BAC プロフェッショネルでは,PC を用いたテス トも実施する。 ■フランスの教員の仕事 フランスの教員は,教科のみを担当する。従っ て授業に合わせて登校し,終わったら帰ってしま う。また,教員不足のため,複数の教科を担当す る場合がある。 クラブ活動は学校では行われず,地域活動の一 環として行われる。 ■フランスにおける数学教員の不足 フランスの教員不足は深刻で,数学がその筆頭 である。正規で見つからない数学教師を充当する ため,かつてのエンジニアなどに依頼して契約制 で何とか現状を維持しているとのことであった。 5 日本の文系数学の視点から見た,ES(フランス) における数学教育 フランスの数学教育制度,また数学の教育内容 を,経済・社会系分野の観点から,概略を述べる と以下のようである。フランスでは,16 歳で義務 教育を修了後,大部分の生徒が普通科高校(50%), 工業高校(20~25%)及び,職業高校(25~31%)の いずれかの種類の高校に進む。フランスの大学で 大きな問題となっているのは,滞留学生の多さで あり,特に大学の第1期課程(2 年次)終了前に約 4 割の滞留者が出るという。しかしながら,これは, 特に,工業高校,職業高校出身者の落第率が高く, これらの高校から大学へ進学することの困難さ を示す数値であって,普通高校出身者の落第率は 極めて低い。これらの滞留問題は社会的な問題と なるが,学費は全学無料なので学生は困らないと 言う。このことから,フランスの大学教育を実質 的に支えているのは,普通科高校からの進学者 (50%)であり,表現に御幣があるが,実質的な大 学進学という観点から見ると,大学進学の段階, 否,リセにおける進路選択の段階で下50%が篩わ れているとも言えよう。 普通科高校(リセ・ジェネラル)では,さらに S(科 学系),ES(経済・社会系),L(人文系)の系(série)に 分類され,それぞれ人数の割合は,およそ62%, 32%,16%である。文系(経済・社会系)数学の観点 から見た場合,このES の存在が,フランスの数 学教育の特筆すべき大きな特徴である。ここでは, このES について,冒頭で挙げた3つの観点,① 大学入試制度,②大学入試における数学の位置付 けと取り扱い,③高校における数学履修内容,か ら我が国の数学教育の現状と比較・考察する。 5-1 我が国の大学入試制度とバカロレアにおける, 数学の位置付けの比較 今日,我が国において,高等学校教育の質保証 及び,高大接続の大きな要となっているのが個々 の大学で実施される大学入学試験である。この大 学入試で,数学は選択教科として位置付けられて いるため,数学を受験せずに大学に進学する事が, 通常のように行われている。そのため,大学入試 は,前述のようなさまざまな問題を抱え,質保証 という点でその機能を果たすことが難しい状況 にある。 フランスにおける大学進学に当たっては,個々 の大学が実施する入学試験が存在せず[注5],全国 統一共通試験としてのバカロレアを取得するこ とが必須である。このバカロレアES で,①数学 は必修であり,かつ②他教科のそれに比して比重 が高い(5~7)。従って,日本の大学入試のように, 数学を受験せず,または軽視して,経済・社会系 の学部に進学するようなことは起こらない。 5-2 我が国の高校の数学履修内容と,リセESにお ける数学の教育内容

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11 フランスの数学教育で,さらに注目すべきこと は,以下のようなES における数学教育内容であ る。筆者は,科研[※]において経済・社会分野で必 要とされる数学の内容における調査研究を行っ た[6]- [9]。その過程で,経済・社会分野で用いられる 数学基礎力は,その殆どが, ①四則演算,割合,分数,比(連比を含む)であり, これらが非常に大きなウェイトを占めること,特 に比率・割合は,人口統計,物価統計,国民経済 計算,景気統計等,経済統計各論等のすべての分 野で挙げられていること,さらに, ②変化率,微分,微分方程式及び,それらに関 連した関数,連立方程式等は,ミクロ経済学にお ける需要曲線,供給曲線,消費者行動理論,市場 均衡及び,マクロ経済学の経済成長理論,投資理 論等の多くの経済学の学習場面で,重要な概念と して取り扱われていること, ③指数・対数,数列・級数等は,金融・投資理論, 乗数過程等で,特に重要なこと。 ④統計・確率は,推測統計,金融統計,期待形 成仮説等で用いられていること, ⑤また,マクロ経済学における産業連関表では, 行列を利用すること。一方, ⑥図形の証明,三角関数,複素数等は,あまり 使われないこと, を明らかにしてきた。 ②③④は,数学Ⅱおよび数学B の履修内容であ り,④の行列は,現在,高校の履修内容として除 外されている。以上のことは,日本の大学入試等 で,経済・社会系学部希望者に課されている数学 Ⅰ・A の内容とは明らかに「ずれ」があることを示 している。 フランスのES における数学の教育内容を見る と,まず1ere において,冒頭でパーセンテージと して割合について大きく取り扱い,さらに,関数・ 数列・微分・統計・確率を取り扱う。最終学年 (Terminale)の解析では,数列と級数・指数・対数・ 積分・確率密度関数・推定等について学ぶ。一方 図形の証明や三角関数,ベクトル・スカラー等が 含まれていない。これら一連の数学履修内容は, 前述の調査結果と酷似或いは一致する内容であ り,大学の経済・社会系分野で必要とされる数学 の内容に照準を合わせ,的確に数学内容を習得さ せて履修内容を構築していると言えよう。従って, 大学の経済・社会系分野の学部において,「数学の 内容が全くできていない」という問題は,殆ど無 いと言う(フランス国民教育省)。 総じて,バカロレアES は,文系(経済・社会系) 数学の観点から考えれば,そのカリキュラム,試 験制度・履修内容共に,大学での教育を受けるに ふさわしい学生を選抜するに適切な試験であり, 高大接続の観点から,その質保証の機能を果たし ていると考えられる。 6 終わりに 我が国への示唆 我が国においては,前述の大学入試上の問題が あり,大学に入学してくる学生に必要な数学の学 力を保証する方策が取られることなく,現状に至 っている。それは,当然のことながら,大学にお ける学力低下の問題を引き起こしているが,この 数学の学力低下の問題の原因や責任は,初等中等 教育のみの問題に帰したり,責任を問うべきでは 無いように思われる。教育行政,そして大学の責 任も大きい。私立大学にとって最重要課題は,① 入学者の確保と,②学生の就職支援であり(東京大 学大学教員意識調査),特に①においては,「ある程 度重要」「極めて重要」を合わせる 81.8%に昇る [18]。大学は,経営上の問題のみを最優先させる事 なく,その質保証を考えることも必要であろう。 一部の大学が,数学を入試の試験科目として必修 化するのではなく,全ての大学が必修化すれば, 大学間における,経営上の或いは学生にとっての 不利益を軽減・解消できる訳であり,教育行政は, これを施策・援助すべきではないだろうか?。 また,現在,我が国の大学(対象 216 大学)では, 全学の教育目標に数学的リテラシーに関する教 育目標が位置付けられておらず(80%),開講講座 も少なく, 数理的教育は敬遠・軽視される傾向に ある事が分かっている[19]。また,大学における事 前教育や基礎教育科目では,中学校や高校の内容 を繰り返し復習させる場合が多く,第5章で述べ た観点から,ここでも,その大きな内容のずれを 生じている。大学における数学教育においては, 今後,それらの内容の齟齬に関する現状にも目を 10 の教室に完備されている。 ■フランスの教科書 フランスの教科書は,カラフルで非常に豊かで ある。ES の教科書では,経済学者のサミュエル ソンの紹介や,所得格差を示す指数としてのジニ 係数の計算方法等が説明され,経済学分野の話題 を取り入れている感がある。また,方程式の解法 等においては,記号論理学の記号をよく用い,ア ルゴリズムを重視している。対数においては,Log ではなくIn(自然対数)が用いられるが,場合によ ってはLog(常用対数)にも触れている。 ■プロフェッショネルの数学 プロフェッショネルの数学では,%(割合の取り 扱い)や統計など,日常に必要な数学を学ぶ。また, BAC プロフェッショネルでは,PC を用いたテス トも実施する。 ■フランスの教員の仕事 フランスの教員は,教科のみを担当する。従っ て授業に合わせて登校し,終わったら帰ってしま う。また,教員不足のため,複数の教科を担当す る場合がある。 クラブ活動は学校では行われず,地域活動の一 環として行われる。 ■フランスにおける数学教員の不足 フランスの教員不足は深刻で,数学がその筆頭 である。正規で見つからない数学教師を充当する ため,かつてのエンジニアなどに依頼して契約制 で何とか現状を維持しているとのことであった。 5 日本の文系数学の視点から見た,ES(フランス) における数学教育 フランスの数学教育制度,また数学の教育内容 を,経済・社会系分野の観点から,概略を述べる と以下のようである。フランスでは,16 歳で義務 教育を修了後,大部分の生徒が普通科高校(50%), 工業高校(20~25%)及び,職業高校(25~31%)の いずれかの種類の高校に進む。フランスの大学で 大きな問題となっているのは,滞留学生の多さで あり,特に大学の第1期課程(2 年次)終了前に約 4 割の滞留者が出るという。しかしながら,これは, 特に,工業高校,職業高校出身者の落第率が高く, これらの高校から大学へ進学することの困難さ を示す数値であって,普通高校出身者の落第率は 極めて低い。これらの滞留問題は社会的な問題と なるが,学費は全学無料なので学生は困らないと 言う。このことから,フランスの大学教育を実質 的に支えているのは,普通科高校からの進学者 (50%)であり,表現に御幣があるが,実質的な大 学進学という観点から見ると,大学進学の段階, 否,リセにおける進路選択の段階で下50%が篩わ れているとも言えよう。 普通科高校(リセ・ジェネラル)では,さらに S(科 学系),ES(経済・社会系),L(人文系)の系(série)に 分類され,それぞれ人数の割合は,およそ 62%, 32%,16%である。文系(経済・社会系)数学の観点 から見た場合,このES の存在が,フランスの数 学教育の特筆すべき大きな特徴である。ここでは, このES について,冒頭で挙げた3つの観点,① 大学入試制度,②大学入試における数学の位置付 けと取り扱い,③高校における数学履修内容,か ら我が国の数学教育の現状と比較・考察する。 5-1 我が国の大学入試制度とバカロレアにおける, 数学の位置付けの比較 今日,我が国において,高等学校教育の質保証 及び,高大接続の大きな要となっているのが個々 の大学で実施される大学入学試験である。この大 学入試で,数学は選択教科として位置付けられて いるため,数学を受験せずに大学に進学する事が, 通常のように行われている。そのため,大学入試 は,前述のようなさまざまな問題を抱え,質保証 という点でその機能を果たすことが難しい状況 にある。 フランスにおける大学進学に当たっては,個々 の大学が実施する入学試験が存在せず[注5],全国 統一共通試験としてのバカロレアを取得するこ とが必須である。このバカロレアES で,①数学 は必修であり,かつ②他教科のそれに比して比重 が高い(5~7)。従って,日本の大学入試のように, 数学を受験せず,または軽視して,経済・社会系 の学部に進学するようなことは起こらない。 5-2 我が国の高校の数学履修内容と,リセESにお ける数学の教育内容 - 11 -

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12 向け,その対策を昂じることが緊急に求められる。 日本の高等教育は,フランス同様,既にユニバ ーサル段階に達し,文科省は,平成17 年中央教 育審議会答申「我が国の高等教育の将来像」で, 多様化する学生を適切に受け入れるための,大学 の個性化,機能別分化を大学に求めた。以後,大 学は多様性・自由性をその方向に含み,ユニバー サル化に伴うさまざまな問題を抱えることにな る。平成26 年中央教育審議会答申「新しい時代 にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校 教育,大学教育,大学入学者選抜の一体的改革に ついて」においては,高大接続の質保障の観点か ら,高等学校基礎学力調査(仮称)と大学入学希望 者学力評価テスト(仮称)が,新に考案,設けられ た。高等学校基礎学力調査(仮称)には,6教科の 必履修科目に数学Ⅰが含まれる。この基礎学力調 査の受験は希望制とし,主に「知識・技能」を測 るものとされている。また,大学入学希望者学力 評価テスト(仮称)は,主に「思考力・判断力・表 現力」を評価するものとし,総合的分野に関わる 問題の提示や記述式回答を,その特徴としている。 高等学校から大学への円滑な接続を図るために, 両テストの難易度をできるだけ連続的にするこ とが必要である,としているが,文系(経済・社会 系)の数学の問題については,全く触れられず看 過されている。各大学における個別選別において, 数学が受験科目として重視または必修化されず, その履修内容のずれが是正されない以上,経済・ 社会系の数学における問題は,今後も残ると思わ れる。 フランスのTIMSS や PISA の結果を以って, フランスの数学教育を範とすべきではない,とい うような論もあるが,対象年齢が全く異なり,バ カロレアとセンター試験の目的や性質も異なっ た視点の論であるように感じる。高大接続も山場 を迎えている現在,バカロレアのように,中等教 育修了資格と大学入学資格を一致させたり,全国 共通の統一試験とすることは,上述の現在の我が 国の大学教育の多様性,大学の自由性を鑑みて, 実際的では無いし適切であるとも思えないが,高 校(Lycée)が,それぞれの系(série)で,その教育内 容の習得に責任を持ち,バカロレアが高大接続の 質保証の責任を果たしている様子は,現在の我が 国の教育を考えるに当たり,一考に価すると思わ れる。 平成26 年度の,日本の高校卒業者の進路の割 合は大学進学率(53.8%)が最も多く,次いで専修 学校等(23.1%)であり,両者で 76.9%を占める. さらに大学進学者の学部別内訳では,社会科学系 (32%),人文科学(14%)であり,人文・社会系だけ で 46%を占める[20].社会・産業界の半数を人文・ 社会系の出身者が占める訳であり,これらの人材 が社会に及ぼす影響度・貢献度は大きい。この分 野における数理的内容に目を向け,数学教育を充 実させることは極めて意義深く,未来を拓くもの であると思われる。特に,リセES での数学教育 内容が,経済・社会系分野のニーズに適合してい ること,そしてバカロレアにおける数学の位置付 けは,産業変革及び雇用形態の変革が進み激動す るこれからの日本,また,その数学教育を考える 上で,極めて重要な示唆となるものである。 [注 1] バカロレア(Baccalauréat)全国共通統一試 験は,フランス教育省が作成。ワーキンググルー プを設け,アカデミーに依頼する。アカデミーで 作成し提案された原案をアンスペクタがチェッ クする。バカロレアの合格率を,高校は気にして いるという。 [注 2]Technologieque には,以下の特定分野があ る。 科学技術産業と持続可能な開発(STI2D)/科学と 研究室の技術(STL)/科学と経営と管理技術 (MGT)/健康と社会への科学技術(ST2S)/ホテ ルやレストラン(STHR)/農学と生活の科学技術 (STAV)等。 [注 3]アンスペクション制度(フランス教育省):フ ランスの初等・中等教育には,アンスペクション 制度がある。1802 年からできた制度で,アンスペ クタが授業を参観して教員を評価する。地域の授 業は,その地域のアンスペクタに任せるが,その 際,全国レベルのアンスペクタは,実際の授業は 見ないが地域のアンスペクタと連携している。 [注 4]スペシャリテ ES:スペシャリテとは,1週 間に2時間,追加授業を取れるもので,数学,応

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