提供:サノフィ株式会社 座長
寺本民生
先生 帝京大学 臨床研究センター センター長Alberico L. Catapano
先生 President of EAS, University of Milan,Department of Pharmacological and Biomolecular Sciences
池脇克則
先生 防衛医科大学 神経・抗加齢血管内科 教授佐藤加代子
先生 出 席 者ROUND TABLE DISCUSSION
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座 談 会
これからの日本人の
脂質代謝異常症の
治療戦略を考える
~家族性高コレステロール血症を見逃さないために~
FHを見逃さないためにはどうすればよいのか
寺本 本座談会では家族性高コレステロール血症(FH)の診断と治療につい て話し合っていきます。FHでは動脈硬化が進展しやすく、若年時から心血管 イベントの発症リスクが高い病態です。しかしながらその診断率は著しく低い のが国際的にも大きな課題であり、日常診療のなかでFHを見逃さないことが 重要です。まず池脇先生に、FHの診断について解説していただきましょう。 池脇 FHの診断率を高めるためには、FHが疑われる患者が多い集団を対象にスクリーニングを行うの が効率的です。例えば心筋梗塞を発症し、LDL-Cが高値の症例ではFHを疑い、腱黄色腫の有無を確認 し、診断に必要な検査や問診を行うとよいでしょう。プライマリケアでは、未治療時のLDL-C180mg/dL 以上で、他にFHを疑う所見があれば、専門医に紹介してほしいと思います。また、FHを小児のうちに 見つけ出すためには、小児のワクチン接種のときにLDL-Cを測定するのがよいと考えています。 寺本 池脇先生は先日、欧米の先生方とFHに関して議論する機会があったそうですね。 池脇 はい。欧米の専門医とFHの診断と治療に関する意見交換をしてきました。欧米では、臨床診断基準 (Dutch Lipid Clinic Networks Diagnosis)を基本として、遺伝子診断が利用可能ならば、積極的に 遺伝子検査を行う時代になりつつあります。日本では臨床診断が中心で、臨床診断基準もシンプルです。 未治療時のLDL-C180mg/dL以上、腱黄色腫、FHまたは早発性冠動脈疾患の家族歴のうち2つ以上 を満たせばFHと診断できます1)。また、FHのなかでも重症例、つまり冠動脈疾患の発症リスクが高い集団をどのように考えるかという質問には、「最大限のLDL-C低下療法を行っ ても、LDL-Cが管理目標値よりも50%以上高い患者」という意見が多くを 占めました。 寺本 わが国のFHのLDL-C管理目標値は100mg/dL未満ですから、50% 以上高いということはLDL-Cが180〜200mg/dL以上だと重症例ということ になりますね。そうした患者は少なくないと思います。 池脇 また、欧米の専門医の先生方は小児に対するスタチン使用について肯 定的で、治療開始年齢は家族歴やリスク因子の保有状況から判断すべきであり、他のリスク因子がな い場合に治療開始時期を遅らせるという考えが多く、小児の場合、LDL-C管理目標値は130mg/dL未 満とし、管理目標値を達成できるスタチン、用量を選択するという意見が多数を占めました。動脈硬化 の進展度を評価する画像検査については、「成人の全FH患者に対して行う」、「リスク因子の保有例に 対して行う」、という意見が半々でした。 寺本 欧州では遺伝子診断は高額ですか。 Catapano それほど高額ではありませんし、保険でカバーできる国もあります。しかし、費用よりも遺伝 子検査を誰が行うのかの方が大きな問題です。欧州ではFH患者をレジストリに登録し、三次医療機関で 遺伝子検査を行うことになり、イタリアでは動脈硬化学会がレジストリを立ち上げました。検査費用も補助が ありますから、安く済みます。この方法であれば、遺伝子診断されたFH患者をレジストリに多数登録する ことができます。 寺本 プライマリケアでは、FHの疑い例をどのようにスクリーニングしているのですか。
Alberico L. Catapano
先生Catapano 欧州の診断基準は複雑ですから、簡便なスクリーニング法を 推奨しています。LDL-Cが高かったら、家族歴を聞き取り、角膜輪と腱黄色腫 の有無を調べるようにお願いしています。これならプライマリケアの診療の中 で短時間に行えます。 寺本 日本のFH診断基準とほとんど同じですね。他には患者の病歴聴取も 重要で、早発性冠動脈疾患の既往があればFHが強く疑われます。佐藤先生は 循環器内科でFHの頻度を調べられたそうですね。 佐藤 はい。Preliminaryな結果ですが、当院で2013年以降心血管疾患または動脈疾患で入院した連続 患者553例を対象にFHの有無を調べたところ、驚くべきことに37例(6.7%)がヘテロ接合体FHと診断 されました。心血管疾患既往患者で約10例に1例に近い症例がヘテロ接合体FHということになります。 もう1つ驚いたことは、ヘテロ接合体FHと診断された患者のうち、脂質低下療法を受けていたのはわずか 27%だったことです。 寺本 対象は心筋梗塞や急性冠症候群(ACS)の患者ですよね。 佐藤 ACSや安定狭心症で入院された方が対象です。循環器内科では今まで以上にFHという疾患に ついて啓発が必要だと感じました。 寺本 そして、心血管疾患患者にはFHが多いことを知ってもらう必要がありますね。
佐藤 加代子
先生欧州動脈硬化学会によるFH診療のコンセンサスレポート
Catapano 欧州動脈硬化学会では、FH診療に関するコンセンサスレポートを作成しました2)。この レポートは将来のガイドラインのベースになるもので、作成には日本も含めて多くの国の医師に参加して もらいました。その要点は、FHは遺伝性の疾患であること、患者には腱黄色腫や角膜輪など特徴的な 症状が現われること、ヘテロ接合体とホモ接合体のLDL-C値の分布には重複があることなどです。診断 のポイントは家族歴です。また、FH患者は胎内にいるときからLDL-Cが高く、それが心血管疾患のリスクを 上昇させます。LDL-C180〜190mg/dLと同程度であっても、中年以降に高LDL-C血症を発症した 場合とは、動脈に及ぼす影響が全く異なります。FH患者では生まれる前から一生涯にわたり、LDL-C 高値に曝露され続けた状態にあるのです。そのため、FH患者を見つけたら、直ちに積極的にLDL-C低下 療法を行う必要があります。40歳でFHと診断された方は、すでに40年間、LDL-C高値に曝露されてき たのですから。 寺本 FHの診断率はどうなっていますか。 Catapano FHの頻度を500例に1例と仮定してFH患者数を推定し、診断されている患者数の割合 (診断率)を調べたところ、オランダでは71%と良好でしたが、10%未満の国がほとんどで、1%未満の 国が約半数を占め、イタリアも日本もそこに含まれます(図1)2)。しかし、イタリアではFHレジストリが1年 前に開始され、遺伝子診断でFHと診断された登録例は当初の1000例から4000例に増えました。組織 だった調査を行えば、FHの診断率は高まっていくと期待しています。オランダ ノルウェー アイスランド スイス 英国 スペイン ベルギー スロバキア デンマーク 南アフリカ オーストラリア 香港 フランス 台湾 イタリア オマーン 米国 カナダ 日本 チリ ブラジル メキシコ 0 25 50 75 100(%)
世界200の国および地域におけるFH診断率
71% 43% 19% 13% 12% 6% 4% 4% 4% 3% 1% 1% 1% <1% <1% <1% <1% <1% <1% <1% <1% <1% 33,300 9,900 600 15,600 123,600 92,200 22,200 10,900 11,100 100,000 45,000 14,100 130,900 46,300 121,000 5,700 621,200 68,600 254,800 34,300 381,500 214,900 FH推定患者数 FH推定診断例数 FHの頻度を500例に1例と仮定したときの推定患者数に対するFH推定診断例数の割合図1
数値はLivingston, Descamps, Humphriesの報告に基づく
B.G. Nordestgaard et al, Familial hypercholesterolaemia is underdiagnosed and undertreated in the general population: guidance for clinicians to prevent coronary heart disease, Eur Heart J, 2013, Dec; 34(45): 3478-90a, by permission of Oxford University Press on behalf of the European Society of Cardiology.
Catapano もう一つ重要な点は、FH患者の総数です。全世界では3400万人のFH患者がいると推定 されており、この数値は単一遺伝子疾患としては最も多いものです。 寺本 FH患者をスクリーニングする方法も提示されていますね。 Catapano プライマリケア医の協力が何よりも重要です。同様に、循環器内科、心臓リハビリテーション、 職場健診などもFHをスクリーニングするよい機会になるでしょう。特に循環器内科には未診断のFH 患者が数多くいると推定されます。我々のリコメンデーションは極めてシンプルです。LDL-Cを測定し、 病歴と家族歴を聞き取り、腱黄色腫と動脈硬化の有無など6項目を調べます(図2)2)。該当する項目が あれば、FHの可能性は高いと考え、専門医に紹介すればよいのです。 寺本 FHにおける脂質低下療法のエビデンスについても紹介していただけますか。 Catapano オランダではスタチン導入前後で、FH患者のイベント発生率が検討されていますが、スタ チン導入後には著しく低下したことが報告されています(図3)3)。南アフリカからの報告では未治療の ホモ接合体FH患者は38歳までに死亡しますが、スタチンやエゼチミブを用いた脂質低下療法が導入された 後には、生存期間は約20年延長し、70歳まで生存した患者もいました4)。それでも生存期間中央値は 約40年ですから、まだまだ改善が必要だと思います。こうした知見を基に、我々はコンセンサスレポート の中で治療アルゴリズムを提示しました。
小児、成人、FH患者の家族でスクリーニングすべき項目
欧州動脈硬化学会が推奨するFHスクリーニングの6項目
図2
Whom to screen: how do we recognize index cases?より作図
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FH家族歴
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血清総コレステロール値(成人)≧310mg/dL
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血清総コレステロール値(小児)≧230mg/dL
✓
早発性冠動脈疾患
✓
腱黄色腫
✓
突然の早発性心臓死
ホモ接合体FH患者において脂質低下療法性が予後に及ぼす影響
図3
Frederick J. Raal et al, Reduction in Mortality in Subjects With Homozygous Familial Hypercholesterolemia Associated With Advances in Lipid-Lowering Therapy, Circulation. 2011 Nov 15;124(20):2202-7, © 2011 American Heart Association, Inc. permission from Wolters Kluwer Health, Inc.
10 20 30 40 50 60 70 0 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 生存率 ( % ) 年齢(歳) エンドポイント:死亡 脂質低下療法非施行例 脂質低下療法施行例 10 20 30 40 50 60 0 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 生存率 ( % ) 年齢(歳) エンドポイント:主要有害心イベント 脂質低下療法非施行例 脂質低下療法施行例
FH患者の心血管イベントを抑制するために
池脇 日本では小児にスタチンの使用には慎重です。安全性についてはどの ようにお考えですか。 Catapano 小児に対するスタチンの使用経験についてはオランダで積極的 に検討されており、5歳以上であれば安全性に問題はないとしています。 佐藤 20歳前後のFH患者を数例診療しています。LDL-Cは100mg/dL未満または100〜130mg/dL で管理していますが、頸動脈内膜中膜肥厚(IMT)はすでに進展していました。脂質低下療法を強化すべ きでしょうか。 Catapano FHでもハイリスク例ではLDL-Cは70mg/dL未満に管理したほうがよいと思います。 佐藤 プラークが認められた場合にはどうされますか。 Catapano プラークが存在すれば、スタチンの使用を検討します。 池脇 画像検査を行いますか。 Catapano ルーチンでは行っていません。しかし、超音波法でアキレス腱を調べるのはそれほど 難しいことではありません。腱黄色腫が認められなくても、超音波検査で肥厚が確認できることが あります。 寺本 腱が肥厚している画像を患者に見てもらうと分かりやすいですからね。佐藤先生は若年の女性FH 患者をどのように治療していますか。池脇 克則
先生佐藤 第一選択薬はレジンです。 寺本 最近ではエゼチミブも使用できるようになりました。私自身は、男児は10歳以上からスタチンを低用 量で使用してもよいと考えていますが、女児や女性については妊娠希望があると判断は難しいと思います。 池脇 日本では妊娠の可能性のある女性にはスタチンは使用しないのが一般的です。 Catapano 動脈硬化の進展リスクを抑制するためには、早期からスタチンを投与し、妊娠希望があれ ば休薬期間を設ければよいと考えています。 寺本 出産を終えた女性では、積極的に治療することができると思います。Catapano先生は、ハイリスク のFH患者ではLDL-Cを70mg/dL未満に厳格に低下させる必要があるとおっしゃいました。FH患者の LDL-C値は通常180mg/dLを超えていますが、LDL-C低下率はストロングスタチンで約50%、ストロング スタチンとエゼチミブを併用しても約60%です。これでは70mg/dL未満を達成することはできません。 Catapano スタチンやエゼチミブとは作用機序の異なる新しい脂質低下薬が必要だと思います。他にも ACS患者などのハイリスク例でも、新しい治療の選択肢が必要だと思います。ACS患者のLDL-Cは 一般にそれほど高くありませんが、既存の脂質低下薬では管理目標値が達成できない患者はいると思い ます。そして、LDL-Cは低ければ低いほど冠動脈疾患の発症リスクは低下しますから、70mg/dLは最低限 達成しなくてはならない値だと考えています。
佐藤 LDL-Cと冠動脈疾患の関連性は“the lower, the better”ですからね。
寺本 わが国では現在、小児FHの診断基準、治療ガイドラインを作成中です。こうした指針を提示する ことで、FH患者を早期に発見し、安全にLDL-Cを管理し、心血管イベントの発症を予防できるようになる と思います。本日は活発な討論をありがとうございました。
文献
1)日本動脈硬化学会:動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版
2)Nordestgaard BG, et al. Familial hypercholesterolaemia is underdiagnosed and undertreated in the general population: guidance for clinicians to prevent coronary heart disease: consensus statement of the European Atherosclerosis Society. Eur Heart J. 2013; 34: 3478-3490
3)Versmissen J, et al: Efficacy of statins in familial hypercholesterolaemia: a long term cohort study. BMJ 2008; 337: a2423
4)Raal FJ, et al. Reduction in mortality in subjects with homozygous familial hypercholesterolemia associated with advances in lipid-lowering therapy. Circulation. 2011; 124: 2202-2207