• 検索結果がありません。

産業別に見た長時間労働の実態と課題

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "産業別に見た長時間労働の実態と課題"

Copied!
8
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

株式会社大和総研 丸の内オフィス 〒100-6756 東京都千代田区丸の内一丁目 9 番 1 号 グラントウキョウノースタワー このレポートは投資勧誘を意図して提供するものではありません。このレポートの掲載情報は信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確性、完全性を保証する ものではありません。また、記載された意見や予測等は作成時点のものであり今後予告なく変更されることがあります。㈱大和総研の親会社である㈱大和総研ホールディングスと大和 証券㈱は、㈱大和証券グループ本社を親会社とする大和証券グループの会社です。内容に関する一切の権利は㈱大和総研にあります。無断での複製・転載・転送等はご遠慮ください。 2018 年 3 月 30 日 全 8 頁

産業別に見た長時間労働の実態と課題

生産性向上による残業減少の成果を賃金に還元させる視点が必要

政策調査部 研究員 菅原 佑香

[要約]

 企業における働き方の課題は、産業によって特性の違いがあるため、一律の改革を行う ことには限界がある。各産業で、どのような課題があるのか、その実態と課題を踏まえ たうえで、対応する必要がある。  2014 年からの 3 年間を見ると、ほとんどの産業で週 60 時間以上の雇用者割合は低下し ている。ただ、産業によって、年次有給休暇取得率や週休制、年間就業日数等は異なっ ており、労働時間に影響を与えている。これらの実態を踏まえた政策や自主的な対応が、 国や各企業には求められる。  残業が発生する理由としては、業務の繁閑が激しい、人員が不足している、仕事の性質 や顧客の都合、といったことを掲げる企業が多い。確かに、人手不足感の強い産業では 長時間労働者の割合が高い傾向がある。  定期給与に占める所定外給与の割合が高い産業においては、今後、業務の効率化等、労 働生産性の向上が図られ長時間労働が是正された場合に、雇用者の生活水準が低下しな いような配慮が必要である。長時間労働の是正は、労働生産性と賃金の向上という課題 そのものである。

1.はじめに

「働き方改革」の大きな柱の一つは、日本企業のこれまでの恒常的な長時間労働の働き方を是 正することである。働く人の健康を確保しながら生産性を引き上げ、個々人の意欲や能力を発 揮できる新しい労働制度や労働環境が求められている。また、女性の活躍推進の観点からも、 長時間労働を抑制し、仕事と生活の両立が可能な働き方を整備することが、喫緊の課題となっ ている。 安倍内閣は、働き方改革関連法案を成立させ、時間外労働時間に上限規制を導入する方針で ある。大企業については、2019 年度(中小企業は 2020 年度)から実施できるようにする(一部 の業務や職種には猶予期間が設けられる)。具体的には、法定労働時間である週 40 時間を超え て労働可能となる時間外労働の限度を、原則として、月 45 時間かつ年 360 時間とし(休日労働

(2)

12.8% 7.9% 4.2% 8.8% 22.3% 11.5% 6.1% 11.0% 10.9% 19.4% 13.5% 18.9% 5.2% 4.4% 8.8% -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 0% 5% 10% 15% 20% 25% 30% 建設業 製造業 電気・ ガ ス ・熱供給・ 水道業 情報通信業 運輸業, 郵便業 卸売業, 小売業 金融業, 保険業 不動産業, 物品賃貸業 学術研究, 専門・ 技術サー ビ ス 業 宿泊業, 飲食サー ビ ス 業 生活関連サー ビ ス 業, 娯楽業 教育, 学習支援業 医療, 福祉 複合サー ビ ス 事業 サー ビ ス 業( 他に 分類さ れな い も の) (%pt) 2014年→2017年の変化幅(右軸) 2014年 2017年 61.9% 100.0% 64.0% 62.9% 71.4% 55.6% 66.7% 62.5% 75.0% 67.6% 61.4% 66.7% 100.0% 73.8% 67.4% 23.8% 0.0% 20.0% 25.7% 21.4% 29.6% 20.0% 25.0% 12.5% 22.5% 26.3% 20.0% 0.0% 16.9% 20.9% 14.3% 0.0% 16.0% 11.4% 7.1% 14.8% 13.3% 12.5% 12.5% 9.9% 12.3% 13.3% 0.0% 7.7% 11.6% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% サービス業(他に分類されないもの) 複合サービス事業 医療,福祉 教育,学習支援業 生活関連サービス業,娯楽業 宿泊業,飲食サービス業 学術研究,専門・技術サービス業 不動産業,物品賃貸業 金融業,保険業 卸売業,小売業 運輸業,郵便業 情報通信業 電気・ガス・熱供給・水道業 製造業 建設業 週60~69時間 週70~79時間 週80時間以上 を含まない)、違反に対しては罰則が科されるよう規制が強化される。特例として、臨時的な特 別の事情がある場合について、労使が合意すれば上限を引き上げる労使協定を結ぶことが認め られるが、その場合でも年 720 時間を上回ることはできないとされ、2~6 か月平均で 80 時間以 内(休日労働を含む)、単月で 100 時間未満(休日労働を含む)などの上限が設定される。 しかし、企業によっては、人手不足やコスト削減の必要性といった事業継続上の課題が少な くない中で、そうした残業の上限規制にどのように対処していくのか、企業の対応が制度の施 行に間に合うのか懸念がある。また、企業における働き方の課題は、職務の違いだけでなく産 業の特性の違いにより大きく異なることから、一律の改革を行うことには限界がある。 そこで本稿では、各産業の働き方の実態に関して、労働時間を中心に整理し、それらの産業 における課題が何かを議論する。各産業でどのような課題があるのか、その実態と課題を踏ま えたうえで、対応を図っていく必要がある。

2.産業別に見た働き方の違い

(1)長時間労働の状況

総務省統計局「労働力調査」によれば、月末 1 週間の労働時間が 35 時間以上の雇用者に占め る 60 時間以上の雇用者(以下、「週 60 時間以上の雇用者」という)の割合は、2014 年から 2017 年の 3 年間の変化で見て、ほとんどの産業で低下した(図表 1 左)。 図表1 左:週 35 時間以上の雇用者に占める週 60 時間以上の雇用者割合と変化幅(2014 年→2017 年)右:週 60 時間以上の雇用者の内訳(2017 年) (注)ここでは、月末 1 週間の就業時間を使用。左図の図中の数字は 2017 年。 (出所)総務省統計局「労働力調査」より大和総研作成 ここでは、非正規化の進展で短時間労働者が増加したために割合が低下している可能性を考 慮し、週 35 時間以上の雇用者に占める割合で見ている。2017 年における各産業の長時間労働者

(3)

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 建設業 製造業 電気・ ガ ス ・熱供給・ 水道業 情報通信業 運輸業 ,郵便業 卸売業 ,小売業 金融業 ,保険業 不動産業 ,物品賃貸業 学術研究 ,専門・ 技術サー ビ ス 業 宿泊業 ,飲食サー ビ ス 業 生活関連サー ビ ス 業 ,娯楽業 教育 ,学習支援業 医療 ,福祉 複合サー ビ ス 事業 サー ビ ス 業 (他に 分類さ れな い も の ) (%) 週休1日制又は週休1日半制 完全週休2日制より休日日数が実質的に少ない制度 完全週休2日制 建設業 製造業 電気・ガス・熱供 給・水道業 情報通信業 運輸業,郵便業 卸売業,小売業 金融業,保険業 学術研究,専門・ 技術サービス業 教育,学習支援業 医療,福祉 複合サービス事 業 y = -0.4459x + 272.25 R² = 0.4694 240 245 250 255 260 265 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 年次有給休暇の取得率(%) 年間就業日数(日) 宿泊業,飲食サービス業 生活関連サービス業,娯楽業 サービス業(他に分類されないもの) 不動産業,物品賃貸業 の割合を見ると、「運輸業,郵便業」が 22.3%と最も高く、次に「宿泊業,飲食サービス業」や「教 育,学習支援業」が高い。「教育,学習支援業」は、この 3 年間で週 60 時間以上の雇用者の割合 が上昇した例外的な産業である。もともと長時間労働者の割合が高く労働集約的な産業である 「運輸業,郵便業」「宿泊,飲食サービス業」においても、この 3 年間で長時間労働者の割合は低 下している。つまり直近の 3 年間で、長時間労働の是正が一定程度は進んでいると考えられる。 ただ、週 60 時間以上の雇用者の内訳を見ると、ほとんどの産業では 3~4 割程度の雇用者が 週 70 時間以上働いている(図表 1 右)。労働時間が週 70 時間を超える過重労働者がいまだに産 業全体に数多く存在すると言えるだろう。

(2)就業日数や年休取得の状況と長時間労働

産業によって長時間労働者の割合が違う要因は何だろうか。本稿では、1 日当たりや 1 週当た り、1 か月当たりといった残業時間に着目した長時間労働の問題だけでなく、年間労働時間の視 点も含めて長時間労働を広く捉えてみたい。 労働時間とは、「所定内労働時間」と、早出や残業、臨時の呼び出し、休日出勤等の実労働時 間である「所定外労働時間」から構成される。どちらの要因で長時間労働になっているのかに よって、国や各企業の取組みの方向性は変わる。まず、所定内労働時間の多寡に関係する労働 者の就業日数や年休取得率の状況、週休制の形態から、各産業の特徴を考察してみよう。 図表2 左:年間就業日数と年次有給休暇の取得率、右:主な週休制の形態別企業割合 (注1) 年間就業日数=365 日-労働者1人平均年間休日総数 (注2) 「完全週休 2 日制より休日日数が実質的に少ない制度」とは、月 3 回、隔週、月 2 回、月 1 回の週休 2 日制等をいう。 (出所)厚生労働省「平成 29 年就労条件総合調査」より大和総研作成 まず、年間就業日数と年次有給休暇の平均取得率(以下、「年休取得率」という)の関係性を 見ると、年休取得率が高い産業ほど年間就業日数が短い傾向がある(図表 2 左)。年休が取得で

(4)

建設業 製造業 電気・ガス・熱 供給・水道業 情報通信業 運輸業,郵便業 卸売業,小売業 金融業,保険業 不動産業,物品 賃貸業 宿泊業,飲食 サービス業 生活関連サー ビス業,娯楽業 医療,福祉 複合サービス 事業 サービス業(他 に分類されない もの) y = -0.4929x + 191.2 R² = 0.3036 140 145 150 155 160 165 170 175 180 185 190 30 40 50 60 70 80 年次有給休暇の取得率(%) 月間総実労働時間 教育,学習支援業 学術研究,専門・技術 サービス業 建設業 製造業 電気・ガス・熱供 給・水道業 情報通信業 運輸業,郵便業 卸売業,小売業 金融業,保険業 不動産業,物品 賃貸業 学術研究,専門・ 技術サービス業 宿泊業,飲食 サービス業 生活関連サービ ス業,娯楽業 教育,学習支援 業 医療,福祉 サービス業(他 に分類されない もの) y = -1.0794x + 290.76 R² = 0.6165 140 145 150 155 160 165 170 175 180 185 190 100 105 110 115 120 125 労働者1人平均年間休日総数(日) 月間総実労働時間 複合サービス 事業 きればそれだけ就業日数が減るのは当然のことで、例えば年休取得率が低い「宿泊業,飲食サー ビス業」は年間就業日数が多く、年休取得率が高い「電気・ガス・熱供給・水道業」は年間就 業日数が相対的に少ない。だが、年間就業日数が年休取得率だけで決まるわけではなく、例え ば「運輸業,郵便業」「サービス業」「金融業,保険業」の年休取得率はいずれも 50%程度である が、年間就業日数はそれぞれ 261 日、253 日、244 日と大きく異なる。 産業ごとに年間就業日数が異なるのは年休の取得しやすさだけでなく、週休制の形態の違い が大きく影響しているだろう。図表 2 右図に示したように、「運輸業,郵便業」や「宿泊業,飲食 サービス業」「生活関連サービス業,娯楽業」は、「週休 1 日制又は週休 1 日半制」の企業割合が 他の産業に比較して明確に高く、「完全週休 2 日制より休日日数が実質的に少ない制度」(月 3 回、隔週、月 2 回、月 1 回の週休 2 日制)の割合も高い(完全週休 2 日制の割合が低い)。つま り、これらの産業は、もともと休日数が少ない。 ここまでの本文や図表の情報を整理すると、前掲図表 1 で長時間労働者の割合が最も高い「運 輸業,郵便業」は、年休取得率が極端に低いわけではないが、完全週休 2 日制でないケースが多 いため年間就業日数が多い。2 番目に長時間労働者の割合が高い、「宿泊業,飲食サービス業」は、 完全週休 2 日制でないケースが多いことに加えて年休取得率がかなり低いため、年間就業日数 が非常に多い。3 番目に長時間労働者の割合が高く、その割合が例外的に上昇している「教育業, 学習支援業」は、年休取得率が低い部類に入るが、週休 2 日制がある程度確保されているため 年間就業日数は平均的である。 それでは、就業日数や休日総数、年休の取得は、月間や年間といった期間の労働時間とどの 程度の関係性があるだろうか。年間就業日数や年休取得率と、月間総実労働時間との関係を見 たのが図表 3 である。当然のこととして、休日総数が多い(就業日数が少ない)産業や年休取 得率が高い産業では、総実労働時間が少ないという関係性が見られる。 図表3 左:労働者の休日総数と月間総実労働時間、右:年休取得率と月間総実労働時間 (出所)厚生労働省「毎月勤労統計調査 平成 29 年分結果確報」、厚生労働省「平成 29 年就労条件総合調査」 より大和総研作成

(5)

3.9 4.4 2.8 3.2 3.9 4.7 8 8 13.7 13.9 21.6 22.2 23.7 47.1 50.9 64.8 0 10 20 30 40 50 60 70 無回答 その他 雇用の初期費用が高いから(人員を補充するより時間外割増率の方が安い から) 成果・業績主義化や業務の個別化等で職場に助け合いの雰囲気がないか ら (従業員)が人事評価を気にしているから(残業が評価される風土がある、そ う思い込んでいる社員がいる等) 個々の仕事に求める成果が明確でないから 職場に帰りにくい雰囲気があるから 営業時間が長いから (従業員)が残業手当や休日手当を稼ぎたいから 納期やノルマが厳しいから 能力・技術不足で時間がかかってしまう従業員がいるから 仕事の進め方にムダがあるから(急な方針変更やあいまいな指示、 プロセスの多い決済手続き、長時間におよぶ会議等) 組織間や従業員間の業務配分にムラがあるから 仕事の性質や顧客の都合上、所定外でないとできない仕事があるから 人員が不足しているから(一人当たりの業務量が多いから) 業務の繁閑が激しいから、突発的な業務が生じやすいから (%)

(3)所定外労働時間の状況

休日や有給休暇が取得できれば、それだけ労働時間は短くなるが、休日や有給休暇が取得で きれば長時間労働にはならないということではない。休暇を取得すれば、所定内労働時間の総 和は短くなるが、就業日に長時間働く必要があれば 1 日当たり、1 週当たり、1 か月当たりで長 時間労働になる。週 60 時間以上の長時間労働にならないようにするためには、就業日における 所定外労働時間を減らす必要がある。 労働政策研究・研修機構の「労働時間管理と効率的な働き方に関する調査」(2016 年 3 月)を 見ると、所定外労働時間が多くなる要因の上位として、「業務の繁閑が激しいから、突発的な業 務が生じやすいから」「人員が不足しているから(一人当たりの業務量が多いから)」「仕事の性 質や顧客の都合上、所定外でないとできない仕事があるから」の 3 つを、企業は回答している (図表 4)。 同調査によれば、産業別に見た場合、「建設業」や「情報通信業」、「学術研究、専門・技術サ ービス業」といった産業では、上記以外にも「納期やノルマが厳しいから」との理由も多い。 また、「宿泊業、飲食サービス業」では、「営業時間が長いから」という理由が多くなっている。 図表4 企業が考える所定外労働が発生する理由(複数回答) (2014 年) (出所)労働政策・研究研修機構(2016)「『労働時間管理と効率的な働き方に関する調査』 結果および『労働時間や働き方のニーズに関する調査』結果」JILPT 調査シリーズ No.148(2016 年 3 月)より大和総研作成 産業による特性はあるものの、どの産業においても共通して、「組織間や従業員間の業務配分 にムラがあるから」や「仕事の進め方にムダがあるから(急な方針変更や曖昧な指示、プロセ スの多い決裁手続き、長時間におよぶ会議等)」、「能力・技術不足で時間がかかってしまう従業 員がいるから」といった、業務の非効率さや管理者のマネジメントスキル不足、社員の人材育 成の課題も各産業は抱えている。 企業が考える所定外労働が発生する要因はこのように様々であるが、多くの企業に共通する ことの一つは恒常的な人手不足である。そこで、日銀短観の雇用人員判断 DI と週 60 時間以上

(6)

鉱業,採石業, 砂利採取業 製造業 建設 不動産 物品賃貸 卸売 小売 運輸・郵便 通信 電気・ガス 宿泊・飲食 サービス y = -0.0013x + 0.037 R² = 0.209 0% 2% 4% 6% 8% 10% 12% 14% 16% 18% 20% -70 -60 -50 -40 -30 -20 -10 0 雇用人員判断DI 週60時間以上の雇用者割合 情報サービス その他情報通信 の雇用者割合との関係性を見たのが図表 5 である。人手不足感が強い産業においては、長時間 労働となるケースが増えやすい傾向が窺われる。 図表5 産業別に見た雇用人員判断 DI(2017 年 12 月)と長時 間労働者割合(2017 年) (注)雇用人員判断 DI とは、過剰と回答した企業の割合から不足と回答した企業の割合を差し引いた値である。 (出所)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」、総務省統計局「労働力調査」より大和総研作成

3.各産業で抱える課題

(1)産業別の一般労働者の賃金水準

長時間労働が発生してしまう働き方には、各産業のその業務特性や就業状況の違い、人手不 足の状況等が影響している。では、こうした各産業の働き方はどのように変えていく必要があ るのか、長時間労働の課題を中心に、考えられる課題を探る。 厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」の一般労働者のきまって支給する現金給与額(定期 給与)と、同じく厚生労働省の「毎月勤労統計調査」の月間総実労働時間との関係性を見てみ た(図表 6 左図)。これによれば、「運輸業,郵便業」や「宿泊業,飲食サービス業」は、平均的 な労働時間が長いにもかかわらず、相対的に賃金水準が低い。 図表 6 右図に示した、定期給与に占める所定内給与(いわゆる基本給)と所定外給与(時間 外勤務手当、深夜勤務手当、休日出勤手当、宿日直手当などの超過労働給与)の割合を見ると、 長時間労働者の割合が高い点では共通する「運輸業,郵便業」と「教育,学習支援業」とでは、 それらの割合に大きな違いがある。すなわち「運輸業,郵便業」の場合は、定期給与に占める所 定内給与の割合が他産業に比較して最も低く、所定外給与の割合が 15.7%と最も高い。一方、 「教育,学習支援業」の場合は、定期給与に占める所定内給与の割合が高い。 一般的に、労働集約的な産業においては、機械化やシステム化を進めにくいことから人的サ ービスを提供するという性質上、労働時間に対する賃金率は低くなりがちである。資本集約的 な「製造業」や知識集約型の「学術研究,専門・技術サービス業」等では賃金水準が高い。「運

(7)

建設業 製造業 電気・ガス・熱 供給・水道業 情報通信業 運輸業, 郵便業 金融業,保険 業 不動産業,物 品賃貸業 学術研究,専 門・技術サービ ス業 宿泊業,飲食 サービス業 生活関連サー ビス業,娯楽業 教育,学習支 援業 医療,福祉 複合サービス 事業 サービス業(他 に分類されな いもの) y = -3.0026x + 849.11 R² = 0.2603 200 250 300 350 400 450 500 140 150 160 170 180 190 総月間実労働時間 きまって支給する現金給与額(千円) 卸売業,小売業 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 建設業 製造業 電気・ ガ ス ・ 熱供給・ 水道業 情報通信業 運輸業, 郵便業 卸売業, 小売業 金融業, 保険業 不動産業, 物品賃貸業 学術研究, 専門・ 技術サー ビ ス 業 宿泊業, 飲食サー ビ ス 業 生活関連サー ビ ス 業, 娯楽業 教育, 学習支援業 医療, 福祉 複合サー ビ ス 事業 サー ビ ス 業( 他に 分類さ れな い も の) 所定外 所定内 輸業,郵便業」のように定期給与に占める所定外給与の割合が高い産業では、今後、業務の効率 化等、労働生産性の向上が図られ長時間労働が是正された場合に、所定外給与が減少して生活 水準が低下しやすい。こうした産業では生産性向上の成果を労働者に賃金として還元し、雇用 者の生活水準が低下しないような配慮が特に必要だろう。 図表6 左:産業別、一般労働者の賃金水準(2017 年)、右:定期給与に占める所定内・所定外 の割合(2017 年) (出所)厚生労働省「平成 29 年賃金構造基本統計調査」、総務省統計局「毎月勤労統計調査 平成 29 年分結果 確報」より大和総研作成

(2)労働者の健康確保の観点

長時間労働は、働く人々の健康にも大きな影響を与える。これに関して、厚生労働省の「過 労死等の労災補償状況」から、就業者に占める精神障害の請求件数を見ると、「製造業」「卸売 業,小売業」「医療,福祉」等で多く、長時間労働者の割合が高い「運輸業,郵便業」では脳・心 臓疾患や精神障害が多い(図表 7)。 労働政策審議会「時間外労働の上限規制等について(建議)」(2017 年 6 月 5 日)には、長時 間労働に対する健康確保措置として、医師による面接指導や労働時間の客観的な把握が盛り込 まれた。管理者も含む全ての労働者の労働時間の状況を把握することは重要である。ただし、 産業ごとに脳・心臓疾患や精神障害の割合には違いがあることから、例えば、深夜勤務や連続 しての出勤日数、精神的に負荷がかかるような労働の質に配慮した健康確保措置の対策が求め られる。

(8)

10.5 22.2 54.2 11.0 7.8 3.0 5.4 14.8 14.4 25.3 19.0 43.1 21.2 34.0 12.2 32.4 45.0 18.5 0 10 20 30 40 50 60 0 50 100 150 200 250 300 350 400 (件数) 精神障害(請求件数) 脳・心臓疾患(請求件数) 就業者に占める脳・心臓疾患(請求件数)の割合 就業者に占める精神障害(請求件数)の割合 図表7 産業別、脳・心臓疾患や精神障害の請求件数と就業者 に占める請求件数の割合 (注)請求件数の割合は、就業者 100 万人に対するものである。 (出所)平成 27 年度「過労死等の労災補償状況」、 総務省統計局「労働力調査(2015 年平均)」より大和総研作成

4.おわりに

働き方改革の大きな目玉は長時間労働の是正である。これは働く全ての人にとって、仕事と 家庭の両立を可能にし、意欲と能力に応じて力を発揮できるようにするものである。ただし、 同じ長時間労働でも、就業日数や年休取得率、所定外労働時間の状況は各産業で大きく異なる ことから、それぞれの実態を踏まえた政策や自主的な対応が、国や各企業には求められる。 少子高齢化が進んでいる今、人材の確保や育成を考えていなければ、人手不足の課題はより 深刻になろう。労働者の健康を確保できるような労働時間制度やその環境整備が急務である。 さらに、労働生産性の向上が図られ労働時間が減少した場合、生産性向上の成果は労働者に賃 金として還元される必要があり、単なる所定外給与の削減を通じた労働者の生活水準の低下と なってはならない。長時間労働の是正は、労働生産性と賃金の向上という課題そのものであり、 各産業の業務の特性に応じてどのように業務の効率化を図るか、どのように各産業の競争力を 高めるのかということに帰着する問題である。

参照

関連したドキュメント

産業廃棄物処理業許可の分類として ①産業廃棄物収集・運搬業者 ②産業廃棄物中間処理 業者 ③産業廃棄物最終処分業者

② 小売電気事業を適正かつ確実に遂行できる見込みがないと認められること、小売供給の業務

製造業※1、建設業、運輸業など 資本金3億円以下 または 従業員300人以下 卸売業 資本金1億円以下 または 従業員100人以下 小売業

物品賃貸業,専門サービス業,広告業,技術サービス 業,洗濯・理容・美容・浴場業,その他の生活関連サー

大阪府中央卸売市場加工食品卸売商業協同組合こだわり食材市場 小売業.

運輸業 卸売業 小売業

Further using the Hamiltonian formalism for P II –P IV , it is shown that these special polynomials, which are defined by second order bilinear differential-difference equations,

飲食サービス業 …… 宿泊業、飲食店、持ち帰り・配達飲食サービス業 7 医療、福祉 ………