数学2 第5回 群の構造:正規部分群
2009/10/28 いろいろなシンメトリーを考える話はまだ続くのですが、今回は間を入れて、群自体についての考察 です。 ■1.部分群 正三角形は三角形として最大にシンメトリックな図形です。これに対して二等辺三角形は、回転のシ ンメトリーは失われていますが、鏡映のシンメトリーを残しています。逆に考えると、正三角形は二等 辺三角形のシンメトリーを“部分的”に持つといえます。まあしかし、正三角形は二等辺三角形の一種 だから当たりまえといえば当たりまえですね。しかし、例えば正六角形のシンメトリーを考えてみまし ょう。 図を見てわかるように、正六角形は内部に正三角形を“隠し持って” いますから、正三角形のシン メトリーを“部分的”に持っていることになります。 「図形のシンメトリー群」というのは、図形の形を変えない操作の集まりでしたから、「正六角形の シンメトリー群」は「正三角形のシンメトリー群」を含んでいるはずです。このような「大きな群の中 にある小さな群」を部分群といいます。 ある群のなかにまた群があるという意味は、群がノッペラボーなものではなく、ある種の構造がある ことを示しています。その構造を調べるのが群論の目的のひとつです。 さて、群というのは、端的にいうと何らかの「操作の集まり」のことであり、特に操作を続けて行う ことをある種の掛け算(積)と考えるのでした。これを抽象的に定義すると、 【定義】 集合Gの任意の2つの要素x、yに対して以下の4条件が成り立つときとき、Gを群といいます。 (1)積x・yがあり、積の結果はGの要素の一つ :閉じた演算 (2)(x・y)・z=x・(y・z)が成り立つ :結合法則 (3)x・1=1・x=x を満たすGの要素「1」すなわち単位元(何もしない操作)が存在する (4)x・x-1=x-1・x=1 をみたすGの要素x-1、すなわちxの逆元(逆操作)が存在するとなります。群のなかの群、すなわち部分群も群である以上はこの定義(公理)を満足するものでなけ ればなりません。 (例1)3次置換のシンメトリー群(3次の対称群) これはこれまで何度か登場した群ですが、改めて述べておきましょう。3次の置換操作は次の6つで す。 1=
3
3
2
2
1
1
σ=
1
3
3
2
2
1
τ=
2
3
1
2
3
1
a=
3
3
1
2
2
1
b=
1
3
2
2
3
1
c=
2
3
3
2
1
1
この6つの置換の集まりが「3次置換のシンメトリー群」です。Gの乗積表は次の表 1 のようになりま す: 1 σ τ a b c 1 1 σ τ a b c σ σ τ 1 c a b τ τ 1 σ b c a a a b c 1 σ τ b b c a τ 1 σ c c a b σ τ 1 乗積表(表 1)を見ると、表の左上隅の操作「1、σ、τ」の部分には「1、σ、τ」しか出てきて いませんよね? つまり、巡回置換操作「1、σ、τ」同士で掛け算しても他の3つの互換操作「a、 b、c」は出てきません(図形的には「回転で鏡映像を作ることができない」ことを表しています)。 3つの操作N={1、σ、τ}は、全部で6個ある操作の集まりの中で“閉じた”グループ(巡回派閥?) を形成しているわけで、すなわちNはGの部分群なわけです。 ところで、このような閉じたグループは“巡回置換グループ”だけではありません。例えば「恒等置 換1と互換a」の2つの置換操作は、この2つ同士でいくら掛け算しても、「1とa」以外の構成員は 出てきませんから、閉じた小グループになっています。念のため「1とa」の乗積表を書いておきまし ょう: 〔表 1〕 3 次置換のシンメトリー群Gの乗積表 (左端の列)・(上端の行)を計算した表です。 例)σ・b=a 1 a 1 1 a a a 1結局、H={1とa}はGの部分群です。同様に「1とb」、「1とc」もGの部分群となります。 もちろん、Gからテキトーに要素を選んだだけで、それらが部分群になるとは限りません。例えば、 「1とσ」で乗積表をつくると となって、“仲間外れ”のτが出てきてしまうから閉じていません。また、「1、σ、a」だと となって、全然閉じていないのでこれもだめです。 こうやって調べていくと、Gの部分群は N={1、σ、τ}、 H={1、a}、 H'={1、b}、 H''={1、c} の4つしかないことがわかります。 ・・・と言いたいところですが、ちょっと待ってください。「恒等置換(単位元)のみ」={1}と いうのは、一応群の公理を満たしていますから、これも部分群として扱うべきです。また、いま考えて いるのはGの「部分」であって、G自体は「全体」なのですが、しかし、G自身を「部分群」のひとつ と数えておくと何かと便利です。そんなわけで、Gの全部分群は G、 N={1、σ、τ}、 H={1、a}、 H'={1、b}、 H''={1、c}、 1 の6つとなります。 どんな群でも「群それ自体」と「単位元のみ」という部分群を必ず持ちます。しかし、この2つは部 分群としてはあたりまえすぎて、あまりおもしろいものではないので「自明な部分群」と呼び、この2 つ以外の部分群を「真部分群」と呼んで区別することがあります(つまり、Gの真部分群は4つ)。 ★ ★ ★ さて、今の例ではなんだかあっさりと全ての部分群を書き出しましたが、実際は、何か群が与えられ たとき、その部分群を見つけるのは結構難しい作業となります。直接的な方法としては、群のすべての 要素の組み合わせについて、その乗積表を作って閉じているかどうかをチェックすればいいのですが、 1 σ 1 1 σ σ σ τ 1 a σ 1 1 a σ a a 1 b σ σ c τ
群の要素数がちょっとでも多くなると、これは膨大な作業となってしまいます。 しかし、いくらなんでもそこまではしなくてもよく、次のようなありがたい定理があります。 ラグランジュの定理:部分群の要素数は、親の群の要素数の約数になります。 (ただし、(残念ながら)約数の要素数の部分群がいつでもあるとは限りません。) (例)「正方形のシンメトリー群」は全部で8個の操作(回転4+鏡映4)からなります。8の約数は 1、2、4、8 ですから、部分群があるとすれば、その要素数はこのうちのどれかでなければなりません。このうち、 要素数1と8の部分群は「自明な部分群」です。 (例)「4次置換のシンメトリー群」は全部で4!=24個の置換からなります。24の約数は 1、2、3、4、6、8、12、24 ですから、部分群があるとすれば、その要素数はこのうちのどれかでなければなりません。 (例)「5次置換のシンメトリー群」は全部で5!=120個の置換からなります。120の約数は 1、2、3、4、5、6、8、10、12、15、20、24、30、40、60、120 ですから、部分群があるとすれば、その要素数はこのうちのどれかでなければなりません(実は、15、 30、40の部分群は存在しません)。 ■2.巡回群 巡回置換を思い出しておきましょう。「A、B、C、D、E」さん5人がこの順で円テーブルに座っ ているとします。各人がいっせいに左隣の人で置き換えるという操作を行いますと各人の席位置は「B CDEA」となります。 このような置換を「巡回置換」というのでした。今の置換を「σ」という記号で表し、置換操作による 席位置の変化を、 σ(「ABCDE」)=「BCDEA」
A
B
D
C
E
A
B
D
C
E
という式で表すことにしましょう。さて、同じσ操作をもう一度行うと席位置は「CDEAB」、式で 書くと σ・σ(「ABCDE」)=σ2(「ABCDE」)=「CDEAB」 となりますが、元の「ABCDE」からみると、これは「いっせいに2つ左隣の人で置き換える」とい う操作になっていることがわかります。席位置は変わったものの、隣接する人の順番は変わっていませ んから、σ2も巡回置換の1つです。さらに、σの置換を何度も続けて行うと、σは隣接する人の順番 を変えませんから、いつか元の席位置「ABCDE」に戻ります(つまり人がぐるぐる“巡回”するわ けです。これは正5角形の回転操作と完全に対応します)。 σ3(「ABCDE」)=「DEABC」 σ4(「ABCDE」)=「EABCD」 σ5(「ABCDE」)=「ABCDE」 こうして1つの巡回置換から5つの巡回置換が作り出されました。これを全て集めたもの、 C={1、σ、σ2、σ3、σ4} (σ5=1=恒等置換に注意!) は群の公理を満足します。この群を「(5次の)巡回群 cyclic group」といって「C5」などと表記し ます。 巡回群が大事なのは、次のような性質を持つからです。 (1)巡回群は(上の例のように)1つの要素から作られる。 (2)巡回群では掛け算の順番は関係ない。 (3)要素数が素数の群は必ず巡回群である。 (4)巡回群の部分群は、必ず巡回群。 (5)巡回群の要素数の約数には、対応する部分群が必ずある。 (例)正六角形の回転シンメトリー群(6次巡回群) 正六角形は60度回したら同じ形に重なります。そこで「60度回転操作」をσとしましょう。する と、σ2=「120度回転」、σ3=「180度回転」、σ4=「240度回転」、σ5=「300度回転」、 σ6=「360度回転」=「何もしない」 となります。 これは結局「6人が円テーブル」に座っているのと同じことなので、 C6={1、σ、σ2、σ3、σ4、σ5} は巡回群になります。乗積表を作ってみると、
1 σ σ2 σ3 σ4 σ5 1 1 σ σ2 σ3 σ4 σ5 σ σ σ2 σ2 σ2 σ3 σ3 σ4 σ4 σ5 σ5 この巡回群の要素数は6ですので、その約数2,3の要素数の部分群があるはずです。これは、回転 を考えればすぐわかるように、 {1、σ3}、 {1、σ2、σ4} です。 ■3.群の分解と正規部分群 3次の置換シンメトリー群Gは部分群H H={1、a} (互換の1つ) と N={1、σ、τ} (巡回置換) というのを持っていました。この2つの部分群の違いは、見た目まず要素数が違うというのがあります が、それ以上に重要な性質上の違いがあります。 まずHです。H以外のGの残りの要素は {σ、τ、b、c} の4つで、(そもそも恒等置換がないから)これらだけで群をつくることはできませんが、ただの“余 り”ではなく、部分群Hとそれなりに関係しています。 “余り”の要素の中から(どれでもいいのですが)置換bを取り出して、これをHの各要素に右から 〔表2〕 6次の巡回群C6 空欄を埋めてね!
掛け算してみます(乗積表をみて計算してね)。すると、 Hb={1・b、a・b}={b、σ} となって、“余り”のうちの2つがHから出てきました。さらに、Hの各要素に右からcを掛け算して みると、今度は Hc={1・c、a・c}={c、τ} となります。つまり、S3はHによって「H+Hb+Hc」と“仲間わけ”されることがわかりました (これを部分群HによるGの右分解といいます)。これはちょうど、整数を「偶数+奇数」と仲間わけ すること、あるいは3で割った余りで「0の数+1の数+2の数」と仲間わけできるのと似た状況です。 ところで、今は要素を「右から」掛け算しましたが、普通の数とは違って、群では掛け算の順番を変 えると結果が異なることがあります。そこで、今度は「左から」要素をかけてみましょう。すると、 bH=={b・1、b・a}={b、τ} cH={1・c、c・a}={c、σ} となって、先の「右掛け」と同様Gの“仲間わけ” 「H+bH+cH」(部分群HによるGの左分解と いいます)ができました。しかし、よく見ると、その構成員は右分解の場合とは違ったものとなってい ますね。 さて、今と同じことを、今度はもう一つの部分群N={1、σ、τ}に対しても行ってみましょう。 Nを除いたGの残りは{a、b、c}です。そこで要素aをNに右から掛けてみましょう: Na={1・a、σ・a、τ・a}={a、c、b} となって、GはNとNaの2つに“仲間わけ”されました。次に、左掛けしてみると、 aN={a・1、a・σ、a・τ}={a、b、c} となって、今度はHの場合と違って、右分解と左分解が一致しました。 これが、この説の初めの方で述べた「部分群の性質の違い」です。Nのように、(親の群)Gの要素 を右掛け、左掛けしたとき、構成要素が一致するような部分群を「正規部分群 Nomal subgroup」とい います。何が“正規=ノーマル”なのかはこれだけではよくわかりませんが、この部分群はいろいろと (数学者にとって)良い性質を持っていて、そんな良い性質のものは(数学者にとって)ノーマルなわ けです(説明になってませんが・・・要するに、左右を区別しなくてもよいので、整数と似た性質を持
つ、というのがノーマルなのです)。実は、この「正規部分群」こそ、方程式が解けるか否かのカギな のです。 ともかく、多くの群が部分群を持ちますが、その中には正規な部分群と非正規な部分群があるわけで す。いささかあたりまえの例としては、「自明な部分群」すなわち「群自分自身」と「単位元」という のが正規部分群で、この2つはどんな群でも持つ正規部分群です。特に、この2つしか正規部分群を持 たない群は「単純群」と呼ばれます。整数が素数の掛け算で書けるように、すべての群は単純群の合成 で書くことができます。つまり、単純群は群の世界の「素数」の役割を持ちます。