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英語の定期テスト高成績者が実力テストで成績が振るわないのはなぜか?

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英語の定期テスト高成績者が実力テストで

成績が振るわないのはなぜか?

松沼 光泰

1 早稲田大学

Why are some high achievers on the course nal exam unsuccessful

on the prociency exam in English?

Mitsuyasu Matsunuma

(Waseda University)

This study examined why some high achievers on the course nal exam were unsuccessful on the prociency exam in English. We hypothesized that the learning motives and learning behaviors (learning strategy, learning time) had di唖erent e唖ects on the outcomes of the exams. First, the relation between the variables was investigated using structural equation modeling. Second, the learning behaviors of students who got good marks on both exams were compared with students who did well only on the course nal exam. The results were as follows. (a)Learning motives inuenced test performance via learning behaviors. (b)Content-attached motives inuenced all variables concerning learning behaviors. (c)Content-detached motives inuenced all variables concerning learning behaviors that were related only to the course nal exam. (d)The students who got good marks on both exams performed the learning behaviors that were useful on the prociency exam more frequently than the students who did well only on the course nal exam.

Key words: English learning, learning motives, learning strategy, learning time, test performance.

The Japanese Journal of Psychology

2009, Vol. 80, No. 1, pp. 9-16 高校英語において,中間テストなどの定期テストで は比較的成績が良いのに実力テストでは成績が振るわ ない生徒が散見される。靜(2002)は,英語の定期テ ストと実力テストは英語のテストであるという点では 共通であるが,前者の材料となる英文は授業中に扱わ れたものであり,一方,後者では授業で扱っていない (初見の)英文が出題されると定義している。これに 関連して,藤澤(2002)は英語の定期テストを取り上 げ,教科書本文から出題されるため,本質的理解を伴 わない場合にも,良い成績を修める可能性があること を指摘している。これらのことを考慮すると,英語の 定期テストでは授業で扱った英文を出題するという性 質上,他教科と比べ,定期テストで高得点をとった生 徒が実力テストで点をとれないという現象が顕著にな る可能性がある。そこで本研究では,特に英語という 科目を取り上げ,教育心理学の観点から,冒頭に示し た現象が起きる原因を明らかにしようとするものであ る。 さて,冒頭で示したように性質の異なるテストに対 して得手不得手があるということは,生徒が適切な勉 強方法を選択していない可能性がある。英語の学業成 績 を 大 き く 規 定 す る 要 因 と し て は,堀 野・市 川 (1997)が示したように,学習動機と学習行動が指摘 できる。そこで,本研究では,定期テストと実力テス トの各成績に対して,生徒の学習動機と学習行動が異 なるプロセスを経て影響を及ぼすという仮説を立て, この問題に迫りたい。そこで,まず,生徒の学習動機 と学習行動を捉える枠組みについて検討を行いたい。 まず,学習動機について,市川(2001)は,自由記 述により集めたデータを整理し構造化することによっ て学習動機の 2 要因モデルを提唱した。そこでは学習 動機は,まず,充実志向(学習が楽しいため),訓練 志向(知力をきたえるため),実用志向(仕事や生活 に生かすため),関係志向(他者につられて),自尊志 向(プライドや競争心のため),報酬志向(報酬を得 るため)の 6 種類に分類され,さらに,これらは,学 習の功利性と学習内容の重要性という二つの要因によ って構造化されている。前者は,勉強すれば得をする Correspondence concerning this article should be sent to: Mitsuyasu

Matsunuma, School of Education, Waseda University, Nish-Waseda, Shinjuku-ku, Tokyo 169-8050, Japan(e-mail: alfee@fuji.waseda.jp) 1 本論文の作成にあたり,丁寧なご指導を賜りました早稲田大 学教授 麻柄 啓一先生にこの場をお借りしまして心よりお礼申 し上げます。

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と学習者が考えているか否かを反映し,後者は,学習 内容自体に関心があるか否かを反映したものである。 この学習動機尺度の構造を調査した研究によれば, この尺度は,結局のところ,学習内容を重視した内容 関与的動機(充実志向,訓練志向,実用志向)と軽視 した内容分離的動機(関係志向,自尊志向,報酬志 向)という二つのグループに明瞭に分類されることが 報告されている(堀野・市川,1997)。本研究では, この 2 要因モデルを用いて,生徒の学習動機を捉える ことにする。 次に,学習行動の捉え方についてであるが,久保 (1999)は学習行動には,学習方略と学習時間が含ま れるとしている。 まず,学習方略について検討する。自己調整学習 (self-regulated learning)に関する研究では,効果的な 学習方略を遂行している学習者は学業成績が良いこと が 指 摘 さ れ て き た(Pintrich & De Groot, 1990; Zimmerman & Martinez-Pons, 1990)。また学習方略研 究では,学習方略は,深い処理と浅い処理に分類され ることが多い。村山(2003)によれば,前者は,学習 内容間の関連などに留意した理解を意識した方略 であり,後者は,意味的な符号化を伴わない暗記 を 意 図 し た 方 略 で あ る。Elliot, McGregor, & Gable (1999)は,学習方略とテスト成績の関係を扱った諸 研究を概観し,一般に,深い処理は学業成績と正の相 関があるが,浅い処理は学業成績と無相関であること を報告している。 一方,学習時間については,学業成績と正の相関が あることが一般的に指摘されている。例えば,塩谷 (1995)は高校生を対象にこの関連を示した。以上の ような先行研究に基づき本研究では,学習行動の指標 として英語に関する学習方略と英語の学習時間を取り 上げる。 次に,学習動機,学習行動,学業成績についての因 果モデルを構成することが必要になる。そこでこれら の関連性を扱った研究を概観する。 Nolen(1988)は,達成目標と浅い処理と深い処理 という 2 種類の学習方略の関連,さらには,学習方略 と学業成績の関連を検討した。達成目標とは学習動機 に関する変数の一つとして位置づけ得るものであり, Elliot & Harackiewicz(1996)によれば,有能さに関連 す る 活 動 の 理 由 ま た は 目 的 と 定 義 さ れ る。Nolen (1988)の調査の結果,課題を学習すること自体を目 標とする課題志向性の高い学習者は浅い処理よりも深 い処理を用いる傾向があることが示された。その一方 で,深い処理と学業成績との有意な関係は得られなか った。 国内の研究では,Yamato(2002)が動機づけが 学習方略の遂行を促進し,その結果として学業成績が 向上するという因果モデルを想定し,これを検討し た。その結果,大部分の動機づけは学業成績を直接規 定するのではなく,学習方略を介して学業成績に影響 を及ぼしていた。 また,堀野・市川(1997)は,英語学習について, 動機づけに関して先の 2 要因モデルを採用し,学習方 略,学業成績との関連性を検討した。調査の結果,先 に述べた内容関与的動機と内容分離的動機のうち,前 者のみがすべての学習方略を促進し,また,体制化方 略だけが英語のテスト成績と正の関連を持つことが示 された。 このように先行研究を概観してみると,一般に学習 動機は学習行動に影響を及ぼし,この学習行動が学業 成績に影響を及ぼすことが報告されている。そこで, 本研究では,大枠として,学習動機→学習行動→テ スト成績という因果モデルを想定する。 さて,ここで本題に戻る。冒頭では,定期テストと 実力テストの成績にギャップのある生徒がいることに 着目した。これに関して,先行研究に関するここまで の検討から,このような生徒が存在するのは,生徒の 学習動機,学習行動という要因が異なったプロセスを 経て定期テストと実力テストという 2 種類のテストに 影響を及ぼす(2 種類のテスト成績を規定している要 因が異なる)からであるという仮説を立てることが可 能である。本研究では,まずこの点を明らかにした い。 次に,定期テストにおける相対的な成績は高いが実 力テストでの相対的成績が低い生徒を抽出して,その 学習行動上の特徴を検討する。その際,彼らの学習行 動を,双方のテストで相対的成績が高い生徒の学習行 動と比較することが有効であろう。なぜなら,後者の タイプは,理想的な学習者であるので,このグループ と比較することによって,問題となる生徒の学習行動 を改善するのに有益な示唆が得られると考えられるか らである。これは,直接的には,上記のタイプの生徒 に対する学習指導を念頭においたものであるが,これ らの者ほど両テストの成績に顕著な差がない他の多く の生徒にも少なからず有益な示唆をもたらすと考え る。 予 備 調 査 目 的 本研究で使用する英語学習方略尺度を作成する。 方 法 調査参加者 東京近郊私立高等学校 2 年生 154 名 (男子 83 名,女子 71 名)。 調査材料 英語学習方略尺度(高校生版)を実施し た。本尺度は,Politzer & McGroarty(1985)の英語学 習行動質問紙及び堀野・市川(1997)の英単語学習方 心理学研究 2009 年 第 80 巻 第 1 号

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略尺度を参考に,著者と現職の英語教諭 2 名の計 3 名 により,日本の高校生の英語学習全般に有効であると いう点に留意しながら,最終的に,17 項目を作成し た。評定は 5 件法である。 手続き 2003 年 12 月,担任教師指導の下に,クラ ス単位で実施された。 結 果 因子分析 17 項目に対して,主因子法・promax 回 転による因子分析を実施した。固有値 1 以上という基 準から 4 因子を抽出した。その時点でどの因子にも .40 未満の低い負荷量しか示さない 2 項目を除き 15 項 目によって再度,主因子法による因子分析を実施し た。固有値 1 以上という基準と固有値の減衰状況 (5.09,1.86,1.69,1.40,.81)か ら 4 因 子 を 抽 出 し promax 回転を実施した結果を Table 1 に,因子間の 相関を Table 2 に示す。 第 I 因子は単純な暗記に関する項目の負荷量が高い ので,暗記方略と命名した。第 II 因子は学習事項を 整理し学習することに関する項目の負荷量が高いの で,整理学習方略と命名した。第 III 因子は英語の文 法事項や構文を重視することに関する項目の負荷量が 高いので,文法・構文方略と命名した。第 IV 因子は 日常生活で英語を使用することに関する項目の負荷量 が高いので,日常学習方略と命名した。 信頼性の検討 得られた各下位尺度について, Cronbach の a 係数を算出したところ,暗記方略で .80,整理学習方略で.77,文法・構文方略で.82,日常 学習方略で.89 という値が得られた。また,全調査対 象者中の 61 名(男子 38 名,女子 23 名)について約 1 カ月の間隔をおいて,再検査法による信頼性係数を 算出した。その結果,暗記方略で.78,整理学習方略 で.85,文法・構文方略で.87,日常学習方略で.90 とい う十分な値が得られた。 Table 1 英語学習方略の因子分析結果(因子パターン行列) 項目内容 F1 F2 F3 F4 共通性 英文や単語・熟語は,発音しながら,覚えます .74 .05 −.01 −.04 .56 英文や単語・熟語は,何度も書いて覚えます .71 .24 −.11 −.13 .59 英語を勉強する時,教科書やノートの重要な箇所をさがして,重点的に 覚えます .65 −.14 .06 .06 .42 英語を勉強する時,教科書の例文を覚えます .63 −.19 .01 .06 .35 学習した単語や熟語は,覚えるようにします .56 .29 .03 .00 .56 単語の同意語,類義語,反意語を調べてまとめて学習します −.07 .89 .00 −.02 .74 一度習った構文や単語は,忘れないようにノートや単語カードを使って 整理して学習します .04 .63 −.13 .11 .38 一つの単語のいろいろな形(名詞形・動詞形など)を整理して学習します −.02 .57 .13 .09 .44 スペルや発音が似ている単語を整理して学習します −.03 .53 .17 −.03 .38 英文を読む時,学習した文法事項や構文に注意しながら読みます −.05 .04 .85 −.11 .69 英語を勉強する時,文法事項や構文に注意して学習します .02 .02 .82 −.03 .70 授業で習った文法事項や構文を重点的に復習します .29 −.21 .58 .15 .52 英語を勉強する時,動詞の分類(自動詞・他動詞)に注意して学習します −.11 .29 .57 .03 .52 日常生活で,学習した英語を使ってみたり,英語で考えてみたりします .01 .05 −.02 .97 .95 自分が日常生活で経験したことを英語で表現できるかどうか時々確かめ てみます −.02 .07 −.03 .82 .67 注) F1からF4は第Ⅰ因子から第Ⅳ因子に相当する。 Table 2 因子間相関 1 2 3 4 1. F1 ─ 2. F2 .40** ─ 3. F3 .44** .49** ─ 4. F4 .22** .16* .26** ─ ** p<.01, p<.05

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本 調 査 目 的 学習動機,学習行動という要因が,性質の異なる定 期テストと実力テストに影響を及ぼすプロセスを,共 分散構造分析(豊田,1992)を適用して因果モデルで 表現することによって比較検討する。 方 法 調査参加者 東京近郊私立高等学校 2 年生男子 106 名。なお,調査校ではほぼ全員が 4 年生大学に進学す る。 調査材料 学習動機は,市川(2001)による 2 要因 モデルに基づく学習動機測定尺度の 36 項目を用いた。 この尺度は,学習内容の重要性という要因によって, 内容関与的動機と内容分離的動機の二つに分類され る。そこで充実志向,訓練志向,実用志向の各尺度得 点を合計し内容関与的動機得点とし,関係志向,自尊 志向,報酬志向の各尺度得点を合計し内容分離的動機 得点として分析に用いた。評定は 5 件法であり,得点 範囲は,ともに 18 点から 90 点である。Cronbach の a 係数を算出したところ,内容関与的動機で.88,内 容分離的動機で.92 という値がそれぞれ得られた。 英語学習方略は,本研究で作成した英語学習方略尺 度 15 項目を用いた。本尺度は,暗記方略,整理学習 方略,文法・構文方略,日常学習方略という下位尺度 から成り,各尺度はそれを構成する項目の合計得点に よって表される。評定は,5 件法であり,得点が高い ほど,学習者が当該の学習方略を頻繁に遂行すること を示す。得点範囲は,暗記方略で 5 点から 25 点,整 理学習方略と文法・構文方略で 4 点から 20 点,日常 学習方略で 2 点から 10 点である。Cronbach の a 係数 を算出したところ,暗記方略で.88,整理学習方略で .76,文法・構文方略で.89,日常学習方略で.83 という 値が得られた。 学習時間は,(a)定期テスト 1 週間前,(b)実力テス ト 1 週間前,(c)日常の各 1 週間の平均学習時間を質 問した。質問項目は塩谷(1995)を参考に作成され た。(a)あなたは英語を定期テスト 1 週間前にだい たいどれくらいの時間勉強していますか?,(b)あ なたは英語を実力テスト 1 週間前にだいたいどれくら いの時間勉強していますか?,(c)あなたは英語を 日頃(テスト前ではない時に)1 週間にだいたいどれ くらいの時間勉強していますか?という三つの項目 に対し 1 週間の平均勉強時間の回答を求めた。分析に は分の単位を用いた。 テストは,1 学期中間テスト及び第 1 回実力テスト を遂行指標とした。出題内容は先述の靜(2002)の両 テストの定義と一致しており,中間テストは当該期間 に学習した教科書の英文材料から出題され,実力テス トはテスト実施時点までに扱った学習内容から出題さ れた。また,両テストは調査校の英語教諭によって作 成されたテストであり,(a)発音・アクセント問題, (b)語彙問題,(c)長文読解問題,(d)英作文からなっ ていた。テスト形式はいずれのテストでも(a)が選択 式,(b)が空欄補充,(c)選択式,日本語和訳,(d)が 正序問題(並べ替え),記述式であり,両テストで同 一であった(100 点満点で各問題の配点もほぼ同一で あった)。したがって,両テストの違いは靜(2002) の定義に関する点のみであった。 手続き 2004 年 4 月,学習動機測定尺度,英語学 習方略尺度,学習時間測定質問紙が英語担当教諭指導 の下にクラス単位で実施された。また,調査対象とな る英語の実力テストは 2004 年 5 月上旬に,中間テス トは 2004 年 5 月下旬に,それぞれクラス単位で実施 された。 結 果 分析に用いた各変数の平均値,標準偏差を Table 3 に示す。まず,大枠として想定した因果モデルに基づ き,学習動機,学習行動がテスト成績(中間テスト, 実力テスト)に影響を及ぼす過程のモデルを構成し, 最尤推定法による構造方程式モデリングによって検討 した。なお,各変数間の相関係数を算出したところ, 実力テスト前の学習時間と日常の学習時間に.98(p< .01)という著しく高い値が得られた。これらを同時 にテスト成績に対する独立変数とすることは,多重共 線性の観点から望ましくない。この高い相関は,実力 テスト前になっても,学習者の英語の学習時間が,日 常遂行している学習時間から変化しないことを示して いる。そこで本研究では,実力テスト前の学習時間は 分析から除外し,定期テスト前と日常の学習時間を分 析に用いることとした。また,誤差変数間の共分散を 心理学研究 2009 年 第 80 巻 第 1 号 12 Table 3 各変数の平均値,標準偏差 平均値 SD 内容関与的動機 45.63 12.98 内容分離的動機 45.75 14.31 暗記方略 15.08 5.91 整理学習方略 8.81 3.47 文法・構文方略 11.40 4.32 日常学習方略 5.18 2.49 定期前学習時間 412.73 229.04 実力前学習時間 148.49 137.78 日常の学習時間 142.55 125.16 中間テスト成績 56.79 20.35 実力テスト成績 44.95 14.08

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0 と仮定するのが一般的であるが(豊田,1992),本 研究で構成したモデルでは,四つの学習方略にかかる 誤差変数間,定期テスト前の学習時間と日常の学習時 間にかかる誤差変数間及び中間テスト得点と実力テス ト得点にかかる誤差変数間の共分散を自由母数として 推定することとした。なぜなら,本研究のモデルで想 定した要因以外に,学習方略,学習時間,テスト成績 それぞれに対して共通して影響を及ぼす要因の存在が 想定できるからである。 因果の強さを示すパス係数とその有意確率及び各適 合度の改善の度合いを基に,モデルの修正を繰り返し て最終的なモデルを導いた(Figure 1)。このモデル の 適合度は,c2(23)=34.459, p=.059,GFI=.942, AGFI=.862,CFI=.968,RMSEA=.069 という値が得 られ,想定したモデルは受容できると判断した。分析 の結果得られた推定値,標準誤差,標準化推定値を Table 4 に示す。 以下に Table 4 に示された統計的に有意なパス係数 に着目し,本研究で構成したモデルを概観する。 第 1 に,学習動機から学習行動に至るパス係数につ いては,内容関与的動機から,暗記方略(.57, p< .01),整理学習方略(.24, p<.05),文法・構文方略 (.58, p<.01),日常学習方略(.22, p<.05),定期テス ト前の学習時間(.35, p<.01),日常の学習時間(.58, p<.01)に対して有意な正のパスが認められた。これ に対して,内容分離的動機からは,暗記方略(.15, p<.05)と定期テスト前の学習時間(.26, p<.01)に 対してのみ有意な正のパスが認められた。 第 2 に,学習行動からテスト成績に至るパス係数に ついては,中間テスト成績に対して,暗記方略(.32, p<.01),文法・構文方略(.20, p<.05),定期テスト 前の学習時間(.32, p<.01)からの正のパスが認めら れた。一方,実力テスト成績に対して,文法・構文方 略(.26, p<.01)と日常の学習時間(.48, p<.01)か らの正のパスが認められた。 なお,本研究では,各適合度指標を基に最終的なモ デルを導いたが,予想通り,学習動機からテスト成績 に対して直接的な効果がないことが示唆された。した がって,テスト成績に直接影響を及ぼすのは学習者の 遂行する学習行動であることが示された。 次に,問題となる中間テストでの相対的な成績は高 いが実力テストの相対的な成績が低い生徒(以下,中 高実低群とする)と理想的な学習者である両テストで 相対的成績が高い生徒(以下,中高実高群とする)を 抽出し,両者の各学習行動の指標を以下のように比較 検討した。 まず,中間,実力の各テスト得点の中央値を基準と し生徒を分類し,中高実低群,中高実高群を選出し た。その結果,中高実低群は 15 名,中高実高群は 36 名であった。次に,両群の各学習行動の指標について Figure 1. 学習動機・学習行動とテスト成績の関連性に関するモデル 注)1%水準で有意なパスを >,5%で有意なパスを >,誤差変数から従属変数へのパ スを > で示した。数字は決定係数(R2)と 1%水準で有意な標準化推定値である。ま た,学習方略及び学習時間にかかる誤差変数間の共分散を示す矢印及び標準化推定値は省 略した。

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t 検定を行った。Table 5 に示したように,中高実低 群は,中高実高群に比べ,文法・構文方略を遂行する 頻度が少なく,日常の学習時間も少ないことが示唆さ れた。つまり,中高実低群は,中高実高群に比べ,パ ス解析の結果示された実力テストに有効な 2 種類の学 習行動を遂行する頻度が少ないことが示された。 考 察 第 1 に,学習動機から学習方略に至る効果を考察す ると,内容関与的動機からすべての学習方略に対して 正のパスが認められ,内容分離的動機からは暗記方略 に対してのみ正のパスが認められた。分析に用いた英 語学習方略は学習方略研究でしばしば論じられる深い 処理の方略と浅い処理の方略に分類することができ る。すなわち,整理学習方略,文法・構文方略,日常 学習方略は深い処理に,暗記方略は浅い処理に相当す る。したがって,内容分離的動機が高いことは浅い処 理を促進し,内容関与的動機が高いことは浅い処理に 心理学研究 2009 年 第 80 巻 第 1 号 14 Table 4 推定値,標準誤差,標準化推定値 推定値 標準誤差 標準化推定値 内容関与的動機㱺暗記方略 0.23 0.03 .57** 内容関与的動機㱺整理学習方略 0.06 0.03 .24* 内容関与的動機㱺文法・構文方略 0.19 0.03 .58** 内容関与的動機㱺日常学習方略 0.04 0.02 .22* 内容関与的動機㱺定期前学習時間 6.15 1.56 .35** 内容関与的動機㱺日常の学習時間 5.63 0.76 .58** 内容分離的動機㱺暗記方略 0.05 0.03 .15* 内容分離的動機㱺定期前学習時間 4.23 1.31 .26** 暗記方略㱺中間テスト成績 1.19 0.30 .32** 文法・構文方略㱺中間テスト成績 0.91 0.39 .20* 文法・構文方略㱺実力テスト成績 0.83 0.26 .26** 定期前学習時間㱺中間テスト成績 0.03 0.01 .32** 日常の学習時間㱺実力テスト成績 0.05 0.01 .48** 内容関与的動機㱻内容分離的動機 42.06 18.42 .23* e1㱻e2 2.40 1.35 .18 e1㱻e3 3.99 1.45 .28** e1㱻e4 1.39 0.97 .14 e2㱻e3 3.73 1.21 .32** e2㱻e4 1.77 0.81 .22* e3㱻e4 1.85 0.85 .22* e5㱻e6 7 979.74 2 143.69 .39** e7㱻e8 74.48 17.43 .46** ** p<.01, *p<.05 Table 5 中高実低群,中高実高群間の各学習行動指標のt検定結果 中高実低群(n=15) 中高実高群(n=36) t値 平均値 SD 平均値 SD 暗記方略 17.00 2.59 18.25 3.73 (49)=1.18t 整理学習方略 9.53 2.77 9.44 3.32 (49)=0.09t 文法・構文方略 11.60 4.01 13.97 3.20 (49)=2.24t * 日常学習方略 6.00 2.70 5.64 2.75 (49)=0.43t 定期前学習時間 506.00 218.36 515.00 174.56 (49)=0.16t 日常の学習時間 92.00 56.09 227.78 141.24 (48)=4.91t ** 注) 日常の学習時間については,ウェルチの検定による。 ** p<.01, *p<.05

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加えて,深い処理も促進する傾向にある。これは,内 容分離的動機が高いことは学習内容に対する関心とは 関連がないため,学習の仕方について深く考えること を促進せず,暗記だけを行い,内容関与的動機が高い と,学習の仕方について考えることや既有知識を生か すことが促進されためであると考えられる。 第 2 に,学習動機から学習時間に至る効果を見る と,内容関与的動機から定期テスト前の学習時間と日 常の学習時間に対して正のパスが,内容分離的動機か らは前者に対してのみ正のパスが認められた。内容関 与的動機が高いと,学習内容に関心が深いため,テス ト前であろうとなかろうと,多くの学習時間を費やす ことにつながると推察される。一方,高い内容分離的 動機を持つこと自体は,学習内容に対する関心とは関 連性がないため,定期テスト前に勉強することだけを 促進すると推察される。 第 3 に学習方略からテスト成績に至る効果を検討す る。中間テストに対しては,暗記方略と文法・構文方 略から,一方,実力テストに対しては,文法・構文方 略から正のパスが認められた。このように,深い処理 に相当する文法・構文方略は,テストの質の違いに関 わらず有効であることが示された。一方,定期テスト では出題範囲が授業で扱った内容に限定されるため, 浅い処理に分類される暗記方略も有効な方略になって いると考えられる。 第 4 に,学習時間からテスト成績に至る効果を検討 する。中間テストに対しては定期テスト前の学習時間 から,実力テストに対しては日常の学習時間から正の パスが認められた。これは教師にとって皮肉な結果と 言えるかもしれない。と言うのは,教師は日常の勉強 が大切であると考えており,毎日の学習の成果が定期 テスト結果に反映されることを望んでいるはずであ る。しかし,定期テストの成績は日常の学習時間とは 関連を持たず,直前の学習時間とだけ関連を持つこと が示唆されたからである。 以上を踏まえ,定期テストと実力テストに関わるプ ロセス全体を概観する。内容分離的動機は浅い処理 (暗記方略)と定期テスト前の学習時間を通じて中間 テストに影響を及ぼすだけだが,一方,内容関与的動 機は浅い処理(暗記方略),深い処理(文法・構文方 略)及び定期テスト前の学習時間を通じて中間テスト を促進するのみならず,深い処理(文法・構文方略) と日常の学習時間を通じて実力テストを促進すること が示唆された。すなわち,本研究の仮説(学習動機, 学習行動が定期テストと実力テストに異なったプロセ スを経て影響を及ぼす)が支持された。 最後に,問題となる中高実低群の学習行動上の特徴 と教育的含意を述べる。中高実低群は,中高実高群に 比べ,文法・構文を生かして学習することが少なく日 常の学習時間も少ないことが示された。中高実低群 は,中高実高群に比べ,パス解析で示された実力テス トに有効な学習行動を遂行していないと言える。藤沢 (2002)は,出題頻度が少ないものを捨て機械的に記 憶する学習方法をごまかし勉強とし,このような 学習方法は,定期テストではある程度効果的でも,出 題範囲の広いテストでは,悪い成績に繋がる危険性を 警告している。本研究の結果は藤沢の主張を裏づける ことになった。 では,どのようにすればこのような状況を改善でき るだろうか。例えば,本研究の結果を高校生にも理解 可能なように示しながら,文法,構文を意識した学習 を実践することや毎日の英語学習の重要性を示せば, データを基に説得力を持って学習の改善を促すことが できよう。 また,Isoda(2004)は学習方略に関して,学習者 が学習方略の有効性を認知していても,それを用いな い理由には,学習者の持つ動機づけがあることを指摘 している。本研究の結果と合わせて解釈するならば, 特に,調査対象としたすべての学習行動を促す内容関 与的動機を高めることが重要となろう。 本研究を締め括るにあたり,今後の課題と展望を述 べる。本研究の調査対象者は一つの高校に在籍する男 子高校生であり,調査対象者数も十分とは言えない。 異なる学力水準の学校や男女共学校で十分な調査対象 者を確保して追試を実施し,本研究で構成したモデル の安定性を保証することが必要となろう。 また,調査校で実施されたテストは靜(2002)が示 す一般的な英語の定期テスト,実力テストの定義に当 てはまっており,両テストのテスト形式も同一であっ た。学校によっては,定期テストに授業で扱っていな い英文を一部扱うなど靜の定義とは異なるテストや両 テスト間でテスト形式が異なるテストを実施する高校 もあろう。今後,結果の一般化可能性を論じる上で, 調査校と異なる基準で作成された定期テスト,実力テ ストを実施する学校においても,同一の結果が得られ るかということを検討していくことも必要となる。 引 用 文 献

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2007. 8. 13 受稿,2008. 11. 1 受理 心理学研究 2009 年 第 80 巻 第 1 号

参照

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