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渡邉 熊谷 野口 前田 小西 材料および方法 1. 供試牛, 給与飼料および飼料成分供試した牛群は家畜改良センター鳥取牧場で繋養されている臨床的に健康な黒毛和種繁殖経産乾乳牛であり, 飼養管理方法 ( 給与飼料や飼料給与方法 ) が異なる 2 群 (1 群 15 頭 ) とした.1 群は自場産のイタ

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(1)

黒毛和種繁殖雌牛におけるルーメン内揮発性脂肪酸濃度と血液生化学検査値の関係

渡邉貴之

1

・熊谷周一郎

1, 2

・野口浩正

1

・前田昌稔

1

・小西一之

1 1 独立行政法人家畜改良センター鳥取牧場,鳥取県東伯郡琴浦町 689-2511 2 独立行政法人家畜改良センター十勝牧場,北海道河東郡音更町 080-0572 (2016.10.14 受付,2017.3.21 受理) 要 約  黒毛和種繁殖牛においてルーメン内揮発性脂肪酸(VFA)と血液生化学検査値の関係を考察する 材料とするため,ルーメン液性状と血液生化学検査値を調査した.高水分サイレージを主体とした飼料を TMR ミキサーにより給与した牛群(TMR 区)と低水分サイレージをロールカッターで給与後圧片トウモロ コシを分離給与した牛群(分離給与区)において,血中のβ-ヒドロキシ酪酸(BHB),アセト酢酸(ACAC), 遊離脂肪酸(FFA)とルーメン内揮発性脂肪酸(VFA)の関係を調べた.TMR 区では飼料給与前に比べ給 与後の BHB, ACAC は上昇,FFA は下降し,分離区では逆の推移を示した.TMR 区では BHB が酢酸比率 と有意な負の相関がみられ,酪酸比率と正の相関がみられた.分離区では FFA が酢酸比率と有意な負の相関 がみられた.これらのことから,血液生化学検査値からルーメン液性状を推測できる可能性が考えられた. 日本畜産学会報88 (2), 131-138, 2017 キーワード:血液生化学検査値,黒毛和種繁殖牛,飼養管理,ルーメン VFA 比率         代謝プロファイルテスト(以下,MPT)は主に乳牛で 利用されている血液生化学検査を中心とした栄養診断であ り,飼料設計の問題点を洗い出し,泌乳量や成分の高位安 定,周産期病の予防などに有効である(岡田 2001).黒 毛和種繁殖牛においても,MPT により飼料設計の問題点 を把握し,改善することで繁殖性の改善や子牛の免疫機能 の向上,親付き子牛の白痢予防にも効果を上げている(岡 田 ら 1997; 岡 田 1999; 芝 野 ら 2009; 渡 邉 ら 2012; Watanabe ら 2013).また,放牧妊娠牛の血液生化学検 査値からウシの栄養状態および放牧草を評価する試みもあ り(渡邉ら 2008),黒毛和種繁殖牛でも MPT の有効性が 実証され始めてきている.  MPT の検査項目の中にはエネルギー代謝やタンパク代 謝,肝機能を診断する項目の他,ルーメン環境を推定する 項目としてβ-ヒドロキシ酪酸(以下,BHB)およびアセ ト酢酸(以下,ACAC)が用いられている(岡田 1999). ウシはルーメン内微生物と共存することで自身の生理的機 能を維持しており(岡田 1999),揮発性脂肪酸(以下, VFA)組成などルーメン発酵の状況を知ることは重要であ る.しかし,一般的にこのようなルーメン発酵の状況を調 べるためにはウシのルーメン内容物を採取しなくてはなら ず,その場合,予めルーメンフィステルをウシに装着して 採取する方法(小野寺 2001)や,ルーメンカテーテルを 用いて経口的に採取する方法(小野寺 2001)がある.し かし,どちらの手法も畜産現場で利用しやすい手法ではな い上,採取したルーメン内容物の分析,特に揮発性脂肪酸 (以下,VFA)の分析についてはガスクロマトグラフによ る分析(小野寺 2001)が必要となる等作業が煩雑となる. そのため血液分析により VFA 組成などルーメン発酵の状 況を知ることができれば有用である.  血液から比較的簡易にルーメン環境を推定できる項目は 上述した BHB, ACAC などに限られ,ルーメン内酪酸が これらのケトン体に変換され血液に入る(小原 2004)が, エネルギー不足時には体脂肪からの遊離脂肪酸(以下, FFA)の分解により生成される(岡田 1999)など,諸条 件によりこれらケトン体とルーメン内 VFA の関係は変化 することも考えられる.一般的には粗飼料多給の飼養管理 下では VFA 中の酢酸:プロピオン酸:酪酸の比率は 7 :  2 : 1~6 : 3 : 1 で推移すると言われている(小原 2004) が,これまで黒毛和種繁殖牛のルーメン内 VFA 組成と血 液生化学検査値の関係についての報告はほとんどみられな い.これらの関係を明らかにすることは黒毛和種繁殖牛に おける MPT 診断の精度向上に重要と考えられる.  そこで,本試験では黒毛和種繁殖牛においてルーメン内 VFA 組成と血液生化学検査値の関係を考察する材料とす るために,異なる飼料給与方法を行った 2 牛群について 飼料摂取前後に経時的に採血およびルーメン液を採取し調 査した. 連絡者 : 渡邉貴之(fax : 0858-55-2329,e-mail : t0watanb@nlbc.go.jp)

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材料および方法

 1. 供試牛,給与飼料および飼料成分  供試した牛群は家畜改良センター鳥取牧場で繋養されて いる臨床的に健康な黒毛和種繁殖経産乾乳牛であり,飼養 管理方法(給与飼料や飼料給与方法)が異なる 2 群(1 群 15 頭)とした.1 群は自場産のイタリアンライグラス乾草, ローズグラスサイレージ,トウモロコシサイレージ,フス マを TMR(Total Mixed Ration)ミキサーで混合して給 与した群(以下,TMR 区)であり,もう 1 群は自場産混播 牧草由来の低水分サイレージ(オーチャードグラス主体) をロールカッターで給与した後に圧片トウモロコシ 1 kg/ 頭を分離給与した群(以下,分離給与区)とした.両区とも 1 日 2 回の飼料給与とした.TMR 飼料は TMR ミキサー付 属の計量器で,分離給与区の粗飼料と圧片トウモロコシは 飼料給与時に通常の台秤で給与量を計測した.両区とも飼 料給与時にはスタンチョンを使用して乾物摂取量(以下, DMI)の均一化を図るとともに,残飼が無いことを確認し て摂取量とした.水と鉱塩は自由摂取とした.ルーメン液 と血液のサンプル採取を行った日の前後 1 ヵ月間は上記 の飼料給与を行った.  両区に給与した飼料の成分を表 1 に,実際に摂取した 飼料の成分と充足率を表 2 に示した.なお,栄養充足率 は日本飼養標準・肉用牛 2008 により算出した(農業・食 品産業技術総合研究機構 2009).  両区から無作為に各 5 頭を選び,この 5 頭についてルー メン液および血液の採取,体重の測定を行った.  2. ルーメン液の性状検査  飼料摂取直前(以下,摂取前)と飼料摂取後 2 時間目 (同,2 時間目)および 4 時間目(同,4 時間目)の採血 後にルーメン内容液を採取した.ルーメン内容液の採取は 牛用の胃汁採取器(ルミナー:富士平工業(株),東京)を 用いて経口採取し,採取ビンに吸引後 4 重ガーゼで包ん だ後に 50 mL の保存容器に搾り込むことで濾過胃液とし (小野寺 2001),BTB 試験紙により pH を判定した後直 ちに凍結した.ルーメン液中 VFA の定量は,濾過胃液を 融解後に 24% メタリン酸 1 mL に対し濾過胃液 5 mL を 混和し,18 時間以上放置後,冷却遠心(1600×g, 30 分) 表 1 両区に給与した飼料の種類および飼料成分 TMR 区 分離給与区 イタリアンライグラス (乾草) (サイレージ)トウモロコシ(サイレージ) フスマローズグラス (サイレージ)混播牧草 トウモロコシ圧片 乾物率(%) 79.6 37.4 75.3 88.7 69.0 90.0 乾物中養分含量(%) 可消化養分総量 (TDN) 48.6 55.1 45.5 63.9 51.9 79.9 粗タンパク質 (CP)   9.4   5.9   5.1 15.7   8.7   8.0 中性デタージェント繊維 (NDF) 66.6 60.4 76.6 34.4 68.7 12.5 可溶性無窒素物 (NFE) 43.7 58.0 45.4 54.6 44.1 71.7 粗脂肪 (EE)   1.6   1.4   1.3   4.5   2.1   3.8 非繊維性炭水化物 (NFC) 12.9 26.9   6.1 33.2 12.2 74.4 表 2 両区の給与飼料の成分および栄養充足率 TMR 区 分離給与区 乾物率(%) 52.4 72.3 乾物中の飼料養分濃度(%)      TDN 51.4 57.3      CP   7.0   8.6      NDF 65.4 57.8      NFE 51.2 49.4      EE   1.6   2.4      NFC 18.2 24.2 乾物中の飼料養分量      TDN(kg)   2.4   2.7      CP(g) 340 399      DMI(kg)   4.5   4.7 栄養充足率(%)      TDN 80.1 81.5      CP 70.9 77.6      DMI 75.0 71.1 1)摂取養分量は表 1 の数値から算出した計算値 2)可消化養分総量(TDN),粗タンパク質(CP),中性 デタージェント繊維(NDF),可溶性無窒素物(NFE), 粗脂肪(EE),非繊維性炭水化物(NFC),乾物摂取量 (DMI)を表す 3)DMI は実測値(現物摂取量)と乾物率から算出した

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によって得られた上清をガスクロマトグラフ(GC-2014 :  SHIMADZU, 京都)で測定し,総 VFA, 酢酸,プロピオ ン酸および酪酸の各濃度を求めた(小野寺 2001).これら をもとに酢酸/プロピオン酸比(以下,A/P 比),総 VFA 濃度に占める酢酸濃度の比率(酢酸比率),プロピオン酸濃 度の比率(プロピオン酸比率)および酪酸濃度の比率(酪 酸比率)(いずれもモル比)を求めた.さらにこれらの比 率の平均値から酪酸を 1 とした場合の VFA の組成比(酢 酸:プロピオン酸:酪酸)を求めた.  3. 血液生化学検査  血液生化学検査のための採血は,摂取前,2 時間目およ び 4 時間目に頸静脈より真空採血管(血液分離剤および 凝固促進用シリカ微粒子添加管)を用いて行った.採血管 は採血後 37℃ 15 分間インキュベートした後に遠心分離 (1200×g, 15 分)し,得られた血清は測定日まで-30℃ 以下で凍結保存した(岡田と安田 2001).なお,凍結保 存から測定までの間隔は 4 日間以内とした.  血液生化学検査項目は BHB, ACAC に加え,これらケ トン体と連動して変動する可能性のある FFA とした.血 液生化学成分の測定は,臨床化学自動分析装置(Accute: 東芝メディカルシステムズ;栃木)により行った.測定項 目と分析方法は,BHB が酵素サイクリング法,ACAC が 酵素法,FFA が ACS・ACOD 法である.分析は岩手大 学附属動物病院に依頼した.  なお,供試牛の飼養管理および血液採取は,家畜改良セ ンター動物実験指針に基づき実施した.  4. 体重  エネルギー充足の指標として試験実施 1 ヵ月前,試験 実施月,試験実施 1 ヵ月後に体重を測定した.  5. データの分析方法  試験実施 1 ヵ月前,試験実施月,試験実施 1 ヵ月後の 体重については一元配置分散分析を行った.  ルーメン液性状(総 VFA 濃度,酢酸比率,プロピオン 酸比率および酪酸比率,A/P 比,pH)および血液生化学 検査値(BHB, ACAC, FFA)について,飼養管理方法 (TMR 区と分離給与区,要因 A とする)とサンプル採取 時間(摂取前,2 時間目および 4 時間目,要因 B とする) の 2 要因による 2 元配置分散分析を行った.分散分析の 結果,ルーメン液性状および血液生化学検査値について, 要因 A が有意になった項目ではサンプル採取時間ごとに TMR 区と分離給与区間の差の有意性を Tukey 法により 検定した.また,要因 B が有意になった項目では,TMR 区,分離給与区ごとにサンプル採取時間間の差の有意性を Tukey 法により検定した.  血液生化学検査値(FFA, BHB, ACAC)からルーメ ン液性状(総 VFA 濃度,酢酸比率,プロピオン酸比率, 酪酸比率,A/P 比)を推定するため,2 つの試験区のす べての採血時間の分析値を用いて血液生化学検査値とルー メン液性状各項目間の単回帰による相関を調べた.また, 飼養管理方法の違いによる傾向を調べるために,TMR 区 と分離給与区ごとに同様に相関を調べた.

結    果

 1. 体重  試験実施 1 ヵ月前,試験実施月,試験実施 1 ヵ月後の 体重を表 3 に示した.両区とも試験前後の体重に差はみ られなかった.  2. 給与飼料  TMR 区 に 比 べ 分 離 給 与 区 の 給 与 飼 料 は, 乾 物 率 が 19.9%,可消化養分総量(TDN)が 5.9%,粗タンパク質 (CP)が 1.6%,非繊維性炭水化物(NFC)が 6% 高く,中 性デタージェント繊維(NDF)が 7.6% 低かった(表 2). また TDN, CP および DMI の充足率は両区とも日本飼養 標準(農業・食品産業技術総合研究機構 2009)からみれ ばやや不足していたが,ほぼ同程度であった.  3. ルーメン液性状  総 VFA 濃度,酢酸比率,プロピオン酸比率,酪酸比率, A/P 比および pH について,飼料摂取前後の推移を図 1 に示した.また,これら 6 項目について飼養管理方法と サンプル採取時間の 2 要因についての分散分析結果を表 4 に示した.pH 以外の 5 項目について 2 つの飼養管理方法 間に強い有意差が認められたため,サンプル採取時間ごと に飼養管理方法間の有意差の有無を調べ図 1 に表記した. また,総 VFA 濃度および pH を除く 4 項目についてはサ ンプル採取時間においても有意差が認められたので,飼養 管理方法ごとにサンプル採取時間間の有意差を求め図 1 に表記した.飼養管理方法とサンプル採取時間の交互作用 は酢酸比率と酪酸比率で認められた.  総 VFA 濃度:摂取前,2 時間目および 4 時間目で TMR 区に比べ分離給与区が有意(P < 0.01)に高い値であっ た(図 1,表 4).両区とも飼料摂取前後で有意な変動は 認められなかった. 表 3 試験期間中の両区の体重の推移 試験実施 1 ヵ月前 試験実施月 試験実施 1 ヵ月後 TMR 区 平均 438.4 426.0 431.8 標準偏差   44.3   47.2   49.3 分離給与区 平均 479.4 474.6 473.4 標準偏差   72.6   57.5   52.5

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 酢酸比率:摂取前,2 時間目および 4 時間目で TMR 区 に比べ分離給与区が有意(P < 0.01)に高かった(図 1, 表 4).両区とも飼料摂取後は摂取前より低下したが, TMR 区に比べ分離給与区ではその幅は小さく,いずれの サンプル採取時間においても分離給与区の酢酸比率は 75% を超えていた. 表 4 ルーメン液性状について飼養管理方法(A)とサンプル採取時間(B)を 2 要因とした分散分析結果 要因 総 VFA 濃度 酢酸比率 プロピオン酸比率 酪酸比率 A/P 比 pH A(TMR 区:A1,分離給与区:A2) ** ** ** ** ** ─ B(摂取前:B1,摂取後 2 時間目:B2, 摂取後 4 時間目:B3) ─ ** ** ** ** ─ A×B ─ ** ─ * ─ ─ 1)**:P < 0.01, *:P < 0.05, ─:NS を表す 2)VFA は揮発性脂肪酸,A/P 比は酢酸/プロピオン酸比を表す 図 1 飼養管理の違いによる飼料摂取前後のルーメン液性状の変化(平均±標準偏差). 1)    は TMR 区(A1),

……

 は分離給与区(A2)を表す 2)アルファベット大文字:同一採取時間における飼養管理方法間の有意差(A-B:P < 0.01, C-D:P < 0.05) 3)アルファベット小文字:同一の飼養管理方法における採取時間間の有意差(a-b, e-f:P < 0.01, b-c:P < 0.05) 4)各項目の( )内の A1,A2,B1,B2,B3 は表 4 の A, B にあたる

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 プロピオン酸比率:2 時間目で TMR 区の方が分離給与 区に比べ有意(P < 0.01)に高かった(図 1,表 4).両 区とも飼料摂取後は摂取前に比べて有意(P < 0.01)に 増加したが,分離給与区では TMR 区に比べて増加幅は小 さかった.両区ともプロピオン酸の比率は 15~18% の間 で推移した.  酪酸比率:酢酸比率とは逆に TMR 区に比べ分離給与区 が 3 回のサンプル採取時間において有意(P < 0.01)に 低かった(図 1,表 4).TMR 区では飼料摂取後が摂取前 より有意(P < 0.01)に高かったが(図 1),分離給与区 ではサンプル採取時間による差は小さく,いずれも 5-7% の低い値であった.  A/P 比:摂取前(P < 0.05)および 2 時間目(P < 0.01) において TMR 区より分離給与区で有意に高い値を示した (図 1,表 4).分離給与区ではサンプル採取時間による増 減は認められなかったが,TMR 区は 2 時間目に有意(P < 0.05)に低下した.  pH:両区において有意な差はみられなかった.また, 飼料摂取前後においても有意な変動はみられなかった.  VFA の組成比(酢酸:プロピオン酸:酪酸)は,飼料 摂取前では TMR 区の 7.1 : 1.5 : 1 に比べ,分離給与区で は 13.3 : 2.6 : 1 となり酢酸の割合がかなり高かった.飼 料摂取後 2 時間目では TMR 区が 5.3 : 1.4 : 1,分離区で は 10.9 : 2.3 : 1 となり,酢酸の割合は両区とも下がった が,分離給与区では TMR 区に比べ酢酸の割合は約 2 倍で あった.同 4 時間目も同様の傾向であった.  4. 血液生化学検査値  血液生化学検査値 3 項目(BHB, ACAC, FFA)の飼料 摂取前後の推移を図 2 に示した.これら 3 項目について 飼養管理方法とサンプル採取時間の 2 要因についての分 散分析結果を表 5 に示した.  BHB と FFA は,2 つの飼養管理方法間に有意差が認 められたことから,サンプル採取時間ごとに飼養管理方法 間の有意差の有無を調べ,図 2 に表記した.また,BHB がサンプル採取時間において有意差を認めたことから,飼 養管理方法ごとにサンプル採取時間間の有意差を求め図 2 に表記した.  また,3 項目とも飼養管理方法とサンプル採取時間の交 互作用が認められた.  BHB:摂取前では飼養管理方法間に有意差はないが, TMR 区は摂取後上昇し,2 時間目,4 時間目に分離給与 区より有意(P < 0.01)に高くなった(図 2,表 5).分 離給与区では摂取前後で有意な変化はみられなかった.  ACAC:飼養管理方法およびサンプル採取時間とも有 意差は認められなかった(表 5)が,経時変化は BHB と ほぼ同様の推移を示した.  FFA:摂取前において TMR 区が分離給与区に比べ有意 (P < 0.05)に高かった(図 2,表 5).両区ともサンプル 採取時間間による違いはなかった.  5. ルーメン液性状と血液生化学検査値間の相関  TMR 区と分離給与区の間にはルーメン液性状,血液生 化学検査値に有意な違いが認められた(表 4,5)ため,飼 養管理方法ごとにルーメン液性状と血液生化学検査値の各 項目間の単相関を求め表 6 に示した.また,両区のすべ てのデータを用いてルーメン液性状と血液生化学検査値の 各項目間の単相関を求め表 6 に示した.  TMR 区では BHB が酢酸比率および A/P 比と強い負の 相関を認め,プロピオン酸比率および酪酸比率と強い正の 相関(いずれも P < 0.01)を認めた.ACAC は酢酸比率 と負の相関(P < 0.05)を認め,酪酸比率と正の相関(P < 0.05)を認めた.FFA は酢酸比率と正の相関(P < 0.05) を認め,プロピオン酸比率と負の相関(P < 0.05)を認 めた.分離給与区では FFA が酢酸比率と強い負の相関(P < 0.01)を認め,プロピオン酸比率(P < 0.05),酢酸 比率(P < 0.05)および A/P 比(P < 0.01)と正の相 関を認めた.ACAC は酪酸比率と負の相関(P < 0.05) を認めた.しかし,BHB とルーメン液性状は相関が認め られなかった.両区のすべてのデータを用いて分析した結 果,BHB は酢酸比率および A/P 比と負の相関を認め, プロピオン酸比率および酪酸比率と正の相関(いずれも P < 0.01)を認めた.また,ACAC も酢酸比率および A/ P 比と負の相関を認め,プロピオン酸比率および酪酸比率 と正の相関(いずれも P < 0.05)を認めた.

考    察

 本試験期間中,調査した牛群は概ね体重が維持されてお 表 5 血液生化学検査値に関しての飼養管理方法(A)とサンプル採取時期(B)を 2 要因とした分散分析結果 要因 BHB ACAC FFA A(TMR 区:A1,分離給与区:A2) ** ─ * B(摂取前:B1,摂取後 2 時間目:B2, 摂取後 4 時間目:B3) ** ─ ─ A×B ** ** * 1)**:P < 0.01, *:P < 0.05, ─:NS を表す 2)BHB:β-ヒドロキシ酪酸,ACAC:アセト酢酸,FFA:遊離脂肪酸を表す

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り,極端なエネルギーの過不足はなかったと推察された.  総 VFA 濃度は TMR 区に比べ分離給与区で有意に高かっ た.分離給与区ではルーメン発酵の基質となる飼料中の NFC 濃度や CP 摂取量が TMR 区に比べやや高かったた めと考えられた.  酢酸比率,プロピオン酸比率および酪酸比率は,飼養管 理方法間に有意差が認められた.TMR 区においては摂取 前に比べ 2 時間目では,酢酸比率は約 5% 減少したが, プロピオン酸比率と酪酸比率は約 2% 増加し,いずれも 有意な増減であった.分離給与区の酢酸比率は約 2% の 有意な減少,酪酸比率はわずかに増加したが有意な差は認 められなかった.分離給与区では酢酸比率はいずれの時間 も 75% を超え,酪酸比率は 5-7% と低く,サンプル採取 時間による違いは TMR 区に比べ小さく安定していた.こ のことは VFA の組成比に反映され,分離給与区の酢酸: プロピオン酸:酪酸比が 13 : 2.2 : 1~10 : 2.6 : 1 に対し, TMR 区では 7 : 1.3 : 1~5 : 1.5 : 1 となり,分離給与区に おいて酢酸比率が高かった.ルーメン内 VFA 組成は粗繊 維含量が高い粗飼料多給の場合,酢酸:プロピオン酸:酪 酸の比率は 7 : 2 : 1~6 : 3 : 1 とされている(小原 2004; 牛田 1998).今回の TMR 区の VFA 組成は概ねこれら報 告と同様の傾向であったが,分離給与区においては酢酸の 比率がかなり高くかつ安定していた.この理由として, TMR 区では高水分サイレージの割合が高く給与飼料全体 の乾物率は 52% であったが,分離給与区では粗飼料は予 乾サイレージのため水分が低く,給与飼料全体の乾物率は 72% と乾物率が異なっていたことがあげられる.乾草, 牧草サイレージ,コーンサイレージの給与量によるルーメ ン液性状への影響をみた和泉らの一連の報告においても, 乾草に比べ高水分サイレージでは酢酸比率が低く,酪酸比 率が高くなることが示されており(和泉 1974;和泉と西 埜 1974;和泉ら 1974),Card と Schultz(1953)も同 様のことを示している.また,分離給与区の粗飼料はロー ルカッターにより切断して給与されており,TMR 区に比 べ粗飼料の切断長は長かった.切断長が粗飼料のルーメン の滞留時間に影響を与えることは指摘されており(Castle ら 1979;Sniffen ら 1992),粗飼料の水分が低いことや 切断長が長く粗飼料のルーメン滞留時間が長いことが分離 給与区でのルーメン液性状が安定していた要因と考えられ た.これらのことから分離給与区では比較的長時間にわた り酢酸生成が続いていたと考えられた.今回の試験では, 分離給与区の酢酸比率は摂取前から 4 時間目まで 75% 以 上とかなり高かった.酢酸産生菌は pH が低い場合活動が 抑えられる(Balch と Rowland 1957).分離給与区では 図 2 飼養管理の違いによる飼料摂取前後の血液生化学検査値の変化(平均±標準偏差). 1)    は TMR 区(A1),



は分離給与区(A2)を表す 2)アルファベット大文字:同一の採取時間における飼養管理方法間の有意差(A-B:P < 0.01, C-D:P < 0.05) 3)アルファベット小文字:同一の飼養管理方法におけるサンプル採取時間間の有意差(a-b:P < 0.01) 4)各項目の( )内の A1,A2,B1,B2,B3 は表 5 の A, B にあたる

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圧片トウモロコシの添加もあり NFC 濃度が高く総 VFA 濃度が高くなっており,pH が下がる可能性も考えられた が両区で有意な差は認められず,その影響は少なかったと 考えられた.  血液生化学検査値について TMR 区の FFA は摂取前に 分離給与区よりも高値を示したが,有意な経時変化は認め られなかった.また,BHB は飼料摂取後に上昇した.分 離給与区においては,飼料摂取前後で有意な変化は認めら れなかった.FFA は飼料摂取前に,BHB は飼料摂取後に それぞれ TMR 区と分離給与区間で有意差がみられた. FFA はエネルギー不足に敏感に反応し,空腹時でも体脂 肪から動員され上昇し,飼料摂取により下降するとされて いる(岡田 2001).BHB はルーメン壁で酪酸から生成さ れるものとエネルギー不足から動員された FFA を分解す る過程由来のものがあるが(岡田 2001),通常は飼料摂 取後ルーメン活動の活発化に伴い上昇すると考えられてい る.今回の試験において,TMR 区ではルーメン液性状も 血液生化学検査値の動きも飼料摂取後は上昇あるいは下降 したが,分離給与区の結果はやや異なっていた.上述した ように,分離給与区のルーメン液性状は飼料の給与時間に かかわらず比較的安定して酢酸比率が高く,酪酸比率が低 い状態が続いていた.分離給与区では,血液生化学検査値 はサンプル採取時間による有意な違いはなく,このルーメ ン液性状を反映していたと考えられた.  今回の試験では TMR 区では BHB とルーメン液性状に 相関がみられた.上述したように,飼料摂取に応じてルー メン液性状は変化し,それが血液生化学検査値にも反映さ れていた.酪酸の大部分がルーメン壁において BHB に合 成されることから,ルーメン液における酪酸の増減を反映 していたと考えられた.一方,分離給与区ではこのような BHB とルーメン液性状の間に相関はみられなかった.分 離給与区ではルーメン液性状が TMR 区に比べて安定し, 酢酸や酪酸の割合の変化が少なく,その結果,BHB や ACAC の変化が小さかった.  分離給与区では FFA とルーメン液性状との相関が比較 的高かった.分離給与区では酢酸が多く生成されたが,生 表 6 ル-メン液性状各項目と血液生化学検査値との単相関係数 TMR 区 総 VFA 濃度 酢酸比率 プロピオン酸     比率  酪酸比率 A/P 比 pH BHB ─ -0.864***  0.689**  0.808*** -0.776*** ─ ACAC ─ -0.567 *  0.476 ※  0.548 * -0.514 ※ ─ FFA ─  0.580* -0.519* -0.481  0.568* ─ 分離給与区 総 VFA 濃度 酢酸比率 プロピオン酸     比率  酪酸比率 A/P 比 pH BHB ─ ─ ─ ─ ─ ─ ACAC ─  0.466 ─ -0.632* ─ ─ FFA 0.506 -0.772***  0.589*  0.547*  0.659** ─ 合計 総 VFA 濃度 酢酸比率 プロピオン酸     比率  酪酸比率 A/P 比 pH BHB ─ -0.630***  0.513**  0.568** -0.576*** ─ ACAC ─ -0.427*  0.425*  0.379* -0.437* ─ FFA ─ ─ ─ ─ ─ ─ 1)VFA:ルーメン内揮発性脂肪酸,A/P 比:ルーメン内酢酸/プロピオン酸比率,BHB:β-ヒドロキシ酪酸,ACAC:アセト酢酸,FFA:遊離脂肪酸を表す 2)表内の数値は単相関係数,記号は相関の有意水準を表す (***:P < 0.001, **:P < 0.01, *:P < 0.05, ※:< 0.1, ─:P > 0.1) 3)合計は両区のデータをあわせて分析した結果

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成された酢酸の多くは末梢組織で脂肪に変換されエネル ギーに使われる(安保と渡辺 1987).このことから,VFA 中の酢酸の増加によりエネルギーが充足することで FFA の分泌が抑制され,FFA とルーメン内における酢酸の生 成との間に強い負の相関が生じたのではないかと考えられ た.FFA は低 Glu や低アルブミン血症でも低下(岡田 2001)し,血中アルブミン濃度は肝機能低下により低下 する(岡田 2001).このことから,FFA は Glu や肝臓機 能の影響も受けるため,ルーメン環境の診断には複数の血 液生化学検査値の組み合わせた診断が必要であると考えら れた.  ルーメン液性状や血液生化学検査値の推移から TMR 区 は一定の粗飼料と濃厚飼料を給与する一般的な飼養管理を 行っている牛群と考えられる.今回の試験の結果からみて, このような牛群では血液の BHB がルーメン液性状を推測 するために有効と考えられた.一方,今回圧片トウモロコ シを加えてはいたが,分離給与区は乾草を切断もせず草架 で給与するような比較的粗放な飼料給与を行う牛群でみら れるルーメン液性状や血液生化学検査値に近いのではない かと考えられた.血中の BHB は低下していてもルーメン 内酢酸濃度は高く,ルーメン発酵も不良とはいえない状態 で あ り,BHB は ル ー メ ン 内 VFA と 相 関 が み ら れ ず, FFA と相関がみられた.このことから,本試験の分離給 与区のような BHB が低い牛群のルーメン発酵の状態を血 液生化学検査値から推測するためには,摂取粗飼料の水分 含量や切断長を確認した上で,FFA の値も考慮して総合 的に判断する必要があると考えられた.  以上の結果から,黒毛和種繁殖牛における低水分かつ切 断長の長い粗飼料主体での飼養管理では,ルーメン内酢酸 比率が極端に高くなる可能性があること,FFA はエネル ギー不足だけでなくルーメン内 VFA 濃度を反映している 場合があること,飼養管理方法による違いはあるものの, BHB や FFA の血液生化学検査値から黒毛和種繁殖牛の ルーメン発酵状況を推定できる可能性があることが示唆さ れた.

謝    辞

 ルーメン内 VFA を測定していただいた兵庫県立農林水 産技術総合センター淡路農業技術センター 生田健太郎博 士に深謝します. 文    献 安保桂一,渡辺泰邦.1987.新乳牛の科学(津田恒之監修).pp.  119-131,144-154.(社)農山漁村文化協会,東京. Balch DA, Rowland SJ. 1957. Volatile fatty acids and lactic  acid in the rumen of dairy cows receiving a variety of  diets. British Journal of Nutrition 11, 288-298.

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参照

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