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酒造掛米用水稲品種「京の輝き」の育成

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Academic year: 2021

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諸  言

 清酒の原料米は,麹米,もと(酒母)米,掛米に分けら れる.麹米,もと米には,「山田錦」に代表される大粒で 心白を有する酒造好適米品種が用いられることが多く,県 単育成地を中心に多くの酒造好適米品種が育成され,地域 ブランド清酒の原料として利用されている(前重・荒巻 2000).これに対し,原料米の 70%以上を占める掛米につ いては,酒造好適米品種と同様,大粒,低タンパクな米が 適するが,コスト面から一般主食用品種が転用されること が多く,掛米用品種の育成事例は少ない(坂井ら 1995, 前重・荒巻 2000).近年,主食用品種の作付は,「コシヒ カリ」や「ヒノヒカリ」など小粒で粘りのある食味重点の 品種に集中する傾向にあり,掛米用に適した品種の安定的 な入手が難しくなっている(前重・荒巻 2000).  清酒の消費量が減少する中,京都府内の酒造メーカーに おいても,原料米にこだわった商品展開を強化し,麹米に 京都府独自の酒造好適米品種「祝」(前重・荒巻 2000)を 用いた地域ブランド清酒を展開しているが,掛米用には地 域ブランドとなり得る品種が存在せず,主食用品種の「日 本晴」や「祭り晴」が多く使用されている.こうした状況 の中,京都府内の酒造メーカーや需要に応じた米づくりを 目指す農業団体からは,酒造適性が高く,新たな地域ブラ ンド清酒の原料となり得る京都府独自の掛米用品種の育成 が強く要望されていた.  清酒生産量が兵庫県に次いで全国第 2 位である京都府 は,伏見酒造組合と連携した酒造試験による評価が可能で あるが,交配段階から系統を展開して,新たな掛米専用品 種を育成するには多くの年月を要するため,現場の要望に 即応することが困難である.一方,(独)農業・食品産業技 術総合研究機構中央農業総合研究センターは,大粒で良質 の系統群を保有しており,掛米としての利用が期待できる が,醸造適性の評価はされていない.そこで,双方の研究 資源を活用することにより,効率的な掛米専用品種の育成 を目指して,2009 年に,京都府と中央農業総合研究セン ターは共同研究契約を締結し,共同研究「京都府における 地域特産清酒醸造のための掛米用品種の共同育成」に取り 組み,多収,大粒で酒造適性に優れる酒造掛米用新品種「京 の輝き」を育成した.本報告では,「京の輝き」の育成経 過と特性概要および現地適応性試験の結果を踏まえた今後 の課題について述べる.  

育成の経過

 「京の輝き」の系譜を第 1 図に示す.2003 年中央農業総 合研究センター北陸研究センターにおいて,「収 6602」を 種子親とし,「山形 90 号」を花粉親として人工交配を行っ た.2003 年秋に世代促進栽培により F1,2004 年春に世代 促進栽培により F2,同年に苗代放置栽培により F3を養成 した.2005 年は,F3集団を貯蔵しつつ,他の交配組合せ

酒造掛米用水稲品種「京の輝き」の育成

尾崎耕二

1,2)

・三浦清之

3,4)

・笹原英樹

3)

・重宗明子

3)

・後藤明俊

5)

・長岡一朗

3)

藤田守彦

1,6)

・今井久遠

1)

・河瀬弘一

7) 1)京都府農林水産技術センター農林センター(〒621 − 0806 亀岡市余部町和久成 9) 2)現京都府農林水産部(〒602 − 8570 京都市上京区下立売通新町西入薮ノ内町) 3)中央農業総合研究センター北陸研究センター(〒943 − 0193 上越市稲田 1 − 2 − 1) 4)中央農業総合研究センター(〒305 − 8666 つくば市観音台 3 − 1 − 1) 5)作物研究所(〒305 − 8518 つくば市観音台 2 − 1 − 18) 6)現京都府中丹西農業改良普及センター(〒620 − 0055 福知山市篠尾新町 1 − 91) 7)京都府農林水産技術センター丹後農業研究所(〒627 − 0142 京丹後市弥栄町字黒部 488) 要旨:多収,大粒で酒造適性に優れる酒造掛米用水稲品種「京の輝き」を,「収 6602」を種子親,「山形 90 号」 を花粉親とする交配組み合せから,京都府と(独)農業・食品産業技術総合研究機構中央農業総合研究センター との共同研究により育成した.稈長は「日本晴」よりやや短く,出穂期と成熟期は「日本晴」より 3 日程度 早い.収量は「日本晴」より 1 割程度多収で,耐倒伏性は“強”,穂発芽性は“やや易”である.葉いもち 圃場抵抗性は「日本晴」並の“中”,穂いもち圃場抵抗性は“やや弱”である.玄米千粒重は「日本晴」よ り 1g 程度重い.酒造評価,きき酒評価とも「祭り晴」に優り良好である.2011 年に実施した京都府内にお ける現地適応性試験の結果,「京の輝き」の多収性を発揮するには,「日本晴」より穂数を多く確保する必要 があり,「京の輝き」に適した生育指標の必要性が示唆された. キーワード:水稲,品種,育成,掛米,酒造,京の輝き 2013年 3 月 21 日受理 連絡責任者:尾崎耕二(k-ozaki12@pref.kyoto.lg.jp)

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とともに,雑種集団の予備展開による組合せ選抜に供した. 2006年に F4で個体選抜を行い,2007 年 F5以降は系統栽 培によって選抜固定を図った.2008 年から「収 8203」の 系統番号を付して生産力検定試験に供試した.  2009 年の F7から前述の共同研究「京都府における地域 特産清酒醸造のための掛米用品種の共同育成」に他の 7 系 統とともに供試した.目標とする品種特性は,現在京都府 内で掛米として使用されている「日本晴」および「祭り晴」 より 5 ∼ 10%多収で,「祭り晴」以上の高い酒造適性を有 することとし,京都府における生産力検定予備試験(2009 年)および本試験(2010 年,2011 年),現地適応性試験(2011 年),伏見酒造組合による酒造適性試験を行った.2009 年 に総米 1.2kg 規模の小仕込み試験(1 社),2010 年に総米 100∼ 150kg 規 模 の 仕 込 み 試 験(2 社 ),2011 年 に 総 米 り晴」や「日本晴」,「ヒノヒカリ」等の中生から晩生熟期 の品種で乳白粒や心白粒等の白未熟粒が多発し,玄米外観 品 質 が 顕 著 に 低 下 し た. 供 試 し た 2 系 統 の う ち,「 収 8203」は,「日本晴」や「祭り晴」に比べ白未熟粒が少なく, 高温年でも玄米外観品質が安定すると見られた(第1表). 一方,他の 1 系統は白未熟粒が多発し,その程度は「日本 晴」や「祭り晴」と同程度かそれ以上であった.同年の酒 造適性評価や仕込試験の結果は,2 系統とも「祭り晴」に 比べ優れ,同程度の評価であった.2011 年には,有望系 統を「収 8203」に絞り込み,生産力検定と現地適応性試験, 実規模醸造試験,きき酒評価等により,掛米用品種として の適性を確認した.  これらの結果,「収 8203」は,多収,大粒,低タンパクで, 高温年でも玄米品質が安定し,酒造適性およびきき酒の評 第 1 図 京の輝きの系譜.

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特性の間に一定の共通点があったことから,短期間に有望 系統を見出すことが可能であった.すなわち,低タンパク な品種特性は,一般食用品種の食味および酒造用品種の酒 造適性に共通して求められる重要な形質である.また,多 収性には,単位面積当たり籾数の多さや登熟歩合の高さに 加え,千粒重の大きさが寄与することから,千粒重の大き な系統が数多く選抜されており,掛米用品種に求められる 多収で大粒の品種特性を満たす候補系統が多く見出された と考えられる.

特性概要

1.栽培特性  京都府での出穂・成熟期は「日本晴」より 3 日程度早い. 「日本晴」と比較し,成熟期の稈長と穂長はやや短く,穂 数は多い(第 2 図,第 1 表,第 2 表).耐倒伏性は“強”で, 収量性は「日本晴」と比較して 1 割ほど多収である(第 1 表, 第 2 表).いもち病真性抵抗性遺伝子型は Pia と Pii と推定 され,葉いもち圃場抵抗性は「日本晴」並の“中”,穂い 第 2 図 京の輝きの草姿,籾および玄米. 第 1 表 京都府農林水産技術センター(京都府亀岡市)における生育,収量,品質調査の結果7)

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もち圃場抵抗性は“やや弱”である.穂発芽性は“やや易” である(第 3 表). 2.品質特性  玄米千粒重は「日本晴」より 1g 程度重く(第 1 表,第 2表),玄米外観品質は「日本晴」より白未熟粒の発生が やや多い.玄米の光沢及び色沢は同等である.タンパク質 含有率は「日本晴」より低い(第 1 表,第 2 表).炊飯米 の食味は「日本晴」より優れ,「コシヒカリ」に近い(第 4表). 第 2 表 中央農業総合研究センター北陸研究センター(新潟県上越市)における生育,収量,品質調査の結果1) 第 3 表 いもち病抵抗性検定および穂発芽性検定の結果1) 第 4 表 炊飯米の食味官能試験の結果

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3.酒造適性  京都府内の酒造メーカーで掛米として使用される「祭り 晴」と比較すると,70%精米時の真性精米歩合は「祭り晴」 よりやや高く,砕米率は「祭り晴」と同等∼少ない(第 5 表). 「祭り晴」より吸水等の原料米処理およびもろみの段階で の管理がしやすく,醸造時のアルコール度数,アミノ酸度 は「祭り晴」と同等である(第 6 表).きき酒評価は,香り, 味とも「祭り晴」に優り,良好である(第 7 表).香気成 分である酢酸イソアミル,カプロン酸エチルは,純米酒で は「祭り晴」より多く,本醸造酒では「祭り晴」と同程度 であった(第 6 表).本醸造酒では,40%醸造用アルコー ルを添加してアルコール度数を調整していることから,純 米酒のような香気成分量の差は認められなかった.しかし, 本醸造酒は,純米酒に比べ,すっきりした味わいになり, その要因は明確で無いものの,「祭り晴」に比べた「京の 輝き」の特徴が際立ち,香り,味,総合とも,高く評価さ れたものと推察された.

現地適応性試験の結果

 2011 年に,京都府内での現地適応性を確認することを目 的として,府内 5 ヶ所の農家ほ場,計 1.7ha で初めて現地 試験栽培を行った.合わせて,京都府北部地域での適応性 を確認するため,京都府農林水産技術センター農林セン 第 5 表 酒造用原料米分析結果1) 第 6 表 生成酒分析の結果1) 第 7 表 きき酒の結果1)

(6)

ター丹後農業研究所(京丹後市弥栄町)での試験栽培を行っ た(第 8 表,第 9 表).  その結果,亀岡市と宇治市,丹後農業研究所では,「京 の輝き」は「日本晴」または「祭り晴」に比べ多収であり, これまで確認した品種特性と概ね一致する結果を得た.し かし,与謝野町と綾部市では「日本晴」に比べやや低収で あった.低収の原因としては,与謝野町では,初めて試作 する品種であることから,安全を見て施肥を調整され,作 り慣れた「日本晴」に比べ,「京の輝き」の穂肥量を減ら した(第 8 表,A 氏ほ場),あるいは穂肥時期を遅らせた(第 8表,B 氏ほ場)こと,また,綾部市では,「日本晴」圃場 の一部で「京の輝き」を栽培したが,土壌還元の著しい場 所に当たり,初期生育が著しく抑制されたことが推察され た.これらの圃場では,「京の輝き」の穂数が「日本晴」 とほぼ同等であった.

今後の課題と栽培上の留意点

 現地適応性試験および丹後農業研究所における試験栽培 の結果から,「京の輝き」は,京都府の南部,中部,北部 の何れの地域においても栽培適性が確認され,同一の栽培 条件では「日本晴」や「祭り晴」に比べ多収性を示した. しかし,「日本晴」に比べ穂長が短く 1 穂籾数が少ないため, 多収性を発揮するためには「日本晴」より穂数を多く確保 する必要があると考えられた.  今後は,「京の輝き」が多収性を発揮するための必要穂 数を明らかにするとともに,それが実現できる栽植密度や 施肥条件を明らかにする必要がある.また,酒造用掛米と しては,多収によるコストダウンとともに,高タンパク米 となって酒造適性が低下しないように,タンパク質含有率 の制御に配慮した肥栽管理も必要である.これらを踏まえ, 引き続き酒造業界と連携して酒造適性を確認しながら,栽 第 8 表 丹後農業研究所および現地ほ場での試験結果 第 9 表 丹後農業研究所および現地ほ場の耕種概要

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培方法の検討を進め,「京の輝き」に適した生育指標や施 肥の目安を明らかにする予定である.  「京の輝き」は,当面の間,京都府において,「日本晴」 または「祭り晴」に替わる掛米用品種として普及展開を図 り,掛米用途を前提として最適な栽培方法の検討を進める 予定である.ただし,「京の輝き」は,炊飯米としても「コ シヒカリ」に近い優れた食味を有することから,普及が進 み,掛米需要以上の生産が可能になった場合は,京都府独 自の一般食用米品種として,さらに普及拡大を図る方向性 も想定できる.  本報告における「京の輝き」の生産力検定や現地適応性 試験では,いもち病や穂発芽の顕著な発生は見られなかっ た.しかし,特性検定試験(第 3 表)では,穂いもち病抵 抗性が“やや弱”,穂発芽性が“やや易”と判定されてい ることから,栽培に当たっては,いもち病の適期防除,適 期刈り取りに努める必要がある.

謝  辞

 本品種の育成に当たり,酒造適性評価において多大なご 尽力をいただいた伏見酒造組合の各位,現地適応性試験の にご協力いただいた生産者および普及指導員の各位に対 し,深く謝意を表する.また,懇切にご指導いただいた元 京都府農林水産技術センター農林センター主任研究員の竹 村哲氏(故人)に対し,心から感謝の意を表する.

引用文献

前重道雅・荒巻 巧(2000)第 2 章第 15 節 総括・新品種 開発状況と今後の方向,“最新日本の酒米と酒造り”前 重道雅・小林信也編著,養賢堂,東京.138 − 153. 坂井 真・中川宣興・石井卓朗・星野孝文・柴田和博・藤 井啓史・鳥山國士・岡本正弘・篠田治躬・山田利昭・小 川紹文・関沢邦雄・山本隆一(1995)酒造掛米用水稲新 品種「土佐錦」の育成.中国農研報 15:1 − 18.

Breeding of Rice Cultivar for Sake Brewing ‘Kyonokagayaki’

Koji Ozaki1,2), Kiyoyuki Miura3,4), Hideki Sasahara3), Akiko Shigemune3), Akitoshi Goto5), Ichiro Nagaoka3), Morihiko Fujita1,6), Hideto Imai1) and Koichi Kawase7)

1)Agriculture and Forestry Technology Department, Kyoto Prefectural Agriculture, Forestry and Fisheries Technology Center  (9 Wakunari, Amarube, Kameoka, Kyoto, 621 − 0806 Japan)

2)Dep. of Agriculture, Forestry and Fisheries, Kyoto Prefecture(Yabunouchi, Kamigyo, Kyoto 602 − 8570 Japan)

3)National Agricultural Research Center(Hokuriku Research Center)(1 − 2 − 1 Inada, Jyoetsu, Niigata, 943 − 0193 Japan) 4)National Agricultural Research Center(3 − 1 − 1 Kannondai, Tsukuba, Ibaraki 305 − 8666 Japan)

5)National Institute of Crop Science(2 − 1 − 18 Kannondai, Tsukuba, Ibaraki 305 − 8518 Japan) 6)Chutan’nishi Agriculture Extension Center, Kyoto Prefecture

 (1 − 91 Shinmachi, Shino-o, Fukuchiyama, Kyoto 620 − 0055 Japan)

7)Tango Agriculture Research Division, Kyoto Prefectural Agriculture,Forestry and Fisheries Technology Center  (488 Kurobe, Yasaka, Kyotango, Kyoto 627 − 0142 Japan)

Summary: A rice cultivar suitable for sake brewing, “Kyonokagayaki,” was developed from a cross between Shu6602 and Yamagata90 in collaboration between Kyoto prefecture and the National Agricultural Research Center. Culm length of Kyonokagayaki is slightly shorter, and heading and maturing occur 3 days earlier than those of Nipponbare. The productivity of Kyonokagayaki is 10% higher than that of Nipponbare. Lodging resistance of Kyonokagayaki is classified as high, viviparity is somewhat high, and levels of resistance to leaf and panicle blasts are moderate and somewhat low, respectively. The 1000 grain weight of brown rice is about 1 g heavier than that of Nipponbare. Kyonokagayaki is thus superior to Matsuribare for sake brewing. In performance tests at farmers’ fields in Kyoto 2011, Kyonokagayaki was considered to need more panicles than Nipponbare to show its high productivity.

Key words: Rice,Cultivar,Breeding,Sake,Brewing,Kyonokagayaki

Journal of Crop Research 58 : 25− 31(2013) Correspondence : Koji Ozaki(k-ozaki12@pref.kyoto.lg.jp)

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