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産褥早期における児童虐待の早期発見に向けたケンプ・アセスメントの実用の可能性

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*1大森赤十字病院(Omori Red Cross Hospital)  *2聖路加看護大学(St Luke's College of Nursing)

2009年11月2日受付 2010年8月27日採用

原  著

産褥早期における児童虐待の早期発見に向けた

ケンプ・アセスメントの実用の可能性

Feasibility of the kemp assessment screening for potential

child abuse and neglect in the postnatal period

新 井 香 里(Kaori ARAI)

*1

片 岡 弥恵子(Yaeko KATAOKA)

*2 抄  録 目 的  本研究は,ケンプ・アセスメントを用いて産褥早期に虐待スクリーニングを実施し,日本の医療施設 での実用性について評価することを目的とした。 方 法  都市部の1か所の医療施設に入院中の褥婦に対し,ケンプ・アセスメントを用いてインタビュー法に て虐待のスクリーニングを行った。ケンプ・アセスメントは,米国で広く用いられている虐待スクリー ニング尺度であるFamily Stress Checklistの日本語版である。10のカテゴリで構成され,評価基準を用 いて0点,5点,10点の3段階でスコア化する。得点が高いほどリスクが高いとみなし,合計点数が25点 以上で虐待のハイリスク者と判定する。  ケンプ・アセスメントを用いた虐待スクリーニングの実用性の評価は,スクリーニング方法,スコア 化・リスク判定,フォローアップに関して,評価質問紙を用いて行った。本研究は,聖路加看護大学研 究倫理審査委員会の承認を受けて実施した(承認番号08-049)。 結 果  研究の適格者92名中88名(95.6%)から研究協力が得られ,ケンプ・アセスメントを用いた虐待スク リーニングを行った。ケンプ・アセスメントの合計点数は,10カテゴリ全て「0点」という者が88名中 23名(26.1%),平均値は9.8点(SD=9.8)であった。カットオフ値である合計得点25点以上であった8名 (10.0%)がハイリスク者と判定された。  虐待スクリーニングのインタビューは,ほとんどの協力者に対して想定していた時期に実施できた。 場所に関しては全てがよいと回答した。所要時間は25分から77分であり,40分以上が約半数であったが, 負担と感じていたのは20.5%だった。60.0%以上がインタビューにより不安が緩和した,フォローアッ プにて提供した情報が役立つと回答した。ハイリスク者に対するフォローアップとしては,スクリーニ ングによって得られた背景的な問題や詳細状況を用いて担当助産師と相談の上,地域の保健所等と連携 することができた。

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結 論  ケンプ・アセスメントの実施評価から,スクリーニングによる協力者への害はほとんどなく,肯定的 意見が多数得られた。さらに,スクリーニングによって多くのハイリスク者を継続支援へつなげること ができた。ケンプ・アセスメントのスコア化の複雑さや退院後の継続支援検討,信頼性・妥当性の確保 は課題であるが,ケンプ・アセスメントの産褥早期での実用の可能性が示唆された。 キーワーズ:児童虐待,産褥,スクリーニング,評価研究,家族ストレス Abstract Objectives

To implement and evaluate the application of the Kemp Assessment, designed to screen for parental child abuse and neglect.

Method

The Kemp Assessment, translated from the Family Stress Checklist into Japanese for women at postnatal set-tings in Japan, was implemented by interview to access the risk for child abuse and neglect. The Kemp Assessment is comprises of ten items each weighted from 0 (no risk) to 10 points (highest risk) discriminating low-risk of child abuse and neglect from high-risk with a maximum score of 100. The cutoff point was a score of 25 (higher risk). Cronbach's α of the Kemp Assessment was 0.57.

Utility of the Kemp Assessment Process was evaluated through screening method, scoring, and follow-up for high-risk women using an evaluation questionnaire. The Ethics Committee of St.Luke's College of Nursing ap-proved the protocol.

Results

Participants were 88 (95.6%) of the 92 eligible women in the postnatal period at an urban hospital. The average total score was 9.8 (SD=9.8). Scoring 0 were 26.1% and eight women (10.0%) scored at high-risk for child abuse.

According to the evaluation questionnaires the screening interviews were appropriate for timing and place. While interviews lasted 25-77 minutes; about half the participants required over 40 minutes, only 20.5% responded that the interview was slightly long. More than 60.0% responded that the interview was helpful in easing anxiety and for obtaining community resource information. For follow up of identified high-risk women, the researchers used participants' background information and details of the women's situation and of their families. Researchers and the midwives referred high-risk women to community health centers to continue support.

Conclusion

Participants' evaluation indicated positive reactions for the screening and follow-up methods. Researchers re-ferred high-risk women to community health centers to continue support. The Kemp Assessment could be safely utilized in prenatal settings in Japan, when the psychometric properties of the instrument and study design are strengthened.

Key words: child abuse, postnatal care, mass screening, evaluation studies, family stress

Ⅰ.は じ め に

 現在,子どもの虐待は大きな社会問題となってお り,日本では2004年に児童虐待防止法・児童福祉法 の改正が行われ,地域での取り組みが始まった。しか し,現在も虐待による深刻な事例は後を立たず,児 童相談所における虐待対応件数は年々増加傾向にあ る(厚生労働省,2008b)。また被虐待経験は,自己効 力感の低下やうつ病の発症等,社会生活に障害を生み (Graziano & Mills, 1992; Toth, Manly & Ciccetti, 1992;

Malinosky-Rummell & Hansen, 1993),生涯にわたっ

て健康に深刻な影響を与える。したがって,虐待の早 期発見と予防的介入は医療に課せられた重要な役割と 考えられる。特に,虐待死亡事例のうち月齢3か月未 満が過半数を占め,虐待期間が1年以上の例は4割に も及ぶことから(厚生労働省,2008a),可能な限り早 期に虐待を発見しなくてはならない。そのためには, 周産期において虐待リスクをスクリーニングし,介入 をスタートさせる必要がある。  虐待スクリーニングにより把握されたハイリスク 者に対しては,集中的な家庭訪問(Nygren, Nelson & Klein, 2004),ペアレンティングプログラム(Olds,

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達段階の知識と期待】【しつけの計画】【新しい赤ちゃ んに対する想い】【アタッチメントとボンディング】の 10のカテゴリで構成される。妊娠期から育児期まで広 い範囲での使用が可能であり,10カテゴリについて評 価基準を用いて0点,5点,10点の3段階(合計0∼100 点)でスコア化する。得点が高いほどリスクが高いと みなし,合計点数が25点以上で虐待のハイリスク者 と判定する。Stevens-Simon, Nelligan & Kelly(2001) は妊婦にFSCを実施し,カットオフ値を25点として 追跡調査したところ,ハイリスク者は1および2年後 ともに虐待が高い確率で起きていた(1年後RR8.41, 95%CI1.77-40.01,2年 後RR5.19, 95%CI1.99-13.60)。 ま た,Hawaii Department of Healthで は,Child Abuse Potential Inventoryを至適基準とし正確度を検討した ところ,感度は89%(6か月)と84%(12か月),特異度 は37%(6か月)と25%(12か月)であったことを報告し ている(Nygren, Nelson & Klein, 2004)。

3.ケンプ・アセスメント  Hennessy(2008)はFSCを日本語に翻訳し,ケンプ ・アセスメントおよび評価基準を作成した。ケンプ・ アセスメントは,表1の左列に示したカテゴリと評価 基準が示されているが,質問例が示されていない。本 研究では,ハイリスク者を判定する上で必要な情報を 網羅して得るために,評価基準を参考に表1の右列に 示した複数の質問例を作成し,質問紙を作成した。な お,ケンプ・アセスメントおよび評価基準の使用に関 しては,Great Kids Inc.およびHennessy氏より承諾 を得た。  ケンプ・アセスメントは,2名の褥婦に対し表面妥 当性を検討した後,本研究における88名の褥婦から 得たデータを基に,信頼性および妥当性を確認した。 信頼性に関しては,全研究協力者が0点であった【親 としての経験】を除く9項目でのCronbach's αは,0.57 であった。ケンプ・アセスメントの構造については, 同様に【親としての経験】を除いた9カテゴリについて 分析した。主成分分析の結果,第1主成分の寄与率が 26.6%と低いことがわかった。次に主因子法・プロマ ックス回転を用いて因子分析を行った結果,固有値1 以上として2因子を抽出した。したがって,ケンプ・ アセスメントは二次元の因子構造と考えられた。しか し,原版であるFSCは1次元性の構造として合計点数 でリスク判定を行っているため,本研究においても因 子別に分けた分析は行わず,FSCと同様の方法で合計 Sadler & Kitzman, 2007; Prinz & Sandlers, 2007)により,

虐待および健康被害へのリスクが減少するというエビ デンスがある。実際,日本でも児童相談所・保健所等 の支援が整備され,虐待ハイリスク者へのフォローア ップが可能な環境にあり,虐待スクリーニングを実施 する意義は高い。しかし,虐待スクリーニングに関す る研究は少なく,また医療の場に虐待への取り組み が浸透しておらず,特に虐待スクリーニングへの認知 は極めて低いという現状がある(鈴木・畑下・羽畑ら, 2008)。  そこで本研究は,現在米国で広く用いられている虐 待スクリーニングツール(Anderson, 1993; Korfmach-er, 2000; Nygren, Nelson & Klein, 2004)であるFamily Stress Checklist(Murphy, Orkow & Nicola, 1985)の日 本語版であるケンプ・アセスメント(Hennessy, 2008) を用いて虐待スクリーニングを実施し,実施プロセス の評価から産褥期でのケンプ・アセスメントの実用性 について検討することを目的とした。

Ⅱ.研 究 方 法

 本研究は,産褥早期にケンプ・アセスメントを用い た虐待スクリーニングを褥婦に対して実施し,日本に おけるケンプ・アセスメントの実用性を検討する評価 研究である。 1.研究協力者  研究施設は,都市部にある産科・婦人科を標榜した 主にローリスク分娩を取り扱う年間分娩件数約1300 件の1ヵ所の医療施設である。研究協力者は,本研究 に同意を得られた①研究施設にて研究期間中に出産後 入院している褥婦であり,②日本語による日常会話 が不自由でないこととした。ただし,以上の条件を満 たしても,スクリーニングによって明らかに褥婦の 健康状態に影響を及ぼすと予測される場合は除外した。 データ収集期間は,2008年10月から11月末であった。 2.Family Stress Checklist

 Murphy, Orkow & Nicola(1985)によって開発された Family Stress Checklist(以下,FSCとする)は,イン タビュー法にて虐待のリスクを測定し,ハイリスク者 を判別するスクリーニング尺度である。FSCは,【両親 の生育歴と子ども時代の環境】【生活様式と精神保健】 【親としての経験】【日常の問題解決技術と支援組織】 【現在のストレス源】【怒りの処理の技術】【乳幼児の発

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点数の算出およびリスク判定を行った。

4.ケンプ・アセスメントを用いた虐待スクリーニン グ方法

 本研究にて実施および評価を行うケンプ・アセスメ ントによる虐待スクリーニングの体制は,米国の国家 プロジェクトであるHealth Family America Initiatives の中で採用されている方法を基盤とし,医療および地 域における支援の現状に合わせて構築した。虐待スク リーニングの実施時期は,米国の実施例を参考とし, 医療者との信頼関係,プライバシーが保証される安全 な環境,スクリーニング実施時間の確保,フォローア ップの可能性について,医療の現状から検討し,産後 の入院期間中である産褥早期が妥当であると考え,実 施した。 1 )インタビューによるスクリーニング  医療記録から基礎情報に関する情報収集を行った後, ケンプ・アセスメントに基づいて1名のインタビュー 者により1対1のインタビューにて虐待スクリーニン グを実施した。実施は,出産後の体力回復を考慮し原 則として産褥3∼4日目,帝王切開後は産褥5∼6日目 とした。インタビューは,30分から60分を予定し,褥 婦のスケジュールに合わせて時間を設定した。実施場 所は,プライバシーを守れる環境を確保するため個室 とした。 2 )ケンプ・アセスメントのスコア化とリスク判定  インタビュー終了後,インタビュー実施者は別室に て,ケンプ・アセスメントの質問に対する回答から評 価基準を使用してスコア化し,リスク判定を行った。 インタビュー実施者は,米国にてHealthy Families Arizona(2008)が主催するFamilies Assessment Train-ingに参加し,インタビュー手法とスコア化のトレー ニングを受けた。 3 )フォローアップ  リスク判定にてハイリスク者と判定された場合,ま たは心身に何らかの重大な問題を抱えている等専門的 表1 ケンプ・アセスメント(10カテゴリ),評価基準例,質問例 カテゴリ 評 価 基 準 例 質    問    例 1. 両親の生育歴と子 ども時代の環境 ・家出を繰り返したか・自分または兄弟は虐待を受けた経験があるか ・愛情ある親業をしてくれる者の存在があったか ・子どもの頃,家出をしたことはありますか ・兄弟間でうけたしつけは同じでしたか ・子どもの頃,あなたに愛情をもって接してくれた人はいますか 2. 生活様式と精神保 健 ・犯罪歴があるか・精神疾患既往があるか ・アルコール依存歴・喫煙歴があるか ・今までに,補導や交通違反など警察と関わった経験はありますか ・精神面のことで,通院やカウンセリングをうけた経験はありますか ・妊娠中にタバコを吸ったりお酒を飲むことはありましたか 3. 親としての経験 ・子どもの安全に気を配っているか ・児童相談所との関わりがあるか ・今まで,年の離れた兄弟や知人の子どもなどの世話をした経験はありますか ・子どもが大きな怪我や病気などをした時,どのように対応しようと思い ますか ・今までに,子どもと離れて暮らした経験はありますか 4. 日常の問題解決技 術と支援組織 ・周囲の人と定期的に会って楽しむことがあるか・ストレスに対処できているか ・妊娠12週以前に初期健診を受けたか ・収入面での問題はあるか ・妊娠中に,外出したり友人と会ったり,楽しみになることはありましたか ・妊娠中,精神的に落ち込んだときなど,だれかに相談できましたか ・妊娠に気付いてから最初に健診に来たのはいつですか ・妊娠中に,仕事や通学していましたか,今後はどうする予定ですか 5. 現在のストレス源 ・夫(パートナー)と同居しているか,良い関係性 があるか ・ストレスに対する対処ができているか ・経済的問題がストレスになっているか ・現在,誰と一緒に暮らしていますか ・パートナーからは,どのようなサポートを得られそうですか ・生活状況(収入・環境)に関して,どう感じていますか,満足していま すか 6. 怒りの処理の技術 ・怒ると物を投げたり暴力をふるうことがあるか ・暴力をふるわれるのではないかと恐れているか ・イライラした時には,どのように対処していますか・夫・パートナーは,イライラした時,どのように対処していますか 7. 乳幼児の発達段階 の知識と期待 ・年齢に沿った発達段階を分かっている(勉強しようとしている)か ・期待する発達段階が正常よりもかなり早い,また は遅いか ・子どもの歩き始めは,何歳くらいで正常だと思いますか ・子どものオムツは,何歳くらいでとれれは心配ないと思いますか ・子どもの成長や発達に関する情報は,どこから得ていますか 8. しつけの計画 ・1歳までに肉体的なしつけ方法を用いて教えよう としているか ・第一手段として肉体的な罰が必要だと考えているか ・子どもにしつけとして教え始める時期は,いつ頃がよいと思いますか ・ハイハイした子どもが,PCなどの触られたくないものに向かっていっ た時,どのように対処しますか 9. 新しい赤ちゃんに 対する想い ・赤ちゃんについて話す時に肯定的なところを話すか・子どもの行動(泣く,ぐずる)を正常な成長の段 階として捉えているか ・子どもと一緒に過ごしてみて,どう感じていますか ・子どもが泣いた時,どのように感じていますか,どう対応していますか 10. アタッチメント とボンディング ・計画したか否かに関わらず赤ちゃんが歓迎されているか ・子どもの父親と結婚しているか,別居しているか ・子育てを肯定的な人生の節目として捉えているか ・妊娠がわかった時,どのうように感じましたか ・子どもの父親や周囲の人に妊娠を伝えた時,どのように反応しましたか ・親になった今を,どのように感じていますか

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介入が必要と判断された褥婦には,フォローアップの 可能な担当助産師に継続的な支援を依頼した。インタ ビューを行った全ての褥婦に対して,資料(地域子育 て相談窓口,夜間診療情報,児童手当等補助金,地域 子育てマップ,子ども虐待防止センター電話相談窓口 情報等)および口頭にて,周辺地域で受けられる社会 資源について情報提供を行った。ハイリスク者と判定 された褥婦には,担当助産師およびカウンセラーと連 携し退院後を視野に入れ適切な支援を受けられるよう 体制を整えた。 5.評価方法  虐待スクリーニングの実用性の評価は,「スクリー ニング方法」「スコア化・リスク判定」「フォローアッ プ」の3段階に分けて行った。「スクリーニング方法」 に関しては,インタビュー中の協力者の回答および反 応,評価質問紙による協力者の主観的評価を得た。協 力者の回答や反応を記述する上では,インタビュー 中は研究者が作成したインタビューガイドを使用した。 協力者の主観的評価は,インタビュー直後に評価質問 紙を配布し,記入後回収ボックスにて回収した。質 問紙の内容は,インタビューの場所,実施時期と日 時,所要時間,内容への不快感,子育て情報が役立つ か,育児不安の緩和に関して,択一回答式および自由 回答式にて回答を求めた。「スコア化・リスク判定」は, 医療記録から得た情報とインタビューによって得た情 報の相違について,およびスコア化とリスク判定にお いて実施者が困難に感じた点を記述した。「フォロー アップ」については,スクリーニング後の実際のフォ ローアップ内容を記述し,その適切性について評価を 行った。  協力者の基礎情報として,年齢,婚姻状況,家族構 成,経済状況(健康保険の種類,生活保護・入院助産 有無),分娩様式,職業,教育背景(最終学歴),パー トナーからの暴力に関して情報を得た。

Ⅲ.倫理的配慮

 研究者は,協力者に研究の趣旨・目的・方法を説明 し,口頭及び文書にて説明し,同意が得られた場合に 同意書への署名を依頼した。研究の同意を得る際には, 医療記録より情報を得ることについても併せて同意を 得た。文書には,①協力者の自由意思の尊重,匿名性 の保持を厳守し,協力者が不利益を被ることのないよ う十分配慮すること,②研究で使用する用紙は全て無 記名とし,匿名性を保証すること,③インタビューは プライバシーの守られる場所で行えるよう配慮し,不 快感があった場合にはいつでも中断できること,④結 果は学会等で発表することもあるが,個人が特定され ることはないことを記載した。本研究は,聖路加看護 大学研究倫理審査委員会の承認を受けて実施した(承 認番号08-049)。

Ⅳ.結   果

1.研究協力者の特性  研究協力を依頼した92名中88名(95.7%)から同意 を得,ケンプ・アセスメントの有効回答率は100%で あった。インタビュー後,88名に質問紙を配布し回収 できたのは78名(回収率88.6%)だった。   年 齢 は30代 が 最 も 多 く(30.9 5.0), 初 産 婦43名 (48.9%),経産婦45名(51.1%),経膣分娩77名(87.5%) で全て既婚者だった。家族構成は,核家族が72名 (81.8%),拡大家族が16名(18.2%)であり,就業形態 は,仕事をもつ者が40名(51.3%),フルタイム26名 (33.3%),パートタイム14名(18.0%)であった。教育 背景としては,高校卒以上が74名(94.9%),中学校卒 が4名(5.1%)であった。協力者の集団を全国平均(佐々 井・岩澤,2005;財団法人母子衛生研究会,2007;厚 生労働省,2008c)と比較すると,仕事をもつ者の割合, 特にフルタイムで働く割合が高く,生活保護世帯や入 院助産者が皆無であり,低所得者層とは考えにくい。 よって,協力者は共働き世帯が多いという特徴をもつ といえる。 2.ケンプ・アセスメントの基本統計量 1 )合計得点の度数分布  ケンプ・アセスメントの合計得点の分布を図1に 示した。正規分布ではなく左に偏りのある分布であ り,10のカテゴリ全て「0点」という者が88名中23名 (26.1%)だった。最頻値0点,平均値は9.77点(標準偏 差9.79)であり,得点範囲は0点から45点だった。カ ットオフ値である合計得点25点以上であったのは8名 (10%)であり,8名(10%)がハイリスク群,80名(90%) がローリスク群と判定された。 2 )各カテゴリ得点の度数分布  ケンプ・アセスメントの各カテゴリの度数分布を図 2に示した。スコアリングされた者(5点または10点)

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の割合が最も高かったのは,【両親の生育歴と子ども 時代の環境】で88名中32名(36.4%)であり,次いで【現 在のストレス源】が29名(33.0%),【日常の問題解決技 術と支援組織】が27名(30.7%),【新しい赤ちゃんに対 する想い】が19名(21.6%)だった。その他6つのカテ ゴリについては,「0点」が80%以上を占める偏りのあ る分布となった。【親としての経験】に関しては,88名 全ての協力者が「0点」であった。 3.虐待スクリーニング実施プロセス評価  質問紙より得た協力者の主観的評価を表2に示した。 1 )スクリーニング方法  インタビューは,ほとんどの協力者に対して想定 していた時期に実施でき,産褥3日目が44名(50%), 4日目が32名(36.3%),帝王切開後では5日目が8名 (9.1%),6日目が2名(2.3%)であった。想定時期よ りも早い産褥2日目に実施したのは2名(2.3%)であ り,ともに経産婦で体力回復に問題がなく,沐浴や退 院指導が入る以前のインタビューを希望したため実施 時期を早めた。日時に対し,「他の日時の方がよかっ た」と回答したのは5名(6.4%)であり,5名中1名がハ イリスク者であった。5名の希望日時としては,「赤ち 23 20 18 13 6 2 2 2 1 1 25 20 15 10 5 0 度   数︵人︶ 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 合 計 得 点(点) 5.7 5.7 4.5 6.8 10.2 11.4 21.6 27.3 26.1 100 95.5 93.2 90.9 88.6 85.2 78.4 69.3 63.6 1.1 1.1 3.4 10.2 9.0 25.0 67.0 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 3. 親としての経験 8. しつけの計画 6. 怒りの処理の技術 10. アタッチメントとボンディング 7. 乳幼児の発達段階の知識と期待 2. 生活様式と精神保健 9. 赤ちゃんに対する想い 4. 日常の問題解決技術と支援組織 5. 現在のストレス源 1. 両親の生育歴と子ども時代の環境 10点 5点 0点 % 図1 ケンプ・アセスメント合計得点の度数分布(n=88) 図2 ケンプ・アセスメント各カテゴリの度数分布(n=88)

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ゃんをあずけている時間帯」「平日の夕方」が挙げられ た。これらの理由としては,「赤ちゃんが途中で泣き 出してしまい,落ち着いて話せなかった」「妊娠が分 かった時のことは,赤ちゃんが聞いているので話しに くかった」と挙げられた。場所に関しては,質問紙に 回答した全てが「個室で良い」と回答した。所要時間 は25分から77分であり,40分以上が49名(55.7%)で あったが,「長い」「やや長い」と感じていたのは16名 (20.5%)だった。インタビュー内容に対し,インタビ ュー中明らかに不快感を示す者や中断した者はいな かったが,インタビューを受けて「不快に感じた項目 があった」と回答したのは5名(6.4%)であり,1名が ハイリスク者であった。具体的内容としては,「家族 について」「妊娠したときの気持ち」「夫の仕事」「夫と の関係性」「実家の場所」「自分の過去」「停学・補導に ついて」が挙げられた。また,インタビューによって 「育児不安が緩和した」と回答したのは過半数の50名 (64.1%)であった。自由記載からは,「支援者の存在 を認識できた」「自分自身の見直しや不安の整理がで きた」「楽しかった」「すっきりした」など肯定的意見が 多数得られた。 2 )スコア化・リスク判定  ケンプ・アセスメントには,日本語表現について意 味の違いを判断しにくい用語の混在(例,肉体的バツ, 肉体的折檻,体罰)や,用語の示す範囲を特定しにく い用語(例,精神医療)が存在していた。またスコア 化については,評価基準を用いてスコア化が困難な事 例もあったため,Healthy Families Arizonaのスーパー バイザーから助言(例,押入れに閉じ込められたトラ ウマがある場合身体的な傷が残らなくても心理的な傷 として本人が感じていればスコア化の対象となる)を 受けた。  ハイリスク者に関して,医療記録から得た情報とス クリーニングによって得た情報を表3に示した。ハイ リスク群の8名について,医療記録に何らかの問題の 記載があったのは6名であったが,記載のなかった問 題点も多く表出された。2名に関しては,スクリーニ ング時に初めて抱えている問題が表出された。Aさん は,夫の単身赴任などで育児のサポートが不十分で, 夫や義母との関係性の中でストレスが高い状態にある ことがわかった。ケンプ・アセスメントの得点35点 であったFさんは,医療記録には離婚歴があり実の子 表2 研究協力者の主観的評価 項  目 人  数 (%) 全  体 n=78 ローリスク群 (≦20点) n=70 ハイリスク群 (25点≦) n=8 場所 個室で良い他の場所がよい 未記入 78(100) 0(0) 0(0) 70(100) 0(0) 0(0) 8(100) 0(0) 0(0) 日時 これで良い他の日時がよい 未記入 68(87.2) 5(6.4) 5(6.4) 62(88.6) 4(5.7) 4(5.7) 6(75.0) 1(12.5) 1(12.5) 長さ 長い やや長い ちょうど良い やや短い 短い 未記入 2(2.6) 14(17.9) 60(76.9) 0(0) 0(0) 2(2.6) 2(2.9) 13(18.6) 54(77.1) 0(0) 0(0) 1(1.4) 0(0) 1(12.5) 6(75.0) 0(0) 0(0) 1(12.5) 内容への不快感 なかったあった 未記入 71(91.0) 5(6.4) 2(2.6) 65(92.9) 4(5.7) 1(1.4) 6(75.0) 1(12.5) 1(12.5) 育児不安 緩和した 緩和しなかった 不安が増えた 未記入 50(64.1) 16(20.5) 1(1.3) 11(14.1) 45(64.3) 15(21.4) 1(1.4) 9(12.9) 5(62.5) 1(12.5) 0(0) 2(25.0) 子育て情報 役立つと思う役立つと思わない 未記入 52(66.6) 13(16.7) 13(16.7) 46(65.8) 12(17.1) 12(17.1) 6(75.0) 1(12.5) 1(12.5)

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どもとは一緒に暮らしていないとの記述があった。ス クリーニングによって,Fさんの背景には実母との母 子関係に問題があり,現夫も過去に虐待を受けた経験 を有しており,子育てに対して強い不安があることが わかった。スクリーニングによって得られた情報は, 退院後を含め継続的なケアを立案するために,欠かす ことができない内容であった。 3 )フォローアップ  インタビュー後,提供した情報に対し「役立つと思 う」と回答したのは52名(66.6%)と過半数であり,「役 立つと思う」と回答した者の割合はハイリスク群に高 かった。「役立つと思う」情報として,「地域子育て相 談窓口」を挙げた者が16名と最も多く,続いて「夜間 診療情報」が7名,「上の子への対応法」が5名であり, その他に「児童手当等補助金について」「子ども虐待防 止センター電話相談窓口」「保育所情報」が挙げられた。  ハイリスク者に対するフォローアップの実際は,表 4に示した。スクリーニングによって新たな問題が把 握された例は多く,担当助産師と相談の上個別にフォ ローアップ方法を検討した。協力施設での支援体制(助 産師による電話訪問,1ヶ月健診相談,カウンセリン グ,家庭内暴力プロジェクト等)および地域の保健所 との連携を行った。例えば,Eさんに関しては地域保 健師へ早期家庭訪問を依頼して支援が途切れないよう にした。経済困難に対しても児童手当てや一時金の申 請など早急に対応することができた。Fさんに関して は心理カウンセラーの紹介や早期の電話訪問等の支援 の実施へと結びつけることができた。今回のスクリー ニングによって,全てのハイリスク者を継続した支援 へとつなげることができた。

Ⅴ.考   察

1.ケンプ・アセスメントの利点と課題 1 )ケンプ・アセスメントの利点および意義  インタビュー環境に対し全協力者が満足していたこ とから,ケンプ・アセスメントは個室での実施が望ま しいといえる。また,実施時期や日時については,協 力者と相談しながら調整した効果により,否定的意見 は少数だった。所要時間は,産後の疲労を考慮し30 表3 ハイリスク者の把握 合計得点 診療録から得た情報 新たに把握された主な内容 A 30代 経産 25 特記事項なし。 夫が単身赴任で週末のみ会える。義母が週末に一緒に帰ってくるのが嫌にな る。上の子どもの時に育児不安で子ども家庭支援センターに通っていた。誰 かといるときは,まわりに示しがつかないので叩く。夫は考えの古い人で外 で働くなと言う。本当は外に出たい。 B 10代 初産 25 若年であり,妊娠中から注意して経 過をみていた。 高校生の頃から家出を繰り返し,高校を中退していた。 C 10代 初産 30 若年であり,妊娠中から注意して経 過をみていた。夜間不安になり,不 眠で安定剤を処方されていた。 以前から時々過呼吸になることがあったが,専門的に診療を受けたことはな かった。高校生の時から家出を繰り返していた。夫は無職。 D 30代 初産 30 夫からのDVがあり,別居中。DVに 関して継続してフォロー中である。 幼少期,親は姉にだけ厳しかった。姉は,虐待をうけていたと言っている。 自分には虐待経験はないが,姉が自分に対して怖かった。いつも姉におびえ ていた。 E 10代 初産 35 初診時にDVがあるとわかり,継続 してフォロー中だった。中学生の頃 に義父からの虐待があり,児童養護 施設に保護されていた。 自分の実父だと思っていた人は,本当の父ではないことを最近になって知っ た。母は病気があり,絶対に頼れないと思っている。幼少期にも,義父をか ばうばかりで,自分を助けてもらえた経験はない。夫は仕事を探している。 家は風呂も洗濯機もないが経済的余裕がなく引っ越せない。 F 30代 経産 35 離婚歴あり,実の子どもとは一緒に 暮らしていない。 実母との複雑な関係性があり,幼少期愛情をもって接してくれた大人が身近 にいなかった。前夫ともうけた子どもは前夫と暮らしており,今は連絡がと れなくなってしまった。しばらく,そのショックから立ち直るのに酒浸りの 生活をしていた。同居する現夫の実母がうつ病であり,現夫の兄弟は,実母 の面倒をおしつけてきた。夫はかつて実母から身体的虐待をうけていた。 G 20代 初産 40 特記事項なし。 夫が無職で,夫の実父が借金を抱えているなど,経済的困難と自分だけでは 対処不可能な問題がある。2度の自殺既往があり,親の離婚や実父からの身 体的虐待など,複雑な家族背景がある。 H 30代 経産 45 上の子の時の様子と妊娠中から様子 が違う。子供をみてもあまり嬉しそ うじゃなく,何か伝えても反応が悪 い。 上の子どもは実祖父母が育てている。生まれた子どもも祖父母が育ててくれ ると思っている。妊娠が嬉しくなかった。自分の生活が脅かされるので,子 どもはほしくなかった。でも周りが喜んでいるから生んだ。感情にまかせて 上の子を叩いている時がある。子どもの頃,父親とよく殴り合いをしていた。 弟に対して,自分よりも愛情をもたれていたという感情がある。

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分程度と想定していたが,実際には過半数が40分以 上を要した。所要時間に対し「長い」「やや長い」と回 答した者は約2割であり,特にハイリスク者に長時間 を要したにも関わらず時間的負担を感じている者は少 数であった。以上より,産後の心理的に不安定になり やすい時期のスクリーニングに対し負担を感じた者が 少数であり両群から多数の肯定的意見が挙げられたこ と,周産期医療の場の日常業務内で把握しきれない問 題点を明らかにでき多くの者を継続支援につなげるこ とができたこと,さらに介入が主目的ではないものの スクリーニングによる「育児不安緩和」への効果が表 れていたことの3点を合わせて考えると,時間をかけ て向き合って話をすることは重要であり,特にハイリ スク者への実施意義は高いと考えられる。 2 )ケンプ・アセスメントの課題  ケンプ・アセスメントは,FSCの日本語版として Hennessyが作成し,産褥期における虐待スクリーニ ングで用いたのは,本研究が初めてであった。本研究 にてケンプ・アセスメントのCronbach's αは0.57と低 く,妥当性にも問題が残された。今後の課題としては, 因子構造の再検討,スコア化の適正化,カットオフ値 の妥当性を検討する必要性があり,至適基準を用いて 感度・特異度の検討も重視される。より信頼性および 妥当性の高いツールを作成することは,ケンプ・アセ スメントの実用性を高めるためにも必須であると考え る。  また,本研究においてケンプ・アセスメントの【親 としての経験】【新しい赤ちゃんに対する想い】の2つ のカテゴリでは明らかに異なる得点分布がみられたた め,文化的適合性に加えカテゴリとして検討する必要 性がある。まず【親としての経験】は,全協力者が「0点」 を示した。評価基準によると「児童相談所との関与や 通告された経験」,または「違法の薬物の使用経験の 有無」が「0点」の判断基準となっている。日本の児童 相談所への相談件数は年々増加傾向にある(厚生労働 省,2008b)が,虐待による死亡事例では児童相談所の 関与のない事例が過半数であり(厚生労働省,2008a), 児童相談所と関与のない虐待事例は多く存在すると予 想される。また,米国の通告基準範囲は日本と比較し て広い(萩原・岩井,1998)ため,日本の通告割合は米 国と比べて低いと予想される。次に,違法薬物の使用 経験について,諸外国では虐待のリスク因子(Clark, Belgrave & Nasim, 2008)と報告されており,重要な リスク判定基準であると考えられる。しかし,日本の 違法薬物生涯経験率は2.43%と低くほぼ横ばいであり (和田・近藤・尾崎,2006),虐待による死亡事例のう ち違法薬物の使用があった者は存在しない(厚生労働 省,2008a)。以上から,ハイリスク者が児童相談所と の関与や違法薬物の使用経験をもつ割合は低いと予想 され,リスク判定基準とすべきかの検討が必要である。 表4 ハイリスク者へのフォローアップ 退 院 後 の 支 援 A 現在の子供に対しての愛着に問題はみられないため,早めの電話訪問と乳児健診において注意して 観察をすることとなった。 B 現在は実父母からの支援をうけられており,退院後の大きな問題はみられないが,若年であること で早期の電話訪問と乳児健診において注意して観察をすることとなった。友人がほしいとの希望か ら,研究協力施設内の育児支援グループを紹介した。 C 現在は実父母からの支援をうけられているが,若年であることで早期の電話訪問と乳児健診におい て注意した観察をすることとなった。不眠については,服薬にて経過観察となった。カウンセリン グの希望があり,心理カウンセラーへつないだ。 D 研究協力施設の家庭内暴力プロジェクトにより継続支援となった。 E 退院前より,地域保健師と連携し早期家庭訪問を依頼し,退院後の継続支援方法を検討した。経済 困難については,児童手当や一時金の申請を促した。早期の電話訪問や乳児健診時に観察をするこ ととなった。 F 心理カウンセラーに関する情報提供を行ったが,本研究におけるインタビューによって「気持が楽に なった」という理由から,心理カウンセラーとの面接は行わなかった。退院後のフォローとしては, 早めの電話訪問,乳児健診での様子を注意して観察していくこととなった。 G 担当助産師との個別面接が実施でき,その後も早期電話訪問や乳児健診での面接,保健所との連携 にて継続支援を実施することとなった。 H 祖父母の養育は確保されてはいるが,早期の電話訪問と乳児健診において注意して観察をすること となった。

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 【新しい赤ちゃんに対する想い】に関しては,「10点」 と判定された者は皆無であり,リスク判定する上での 重要性が低いと示された。評価基準によると,「子ど もの行動を正常な成長の段階ととらえ,肯定的に表現 しているか」が「0点」の判断基準となっている。つま り,本研究協力者において,両群とも子どもに対し否 定的感情をもつ者が少数だったといえる。これは,生 後1か月と比較し1年後に受容的感情が低くなると述 べられている点から,産褥早期の特徴と解釈できる (田淵・島田,2006)。また,子どもの性質が母親の 困難感を増大させることが述べられている(Tabuchi, Shimada & Kameda et al., 2008)ことから,子どもの性 質に対する想いを評価する項目は児童虐待リスクをは かる上で必要と考えられる。 2.日本の周産期におけるケンプ・アセスメントの実 用の可能性  虐待のリスク因子として支援者の不足があるよう に,虐待は周囲から孤立した時に起こる可能性が高 い(Knutson, 1995)。この点,妊娠・出産においてほ とんどの母親が医療機関を受診する日本では,周産期 に虐待リスクを把握し,深刻な問題へ発展する以前に 地域へ継続した支援へと結びつける役割は大きい。ま た,ケンプ・アセスメントの「内容への不快感」を感 じた者は,米国での先行研究(Korfmacher, 2000)と同 様に少数存在し,デリケートな内容については特に言 葉の表現に注意すべきであることが示唆された。よっ て,妊娠期から信頼関係を築いてきた助産師は,ケン プ・アセスメントを実施するのに適した職種と考えら れる。ケンプ・アセスメントを用いた虐待スクリーニ ングを実用するにあたり最も重大な課題は,使用者に はトレーニングが必要であり,誰でも簡単に使用で きるツールとは言い難いという点である。1人に対し 約40分を要することからも,臨床の多忙な業務の中, 全ての母親に対する実施は困難だろう。この点米国で は,第1段階として婚姻関係や経済状況等の15項目の チェックリストを使用した簡易スクリーニングを行っ てリスク者を絞った上でFSCを実施している。多忙な 臨床での実施には,このような2段階スクリーニング を取り入れることによって実用性が高まる可能性があ る。また,ハイリスク者に対する継続支援を提供する 上では,周産期医療と地域のより継続的な虐待予防へ の取り組みが課題といえる。近年,「こんにちは赤ち ゃん事業」が開始され,医療と地域による合同カンフ ァレンスの実施も継続支援を有効に行う手段であると 考えられる。  本研究の結果から,10.0%がハイリスク者と判定さ れ,最大値は45点であった。米国にて,低所得者層 に対しケンプ・アセスメントの原版であるFSCを使用 した調査では,最大値80点でハイリスク者が18.4% であった(Murphy, Orkow & Nicola, 1985)。比較する と,本研究におけるハイリスク者はやや少なく,全 体のリスク度も低かったが,この差は「貧困」や「低所 得者層」が虐待リスク因子と報告されている点(Knut-son, 1995;厚生労働省,2008a)から,対象とした者 の低所得者層の割合による差と考える。一方,日本 において他の虐待スクリーニング尺度を用いた研究 では,10.0%前後に虐待のリスクがあったと報告され おり(河村・加固・秋山ら,2005;渡辺・萱間・相模 ら,2002),本研究結果は類似していた。一方,近年 「胎児虐待」についても指摘されており(厚生労働省, 2008a),本研究においても妊娠中から問題を抱えてい た母親が存在していた事実から,妊娠期での実施の必 要性も示唆された。  本研究はケンプ・アセスメントの実用性を検討した ものであり,ツールの信頼性・妥当性の確保のために は,十分なサンプルサイズをもった前向き研究により, カットオフポイントや実際の虐待事例の発生との関連 を検討する必要がある。

Ⅵ.結   論

 ケンプ・アセスメントを用いて産褥早期に虐待スク リーニングを1か所の医療施設で実施および評価を行 った。実施プロセス評価を行った結果,協力者からの 少数の否定意見もあったが,肯定的意見が多数あっ た。産褥早期のスクリーニングによって,医療記録に 記載のなかった多くの情報を把握し,ハイリスク者を 継続支援につなげることができた。課題として,所要 時間の長さや評価プロセスの複雑さ,退院後の継続支 援の実施策,ケンプ・アセスメントの信頼性・妥当性 は,今後検討されなくはならない。以上のように,日 本の産褥早期におけるケンプ・アセスメント実施への 課題は存在するものの利点も多いことから,実用の可 能性が示唆された。 謝 辞  本研究を進めるにあたり,快くインタビューに回答

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いただきましたお母様方,研究実施に御協力いただき ました施設並びに職員の皆様に深謝いたします。  本研究は,2008年度聖路加看護大学大学院課題研究 を加筆修正したものであり,文部科学研究費補助金 (基盤研究B,No.17390595)の一部助成を受けた。 引用文献

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参照

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