2002年の科学技術・学術審議会学術分科会 人文・社会科 学特別委員会によって検討・報告された「人文・社会科学の 振興ついてー 21世紀に期待される役割に応えるための当面 の振興方策」をうけて、日本学術振興ではその翌年に人文・ 社会科学の新しい学問領域及び研究領域の創出をめざす 「人文・社会科学振興のためのプロジェクト研究事業」を立 ち上げました。この事業は、現代社会において人類が直面し ているさまざまな問題の解明と対処のため、人文・社会科学 の各分野の研究者が協働して学際的・学融合的に取り組む 研究を推し進め、その成果を社会に対する提言として発信す ることを目的としています。 木下直之(東京大学大学院教授)をプロジェクト長とする 「日本の文化政策とミュージアムの未来」は、2004年に新た に加えられた研究領域である「現代社会における言語・芸術・ 芸術表現の意義と可能性について研究する領域」のひとつ です。そして、その中で本学の五十殿利治教授をグループ長 とするのが、わたくしたち「ミュージアムの活用と未来ー鑑賞 行動の脱領域的研究」グループです。 現在、全国には6000を超えるミュージアムがあり、そのお よそ半数が美術作品などの資料を扱う美術系ミュージアム です。知的なレジャーランド的な施設と位置づけられること すらあるなど迷走気味のミュージアム運営は、いずれも財政 的に厳しい環境にあり、さまざまな見直しが求められていま す。国が設置する国立館はもとより、ここ30年ほどのあいだ に激増した県市レベルの公立ミュージアムにおいては、とり わけ行政評価というかたちでほとんど一方的に効率化と合 理化を迫られ、ミュージアムそのものの存続さえ危ぶまれる ありさまです。いまだ止むところを知らない国際的な武力紛 争などの影響によりミュージアム資料である美術作品の移 動に伴う保険料はますます高額化し、それが展覧会料金に 直接跳ね返り、入場者数の減少に拍車をかけています。そう した現状に関して、たとえば美術史学会においては「美術館・ 博物館はなぜ必要か?」と題するシンポジウムを開催するな ど、深刻な状況の打開策を探っています。 実際には、ミュージアムを評価する行政手法などは確立し ていない段階にありますので、いきなり施設が閉鎖されたり、 組織ごと売却されたりといった手段をとるには無理がありま す。したがって、大切なのは、ミュージアムに課せられた本来 の使命とは何か、そしてその使命の現在における妥当性、さ らには将来的に期待される役割とは何かといったことについ て議論をかさね、そのうえで確かな目標を割り出して、評価が なされることです。 わたくしたち「ミュージアムの活用と未来ー鑑賞行動の脱 領域的研究」グループは、そうした議論に貢献すべきものと して、ミュージアム利用者、すなわち来館者へのサービスその ものである鑑賞支援をテーマにして研究をおこなってきまし た。ミュージアムにおける鑑賞支援の最たるものとしては、い わゆる教育普及活動がありますが、現在ではじつに多様に 試みられています。しかし、その多くは個別的なレベルでの実 践と対応にとどまり、ひとつのミュージアム組織および施設 の枠を超えた系統的な実施体制、研究体制や全国規模の学 会のような研鑽の場が確保されているわけではありません。 そこで、このグループではミュージアムの利用を活性化する ための鑑賞支援のあり方を多角的、多面的に検証し、その成 果によって今後のミュージアム運営の指針を得ることも目指 しました。 本来、ミュージアムにおける鑑賞支援については、博物館 学という領域に一元化されてしかるべきテーマですが、しか しわたくしたちの「ミュージアムの活用と未来ー鑑賞行動の 脱領域的研究」グループで扱う鑑賞支援の問題は、社会的 な機能としてのミュージアムを包括するものであり、そうした 単一の学問領域に収まりきるものではありません。わたくし たちでは研究グループがもつ特性を積極的に活かした結果、 さまざまな分野への貢献が可能となりました。従来的な博物 館学や美術史をはじめとして、教育学、社会学、さらには工学 や情報デザインまで多彩です。プロジェクト最終年度にあた り今回開催する「The Final Presentation」では、一連の研 究成果の一部をみなさまにご覧いただきます。
「ミュージアムの活用と未来̶鑑賞行動の脱領域的研究」グループ
日本学術振興会 人文・社会科学振興プロジェクト研究事業
美術系ミュージアムが現在抱えている課題を浮かび上がら せ、その解決による将来像を占うことを意図して、筑波大学 芸術学美術史学会との共催で、5回にわたる国際シンポジウ ムを重ねてきた。そのテーマは、①美術史研究者としての美 術系ミュージアム学芸員と大学所属の美術史研究との積極 的な相互理解と協働の必要性 ②視覚芸術を扱うミュージ アムにおける視覚障がい者のためのアクセスとハンズオン展 示 ③情報社会のコンテンツとしてのアーカイヴを保有管理 している国内外の大学ミュージアムにおける大学そのものと 1 美術史研究における環流.大学とミュージアムの未来 2005年10月29日(土) 13:00-17:00 筑波大学 総合研究棟D棟 公開講義室 基調報告&ディスカッション チャールズ・W・ハクストハウゼン(米国ウィリアムズ・カレッジ 教授) 新関公子(東京藝術大学大学美術館 教授) キム・ユンナ(ソウル大学 教授) 栗田秀法(名古屋芸術大学 助教授/元愛知県美術館 主任学芸員) コメント: 木下直之(東京大学大学院 教授) 司会・進行: 五十殿利治(筑波大学大学院 教授) 2 ミュージアムの未来を拓くー視覚を超えた美術鑑賞 2006年9月30日(土) 13:00-17:00 筑波大学 総合研究棟D棟 公開講義室 基調報告 レベッカ・マクギニス(米国 メトロポリタン美術館アクセス・コーディネーター) 岡本康明(京都造形芸術大学 教授/元宇都宮美術館学芸課長) 半田こづえ(筑波大学大学院博士課程) タッチ・ツアー 柴田良貴(筑波大学大学院 教授) ディスカッション 鳥山由子(筑波大学大学院 教授)/柴田良貴/レベッカ・マクギニス/岡 本康明/半田こづえ 司会・進行: 五十殿利治 寺門臨太郎 筑波大学大学院人間総合科学研究科
連続シンポジウム 美術系ミュージアムの活用と未来
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半田こづえによる基調報告 ディスカッション レベッカ・マクギニスによる基調報告 岡本康明による基調報告 ミュージアム組織との直接的・間接的なつながりと理想的 な活用 ④携帯情報端末を用いた鑑賞ガイドの現状と将来 像 ⑤ミュージアムの外部にいる専門家による支援と協力。 各シンポジウムを通じて得られたミュージアムの未来と活用 に対する方策は、各開催年度ごとの報告書にまとめられた。 くわえて、本プロジェクト事業の最終年度にあたり、連続シン ポジウムの集大成として「大学アート・リソースの活用と未 来」が開催予定(11月1日)。3 大学ミュージアムの活用と未来 2006年10月28日(土) 13:00 -17:30 筑波大学 総合研究棟D棟 公開講義室 基調報告&ディスカッション 林保堯(台湾国立台北芸術大学美術史研究所 教授) ナンシー・モウル・マシューズ(米国ウィリアムズ・カレッジ・ミュージアム シニア・キュレーター) デイヴィッド・エリス(豪州シドニー大学ミュージアムズ 館長) 前田富士男(慶應義塾大学アート・センター 所長/慶応義塾大学 教授) 司会・進行: 五十殿利治 4 ミュージアムにおけるPDAガイドの活用 2007年10月27日(土) 14:00-17:30 筑波大学 総合研究棟D棟 公開講義室 基調報告 ナンシー・プロクター(アンテナ・オーディオ 商品開発部長) 久永一郎(ルーヴル-DNPミュージアムラボ プロジェクトマネージャー) 田中佐代子(筑波大学大学院 講師) ディスカッション 西川潔(筑波大学大学院 教授) ナンシー・プロクター /久永一郎/田中佐代子 司会・進行 五十殿利治 5 ミュージアムの内と外 2007年11月3日(土) 14:00-17:00 筑波大学 6B棟 6B203教室 基調報告 大月ヒロ子(ミュージアム・エデュケーション・プランナー) 坂本雅美(紙本修復家) 森要造(東京新聞 事業局長) ディスカッション 三上豊(和光大学 教授)/大月ヒロ子/坂本雅美/森要造 司会・進行: 五十殿利治 6 大学アート・リソースの活用と未来 2008年11月1日(土) 13:00-17:00 筑波大学芸術学系棟 B203会議室 基調報告&ディスカッション ルイーズ・テガート(豪州シドニー大学アート・ギャラリー シニア・キュレーター) 仲間裕子(立命館大学 教授/同アート・リサーチセンター オープン・リ サーチセンター整備事業プロジェクト・メンバー) 緒方泉(九州産業大学美術館 学芸室長) 寺門臨太郎(筑波大学大学院 准教授) 司会・進行: 五十殿利治 寺門臨太郎 筑波大学大学院人間総合科学研究科
連続シンポジウム 美術系ミュージアムの活用と未来
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林保堯による基調報告 ナンシー・モウル・マシューズ による基調報告 デイヴィッド・エリス による基調報告 前田富士男による基調報告 田中佐代子による基調報告 ナンシー・プロクターによる基調報告 久永一郎による基調報告 記念撮影 左からマシューズ、エリス、前田、五十殿、 林、長田 大月ヒロ子による基調報告 坂本雅美による基調報告 ディスカッション 森要造による基調報告国立民族学博物館 PDA画面
テート・モダン PDA利用者 テート・モダン PDA画面 テート・モダンPDA 画面
東京ミッドタウン PDA利用者 東京ミッドタウン PDA画面 東京ミッドタウン PDA画面
国立民族学博物館 展示風景 国立民族学博物館 展示ガイドの案内 国立民族学博物館 ゲーム機画面
東京都現代美術館 WEBサイト 東京都現代美術館 携帯画面 ナショナルギャラリー PODCAST画面
サムスン美術館Leeum PDA画面 サムスン美術館Leeum PDA画面
PDA
Louvre DNP Museum Lab 2006∼
東京ミッドタウン 日本 日本 日本 日本 日本 日本 日本 日本 日本 日本 日本 日本 日本 日本 日本 日本 2007∼ 2006 2005 2004∼ 2004∼ 2004∼ 2004 2003 2003 2002∼2006 2002∼ 1999∼ 1997 韓国 オランダ 韓国 U.K 国立西洋美術館(実験) 国立中央博物館 ゴッホ美術館 国立科学博物館 サムスン美術館 Leeum 名古屋市立美術館(実験) 横浜美術館 兵庫県立博物館 Dinosaur FACTory テート・モダン 国立民族学博物館 東京大学総合研究博物館 東京都現代美術館 携帯電話 美術館・博物館における装置別の作品鑑賞用携帯型情報端末の事例 2006∼ 2002∼ 2001∼ 2007∼ 2006∼ 2006∼ 2006 2006∼ U.K 2005∼ U.S.A ヴァンジ彫刻庭園美術館 鳥羽水族館 携帯型家庭用ゲーム機 大阪歴史博物館 国立民族博物館 携帯型デジタル音楽プレイヤー 東京都現代美術館 国立民族博物館(実験) ナショナルギャラリー SF MOMA 研究の背景と目的 アート系ミュージアムの機能充実と一層の社会的効用の向 上のために、携帯情報端末による鑑賞ガイドの利用は、高齢 者や障害者へのサービスの拡大という側面ひとつをとっても、 将来的に大きな可能性があると考えられる。本研究では、私 がここ数年の間に国内外で収集した携帯情報端末の先行事 例をあげ、携帯端末使用の現状について考察した。 美術館・博物館における施設別の主な事例 携帯型情報端末装置の種類は一般的にPDA(Personal Digital Assistants)と呼ばれているタイプの他、携帯電話、 携帯型家庭用ゲーム機、携帯型デジタル音楽プレイヤー (iPod)の4タイプが確認できた。装置の種類別に確認できた 施設を表に示す(実験的使用も含む)。 考察とまとめ 全般的に、携帯型情報端末装置は鑑賞者自身のペースで鑑 賞を行えるといった利点が考えられた。PDAと家庭用ゲーム 機は、携帯電話や携帯型デジタル音楽プレイヤーと比べ、比 較的画面サイズが大きいので、ビジュアル面で工夫を凝らし たコンテンツの提供が可能である。しかし機器導入のための 金銭的負担が大きい。一方、携帯型デジタル音楽プレイヤー は、鑑賞者が自分の携帯電話をミュージアム内に持ち込んで 利用するので、ミュージアム側の金銭的な負担が少ない。し かし利用者があらかじめデータをダウンロードしなければな らないため、その分の手間費用が必要である。 今後は自動表示と手動表示の長所と短所、音声と文字表 示の関係について研究する他、画面上での可読性を考慮し た文字サイズ・行間・文字数、レイアウト・書体・カラーといっ たビジュアルデザインの基本要素や、美術館の性格・特色・ ニーズをどのようにビジュアルデザインやコンテンツ全体と 統一をはかるのか、といった視点からの分析と評価を行いた い。 田中佐代子 筑波大学大学院人間総合科学研究科
作品鑑賞用携帯型情報端末の現状
国内外における端末器の種類別事例調査
大原美術館は、2002年からチルドレンズ・アート・ミュージ アム(以下、チルミュ)を実施しています。これは、毎年8月末 の土、日の2日間、美術館のいたるところで10以上もの複数 のワークショップを同時実施する企画です。狙いとしては、参 加者の嗜好と発達段階の違いへ対応する多彩なプログラム によって鑑賞を創造としてアウトプットしてもらい、より豊か な美術館体験を提供することにあります。 さらには、学校集団ではなく家庭単位での子どもの来館、 必然的に親となる30 ∼40歳代の成人の参加、また、事前申 し込みは受け付けずに当日参加を可能とし料金も基本的に 入館料のみに設定することで、参加へのバリアを下げ来館者 の固定化を避け新規参入者を増やすなど様々な狙いをもっ ています。 「ミュージアムの活用と未来」プロジェクトでは、その実効 性をはかるため、岡山大学の赤木里香子と山口健二が二つ の来館者調査を実施しました。一つめは参加者の動きを追 跡して、どのような特性の来館者がどのようにプログラムを 渡り歩くかの調査、もう一つが直接の聞き取り調査です。 この調査により、多くのことがわかりました。まずリピー ターは来館者全体の2割であり、その多くは初日の開館と共 に来館し一日中美術館で過ごしていました。中には2日間と も来る人もおり、それも毎年参加するハードユーザーが多数 を占めています。一方、初参加者は二日目、それも昼近くに なってからやって来きます。 またこうしたリピーターとビギナーがどのようなプログラ ムに参加するかのが明らかになりました。リピーターは、定員 のあるプログラムを、時間を見越して効率よく渡り歩いてゆ きます。一方、ビギナーは、定員のないプログラムへの参加が 多く、また昼からの来館ということもあり、参加するプログラ ム数も必然的に少なくなってしまいます。それゆえ、チルミュ の中でも参加経験に応じて、来館者の動き方がはっきりと異 なること、またビギナーからは初参加ゆえの戸惑いの声が聞 こえてきました。
大原美術館−チルドレンズ・アート・ミュージアム
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アンケート集計用バーコードホルダーを受付で配布している山口健二 チルミュ名物 テント村 サム・フランシスの前で、サム・フランシスの技法を追体験するプログラム 柳沢秀行 大原美術館そこで、山口によるプログラムへの参加系統の分析が役立ち ました。これは、10以上のプログラムのうち、リピーターとビ ギナー、成人と子ども等それぞれの特性の観客が参加する プログラムの系統を明らかにするものです。これにより、専門 的なファシリテーターがいて定員が限られるプログラム、す なわちリピーターの参加が多いものと、こちらはビギナーの 参加が多い、常時参加が可能で拘束時間が短いプログラム を両極とした場合、その二つの系統を仲介するためには、手 を動かしての制作が多いながら参加者が自分のペースで行 えて常時参加が可能なプログラムが有効であることがはっ きりしたのです。 それから、大人の動き方が見えてきました。大人は見学者 かと想定していたのですが、実際は定員がないプログラムへ かなり参加していることがわかりました。そして、もう一つの 重要な確認点は、チルミュを目指すのは、やはり親だったこと です。特に母親が強いニーズを持って、子どもの手を引っ張っ て来ていたのです。 こうした調査とともに、「ミュージアムの活用と未来」プロ ジェクトでは、2006年から3年間にわたり、外部から専門家 を招き、チルミュをつぶさに体験した後に、公開のシンポジウ ムとし意見交換をする場を設けました。 この場では、デザイン、運営、プログラムの質など様々な点 が討議され、チルミュの実施担当者としては、耳が痛いなが らも、大いに役立つ指摘がたくさんなされました。 調査とシンポジウムによる結果は、大原美術館側の検討によ り、次年度の実施形態の変更へと直ちに反映されました。具 体的には、チルミュ会場全体の視覚的統一としてテーブルク ロスや幟旗を一新したり、あるいは初参加者が参加しやす く、さらにリピーターとなるきっかけになりやすいタイプのプ ログラムの実施数を増やすなどです。 これをきっかけに、今後も益々チルミュを磨きあげ、来館者 と美術館をつなぐ重要なインターフェースとして育てていき たいと考えています。 柳沢秀行 大原美術館
大原美術館−チルドレンズ・アート・ミュージアム
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ダンスワークショップ 野外彫刻と遊ぼう みんなで描こうモネの睡蓮 出来上がった作品は展示場でモネと一緒に並べます チルドレンズ・アート・ミュージアム研究の公開シンポジウム、2006年8月28日(月)、新渓園(大原美術館敷地内) パネリスト: 大月ヒロ子(IDEA, INC)、林洋子(京都造形芸術大学)、山下治子(アムプロモーション) 司会: 柳沢秀行(大原美術館)2007年11月17日(土)、大原美術館 本館2階展示場を舞 台に、高階秀爾(大原美術館長)が司会のもと、下記のパネリ ストが、そのロボットたちのプレゼンテーションとともに、芸 術と科学のあり方、人間とロボットの関わりなどについて活 発な意見をたたかわせた。 久野義徳(埼玉大学教授)+鑑賞支援ロボット《ロボビー》 葛岡英明(筑波大教授)+鑑賞支援ロボット 土佐信道(明和電気社長)+歌うロボット《セーモンズ》 柳沢秀行 大原美術館
ミュージアムの未来ロボットとアーティストと語る私たちの美術館
飛び出す人文・社会科学∼津々浦々学びの座
久野義徳+鑑賞支援ロボット《ロボビー》、司会進行: 高階秀爾 鑑賞支援ロボット《ロボビー》 鑑賞支援ロボット《ロボビー》 土佐信道 葛岡英明による鑑賞支援ロボットミュージアムの今後のあり方を考えるとき、ミュージアムがよ り広く一般に向けて開かれることが課題として浮上してくる。 どのようにしてアクセスを拡充するのか。それには交通手段 や開館時間から、幼児、老齢者、障害者へのよりきめ細かな 対応まで、さまざまな取り組みが求められている。そこで 2006年9月30、日本学総合研究棟Dにおいて「ミュージアム の未来を拓く 視覚を超えた美術鑑賞」と題して国際シンポ ジウムを開催するとともに、視覚障害者向けの取組を実践し ている柴田良貴ほか芸術学系彫塑分野の教員の協力を得 て、彫塑作品を展示した。 インターネットでは各美術館の障害者向けの対応状況が 一覧にされ、公開されている(エーブル・アート・ジャパンに よる http://www.ableart.org/museumDB/search.html 「バリアフリー美術館検索」)。 このシンポジウムではこの問題について、とくに視覚障害 者に関わって、現状ではどのような事業がなされているのか を論じるとともに、その問題点を探り、今後のあるべき姿を 討論した。 まず基調報告として、ニューヨーク・メトロポリタン美術 館のアクセス・コーディネーターを務めるレベッカ・マック ギニスRebecca McGinnisはアメリカにおけるプログラムの 現状について報告を行った。 ついで、美術館教育の経験の長い岡本康明(京都造形芸 術大学)は宇都宮美術館での実践例から、とくにコミュニ ケーション(教える/教えられるという関係)の問題点に注 意を促した。また半田こづえ(本学大学院生)は美術鑑賞に ついて自分の体験を踏まえて、日本のミュージアムについて 求められていることを指摘した。 さらに総合討議では本学教員として特別支援教育に長年 携わってきた鳥山由子によるコメントを皮切りにして、パネリ ストとフロアとの質疑応答、そして意見交換が進められた。 五十殿利治 筑波大学大学院人間総合科学研究科
ミュージアムの未来を拓く 視覚を超えた美術鑑賞
国際シンポジウムと彫塑作品の展示
彫塑作品の展示 彫塑作品の展示 彫塑作品の展示 彫塑作品の展示 視覚障害者用鑑賞資料を案内するレベッカ・マクギニス ディスカッションにおける質疑応答 半田こづえによる基調報告 彫塑作品の展示 柴田良貴(右)と半田こづえ(左) レベッカ・マクギニスによる基調報告 岡本康明による基調報告1.研究の背景と目的 本学は、聴覚に障害のある人と視覚に障害のある人のため の国立の4年制大学である。しかし視覚情報を必要とする聴 覚障害学生と聴覚情報を必要とする視覚障害学生が交流 するのは容易ではない。そこで聴覚に障害のある学生(デザ イン学科)が制作したポスター作品を視覚に障害のある学 生に鑑賞してもらうため、「立体コピー」の手法を用い、「触っ て観る」ポスターの試作を開始した(2002年)。2007年には 美術団体・二科会と連携し、二科展において「触って観る」 ポスター・アートコーナーを特設する等、視覚に障害のある 人にも美術展、美術館に足を運んでもらえる環境づくりを目 的に普及活動と研究活動を継続している。 2.研究体制 本研究は、聴覚障害系から安田輝男(広告デザイン)、生田 目美紀(情報デザイン)、井上征矢(色彩学)、視覚障害系か ら岡本明(福祉情報工学)、長岡英司(視覚障害補償学)の計 5名の教員により構成される「触って観る」アートプロジェク トによって進められている。 3.活動経過 二科展(2007.9) 二科展で「触って観る」ポスター・アートコーナーを特設し、 デザイン部門入選作品のうち22点を立体コピーして展示し た。この試みは新しい鑑賞領域の啓蒙として評価され、テレ ビ・新聞等でも全国的にとりあげられた。 視覚障害学生を対象とした調査(2007.12) 二科展で展示した立体ポスターのうち9点を視覚障害者学 生3名(本学学生)に触って鑑賞してもらい、より分かりやす い立体化の方法や解説方法について意見を頂いた。 筑波技術大学学生二科展受賞作品特別展(2008.1) 2000年∼2007年にかけての筑波技術大学学生の二科展受 賞作品を集めて展示した特別展(つくば西武ホール)で 「触って観る」立体ポスターを8点展示した。 科学研究費補助金萌芽研究「視覚に障害のある人が絵画等の画像情報を取得し鑑賞する為の研究」成果報告 安田輝男1)生田目美紀1)井上征矢1)岡本明2)長岡英司2) 1)筑波技術大学産業技術学部 2) 筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター
「触って観る」アートの普及活動と研究開発
2007
、2008年の活動経過の報告 その
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図1: 二科展「触って観る」アートコーナー(国立新美術館 2008) 図2: 二科茨城支部展絵画の部 (茨城県民文化センター 2008) (つくば西武ホール 2008)図3: 筑波技術大学学生二科展受賞作品特別展 二科茨城支部展(2008.5) 本支部展においては、デザイン部門のみならず、絵画、彫刻、 写真の各部門においても、「触って観る」作品を展示した。ま た触ることにより音声情報(音声解説)が聴ける「触って聴 く」ポスターも同時に展示した。 視覚障害者を対象とした音声解説の調査(2008.8) 音声解説付き立体ポスター(国民文化祭のポスター)を視覚 障害者学生2名(本学学生・点字利用者)に鑑賞してもらい、 より分かりやすい音声提示の方法について意見を頂いた。 二科展(2008.9) これまでに頂いたアドバイスを受けて、デザイン部門入選作 品のうち23点を立体化して展示した。そのうちの1点には音 声解説も付加した。「昨年より鑑賞しやすくなった」、「音声情 報も必要だ」等の反響があり、「触って観る」アートコーナー には前年同様、高い関心が寄せられた。 ※なお上記全ての展示会においてアンケート調査を実施し、 よりよい立体化の方法や解説方法について意見を頂いた。画面左下:ICタグ埋め込み立体ポスター、左上:音声解説埋め込み位置表示、右:ICタグ読み取り装置と音声データ入りPC 図3: 音声解説の装置 1.立体ポスターの作成 本研究では平面作品を立体化する際に「立体コピー」とよば れる技術を使用している。これは発泡剤が塗布されたカプセ ルペーパーとよばれる用紙に図柄をコピーし、熱処理を加え ることによって、図柄の暗い部分を発砲させ、盛上げる技術 である。本研究でポスターを立体化するにあたっては、例え ば、「コントラストをはっきりさせる」、「物が重なる場合、手前 にある物をより浮き出たせる」、「触覚による形の認識は凹面 では困難であるため、できる限り凸面での表現とする」、同様 の理由から「白ヌキ(凹)文字は使用せず、黒文字(凸)に変え る」、「文字に縁取りや影をつけない」等、視覚に障害のある 方々から寄せられた意見を参考にして画像処理を行ってい る。図1.1は本学デザイン学科学生が制作したポスターであ り、図1.2はこれを立体化するために、明暗の調整や反転を 行ったものである。 また立体ポスターに添える点字による解説は、「最初に作 品の全体像を教えて欲しい」、「どこに何がある、だけでなく、 その向きや表情・姿勢についても教えて欲しい」、「色につい ても知りたい」、「どこから触ればいいのか手がかりが欲しい」 等の意見を参考に作成している。 2.音声による解説 ポスターに記載された文字情報を正確に伝達するために、 音声情報を付加することを試みた。立体コピーの裏側にICタ グを埋め込み、手指につけた装置を用いてタグに書き込まれ た情報を読み取り、音声情報をよびだす仕組みである。手指 につけた読み取り装置の特徴は「指の腹」がフリーであり触 鑑賞を妨げないことである。 画像情報の音声化については、日常的に点字情報を利用 している視覚障害者の意見を参考にして、全体説明と部分 説明を分離した。このことによって、全体説明を受けてから鑑 賞したい人、反対に鑑賞してから全体説明を受けたい人の 両方に対応できるようになった。 触鑑賞は手指を動かしながら鑑賞するため、鑑賞部分は 常に移動・変化することになる。触覚情報と音声情報のタイ ムラグを軽減するために、1)音声情報の読み上げまでの時 間を短くする、2)読み上げる内容は単語レベルにするなどの 工夫をした。また、「視力があった時の色の記憶を失いたくな い」という要望に応えるため、3)色の情報を言葉で加えた。 (例:青い空・緑の大地・白い鳥等) 今後は「鑑賞を楽しむ」ためにはどのような音声情報が必 要なのかについて検討を行う予定である。
「触って観る」アートの普及活動と研究開発
2007
、2008年の活動経過の報告 その
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図1.1: 本学学生が作成した地球環境に関するポスター 図1.2: 立体コピー用に画像処理したもの 画面左上:実物ポスターの縮小版、左中央:点字による解説、左下:文字による解説、右:立体ポスター 図2: 立体ポスターの展示方法 科学研究費補助金萌芽研究「視覚に障害のある人が絵画等の画像情報を取得し鑑賞する為の研究」成果報告 安田輝男1)生田目美紀1)井上征矢1)岡本明2)長岡英司2) 1)筑波技術大学産業技術学部総合デザイン学科 2)筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター図2:美術館における実験の様子 1. 研究の背景と目的 ミュージアムの鑑賞支援は、ロボットの有効なアプリ ケーションのひとつである。ロボットが来館者に対して 効果的に展示品の解説をするためには、対話者の注意を 説明の対象となる展示品やその一部分に、上手に誘導で きる能力や、ロボットが関心を示している対象物を、対話 者に正しく認識させる能力が重要である。そこで本研究 では、人と人とのコミュニケーションに関する社会学的 な知見に基づいて、2つの試みをおこなっている。 2. 発話の沈黙と言い直しによる注意誘導 展示案内ロボットが満たすべき重要な要素の一つは、鑑 賞者の注意(視線)を特定の場所へ誘導することである。 一般にロボットは、指さし動作によってこれを達成する が、対話者がロボットを見ていなければその効果は得ら れない。一方、人と人の対話において、聞き手が発話者に 視線を向けていない場合、発話者は発話途中で急に沈黙 したり、言い直したりすることによって、聞き手の視線を 獲得しようとすることが知られている。そこでわれわれ は、ロボットが発話の途中で急に沈黙したり言い直しを したりするロボットを開発し、科学技術館や美術館で実 験を実施している。 3. 身体ねじりを表現するロボットの開発 人と人が対話をするとき、人の身体の下半身、胴体、頭部 といった各部位の方向は、その人がどの対象にどのくら い関わろうとしているかということを知るための手がか りとなる。例えば説明員が展示説明をする場合、その下半 身は展示物と来館者の中間に向けられ、長期的に両方に 関心があることを示す。そして、下半身はその方向に向け たまま、胴体や頭をねじって、展示物と来館者の間へ交互 に向けることにより、その時々の短期的な関心を示す。本 研究では、こうした身体のねじりを表現できるロボット の開発をおこなっている。 図5:身体ねじりを表現するロボットの頭部機構 葛岡英明1)鈴木裕也1)川口一画1) Karola Pitsch2)笠井洋志3)山中敏正3)
1)筑波大学大学院システム情報工学研究科 2) Research Institute for Cognition and Robotics Applied Computer Science Group, Bielefeld University 3)筑波大学大学院人間総合科学研究科
社会学的知見に基づいた鑑賞支援ロボットの研究
三会堂の名の由来はすこぶる明快である。すなわち、大日本 農会、大日本山林会、そして大日本水産会の三会の事務所 である。美術史に登場する建物は、1904年11月に落成式が あったが、関東大震災とともに消失した。本館は「二階建で 九十七坪七合五勺、附属家屋三十八坪五合、合計百三十六 坪二合五勺、階上は集会場、階下は総裁宮殿下御休憩室、 貴賓室、会議室、会堂」であったという。その後、1927年に なって鉄筋コンクリート六階建てでよみがえった。設計は早 稲田大学の佐藤功一である。 展示会場としての三会堂 それにしても、なぜ三会堂(溜池町1・2番地)は美術展示 場となったのであろうか。見逃せないこととしてすぐ近所(溜 池町3番地)に白馬会葵橋洋画研究所が位置していた。 最初に三会堂で美術展が開催されたのはいつか。『美術 新報』誌上では1908年から、つまり文展開設の翌年から、そ の名が散見されるようになる。12回白馬会展が開かれ、白樺 展も何度か会場としている。 その後、三会堂は一時低迷するが、1916年から草土社展 会場となり、歴史にその名を残すことになった。「赤坂の三会 堂で、あまりハエないくすぼつた、しかし、温いそしてどこかな つかしく美しい展覧会をやればいゝ。」と岸田劉生は述べて いる。結局、草土社は大震災の年までここを拠点としたので ある。 三会堂は鉄筋コンクリート造りにより、佐藤功一設計で 1927年4月に竣工した。4階には中講堂、そしてステージの ある大講堂が設けられた。こうして三会堂も大きくその役割 を変えた。劇作家秋田雨雀は1930年日記にこう記した。 「三会堂の人形芝居”PUK”ー Pupa kluboへいく。西洋 ふうの操りとペトルーシカと双方の人形を使っていた。若い 学生の集まりで(略)今までみた日本の人形芝居では一番ま とまったものだった。」 五十殿利治 筑波大学大学院人間総合科学研究科
大正期における美術鑑賞環境の研究
大正期美術の一拠点:三会堂
三会堂 新三会堂 新三会堂大講堂 第6回草土社展1918 主な美術展と開催年月 1908(明治41)年2月21日 1908(明治41)年3月20日 1908(明治41)年10月30日 1909(明治42)年4月15日∼ 5月12日 1909(明治42)年5月7日∼ 9日 1910(明治43)年4月3日∼ 9日 1911(明治44)年10月11日∼ 21日 1911(明治44)年11月1日∼ 12日 1912(明治45)年2月16日∼ 25日 1912(明治45)年3月29日∼ 4月6日 1912(明治45)年5月1日∼ 7日 1912(大正元年)11月2日∼ 7日 1912(大正元)年11月9日∼ 17日 1914(大正3)年11月26日∼ 12月5日 1915(大正4)年11月17日∼ 26日 1917(大正6)年5月26日∼ 5月28日 1916(大正5)年11月11日∼ 11月17日 1917(大正6)年12月15日∼ 12月24日 1918(大正7)年12月14日∼ 12月23日 1919(大正8)年12月8日∼ 12月17日 1920(大正9)年12月15日∼ 12月25日 1920(大正9)年4月2日∼ 4月9日 1920(大正9)年6月2日∼ 6月5日 1921(大正10)年4月3日∼ 4月4日 1921(大正10)年4月20日∼ 4月29日 1921(大正10)年9月22日∼ 9月26日 1921(大正10)年11月1日∼ 11月7日 1921(大正10)年11月9日∼ 11月14日 1922(大正11)年5月1日∼ 5月13日 1922(大正11)年5月19日∼ 5月25日 1922(大正11)年7月22日∼ 7月25日 1922(大正11)年11月4日∼ 11月10日 洋風美術家追善会 白馬会研究所同窓会 白馬会紀年会 白馬会 東京写真研究会第二回品評会 コスモス会 白樺主催泰西版画展 白樺主催洋画展覧会 白樺第四回展覧会 赤甕会第一回洋画展覧会 山中氏主催美術展覧会 行樹社展覧会 辻永作品第二回展覧会 多田良吉、中村清太郎、小川葭太郎 三人油絵展覧会 多田良吉、中村清太郎、富取太郎の洋画展 翫古彫刻展覧会 第三回草土社展 第五回展草土社展 第六回展草土社展 第七回展草土社展 第八回展草土社展 児童自由画展 翠雨会第一回展 小茂田青樹個展 東京彫工会第34回展 高島野十郎個展 石山太伯個展 蒼穹社第二回展 赤人会第二回展 環堵画塾展 高原会小品展 第九回展草土社展日本における近代的美術館の草分けである大原美術館の 「本館」2階展示室の正面壁には現在、ベルギー近代の画家 レオン・フレデリック(1856-1940)による7枚組の大作《萬有 は死に帰す、されど神の愛は萬有をして蘇らしめん》が展示 されている。かねてから同館には、この作品の横幅が1930年 竣工の「本館」建築の間口を決定したとの口伝があるという。 上下左右にいささかの隙間も残さずに懸架されている現今 の展示のさまは、なるほどその口伝が真実であるかのような 印象を与える一方で、むしろ左右両壁と天井から受ける圧迫 感ゆえに、作品の絵画空間が本来もちあわせているはずの 壮大なスケール感を相殺している。 本研究では、展示室における美術作品に伴う「再現性」を キーワードに、主として美術コレクションの形成史と受容史 に視座を据えて実証的な検証をおこなうとともに、展示の方 法に起因する鑑賞者の他律性を前提にして、当該作品の現 今とは異なる展示形式の提案を試みた。 寺門臨太郎 筑波大学人間総合科学研究科
ミュージアムの展示における「再現性」
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大原美術館所蔵、レオン・フレデリック《萬有は死に帰す、されど神の愛は萬有をして蘇らしめん》
レオン・フレデリック 《萬有は死に帰す,されど神の愛は萬有をして蘇らしめん》 1893-94 (左3枚) / 1914-15(中央)/ 1917-18(右3枚) 全幅1,100 cm(額縁含む) 大原美術館蔵 大原美術館「本館」の建築構想図面 大原美術館から提供を受けた「本館」の図面は、地元倉敷の 建築家、薬師寺主計が設計し、同じく地元の藤木工務店が 請け負った工事の構想段階を示したものである。この建築工 事は、地鎮祭が1930年5月、竣工が10月という「昼夜兼行 の突貫工事」と伝えられていることから、当該図面は構想図 であるものの実施設計図と本質的には変更なきものと見な し 得 よ う。2階 展 示 室 の 間 口 は35尺(糎 換 算 で 約 1,165.5cm)で、フレデリックの作品幅(額縁を含む)に見合 う。また「絵画陳列室」奥の扉口から天井までの余白5尺(約 166.5cm)も、作品の高さとほぼ一致する。 現在の大原美術館における展示の歴史主義的な再現性 大原美術館の口伝が真実であるとするならば、設計者であ る薬師寺の設計に対する動機付けとは何であったのか。そこ には、同館創立者で施主である大原孫三郎の意向が働いて いたと考えるのが妥当であろう。つまり、開館当初におけるフ レデリック作品の展示位置には、大原その人と、彼のコレク ション形成に重責を任された画家、児島虎次郎の作品観お よびそれに基づく展示観が反映されており、そうした開館時 とほとんど同じ位置に当該作品を懸架している現在の大原 美術館の展示方法には、一種の歴史主義的な再現性が含意 されていると見なし得よう。 大原美術館 本館寺門臨太郎 筑波大学人間総合科学研究科