フランスにおける取締役・会社聞の取引
田 村 詩 子
I はじめに フランス会社法は,取締役・会社聞の取引の規制に関して, 1966年法101条な いし 106条において詳細な規定を設けている。 それは, ["規制される取引」および「禁止された取引J
の内容が明文で規定さ れているだけでなく,その規制対象に含まれる人的範囲も明文で規定されてい る。そして,規制の対象とならない取引の条件も明文で規定されている。 また,規制される取引がえなければならない取締役会の事前の認許手続およ び株主総会の承認手続を明文で規定するだけでなく,事前の認許手続を得ない で締結された取締役・会社聞の取引の法的効果,および株主総会の承認を得ら れなかった取引の法的効果も明文で規定されている。 これに対して,日本では,取締役・会社聞の取引を規制する商法2
6
5
条により, 取締役が会社と取引をする場合は",取締役会の承認を得なければならない。そ して,明文により承認を要するのは,取締役が会社の製品その他の財産を譲り 受ける場合,会社に対して自己の製品その他の財産を譲渡する場合,会社から 金銭の貸付けを受ける場合,そして,その他自己または第三者のために会社と 取引をする場合のような,直接取引をなすときだけでなく,会社が取締役の債 務を保証する場合,そして,その他取締役以外の者との聞において会社と取締 役との利益相反する取引をする場合のような,間接取引をなすときもである。 また,その取締役が代表取締役であるかどうかを問わず,さらにその取締役が 同時にみずから会社を代表する場合であろうと他の取締役が会社を代表する場 合であろうとを問わず,取締役会の承認を要する。しかし,取締役会の承認を595 フランスにおける取締役・会社関の取引 -175-要する取引の内容および規制される人的範囲について,商法
2
6
5
条は,詳細な規 定をおいていないため,詳細は判例・学説の展開に委ねられている。そして, 取締役・会社聞における利益相反の有無の判断基準につき,主として,当該行 為の一般的・抽象的性質に従って判定すべきであるとする見解と,現実的・個 別的に具体的取引が実質上会社にとって公正か9合理的になされたか否かに よって判定すべきだとする見解がある。 他方,フランス会社法は,規制される取引の規制対象とならない判断基準と して,I
通常の条件で締結された日常取引」という条件を明文で示している(10
2
条)。そして,この判断基準の概念が,判例・学説の展開によって形成されてい る。 しかし,この判断基準,規制される取引の内容および人的範囲については他 稿に譲れ本稿では,規制手続および法令違反の効果につき,検討してみる。 特に,取締役会の事前の認許 (III-l),株主総会の承認 (III--2),禁止され た取引をした場合 (III-3),を中心として検討する。 II 概 論 フランス法が規制する取締役・会社聞の取引 (conventionsentre la societe et ses administrateurs)には,I
規制される取引 (conventionsreglementees)J
と「禁止された取引 (conventionsinterdites)J
とがある。 規制される取引として,会社と取締役または副社長との間で締結されるすべ、 ての取引は,取締役会の事前の認許 (autorisationprealable)を得なければな らない。規制される取引には,会社と取締役もしくは副社長との聞の直接取引 だけでなく,取締役もしくは副社長が間接的に利益を有する取引,または,他 の者を介して締結される取引も含まれる(
1
0
1
条1
項・2
項)。また,会社と他 の企業との間で締結される取引であっても,会社の取締役もしくは副社長が, (1) または, operations entre administrateurs et societeと脅かれていることもある。訳 語としては, operationを取引とし, conventionを契約とするのが適切であるが,日本法 の用語としての「取引」として,以下統ーする。-176一 第57巻 第3号 596 他の企業の所有者,無限責任社員,業務執行者,取締役,副社長,または業務 執行役員会 (directoire) もしくは監査役会の構成員である場合には,取締役会 の事前の認許を得なければならない (101条 3項)。 この規制には2つの例外があり,その lつは,取引の性質上,会社にとって 特に危険であると立法者が判断した一定の取引が原則として禁止されているこ とである:〉それが,禁止された取引である。その規制対象は法人以外の取締役 であり,自然人である取締役は,その形式いかんを問わず,会社から金銭の貸 付を受けたり,当座勘定その他の方法により無担保信用を会社に同意させたり, または,第三者に対する自己の債務につき会社に保証もしくは手形保証をさせ ることは,禁止され,これに違反する取引は無効である
(
1
0
6
条)。これに対して, 第2
の例外は,自由な取ヲI
“conventions l( ibres") として,通常の条件で締結 された日常取引 (operationscourantes concluesa
des conditions nolmales) は,事前の認許を得なくてもよい(103条)ことである。 取締役・会社聞の取引の手続は,概して,ア・プリオリの取締役会によるコ ントロールとしての事前の認許手続,およびア・ポステリオリの株主総会によ るコントロールとしての承認手続とに要約され,法は,五段階の手続を定めて いる。すなわち,まず第1に,取締役または副社長は,自己が会社と取引をす ることになることを関知したことを示すため,取締役会に報告しなければなら ない。第2
に,取締役会は,認許をするときには事前のかつ特別の審議をし, また,この認許に関する決議に,利害関係を有する取締役は加わることはでき ない (103条 1項)。第 3に,社長は,会社法101条の適用により認許されたすべ ての取引を,取引締結後lカ月内に,会計監査役に通知しなければならない(103 条2項・令91条)。第4に,会計監査役は,この取引に関する特別報告書 (rapport special)を株主総会に提出しなければならない(103条 3項)。特別報告書は, (2) G. Ripert et R. Roblot, Traite elementaire de droit commercial, need, t L 1983 nO 1280, p875 : L Balensi, Les.ωnventions entre less.ocietesωmmerciales et leurs dir -igean, eお d Economica, 1975, nO 120, p83 (3) B.Mercadal et P J anin, Memento tratique des societes commerciales Francis Lej告bvre,1983-1984, 14 ed., 1983, nO 1383, p.377597 フランスにおける取締役・会社聞の取引 -177-株主が事情をよく知って決定できるように非常に正確でなければならない。第
5
に,株主総会は,特別報告書にもとづいて,承認決議をする。利害関係を有 する者は決議に参加することはできず,かっその者の株式は定足数および多数 決の計算に算入されない(103条3項・ 4項)。 以上が,取締役・会社聞の取引の規制の概略であるが,規制手続とその効果 につき,以下で詳述する。 III 取締役・会社聞の取引の規制手続とその効果 1.取締役会の事前の認許 (i) 事前の認許手続(
1
)
利害関係を有する取締役または副社長は, 101条の適用がある取引の存在 を知ったときには,取締役会に報告しなければならない(103条l項)。 この報告は,すべての場合,すなわち,取締役が会社と直接に取引をする場 合,人を介して取引をする場合,取引の締結に間接に利害関係を有する場合, 取締役が法によって規制される地位に就いている企業に会社との聞で取引がな される場合,になされなければならない。 利害関係を有する取締役が,報告義務を怠ったり,または,例えば,取引が 通常の条件で締結される日常取引であるので,または,その利害関係が非常に 間接的であるので,もしくは,非常に僅少であるので,当該取引には,取締俊 会の事前の認許を得なくてもよいと考えて,報告をしない,ということがあり うる。この問題については,次のようにいわれている。すなわち,利害関係を 有する取締役または副社長は,まず,自己の危険で,規制手続が適用されるか どうかの判断をする。そして,当該取引には法は適用されないと信じて,思い 違いをした場合には,その結果は,取締役会の認許のない取引,場合によって は,取引の無効,ということになるのであさ。 (4)M..Juglart et B.. Ippolito, Cours de droit co抑 制rcial,2eed, 1983, nO 722, p.58L (5)J
Hemard, F Terre et P Mabilat, Societesωmmercu t,lJ.1 1972, nO 1028, p902 ; .1Balensi, o
p
.
.
cit, nO 158, pp..114-178- 第57巻 第3号 598 また,利害関係を有する者がその報告をしなかったときは,取引の存在を知づ ていた取締役は,法令違反の責任を負わなければならない (244条)。
(
2
J
取締役会は,求められた認許について決定する(
1
0
1
条)。 取締役会は,たとえ議決を妨げても,事前の認許決議をしなければならない。 しかし,会社にとって好ましく見える取引を締結するために取締役会を招集す ることは時には厄介であることもある。法の要求に合わせて,取締役会の認許 を停止条件として取引を締結することは問題はない。事前の認許がない場合, 既に締結された取引を取締役会が追認することは許されない。それは,手続が, 取締役会の保護を目的としているのではなく,株主の私的利益のためであるか ら,とされている。したがって,取締役会は手続の慨怠を埋め合わせることは できないのである。 また,認許決議は,事前でなければならないだけでなく,特別でなければな らない。会社と取引を締結する取締役または副社長に,すべての取引につき明 示的に,または期間を定めて,認許をあたえることができるのである。特に, 一般的認許および期間の定めのない認許は,事前の認許とはならず,事前の認 許が無いのと同様である,と判示されている。 さらに,認、許は決議の結果でなければならない。取締役によって個々に与え られた合意を事前の認許の代わりとすることはできない。そして,承認されて いない取引を取締役会が履行した結果としての黙示の認許も,事前の認許の代 (6) B.. Mercadal et P Janin, op. ci,.ln01388, p..380 (7) L Balensi, opα
t, nO 159, p.1l5 (8) L Balensi, 0.ρcit.,no 159, p.1l6, 1867年の旧会社法40条(1943年3月4日法により改正) に関する判決 (Com16 juin 1959, D 1959.. 414, note Dalsace ;1
C P, 1959..IL11294, note D B一一一Paris23 novembre 1955, D引 1956,290,note F Gore, Gaz.. Pal 1956142 の控訴を却下一一)は,事前の認許は取締役会のために規定されているのではない,と判 示している。 (9) L Balensi, 0ρcit, nO 160, p.1l6 側 前 掲Paris23 novembre. 1955 ; M Juglart et B.. Ippolito, Traitede droitωmmeraal, 2e vo,.lLes societes, 2epa.rtie, 3eed.., 1982, nO 722-5, pA65599 フランスにおける取締役・会社聞の取引 厚J' わりとすることはできない。認許は,取締役会において実際に審議されること を前提としているから,討議をして後に明示的な決議をしなければならない。 結局,法によって要求され、ているのは,認許は,各取引につき,事前の,特別 ; ¥ 決議の結果でなければならず,しかも,会議における適法な口頭の手続によら ねばならないのである。 . C 3
J
(直接もしくは間接に)利害関係を有する取締役または取締役である副社 長は,認許を求めた決議に加わることができない (103条 l項)。 しかし,この議決権の排除により議決権に算入されなくても,定足数および 多数決に,利害関係人が算入されるべきかどうかが問題になる。株主総会の承 認決議のように,利害関係人が決議に加わることができないだけでなしその 株主が定足数および多数決に算入されない (103条 4項)という規定が,認許決 議については無いからである。 例えば,取締役会が6人の取締役で構成され 1人が取引に利害関係を有す る場合を想定してみる。利害関係を有する取締役が議決権を行使できないにも かかわらず,多数決に算入される場合には 4人の取締役が取引を承認しなけ (]l) Paris 13 juin 1964, D 1965..398 ; Cass. com, 26 janvier 1965, D.1966469, noteA Dalsace, Rev.. tril叩 dT.com, 1965624, obsR Houin; 1 Balensi,op.cit, nO 161, p.117 ;J
Hemard, F Terre et P Mabilat,ゆ cit,nO 1029, pp.902-903 ; G.. Ripert et R. Roblot, opαt, nO 1281, p876 ; B. Mercadal et P Janin, o.βcit, nO 1389, p.381 ; M.. Juglart et B.. Ippolito, op,αt, nO 722-5, pA65 (]2) Paris, 23 octobre 1965, D 1966199, note P Didier,] C P 1966. II ..14491, note P L. 1.Balensi, op. cil, nO 161, p 117 ;J
Hemard, F. Terre et P Mabilat,oρ,cit, nO 1029, pp902・903; G Ripert et R Roblot, 0少cil,nO 1281, p.876 ; B Mercadal et P J anin, op cit, nO 1389, p..381, M..Juglart et B. Ippolito, op.. cil, nO 722-5, pA65 ;J
Hamel, G.Lagarde etA Jauffret, Droitωmmercial, .t1, 2"ed, 2" voL, 1980, nO 658, p.398 Rouen,
19 novembre 1981, Gaz Pal, 1982.2607 note A. P S, Rev 50C 1983..347 note M Guilberteau参照。 なお,緩和的な判決として, Cass. com, 17 avril 1980, Rev.50C, 1981.316, note 1 Balensiがあり,ぞれによれば,社長が参加した取締役会によってなされた決議が存在すれ ば, 101条の事前の認許決議の手続は適用されないと判示された。しかし, L Balensiは, その評釈の中で,判旨を,取締役会の決議によって直ちに取締役のために締結された取引 であるということが,会社と取締役との聞に規定の適用を免除するのではなく,取引が十 分に関され,かつ利害関係を有する取締役が議決権を行使していないという理由で,当該 決議が101条による事前の認許に相当する,ということであるとし,判示は妥当であるが判 旨以上にその範囲を拡大しではならない,としている。
-180一 第57巻 第3号 600 ればならない。さもなければ,多数決が成立するには,
3
票で十分である。法 規定はないけれど,取締役が決議に加わることができない場合には,定足数お よび多数決に算入されえない,と答えるのが論理的で、あるように思われる,と さjつしている。 ( 41
このように,利害関係を有する取締役が決議に加わることが禁止されてい ることから,つぎに問題になることは,利害関係を有する者の数が非常に多く て,取締役会の認許決議が不可能になりうる,ということである。例えば,取 締役会が向ーの構成員で構成されているような同じグループの2
つの会社聞で 生じる取引の場合が想定される。会社のグループが発展するにともない,この ような可能性が避けられえないのである。 2つの会社聞の取引の締結にすべて 事前の認許を与えることが排除されてしまう。取引の効力の不安定さを傍観し たままでいるというのは非常に問題である。 この場合,唯一の解決は, 105条を類推適用して,社長によって通知された会 計監査役が,認許手続をへなかった事情を報告した特別報告書を株主総会へ提 出するのである。そして,株主総会が,認、許を得ていない取引の無効を治癒す る,とされている。 これに対して,議決権排除が一人を除いて取締役全員に及ぶ場合には,求め られた認許を与えることは有効で、ありうる。実際,取締役から議決権を取り上。
3)l Hemard, F. Terre et P Mabilat, opα
t, nO 1029, P 903 ; L Balensi, op cit, nO 162, pp 117・118;B.. Mercadal et P Janin, op cit, nO 1389, pp..380-381; G 引RipertetR Roblot, op cit, nO 1281, p 876 判例上も,利害関係を有する取締役または副社長は議決権を行使することができない, と判示されている (Rouen,19 novembre 1981, Gaz.. Pal, 19822..607 noteA.P.s.,Rev soc.1983..347. note M Guilberteau)。また,取締役会によって与えられた事前の認許決議 が,利害関係を有する取締役の議決権行使によって無効である場合は,当該取引の無効原 因となる,と判示されている。 ( 14) 1. Balensi, op cil, nO 163, p.118;J
Hemard, F.. Terre et P Mabilat, op cil, nO 1029, p903 (1日 LBalensi, op cit, nO 163, pJ18 ; J Hemard, F Tene et P Mabilat,op cit, nO 1029, pp903・904;B. Mercadal et P Janin, 0ρ
cit, nO 1389, p 381 ; M. Juglart et B. Ippolito, op cil, nO 722-5, ppA64-465; R m M Lauriol,J.O.deb, Ass. nat, 26 juillit 1975 nO 20677, p 5429601 フランスにおける取締役・会社関の取引 -181-げる場合において,法は決議の規制として議決権の最低限を課してはいない。 その上,その排除は,もっぱら議決権に関するものであって,利害関係を有す る取締役が決議前の審議に加わることを妨げるものではない,とする見解があ る。 (ii)事前の認許がない場合 (1)旧会社法40条では,事前の認許がない場合の制裁が明確ではなかったが, 判例・学説においては,取引が無効であることで意見は一致していた。しかし, 無効の制度は多数の問題を生ぜしめる原因であった。 事前の認許を要するのは,会社とその取締役との間で締結される取引だけで はなく,取締役が,取引に間接的に利害関係を有しているにせよ,当事者であ る企業で取締役が特定の地位に就いているにせよ,会社と第三者との間で締結 される取引もあるのである。したがって,善意の第三者の権利と法令違反の制 裁とを調和させる必要がある。法が,取締役から会社を保護するために,そし、て, 取締役が会社と直接に行った取引を無効とするために規定されている場合に は,善意の第三者の権利を,会社の株主の権利のために犠牲にするのは困難で あるように思われる。 当事者たる企業が,会社と締結する取引が会社の取締役会の認許を事前に得 なければならないことを知らないことが非常に多くありうる。共通取締役を有 する
2
つの株式会社聞の取引が問題となる場合は別として,取締役は、取締役 である会社に,自己の状況を報告しなければならないだけであり, 40条によっ て規制される地位に就いている企業には報告する義務はない。それは,道徳上 の義務であって法律上の義務ではないからである。 したがって,事前の認許を得ずに締結された取引が無効で、あるという制度は, おのず、とうまくいかず,会社が善意の第三者と取引をした場合には制裁は効力 が無く,利害関係を有する取締役が,時効にかかわらず結果としての損害の回 復義務を負うことがあるのみであった。しかしながら,そのように判決される 日) B6 .. Mercadal et P Janin,op cit, nO 1389, p381-182一 第57巻 第3号 602 ことはほとんどまれであった。それは,非常に多くの場合,契約当事者たる第 三者が出入り商人であるために善意とは判断されることができなかったからで ある。 ( 2
J
この制度は1966年法により改正され,取締役会の事前の認許なしに締結さ れた取引は,会社に対して損害を与える結果をもたらしたときにかぎれこれ を無効とすることができる(10
5
条1
項),と規定された。 このように,事前の認許はもはや取引の効力要件ではなく,そして無効はも はや法令違反に基づかないのである。このような改正が非常に重要であるのは, 第三者の権利を尊重しながら会社を保護することができるからである。取引は 会社に損害を与えた場合にだけ無効とされるから,第三者が無効について不平 を言うことはないだろう,とされている。 また,取引の損害の性格は,対価関係を欠いていることであり,会社にとっ てその締結が妥当性を欠いているということではない。実際,取引の締結の妥 当性については,取締役のみが責任を負う業務執行の問題であって,いかなる 場合にも第三者が負うべき問題ではない。さらに,たとえ取引が会社に損害を 与えた場合でも,認許を得た取引は攻撃されてはならないのである。取締役 会の作用は,原則として,取引が会社にとって好ましいという保証であるから, それで十分であり,そして,取引が不都合な結果となった場合は,取締役会の 全構成員が責任を負わなければならないかもしれないからである。 ( 3 )問題は,事前の認許なくして締結された取引の制裁としての無効が,絶対 的無効か相対的無効であるか,ということである。 旧法上の学説および判例のいくつかは,取締役会の事前の認許の欠棋の結果 である無効は,絶対的無効であり,しかも,公序の無効で、あり,したがって治 日7) BI.alensi, ot cit., nOs 166..168, pp.119-122 P Fauconneau, Du defaut d'auto付sation trealable du conseil d'AdministratiOn en matiere de conventions soumises a l'article 40 de la loi du 24 Juillet 1867 Gaz.. Pal..1960..L8参照。 日 目 BI.alensi, ot cil, nO 166, p 120 日 目 . BIalensi, ot cit, nO 169, p.123 (20) 1 Balensi, ot. cit, nO 170, p123603 フランスにおける取締役・会社間の取引 -183ー 癒されない,と解していた。 これに対して,相対的無効であると解する学説・判例があった。しかし,た とえ相対的無効であると解しても,無効を治癒するための権限を有する機関が どこかを定めるのが非常に困難であるということにぶつかるのである。実際に は,相対的無効理論によれば,保護される人聞のみが無効行為を有効にできる のであって,取引の締結に汚点をつけた取締役会に暇庇を修復させられない。 そして,法は,取締役の保護ではなく,株主の保護を念頭において規定してい るのである。したがって,株主総会の決議によってのみ,無効を治癒できるの である,とされていた。 他方,現行法上は, 105条1項が規定しているように,取締役会の事前の認許 なくして締結された取引は,法上当然の無効ではなく,裁判官が無効を宣告す るかどうかが自由である任意無効 (nu
1
1
i
tefacultative)である。そして,裁判 官の宣告があるまでは,取引は有効であるとみなされなければならない、とさ れている。 また, 105条3
項において,無効は,認許の手続が行われなかった事情を開示 する会計監査役の特別報告書について行われる総会の決議によって,これを治 癒することができる,と定められている。これは,前述した相対的な無効理論 の判例によるものであZ
。〉この場合に,利害関係人は,決議に参加することが(
2
D
Rouen, 24 novembre 1959, Gaz..Pal1960.1144; Montpellier, 20 novembre 1963,1
C P, 1964..II13596, note Bernerd; D.1964.483, note Mazeaud ω) 前掲Paris,23 novembre 1955 ; Seine co, 18 feverier 1963, D 1963.295 側 前 掲Paris,23 novembre 1955参照;L Balensi, op
.
cit, nOs174-175, pp..126-127 ( 24) すなわち,日本法上の,取消による無効にあたる。 B..Mercadal et P. Janin, 0ρci,l:nO 1395, p385 ; Com 22 novembre 1977, Bull.. IV, nO 276, p 234参照。 ( お)1L Balensi, 0戸cit,nO 174, pp125-126;前掲Paris,23 novembre 1955 ; com. 16 juin 1959 ; Paris, 13 juin 1964, D 1965..398参照。、共通取締役を有する2会社関の取引が,取締 役会の事前の認許を得ていなかったけれど,会計監査役の特別報告書事による総会の承認を 得ていたために,無効が宣告されなかった事例として,Cass.. com 12 novembre 1973, Bu,!l civ 1973..IV, nO 322, p287 ; Rev. trim. dr.com. 1974..296, nO 7, obs..R Houinこれに対し て,取締役と会社との聞で締結された取引が,会計監査役の特別報告書において1967年3 月23日の令92条により要求されている会社に対する利害関係を株主が判断できるための記 載が不十分であるために,その特別報告書による総会の承認が取締役会の事前の承認の違 法を治癒させられないことを理由に,無効とされた事例として,Cassれcom.10 juillet 1978, Bull..civ.1978 IV, nO 195, p.164-184ー 第57巻 第3号 604 できない。
C
4
J
無 効 を 主 張 す る こ と が で き る の は , 法 が 保 護 し よ う と す る 者 で あ る 。 取 締 役 会 の 事 前 の 認 許 の な い 取 引 の 無 効 は , 主 と し て 会 社 お よ び そ の 株 主 を 保 護 す ることを目的としたものである。したがって,無効訴権(actionen nulli凶
2
2
, 会 社 の 機 関 に よ っ て も , 直 接 に 株 主 に よ っ て も , 行 使 さ れ る こ と が で き る の で あ る 。 な お , 株 主 の 無 効 訴 権 を , 株 主 個 々 人 が 有 す る , と す る 見 解 も あ る 。 ま た , 無 効 訴 権 を 行 使 す る に は , 原 告 が , 取 引 が 締 結 さ れ た 時 に 株 主 で あ る こ と は大して重要で、ない,とする見解と反対する見解がある。 こ れ に 対 し て , 会 社 と 取 引 を し た 第 三 者 は , 無 効 訴 権 を 行 使 す る こ と は で き な い 。 そ れ は , 取 締 役 会 が 無 効 訴 権 を 行 使 す る こ と が 要 求 さ れ て い る の は , 第 三者のためではないからである,とされている。また,それは,、会社に損害が (紛 action en nulIiteの訳語として, I取消訴権J(早稲田大学フランス商法研究会編『フラ ンス会社法(増補版)
.
1
(1980年)119ページ)と,I
無効訴権J(アンドレ・タンク(山本桂 一訳)I株式会社とその取締役の一人との簡に締結された契約のフランス的規制一一現行 法と改正案一一Jジュリスト 336号 (1965年)60ページ以下)とがある。前述のように,相 対的無効は,日本法上の取消しにあたるが,取締役会の事前の認許を得ていないこと,お よび、会社に損害が発生したことを要件とする裁判上の無効であり,また後述するように, 無効の抗弁 (exceptionde nulIite) という表現もあるので,I
無効訴権」という訳語に従 う。したがって,“lanulIite"も, I取消原因」とせずに「無効」という訳語に従う。 ('[{) Paris, 8 fevrier 1965, ICP 1965.II J4398, Rev. trim.drcom.,1965..858, obs. R Houin ;Paris 26 mars 1966, Gaz Pal 1966.1400 ; Com 26 janvier 1965, D 1966.469, not邑A
Dalsace, Reむ trim..dr..wm..,1965..621, obs R Houin; L Balensi, op..cit,..nO 178, p.129 ;
B. Mercadal et P Janin,op cit,.nO 1395, p..385, G Ripert et R Roblot, opcit,.nO 1281,
p876, M. Juglart et B. Ippolito, op.cit, nO 722.7, p471
(28) Compiegne, 22 decembre 1964, J C P 1965JL14279, note N.. Bemard; Amiens 1er
decembre 1966, D 1967..234, note A. Dalsace ; 1.Balensi, op..cit, nO 178, pJ29 ; B
Mercadal et P J anin, op. cit, nO 1395, P385, M J uglart et B.. Ippolito, ~ρ cit., nO 722
・7, p.471 ω1) R Houin, Rev.. tvim..drcom.., 1965.. p.626 ; 1967, pp.521 et 1087,また,すべての株主 が,責任追及訴権 (actionen responsabilite) と同様に,無効訴権を行使する権利を有 する, とする見解, G Ripert et R Roblot, opαt, nO 1281, p.876,もある。 (30) 1. Balensi, opαt, nO 178, p130 (3DBlida, 24 avril 1963, Gaz. Pal 1963. II 438
(32) Com 23 mai 1967, D.1968.179, noteA Dalsace-一一これは,共通取締役を有するた
めに事前の認許を与えることができなかったことによる法令違反である2会社間の取引の
債権を保証した他の会社が,その取引の無効を主張した事例に対して,共通取締役を有す
605 フランスにおける取締役・会社関の取引 -185-生じたときにのみ取引を無効とすることができるからである,とも言われてい る。 ( 5
J
この無効訴権は, 3年で時効消滅する。その期間は,取ヲ│を締結した日か ら起算され,または,取引が隠蔽されている場合には総会によってそれが発見 された日かご)進行する(105条2項)。 しかしながら,時効期間が経過した場合にでも,会社はなお違法な取引を履 行することを拒むことができる。それは,無効の抗弁は永久である(l'exception de nullite est perpetuelle)と判示されたからである。実際には,取引の無効は, 常に,取引の当事者によって会社に対して提起された支払請求訴訟の抗弁とし は 2つの会社の株主の保護のために規定されているのであって,他の会社によって主張 されることはできない,と判示された。一一この判決は,旧会社会よのものであるけれど, 新会社法においても有効である,とされている。B.Mercadal et P.. J anin, op cit, nO 1395, p.385M. Juglart et B Ippolito, 0,β ciL, nO 722..7, pι71 : J Hemard, F..Terre etP Mabilat,0戸ciL,nO 1031, p.905参照。 (32a) L Balensi, 0.少cit,nO 178, p..l30 (お)判例 (Com24 fevrier 1976, Rev. so.c1977.88 note Y Chartier;Gaz.. Pal, 1976.2..515; Rev. trim.. dr'ωm, 1976.542 obs R Houin)によると, (a)時効の起算点は,取引が隠蔽 されていた期間中の総会の臼としなければならない。そして,取締役が総会前に取引の存 在を知っていたという事実は考慮されない。 (b)3年の期聞は,予定された期間ではなくて 実際の期間であるから,中断や停止を分析するのである,とされている。 B Mercadal et P Janin, o.βcit, nO 1395, p 385 ; G Ripert etR Roblot, 0.ρcit, nO 1281, p831 ; Aix,10 avriI1974,lC P, 1976,1I,18274, note C Lucas de Leyssac; Com, 13d吾cembre1976,
D, 1977..375, note M. Jeantin;Rev.. trim. dr. com, 1977,540参照。 ( 泊D Com. 10 juillet 1978;Bull. civ..1978.IV, n0195, pJ64 (前掲注(24)参照)Rω,soι1979..848note 1 Balensiこれは,社長の未亡人が亡夫の手当の支払請求をしたのに対して,長期の手当が問 題であったため,会社によって既に一部は支払われていたが,会社は,取締役と会社との 聞の取引に必要な手続を経ていないため取引が無効であると主張して,その支払いを拒ん だ事例である。これに対して, 101条の適用がある取引の無効訴権が105条によって3年の 時効にかかったとしても,無効の抗弁は永遠である,と半j示された。問題は,時効期間満 了後に会社によって取引が履行された場合に,それは,取引の無効の際害になるか,であっ た。 1Balensiは,その評釈の中で,それは殆んど確実ではないが,会社は,常に,取引の 履行を拒むために取引の無効を主張することができるが,取引の履行の際に既に支払った 額の返還を無効を理由として請求することはできない,と考えるだけだ,としている(Rev soι, 1979. 855) 他方, Cass.. civ, 14 mars 1979, Rev..SOC, 1980.304 note 1 Balensiでは,会社と取締役 との聞の取引が取締役会の事前の認許を得ずに締結された場合には,取ヲ│の無効を確認す る権限を有する会社の機関のみがなした履行は,105条によって規定されている時効期間の 満了後の結果として,会社に,無効の拡弁を主張させることを許さないことになる,と判
c u o o 第57巻 第3考 606 て採用されることができる占 こ れ に 対 し て , 取 締 役 会 の 事 前 の 認 許 を 得 て い な い 違 法 な 取 引 で あ る に も か か わ ら ず , 総 会 の 承 認 を 得 て 履 行 さ れ た 場 合 に は , こ の 無 効 の 抗 弁 は 認 め ら れ な い 。 こ の 場 合 に は , 既 に
3
年 の 時 効 期 聞 が 満 了 し た , と 判 示 さ れ て い る 。 ( 6J
さ ら に , こ の よ う な 無 効 訴 権 の 行 使 の 可 能 性 の 他 に , 事 前 の 認 許 が 無 か っ た 場 合 に は , 利 害 関 係 を 有 す る 取 締 役 ま た は 副 社 長 の 責 任 を 追 及 す る こ と が で きる(
1
0
5
条l
項)。 uii)事前の認許がある場合 取 引 が , 取 締 役 会 に よ る 認 許 を え て い た と し て も , 会 計 監 査 役 へ の 通 知 の 対 象となっていなかった場合にも,また,会計監査役への特別報告書の対象となっ ていなかった場合にも,さらに,総会の決議事項とされていなかった場合にも, 取 引 の 無 効 は 宣 告 さ れ る こ と は で き な い 。 取 締 役 会 の 事 前 の 認 許 は 取 引 の 効 力 示された。この事例は,会社が,取締役から金銭の貸付けを受けていたものである。取締 役会の承認を得ていなかったが,その貸付は,貸借対照表上は年次株主総会により承認さ れており,利子は規則的に支払われていた。数年後,取締役の権利である取立を行う会社 が返還を請求したところ,債務者である会社が貸付の無効を主張したのである。判決理由 が,会社による取引の履行が事前の認許のないことによる無効を治癒するという効果をも たらすという意味なのか,会社による履行も無効の抗弁が永遠であることの障害となりえ, そして無効訴権の時効期間の満了後は会社に取引の無効を主張させない,という意味なの かが,問題であるが, 1.Balensiはその評釈の中で,後者と判断される,としているqそれ は,取締役会の事前の認許を得ていないことによる無効は,株主総会の決議によっで治癒 されうるものであり, 105条3項がその要件を定めているからである,としている。また, 無効を確認する権限を有する会社の機関がなした履行のみが,無効の抗弁は永遠であると いうことの障害となり,それは取引が全部履行された場合には,言うまでもないことであ る。無抗の抗弁が永遠であるということが適用されうるのは,会社に無効の主張を許して 請求された履行を免れるためである(Com,10 juillet 1978, Rev.50C, 1979855参照),と されている(Rev5ω , 1980304)。 側 B..Mercadal et P J anin, Op
.
.
cit, nO 1395, p.385 ; M Juglart et B. Ippolito, op. cit, nO 722-7, p 471参照。側 Civ.14 mars 1979Rev. soc..1980.304 note 1.Balensi, Com. 13 decembre 1976, D. 1977
375 note Jeantin ; B. Mercadal et P Janin, op.. cit, nO 1395, p.385 ; M.Juglart et B Ippolito, op. cit, nO 722-7, pι71参照。 間 BMercadal et P J anin, 0.ρcit, nO 1396, p.385 ; Cass sοc. 16 avril 1969, Rev trim d以ωm..1969.1021 obs.. R Houin..M..Juglart et B. Ippolito, o
p
.
cit, nO 722・7,pA71, Cass com.17 octobre 1967 (2 arrets),I
C P 1968 IL15482 et la note, Bull..civ..1967 III nO 328, pp313 et 314,白.P.zal.1968..L6, Rev.的m.dァcom,1968.90 obs R Houin参照。607 フランスにおける取締役・会社聞の取引 -187-要件である。 唯一の制裁は,取引が会社に損害を与える結果をもたらす場合には,取締役 がその責任を負わなければならないことである。 実際,取締役会の事前の認許がない場合,または取引契約締結の際になされ る詐欺のみが取引の無効を生起させるだけである。すなわち,詐欺の場合を除 いて,取締役会の事前の認許があれば,株主総会によって承認されない場合で も,取引は有効であり,攻撃されえないものとなるという法的効果がある。 これに対して,取引を違法に承認した総会の承認決議の無効は,取引の効力 に影響がない。承認が拒否された場合と同様,利害関係を有する取締役は,取 引の履行によって被った損害に相当する額を会社に返還しなければならないだ けで、ある。
2
.
株主総会の承認 (i) 承認手続 (a) 会計監査役への通知 社長は,認許を得た取引が締結された日から起算して1
か月以内に(令9
1
条1
項),この取引について会計監査役に通知しなければならない(法1
0
3
条2
項)。 したがって,社長は,認許されなかった取引,または認許の手続を経なかっ た取引について報告しなくてよい。 通知の形式は,明確ではないが,慎重に,あらゆる異議申立を避けるため書 留郵便によってなされる。多くの場合,特別報告書に記載される取引の副本が 通知に同封されるが,その発送は義務の性格を有するものではなく,そして, (38) 1.Balensi, 0少cit,nO 156, p.113 (39) B. Mercadal et P Janin, 0,β cil, nO 1396, p385曲目 B.. Mercadal et P Janin, o.日~.. cit, nO 1396, p385 ; LBalensi,op cit, nO 157, p.114 ; Cass.
com 22 mai 1970 (1erarret), Bull..civ 1970JV, nO 165 p.147参照
(40a) B.Mercadal et P Janin, op. cil, nO 1396, p..385
-188一 第57巻 第3号 608 会計監査役は,会社の本庖において取引の正本を常に手に入れることができ る。 以前は,通知に関する期間の定めがなかったので,会計監査役が,年次株主 総会に特別報告書を提出するために営業年度の調査にかかろうとした時に,取 引が通知されるだけであることが多かったのである。したがっ、て,株主の保護 の強化のために,社長は,会社法101条の適用により認許された取引を,取引が 締結された日から 1か月内に,会計監査役に対して通知しなければならない(令
9
1
条l
項)と規定したのである。 さらに,履行が継続する取引についで,前営業年度中に締結されかつ認許さ れた取引の履行が現営業年度中に継続している場合には,会計監査役は,現営 業年度終了の日から1
か月内にこの状態について報告を受けなければならない (令9
2
条2
項),と規定されている。 通知がないことに対して,それが,通知をしなければならない者の個人的責 任でない場合には,特別な制裁はないようである。通知がないことにより会計 監査役がその報告書を作成するのを妨げられる場合にのみ責任が生じる。1
か 月の期間の徒過の場合も同様である。 (b) 会計監査役の特別報告書 (1)会計監査役は,取引に関する特別報告書を株主総会に提出しなければなら ない(法103条2項)。この報告書には,次の事項が記載されていなければなら ない(令9
2
条)。すなわち, 株主総会の承認を得なければならない取引の列挙, 利害関係を有する取締役または副社長の氏名, 前記取引の種類および目的, 当該取引の重要な態様 (modalitesessentiel
1
es),とりわけ,取引の価格 ω:)L Balensi, op. ci n,.l O 189, p.139 ; l Hemard, F..Terre etP Mabilat, opαt n,.. O 1033, p907 附J
Hemard, F Terre etP Mabilat, ot'ciL, nO 1033, p 907; L Balensi, op.. ci,.tnO 191, pp.139・140 ( 44) L Balensi, ot. ci,.tnO 191, p.140609 フランスにおける取締役・会社関の取引 -189-または,実際の値段(表),合意された割戻し金および手数料,約定された 支払期限,約定利息および提供された担保の表示,ならびに,もし存在す るならば,審議の対象たる取引の締結に係る利害関係を株主が判断するに たるその他のあらゆる情報, 一 引渡しを受けた納入品または提供された役務の給付の重要性,ならびに, 前営業年度中に締結されかつ認許された取引の履行が現営業年度に継続し ている場合には,現営業年度中に支払われた金額または受領された金額の 合計, である。 このように,ぎ計監査役は,行われた取引に関する多数の情報を提供しなけ ればならないが,取引の妥当性の判断をするのではない。 ( 2 )会計監査役が特別報告書において記載しなければならない取引とは,通知 された,取締役会の事前の認許のある取引だけでよいのか,
1
0
1
条に違反した事 前の認許のない取引をミ含むのか,という問題がある。 会計監査役は,事前の認許を得た取引につき社長によって通知されていない 場合でも,また,取締役会の事前の認許を得ていない場合でも,特別報告書に 記載しなければならない,とされている。 これに対して,会計監査役に通知された,または会計監査役が取締役会の席 上知った,事前の認許を得た取引のみを,会計監査役は特別報告書に記載しな ω) B..Mercadal et P Janin,op at, nO 1391, p.382早稲田大学フランス商法研究会編・前 掲(注(紛)文献118-119ページ参照。 臼6) B Mercadal et P Janin, opα
t, nO 1391, p..382. 臼7) Reponse ministerielle nO 3575,l
0, deb.Ass.. .nat, 8 mars 1969, p.595 ; M..Juglart et B..Ippolito, opcit, nO 722 “5, p 467 ; B.. Mercadal et P Janin, op..dt, nO 1391, p.382 さらに,会計監査役は,あらゆる場合について特別報告書に記載しなければならない, とする見解もある。あらゆる場合とは,社長が適正に会計監査役に通知した場合,会計監 査役自身が,事前の認許を得ているが通知されなかった取引もしくは事前の認許も得てい ないし通知もされていない取引を発見した場合,またはさらに社長が取引の締結もしくは 履行について何も通知しないために,通常株主総会に会計監査役が取引につき何も報告し なかった場合,および会計監査役自身何らの形跡も発見しなかった場合,である (MJug-lart et B.. Ippo1ito, op..ci,.tnO 722 ・5,p468) 他方,総額に関してあまり重要でない取引であっても,会計監査役は,特別報告書にお-190ー 第57巻 第3号 610 ければならない,とする見解もある。その論拠として,事前の認許を得ずに締 結された取引は無効とされうるが,その無効は,会計監査役の特別報告書につ いて,特に事前の認許手続がふまれなかった理由が記されているので,決定し た株主総会によって治癒されることもあるということ,もそのlつとしてあげ られている。 事前の認許を得ずに締結された取引,または事前の認許が拒否された取引に 関して,会計監査役は,事前の認許手続の不履行の結果である違法を一般報告 書 (rapportgeneral)において指摘しなければならない(法230条および法233 条)。 C 3
J
会計監査役の特別報告書にもとづいて,株主総会は,決議をする(法103 条3
項)。 特別報告書が存在しない場合,会社と取締役との間の取引が得なければなら ない株主総会の承認決議は無効である。すなわち,特別報告書の不存在は総会 決議の無効原因となる(法3
6
0
条),とされている。 また,特別報告書が不十分である場合にも,特別報告書の不存在の場合と同 様に,学説,判例上,総会決議の無効原因となるようである。しかし,それは, いて触れずにおくことは許されない,とされている。また,会計監査役は,取引が通常の 条件で締結された日常取引であると判断した取締役の意見に任せてはならない。それは, 会計監査役が,特別報告書において取引が認許手続を経なければならないことおよび手続 を経ていないことを記載しなければならないからである。会計監査役は,取引の性格が通 常の条件で締結された日常取引であるという取締役の意見に従うならば,取引が締結され た年度にもその翌年にも,報告書に記載しなくてよい,とされている (MJ uglart et B Ippolito, op.じ,.tinO 722-5, p 467)。 側 LBalensi, op.ci,.lnO 193, pp 141・142;
J
Hemard, F.. Terre et P Mabilat, 0βcit, nO1037, p..91L Rm. nO 8404,
1
0, deb Senat, 13 mai 1969, p..267参照。 側1.Balensi, opαt, nO 193, p 142 ; B..Mercadal et P Janin, op cit, nO 1391, p..382 ( 関)1 L Balensi, 0.ρcil, nO 210, pp..l53 ・154; G Ripert et R. Roblot, op. cit, nO 1282, p.877. (51)L Balensi, 0.φα
,.tnO 211, p..l55 ; G Ripert et R. Roblot, op. cit., nO 1282, p..877 ; M Juglart etB..Ippolito, op. cit, nO 722-5, pA67 ; Paris, 24 fevrier 1954, G泣z..Pa,.l1954.1 “166, Paris, 23 novembre 1955, D.,1956..290, note F. Gore ; Compiegne, 22 decembre 1964,
1
CP 1965..ILl4279, note N.. Bernard; Amiens, 1erdecembre 1966, D..1967..234, note A.Dalsace ; Cass. com., 12 novembre 1969, ICP, 1970.I.U6264, note Y Guyon ; Cass“
com 2 juillet 1973, D..1973..674 et la note ; Rev..$0ι1973..662 et la note ; Cass. com. 10 juillet 1978, Bull. α刷v.n
611 プランスにおける取締役・会社聞の取引 -'-191-特別報告書の不存在は法律違反であるから明らかであるが,特別報告書が不十 分である場合には疑問である。特別報告書の内容は,令によって定められ,法 律によって定められていないからである。また,その不十分が特別報告書の不 存在と同様であるとしても,どの程度の不十分からかという限界を定めるのが 非常に困難である,とされてい
5
0
令92条の規定は非常に完全であるようであるが,令92条が規定されるまで は,株主総会に対する開示につき,一般報告書においてではなく特別報告書に おいて開示されるべきか,そして開示の内容は限られた情報でよいか,または 完全な情報でなければならないか,ということが論争されていど特別報告書 による開示については支配的な学説および判例上一致していたが,開示の内容 については,会社業務の秘密との関連で問題となっていど判例は,会社業務 の秘密を理由として開示の内容を制限することには批判的であり,完全な情報 であるべきだとする立場の方を指示していた。株主が事情をよく把握して承認 をすることができる十分な事項であると認めうるために必要なすべての情報 (52) G.Ripert et R Roblot, op..cil, nO 1282, p877 川 例えば,前掲Cass.com. 10 juil!et 1978では,令92条によって要求されている事項が何 も警かれていず,かつ株主総会が正確に情報を得るのを妨げるような会計監査役の特別報 告書は,虚偽(fictif)とみなさなければならない。そのような報告醤の不十分は取引の無効 となる,とされている(G Ripert e~ R Roblot, o.ρ cil, nO 1282, p..877参照)。 (53) M..J uglart et B. Ippo1ito, o.βcit, nO 722・5,pA68 (同1.Balensi;o.ρ
α
t, nOs 201-204, pp..l47 ・150参照 ( 5日1Balensi,o.ρ cil, nO 203, p.l48 ; Paris, 24 fevrier 1954.Gaz. Pal , .1954 1166 6日1.Balensi, opcit, nOS 203・204,pp.l49-150 (57) 会社業務の秘密は,法によって保護されない,ということを,会計監査役の職業上の秘 密と混同しではならない,と判示されている。会計監資役が職業上の秘密に反するのは, 職務の遂行時に収集した内容の情報を第三者fに打明けた場合,たとえば,製法の秘密を暴 く場合である。しかし,株主に対して,取引の経済性を明らかにすることは,合法であり, かつ株式会社の組織に固有の不都合である,とされている。(前掲Paris,24 fevrier 1954, L Balensi, opcit, nO 204, p 150)しかし,会計監査役は任務の遂行を避けるために会社業 務の秘密に隠れて保身をすることを令92条は禁じているが,会計監査役の任務に関する広 大な義務に 2つの限界があるとする見解がある。すなわち 1つは,会計監査役は,株主 が取引の妥当性を判定するのに有益でない情報を提供しなくてよいことであり.2つは, 秘密にしておかねばならないことを暴露しではならないこと,である,としている(M Juglart et B. Ippolito, op.cil, nO 722・5,p469)-192ー 第57巻 第3号 612 が,特別報告書に含まれていなければならない,と判示されている。このよう な問題を解決し,会計監査役の報告書の内容を正確にすべく明確に規定された のが令
9
2
条である。 したがって,令9
2
条によって記されている列挙は,非常に長くかっ詳細、であ り,他方その列挙は全く限定されていない。令9
2
条に厳格に記されている事項 のために,株主が事情をよく知って決定することができるためのあらゆる情報 および取引の利害関係を判断することができるためのあらゆる情報を引出すた めに,会計監査役は取引を入念に検討しなければならない。会計監査役は業務 執行に関与していないが,令9
2
条により,締結された取引の妥当性を検討しな ければならない状況に置かれている。したがって,会計監査役は,取引の適法 性および誠実性のみを重視することは許されず,取引の妥当性について判断を 誤りそうな事項を究明しなければならない。それは,とりわけ,取締役と締結 した取引を,取締役または取締役が利害関係を有する会社以外の他の者と締結 したと同様の商品または役務に関してなされた取引とを比較して,究明しな ければならない。同様に会計監査役は,会社の取締役でない者と合意された支 払期限または第三者と合意された手数料および割戻金について,究明しなけれ ばならない,とされている。 しかし,これに対しては,取引の妥当性を判断するべきなのは,株主総会で あって会計監査役ではない,という見解がある。 ( 4 )特別報告書は,現営業年度の終了後3カ月内に,かついかなる場合にも, 通常総会開催の少なくとも2
0
日前に作成されかつ本屈に備え置かれなければな らない(令191条)。 (鎚 Compiさgne,22 decembre 1964,
1
CP.1965..II 14279, note N. Bernard; Amiens, 1 erdecembre 1966..D.1967.234, noteA Dalsace (59) L Balensi, oJうcil,nO 204, p..l50 側 M凶Juglartet B引 Ippolito,0.ρcit, n O 722-5, p.469 制 LBalensi, 0.
ρα
t, nO 207, p..l52,J
Hemard, F.. Terr色etP Mabilat, 0ρ
cil, nO 1038, p.917613 フランスにおける取締役・会社関の取引 --193-(c) 株主総会による承認 [1)会計監査役の特別報告を聞いた後,株主総会は,当該取引に関して判定し, そして当該取引を承認するか,または承認しないのである(法103条2項・3項)。 株主総会は,個々の取引を個別に承認しなければならず,そしてその承認は, 個々の株主によって個別に与えられた合意の結果とすることはできず,実際の 決議の結果でなければならない。 ( 2 )利害関係を有する取締役または副社長(株主である場合)は,議決権を行 使することができない。その取締役または副社長の株式は,定足数および多数 決の計算に算入されない(法103条4項)。 このような議決権行使の排除は,取締役が利害関係を有する取引のみを対象 にしている。したがって,株主総会が,異なる取締役各自に関する多数の取引 を判定する場合,取号!と同数だけの決議をしなければならず,かっその決議ご とに新たに定足数と多数決の手続を経なければならない。 議決権を行使できないのは,利害関係を有する取締役のみであるということ は認められている。その結果,逆説的に次のことが言える。すなわち, A会社 がB会社の株主であり (A会社および