Title
ハダカアリCardiocondyla kagutsuchi の種内分化と繁殖様式
に関する分子遺伝学的研究( 内容と審査の要旨(Summary) )
Author(s)
沖田, 一郎
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(農学) 甲第677号
Issue Date
2017-06-30
Type
博士論文
Version
ETD
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/56283
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。[1] 氏 名(本(国)籍) 沖田 一郎 (静岡県) 学 位 の 種 類 博士(農学) 学 位 記 番 号 農博甲第677号 学 位 授 与 年 月 日 平成29年6月30日 研 究 科 及 び 専 攻 連合農学研究科 生物環境科学専攻 研究指導を受けた大学 岐阜大学 学 位 論 文 題 目 ハダカアリCardiocondyla kagutsuchi の種内分化と 繁殖様式に関する分子遺伝学的研究 審 査 委 員 会 主査 岐阜大学 教 授 川 窪 伸 光 副査 岐阜大学 教 授 土 田 浩 治 副査 静岡大学 教 授 澤 田 均 副査 静岡大学 准教授 笠 井 敦
論 文 の 内 容 の 要 旨
ハダカアリCardiocondyla kagutsuchi Terayamaには、「種内」に、オスに翅多型が 見られるグループ(翅多型グループ)と翅単型のグループ(翅単型グループ)の両方が 存在する。翅多型グループのコロニーには有翅オスと無翅オスの両方が見られ、翅単型 グループのコロニーには無翅オスのみが見られる。種内に翅多型グループと翅単型グル ープの両方を含むことなどから、ハダカアリは複合種(species-complex)として扱わ れてきた。本研究では、ハダカアリの種内分化を、mtDNAと核DNAの分子系統解析お よび働きアリの外部形態の調査によって明らかにすることを試みた。 mtDNAの分子系統解析の結果、7ハプロタイプ(AからG)で構成され、日本産のハ ダカアリは、4ハプロタイプ(A、B、D、G)で構成されていた。これら4ハプロタイ プのうち、翅多型が見られたのは、Dのみであり、残りのA、B、Gは翅単型であった。 また、これらハプロタイプ間の塩基置換率から、日本産ハダカアリは3つのグループに 分化していると考えられた。 日本産ハダカアリの外部形態ついて判別分析を行った結果、ハプロタイプAとBのグ ループ、D、Gの3グループで構成されていることが示唆された。 日本産ハダカアリの核DNAのITS領域について、分子系統解析を行った結果、4クレ ードで構成されていることが明らかとなった。1つ目のクレードは、ハプロタイプAと Bの全てのオスアリ、メスアリ、働きアリが入り、2つ目のクレードには、Gの全ての オスアリ、メスアリ、働きアリが入った。一方、残りの2クレードは、Dのオスアリと メスアリで構成されていた。この2クレードのうち、一方のクレードは全てオスアリで 構成され(オスクレード)、もう一方のクレードは主にメスアリで構成されていた(メ
スクレード)。Dの多くの働きアリ(8個体)は、オスクレードの配列とメスクレード の配列の両方を持っていた。また、Dの残りの働きアリ(5個体)は、オスクレードの 塩基配列とメスクレードの塩基配列の両方または片方に加えて、これら2つの遺伝子型 の組み換え型と考えられる配列も持っていた。 以上のことから、日本産ハダカアリは、3グループに分化していることが示唆された。 さらに、核DNAのITS領域の分子系統解析の結果、大部分のオスアリとメスアリは別々 の塩基配列をもっていた。また、働きアリの多くは、オスクレードとメスクレードの塩 基配列の両方を持っていた。さらに、働きアリのなかには、オスクレードの配列とメス クレードの配列の組み換え型と考えられる配列を持っていた。オスとメスが独立した塩 基配列を持つことから、働きアリは有性生殖由来であり、オスアリとメスアリはそれぞ れ同性の親の核DNAに由来するクローンであることが示唆された。また、ハプロタイ プDの働きアリから検出された組み換え型の塩基配列は、受精卵からの発生過程で起こ る、体細胞の核DNAにおける組み換え(疑似有性生殖)に由来する可能性が示唆され た。
審 査 結 果 の 要 旨
ハダカアリCardiocondyla kagutsuchi Terayamaには、「種内」に、オスに翅多型が 見られるグループ(翅多型グループ)と翅単型のグループ(翅単型グループ)の両方が 存在する。翅多型グループのコロニーには有翅オスと無翅オスの両方が見られ、翅単型 グループのコロニーには無翅オスのみが見られる。種内に翅多型グループと翅単型グル ープの両方を含むことなどから、ハダカアリは複合種(species-complex)として扱わ れてきた。本研究では、ハダカアリの種内分化の実態を、mtDNAと核DNAの分子系統 解析および働きアリの外部形態の調査によって明らかにすることを試みた。 mtDNA の分子系統解析の結果、7ハプロタイプ(A から G)で構成され、日本産の ハダカアリは、4ハプロタイプ(A、B、D、G)で構成されていた。これら4ハプロタ イプのうち、翅多型が見られたのは、ハプロタイプ D のみであり、残りのハプロタイ プA、B、G は翅単型であった。また、これら4ハプロタイプ間の塩基置換率の大きさ から、日本産ハダカアリは3つのグループに分化していると考えられた。 日本産ハダカアリの4ハプロタイプの働きアリの外部形態ついて判別分析を行った 結果、日本産ハダカアリは、ハプロタイプAとBのグループ、ハプロタイプDのグルー プ、ハプロタイプGの3グループで構成されていることが示唆された。 日本産ハダカアリの核DNAのITS領域について、分子系統解析を行った結果、日本産 ハダカアリの系統は4つのクレードで構成されていることが明らかとなった。1つ目の クレードは、ハプロタイプAとBの全てのオスアリ、メスアリ、働きアリが入り、2つ 目のクレードには、ハプロタイプGの全てのオスアリ、メスアリ、働きアリが入った。 一方、残りの2つのクレードは、ハプロタイプDのオスアリとメスアリで構成されてい た。この2つのクレードのうち、一方のクレードは全てオスアリで構成され(オスクレ ード)、もう一方のクレードは主にメスアリで構成されていた(メスクレード)。なお、
ハプロタイプDの多くの働きアリ(8個体)は、オスクレードの塩基配列とメスクレー ドの塩基配列の両方を持っていた。また、ハプロタイプDの残りの働きアリ(5個体) は、オスクレードの塩基配列とメスクレードの塩基配列の両方または片方に加えて、こ れら2つの遺伝子型の組み換え型と考えられる塩基配列も持っていた。 以上のことから、日本産ハダカアリは、遺伝的にも形態的にも区別できる3つのグル ープに分化していることが示唆された。さらに、核DNAのITS領域の分子系統解析の結 果、大部分のオスアリとメスアリはそれぞれ別々のクレード(オスクレードとメスクレ ード)に属し、別々の塩基配列をもっていた。また、働きアリの多くは、オスクレード とメスクレードの塩基配列の両方を持っていた。さらに、働きアリのなかには、オスク レードの塩基配列とメスクレードの塩基配列の組み換え型と考えられる塩基配列を持 っていた。オスクレードとメスクレードが独立した塩基配列を持つことは、働きアリは 有性生殖由来であり、オスアリとメスアリはそれぞれ同性の親の核DNAに由来するク ローンであることが示唆された。また、ハプロタイプDの働きアリから検出された組み 換え型の塩基配列は、受精卵からの発生過程で起こる、体細胞の核DNAにおける組み 換え(疑似有性生殖)に由来する可能性が示唆された。 以上について,審査委員全員一致で本論文が岐阜大学大学院連合農学研究科の学位 論文として十分価値あるものと認めた。
1. Okita I, Murase K, Sato T, et al. (2013) The spatial distribution of mtDNA and phylogeographic analysis of the ant Cardiocondyla kagutsuchi (Hymenoptera: Formicidae) in Japan.
Sociobiology 60, 129-134.
2. Okita I, Terayama M, Tsuchida K (2015) Cryptic lineages in the Cardiocondyla sl. kagutsuchi Terayama (Hymenoptera: Formicidae) discovered by phylogenetic and morphological
approaches. Sociobiology 62, 401-411.
3. Okita I, Tsuchida K (2016) Clonal reproduction with androgenesis and somatic recombination: the case of the ant Cardiocondyla kagutsuchi. The Science of Nature 103, 1-6.