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連載講座
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)
中村善太郎
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未完成の取引 お金を借りたり貸したりすると,そのお金を返 すまではげりがつかない.物を買って,物だけも らい代金の支払いを掛で後まわしにすると,代金 が支払われるまではこの取引は完結しない.信用 経済が発展してくると,代金や物・サービスの交 換が同時に行なわれず,一方向への移動が生じた 後で、時聞をおいて逆方向への移動がおこり取引が 完結する場面が多くなってくる. 時間おくれをともなって完結する取引を会計で はどのように扱っているのだろうか.会計では, 人為的に期聞を区切ってつの期間のなかで生 じる種々の取引を記録し,それらの取引による資 本の動きを計算する.そこではつの期間のな かで完結しない時間おくれのある取引を簿記の仕 組みのなかで系統的に処理している.たとえば, 借入金,貸付金,買掛金,売掛金,前払金,前受 金というような勘定科目がそのような取引を処理 するために用意されている.それでは,この種の 取引は資本の流れ図でどのように表わされること になるのだろうか. 次に示す例題は,時間おくれをともないつ の期間のなかでは未完成になっている取引を含ん でいる.まずはじめに例題を記してから,未完成 なかむらぜんたろう 慶応義塾大学理工学部管理 工学科干 223 横浜市港北区日台 3 ー 14ー 1 1987 年 3 月号 の取引の資本の流れ図による表示方法を述べ,そ の後で例題の解答をすることにしよう. 〔例題〕 甲さんは,前年度に良好な業績がえられたの で,さらに積極的な経営にのりだすことにした. 売上数量を増大させるために,販売価格を 3.8 万 円/個から 3.5 万円/個に下げ,生産規模を設備 投資と人員増で拡大した.そのさい,設備投資に 必要な資金は,銀行からの借入金でまかなうこと した.前期末での繰越利益がし 720 万円,現金が に1, 660 万円あった.そこで乙さんと相談して, 乙さんに配当金 500 万円を現金で、手渡し,甲さん は賞与として,同額の 500 万円を現金で受け取っ た.これらの取引は,現金のストッグから繰越利 益の入口を逆流して出る資本の流れになる.した がって,現金有高はし 000 万円減少して 660 万円 となり,また繰越利益も同額の 1 , 000 万円減少し て 720 万円となる.この結果,当年度はじめには, 繰越利益 720 万円,現金 660 万円になっている. この他の勘定科目の有高は,前年度末の貸借対照 表に表示されている金額で当年度がはじまること になる. 甲さんは,当年度に次に示す取引の事業活動を 行なった.資本の流れ図に取引を仕分けし,当年 度の損益計算書と貸借対照表を作成せよ. ① 銀行から 3, 000 万円を現金で借入した.こ の資金は,設備投資に用いるものである. ② 材料2, 500個を単価0.8万円/個で仕入れ, (55)1
8
7
© 日本オペレーションズ・リサーチ学会. 無断複写・複製・転載を禁ず.その代金 2 , 000 万円のうち 1 , 600 万円を現金 で支払い,残りの 400 万円を掛(買掛金)に した. ③ l 台当り 1 , 500 万円の設備を 2 台購入し, 3, 000 万円を現金で、支払った. ④ 作業者を新たに 2 人雇い,合計 3 人ぶんの 当年度の給料等としてし 350 万円を現金で支 払った.この他に,次年度の給料の前払いと して 150 万円を現金で、支払った. ⑤ 土地建物の当年度の賃借り料その他間接費 として, 300 万円を現金で、支払った. ⑥ 材料 2, 200 個を工程に払出した.材料の購 入単価は前年度と当年度で変わらず0.8万円/ 個なので, 2 , 200個の材料は 1 , 760万円とみな されることになる. ⑦ 3 台の設備を延べ 4, 500 時間稼働させた. 新設備 l 台当りの当年度の減価償却費を定 額法,耐用年数 3 年で計算すると,
(1,
500-1
5
0
)
+3=450万円/年となる.旧設備の年当 りの減価償却費は 300万円になっているので, 当年度の設備の減価償却費総額は 450x2+300= 1
,
200万円となる.このことから設備の 時間当りの金額は 1 , 200+4, 500=4/15 万円/ 時間 =0.2667万円/時間で求まることになる. ⑨ 3 人の作業者は延べ 4, 500 時間働いた. 人件費総額は 1 , 350 万円なので,作業者の 賃率は 1 , 350+4, 500=0.3万円/時間になる. ⑨ 製品が工程から 2, 100 個完成した. ここで原価計算もしておこう.製品 1 個当 りの原単位として,材料 1 個,また設備と作 業者はともに1. 8 時間と与えられていた(前 号参照).
これらの値を用いると, 製品 l 個 当りの原価は, 0.8 万円/個 +0.2667 万円/時 間 x 1. 8時間/個 +0.3万円/時間 x 1. 8時間/個 =1
.
82万円/個となる. したがって, 完成品 2 , 100個の原価は 3 , 822万円とみなされる. ⑮ 製品 2, 150 個を販売価格 3.5 万円で販売し た.収益の 7 , 525 万円のうち 6, 500 万円を現1
6
8
(
5
6
)
金で受け取り,残りの 1 , 025 万円は掛(売掛 金)になった. 売上原価を計算しておこう.前年度末に製 品在庫が 100 個あり,この製品の製品原価は 1 個当り1. 7 万円であった.先入先出法のル ールを用いることにすると,当年度に販売し た 2 , 150 個の売上原価は1.7
x
100+1
.
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2
x
2 , 050=3 , 901 万円と計算されることになる. ⑮ 当期に客へ納入で、きなかった製品が50個あ り,そのぶんの代金 190 万円を現金で前受金 として受け取った. ⑫ 現金1, 000 万円を銀行預金した. ⑬ 借入年の当年度の利子 300 万円を現金で、支 払った以上) 以上に記されている取引のうち,①の借入金, ②の買掛金,④の前払金,⑩の売掛金,⑪の前受 金,⑫の預金はそれぞれ時間おくれのある交換取 引で,当期のなかで交換のやり取りが未完成にな っているものである.前固までに示した資本の流 れ図の構造ではこれらの取引を扱えない.さらに 新たな資本の流れの構造が必要になってくる.2
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欲ばりの原則 営業活動の内と外との聞の資本の流入,流出 は,市場での交換取引の事実にもとづいてとらえ られる.現金,もの・サービスの経営資源の流入 と流出が一対になって l つの市場取引が成立す る. 物々交換から貨幣を媒介にした交換にすすみ, 信用経済が発展すると 1 つの取引の流入,流出の 事象の発生時点の聞に時間的ズレが生じつの 会計期間のなかで 1 対の取引が完結しない事態が あらわれてくる.市場での交換取引を大別する と, (1)金融・資本取引, (2)財・用役の購買取引, (3)販売取引に分けることができるが,これらの各 々でいわゆる時間おくれのある取引があらわれる ことになる. l つの期間のなかで完結しない取引を,当期に オベレーションズ・リサーチ © 日本オペレーションズ・リサーチ学会. 無断複写・複製・転載を禁ず.表期内で交換が完結しない取引
タイプ| 当期の流れ |来期以後の流れ|
例
[1)1
0
資金の流入
Ix 資金の流出|借入金
(2)10 資金の流入 I
x財の流出|前受金
C3)10 財の流入 1
x資金の流出|買掛金
[4)
1
x
資金の流出 Ix 資金の流入(貸付金
問 I
x
資金の流出 Ix 財の流入|前払金
[6)10 財の流出 1 0 資金の流入|売掛金
注)0印:当期の資本の流れとして認める ×印:当期の資本の流れとして認めない 生じる経営資源の一方の流れと来期以後に生じる はずの他方の流れの内容から,表 1 に示すように 6 つのタイプに分類することができる.資金の流 れどうしで対になっているものがタイプ l と 4 で ある.金融・資本取引はこのタイプで,一般には 時間おくれによって利子が生まれる.他の 4 つの タイプは資金の流れと財・用役の流れで対になっ ている.購買取引はタイプ 3 とラ,販売取引はタ イプ 2 と 6 に該当する.物々交換はここではとり あげていない. 表 1 に示してある経営資源(資金,財・用役)の 各々の流れを,会計ではどのような考え方で「資 本の流れ」に置き換えているのだろうか? 当期 に生じる一方の経営資源の流れは当期の資本の流 れとして把握し,来期以後に生じる他方の経営資 源の流れはその生じた期の資本の流れとして把握 するのはごく素直な方法といえよう.表 1 のタイ プ 1 (借入金) ,タイプ 2 (前受金) ,タイプ 3 (買 掛金)はこの方法がとられている.これら 3 つの タイプに共通しているのは当期に経営資源がすべ て“流入"していることである.ところが,タイ プ 4 (貸付金) ,タイプ 5 (前払金) ,タイプ 6 (売 掛金)のように経営資源が当期に“流出"する場 合は次に述べるような別の考え方で資本の流れが 把握されることになる. タイプ 4 と 5 のように当期に資金が流出する場 合は,資本は当期に内から外へ流出したとみなさ ない.したがって対応する来期以後の流入も外か ゆ87 年 3 月号 ら内への資本の流入にならず,このタイプの取引 は資本の内部のストック形態の移動として処理さ れる.タイプ 6 については,逆に来期以後に生じ るはずの資金の流入を当期の資本の流入として先 取りし認めてしまう.その結果,当然のことなが ら当期の財の流出も資本の流出として認めること になる. このような考え方を要約してみると「欲ばりの 原則」が働いていることがわかる.当期に外から 内に入ってきた流れはとにかく当期の資本の流入 として認めよう.当期に内から外へ出る流れにつ いては,資金が流出した場合は資本は流出しない ことにしよう.財が流出した場合は来期以後に生 じるはずの資金の流入をも今から当期の資本の流 入として認めてしまおう.このような次第であ る. 図 1 に,各々のタイプ別に,左側に市場を媒介 にした経営資源の未完成の流れ,右側に上で述べ た考え方によって生まれる資本の流れを示してお こう.左側での点線の矢印は来期以後に生じる流 れ,右側での点線の矢印は来期以後に取引が完結 したときに行なわれる仕分けを意味する資本の流 れを表わしている. それぞれのタイプ別に説明を加えておく.タイ プ l では借入金の資本の入口(返済のときは出口) が,タイプ 2 では前受金の入口が,タイプ 3 では 買掛金の入口がそれぞれ設けられる.これらは新 たに設けられた資本の出入口の勘定科目である. 残りの 3 つのタイプ 4 ,5
,
6 では新たなストッ クの勘定科目が加わる.タイプ 4 では,たとえば 貸付金,預金などの内部のストックが生まれる. タイプ 5 では,たとえば前払金のストックが生ま れ当期に現金のストックからこのストックに資本 が移動することになる.タイプ 6 では,当期に収 益の入口から資本が流入したと認めるので,流入 した資本の行き場所として売掛金のストッグが新 たに必要になる. 1 つの期間のなかで完結しないこれらの交換取 (57)1
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© 日本オペレーションズ・リサーチ学会. 無断複写・複製・転載を禁ず.(
1
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β) 金融市場 借入金(
4
)
金融投資対象、
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。 (2J日J;;金
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5
)
(早)取得市場 a回ーベ費用
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3
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町閉r雌
a B販売市場。
-
-
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日
ト原価
図 1 未完成の取引の流れ 引についての資本の流れをまとめて表わした流れ の構造図が図 2 である.この構造図は基本的な流 れの構造を表わすので「資本の流れの基本構造 llJ と呼んでおこう.3
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資本の流れの構造を描くことが大切 1.に示してある甲さんの営業活動の演習問題に 「資本の流れ図j を使ってこたえる準備ができた. ①から⑬までの取引を「経営資源の流れ図J で表 わすのは省略させていただく.もし描いたとする と,当期で完結しない取引が,図 1 の左側にある ように,市場の記号@の片側だけに実線の矢印で 記される図になる. 図 3 にこの例題での諸取引を扱う資本の流れの 構造が描かれている.一般にはつの営業活動 での一連の取引をいかなる資本の流れの構造で表1
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0
(58) 1M'入金 買掛金 資本金 前受金 収 益 '{'( 用 図 2 資本の流れの基本構造 E オベレーションズ・リサーチ © 日本オペレーションズ・リサーチ学会. 無断複写・複製・転載を禁ず.〔単位:万円〕 。 借入金 1000 資本金 ③ 150
買やコ二|二
( 3000 ( 300 ① 3000 ② 400 3000 ② 1600 1000 ( 1512 ( 300 ( 300 ト繰越 │ 利益 前受金 190 収益 7525 。 税金 1512 。/ 支払 利子 300 売上 原価 3901 期間 費用 300 図 3 資本の流れ図 わすかを決めることが大切になる.すなわち, 勘定科目(出入口とストック)の体系を決めるこ とである.次に大切なのは,個々の取引の事実が 流れの構造上でどの位置の矢印に該当するかを判 断すること(取引の仕分けをすること)である. 経営資源の流れの構造が把握できていると,これ 1987 年 3 月号 らを容易に決めたり判断するのを助けることにな る. 図 3 の資本の流れ図には,前述の 6 つのタイプ の新たな勘定科目(出入口とストック)が加わっ ている.さらに,支払利子の出口と税金の出口も 付け加えてあることに注意されたい.この 2 つの (59)1
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© 日本オペレーションズ・リサーチ学会. 無断複写・複製・転載を禁ず.貸借対照表 昭和 X 年 X 月×日 (単位:万円) m益計算書