幼児の「心の理論」の発達に関する研究 —絵本の読み聞かせ場面における対話の効果—

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− 117 − 幼児の「心の理論jの発達に関する研究 一総本の読み聞かせ場面における対話の効果一 人間教育専攻 臨床心理士養成コース 鈴木起代子 1. 研究の背景と目的 1970年代から都市化,核家族化傾向の中 で少子化が進み,地域共同体による子育て 機能は低下した。そしてテレビ・ゲーム・ インターネットなどの普及による機械相手 の1人遊びが増加し,インターネット上の トラブノレ・いじめも起きている。牧野(2005) は子どもが地域の中で、育つこと,地域の人 が子育てを手伝うことの大切さを述べるが, 現実には地域社会から両親と子どもが孤立 することが多く,その中で子どもの虐待な どの問題が起きていると述べている。この ような現状の中で人との関わりが希薄にな り,コミュニケーション能力の弱し、子ども が多くなっていると考えられる。 生田ら(2013)は,絵本の読み合い・読み 聞かせの体験は間接的な生きることのトレ ーニングであり,子どもの言語力,想像力, 情緒的発達を促すことにつながると述べて いる。読み聞かせの体験の中で子どもは主 人公に感情移入して物語を楽しみ,優しさ や思いやりなどの情緒を育んでいるのであ る。絵本を読むという事は一種の疑似体験 をするということであり,他者と一体にな ることで共感的,自己投影的に他者の心の 理解を促進すると考えられる。子安(2016) は幼児の「心の理論」の発達に最も重要な の は 物 語J(お話,絵本,小説, ドラマ, 映画など)を通じて多様な人間関係のあり 指導教員 中津郁子 方を教えることであり,子どもが小さい時 は,絵本の読み聞かせのような相互的な活 動 が 大 切 で あ る と 述 べ る 。 ま た 佐 藤 ら (2016)は乳幼児期からの家庭での絵本遊び が,幼児期における「心の理論」の発達を 促進させる可能性があることを報告してい る。絵本という子どもにとって身近な環境 が,子ども達の実体験を補し、他者への理解 を深めるために,保育,教育の現場で有効 活用されることが期待される。しかし,現 在読み聞かせの方法としては,子どもが絵 本の世界観を十分に味わうために,絵本の 文章以外のことは付け加えず,お話の後に も何も付け加えない方が良し¥(梅本, 1997) というものが主流となっている。 本研究では幼稚園での絵本の読み聞かせ 場面で,教諭が子ども達と登場人物の心情 などについて対話をすることで,子ども達 の「心の理論」の発達が促進されるかを検 討する。

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研究の対象と方法 (1)調査対象者 5歳児・ 4歳児・ 3歳児, 各2クラス,計 96名の幼児と担任 6名 (2)調査期間 :4月中旬""'7月中旬 (3)調査道具:①Pre.Postテストとして「誤 信念課題J(小池敏英監修・藤野博著.アニ メーション版「心の理論課題」ボールのも んだい, DIK教育出版)②ノートパソコン

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− 118 − ③インタビューガイド, ICレコーダー (4)手続き:各学年 1クラスを実験群,もう 1クラスを統制群とする。実験群は日々の 読み聞かせの場面で登場人物の心情などに ついて対話を行い,統制群は読み聞かせの 場面で対話をしないものとする。実験の前 後に 1人ずつ全員「誤信念課題Jを行う。 その際,子ども達が安心できるように「ク イズをしようね」などと誘い,別室で行う。 実験後教諭にインタビューを行う。 3.結果 (1)

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誤信念課題」の結果 Preテストと Postテストの結果を統計解析した結果, 3 歳児では読み聞かせ場面における対話の効 果がみられたが, 4・5歳児では効果はみら れなかった。

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インタビューの結果:実験群では読み聞 かせ場面での子ども達の発言が増加し,登 場人物の表情や気持ちを考える言葉の増加 がみられた。生活場面でも教諭と子ども達 が他者の気持ちに言及する場面が増加した。 また教諭は,対話を通して子ども達の心の 成長や自身の保育,絵本の活用の仕方につ いて考えることが増加した。統制群では読 み聞かせ場面での発言がほぼ無くなり,教 諭は子ども達が集中して聴き,お話の世界 のイメージを膨らませていると感じていた。

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考察 3歳児では読み聞かせ場面の対話による 「心の理論」の発達促進の効果が認められ た。このことから「心の理論jは,その獲 得時期である 4"-'5歳よりも前の年齢から の周囲の対応により,発達が促進される可 能性があると言えるのではないだろうか。 4 歳児で効果がみられなかったのは,インタ ビューから窺われたが実験群の教諭に他者 の気持ちに関することに苦手意識があり, 実験に対するストレスを感じさせてしまっ たことが結果に影響した可能性も考えられ る。 5歳児ではPreテストですでに 70%の 子ども達が「誤信念課題jを通過していた ためにその効果が検出できなかった可能性 があると言えるのではないだろうか。 読み聞かせ場面で「対話をする」ことは 他者の気落ちを理解して人と関わる力の成 長を育み対話をしなし、」ことは内的世界 でイメージを膨らませて豊かな情緒を育む ことであり,そのどちらもが子ども達の心 の成長にとって必要であると思われる。ま た教諭も対話を通して子ども達の心の成長 への理解が深まり,心の成長を促す言葉が けや援助が増加しており,絵本に対する考 えも深まっている。読み聞かせ場面で登場 人物の心情などについて対話をするという ことは,保育場面全体に影響を与え,幼児 の心の成長を促進する可能性があるといえ るのではないだろうか。

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今後の課題 本研究は「一次の心の理論jに焦点を当 てて行ったが, 5歳児では「二次の心の理 論Jを検出できる「誤信念課題Jを重ねて 行うと研究が深まったかもしれない。また, 幼児はその時の心身の状態に検査結果が左 右されることがあると思われるので複数の 検査を実施することも必要であるかもしれ ない。そして,絵本の選定や読み聞かせの 方法についても研究をしていく必要がある と思われる。

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