数学指導における「逆課題」の利用
高 澤 茂 樹
* アブストラクト邦訳 本稿で取り上げた逆課題は、算数・数学の学習における「逆に考える」活動を整理・統合したも のである。このような活動は、子どもの思考の可逆性を生み出し、彼らの解析的思考を促進すると 考えられる。本稿では、逆課題の定義やその教育的価値を指摘するとともに、逆課題を 3 つのタイ プに分類・整理することによって、これまで様々な形で研究されてきた内容を逆課題の研究として 統合的に考察することが目的である。 まず、逆課題を「可逆的な思考機能による解析的な推論方法をもとに、結論から仮定への後ろ向 きの推論をしたり、問題解決の計画の考察をしたりして、数学的概念・手続きの理解の促進や問題 解決の力の向上を生み出す課題」と定義するとともに、その教育的価値を整理・検討した。次に、 逆課題を「数学の内容としての逆課題」「数学の方法としての逆課題」「問題解決における逆課題」 の 3 つのタイプに分類・整理した。そうすることによって、問題設定や式をよむ活動など、これま で全く異なる研究として行われていた課題を、逆課題の研究として統合的に捉えることができるよ うになった。その上で、小学校算数科と中学校数学科の教科書分析を実施し、小学校算数より中学 校数学の方に逆課題が量的に多いとともに、質的にも多様化していることを指摘した。最後に、実 際の授業において、逆課題をどのように取り扱えばよいかについて検討し、順課題と逆課題のセッ ト化を提案した。Utilization of Reverse Task in Mathematics Instruction
Shigeki TAKAZAWA
キーワード:思考の可逆性、解析的思考、逆課題、問題づくり、式をよむ活動 1.はじめに 東日本大震災に伴い起こった福島原発事故の本当の原因を究明することや、マラソンの川内選手が オリンピック強化選手でもないのに大会で優勝できた理由を考えることなどは、原発事故の発生及び マラソン大会の優勝という結果から、それらの原因や要因を推論することである。つまり、その推論 は起こった結果からその原因を考えることであり、それは時間及び空間の制約を排除し逆向きに考え ることであると言える。このような逆向きの思考は、私たちの日常生活においてよく使われる思考方 法である。また、これと同じようなことが、子どもたちのエラーをもとにした教材の開発を考えてい たときに起こるように思われる。つまり、算数・数学の学習や問題解決の結果として生まれるエラー からそのエラーの発生原因へと時間を って検討するときに逆向きに考えるのである。このように算 数・数学の学習に限らず、日常の様々な場面で我々は逆向きに思考することを必要とするのである。 ここで筆者が以前参観した小学校 1 年の算数科の授業を紹介する。その授業での課題は、「答えが 8 になる式をつくろう」というものであった。ただし、「3 口の数の加減であること」「10 を超えないこ と(繰り下がり、繰り上がりは不可)」が条件である。授業では、子どもたちの身近な電車の 3 つの駅 * 滋賀大学教育学部での乗り降りの場面での各駅の乗降の人数をもとに、子どもたちは次のような式をつくった。 3 + 1 + 4 1 + 5 + 2 3 + 3 + 2 6 + 1 + 1 2 + 4 + 2 4 − 2 + 6 10 − 3 + 1 10 − 5 + 3 8 − 2 + 2 5 + 4 − 1 7 + 7 − 6 15 − 3 − 4 (10 を超えないという条件に反する) 0 + 5 + 3 2 + 0 + 6 3 + 5 + 0 7 − 0 + 1 2 + 2 + 2 + 2 1 + 2 + 3 + 1 (3 口の数の計算という条件に反する) このような式がみんなの前で紹介されたが、その中で「同じ数だけど、順番が違うのをつくったよ」 「並べ方が違っても答えは同じだよ」といったつぶやきもあった。このつぶやきは、同じ 3 つの数を 使いながらもその使う順序が異なることを指摘したものであった。例えば、「1 + 5 + 2」という式を 「5 + 2 + 1」や「5 + 1 + 2」のように、同じ 3 つの数を用いながらもその順序が異なることと同時 に、どの式でも答えは同じになることも指摘している。しかし、考えてみると、「10 − 3 + 1」のよう な場合、数の順を変えて「1 − 3 + 10」とすると、小学校 1 年生には計算をすることができなくなる。 この授業では、答えである数値が先に示され、それに至る場面を式という形で答える展開になっ ている。一般的には、式から答えを求めることが問われるところ、逆に答えの数値から式を求めるこ とを要求しているのである。本稿では、このような時間的・空間的な流れを ることを要求する課題 を数学教育における逆課題として定義づけ、それがどのような教育的価値をもつのかを明らかにした い。また、逆課題が、現在使用されている教科書の中や教育実践の中に既に導入されていることを指 摘するとともに、より積極的に逆課題を授業に導入する方法について考えたい。そうすることによっ て、これまで算数・数学教育の研究・実践において様々な形で行われていた逆課題に関わる実践や研 究を統合的に考察できるようになると思われる。 2.順課題と逆課題 本節では、一般に逆向きに考えることを取り上げながら、それが子どもの思考において、どのよう な意味を持つのかを考えた上で、算数・数学教育において逆向きに考えることを促す課題を逆課題と 位置づけ、その教育的な価値について検討する。 (1)思考の可逆性 まず、子どもの思考において、一般に逆向きに考えることをどう捉えるかについて検討する。ピア ジェ(J.Piaget)は、子どもの思考の特徴として可逆性を挙げている。例えば、《加法に対して減法を、 乗法に対して除法を施す場合のように、ある操作に対して逆の操作を行って、もとに戻すことができ ることを、可逆性と呼ぶ。》[1,p.86]つまり、ある操作を行う場合、人はその逆の操作も同時考える という特徴があるのである。これは人の思考は時間的・空間的に制約されないということである。《思 考面では、「群性体」と呼ばれる構造が成立する具体的操作の時期から可逆性が働きはじめることとな る。このとき、A と A とで B を合成しても、B から A を除くと元の A に戻ることを、思考の中でつ かむことができるのである。》[1,p.86]したがって、「逆を考える」という思考は、人にとってある時 期になると自然に機能するようになるものなのである。この人の思考の可逆性によって、「操作の可逆 性」「概念の可逆性」が生まれることになる。 (2)学校数学における逆 学校数学で逆と言えば、「逆演算」「逆関数」「逆命題」「逆元」「逆数」など様々な数学用語を思い起 こす。逆演算とは「a,b があたえられて、a・x=b を満たす x の値がただ 1 通り存在するとき、この x の値を求める操作を演算・の逆演算という」、また、逆数とは「5/6 と 6/5、1/4 と 4 のように、2 つの 数の積が 1 になるとき、一方の数をもう一方の逆数といいます。」と定義される。学校数学において、 初めて「逆」を取り扱うのは、小学校 6 年の逆数であり、その後中学校 2 年で逆命題を学ぶことにな る。例えば、△ ABC において、「①仮定 AB=AC ⇒ 結論∠ B= ∠ C、②仮定∠ B= ∠ C ⇒ 結論
AB=AC」というように、仮定と結論が入れ替わっている 2 つの事柄があるとき、一方を他方の逆と いう。つまり上の②は①の逆で、①は②の逆である。この場合のように逆命題が真である場合と偽で ある場合がある。中学校数学では、その後 3 年で「円周角の定理」や「三平方の定理」において逆命 題を取り扱う。このようにみると、逆に関わる内容を小学校算数ではほとんど取り扱われないが、中 学校数学になると急激に増加するように思われる。これは、子どもの思考の発達段階に関わることで あると思われる。 (3)応用数学での逆問題 応用数学の一分野では、順問題の対としての逆問題というものを考える。《逆問題とは、端的には、 結果から原因を推定する問題のことである。・・・例えば、静かな水面に石を投げいれるとき、その石 の質量や形状や速度の情報から水面に生じる波紋の様子を予測するのは順問題であり、逆に、水面に 生じた波紋のデータから、投げ入れた石の質量や形状や速度を割り出す問題は逆問題である。》[2,p. 137]つまり、原因から結果を求める問題が順問題で、その逆の結果から原因を求める問題を逆問題と いう。《通常、逆問題は適切でないことが多い。つまり、勝手にデータを与えても、それに適合する解 がなかったり(解の非存在)、たとえ解が存在する場合でも、結果がデータの誤差に大きく依存する こと(データに対する連続依存性の欠如)が多い。そのため、考える解のクラスをあらかじめ制限す るなどして、問題を適切なものに置き換えることが、逆問題を研究する上で重要なポイントとなる。》 [2.p.137]このように応用数学での逆問題は、かなり制限された特殊な状況で議論されるように思わ れる。本稿では、算数・数学の学びでの子どもたちの思考といったより広範な実践及び研究を射程に 入れるので、応用数学での逆問題ではなく、それとは別に概念規定した研究課題を設定すべきである と考える。 (4)推論の方法としての解析 紀元 3 世紀のギリシャの数学者パッポスは、問題研究の 2 つの方法を次のように記している。《『解 析』とは、証明されるべきこと、または解決されるべき事柄を一応それが解決できたようにみなし、 それを出発点として順を追って、推論をすすめ、真である事と認められた事柄に到達することであ る。・・・(中略)・・・『総合』とは、反対の手続きであって、解析において到達したところから出発 し、前に前提であったものを結論とする自然の順の推論の連鎖によって事柄を一つ一つ連結してつい に求めているものの構成にまで到達する。》[3,p.90]一般に、仮定から結論を導くプロセスを総合、 結論から仮定を導くプロセスを解析と捉え、次のように記号化できる。 総合:A → P1 → P2 →・・・Pn → B(A:仮定、B:結論) 解析:B → Pn →・・・P2 → P1 → A(A:仮定、B:結論) このように記号化してみると、総合は前向きの推論であり、解析は後ろ向きの推論であることが分 かる。つまり、総合は、「それからどんなことが言えるか」という問いが推論の原動力になるが、解析 は、「そのことが言えるには何が言えればよいのか」という問いを原動力にする。 片野は、解析は発見の方法であり、総合は証明の方法であるという。総合は「公理をもとに定理を 証明する」という数学の研究方法としては典型的なものであり、学校では総合的方法は教えられるが、 解析的方法はほとんど教えられていない。[4,p.130]また、ポリアは《解析は計画を考察することで あり、総合は計画を実行することである。》[5,p.168]と述べ、一般的に、学校では「計画の実行」を 強調し、「計画の考察」については不十分であることを指摘している。また、小林は解析の機能とし て、①解を発見する機能、②解をとり漏らさない機能、③別解を与える機能、④必要性・十分性を確 かめる機能の 4 つがあるとしている。[13、 14] このように先行研究をみてくると、推論の方法としての解析は、これまで学校数学であまり積極的 に取り扱われてこなかったように思われる。また、数学的概念としての逆と問題解決としての逆は、 一見すると異なるように見えるが、人間が思考の可逆性によって新たな概念や認識を得るという点で はどちらも共通の推論がなされると考えられる。
(5)逆課題の重要性 この可逆性を人の思考の特徴と捉え、我々の概念形成や問題解決において欠くことができないもの と考える。思考の可逆性を機能させることによって、解析という推論の方法を生み出し、解析的思考 を積極的に用いることが、人の認識を深化・発展させると考えられる。また、この解析という推論の 方法は、その逆の総合という推論の方法があってこそ、その重要性を増すと思われる。つまり、人の 思考を深化・発展させるためには、時間や空間を超越した「総合と解析」「前向きの推論と後ろ向きの 推論」「計画の実行と計画の考察」の両面から思考することを必要とするのである。 また、順課題と逆課題を対で考えるとき、順課題が原因から結果へと考えることであるとすれば、 逆課題は結果から原因を考えることになり、順課題が仮定から結論へと考えることであるとすれば、 逆課題は結論から仮定へと考えることになる。このような因果関係だけでなく、相関関係まで射程に 入れて順課題をより広く入力から出力へと考えることであるとすれば、逆課題を出力から入力へと考 えることと捉えることができ、より広い相関関係をも包括できるように思われる。例えば、ある問題 からその解への方向に向かう課題を順課題と捉えると、そのプロセスを逆にたどる解から問題へ る 課題は逆課題となるのではないかと考える。このような問題解決を手順通りに進める課題を順課題と 置くと、その逆の時間の流れに逆行する問題が逆課題となる。例えば、順課題に問題から解答という 方向性をもつ問題を含めると、逆課題に解答から問題へと時間を る課題を含めることにする。 本稿では、このように逆問題より広い意味を込めた逆課題を「可逆的な思考機能による解析的な推 論方法をもとに、結論から仮定への後ろ向きの推論をしたり、問題解決の計画の考察をしたりして、数 学的概念・手続きの理解の促進や問題解決の力の向上を生み出す課題」と定義することにする。ただ し、応用数学のように逆問題とせず本稿では逆課題とする理由は、問題解決における逆思考的な課題 をも取り込み、逆問題よりも広範囲の課題を包含したいためである。つまり、「結論から仮定へ」「結 果から原因へ」「結論から条件へ」といった解析的思考と「答えから問題場面へ」「式から問題場面へ」 といった問題解決の計画の考察の 2 つの逆向きの思考を包含するために既にある逆問題という用語で はなく逆課題という新しい造語を用いることとした。 このような逆課題が最近の教科書に様々な形で掲載されることが増えてきたように思われる。典型 的な逆課題は、方程式や証明の方針を立てる場面に見られるが、それ以外にも「問題づくり」や「式 をよむ活動」なども逆課題と考えられる。次節では、様々な逆課題の具体例を挙げながら、逆課題を 3 つのタイプに分類・整理することにする。 3.逆課題の 3 つのタイプ 前節で逆課題を暫定的に定義し、その数学指導上の価値を明らかにしたことを受けて、本節では、 算数・数学の具体的な逆課題を分析・検討することを通して、数学教育における逆課題を「数学の内 容としての逆課題」「数学の方法としての逆課題」「問題解決における逆課題」の 3 つに分類・整理す ることを提案する。 (1)数学の内容及び方法としての逆課題 方程式や論証の課題は、典型的な逆課題である。例えば、方程式を解くときに、解を x と仮定し逆 向きに推論することによって方程式を立てる。その意味で、この方程式を立てることを数学の内容と しての逆課題と分類することにする。また、図形の証明問題で証明の方針を立てるとき、逆向きの推 論を用いる。これは、先程の方程式を立てる場面とは異なり、数学の方法としての逆課題と分類する ことにする。これらの分類は《解析は、代数については、未知数 x とおいて方程式を作ることにより 問題を解決する場面に典型的に見られ、様々な問題解決に大きな援助を与えている。図形の論証問題 においても、この解析的思考を大いに活用し、総合的思考と関連づけながら論証を構成することが大 切である。この場合、解析にしろ総合にしろ、見通しをもって思考をすすめることが重要である。「結
論が得られるためには何が言えればよいのか」と思考を進めるとき、仮定が何であったかを十分に意 識しておくことが重要である。》[3,pp.90-91]という記述からも分かる。 ここで、図形の論証に解析的思考を活用する例を挙げてみる。図形の証明プロセスを考えるとき に、結論から順に仮定まで後ろ向きに考えながら証明の方針を立てる。例えば、「平行四辺形 ABCD で、対角線の交点 O を通る直線 L をひき、その直線 L と辺 AB、辺 DC との交点をそれぞれ P、Q と する。このとき、OP=OQ であることを証明しなさい。」という問題である。証明する際、OP=OQ と いう結論から仮定へ次のように逆に考え、証明の方針を立てることは有効である。証明の方針は、「ま ず、OP=OQ を証明するためには、△ AOP ≡△ COQ を示せばよい。次に、△ AOP と△ COQ の辺 や角について、等しいことが分かるものを探せばよい。平行四辺形 ABCD の性質から、OA=OC や∠ PAO= ∠ QCO が分かるし、角の性質から、∠ POA =∠ QOC も分かっている。したがって、△ AOP ≡△ COQ が示せそうだ。」といったものになる。この問題自体は、仮定から結論を得る総合的思考を 要する課題であるが、その解決の手掛かりを得るために証明の方針を立てるときに解析的思考を用い るのである。このように、数学の内容や方法に逆課題的な発想が内在している場合、解析的思考は自 然と活用されることになる。 また、ある命題を証明した後に、その命題の逆命題を証明する場合、その証明活動は逆課題となる。 つまり、「円周角の定理」や「三平方の定理」の証明後、それらの逆命題を証明するという課題は数学 の内容としての逆課題としてここでは取り扱うことにする。 (2)問題解決における逆課題 飯田は《問題設定とは、問題解決を広義に捉えた場合に、与えられた問題を解くこととは別に、学 習者自身が問題をつくることを意味している。場合に応じて、「作問」とか「問題づくり」、「問題から 問題へ」などとも呼ばれることがある。》[6.p.162]とし、問題設定には①現実からの問題設定、② 条件からの問題設定、③問題からの問題設定の 3 つのタイプがあるという。特に、「条件からの問題設 定」は、5+3 といった式を条件として与え問題づくりをさせるため、問題から式でなく式から問題を つくるという意味で典型的な逆課題であるといえる。 また、式をよむ活動も典型的な逆課題である。例えば、次の問題は㋐から㋓の式を示した上で、そ れらの式が表現する図的操作を下のアレー図をもとに指摘させる課題である。 《次の 4 とおりの計算は、どれも下の図の全部の玉の数を求める計算です。それぞれどんな考え方 か、図をかいて説明しましょう。 ㋐ 4 × 3 + 4 × 5 ○○○●●●●● ㋑ 4 ×(3 + 5) ○○○●●●●● ㋒ 3 × 4 + 5 × 4 ○○○●●●●● ㋓(3 + 5)× 4 ○○○●●●●● 》[7.4 年下 p.37] この課題は、最初に式を示し、その式が示す操作(考え方)をアレー図で説明させるものであり、本 来ならば図的操作をもとに考えを式化するところを逆に式から図的操作を導く逆課題となっている。 上記のような式からそれを示す場面や図的操作を指摘する課題が逆課題であるならば、本稿の「はじ めに」で示した「答えが 8 になる式をつくる課題」(小 1)も逆課題と考えられる。 (3)逆課題の分類 小林[13,14]は、解析の方向性に着目し、解析を演繹型(結論→仮定)、還元型(結論←仮定)、配 置型(方向無)の 3 つに分類している。しかし、本稿での逆課題の場合は、解析の意味を拡張し捉え ているため、逆課題を表 1 のように「数学の内容に内在する逆課題(数学の内容としての逆課題)」、 「数学の考え方に内在する逆課題(数学の方法としての逆課題)」、「問題解決のプロセスを る逆課題 (問題解決における逆課題)」の 3 つに大別することにする。
上記の表 1 に分類・整理された 3 つのタイプの逆課題は、これまで教科内容に応じて別々に考察さ れ、「問題づくり」や「式をよむ活動」などとして研究されてきたが、今後はこれらを算数・数学教育 における逆課題の研究として統合的に捉え研究することができる。 また、現実の世界に起きる社会的な事象を数学の世界に翻案し、数学的解決を図った後で、その結 果を現実の世界へ戻して解釈していく力を総合的に数学的リテラシーと呼ぶとともに、その一連の過 程を数学化サイクルという。[15,p.108]この問題解決過程での数学化サイクルを考えるとき、表 1 の C「問題解決における逆課題」を、数学化サイクルの逆回転サイクルから生まれる逆課題であるとい うことができる。例えば、数学的解答を示し、それに合った数学的問題を考え作成することがそれに あたる。また、1 つの数学的問題をもとに、多様な現実の世界の問題を考えることも同じく逆課題で あり、これは応用数学の世界でいうところの逆問題でもある。その他、実際に逆課題となり得るもの は、㋐数値から式への逆課題、㋑図から式への逆課題、㋒グラフ・表から式への逆課題、㋓式から問 題への逆課題、㋔図から問題への逆課題、㋕グラフ・表から問題への逆課題など、多様な表現の変換 を伴う課題が考えられる。 4.教科書の中の逆課題 本節では、小学校算数科と中学校数学科の教科書に実際に掲載されている逆課題を調べ、教科書の 中の逆課題の実態や算数教科書と数学教科書の逆課題の違いについて考察する。ただし、「数学の内容 としての逆課題」は、実際は○○方程式や○○定理の逆といった単元名等、「数学の方法としての逆課 題」は○○の証明といった単元名等から推察することができる。したがって、ここでは「問題解決に おける逆課題」を中心に取り上げることにする。便宜上、例えば「式から問題への逆課題」「式から場 面・考え方への逆課題」「数値から式への逆課題」などといった項目ごとに分類することにする。 ㏫ㄢ㢟ࡢࢱࣉ ㏫ㄢ㢟ࡢලయ ㏫ㄢ㢟࡛࠶ࡿ⌮⏤ A.ᩘᏛࡢෆᐜࡋ࡚ࡢ ㏫ㄢ㢟 A-1 ᪉⛬ᘧ A-1.1 ୍ḟ᪉⛬ᘧ A-1.2 ḟ᪉⛬ᘧ ࡞ ᪉⛬ᘧࢆゎࡃࡁࠊゎࢆx ௬ ᐃࡋ㏫ྥࡁ᥎ㄽࡍࡿࡇࡼࡗ࡚ ᪉⛬ᘧࢆ❧࡚ࡿࠋࡇࡢ᪉⛬ᘧࢆ❧࡚ ࡿ࠸࠺⾜Ⅽࡀ㏫ㄢ㢟࡛࠶ࡿࠋ A-2 ㏫㢟ࡢド᫂ A-2.1 ࿘ゅࡢᐃ⌮ࡢ㏫ A-2.2 ୕ᖹ᪉ࡢᐃ⌮ࡢ㏫ ࠶ࡿ㢟ࡀ⮬࡛᫂࠶ࡿሙྜࠊࡑ ࡢ㏫㢟ࢆド᫂ࡍࡿㄢ㢟ࡣ㏫ㄢ㢟࡛ ࠶ࡿࠋ B.ᩘᏛࡢ᪉ἲࡋ࡚ࡢ ㏫ㄢ㢟 B-1 ㄽド B-1 ᩥᏐᘧࡢド᫂ B-2 ᅗᙧࡢド᫂ ᅗᙧࡢド᫂ၥ㢟࡛ド᫂ࡢ᪉㔪ࢆ❧ ࡚ࡿࡁࠊ⤖ㄽࡽ㏫ྥࡁࡢ᥎ㄽࢆ ⏝࠸ࡿࠋࡇࡢド᫂ࡢ᪉㔪ࢆ❧࡚ࡿ⾜ Ⅽࡀ㏫ㄢ㢟࡛࠶ࡿࠋ C.ၥ㢟ゎỴ࠾ࡅࡿ ㏫ㄢ㢟 C-1:ၥ㢟࡙ࡃࡾㄢ㢟 C-1.1 ሙ㠃ࡽࡢၥ㢟࡙ࡃࡾ C-1.2 ᮲௳ࡽࡢၥ㢟࡙ࡃࡾ C-1.3 ၥ㢟ࡽࡢၥ㢟࡙ࡃࡾ ၥ㢟ゎỴࡢሙ㠃࠾࠸࡚ࠊᘧ࡞ ࡛ఱࡽࡢ᮲௳ࢆ࠼࡚ࠊࡑࢀ㐺 ྜࡍࡿၥ㢟ࢆࡘࡃࡿ࠸࠺⾜Ⅽࡣ㏫ ㄢ㢟࡛࠶ࡿࠋ C-2 ⾲⌧ࢆࡼࡴㄢ㢟 C-2.1 ᘧࢆࡼࡴㄢ㢟 C-2.2 ࢢࣛࣇࢆࡼࡴㄢ㢟 C-2.3 ᅗࢆࡼࡴㄢ㢟 ၥ㢟ゎỴ࠾࠸࡚ࠊᘧࠊࢢࣛࣇࠊ ᅗ➼ࡀ⾲⌧ࡍࡿࡶࡢࢆㄞࡳࡿࡇ ࡼࡗ࡚㛫ࡸ✵㛫ࢆ㐳ࡿ⾜Ⅽࡣ㏫ ㄢ㢟࡛࠶ࡿࠋ 表 1 逆課題の 3 つのタイプ
(1)小学校算数の逆課題 まず、小学校算数の教科書に掲載されている「逆課題」を例示することにする。「数値から式への逆 課題」としては、「答えが 50 になる式を 3 つ作りましょう。□+□= 50」[7,2 年上 p.21 ]、「答えが 10.9 になる引き算を作りましょう。」[8,3 年下 p.46 ]などがある。これらは典型的な問題解決におけ る逆課題である。このような逆課題は、□ + □= 1000、□−□= 28 といった形式で出題され、解答 が一意的に決まらず多様化するという特徴がある。 また、「式から問題への逆課題」は、「3 + 5 = 8 のしきになるおはなしをつくりましょう。」[9,1 年 p.38]、「55 + 29 のしきになるもんだいをつくりましょう。」[9,2 年上 p.24]、「9 のだんの九九をつか うもんだいをつくりましょう。」[9,2 年下 p.28]、「18 ÷ 6 の式になる問題をつくりましょう。」[9,3 年上 p.56]といったものである。これらの逆課題は、条件を式などで与えた問題づくりである。 その他にも、「式から考え方への逆課題」として、「そうたさんは、32/5 − 14/5 の計算を右のよう にしました。そうたさんが、どのように計算したか説明しましょう。32/5 − 14/5 = 27/5 − 14/5 = 13/5」[9,4 年下 p.70]といったものや、「次の①から③の式で表される場面を、㋐から㋒の中から選 びましょう。式:① 25 + x = y ② 25 − x = y ③ 25 × x = y、㋐ 25 mのリボンからxm切り取る と、残りはymです。㋑あめが 25 個はいったふくろが x 個あります。あめは全部でy個あります。㋒ 子どもが 25 人、おとながx人います。全部で y 人います。」[9,6 年上 p.89]といったものもある。 上記の問題は、小学校算数の教科書に掲載されている逆課題の一部であるが、その大部分は式で条 件を示しそれに合う問題づくりをさせたり、式を与えてそれが表す場面・考え方を読み解かせる問題 である。前者は「条件からの問題づくり」、後者は「式をよむ活動」である。特に、上記の 4 年の「そ うたくんの問題」のようなことは授業中に頻繁に起こる場面であり、子どもの説明する力を育むため に有効であるように思われる。 (2)中学校数学の逆課題 次に、中学校数学の教科書に掲載されている「逆課題」を例示することにする。「数値から場面へ の逆課題」として、「身のまわりから、確率が 1/4 になるような場面をいろいろさがしてみましょう。」 [10,2 年「確率」p.193]といったものがある。また、「式から問題への逆課題」として、「関係を式で 表すと、x+2y=10 になるような問題をつくってみよう。次に、その問題に条件を加えて、連立方程 式になるような問題をつくってみよう。」[10,2 年 p.63]や、「方程式が 50x+270 = 470 になる問題 をつくってみましょう。」[11,1 年 p.114]といったものがある。 次に、「数値から式への逆課題」として、「解が次の(1)∼(3)のような数になる 2 次方程式を、 それぞれ 1 つずつつくりなさい。(1)2、− 1 (2)±√ 3 (3)− 5」[10,3 年 p.100]といったもの があり、「数値から数への逆課題」には、「素因数分解すると、少なくとも 2 と 5 が素因数になる自然 数を 2 つ書きなさい。」[11,3 年 p.41]というものがある。 このように、逆課題と一口に言っても、様々なタイプがあるが、特に「数値から式への逆課題」は 他の教科書にも、「整数どうしの差が次の数になる減法の式をつくりなさい。(1)− 3、(2)+ 5」[11, 1 年 p.26]、「xについての 2 次方程式で、解が 3 と− 2 である方程式をつくりなさい。」[11,3 年 p. 88]といったものが掲載されている。このように中学校数学の教科書に掲載された逆課題は、小学校 算数のそれに比べて、問題の形態において多様化しているように思われる。特に、「数値から式への逆 課題」、つまり解答が数値で示された上で、その数値が解になるような方程式を考える問題が特徴的で ある。 (3)算数と数学の逆課題の比較 このように算数・数学科の教科書で取り扱われている逆課題を調べてみると、ある教科書[8,16] では、小学校算数での逆課題が 6 年間で 19 問、中学校数学での逆課題が 3 年間で 35 問あり、中学校 数学の方が小学校算数よりも逆課題が多く取り扱われていることが分かる。これは、数学の内容及び 方法としての逆課題が多くなることが原因であるが、それとともに問題解決のプロセスが多様化し式
やグラフをよむ活動が増え、数学を活用することが重視されていることと無関係でないように思われ る。つまり、小学校算数で取り扱われる逆課題は、ある式を示し、それに合う問題づくりをする課題 が中心であるが、中学校数学で取り扱われる逆課題は、「方程式や比例式を活用して解くことのできる 問題をつくってみましょう。」[16,1 年 p.110]や「相似な図形について学んだことを活用して問題を つくってみましょう。」[16,3 年 p.158]といった、かなり漠然とした問題づくりまでさせる。このよ うに教科書の中の逆課題は、小学校算数より中学校数学の方が量的に多くなっているとともに、その 問題の形態が多様化している。 このように小学校算数より中学校数学の方に逆課題が多くなることによって、思考の可逆性を機能 させる機会が増えることが予測される。このことによって、算数・数学教育でこれまで小中接続の問 題を「算術と代数」「帰納と演繹」「操作と構造」などの観点から検討されてきたが、今後は「総合と 解析」という観点も追加し検討していく必要性があるように思われる。 5.順課題と逆課題の展開 前節では、算数・数学科の教科書の中の逆課題を具体例として示しながら、小学校算数での逆課題 と中学校数学での逆課題を比較・検討した。本節では、実際の授業場面で、逆課題をどのように導入 するかについて考え、特に順課題と逆課題をセット化するという提案をしたい。 (1)順課題から逆課題へ このように教科書の逆課題は、最近増加傾向にあるが、それでも順課題の方が多いのは確かである。 しかし、数学の教科書に逆課題がないからといって、順課題ばかりを解決させるのではなく、教科書 の順課題の後に、発展課題として意図的に教科書にはない逆課題を用意することも子どもの思考の発 達という観点から重要であるように思われる。 例えば、中学 1 年の「文字式」の単元の課題として、「マッチ棒を並べて横一列に正方形をつくりま す。(4 番目までの正方形を図で示した上で)20 番目やn番目の正方形をつくるのに必要なマッチ棒の 本数を求めよ。」という順課題を解決したのちに、「n番目のマッチ棒の本数が 2 n+ 1 や 4 n+ 1 の 式であるとき、マッチ棒をどのように置けばよいかを考えてみよう。」といった逆課題を提示するの もいい。このように、式を見て図を描く作業は、ここでいう逆課題であり、式をも自分で考える作業 は、逆課題の問題づくりをすることになる。また、中学 2 年の「一次関数」の単元の課題として、最 初に「水道から入れる水の量が一定の割合であるとき、ある容器に貯まる水の水位をグラフに表す。」 という順課題を解決したのちに、逆に「(時間に伴う水位の変化を表したグラフを示した上で)グラフ から容器の形をそれぞれ予測する。」といった課題を提示することも考えられる。グラフから容器の形 を予測することは、ここでいう逆課題である。本来なら、形が分かっている容器に水を入れるときの 水位の変化をグラフに表現することが課題(順課題)になるが、ここでは時間と水位の関係のグラフ から容器の形状を考えるのが課題(逆課題)なのである。 当然ではあるが、順課題の解答は一意的であっても、逆課題の解答は一意的に定まらないことに注 意をする必要がある。数概念が有理数や実数まで拡張されることによっても、逆課題の解答が一意的 でなくなることがあるのである。例えば、□+□= 5 という式の□に入る数は数概念が拡張されるこ とによって多様化するし、先ほどのマッチ棒を並べる課題や容器に水をためる課題の解は決して一意 的に決まらない。 (2)順課題と逆課題のセット化 ここでは、授業の中で順課題と逆課題をセットにして展開することを考える。順課題と逆課題を セットにして授業で展開することは、順課題や逆課題を単独で実践するより、子どもたちの思考の可 逆性をより活発に機能させると思われる。まず、下のように授業を順課題から逆課題へと展開するこ とによって、問題解決と問題設定をセットにして取り扱うことができると思われる。例えば、図 1 の
ようにある問題を提示し、それを解決した後に、その解決に使用した式あるいは解を条件に、新たな 問題を設定する。 また、図 2 の場合の展開を考えてみよう。ここで先日筆者が参観した中学校 3 年の「y= ax2 の関 数」の授業を紹介する。授業のテーマは『封筒の中の(厚紙の)形を考えよう』という封筒に入れた 厚紙を出すという操作によって生じる現象を扱ったものである。この授業では、「厚紙を移動させる時 に現れる関数関係を見出し、その特徴を説明することができる。」ことをねらった課題と、「面積の変 化の様子を表したグラフを数学的に解釈し、もととなる厚紙の形を予測することができる。」ことを ねらった最初の課題とは逆の課題を解決することが目的であった。具体的には、教師の日常の経験を 話しながら、まず、「封筒の端から台形のカードをxcm 引き出したとき、封筒から出ているカードの 面積をycm2 とする。xとyの変化の様子をグラフを使って説明しよう。」という課題に取り組む。そ の上で、「封筒の中から、ある形のカードを引き出した。右のグラフは、カードをxcm 引き出したと き、封筒から出てくるカードの面積をycm2 として表している。xとyの関係が、このグラフのよう に表されるカードの形をかいてみよう。」という、先の課題の逆に取り組む。前者の課題は、封筒から カードを出すという操作による面積の変化をグラフに表現するという時間の流れに沿った順課題であ り、後者の課題は、あるグラフから、封筒からカードを出す操作を逆に考え、カードの形を予測する 逆課題である。したがって、この授業は順課題から逆課題へと展開している。 э ᅗձ ᘧ э ࢢࣛࣇ э ᅗղ э ᅗճ э ၥ㢟ձ ၥ㢟 э ᘧ or ゎ э ၥ㢟ղ э ၥ㢟ճ 図 1 図 2 一方、次のように授業を逆課題から始め、その後順課題へと展開することも考えられる。例えば、 図 3 のように、まず式などで条件を提示しそれに合う問題場面を考えるという逆課題を考えた後、作 成した問題を解決するという順課題に取り組むのである。 また、図 4 のように、ある式を与えそれに合う図あるいは操作を考えるという式をよむ活動をした 後、他の図あるいは操作をもとにそれぞれが示す場面を式化する式表現する活動も考えられる。この ように授業を展開することよって、一つの式が様々な場面で問題解決に利用できることを知ることが できるとともに、それぞれの問題場面に合った式を考えることができるのである。 э ᘧձ ᘧ э ᅗ᧯స э ᘧղ э ᘧճ ၥ㢟ձ э ゎ ᘧ э ၥ㢟ղ э ゎ ၥ㢟ճ э ゎ 図 3 図 4 以前、朝日新聞朝刊の「花まる先生の公開授業」で、次のような小学校 3 年の算数の授業が公開さ れた。[17]その授業では、スクリーンに図 5 のようなドットが並んだ図形が映し出され、「ドットの 数を数えるのでなく、必ず式を使って求めて下さい。」と先生は子どもたちに問いかける。子どもたち はいろんな方法でドットの数を数え、それを 4 × 4+3 × 3 や 5 × 5 といった式に表現する。その後、 先生は「先生が考えて(い)たより、ようけ(=たくさん)出てきたね。今日は『この式どういう意
味なの?』という勉強をしたいと思います。」と課題を子どもたちが作った式をよむ課題に変える。こ の授業の前半では、図のドットの数の数え方を式で表現するという順課題をさせ、後半では、表現さ れた式からドットの図やその数え方を推測するという逆課題がなされた。このような授業が、ここで いう図操作から式への順課題と式から図的操作への逆課題をセットにして展開される授業の具体例で ある。もしこの授業前半の順課題が一部の子どもにしか解決できていない場合に、教師がは子どもた ちに解答のモデルを示すために『4 × 4+3 × 3 という式はどうい う意味なの?』と逆課題を提示したとしたら、展開は少し変わっ てくるように思われる。つまり、ある子どもの式から図的操作を 読みとり、図をどのように式化するかを示した後に、再度順課題 である図的操作から式への翻訳を各自で行うという展開も考えら れる。こうなれば、この授業は、最初に順課題から入り、その活 動が不十分だったので、考えることを明確にするために逆課題へ 進み、その後再度順課題へ戻って各自で考えるという展開になる。 このように教師の指導と評価を一体化する中で逆課題から順課題 へと展開することも考えられる。 6.おわりに 本稿で取り上げた逆課題は、算数・数学の学習における「逆に考える」活動を整理・統合したもの である。このような活動は、子どもの思考の可逆性を生み出し、彼らの解析的思考を促進すると考え られる。本稿では、逆課題の定義やその教育的価値を指摘するとともに、逆課題を 3 つのタイプに分 類・整理することによって、これまで様々な形で研究されてきた内容を逆課題の研究として統合的に 考察することが目的である。 まず、逆課題を「可逆的な思考機能による解析的な推論方法をもとに、結論から仮定への後ろ向き の推論をしたり、問題解決の計画の考察をしたりして、数学的概念・手続きの理解の促進や問題解決 の力の向上を生み出す課題」と定義するとともに、その教育的価値を整理・検討した。次に、逆課題 を「数学の内容としての逆課題」「数学の方法としての逆課題」「問題解決における逆課題」の 3 つの タイプに分類・整理した。そうすることによって、問題設定や式をよむ活動など、これまで全く異な る研究として行われていた課題を、逆課題の研究として統合的に捉えることができるようになった。 その上で、小学校算数科と中学校数学科の教科書分析を実施し、小学校算数より中学校数学の方に逆 課題が量的に多いとともに、質的にも多様化していることを指摘した。最後に、実際の授業において、 逆課題をどのように取り扱えばよいかについて検討し、順課題と逆課題のセット化を提案した。 今後は、逆課題の研究内容をより豊かにし、逆課題の研究を数学教育上の課題として位置づけると ともに、その研究を拡張することが課題である。また、逆課題は一般に解答やそれに至る考え方が多様 でオープンな課題が多いため、逆課題を導入することによって算数・数学の自由性を感得させること もでき、算数・数学の子どもたちの理解が促進されるように思われる。その上で、小学校算数と中学 校数学の接続の問題においても、これまで検討されてきた「算術から代数へ」「帰納から演繹へ」「操 作から構造へ」などの観点の変更に、もう一つ「総合から解析へ」の観点の変更も追加し検討すべき であるように思われる。 引用及び参考文献 [1] 小口忠彦(1983)『新学習心理学基本用語辞典』明治図書 [2] 青本和彦他編(2005)『岩波数学入門辞典』岩波書店 ۑ ۑ ۑ ۑ ۑ ۑ ۑ ۑ ۑ ۑ ۑ ۑ ۑ ۑ ۑ ۑ ۑ ۑ ۑ ۑ ۑ ۑ ۑ ۑ ۑ 図 5
[3] 数学教育研究会編(1993)『新数学教育の理論と実際(中学校)』聖文社 pp.89-92 [4] 片野善一郎(2003)『数学用語と記号ものがたり』裳華房 pp.129-134 [5] G. ポリア(1954)『いかにして問題をとくか』丸善出版 [6] 飯田慎司 (2009) 問題設定(Problem Posing) 中原忠男編 『算数・数学科重要用語 300 の基礎知識』明治図書 p.162 [7] 藤井斉亮他 (2011) 『新しい算数』東京書籍 [8] 一松信他 (2011) 『みんなとまなぶ小学校算数』学校図書 [9] 小山正孝他(2011)『小学校算数』日本文教出版 [10] 相馬一彦他(2012)数学の世界 大日本図書 [11] 澤田利夫他編 (2012) 『中学校数学』 教育出版 [12] 片桐重男(2004)『数学的な考え方の具体化と指導−算数・数学科の真の学力向上を目指して−』 明治図書 [13] 小林徹也 (2014) 結論が得られたとし仮定との関係を求める「解析」の方向と機能に関する検討 『日本数学 教育学会誌』 第 96 巻 第 5 号 pp.11-20 [14] 小林徹也 (2012) 数学教育における結論を仮定する意味での解析の解釈に関する一考察 『第 45 回数学教育 論文発表会論文集』pp.389-394 [15] 馬場卓也、清水浩士 (2010) 数学科の授業構成 岩崎秀樹編『新しい学びを拓く数学科授業の理論と実際』ミ ネルヴァ書房 pp.97-126 [16] 一松信他 (2012) 『中学校数学』学校図書 [17] 下村岳人 (2015) 見方変えれば「式」変身 『朝日新聞』 2015,6,7 朝刊 21 面 [18] 菊池兵一 (1995) 若干の一般的方略を総合する一視点としての「逆向きの考え」 日本数学教育学会編『数学学 習の理論化へむけて』 産業図書 pp.99-107