三者間における相殺の類型的検討 三者間相殺に関
するフランス民法との比較 (【退職記念号】 圓谷
勝男 教授 佐藤 清勝 教授 エルンスト・ロコバン
ト 教授)
著者名(日)
深川 裕佳
雑誌名
東洋法学
巻
52
号
2
ページ
21-53
発行年
2009-03-01
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00000672/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja︽論 説︾
三者間における相殺の類型的検討
三者間相殺に関するフランス民法との比較
殺の援用︵日本民法四五七条二項および同四三六条二項︶ 二三二二条および同一二九四条︶ 二項︶についての検討 ㈲ 通知を怠った保証人および連帯債務者の求償権の制限 B 抗弁存続型から外れる類型についての検討 A 指名債権の譲渡における債務者の抗弁︵日本民法四六八条 三 抗弁存続型 C 検討 B フランスにおける保証人による相殺の援用︵フランス民法 A 日本民法における保証人または連帯債務者の一人による相 二 援用者拡張型 一 問題の所在︵三者問相殺の類型化︶深
川
裕 佳
︵日本民法四六三条一項、同四四三条一項︶ ㈲ 債務者の意思に反して保証をした者の求償に対する主たる 債務者の相殺︵日本民法四六二条二項後段︶ 四 固有の三者間相殺型 A 日本民法における連帯債務者による相殺権の行使︵日本民 法四三六条一項︶ B フランス民法における保証人または連帯債務者による相殺 権の行使 C 検討 五 結論 参考︵フランス民法典一二〇八条、一二九四条、一二九五条、 二三〇八条、二三二二条︶ 21問題の所在︵三者問相殺の類型化︶ 本稿は、三者間相殺に関する統一的な要件と効果を理論的に明らかにするための基礎的研究として、民法におい て、﹁債務の消滅原因﹂として掲げられた相殺の規定とは別の箇所︵例えば、連帯債務および保証債務の箇所︶に、個 別的に定められた三者間相殺に関する規定について検討を行う。この際に、旧民法から現行民法に到るまでの立法 経緯を探り、さらに、旧民法に影響を与えたフランス民法における理論的発展を比較検討の対象とする。なお、以 下で単に﹁民法﹂という場合には、日本民法をさすこととする。また、これらの規定に関する立法の沿革およびフ ︵1︶ ランス民法における発展については、すでに詳細な検討がなされており、本稿では必要な範囲においてこれらに言 及する。 民法において、相殺は、二者間に債務の対立が存在する場合に、一方的意思表示によって債務を消滅させる原因 であることが一般に認められている。この対立性︵相互性︶は、民法の文言︵﹁二人が互いに﹂︵民法五〇五条︶︶か ら導かれるものであり、相殺の意思表示が効力を生じる要件の一つと考えられている。 ところが、民法は、三者のうちの一人が相殺の意思表示をなした場合に、三者に存在する二つの債務の消滅︵こ のように、三者のうちの一人の意思表示によって二つの債務が消滅する現象を﹁三者間相殺﹂という︶を認めているよう に見える条文を備えている。すなわち、債権者に対して債権を有する連帯債務者の一人による相殺︵民法四三六条 一項︶、連帯債務者の一人の負担部分について他の連帯債務者が行う相殺︵民法四三六条二項︶、通知を怠った連帯 債務者の求償に対する他の連帯債務者による相殺︵民法四四三条一項︶、主たる債権者の債権をもってする保証人に よる相殺︵民法四五七条二項︶、通知を怠った保証人の求償に対する主たる債務者による相殺︵民法四六一二条︶、債権 22
譲受人に対する債務者の相殺︵民法四六八条二項︶である。これらは、後述のように、学説において、債務の対立 性要件︵相互性要件︶の例外として位置づけられている。また、学説では言及されていないものの、主たる債務者 が保証人からの求償の日以前に相殺の原因を有していたことを主張するときは、主たる債務者の意思に反して保証 をした者は、債権者に対し、その相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる旨の規定 ︵民法四六二条二項後段︶も、民法四四三条一項と同様、三者間相殺が認められることを前提として規定されたもの のようにも見える。 近年の国際的モデル法においても、二者間での債務の対立︵相互性︶を相殺の要件としつつ、三者間相殺が明文 によって認められている。 まず、ユニドロワ国際商事契約原則︵二〇〇四︶︵O呂U力O目℃旨9一①の・口9①鴇駐8巴9日日R。巨08冨。寅以 下、﹁ユニドロワ原則﹂という︶では、﹁二人︵ヨ・冨旨Φω︶が互いに金銭その他の同種の履行を負担する﹂︵ユニドロ ︵2︶ ワ原則八・一条︶ことを相殺の要件としている。そして、ユニドロワ原則の解説によると、このように﹁債務をお 互いが負っていなければならないという要件は、相殺を主張する当事者が相手方に対して負っている債務︹受働債 ︵3︶ 権︺を相手方が第三者に譲渡した場合に問題を生じさせる﹂と指摘している。この問題に関して、ユニドロワ原則 は、債権譲渡の章︵九章︶に、次のような規定を定めることによって解決している。すなわち、﹁債務者は、譲渡 通知を受領した時点までに譲渡人に対して行使しえた相殺権を譲受人に対して行使することができる﹂︵ユニドロ ワ原則九・一⊥三条二項︶。しかし、このような三者間相殺が相互性要件との関係において理論的にどのように位 置づけられるのかについては、解説では述べられていない。 次に、ヨーロッパ契約法原則第三部︵即一目巨89国ξ・冨きO・導声9霊≦評辞目H︶でも、同様に、﹁二人︵暑・ 23
冨註8︶が互いに⋮債務を負担する場合において﹂︵ヨーロッパ契約法原則一三一一〇一条︶と定めることにより、相 ︵4V 互性を相殺の要件とする立場を明示している。ところが、ヨーロッパ契約法原則の解説によると、この相互性要件 には、一つの例外が存在するとされている。すなわち、﹁債権が譲渡された場合に、債務者は、債権譲受人に対し ︵5︶ て、譲渡人に対して有効であった一定の相殺権を主張︵器ω雪︶することができる﹂ことである。このことは、ヨー ロッパ契約法原則の債権譲渡の章︵二章︶において、次のようにして、二者間相殺の例外として、三者間相殺を 認める規定となっている︵ヨーロッパ契約法原則一ご三〇七条二項︶。なお、ヨーロッパ契約法原則は、二者間に対 立していた債権に牽連性がある場合にも︵同条二項b号︶、相殺の可能性を広げている点がユニドロワ原則との違い となっている。 ヨーロッパ契約法原則一一”三〇七条︵抗弁と相殺権︶ ︵一V ︵略︶ ︵二︶ 債務者は、第二二章︹相殺︺で譲渡人に対して有効に生じたすべての相殺権が次のいずれかを満たす場合に、こ の相殺権を譲受人に対してもまた主張することができる。 ︵a︶ 一一”三〇三条一項︹債務者への譲渡の通知義務︺にしたがっていなくても、譲渡の通知がなされたと きに、譲渡人に対する債権が存在する場合 ︵b︶ 譲渡人に対する債権が譲渡される債権と密接に牽連している場合 ここまで述べたように、日本においても、また、近年の国際的モデル法においても、三者間相殺に関するものと される規定が存在する。しかし、これが相殺全体の規定において、どのように整合的に位置づけられるべきかとい うことは明らかにされていない。日本の債権法は、現在、改正に直面している。そこで、民法の規定に散在してい 24
る三者問相殺について、統一的な理論を検討し、どのようにして相殺の規定にこれを反映させることが可能となる のかということを明らかにすることが必要であると考えられる。このことは、相殺の定義︵民法五〇五条︶にもか かわる問題である。 本稿では、上記のような問題を解決する前提として、民法の規定において三者問相殺を認めたものと学説によっ て指摘されてきた条文を類型化して検討する。三者間相殺に関する統一的な理論を検討するための前提として、ど の条文がいかなる三者間相殺を定めたものであるかということを明らかにすることが必要となるからである。ここ において対象とする条文は、先にあげた民法四三六条一項︵債権者に対して債権を有する連帯債務者の一人による相 殺︶および同条二項︵連帯債務者の一人の負担部分について他の連帯債務者が行う相殺︶、四四三条一項︵通知を怠った 連帯債務者の求償に対する他の連帯債務者による相殺︶、四五七条二項︵主たる債務者の債権をもってする保証人の相殺︶、 四六二条二項後段︵債務者の意思に反して保証をした者の求償に対する主たる債務者の相殺︶、四六三条一項︵通知を 怠った保証人の求償に対する主たる債務者の相殺︶、四六八条二項︵指名債権の譲渡における債権譲受人の請求に対する債 ︵6︶ 務者の相殺︶である。これらの条文は、従来の学説において、相互性要件の例外として挙げられてきたものである。 二 援用者拡張型 民法に定められた三者間相殺の類型として、第三者︵主たる債務者および他の連帯債務者︶の債務のために責任を 負っている者︵保証人の地位にある者︶が自己の貢任を免れるために、その第三者︵主たる債務者および他の連帯債務 者︶が行使することにより債務を消滅させることのできる相殺権を援用することによって、自己の責任を免れるこ 25
とができる場面が存在する。 拡張型﹂と呼ぶことにする。 これを、本稿では、相殺の抗弁の援用者が拡張されている類型ということで﹁援用者 A 日本民法における保証人または連帯債務者の一人による相殺の援用︵日本民法四五七条二項および同四三六条 二項︶ 従来、保証人が主たる債務者の債権によって債権者に相殺を対抗すること︵民法四五七条二項︶、および、債権者 に対して債権を有する連帯債務者が相殺をしない場合に、その負担部分について他の連帯債務者が相殺を援用する ︵7︶ こと︵民法四三六条二項︶は、債権の対立性︵相互性︶要件の例外的場合として挙げられてきた。 ︵8︶ ﹃民法修正案理由書﹄によると、いずれの条文も旧民法の規定を受けて起草されたものである。特に、民法 四五七条二項︵主たる債務者の債権をもってする保証人の相殺︶の起草理由には、次のように、相殺の規定との関係 ︵9︶ が述べられている。 ママ 之を明掲したる所以は本案に於ては相殺を対抗せんには必らず当事者より其意志を表示することを要し法律上当然に相 殺あるものとせざりしと且つは主債務者の債権を対抗すべきものは必ず主債務者なりと言へる如き議論の生ずるを予防 せんが爲めなり。︵広中俊雄編著﹃民法修正案︵前三編︶の理由書﹄︵有斐閣、一九八七年︶四三九頁︶ すなわち、相殺の規定によれば二者間に債務が対立している場合にその一方の意思表示によって相殺を相手方に 対抗することができることになるために、主債務者と債権者の間に債務の対立がある場合には、本来的には主債務 者および債権者が相殺の意思表示により債務を消滅させることができるはずであるところ、同条によって、保証人 が債権者に対して相殺を対抗することができるということを明らかにしたものとされている。 26
民法四五七条二項における保証人による相殺の﹁対抗﹂、および、民法四三六条二項における他の連帯債務者に よる相殺の﹁援用﹂の意味をどのように解するかについては、学説において争いの存在するところであるが、先 ず、この規定の趣旨を起草者の一人である梅謙次郎の見解から明らかにしておくと次のとおりである。 梅﹃民法要義﹄によると、民法四五七条二項の趣旨は、次のとおりである。﹁主たる債務者は此場合に於て法律 上当然相殺を対抗する権利を有するに之を行はずして却て保証人をして其債務を償はしめんとするが如きは法律の 宜く許すべからざる所にして若し主たる債務者が之を知れるときは其悪意又は怠慢に因り保証人をして他人の債務 を弁済せしむるものにして不当焉より甚しきはなく﹂、もし主たる債務者が相殺の抗弁の存在を知らない場合には 求償に関する﹁煩雑を省﹂くことができる。また、この規定をつくることによって﹁無資力者を生じ先に弁済を為 ︵10︶ したる者が損失を被むる﹂ことを避けて公平を維持することができる。民法四三六条二項の趣旨も、同様に、求償 に関する﹁無用の煩労﹂を避け、﹁無資力を生ずる﹂危険を回避して公平を維持することにあると説明されて ︵n︶ いる。いずれの条文も、三者間の債権債務関係の簡略化︵もしもこのような条文がなければ、次のような三つのステッ プを実現することが必要になる。すなわち、①保証人︵B︶が債権者︵G︶に対して保証債務を履行することによって、主 たる債務が消滅し、求償権が発生する。②Gが主たる債務者︵S︶に負う債務を履行する。③SがBに負う求償債務を履行 する。しかし、このような条文が存在することによって、前述のような三つのステップを現実に行うことなく、意思表示の みによって一挙に債権債務関係を解決することができる︶、および、三者間の公平︵三者のいずれも、自己のみが損失を 負担するということがない︶を実現する点にある。 これに対して今日の通説は、保証人または他の連帯債務者による相殺の﹁抗弁﹂︵民法四五七条二項︶および﹁援 用﹂︵民法四三六条二項︶の意味を次のように解している。すなわち、ドイツ民法七七〇条二項が保証人に対して履 27
行拒絶の抗弁権のみを認めているように、わが国においても、他人が相殺権の行使に介入することを認めるのは妥 当ではなく、保証人または他の連帯債務者に弁済を拒絶する抗弁権を与えたにとどまり、相殺権を有する主たる債 務者または連帯債務者に代わって相殺の効果を生じさせる権限を与えたものではないと解すべきであるとする︵以 ︵12︶ 下、このような考え方を﹁延期的抗弁権的構成﹂という︶。近年の学説では、このような延期的抗弁権的構成を次のよ ︵13︶ うに補充性から説明するものが存在する。 かりに相殺主張権がなかったとしても、普通保証人であれば、債権者からの請求に対して検索抗弁を主張し、主債務者 の反対債権を指示することができる︵四五三条︶。そして、本来であれば連帯保証人は検索抗弁をもたないが︵四五四 条︶、次のように考えることができる。検索抗弁の要件として、保証には主債務者の財産を指示し、かつその財産への 執行が容易であることを証明しなければならないのであって、⋮相殺について債権者は意思表示をするだけで足りるの だから、執行の容易さは動産などの比でない。このために反対債権を指示するような場合に限定すれば、検索抗弁を連 帯保証人に認めても債権者に大きな不都合はないのであって、それが相殺主張権なのではないだろうか。これと同じこ とは連帯債務にもいえる。⋮右は試論にとどまるが、相殺権主張を補充性の拡張として捉えれば、債権者の全額請求権 に対する制限を説明できると同時に、検索抗弁と同じく相殺主張権の放棄特約を認めることになる。また、従来の学説 では相殺主張権を履行拒絶権と理解するものがあり⋮、それは右の説明に合致する。︵福田誠治コ九世紀フランス法 における連帯債務と保証︵七・完︶﹂北大法学論集五〇巻四号︵一九九九年︶七五五頁︶ ︵14︶ ︵15︶ これに対して、判例および有力な学説では、保証人︵または他の連帯債務者︶の相殺によって、主たる債務者︵ま たは連帯債務者の一人︶が有していた相殺権の効力を生じさせることができると考えられている。そして、この結 果として、主たる債務︵または連帯債務者の一人の負担部分︶が消滅するものとされている︵以下、このような考え方 28
を﹁永久的抗弁的構成﹂という︶。 B フランスにおける保証人による相殺の援用︵フランス民法二三一三条および一二九四条︶ フランス民法典二三一三条︵旧二〇三六条︶には、﹁保証人は、主たる債務者に属し、主たる債務に属しているす べての抗弁をもって債権者に対抗することができる﹂という原則が明らかにされている。この原則に従って、フラ ンス民法典一二九四条一項は、﹁保証人は、主たる債務者の債権による相殺をもって債権者に対抗することができ る﹂ことを明らかにしている。反対に、その二項では、﹁主たる債務者は、保証人の債権による相殺をもって債権 者に対抗することができない﹂ことが示されている。 ○耳一讐磐ζ09属ト題途扇題蔑鮮嘗&§含q矯竃蹴§轄竃Φミによると、この規定︵フランス民法典一二九四条二項︶ の趣旨は、次のように説明されている。 この規定は、保証人の債務の負担が、保証人の債権者の他の債権者︹債権者に対して債権を有する主たる債務者︺によ るものである場合には、その負担を徹底的に保証人に背負わせるということにならないようにしようという希望がこめ られていると説明されている。もしも、この規定がなければ、債務者は、保証人に由来する相殺によって債権者は満足 を享受しているということを援用して、債務から解放されることになるからである。そうだとすると、保証人に最初に 弁済することを強いることになり、保証人の求償訴権しか行使できないようにして、債務者は時問を稼ぐことができる ことになってしまう。︵○ぼ一ω江きζ09ざト8途暴8儀①箆貯o蹴象魯o欝ξ§Φさ窪ひU一再巴匡8↓9﹃δ器ω﹂Sρ⇒。 =㎝,︶ ︵16︶ フランス民法典二三一三条二項の目的は、保証人も債権者も相殺を援用していない場合には、主たる債務者が保 29
証人の有する債権でもって相殺を主張することができないことを明らかにすることである。そのために、一旦、保 証人または債権者が相殺を援用した場合には、債務が絶対的に消滅するために、主たる債務者も債務の消滅を援用 ︵17︶ することができるとされている。 この目的は、債務者が相殺を起動することを禁じるだけであり、相殺を始動させることのできる権利者によって相殺が 実行された場合には、その援用を妨げるものではない。相殺の始動の相対性は、消滅に通じており、その効果がすべて の人に対して効力を有することは、債権者の満足を完全に実現することによって説明されている。︵Oぼ一豊きζ8星 86ドp.一蜀︶ 日本民法では、フランス民法典二三二二条に規定された原則︵債務者に属するすべての抗弁を援用できるという保 証人保護の原則︶が明らかにされていない。しかし、フランス民法典二三一三条に規定された原則と同様の原則が ︵18︶ 日本でも採用されるべきものと考えられている。そこで、このような原則に基づいて、日本でも民法四五七条二項 において﹁保証人は、主たる債務者の債権による相殺をもって債権者に対抗することができる﹂とされているもの と位置づけることができる。 このように、保証人が主たる債務者の相殺を援用できることについては、日本とフランスの間に違いは存在しな い。ただし、フランス民法典二一九四条三項では、﹁連帯債務者は、共同債務者の債権による相殺をもって債権者 に対抗することができない﹂としている。これは、相殺を主張することができる連帯債務者の意思にも、債権者の 意思にもかかわりなく、他の連帯債務者が相殺を主張することができるのは不当であるとの理由から規定されたも のである。しかし、フランス民法典一二九四条三項の規定にもかかわらず、フランスの学説は、日本民法と同様 に、総額について請求され、そして、弁済を強制される場合に求償権を獲得する連帯債務者は、債権者に対して債 30
権を有している連帯債務者の負担部分について、 ︵19︶ その相殺の対抗を許されねばならないと考えている。 C 検討 先に述べたような通説の考え︵延期的抗弁権的構成︶によれば、相殺権を有している主たる債務者または連帯債 務者︵以下、このような主たる債務者および連帯債務者を﹁S﹂とする︶が相殺権を放棄してしまった場合には、保証 人または他の連帯債務者︵以下、保証人および他の連帯債務者を﹁B﹂とする︶は、その後に債権者︵以下、債権者を ﹁G﹂とする︶から請求を受けた場合に、それを拒絶できないことになってしまいそうである。 しかし、前掲の梅﹃民法要義﹂に述べられていたように、また、フランスの学説において述べられていたよう に、Sが相殺によってその債務︵または負担部分︶を消滅させることができるにもかかわらず、相殺を行わずに、 ︵20︶ 保証人の地位にあるBに弁済させるのは不当である。学説では、﹁私法上は求償権を確保されれば足りる﹂との指 摘も存在するが、たとえ保証人︵BVが求償権を取得することができるとしても、この求償権の実現は確実なもの とは言えない。保証人︵B︶は、確実にその貢任から解放されるべきである。そこで、Bは、自己がSのために 負っている責任を免れるために、SがGに有する債権を自働債権とし、Sが負う債務を受働債権する相殺を援用す ることができると考えるべきである。これによって、債権者︵G︶の満足を確保しつつ、保証人︵B︶は、確実に その責任から解放されることになる。 そこで、相殺の効力をその利益を享受する﹁当事者の一方﹂の意思表示に委ねたという原則︵日本民法五〇六条︶ に重きを置いて、延期的抗弁権的構成を採用するのであれば、次のように構成することが考えられる。すなわち、 BがGに対して、SG問に相殺の原因が存在したことを主張すると、たとえSとGとの間に直接的な相殺の効力を 31
生じさせないとしても、もはやBは、その責任︵保証債務または他人の負担部分の保証債務︶から解放される。その 後になって、SまたはGが相殺権を放棄したとしても、この放棄はBに影響を及ぼさない。言い換えれば、Sまた はGは、その相殺権の放棄をBに対抗することができない。 しかし、上記のような延期的抗弁権的構成では、さらに、なぜBがGに対してSG間の相殺を援用することがで きるのかという理由を明らかにする必要が生じてくる。 この点について、近年の学説が、先に述べたように、延期的抗弁権的構成を保証︵および連帯債務者の負担する連 帯保証部分︶の補充性から説明していることが注目される。この学説によると、保証の場合と連帯債務の場合とで 統一的な説明を行うことができる点に特色がある。しかし、連帯保証と保証の違いは補充性の有無にあるために、 連帯保証の場合に︵したがって、連帯債務の場合にも︶補充性を否定することについては理論的に困難であるように 思われる。 このような問題を解決するために、筆者は、永久的抗弁的構成に立って、保証人が主たる債務者の相殺権を援用 することができ、これにより、主たる債務が消滅すると考えるべきであり、このことを以下のように説明できると 考える。 この問題を解決するには、フランス民法において、﹁保証人は、⋮債務に属しているすべての抗弁をもって債権 者に対抗することができる﹂︵フランス民法典⋮三三条︶とされていることが参考になる。すなわち、Bが援用す る相殺権は、時効の場合と同様に、主たる債務に属している抗弁であって、Bはこの抗弁を援用しているのであ る。このことを理論的に説明すると、Bは、自己のSに対する求償権を保全するために、SのGに対して有する相 殺権を代位行使することができるものと考えられる。このように考えると、上記の延期的抗弁権的構成における近 32
年の学説が保証債務の補充性から相殺権の援用を導いていたのに対して、保証債務の付従性から相殺権の援用を導 くことが可能になる。この考え方では、上記の説明とは異なり、連帯保証には補充性がないという性質を尊重しつ つ、主たる債務者または連帯保証人の一人が債権者に対して有する債権をもって保証人や他の連帯債務者が相殺を 主張することができることを統一的に説明することが可能となる。さらに、この考え方は、起草者が無資力の危険 性を回避することを理由としてあげていたことにも合致するものである。 なお、この類型において興味深いことは、主たる債務者が相殺によって容易に債権者を満足させることができる 場合に、この主たる債務者には、債権者による保証人への追及を防ぐ義務︵保証人を免責させる義務︶があるという ことを法律が認めていると解釈できることである。 三 抗弁存続型 対立する債務の一方が移転した場合にも、対立する債務の間に牽連性が存在していた場合には、 ことができる場面が存在する。債務が移転しても相殺の抗弁が存続するという意味で︵いわゆる このような類型を﹁抗弁存続型﹂と呼ぶことにする。 相殺を主張する ﹁抗弁の接続﹂︶、 A 指名債権の譲渡における債務者の抗弁︵日本民法四六八条二項︶についての検討 民法四六八条二項は、債務者が異議を留めない承諾をした場合でない限りは、譲受人に対して、譲渡人に主張す ることができたであろう相殺の抗弁を対抗できることを規定している。筆者は、この場合には、対立する債務の間 33
︵21︶ に牽連性が要件となることを検討した。もしもこのような相殺が認められていないとすると、①債権の譲受人︵α︶ は、債権の譲渡人︵q︶に債権譲渡の対価を弁済し、②αは債務者︵S︶に負う債務を履行し、③Sはαに譲渡さ れた債権を弁済するという三つのステップを経なければならないが、相殺を認めることにより、②③のステップを 省略することができるという利点が存在する︵銑q間で既存債務の代物弁済として債権譲渡がなされた場合には、①の ステップも省略されうる︶。また、相殺を認めることにより、三者のいずれも、自己のみが弁済を受けられないとい うような損失を負担することがなくなって公平を実現することができる。 初めに述べたように、このような類型が三者間相殺に含まれることは、ヨーロッパ契約法原則においても認めら れている。 B 抗弁存続型から外れる類型についての検討 一見すると、抗弁存続型に含まれるように見えるが、以下のように、解釈の余地がある条文︵民法四六一二条一項、 同四四三条一項後段、同四六二条二項︶も存在する。 ㈲ 通知を怠った保証人および通知を怠った連帯債務者の求償の制限︵日本民法四六三条一項、同四四三条一項︶ 通知を怠った保証人が主たる債務者に対して求償する場合に、債務者が債権者に対抗することができる事由︵相 殺の抗弁︶を有していたときは、その事由をもって保証人に対抗することができる︵民法四六一二条一項・四四三条︶。 また、連帯債務者の一人が債権者から履行の請求を受けたことを他の連帯債務者に通知しないで弁済をし、その他 自己の財産をもって共同の免貢を得た場合において、他の連帯債務者は、債権者に対抗することができる事由を有 していたときは、その負担部分について、その事由をもってその免責を得た連帯債務者に対抗することができる 34
︵民法四四三条一項前段︶。そして、この場合において、相殺をもってその免責を得た連帯債務者に対抗したときは、 過失ある連帯債務者は、債権者に対し、相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる︵同 条同項後段︶。 これらの規定の文言からすると、保証人は主たる債務者に代わって、または、連帯債務者は自己の負担部分を超 えて︵後述のように、連帯債務者は負担部分を超えた部分について求償することができると解すべきである︶、債権者に弁 済をすることによって求償権を取得し、この求償権を確保するために債権者の主たる債務者または他の連帯債務者 に対する債権に代位するが、弁済に際して通知すべき義務を怠った場合には、この求償権の行使が代位した債権に 付着した既存の相殺の抗弁によって妨げられるものとも考えられる。このように考えれば、これらの条文は、抗弁 存続型に入ることになる。 しかし、通説の次のような理解からすると、これらの条文が抗弁存続型に属すると理解することはできなくな る。なぜなら、通説は、過失ある求償者︵保証人および他の連帯債務者︶よりも、過失のない者︵主たる債務者およ び連帯債務者の一人︶を保護するために、主たる債務者または連帯債務者の一人が相殺を主張した場合には、この 者の債権者に対して有する債権︵主たる債務者または連帯債務者の一人が債権者に有する債権︶がその負担部分につい ︵22︶ てのみ、過失ある保証人または連帯債務者に移転すると説明しているからである。もしも抗弁存続型に入ると考え るならば、主たる債務者または連帯債務者の一人が相殺を主張した場合に二つの債務が消滅することになって、過 失ある保証人または連帯債務者に債権を移転できなくなってしまう。通説の結論は後に述べるように妥当である が、上記の通説の見解では、相殺を対抗されることによって、なぜ債権の法定移転が生じるのかという理論的根拠 を説明することができない。 35
これに対して、起草者の一人である梅謙次郎は、難解ではあるが、十分な説明を行っている。そこで、以下で、 梅謙次郎の考え方を検討する。 梅謙次郎は法典調査会において、民法四四三条の起草理由を次のように説明している。 梅謙次郎u過失ある債務者︹通知をせずに弁済した連帯債務者︺と云ふ者は自分の払つたものが其時既に義務が消えて 居つたのを払つたというのであるから当然不当弁済取戻で夫れを取戻すことが出来ると云ふことには往かない。其場合 には特に対抗することを要すと既成法典にもなつて居る程で本案でも多分然う云ふ主義になるかも知れませぬ。兎に角 其事は既に議決になつた所の四百三十七条︹現行法四三六条︺に明らかにある。然うしてみるとこの場合に於いてはど うなるかと云ふことが大変疑はしいので規定を要する、而して既に為したる弁済を取返すよりも相殺に依て消滅すべか りしところの債務を履行したると云ふことを債権者に迫った方が理屈に叶ひ又実際不便も少なからうと云ふ斯う云う考 へで特に此規定を改めました。夫れから今一つ第一項で改めましたことは元の案には﹁償還の責に任ぜず﹂と云ふこと でありましたが今度は﹁対抗することを得べき事由を有せしときは之を以て其債権者に対抗することを得﹂と云ふ風に 改めましたのは一つは期限杯の如きものに関係があるのであれば此処に謂ふ免責の原因ではない。期限があったからと 言つて義務がなくなるのではない。只今は払はなくて宜い。夫れを一人の債務者が知らずに全額を払つたと云ふ場合で ありますれば其期限の到来する迄は矢張り求償が出来ないので其事は言ふを待たぬと言へば言うものでありますけれど も併し乍ら斯う云ふ明文ができる以上は其場合でも包含する様に文章を書いて置いた方が完全と思いましたから序に書 いて置きました。︵﹃法典調査会民法議事速記録︵三︶﹄︵商事法務研究会、一九八三年︶四八九頁︶ このような梅謙次郎の説明に対して、法典調査会では、相殺権を他人が行使することに対する強い批判が出され た。そこで、梅謙次郎は、更にこの規定の意味を次のように説明している。 36
梅謙次郎H相殺と云ふ事に対抗が必要でありますれば今の例で言ひますれば第二の債務者が債権者に対して対抗すべき ことであるが第二の債務者と云ふものは其為にわざわざ裁判所へ往くとかまたは債権者の所へ通知をして対抗をせぬで も自分の意思を十分に発表すれば夫れで十分である。夫れを今度は第一の弁済を為したる債務者が第二の債務者に代つ て権利を主張することが出来る。此場合には法律上自然の代位があるので第一の債務者即ち全額を払つた債務者と云ふ 者は第二の債務者が債権者に対して有せし所の権利を第二の債務者に代つて行ふと云ふことになる。︵前掲﹃法典調査 会民法議事速記録︵三︶﹄四九一頁︶ 梅﹃民法要義﹄によると、法典調査会における梅謙次郎の主張は、次のように整理されている。 相殺は既往に遡りて効力を生ずべきが故に︵五〇六条二項︶、寧ろ其相殺効力を生じて、甲︹﹁連帯債務者の一人﹂︵民 法四四三条︶を意味する。なお、民法四六三条によって四四三条が準用されているために、保証人についても妥当す る︺が為したる弁済却て無効なりしに因り其弁済したるものを取戻すことを得るものとするの理なきに非ず。然りと錐 も甲が請求を受けて弁済を為したる当時は未だ相殺あらざるのみならず甲より債権者に対しては債務の存せしこと固よ り疑なく従て此弁済を無効とするは其当を得ず。故に勢ひ後の相殺︹﹁他の連帯債務者﹂︵民法四四三条︶による相殺を 意味する。なお、民法四六三条によって四四三条が準用されているために、主たる債務者による相殺についても妥当す る︺は甲に対してのみ有効にして敢て之を債権者に対抗すること能はざるものとせざることを得ず。故に本条第一項但 書︹現行法では、第一項後段︺を以て甲に与ふるに債権者に対し乙︹﹁他の連帯債務者﹂︵民法四四三条︶または主たる 債務者︵民法四六三条・四四三条︶を意味する︺が有せし債権の履行を求むるの権を以てせり。而して甲は法律の規定 に依り此権利を有するが故に敢て乙の代理人として之を行ふに非ず。自己の名義を以て之を行ふべきのみ。或は日はん 甲が自己の弁済したる部分を取り戻すは則ち可なりと難も乙が債権者に対して有せし債権の履行請求するは則ち不可な 37
りと。曰く然らず。相殺には必ず目的物の同種なることを要す。故に目的物は同一なりと謂ふも可なり。若し然らば甲 は乙に代位したものとするも敢て不当と為すべからず。而して甲が乙に代位したるものとするの利益は債権に依り担保 の付随せることあるを以て若し乙が債権者に対する債権につき担保あるときは甲は其担保を利用することを得るに在る なり。︵前掲・梅﹃民法要義﹄二二〇ー一三二頁︶ 梅謙次郎の理論的な問題意識は、相殺の意思表示の遡及効によって債務が消滅するまでは債務が有効に存在する ために、他の者︵連帯債務者の一人または保証人︶が債務を弁済したとしても法律上の原因があるから、たとえ後に 相殺の意思表示がなされたとしても不当利得として返還を請求することができなくなるのではないかということに ある。梅謙次郎は、この問題を次のように解決する。すなわち、連帯債務者の一人または保証人による弁済は有効 であるが、他の連帯債務者または主たる債務者は、求償された場合に、相殺ができたはずであるという抗弁を主張 ︵23︶ することができる。この抗弁は、連帯債務者の一人または保証人に対してのみ有効であって、債権者との関係で相 殺の効力を生じさせるものではない。そこで、求償を拒絶された連帯債務者の一人または保証人としては、債権者 に不当利得に基づく請求をするのではなく︵梅謙次郎は、不当利得返還請求権が発生しないと考えている︶、他の連帯 債務者または主たる債務者が債権者に有している債権に代位して、直接にこれらの債権を請求すること︵直接訴権 による請求または債権者代位による請求︶ができると考えている︵民法四四三条一項後段の解釈︶。 梅謙次郎のこのような理論構成は巧妙であって、三者すべての利益︵①債権者は満足を得られる、②他の連帯債務 者または主たる債務者は相殺の利益を享受できる、③連帯債務者の一人または保証人は、債権者に対する他の連帯債務者の 債権または主たる債務者の債権に代位することによって、その担保権をも行使できることで支払ったものをより確実に取り 戻すことができる︶に配慮する政策的な価値判断を実現させるという梅謙次郎の実質的な意図を理論的に位置づけ 38
ることを可能としている。先に引用した法典調査会における梅謙次郎の発言において、原案においては﹁償還の責 に任ぜず﹂としていたところを、﹁対抗することを得べき事由を有せしときは之を以て其債権者に対抗することを 得﹂︵現行民法では﹁その事由をもってその免責を得た連帯債務者に対抗することができる﹂となっている︶とした梅謙次 郎の意図はこのような政策的価値判断を実現する意図があったものとして理解することができる。もしも﹁償還の 貢に任ぜず﹂という条文になっていたとしたならば、保証人または連帯債務者の一人は通知を怠ったというだけで ︵24V 酷な結果を負わされることになってしまう。 先に、求償権を確保するために債権者の債権が法定移転し、これにより従来付着していた相殺の抗弁を対抗する ことができるとするならば、民法四四三条一項および四六三条一項を抗弁接続型に分類することができるというこ とを述べた。しかし、この理論構成では、保証人または連帯債務者の一人が債権者に支払ったものの返還を請求す ることができるという根拠を提示することができなくなる。そのために、解釈論としては、梅謙次郎の主張する理 論構成を採用すべきものと考える。ただし、この際に、主たる債務者または他の連帯債務者が求償に対して主張で きる抗弁を債務の消滅をもたらす相殺の抗弁と呼ぶことができるかどうかについては疑問が残る。相殺の抗弁の効 果が絶対的に認められるのであれば、保証人および連帯債務者の一人は、求償権を確実にするために債権者に代位 することはできず︵債権者の債権は相殺によって消滅している︶、また、主たる債務者または他の連帯債務者に代位す ることもできない︵この債権もまた相殺によって消滅している︶ということになるし、梅謙次郎のように相殺の効力 を相対的であると構成しても求償権を取得することができなくなってしまうという問題が発生するからである。梅 謙次郎の理論構成︵直接訴権または債権者代位説︶を採用するには、相殺の効力は生じていない︵いかなる債務も相 殺の意思表示によっては消滅していない︶とする必要がある。そこで、﹁その事由をもってその免責を得た連帯債務 39
者に対抗することができる﹂︵民法四四三条一項前段︶という文言を尊重するためには、この﹁事由﹂には相殺の抗 ︵25︶ 弁︵消滅の抗弁︶が含まれるのではなく、相殺をすることができたということ、すなわち、相殺可能な反対債権を ︵26︶ 有していたということが含まれるものと解する必要がある。そうすると、相殺の抗弁を主張するものではないため に、民法四四三条一項および四六三条一項は、三者問﹁相殺﹂を定めた規定ではないと考えられる。 ⑥債務者の意思に反して保証をした者の求償に対する主たる債務者の相殺︵日本民法四六二条二項後段︶ 主たる債務者の意思に反して保証をした者が主たる債務者に対して求償する場合に、主たる債務者が相殺の原因 を有しており、これを主張したときは、保証人は債権者に対してその相殺によって消滅すべきであった債務の履行 を請求することができる︵民法四六二条二項︶。 起草者によると、この規定の趣旨は次のように述べられている。 主たる債務者が相殺の原因を取得せしときは之を以て求償を為す保証人に対抗することを得べしと難も其保証人は債権 者に対し如何なる権利を有するか。之を詳言すれば債権者は其債権に付き二重の利益を受けたるが故に其一を保証人に 償還すべきこと勿論なりと錐も保証人は果たして自己が前に為したる弁済の返戻を求むることを得べきか将た主たる債 務者が相殺の為に対抗することを得べかりし債権の履行を求むることを得べきか。蓋し理論に於ては保証人が為したる 弁済は固より有効にして主たる債務者は相殺の原因を対抗して其責を免れたるが故に其相殺の原因に由りて債権者が得 たる利益の返還を求むることを得べきが如し。然りと難も是れ膏に不確実なるのみならず相殺に因りて消滅すべかりし 債権者の債務には担保の付着することなきを保せず。元来此場合に於ては直接に相殺の対抗を受けざる債権者は其債務 を履行すべきものなりしが故に保証人は主たる債務者に代はりて其履行を請求することを得るものとするは頗る便利に して且何人をも害することなし。是れ本条第二項に於て右の規定を採用したる所以なり。︵前掲・梅﹃民法要義﹄ 40
一九四・一九五頁︶ 同条二項但し書︵現行民法四六二条二項後段︶は、第七一回法典調査会に提出された原案の時点では、原案四四五 条︵現行民法四四三条︶を準用していた。これは、原案﹁四四五条と同じ理屈で﹂主たる債務者が求償を受けるこ ︵27︶ とはないということを明らかにしたものとされている。そこで、先に検討したのと同様に、この条文も三者間相殺 を定めたものではないと考えられる。 四 固有の三者間相殺型 さらに、﹁固有の三者間相殺型﹂と呼ぶことができる類型が存在する。上記の二および三において検討した類型 では、二者間の相殺の抗弁を第三者が援用したり︵二︶、二者問の相殺の抗弁が存続し︵接続され︶て第三者に対抗 したり︵三︶する場面が問題とされた。そして、これらの場合には、三者間で金銭の授受が一回りする︵BからG へ、GからSへ、SからBへというように一巡りしてもとに戻る︶手間を省き、現実の弁済がなくても、現実の弁済が あったと同様の結果を導くことができる点に特徴があった。また、このような相殺を認めることは、三者の間でい ずれもが速やかに履行を受けたと同等の結果になる点において公平ということができた。 これに対して、以下において検討する固有の三者間相殺型では、自己の相手方に対する債権を自働債権として、 第三者の相手方に負う債務を受働債権として相殺をするという場面が問題となる。このように、自働債権と受働債 権とが最初から三者にまたがって存在している場合に、三者のうちの一人の意思表示による相殺が認められている ことから、これを二者間相殺から三者間相殺へと移行する援用者拡張型︵二︶および抗弁存続型︵三︶と区別し 41
て、﹁固有の三者間相殺型﹂と呼ぶことにする。この類型の特徴は、第三者の債務のために責任を負っている者︵保 証人の地位にある者︶が自己の責任を免れるために、自己の債権を利用して、第三者の債務を相殺により消滅させ るという点にある。 日本民法では、私見によれば、固有の三者問相殺型に属する条文として、債権者に対して債権を有する連帯債務 者の一人による相殺︵民法四三六条一項︶が規定されている。この条文は、一見すると、債権者と連帯債務者の一 人の問に対立する債務を相殺するようにも見えるが、その実質は、他の連帯債務者のために保証部分を負担する連 帯債務者の一人︵保証人に該当する︶が、自己の債権を利用して、他の連帯債務者の負担部分︵主たる債務に該当す る︶を消滅させることを認めるものである。このことを検討するために、以下において、日本民法四三六条一項に ついて述べた後に、フランスにおいて、保証人が債権者に対して債権を取得した場合に、保証人自身の地位におい て相殺を援用することができると理解されていることを参考に論じることにする。 A 日本民法における連帯債務者による相殺権の行使︵日本民法四一二六条一項︶ 日本民法には、連帯債務において、連帯債務者が自己の負担部分のみならず他の連帯債務者の負担部分について も、自己の有する債権によって相殺することができることを次のように定めている。民法四三六条一項によると、 連帯債務者の一人が債権者に対して自己の負担部分を超える債権を有している場合に、相殺を援用すると、連帯債 務がすべての連帯債務者の利益のために消滅する。 この規定について、我妻﹃債権総論﹄には、次のような例が示されている。 乙丙丁が甲に対して九〇万円の連帯債務を負担し、乙が甲に対して五〇万円の反対債権を有する場合に、乙がその 42
五〇万円の債権で相殺をするときは、丙も丁も五〇万円だけ債務を免れる。すなわち、乙丙丁は四〇万円の連帯債務を 負担することになる。︵我妻榮﹃新訂・債権総論﹄︵岩波書店、一九六四年︶四一二頁︶ ︵28︶ ︵29︶ 連帯債務者の一人による相殺の効力に関するこの説明は、通説・判例が連帯債務者の一人のなした弁済につい て、各連帯債務者の負担額が一定の割合で消滅するものとする立場に立つものである。 しかし、連帯債務者の一人による弁済の場合も、また、相殺の場合も、その充当の問題であるとするならば、 ﹁債務者のために弁済︹相殺︺の利益が多いものに先に充当する﹂︵弁済充当について民法四八六条、相殺充当について 民法五一二・四八六条︶ことになるはずである。このように、弁済または相殺を行った連帯債務者の一人のために 利益が多いものに先に充当すると考えると、充当の順番は次のように負担部分から行われるということになる。ま ず、相殺権を行使する連帯債務者自身の負担部分︵債務︶に充当することで自己の負担部分を消滅させ︵上記の例 では、乙の負担部分三〇万円が消滅する︶、次に、他の連帯債務者の負担部分に充当することによって自己が他の連 帯債務者のために負う保証部分を消滅させることになる︵上記の例では、丙の負担部分三〇万円のうち一〇万円に充当 することにより乙の保証部分が一〇万円について減少し、また、丁の負担部分三〇万円のうち一〇万円に充当することによ り乙の保証部分が一〇万円について減少する。その結果、乙の負担部分はゼロとなるほか、乙の保証部分は四〇万円︵六〇万 円マイナスニ○万円︶に減少する︶。 なお、ヨーロッパ契約法原則一〇H一〇六条では、﹁連帯債務者の一人が自らの負担部分を超えて履行したとき は、ほかのいずれの連帯債務者に対しても、それらの債務者各自の未履行部分を限度として自らの負担部分を超え ︵30V る部分を求償することができる﹂ということが明言されていることも参考になる。 このように考えると、先の例は、一見、連帯債務者の一人︵乙︶は、自己の債権者︵甲︶に対する債権を自働債 43
権として、自己の保証債務とを相殺しているように見えるが、その実体は、自己の保証債務を受働債権として相殺 しているのではなく、他の連帯債務者︵丙および丁︶の債務︵負担部分︶を受働債権として相殺を行っているという ことが言える。そうすると、ここでは、自働債権と受働債権とが三者にまたがって存在している場合に相殺が認め ︵31︶ られていることになる。 また、条文には規定されていないが、一般に、保証人が債権者に対して債権を有している場合に、相殺を主張す ︵32︶ ることによって主たる債務を消滅させることができると説明されている。これも固有の三者間相殺型である。 さらに、学説において主張されているように、相殺に関して民法四七四条︵第三者の弁済︶が類推される場面も この類型に分類することができる。学説では、第三者の弁済が許されるすべての場合に相殺を認めるとすれば、自 働債権の債権者が他の債権者に先立って弁済を受けることになるので債権者間の公平を害するが︵特に受働債権の 債権者の財産状態が悪化しているとき︶、物上保証人・抵当不動産の第三取得者のように、他人の債務につき責任を ︵33V 負う者については相殺を認めるべきであるとされている。なぜならば、これらの者については弁済をするについて ︵3 4︶ ﹁正当の利益﹂︵民法五〇〇条︶を有する者と等しいからであると説明されている。 B フランス民法における保証人または連帯債務者による相殺権の行使 フランスでは、保証人が債権者に対して債権を取得した場合に、保証人自身の地位において相殺を援用すること ができ、この場合には相殺の一般的な制度が適用され、主たる債務者に対する求償権が与えられるとされている。 そして、前述のようにフランス民法典壬二一三条二項にかかわらず、一旦、保証人または主たる債務者が相殺を援 ︵3 5︶ 用した場合には、債務が消滅するために、主たる債務者も債務の消滅を援用することができるとされている。 44
このような保証人による相殺の主張において、特に問題となるのは、保証契約の中から、言い換えれば、債権者 の保証契約上の貢任から債権が発生した場合である。例えば、債権者が保証人の求償権を妨げたり、保証人に対す る情報提供義務に違反したりする場合には、確かに保証人の責任が削減されるが、これは相殺によって主債務を消 ︵36V 滅させたのではないために、求償権をもたらすものではないと指摘されている。 日本民法五〇四条は、﹁五〇〇条︹法定代位︺の規定により代位をすることができる者がある場合において、債 権者が故意又は過失によってその担保を喪失し、又は減少させたときは、その代位をすることができる者は、その 喪失又は減少によって償還を受けることができなくなった限度において、その責任を免れる﹂と規定している。旧 民法担保編四五条一項では、﹁債権者が故意又は慨怠にて保証人の其代位に因りて取得することを得べき担保を減 し又は害したるときは総ての保証人は債権者に対して自己の免責を請求することを得﹂と規定していた。梅謙次郎 によると、﹁代位の総則として広く規定になりましたから保証丈けに付て特別に規定する必要はなくなつた﹂の ︵37︶ で、現行民法には、旧民法担保編四五条一項のような特別の規定を設けなかったと説明されている。そこで、日本 では、この規定によって、保証人が債権者の故意または過失から債権を取得した場合には、保証人の責任が減少す るだけで主債務との相殺を行うことはできないと考えられる。 もっとも、連帯債務については、フランス民法典一二〇八条が、﹁債権者より請求を受けた債務者は、債務の性 質から生じたすべての抗弁および人的なすべての抗弁およびすべての共同債務者について共通の抗弁をもって対抗 することができる﹂と規定している。これにより、連帯債務者の一人が債権者に対して債権を有している場合に は、債権者により請求を受けたときに相殺を対抗することができる。 45
C 検討 ここまで検討したように、日本においてもフランスにおいても、他の債務者のために責任を負う者︵保証人の地 位に立つ者︶には、自己の債権者に対する債権を利用して相殺を主張できる。この相殺の主張は、先に述べたよう に、一見したところでは、自己の債権と自己の保証債務とを相殺しているだけのように見えるが、その実体は、三 者にまたがって二つの債権が存在する場合︵債権の対立が欠ける場合︶にも、その効力を生ずるという意味におい て、固有の三者問相殺ということができる。保証人の相殺の主張は、単にその責任を消滅させるのではなく、主た る債務を消滅させることによって間接的にその責任を消滅させるものと考えられる。もしも主たる債務には影響が なく、保証債務のみが消滅すると考えると、債権者はさらに主たる債務者に請求することができ、これに対して主 たる債務者が抗弁を主張できなくなってしまい、債権者が二重に利得することを許すという不都合な結果になるか らである。なお、この場合には、たとえ相殺を認めたとしても、連帯債務者の一人からなされる他の債務者に対す ︵38︶ る求償の問題が残る点に特徴がある。 五 結論 本稿では、民法の条文に定められた広義の三者間相殺について、類型化して検討を行った。その結果、次の三つ の類型に分類できることが判明した。 第一に、相殺の援用者が拡張される場合である︵援用者拡張型︶。ここでは、債権者が債権を実現するために、債 務者︵主たる債務者および他の連帯債務者︶に対して有している相殺の担保的機能を利用せずに、その債務のために 46
責任を負っている者︵保証人の地位にある者︶を追及する場合に、その債務者が行使することにより債務を消滅さ せることのできる相殺権を有していたならば、保証人の地位にある者は、自己の求償債権を保全するために、これ を援用してその債務を消滅させ︵これによって、責任を消滅させ︶ることができる。 第二に、債権の移転に伴って抗弁の存続︵いわゆる抗弁の接続︶が認められる場合である︵抗弁存続型︶。ここで は、対立する債務の間に牽連性が存在した場合には、たとえ一方が移転したとしても、その債務者はなお相殺の抗 弁を主張することができる。 上記の第一および第二の類型は、いずれも二者間の相殺の抗弁を第三者が援用したり︵一︶、二者間の相殺の抗 弁を第三者に対抗したり︵二Yする場面が問題とされた。そして、これらの場合には、三者間での弁済の手間を省 き、いずれもが速やかに履行を受けたと同等の結果になる点において公平を実現することができるという点に特徴 があることが確認された。 第三に、上記の二つの類型とは異なり、二つの債務が最初から二当事者間で対立していないという構造にあって も、他人のために責任を負っている者︵保証人の地位にある者︶が自己の責任を免れるために、自己の債権者に対 する債権を利用して、その他人の債務を相殺により消滅させる場合がある︵固有の三者間相殺型︶。この場合には、 ︵39︶ 最終的に、求償の問題︵およびそのための代位の問題︶が残されることになるが、三者間の決済を簡便にするという 点では、広義の三者間相殺に含めてよいものと考えられる。 本稿によって民法の条文では、広義の三者間相殺として三つの類型が存在していることが明らかとなった。本稿 の類型化を元にして、今後は、判例において三者間相殺がどのように扱われているかについて検討を行うことに よって、これらの類型ごとの問題点を明らかにし、三者問相殺の理論を深めていく必要がある。 47
※ 本文中において、片仮名書きの文章を引用する際には、 は、筆者が補ったものである。 平仮名に改めて、句点を付けた。また、引用部分の︹︺ 48 参考︵フランス民法典一二〇八条、一二九四条、一二九五条、≡二〇八条、二一二一三条︶ フランス民法典=一〇八条 ①債権者から請求を受けた連帯債務者は債務の性質から生じる抗弁、自己の一身に関する抗弁およびすべての共同債務者 に共通する抗弁をもって対抗することができる。 ②連帯債務者は純粋に他の共同債務者の一身に関する抗弁をもって対抗することができない。 フランス民法典一二九四条 ①保証人は、主たる債務者の債権による相殺をもって債権者に対抗することができる。 ②しかし、主たる債務者は、保証人の債権による相殺をもって債権者に対抗することができない。 ③連帯債務者は、共同債務者の債権による相殺をもって債権者に対抗することができない。 フランス民法典一二九五条 ①債権者の権利の譲渡に異議を留めずに承諾した債権者は、その承諾前に譲渡人に対抗することができた相殺をもって譲 受人に対抗できない。 ②債務者が譲渡を承諾せず、債務者に対してその通知があったときは、譲渡はその通知以後の債権の相殺のみを妨げる。 フランス民法典二三〇八条︵旧二〇三一条︶ ①最初に弁済した保証人が主たる債務者に対して自己の行なった弁済を通知しなかった場合には、その後に弁済した主た る債務者に対する求償権を有しない。但し、債権者に対して、返還請求訴権を行使することを妨げない。
②保証人が請求を受けることなく、かつ、主たる債務者に通知せずに弁済をした場合には、弁済の当時に、主たる債務者 が債務消滅の言渡しを受けるための防御方法を有していたときには、保証人は主たる債務者に対して求償権を有しな い。但し、債権者に対して、返還請求訴権を行使することを妨げない。 フランス民法典≡二=二条︵旧二〇三六条︶ ①保証人は、主たる債務者に属し、主たる債務に属しているすべての抗弁をもって債権者に対抗することができる。 ②しかし、保証人は、債務者の債務者の一身に専属する抗弁権をもって対抗することができない。 ︵1︶フランス民法における理論的発展に関しては、淡路剛久﹃連帯債務の研究﹄︵弘文堂、一九七五年︶七一頁以下、福田誠治 ﹁一九世紀フランス法における連帯債務と保証︵一︶﹂北大法学論集四七巻五号︵一九九七年︶一二七一頁以下および同コ九世紀 フランス法における連帯債務と保証︵四︶﹂北大法学論集四八巻二号︵一九九七年︶二七一頁以下に詳細な研究がなされている。 日本における立法の沿革に関しては、前掲・淡路﹃連帯債務の研究﹄一四一頁以下、前掲・福田コ九世紀フランス法における連 帯債務と保証︵六︶﹂北大法学論集五〇巻三号︵一九九九年︶四九一頁以下および前掲・福田コ九世紀フランス法における連帯 債務と保証︵七・完︶﹂北大法学論集五〇巻四号︵一九九九年︶七四五頁以下を参照。なお、ドイツ民法における連帯債務につい て、浜上則雄﹃現代共同不法行為の研究﹄︵信山社、一九九三︶三八九頁以下。 ︵2︶d呂∪力○目NOO命き肉R↓賠雲§動砺9爵器さ鍵§匙9籍題Φ醤這q§慧9⑦麩蜜d呂U勾OHβ力・ヨρ80鼻 ︵3︶d呂U力○目NOO企8・亀腎ーワN蜜内田貴﹁ユニドロワ国際商事契約原則二〇〇四ー改訂版の解説圃﹂NBL八一二号︵二〇〇五 年︶七八頁。 ︵4︶望①O・B昌ωω一88曽ぺ88昌09霞8けU碧堕等爵§㌧窃9肉ミ8Φ欝9良還9富ミ評慧L貫困q≦Rい署H昌Φ旨蝕9巴一 頃磐臓ρNOOω● ︵5︶↓冨OOB旨量88国霞88pO8霞8け鍔ヨ8も貸や置ρ潮見佳男他訳﹃ヨーロッパ契約法原則皿﹄︵法律文化社、二〇〇八 49
年︶八六頁。 ︵6︶我妻榮﹃新訂・債権総論﹄︵岩波書店、一九六四年︶三二二頁以下を参照。ただし、前述のように、民法四六二条二項後段につ いては、従来の学説において、三者問相殺として扱われていないが、実質的には、三者間相殺を前提とする規定であるために、こ こにおいて検討の対象に加える。 ︵7︶前掲・我妻﹃債権総論﹄三二二頁、於保不二雄﹃債権総論︵法律学全集二〇︶﹄︵有斐閣、新版、一九七二年︶二三二頁、奥田 昌道﹃債権総論﹄︵悠々社、増補版、一九九二年︶四七三頁、前田達明﹃口述・債権総論﹄︵弘文堂、第三版、一九九三年︶五〇一 頁、平井宜雄﹃債権総論﹄︵弘文堂、第二版︵一九九六年部分補正版︶、一九九四年︶二二二頁、鈴木禄弥﹃債権法講義﹄︵創文 社、第三版、﹃九九五年︶四〇七・四〇八頁、中田裕康﹃債権総論﹄︵岩波書店、二〇〇八年︶三七二二二七三頁。 ︵8︶旧民法財産編五一二条①主たる債務者は自己の債務と債権者が保証人に対して負担する債務との相殺を以て債権者に対抗する ことを得ず。然れども訴追を受けたる保証人は債権者が主たる債務者又は自己に対して負担する債務の相殺を以て対抗することを 得。 ②連帯債務者は債権者が其連帯債務者の他の一人に対し負担する債務に関しては其一人の債務の部分に付てに非ざれば相殺を以 て対抗することを得ず。然れども自己の権に基き相殺を以て対抗す可きときは全部に付き之を申立つることを得。 ︵9︶なお、現行民法四三六条二項の原案が法典調査会に提出された時点では、現行民法が自動相殺主義を採用するのか、意思相殺 主義を採用するのかが明確ではなかった。しかし、保証人が主たる債務者の債権をもって相殺することができると規定している民 法四三六条二項について、梅謙次郎が﹁相殺と云うふものは当然生ずべきものとなつて居らずして其場合には特に対抗することを 要すと既成法典にもなつて居る程で本案でも多分然う云ふ主義になるかもしれませぬ﹂︵前掲﹃法典調査会民法議事速記録︵三︶﹄ 四八九頁︶と述べていることから、起草者は、自動相殺主義となっても、意思相殺主義となっても、保証人が主たる債務者の債権 による相殺を援用できるということを民法に規定することができるものと考えていたことが理解されることに注意が必要である。 ︵10︶梅謙次郎﹃民法要義巻之三﹄︵有斐閣、補訂増補三〇版、一九一〇年︶一七二・一七三頁。 ︵n︶前掲・梅﹃民法要義﹄一一四頁。 50
︵1 2︶前掲・我妻﹃債権総論﹄四一三頁、四八三頁、前掲・奥田﹃債権総論﹄三五六頁、三九八頁、前掲・前田﹃口述・債権総論﹄ 三三〇二一≡二頁、三六三頁、前掲・鈴木﹃債権総論﹄四三八頁、四六五頁、潮見佳男﹃債権総論H﹄︵信山社、第三版、 二〇〇五年︶五五七・五五八頁、前掲・中田︵裕︶﹃債権総論﹄四六七頁。 ︵13︶前掲・福田﹁一九世紀フランス法における連帯債務と保証︵七・完︶﹂七二一頁以下。なお、連帯保証という概念の存在意義が 連帯保証を説明するために必要な概念的道具であると考えれば、そもそも連帯保証に独自の意味を認める必要性は乏しいと考えら れるため、補充性が認められないとされている連帯保証︵民法四五四条︶について、一部、補充性を復活させようとする福田論考 の方向性は妥当なものであると思われる。 ︵14︶大判昭和ニマ一二⊥一民集一六・一九四五。 ︵15︶於保不二雄﹃債権総論﹄︵有斐閣、新版、一九七二年︶二三二頁、前掲・浜上﹃現代共同不法行為の研究﹄三九〇頁、前掲・平 井﹃債権総論﹄三三六頁、川井健﹃債権総論︵民法概論三︶﹄︵有斐閣、二〇〇二年︶二一一四頁。また、民法四三六条二項につき、 平野裕之﹃債権総論﹄︵信山社、二〇〇五年︶三九三頁では、﹁抗弁説では相殺がされなかった場合に、保証人の保護として十分で はない。相殺の意思表示を必要としながら、当然相殺主義での保護を修正しない趣旨であるとすれば、四三六条二項を根拠に、保 証人に相殺まで認めてよいように思われる﹂とされている。 ︵16︶フランスでは、債権者も相殺を主張できると考えられているが、この点については疑間が存する︵深川裕佳﹃相殺の担保的機 能﹄︵信山社、二〇〇八年︶三〇〇頁以下︶。 ︵17︶○再一の江磐ζ○目メ8,黛貸⇒。一蜀 ︵18︶前掲・我妻﹃債権総論﹄四八一頁。 ︵19︶︾¢ω紹①勇さ9墨砺魯魯鼻蝕蕊堅§琶9墨①.σ9冨困ω>召2も畳ωレ。蜀8G 。寅88HG 。Φ江。月男醤︵コyω冒田幻︵寄︶Φけ 寓曾胃田︵K。︶︶bさ論貸邑S題09題&湧る.σ倉U餌一一〇Nる○09づ。一謡介つ一N$ ︵20︶前掲・平井﹃債権総論﹄三二一頁。 ︵21︶前掲・深川﹃相殺の担保的機能﹄二二四頁以下、四二五頁以下。 51