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新聞特殊指定の見直し(2005年~2006年)と公取委のスタンス : 市場主義の貫徹か他政策との調整か

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(1)

I

はじめに

 競争政策と他政策を調整するか否か、調整する として競争政策をどう実現するかは、独禁法制に 直結する大きな課題である。調整の局面は多様で あるが、非商品的価値が関わる場合、市場主義の 貫徹の是非という形で問題になる。本稿では、新 聞特殊指定の見直しを素材に、問題状況の一端 を解明する。  公取委は

2005

11

月から

2006

6

月にかけて、

5

つの特殊指定について見直しを行った1)。制定後 長期間経過し、近年運用実績がないとされたもの がそうである。その結果、

4

つの特殊指定(食品か ん詰め・食品びん詰め業、海運業、オープン懸賞、 教科書業)は廃止されるに至ったが、新聞特殊指 定については、次のような結末であった。「新聞業 界等との間で鋭意議論を進めてきたところである が、その取扱いについて、……今回の見直しでは 結論を出すことを見合わせることとした」。  タイムリーとはいいがたいが本稿において、この 見直しで新聞特殊指定について結論を出すのを 見合わせることとした顛末に立ち入ることにより、 公取委のスタンスを明らかにし、また見直しの将 来を展望する2)。鍵となるのは、市場主義の貫徹か、 競争政策と他政策との調整かである。検討に際し ては、

2001

年にほぼ

9

年にわたる検討の結論をみ た著作物再販制度 の見直しとその 後 の 経緯、

1999

年の新聞特殊指定の全部改正を踏まえるこ ととする。  叙述は、次の順による。まず、著作物再販制度 の見直しの最終結論とその後の経緯、

1999

年の 新聞特殊指定の全部改正を紹介する(Ⅱ)。次に、

新聞特殊指定

見直

2005

年∼

2006

年)

公取委

のスタンス

市場主義の貫徹か他政策との調整か

1)以下、「特殊指定の見直しについて」 (平成18年6月2日、公正取引委員会)参照。 2)関連して、伊従寛「新聞特殊指定の廃止をめぐって」 NBL839号41頁(2006)、 愛敬浩二「憲法と独占禁止法」土田和博・須網隆夫(編著) 『政府規制と経済法』28−36頁(日本評論社、2006)、 上杉秋則『独禁法の来し方・行く末』215−22、 内田耕作 Kosaku Uchida 滋賀大学経済学部 / 教授 論文

(2)

直近の新聞特殊指定の見直しの顛末に立ち入る (Ⅲ)。そして最後に、公取委のスタンスを明らか にするとともに見直しの将来を展望し、むすびと する(Ⅳ)。

II

過去の経験

1

:著作物再販制度の見直しの最終結論と その後の経緯

1

)見直しの最終結論  公取委は、

1991

年以降ほぼ

9

年間、独禁法適用 除外制度の見直しの一環として著作物再販制度 の検討を行ってきたが、

2001

3

月、最終結論を 得た。

a

最終結論の紹介  本稿に関わる事項のみ記せば、次のようである3) (

A

①∼③は制度の取扱いの基本、

B

④∼⑥は制 度の運用。なお、⑥の前半は制度の取扱いの基本)。  

A

① 「著作物再販制度は、独占禁止法上原 則禁止されている再販売価格維持行為に対する 適用除外制度であり、独占禁止法の運用を含む 競争政策を所管する公正取引委員会としては、規 制改革を推進し、公正かつ自由な競争を促進する ことが求められている今日、競争政策の観点から は同制度を廃止し、著作物の流通において競争 が促進されるべきであると考える。」  

A

② 「国民各層から寄せられた意見をみると、 著作物再販制度を廃止すべきとする意見がある反 面、同制度が廃止されると、……新聞の戸別配達 制度が衰退し、国民の知る権利を阻害する可能 性があるなど、文化・公共面での影響が生じるおそ れがあるとし、同制度の廃止に反対する意見も多 く、なお同制度の廃止について国民的合意が形成 されるに至っていない状況にある。」  

A

③ 「現段階において独占禁止法の改正に 向けた措置を講じて著作物再販制度を廃止するこ とは行わず、当面同制度を存置することが相当で あると考える。」  

B

④ 「著作物再販制度の下においても、消費 者利益の向上につながるような運用も可能であり、 関係業界においてこれに向けての取組もみられる が、……著作物再販制度が硬直的に運用されて いるという指摘もある」ため、「現行制度の下で可 能な限り運用の弾力化等の取組が進められること によって、消費者利益の向上が図られるよう、関係 業界に対し、非再販商品の発行・流通の拡大、各 種割引制度の導入等による価格設定の多様化等 の方策を一層推進することを提案し、その実施を 要請する。」  

B

⑤ 「〔④に掲げた〕方策が実効を挙げてい るか否かを検証し、より効果的な方途を検討する など、著作物の流通についての意見交換をする場 として、公正取引委員会、関係事業者、消費者、学 識経験者等を構成員とする協議会を設けることと する。」  

B

⑥ 「今後とも著作物再販制度の廃止につい て国民的合意が得られるよう努力を傾注するとと もに、当面存置される同制度が硬直的に運用され て消費者利益が害されることがないよう著作物の 取引実態の調査・検証に努める。」

b

検討  競争政策の観点からは著作物再販制度を廃止 し、著作物の流通において競争が促進されるべき であると考える4)にもかかわらず、公取委が、現段 226−27頁(第一法規、2007)、 白石忠志『独占禁止法〔第2版〕』197−99頁 (有斐閣、2009)参照。 3「著作物再販制度) の取扱いについて」 (平成13年3月23日、公正取引委員会)参照。 4)このことは、再販行為が「小売店間の 価格競争を制限し、消費者利益を害するものとして 独占禁止法で原則違法とされているものであり、 著作物再販制度はこの例外を定める制度で あることからは当然であると考えられる」とする。 西川康一「著作物再販制度の取扱いについて」 公取607号31、32頁(2001)。

(3)

階において独禁法の改正に向けた措置を講じて 制度を廃止することは行わず、当面制度を存置す ることが相当であると考えたのはなぜか。それは、 最終結論では、著作物再販制度が廃止されると、 新聞の戸別配達制度が衰退し、国民の知る権利 を阻害する可能性があるなど、文化・公共面での影 響が生じるおそれがあるとして廃止に反対する意 見も多く、なお廃止について国民的合意が形成さ れるに至っていない状況にあること、に求められて いる。分節すれば、著作物再販制度の廃止により 文化・公共面での影響が生じるおそれがあるとして 廃止に反対する意見が多いということと、廃止につ いて国民的合意が形成されるに至っていない状 況にあるということである。決定的なのは、後者の 国民的合意である。というのは、著作物再販制度 の廃止は「法律改正を必要とする事項であり、こ れを行うには国民的合意が不可欠である」とされ ているからである5)  それでは、国民的合意を得るために公取委は何 をもってどう努力するのか。この点、「著作物再販 制度を含む独占禁止法の適切な運用を行うこと を通じて、国民各層において競争政策に対する理 解を深めていくことが必要と考えられる」とする6) それは、「競争政策に対する理解が必ずしも十分 得られていなかったり、著作物の関係業界におけ る非再販商品の発行、流通の経験等が少ないこと も関係している」と考えていることによる。 (

2

)その後の経緯  公取委の目指すところは、「著作物再販制度の 廃止について国民的合意が得られるよう努力を傾 注する」ことである。このことに着目すれば、何より も、公取委がどのような努力を傾注したかが問題 になる。また、著作物再販制度が当面存続するこ とを前提として、硬直的運用による消費者利益の 侵害を防止するために、どのような対応を採った のかも問題になる。具体的には、①非再販商品の 発行・流通の拡大、各種割引制度の導入等による 価格設定の多様化等の方策を一層推進すること の提案と、その実施の要請、②前記①の方策が実 効を挙げているか否かを検証し、より効果的な方 途を検討するなど、著作物の流通についての意見 交換をする場としての、公正取引委員会・関係事 業者・消費者・学識経験者等を構成員とする協 議会の設置、③当面存置される著作物再販制度 が硬直的に運用されて消費者利益が害されるこ とがないようにするための、著作物の取引実態の 調査・検証、が問題になる。さらには、制度が当面 存続することを前提とした対応と、最終目標である 廃止についての国民的合意を得るための努力の 傾注との関わりも、問題になろう。  まず、最終目標について。制度廃止について国 民的合意が得られるよう公取委がどのような努力 を傾注したかは不明である。  公取委の対応の中心は、制度が当面存続するこ とを前提としたものであるように思われる。①に関 わっては、提案の詳細は不明であるが、「各種割引 制度の導入等による価格設定の多様化等の方策 を一層推進することを提案し、その実施を要請し た」とする7)。②に関わっては、「著作物再販協議 会」が設置され、第

1

回が

2001

12

月に開催され た。以後、毎年

1

回開催され、

2008

6

月が第

8

回 となっている。例えば第

1

回の会合では、「(事務局 から)著作物再販制度の弾力的運用に関する関 係業界の取組状況について報告が行われ、会員 間で自由討議が行われ」ている8)。③に関わっては、 公取委による新聞社に対する新聞業界の流通・取 5)西川・前掲(注4)32頁。 6)以下の叙述は、西川・前掲(注4)33頁による。 7「著作物再販制度) の弾力的運用に関する 協議会の開催について」(平成13年11月21日、 公正取引委員会)参照。 8「著作物再販協議会(第) 1回)議事概要」 (平成13年12月11日、公正取引委員会)参照。 9「著作物再販制度) に関する最近1年間における 公正取引委員会等の動きについて」 (平成17年6月16日、公正取引委員会)参照。

(4)

引慣行改善等の取組状況についてのアンケート 調査実施(

2005

3

月)がある9)。なお、関係業界 からの提出資料、アンケート調査、ヒアリング調査 を基に公取委が取りまとめた関係業界における取 組状況は、著作物再販協議会資料とされている10)  もっとも、制度が当面存続することを前提とした 対応が、最終目標である廃止についての国民的合 意を得るための努力の傾注とどのような関わりを 持つか、読み解くことはできない。

2

1999

年の新聞特殊指定の全部改正

1

)端緒  新聞特殊指定の見直しは、著作物再販制度の 存在を前提としている。

1998

3

月、公取委は、「こ れまで我が国における著作物再販制度は、関係 業界により硬直的・画一的に用いられてきた傾向 があり、結果として消費者ニーズへの対応や利便 の向上を損なったり、流通取引に悪影響をもたら している面もみられる」との認識の下に、これらの 弊害について、「迅速かつ的確にその是正を図るこ とが重要であるとの観点から、次のような取組み を行っていくこととする」として、「価格設定の多様 化を阻害することのないよう、新聞業における特殊 指定(昭和

39

年公正取引委員会告示第

14

号)の 見直しを行うこと」を取組みの一つとして表明し た11)。ここでは、特殊指定の見直し作業が、「再販 制度の下における新聞業の流通・取引慣行改善 等を図る観点」から進められたことに着目しなけ ればならない12)

2

)改正の理由  本稿に関わる限りで、改正の理由は、旧

1

項が 「多様な価格設定を阻害するおそれがあること」と される。具体的には、次のように説明される13) 「〔旧〕

1

項の規定の文言は、異なる定価の設定等 が一律に禁止されているかのような規定振りに なっていることにかんがみ、正当かつ合理的な理 由のある場合には、異なる定価を付す等の行為が 不公正な取引方法として違法とならないことを明ら かにし、特殊指定がこのような新聞の価格設定の 多様化を阻害することのないようにしようとするも のであります。」  なお、著作物再販制度との関わりで、次のように 説明されていることにも留意しておく必要がある14) 「今回の特殊指定第

1

項の見直しに当たっては、新 聞が独占禁止法第

24

条の

2

に基づき適用除外と されている著作物再販制度の対象とされており、 販売業者による定価の割引行為に関する規定に ついては、現に制度として存在する再販契約の履 行とからむ問題であることにかんがみ、著作物再 販制度の問題と並行して検討を行うこととし、今 回の改正案では必要最小限の文言の修正を行う ことにとどめています。」 (

3

)改正の内容  本稿に関わる限りで、改正内容は次のようであ る。旧

1

項では、日刊新聞の発行・販売業者が、直 接・間接に、地域・相手方により、異なる定価を付 し、または定価を割り引くことと、発行業者の行為 と販売業者の行為がまとめて規定されていたのが、

1

項で発行業者の行為、

2

項で販売業者の行為と 書き分けられ、それぞれ次のように改められた。

1

項本文で、日刊新聞の発行業者が、直接・間接に、 地域・相手方により、異なる定価を付し、または定 価を割り引いて新聞を販売することを不公正な取 引方法とし、「学校教育教材用であること、大量一 括購読者向けであることその他正当かつ合理的 な理由をもってするこれらの行為については、この 10)例えば、「著作物再販制度の弾力的運用に 関する関係業界の取組状況について」 (平成15年6月13日、公正取引委員会)参照。 11)以下、「著作物再販制度の取扱いについて」 (平成10年3月31日、公正取引委員会)参照。 12「『新聞業) における特定の不公正な取引方法の 全部改正(案)』に関する公聴会における 公正取引委員会説明(平成11年6月30日)」。 13)前掲(注12)の「説明」参照。 14)前掲(注12)の「説明」参照。

(5)

限りでない」との但書を付ける。

2

項で、新聞を戸 別販売の方法により販売することを業とする者(販 売業者)が、直接・間接に、地域・相手方により、 定価を割り引いて新聞を販売することを不公正な 取引方法とする。また、備考で、日刊新聞を定義し、 一定の題号を用い、時事に関する事項を日本語を 用いて掲載し、日日発行するものとする。  ここでは、二つのことに留意する必要がある。一 つは、

1

項の但書と備考の追加、

2

項における主体 の限定が、改正理由との関わりで行われたことで ある。そしてもう一つは、

2

項の実質的な規定内容 が、当時進行中の著作物再販制度の見直しとの 関わりで、旧

1

項の規定内容を維持していることで ある。

3

:小括  過去の経験から判明するのは、次のことである。 一つに、公取委は、市場主義を貫徹しようとしてい る。そのことは、著作物再販制度の見直しの最終 結論に明らかである。公取委は、競争政策の観点 から、著作物再販制度の廃止を最終結論とする。 そこには、他政策との調整の意思はみられない。  二つに、著作物再販制度の廃止に向けて、二つ の対応を構想する。廃止について国民的合意が得 られるよう努力を傾注することと、硬直的運用によ り消費者利益が害されることがないよう防止する こと、である。これらは、市場主義の貫徹から当然 に帰結する対応ということができる。そして、国民 的合意を得るためには、競争政策に対する理解の 深化が必要と考え、また、硬直的運用による消費 者利益の侵害の防止を通じた、著作物再販制度 に対する評価の変化にも期待を寄せる。しかし、 新聞のように非商品的価値が問題となる場合、競 争政策に対する理解の深化と著作物再販制度の 廃止をどう結びつけるのか。市場主義を振りかざ せば振りかざすほど、むしろ著作物再販制度の廃 止の合意を得るのは困難になるという面があるの ではないか。また、硬直的運用による消費者利益 の侵害の防止を通じた、著作物再販制度に対する 評価の変化を、著作物再販制度の廃止にどう結び つけるのか。地道な努力の傾注が不可避である。 短絡的な結びつけは、かえって問題状況を混乱さ せるだけである。  そして三つに、

1999

年の新聞特殊指定の全部 改正は、著作物再販制度を前提に、新聞業の流 通・取引慣行の改善等を図る観点から、必要最小 限の修正として行われた。新聞特殊指定の見直し が著作物再販制度と結び付けられていることに、 留意しなければならない。

III

2005

年から

2006

年の

新聞特殊指定の見直しの顛末

1

:公取委が設定した見直し議論の 枠組みと結論  公取委がまず問題点を指摘し、その問題点解 消の主張を新聞業界にさせるというのが、見直し 議論の枠組みである15)。そして、次の結論を導く。 「新聞業界の主張は、公正取引委員会が指摘する ……問題点を解消することのできるものではない と考える。しかしながら、これまで公正取引委員会 と新聞業界との間で議論を繰り返してきたものの、 議論が噛み合っておらず、これ以上の議論を続け ても特段の進展は望めない状況にある。また、各 政党においても、新聞特殊指定を存続させるべき との議論がなされているところである。」「これらの 15)以下、「特殊指定の見直しについて」 (平成18年5月31日、公正取引委員会)参照。

(6)

状況を踏まえ、公正取引委員会は、新聞特殊指定 については、今回の見直しでは結論を出すことをみ あわせることとした。」

2

:問題の所在   問題は、見直し議論の枠組みそのもの、公取委 と新聞業界との間での議論、見直しの政治環境の それぞれにある。 (

1

)見直し議論の枠組み

a

見直しの観点  著作物再販制度の見直しの観点は、次のように 叙述されている16)。ごく最近制定された特殊指定 (物流、大規模小売業)を除く「

5

つの特殊指定の 現段階における必要性及び今後の取扱いについ て検討を行っている」。

5

つの特殊指定については、 「いずれも制定されてから相当の期間が経過して おり」、それぞれの特殊指定につき、「対象となる行 為は、現在においても独占禁止法上問題とすべき ものか」、「(問題とすべきであるとしても)一般指定 で対応できないのか」、「(特殊指定で対応すべき であるとしても)その内容が過剰となっていないか」 という観点から、「廃止を含めた見直しを行ってい る」。「この見直しは、制度面におけるフォールスポ ジティブ(規制すべきではない行為を規制してしま う誤動作)を是正するための方策と位置づける」こ とができる。  しかしこの説明からは、

1999

年に見直しが行わ れて

6

年しか経っていない新聞特殊指定の改めて の見直しがなぜ必要となるのか、その理由は必ず しも判然としない。この点、規制緩和の時代にあっ ては、弊害の有無ではなく必要性の有無の観点か らの見直しが緊要であると強調して補正が図られ ている17)、出発点から見直しに暗雲をもたらし た要因の一つとなったことは間違いない。各別に 見直しの観点を明らかにする必要があったであ ろう。

b

見直しの範囲  見直しは、廃止を含めてであることが強調され る。新聞特殊指定に関しては、

1999

年に直近の見 直しが行われているので、廃止を含めて改めて見 直す必要性を特に説かなければならない。この点、 さらに見直しをすべきところが当時から残されてお り、宿題になっているとの認識を示す18)。しかしこ の認識からは、宿題として残された部分だけの見 直しとなるように思われるが、直近の見直しから

6

年経ったことを強調して、全面的見直しの必要を 説く。見直しの観点(前出

a

)とも照らし合わせれば、 廃止も含めた見直しの必要性を十分に説明でき ていない。このことも、出発点から見直しに暗雲を もたらした要因の一つとなったように思われる。

c

見直しのスタンス  ゼロベースであることを強調して、「(特殊指定 を置いておく意味があるのかどうかという)観点か ら必要だといえなければ廃止という結論もあると 思いますし、必要だということで納得できる形にな れば存続ということもあるだろうと思います」と言 う19)。確かに特殊指定を新たに行う場合には、必 要性を基準とすることに異論はなかろう。しかし見 直しの場合、弊害基準をとることはできないとして も、必要性基準で足りるとも言えないのではないか。 しかも、必要性の判断基準が明らかになっていな ければ、混乱の要因になる。

d

見直しの手続  独禁法

71

条は、公取委が特殊指定をしようとす るとき、「当該特定の取引方法を用いる事業者と 同種の事業を営む事業者の意見を聴き、かつ、公 16)以下、舟橋和幸「取引部の今年の課題」 公取663号13、16−17頁(2006)参照。 また、「事務総長会見記録(平成17年11月2日付)」参照。 17)「事務総長会見記録(平成17年11月2日付)」参照。 18)以下、「事務総長会見記録(平成17年11月2日付)」参照。 19)「事務総長会見記録(平成17年11月2日付)」参照。

(7)

聴会を開いて一般の意見を求め、これらの意見を 十分に考慮した上で、これをしなければならない」 と規定するが、見直しに関わっては、何らの規定も 置いていない。この点、公取委は、特殊規定の見 直しに当たっても、有識者、業界、一般の意見を十 分に聴いた上で作業を進めることを当初から表明 している20)。このことに異論はない。問題は、その 実体が備わっているかであり、また規定がないこ とが公取委の運用にどのような影響を与えるかで ある。 (

2

)公取委と新聞業界との間での議論

a

公取委設定の議論の枠組み  公取委側は、

2

段階の枠組みを示す21)。一つは、 特殊指定制定時に問題となった行為が今日も存 在するか、である。そしてもう一つは、存在するとし て、一般的に適用し得る一般指定に加えて特殊 指定を置く意味があるか、過剰規制になっている 部分がないか、ということである。具体的には、規 定のあり方、特殊指定の定め方、規定振りが、今日 の必要性にあっているか、である。  一般論としては、この枠組みに問題はないよう にみえる。しかし、必要性に収斂する形で具体的 枠組みが構築されれば、問題が生じ得る。

b

議論の進め方  公取委側は、新聞各社から選抜された委員から なるプロジェクトチームによる内部検討を待って 議論を進め、それまでの間は公取委側が「言わん とする趣旨をよく伝え」ることとした22)

1

月に第

1

目の話合いがもたれ、見直しの必要性、問題意識 について公取委側が端的に指摘し、質疑応答がな された23)。話合いは月

1

回のペースでもたれること とされた。実際にも、月

1

回開催されたことがうかが える24)  この議論の進め方からすれば、妥協点を見出 す方向に議論が収斂することはあまり期待できそ うにない。そもそも公取委側が妥協点を見出すこ とを現実の選択肢として持っていたかも、不明で ある。 (

3

)見直しの政治環境

a

政治家の動き方  政治家は、次のような動き方をする傾向にある。 一つの政策に固執することなく、いくつかの政策を 総合的に判断する。そしてその判断をするに際し ては、国民(消費者)・業界などの意向に敏感に反 応する。本稿に即していえば、競争政策だけを考 慮要因とするのではなく、国民(消費者)・新聞業 界の意向に敏感に反応して、文化政策等も考慮に 入れて総合的な判断をする。  このことの是非はあり、論難することは可能であ る。しかし必要なのは、公取委が、政治家の動き を見極めた上で、その態度決定をすることである。

b

立法マターではないということの意味  独禁法

72

条は、不公正な取引方法の指定は告 示により行う旨規定する。その限りで立法マターで はない。公取委側は、「法律制度論ですから、粛々 と作業を進めていきたい」という25)  しかし、政治的環境に置かれたとき、このことを 強調することには問題がある。

3

:見直しの経緯

1

)新聞業界との話合い  公取委側は、上述

2

1

c

を見直しのスタンスと して、上述

2

2

b

の進め方に従って新聞業界との 話合いを進めた。

2

回目の話合いを終えた時点で、 公取委側は、次の認識を示す26)「とても物事の 本質が理解されたとは考えられない状況」にあり、 20)「事務総長会見記録(平成17年11月2日付)」参照。 21)以下、「事務総長会見記録(平成17年11月2日付)」参照。 22)「事務総長会見記録(平成17年11月9日、 12月7日付)」参照。 23)以下、「事務総長会見記録(平成18年1月18日、 1月25日付)」参照。 24)「事務総長会見記録(平成18年3月8日、 4月12日、5月10日、5月31日付)」参照。 25)「事務総長会見記録(平成18年3月8日付)」参照。

(8)

「法律問題ですから、法の仕組みとか、そういうの をまず理解して議論しないと進まない」。もっとも、 公取委と新聞業界との間でどのような議論が行わ れ、どの点で合意に達し、どの点で平行線をたどっ たかは詳らかにできないが、新聞協会の声明・ 特別決議、公取委の公表文からおよそのことは分 かる。

a

新聞協会の声明  新聞協会は、公取委が新聞特殊指定の見直し 開始を明らかにした当日(

2005

11

2

日)、抗議 声明を出した27)。当初から議論がかみ合わないこ とを予感させる。声明は概要、次のようにいう。新 聞は公正な情報提供と日本文化の保持という社 会的・公共的使命を果たしている。新聞特殊指定 は、新聞の流通システム維持のために定められた。 新聞の特殊指定は再販制度と対をなし、見直し内 容によっては再販制度を骨抜きにする。その結果、 経営体力の劣る新聞販売店は撤退を強いられ、 全国に張り巡らされた戸別配達網は崩壊へ向う。 多くの国民は同一価格による定時の配達を望んで いる。

2005

7

月に施行された文字・活字文化振 興法は、環境整備を基本理念に掲げ、施策実施 を国・地方公共団体に義務付けた。特殊指定の 見直しは、著作物再販の存続を決めた公取委自 身の

4

年前の決定と矛盾する。また、文字・活字文 化振興法にも背き、時代の要請に逆行する。  なお、著作物再販制度の見直し、

1999

年の新 聞特殊指定の全部改正の経緯をも考慮に入れる と、公取委と新聞業界との話合いがかみ合わない ことは、当初から予想されることであった。公取委 は織り込み済みであったかもしれない。

b

新聞協会の特別決議  新聞協会は、

2006

3

15

日、会員総会で新聞 特殊指定の堅持を強く求める特別決議を採択し た28)。その内容は概要、次のようである。新聞は、 国民の「知る権利」に寄与する。この使命は、公正 な競争を通じ、住む場所を問わず困難な状況下で も、同一紙同一価格で戸別配達により提供される ことにより実現される。新聞販売店による定価割 引の禁止を定めた特殊指定は再販制度と一体で あり、その見直しは再販制度を骨抜きにする。販 売店の価格競争は配達区域を混乱させ、戸別配 達網を崩壊に向わせる。その結果、多様な新聞の 選択という読者・国民の機会均等を失わせること につながる。文字・活字文化振興法は、文字・活 字文化の恵沢を享受できる環境の整備を国に義 務付けている。公取委による特殊指定の見直しは、 時代の要請にも逆行している。  この特別決議は、

2005

11

月の声明とスタン スを同じくする。

c

公取委の公表文   公取委が今回の見直しでは結論を出すことを見 合わせることとした際の公表文において、公取委 による問題点の指摘、新聞業界の主張、主張が問 題点を解消するか否かの判断が、次のように整理 されている29)  公取委は、概要、次の点を指摘した。①価格競 争は、本来、競争の最重要な要素そのものであっ て、「公正な競争を阻害するおそれがあるもの」と はいえず、価格競争を原則的または全面的に禁止 するような新聞特殊指定は、独禁法上の要件を 満たしているとはいえない。②新聞特殊指定が存 在するがゆえに、著作物再販制度の下では各発行 本社の判断により実施可能な長期購読割引定価 なども導入されておらず、この意味で、新聞特殊指 定は、消費者利益増進の障害となっている。要す 26)「事務総長会見記録(平成18年3月8日付)」参照。 27「新聞) の特殊指定見直し表明に関する 新聞協会の声明」(平成17年11月2日)。 28「新聞特殊指定) の堅持を求める特別決議」 (平成18年3月15日、日本新聞協会第83回会員総会)。 29「特殊指定) の見直しについて」 (平成18年5月31日、公正取引委員会)参照。

(9)

るに、新聞特殊指定は価格競争を原則的または 全面的に禁止するとの考え方に立脚しており、当 該特殊指定の維持は法的相当性や消費者利益 の観点から問題がある、というのである。加えて、 戸別配達は消費者と新聞販売店・発行本社双方 の強いニーズから成り立っており、新聞特殊指定 がなくなっても戸別配達が行われなくなるというも のではない、ともいう。  新聞業界は概要、次の主張をした。①新聞特 殊指定が現実に存在している以上、その告示の際、 法的根拠が必ず存在したはずであり、新聞につい ては、販売店による定価の割引行為が、それ自体 として「不当な対価」「不当な顧客誘引」に該当し、 消費者の利益を損ない公正な競争を阻害する。 ②新聞は民主主義の維持・発展に欠かせない商 品であり、新聞特殊指定の見直しは、単に競争政 策や経済原理によってのみ判断されるべきではな く、新聞の商品特性や文字・活字文化の振興と いった文化政策の観点からの議論も必要である。 ③著作物再販制度と新聞特殊指定が補完し合う ことで同一紙同一価格と新聞の戸別配達が支え られており、新聞特殊指定がなければ、同じ新聞 を届ける販売店間の価格競争の結果、経済効率 の悪い地域には新聞が配達されなくなることも予 想され、読者の情報に対する平等なアクセスが保 障されなくなる。  新聞業界の主張は、公取委が指摘する問題点 を解消するものではない。  公取委のまとめであることに留意する必要があ るが、この整理の仕方は、公取委の議論の建て方 を如実に反映しているように思われる。

d

対立軸とならなかったと思われる点  「新聞特殊指定の見直し検討について」によれ ば、公取委は、次のことを検討の視点の一つとして 挙げている30)。新聞特殊指定

3

項は発行本社によ る販売店への押し紙行為を禁止しているが、前者 が後者に対し優越した地位にあることが基本的に 明らかであり、押し紙行為については、明らかに販 売店に不当な利益を与えるものであり、一般指定 (優越的地位の濫用)で十分対応できると考えら れる。  この点については、どのような議論がなされたの か判然としない。少なくとも、上記の新聞協会の声 明・特別決議、公取委のまとめでは取り上げられ ていない。対立はなかったのかもしれない。その限 りで、公取委と新聞業界とはことごとく対立したわ けではなさそうである。 (

2

)政界の動き  撤廃反対・存続堅持の決議と表明、公取委へ の申し入れ、法改正の模索の

3

段階がある31)

2006

3

月以降、与野党を問わず各政党内で、 あるいは政党を超えて議員懇談会などがもたれ、 撤廃反対・存続堅持の決議がなされた。また、政 党による表明もなされた。撤廃反対・存続堅持の 理由は、例えば、次のところに求められた。特殊指 定の撤廃は、「活字文化の重要な部分を担う新 聞」の「戸別配達網を崩壊に向わせ、多様な新聞 を選択できるという国民の『知る権利』を大きく損 なう可能性がある」。新聞は、「活字文化の一つとし て、全国あまねく網羅された戸別配達制度を通じ て、国民の文化的生活を豊かにするとともに、国民 が主体的な判断を行うに必要な情報を提供する など、重要な社会的役割を果たしている」が、「再 販売価格制度と特殊指定制度のどちらが欠けて も十分その社会的役割を果たすことはできない」。 「すべての人がどの地域でも同じ料金で必ず新聞 30「特殊指定) の見直しについて」 (平成18年3月27日、公正取引委員会)に所収。 31)情報源は新聞であるが、 煩雑をさけるため、出所は省略する。 朝日新聞平成18年5月15日付など参照。

(10)

を読めることを保障すべき」である。特殊指定の 見直しは、「再販制度の廃止につながり、……過 疎地域で新聞が手に届かないことも懸念される」。  撤廃反対・存続堅持の決議文書は、公取委に 提出されて撤廃反対・存続堅持の申し入れとされ たものもある。また、

3

24

日には国会において、国 民の利益の確保・向上を図る観点から慎重に作 業を進めるべきとの官房長官の考えが明らかにさ れた。  法改正の模索としては、次の動きがあった。

4

12

日、自民党の有志立法チームが立ち上げられた。 公取委による廃止の強行に備えて戸別配達制度 の維持を担保する立法的枠組みを考え、公取委 を牽制する狙いがあった。その後、

5

12

日には独 禁法の改正素案が、

5

19

日には改正案がまとめ られた。改正の内容は

2

点ある。一つは、特殊指 定の変更・廃止の場合も事業者から意見を聴き、 公聴会を開くことを義務づけるものである。これは、 公取委の裁量に歯止めをかけることを狙いとする。 そしてもう一つは、独禁法

2

9

項に別表を新設し、 特殊指定の対象である新聞を明記するものである。 これは、特殊指定の変更・廃止には独禁法の改 正を必要とするというハードルを設け、公取委の裁 量による見直しに歯止めをかけることを狙いとする。 しかし、

5

31

日、公取委が、結論を出すことを見 合わせる方針を自民党に伝えたことを受け、自民 党は、独禁法改正案の国会提出を見送ることを決 め、

6

2

日、公取委が結論を出すことを見合わせ る方針を正式表明したことを受けて、独禁法改正 案の提出を最終的に見送った。 (

3

)特殊指定見直しに関する資料の ホームページ掲載

2006

3

月末に至り公取委はホームページへ の掲載を決定し、

4

7

日に掲載した32)「いろいろ な新聞紙面におきまして、特殊指定、特に新聞とい うことで廃止に反対する観点から、いろいろな報 道、論説がなされており、我々も注意深く読んでみ ましたけれども、新聞を読んでいる限りでは、なぜ 公取が特殊指定の見直しをする必要があると考え ているのかが分からないのではないかと思われま す」というのが背景であり、「国民がどこに法律上 の問題点があるのか、事の本質……はどこにある のかが分かり、それを踏まえた上で議論していた だきたい」というのが期待される効果である。

4

:廃止できなかった理由  特殊指定が廃止できなかった理由は、三つに分 けてみることができる。一つは、業界と公取委の話 合いが不調に終わったことである。二つは、特殊指 定の見直しが政界の反発を招いたことである。そし て三つは、これがより根源的であるが、国民(消費 者)の積極的支持を得られなかったことである。 (

1

)業界と公取委の話合いの不調  両者には、議論のスタートライン、市場主義の 貫徹か他政策との調整か、議論の進め方の

3

点で、 根本的な考え方の違いがある。  公取委はゼロ地点をスタートラインとすることを 強調するのに対し、新聞業界は、著作物再販制度・ 新聞特殊指定の長年の存在と見直しの経緯、特 に後者の見直しの経緯を踏まえた地点をスタート ラインと強く主張する。両者は自己に有利な地点 を主張しているに過ぎないとも言えるが、制度が存 在する以上は、ゼロ地点をスタートラインと主張す 32)以下、「事務総長会見記録 (平成18年3月29日、4月12日付)」参照。

(11)

る公取委が、制度の存在・効果を考慮する必要が 乏しい理由を説得的に示さなければならない。し かし、次に述べるように、説明は説得的とは言いが たい。  公取委は市場主義の貫徹を期すのに対し、新 聞業界は競争政策と文化政策を、後者に力点を置 いて調整することを期す。両者がそれぞれに有利 なスタートラインを設定しようとしているのも、この 目的の達成と関わっている。しかし、非商品的価 値が問題となる場合に公取委が市場主義を貫徹 できるか、そもそも疑問がある。公共性・安全性な どの社会的妥当性は独禁法の考慮要因とされる というのが、判例の立場である33)。その限りで、公 取委が市場主義の貫徹に固執することには問題 がある。公取委は、競争政策と文化政策をともに、 独禁法において内在的に考慮する枠組みを設定 すべきであった。公取委は文化政策を外在的に考 慮しようとしているが、それでは十分でない。  このようにみてくると、公取委は無理な議論の進 め方をしている。市場主義の貫徹を期し、ゼロ地 点をスタートとすることは、調整の余地を限りなく 狭めることになる。これでは話合いの余地も狭まる ことになる。新聞業界にすれば、公取委が提起す る問題点を認めて新聞特殊指定の廃止を了とする か、話合いを平行線に終わらせるかの二者択一を 迫られたに等しい。実際にも、業界と公取委の話 合いは不調に終わった。 (

2

)政界の反発  政界の反発には三つの理由ないし原因がある。 政界が共有する通念、新聞業界・国民(消費者) の代弁、公取委の態度への反応がそれである。  政界においては、次の通念が共有されているよ うにみえる。新聞は公共財としての役割を担ってい る。同一価格での全国一律の宅配制度を維持す ることは民主主義の基盤である。特殊指定の廃 止はこの役割・基盤を損なう。後二者の妥当性は 措くとして、公取委は、政界との話合いを通じて、 この通念を論破することができていない。  政界は、時に、業界・国民(消費者)の考えを代 弁する。その是非はともかく、それが実態である。 特殊指定の見直しについての新聞業界の考え、国 民(消費者)の考えと、政界が共有する通念とが一 致すれば、大きな力となる。過去の経験に照らして、 公取委は、このことに思いを寄せるべきであった。  見直しをめぐる公取委の態度には、政界から反 発を招く余地があった。不公正な取引方法の指定 は告示によって行われるというのが、独禁法の規 定である(

72

条)。その限りで、指定は「立法マター」 ではない。しかし、一定の政治環境の下では、その ことに力点を置くことそれ自体が、またそのことに 言及する態度が、反発を招く。特殊指定の変更・ 廃止について規定がないことも(

71

条参照)、問 題状況を複雑にする。特殊指定の見直しは公取 委の裁量でどのようにでもでき、政治が立ち入る ことではないとの印象を与えかねない。政界をな いがしろにしているか否かその真偽は別にして、 そういった印象を与えることそれ自体が、公取委 にとって得策でない。十分な配慮が必要であった であろう。 (

3

)国民(消費者)の積極的支持の欠如  特殊指定の廃止について国民(消費者)の積極 的支持が得られなかったことは、業界と公取委の 話合いの不調、政界の反発を下支えするものとも なっている。  公正かつ自由な競争の維持・促進が消費者の 利益となることが国民の間に浸透してきたにもか 33)都営芝浦と畜場事件(最判平成元・12・14 民集43・12・2078)、東芝昇降機サービス事件 (大阪高判平成5・7・30判時1479・21)など。

(12)

かわらず、特殊指定の廃止が国民(消費者)に積 極的に支持されなかったことは、公取委にとって 大きな誤算であったであろう。積極的支持が得ら れなかった原因の一端は、特殊指定の廃止に反 対の観点からの報道に偏していたこと(公取委側 はそう認識している)、見直しの必要性についての 資料を公取委がホームページ上で掲載するのが 遅れたこと、に求めることはできよう。しかし、それ は決定的ではない。  非商品的価値が問題となる場合、消費者は、独 禁法からみた「事の本質」だけを踏まえて判断して いるのではない。消費者は、商品的価値と非商品 的価値を総合的に判断している。これが、消費者 が特殊指定の廃止に積極的な支持を与えなかっ た決定的な理由であろう。公取委側は、意図的に、 消費者の判断構造に思いを及ぼそうとしていない のではないか。  より重要なのは、消費者のこの判断構造と判断 は非難される性格のものではないということである。 消費者が独禁法からみた「事の本質」を踏まえて 判断していないからといって、公取委が積極的な 対応をとり、消費者利益を押し付けることは許容 されないのではないか。押し付けは独禁当局とし ては当然のことであるとの主張も成り立ち得よう。 しかしそれは、市場主義の貫徹を超えて、市場至 上主義の範疇に入っている。

IV

むすび

 あくまで市場主義を貫徹するというのが、公取 委のスタンスである。  他方、公取委は、「今回の見直しでは結論を出す ことを見合わせることとした」。そうするに当り、公 取委は、将来における見直しについてどのような展 望をもったのか。また、何を学んだのか。この点に ついては、公取委の言及はなく、分からない。それ では、この幕引き後、公取委は見直しに向けて何 をしてきたのか。この点についても公取委の言及は なく、分からない。確かなのは、新聞業界との関係 においても政界との関係においても、見直しの環 境がかえって悪化したことである。  公取委は何を学ぶべきであったか。学ぶべきは、 国民(消費者)が非商品的価値に重きを置く場合、 市場主義を振りかざすことでは問題解決とならな いということである。政治的環境が悪い場合、か えって問題状況を悪化させる。  それでは公取委は何をなすべきか。一つは、非 商品的価値の重視という国民(消費者)の選択を 尊重した上で、競争秩序の維持・促進が国民(消 費者)の利益となるということについて国民(消費 者)の理解を得るよう努めることである。これは先 決問題である。国民(消費者)の利益になるからと いって、市場至上主義に走ってはならない。  二つは、競争政策と他政策との調整が不可避と なる場合、公取委自らが積極的調整に乗り出す必 要はないとしても、他政策に配慮することで消極的 調整を図る必要があるということである。これは、 独禁法に調整の仕組みが内在化されていると解 されることから帰結する要請でもある。  三つは、過去のいきさつを尊重することである。 今日の時点で公取委が不適切と判断するもので あっても、相応の理由があったはずである。見直し には、それなりの手続をとることが必要である。  見直しの実現には、公取委の地道な努力が不 可避である34) 34)なお、2010年1月末、内閣府は公取委に指示し、 経済活性化の観点から、著作物再販制度も 含め独禁法適用除外制度について必要性の 検証を行うと発表した。2010年3月末までに 公取委の報告を受け、必要に応じて 見直し作業に着手することとされた。 朝日新聞平成22年1月30日付参照。 しかし、検証とその結果がどのようであったかは、 判然としない。「事務総長会見記録 (平成22年2月3日付)」参照。

(13)

The 2005-2006 Attempt to Review

the Designation of Specific Unfair Trade

Practices in the Newspaper Business

and the Stance of the Japan Fair Trade

Commission (JFTC) on the Issue:

Adhere to Market-oriented Principles or Adjust in Line with Other Policies?

Kosaku Uchida

This paper will clarify whether the JFTC is

going to follow through on market-oriented

principles or adjust its stance in line with other

policies by examining the background of the

abortive attempt to review the Designation of

Specific Unfair Trade Practices in the

Newspa-per Business in 2005 and 2006. Conditions for

a future review will also be addressed.

Discussed first will be the history of the issue,

followed by the background of the review

at-tempt. The JFTC’s standpoint will then be

identified, and future prospects for the review

explored.

In providing the background for a

reexami-nation of the Desigreexami-nation of Specific Unfair

Trade Practices in the Newspaper Business,

un-derlying problems will be pointed out. Reasons

for the inability to abolish the policy are

claimed to be unsuccessful negotiations

be-tween the industry and the JFTC, a backlash

from the political world and a lack of active

support from the public, or consumers.

It is concluded that the JFTC will continue

to cling tenaciously to the market-oriented

principles, thereby hampering implementation

of the much-desired review. For the review to

take place, it is essential to show willingness to

give the public, or consumers, a choice, view

the issue in relation to other policies and take

into account its history and background.

(14)

参照

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