コンピュータネットワークと
経営情報システム
一一Oループ意思決定支援システムgdsとその意志決定モデルの考察一
斉藤 邦
彦
1 はじめに コンピュータネットワークは,社会や企業の情報基盤(インフラステクチュ アー)として注目されている。分散処理,LAN関連の技術の急速な発展によ り,ネットワークに対応した情報処理,コンピュータ利用が可能となり,多く のネットワークシステムが構築されている。 コンピュータネットワークは大型コンピュータと端末を結ぶ垂直連携型ネッ トワークから利用が始まった。単一の計算機を複数の端末から時分割で利用す るTSS(Time Sharing System)方式がメインフレームコンピュータに用いら れた。そしてファイル転送や仮想端末機能が開発され,負荷分散,機能分散と いった水平分散のネットワークが実現し,複数の計算機や周辺装置を連携した 資源の有効利用が行なわれている。 企業のネットワークシステムの利用形態を3つの段階に分け考察する。第1 段階は周辺装置やデータの共有といった資源の共有化であり,高価な装置の共 同利用や企業の各部署で利用するデータの一元管理を実現する。第2段階はア プリケーションの共有,仮想端末機能により大規模なコンピュータ上のアプリ ケーションを,中小規模のコンピュータとネットワークを用いて実現する。第 3段階はコンピュータをネットワーク上で有機的に結合し負荷分散,機能分散 をはかる。コンピュータによる共同作業も可能となる。企業情報ネットワーク の導入は業務の効率化と協働化,通信の効率化とコストの軽減,在庫管理の効 率化,人員の適正化,エネルギーの省力化といったメリットを持っている。物 流業では商品の売行きや原材料の値動きに敏感に対応した多品種小量生産が可210 吉田知恵教授退官記念論文集(第270・271号) 能となる。 本論文は情報ネットワークと,その経営情報システムへの応用を考察し,ネ ットワークを有効に利用する経営情報システムのひとつであるグループ意思決 定支援システムについて考察する。そして現在LAN上で開発を進めているグ ループ意思決定支援システムgdsとそのグループ意思決定モデルについて報 告する。 2 ネットワークシステム ネットワークシステムは規模や通信速度により分類される。LAN(Local Area Network)は小規模で高速なデータ伝送が可能なネットワークである。 WAN(Wide Area Network)は遠距離に存在するコンピュータを結んだデー タ伝送速度の遅いネットワークであり,公衆電話網,専用回線,パケット交換 サービス網といった,通信事業者の提供する公共通信網を利用してネットワー
クシステムが構築される。複数のLANが公共通信網によりWANに接続され
てより大きなネットワークシステムが形成される。最近はISDNといった高 速,大容量の回線サービスの提供が始まり,大規模ネットワークの開発に用い られることが期待されている。 ネットワーク上のデータ伝送方式,各種のサービスは通信規約(プロトコル) として規定され.ている。ネットワークアーキテクチャはデータの通信方式や機 能をプロトコルの階層として体型化したものであり,物理的な媒体からアプリ ケーションで用いられるいくつかのサービス方法まで通信機能が設定されてい る。 アプリケーションで用いられる各種の伝送媒体や伝送方法,提供するサービ スは各企業のネットワークアーキテクチャごとに設定され,プロトコルとして 規定されている。プロトコル間の互換【生は低く,通信アプリケーション開発の 障害となっている。複数のネットワークアーキテクチャを結ぶためにプロトコ ルの標準化が必要となる。 OSI(Open System lnterconnection)参照モデルはISO(世界標準化機構)によりプロトコルの標準化を目的として提案された新しいプロトコル体系であ る。OSIモデルは7つの階層でプロトコル,基本サービスを規約化し,異なっ たアーキ・テクチャーのコンピュータやネットワークシステム問の相互運用の実 現を目的としている。 LAN (Local Area Network) LANの物理的データ伝送媒体はイーサネットが代表的である。イーサネッ トはトポロジーとしてバス形態をとり,ネットワークシステムの構築や増設が 容易である。物理的な通信方式,データの伝送方式は物理層,データリンク層 の通信プロトコルで定められている。
LANの上位層の通信プロトコルにはUNIXをネットワークOSとする
TCP/IP, NETWAREをネットワークOSとするIPX/SPXがある。ネットワ ークOSは通信プログラムの開発や運用,ファイルシステムの管理に用いられる。TCP/IPはおもにUNIXワークステーションを結んだLANで利用され
る。IPは計算機同士を結ぶ経路を確立するプロトコル(ネットワーク層)であ り,TCPはプログラム間,プロセス間の接続を行うプロトコル(トランスポー ト層)である。TCP/IPの上位の層のプロトコルにはファイルシステムの共有 (NFSなど),ファイル転送(ftp),仮想端末(Telnet),メッセージ交換のサ ービスがある。 NETWAREはパーソナルコンピュータ上で利用される代表的なネットワー クシステムである。NETWAREはネットワークOSであり,専用のファイルサ ーバを持つサーバコンピュータと,そのファイルを利用するクライアントのパ ーソナルコンピュータ(ワークステーション)から構成される。トランザクシ ョン機能,セキュリティ機能に関してはホストコンピュータと並ぶ機能を持ち, 強力なアプリケーション開発環境を提供する。障害対応機能,ディスクミラー リング,ディスクの2重化といった機能が実現されているのでLAN上のデー タベース管理システムのようなディスク分散機能,障害対応機能といった機能 を必要とするアプリケーションを開発する場合に利用できる。212 吉田龍恵教授退官記念論文集(第270・271号) 3 ネットワークの利用形態 3.1 資源共有 資源共有はファイル,ディスクといった周辺装置をネットワーク上で共有す る初歩的な分散環境である。磁気ディスク,光磁気ディスク,高品位プリンタ は高価であり,運用管理も難しく,経済性,運用の面から共有することが望ま しい。ファイルシステムの共有はデータの共有,一元管理を可能にする。デー タベースは企業の多くの部門でデータを共有することを想定している。データ の共有により,異なった場所から同じイメージでデータを利用することが可能 となる。 リモートファイルシステムは他のコンピュータのファイルシステムを自分の コンピュータの装置として使用する。NFS(Network File System)は代表的 なリモートファイルアクセスシステムであり,OS,コンピュータの機種に依存 しないでファイルシステムを共有できる。例えばUNIXワークステーションの ファイルシステムをMS−DOSをはじめとするパーソナルコンピュータOSの ファイルシステムとして利用できる。 3.2機能分散(メインフレームの代用) 機能分散はネットワーク利用の第2段階である。ネットワーク上でコンピュ ータを結合しアプリケーションの分散,遠隔端末機能を利用して,大規模な情 報システムを構築する。以前の情報システムはメインフレームコンピュータを 中心に垂直分散型のネットワークが構築され,データ処理,入出力処理,通信 処理はすべてホストコンピュータが処理を行っていた。情報処理量の増加,処 理の場所の多様化により,メインフレームコンピュータでは限界がある部分で ネットワーク指向型の情報処理システムが利用されるようになった。 クライアント・サーバ方式と呼ばれる水平分散型のネットワーク利用形態は, データ処理をホストコンピュータが行い,ユーザインタフェース処理をワーーク ステーションやグラフィックス専用コンピュータが受け持つという形態を持つ。
ディスクの2重化,フォールト・トレラント(耐故障)機能の強化したコンピ ュー^や,大量のトランザクションを一括して処理するオンライントランザク ション処理コンピュータといった専用のコンピュータが,ネットワーク上のホ ストマシンとして利用される。 プリンタやファイル,アプリケーションの共有,ワークステーションの仮想 端末化はネットワークシステムをメインフレームコンピュータの代用として用 いることを可能とする。クローズドな環境のメインフレームから安価でオープ ンな環境を持つコンピュータシステムに移行するという「ダウンサイジング」 がコンピュータネットワークにより実現される。 クライアント・サーバ方式 LAN(Local Area Network)は高速なデータ伝送経路であり,ファイル共 有,ファイル転送,仮想端末,メッセージ交換といったサービスのプロトコル が提供されている。NFS(Network File System)をはじめとするファイル共 有システムはファイルシステムの分散利用,アプリケーションの分散利用によ るクライアントベースのネットワークアプリケーションの開発を可能とする。 ファイルの分散,アプリケーションの分散を利用したデータベースシステム 上で多くの端末から大量のデータ転送要求があったとき,ネットワークのトラ フィック過多によるスループット(処理性能)の劣化が問題となる。 この問題を解決する方法としてクライアント・サーバ方式が開発されている。 クライアント・サーバ方式は,ネットワーク上で各種のサービスを分散化して 利用する方法のひとつである。サービスを提供する側をサーバ,サービスを受 ける側をクライアントと呼ぶ。ここではクライアントプログラムがデータ処理 の要求命令をサーバプログラム(データベース)に送り,サーバはローカルデ ータベース上でデータ検索を行って,その結果をクライアントに返す。サーバ プロセス(プログラム)とクライアントプロセス(プログラム).は独立に作動 し,両者はプロセス間通信(ネットワーク通信プロトコル)で結ばれる。大量 のデータ処理をサーバで一括して行うことで,ネットワーク上のデータトラフ
214 吉田龍恵教授退官記念論文集(第270・27!号) イックを可能な限り少なくするので,ネットワークアプリケーションのスルー プット(処理能力)は格段に向上する。複数のユーザが同じサービスを利用す る場合はクライアント・サーバ方式が効率的である。 プロセス問通信,RPC(遠隔手続き呼び出し) プロセス問通信はプログラム(プロセス)間で通信を行い並行処理を実現す る手法である。プロセス間通信の実現方法には名前付きFIFO(パイプ),セマ フォ,メッセージ,共有メモリ,ソケットといった方法がある。
ソケットはBSD系のUNIXに実装されるプロセス問通信のインタフェー
スであり,RPC(Remote Procedure Call:遠隔手続き呼び出し)により実現 される。異なるOSのプロトコル間でソケット通信を行うことが可能であり,ク ライアント・サーバ方式を用いた情報システムを実現する。 RPCは異なったコンピュータ間でプロセスの分散を行う機能である。別のマ シン上に存在するプログラムを遠隔操作で実行させる手段を提供するインタフ ェースであり,クライアント・サーバ問の要求,応答の制御を行う。クライア ントプログラムの要求した手続きをネットワークを通して遠隔に存在するサー バ側で実行する。RPCインタフェースにより下位のプロトコルの存在を考えず に他のコンピュータ上のプロセスを実行することが可能となる。 3.3処理分散負荷分散ネットワークコンピューティング ネットワーク上で動的な処理分散,負荷分散を実現する。処理単位にコン ピュータをグループ化して分散処理を行ったり,特定のコンピュータに負荷が かかり過ぎれば,空いているコンピュータに処理を動的に移すといった処理分 散を行う。処理の性質により計算用コンピュータ,トランザクション処理専用 マシンに機能分散させることも可能である。ハイレベルな科学技術計算や,巨 大なトランザクション処理を行うアプリケーションを専用マシンで処理をさせ ることでCPUの負荷分散をはかる。具体的な利点として障害への対応の強化, ネットワークの拡張性,パフォーマンスの向上が得られる。今後はマルチプロセッサ対応の分散OSの普及により,動的な処理分散,機能 分散が可能となり,ネットワークコンピューティングはアプリケーションの分 散から分散OSへ, LANによる疎結合マルチプロセッサ方式からバス結合に よる密結合マルチプVセッサ方式に進むことが予想される。 分散型アプリケーション ネットワークコンピューティングによる分散型アプリケーションとして分散 型データベースを考察する。分散処理技術,コンピュータネットワーク,クラ イアント・サーバ方式といった手法が分散型データベース構築に用いることが できる。 クライアント・サーバ方式ではサーバ側がデータベースの構築,保守,管理 を行い,クライアント側がデータの検索や更新の要求をユーザから受け付ける。 サーバには大型計算機や専用のデータベースマシンといった大量のデータ処理 能力,トランザクション処理能力をもつコンピュータを用いる。クライアント 側にはユーザインタフェースにすぐれたコンピュータを配置する。データベー スを共有資源として多くの場所に保管,相互利用することが可能となる。 リモート(遠隔)データベースアクセスはネットワークを通じてデータベー スにアクセスする方式であり,ISOにより規格化の作業が行なわれている。デ ータベース問のコミュニケーションのための標準的なデータベース言語として SQL(Structured Query Language)を採用し,リモートデータベースアクセ スの実現を提案している。SQLは関係型代数にもとつくデータ問い合わせ言語 であり,関係型データベースシステムのアプリケーション開発に利用されてい る。リモートデータベースアクセス・サービスは異なったネットワークやマシ ンに実装されているデータベースシステムからのサービス要求を処理する。デ ータベースにアクセスする方法としてSQL文をそのまま送る方法と,共通イ ンターフェースを通じて相手のデータベースシステムのデータ問い合わせ文に 変換する方法がある。
216 吉田龍恵教授退官記念論文集(第270・271号) 3.4分散処理の各種の機能と問題点 プリンタ共有機能 プリンタ共有の問題点としてプリンタの機種に依存する制御コード(エスケ ープシーケンス)の問題がある。プリンタごとに制御コードが違うことからア プリケーション側がその差異に対応しなければならなかった。普及しているプ リンタの制御コードに対してはエミュレーションプログラムが作成されている が,制御コードの標準化は遅れている。ポストスクリプトをはじめとするペー ジ記述言語(画像にも対応)はプリンタの機種に依存しない印字方法の実現を めざしている。 ファイル転送機能 異なるコンピュータやネットワーク間でファイルを転送する機能である。コ ード変換はプレゼンテーション層で,伝送制御はデータリンク層で行われる。 ファイル転送を行うためのプロトコル(サービスプログラム)がいくつか開発 されており,公衆回線などを利用するkermit, xmodem, LAN(TCP/IP)で 用いるftpがある。 ファイルシステム間のコードやファイル構造の違いを解決するために仮想的 なファイルシステムが考案されている。 ファイル共有機能 ネットワーク上で複数のユーザがファイルシステムを共有する機能である。 物理的なファイルシステムの装置として磁気ディスク,光磁気ディスク,CD− ROM,磁気テープといった大容量記憶装置が用いられる。 ファイル共有には専用サーバを用いる方法とサーバとクライアントを同じコ ンピュータを用いる方法があり,利用形態やアプリケーションによって使い分
けられている。最近はNFSやNETWAREに対応した大容量,高性能の専用フ
ァイルサーバシステムが開発されている。仮想端末機能 パーソナルコンピュータや他のワークステーションを端末として使用する機 能であり,ホストコンピュータと通信するプログラムと端末エミュレーション を行うプログラムからなる。同一の端末から複数のホストコンピュータの仮想 端末機能を利用することも可能である。端末エミュレータは文字端末が中心で あったが最近はグラフィック端末も開発されている。 TCP/IPプロトコル上の仮想端末機能としてtelnet, rloginがある。 telnet はクライアント・サーバモデルにより実現される。クライアントはディスプレ イ出力やキーボード入力を処理し,サーバはリモート端末からの要求を処理す る。特殊なエスケープシーケンス(端末の画面制御などに使用)を処理するた めに端末エミュレーションプログラムをあわせて利用する。 4 ネットワークシステムと経営情報システム 4.1事業のネットワーク利用 社会や企業の情報化が進み,情報通信システムは情報的基盤として重要な役 割をはたすようになっている。戦略情報システム(SIS)や工場の自動化システ ム(CIM)といった情報通信システムが,コンピュータネットワークを用いて 多くの企業で構築されている。これらのシステムは複数のコンピュータを結ん で水平分散処理を実現し,資源の共有,高速のデータ転送,データの分散管理 といったネットワークの特徴を活用してコンピュータ利用の高度化をはかって いる。 オフィス . オフィスではパーソナルコンピュータをはじめとする既存のOA機器を有 機的に結ぶオフィスネットワークが構築されている。コンピュータに蓄積され たデータをネットワーク上で活用することで,既存の資産を継承が可能となる。 OAアプリケーションもネットワーク対応のものが増え,グループコミュニケ ーション,グループ作業にコンピュータが利用されている。
218 吉田龍恵教授退官記念論文集(第270・271号) 製造業 . 製造業ではコンピュータ導入によって業務の効率化,情報化が行われてきた。 ネットワークシステムは通信の効率化,それにともなうコストの軽減を可能に する。企業の情報処理能力,通信処理能力を強化し,製造,事務,流通などの作業 の協調化,在庫管理の効率化,人員の適正化,エネルギーの省力化を実現する。 物流 物流業の情報システムは在庫の入出庫管理だけではなく,商品の売行きや原 材料の値動きといった商品情報に敏感に対応することが求められている。消費 者のニーズの変化が商品の多様化を生み,その消費者ニーズに対応するために 多品種小量生産の実現が課題となっている。また売行き商品のライフサイクル にあわせて,原材料や商品自体のタイミングのよい在庫管理を行う必要がある。 輸送情報のシステム化,VAN(付加価値通信ネットワーク)を利用して,ネ ットワークを活用した事業の多角化や新規展開,ネットワークによるユーザの 囲い込みも行なわれている。ネットワークシステムを用いて人材の効率的な活 用をはかり,人材を適所に分散配置することも求められている。中小企業をは じめとして人材不足が表面化し,今後とも就労人口の増加は望めない現状では, 現有人材の有効活用が重要な課題となってきている。 4.2 ネットワークと作業の共同化 企業内ネットワークは企業経営の効率化,通信費の軽減,通信の信頼性の向 上を実現する。そしてコンピュータネットワークで効率化され余剰となった利 益や人的能力などの企業の力を新たに創造的活動に回すことが可能となる。 企業ネットワークの導入は,新しい仕事の形態=「コンピュータによる共同 作業」を創り出す。CSCW(Computer Supported Cooprative Work)はコン ピュータ上でグループにより意思決定,執筆,プログラミングといった作業の プロセスをモデル化し,作業の流れを効率化,自動化することを目的としてい る。電子メール,電子掲示板を利用して相互の意思疎通,データ交換を効率化
することも可能である。電子掲示板の発展した形態としてネットワーク上で会 議を実現する電子会議が考案されている。 企業ネットワーク上で日常業務工程の管理,営業,事務作業の電子化を行 うことによってそれぞれの作業を分散化,協働化することができる。作業の効 率化,分散化を通じて,会社組織やオフィスの情報化,ネットワーク化による 活性化を実現する。企業の経営や業務もネットワーク化,分散化といった方向 を指向している。 今後の経営情報システムはコンピュータネットワークが不可欠な要素となる。 資源の共有,データの共有といった分散処理のメリットを利用して,ネットワ ーク上で分散指向型の新しい業務形態を実現する経営情報システムの構築が期 待される。 電子会議 会議は重要な意思決定の場である。現代は情報が膨大に増え,会議に関わる メンバも多くなり会議自体が非生産的なものとなっている。電子会議はグルー プのメンバーが遠隔地からネットワークを通じて会議を行う。時間やスペース に煩わされることなく会議を開催できることに加えて,自分自身の意見をまと める時間的余裕が保証され,またコンピュータによりデータを処理することで 正確な判断が可能となる。 時間の制約や会議進行の効率化のために非同期的会議といった会議形態も考 察されている。非同期会議の問題点は会議の同期がとれないことにより,既に 解決している問題を再び議論してしまう可能性があるといった点である。 5 意思決定支援システムと企業情報システム 経営情報システムのなかで最近注目されている意思決定支援システム (DSS)を分散処理技術を用いたコンピュータネットワーク上で実現する方法 について考察する。DSSは意思決定作業の効率化を目的とする情報システムで あり,データベース処理やデータ分析,シミュレーション等の手法を用いて,
220 吉田龍恵教授退官記念論文集(第270・271号) 意思決定を有効に行う環境を構築する。良構造の問題には解析的な手法を用い て代替案を提示し,非構造的,網構造的な問題には代替案作成のための環境を 提供する。DSSはデータベースシステム,モデル構築システム,対話管理シス テムから構成される。 資源の共有,データの共有といった分散処理のメリットを利用した分散型意 思決定支援を行うシステム,分散データベースシステムや分散アプリケーショ ン(DSSサーバ)を利用した分散DSSが考案されている。電子メールを利用し た相互の意思疎通,データの交換といったグループのメンバーによる意思決定 作業の共同化も可能である。 本論文では意思決定行為の共同作業化,効率化といったグループウエアを実 現する集団的な意思決定支援システムを考察する。グループ意思決定支援シス テムGDSS(Group−DSS)はグループの中の複数のメンバーによる意思決定行 為を支援するシステムであり,アメリカを中心に多くの研究が行われている。 5.1 GDSS グループ意思決定支援システムGDSSはグループの中の複数のメンバーが 相互作用的に意思決定作業を行う環境を想定している。企業経営の目標策定プ ロセスには,多くのメンバーが関わっており,また日本の企業経営は合議性が 基本であるので,集団的な意思決定をサポートするDSSの必要性が高い。 GDSSについては意見の調整作業の手続き化,集団の意思決定のメカニズム の研究といった多岐にわたる研究が行われている。電子メール,電子掲示板と いうネットワーク上の機能を利用して集団的意思決定のシミュレーションも行 われている。 IISAのWierzbickiらは複数の代替案から最適案を集団合議を通じて選択 (5) (6) する手続きを考案し,意思決定支援システムDIDASを開発している。ゲームの 理論の概念を導入し,具体的な問題をめぐる利害の対立と調整に関するモデル も提出している。 ゲームの理論は戦略を構築するモデルのひとつである。2人のプレイヤーに
よる卸和ゲームは一方のプレイヤーの得点を他方のプレイヤーの失点と見なし, 両者の和を零とする。多目的ゲームは複数の目的が競合するゲームであり,競 技をするプレイヤー同士の協力状態によって協調型と非協調型のゲームに分け られる。Wierzbickiらは複数の利益や価値を基準として意思決定を行う非協調 的,非零和ゲームの中で複数の目的関数を階層的に適用し,対立する利益をも つ複数のメンバが相互の利益を調整していく手続きを探求している。 本研究ではグループ意思決定支援システムの意思決定作業をモデル化し,こ のモデルにもとづいてプロトタイプシステムgdsを設計する。システムgdsは ネットワーク上で実現される分散DSSであり,グループ意思決定支援の機能 を実現する。 5.2GDSS gdsの設計と開発 グループ意思決定支援システムgdsをネットワーク上でファイルシステム の共有,アプリケーションプログラムの共有,クライアント・サーバ方式とい った機能を用いて作成する。分散データベース,グラフィカルユーザインタフ ェースを利用した対話的なシミュレーションシステム,モデル構築システムと いったDSSとしての機能を持ち,電子メール,電子掲示板,電子会議機能も実 装し,ネットワーク上の集団作業を可能にしている。 gds= {DB, MB, IM} DB データベースシステム MB. モデルベースシステム =MB(MG,…) IM: 対話管理システム gdsはデータベースシステムDB,モデルベースシステムMB,対話管理シス テムIMから構成される。モデルベースシステムは複数のメンバーによるモデ ル構築システムやグルーフ.意思決定支援モデルMGをもつ。モデルMGは意思
222 吉田龍恵教授退官記念論文集(第270・271号) 決定作業の共同作業化,電子化を実現するためにネットワーク上での意見調整 (ネゴシエーション)プロセスを表現している。意思決定の際の問題点を把握 し,明確にするプロセスや意見の集約を自動化するといった点に考慮をはかる。 gdsはネットワーク上でデータを検索し提示すること,意見の分布や調整状態 をリアルタイムに表示する機能を備える。 gdsは複数の代替案の選択,メンバーの意見の調整やネゴシエーションを支 援する機能をもつ。このモデルで意見パラメータの集約,調整のプロセスをモ デル化する。代替案を支える目的(関数)が1つか多目的か,相互のメンバー の間で意見の調整が行われるかという状況に応じて3つのモデルをたてる。 1 相互作用なしモデル MG= {[M,], O, A, G} Mi: メンバー O グループの目的
A: グループの意見 =A(O,G)
G グループの状態(意見分布) M,= {MA, ao, MO, S} MA’ メンバーの意見 a。. メンバーの意見の初期状態 MO: メンバーの目的S 戦略 =φ
グループMGは内部状態として意見A,目的0,グループの状態Gを持つ。 目的は効用関数や線形計画法における利益の最:大化といった形で表現される。代替案は目的により規定される。意見は目的関数の値域に含まれる定数である。 メンバーMは意見MA,意見の初;期状態,個人の目的MO,戦略Sをもつ。 意見の初期状態をa。とし,メンバーの状態の遷位により変化する。 グループは各メンバーの意見を集約し,グループの意見分布やメンバーのグ ループにおけるウエートといった要素にしたがい全体の意見(属1生全体の遷移) を決定する。メンバーは全体の意見に従い自分の状態を遷移させる。 最適解が解析的に求めることができる場合は,解をグループの意見とする。 解析的に求めることができない場合は多数決アルゴリズムなどにしたがいグル ープの意見を集約する。意見のメンバー間の差異が一定程度の範囲内になった 状態を定常状態とする。gdsは以上のプロセスをグラフィカルに表示し,意思決 定のためのデータとして利用者に提供する機能を持つ。 図1
■■⇒ 状態遷移
G
G
一一一一、 メッセージ
G グループ
M
M
Mニメンバ
2 相互作用のあるモデル MG= {[M,], [R,], O, A, G} Miニ メンバーの属性 Ri: 関係 , =R(Mi, M」) 0 冒 グループの目的A: グループの意見 =A(O,G)
G: グループの状態(意見分布)224 吉田龍恵教授退官記念論文集(第270・271号) M= {MA, a,, MO, S}
MA:
a⑪二MO:
s: メンバーの意見 グループの意見の初期状態 メンバーの目的 戦略 このモデルはメンバー間の意見の調整のプロセスを持つ。メンバーは自分と 相手の目的関数と戦略を考慮して自分の意見を調整する。戦略はメンバーがそ れぞれモデル化する。戦略のない場合は単純な零和ゲームモデルとなる。メン バー問の意見の調整の後にグループの意見の集約が行われ,グループ(管理者) は場合によってはスーパーバイザーとして相互の意見調整を行う。全体の意見 を集約するプロセスで,各メンバーにグループ全体の利益を最大化することを 第一目的とし,その目的に従う範囲内で自分自身の利益を最:大化するという条 図2M,
M,
M,
M,
M,
G
G
一一一レ:状態遷移
一→:メッセージ
M,
G グループ
M1,M2メンバー
件をつける。また全体の状態をできる限り速く定常状態にするという条件も加 える。 3 多目的相互作用あり G= {[M,], [R,], [O,], A, [G,]}
M:メンバーの属性
R: 関係 =R(M[,M、) 0: グループの目的 A: グループの意見 =A(Oi,…,Gエ,…) G: グループの状態(意見分布) M= {[MA,], ao, [MOt], S}MA: 個人の意見
ao: グループの意見の初期状態MO: 個人の目的
S: 戦略 このモデルでは個人は相手の目的関数と戦略を考慮して自分の意見を変化さ せる。代替案は複数の目的により規定されるものとする。目的が複数の場合は それぞれの問題が線形的に解を得られても,全体としての最:適解の組合せを求 めることは非常に困難となる。その場合はgdsは複数の意見のパラメータを表 示し,相互の関係を図示することでメンバー意見の調整の支援を行う。 6 おわりに ネットワークシステム上での経営情報システムの開発技術,利用形態につい226 吉田龍恵教授退官記念論文集(第270・271号) て考察し,またグループ意思決定支援システムgdsの集団意思決定のモデル化 を行った。グループ意志決定モデルの処理系はgdsのサブモジュールとして開 発中である。gdsのプロトタイプはクライアント・サーバ方式を用いてLAN上 で作成している。 このLANシステムは伝送媒体としてイーサネット(10BASE5)を利用し,
ホストマシンとしてUNIXワークステーションSPARC2を,通信プロトコル
としてTCP/IPを用いている。 Xターミナル,パーソナルコンピュータ (PC9801)をクライアントとし,パーソナルコンピュータは専用LAN接続装 置,およびコミュニケーションサーバを仲介してRS232CポートからLANに 接続する。仮想端末機能,ファイル転送機能,プリンタサーバ機能,電子メー ル,クライアントサーバコンピューティングといった機能を利用している。 本研究は平成2年度本学教育研究学内特別研究費の助成を受けている。 [参 考 文 献] (1)日経コンピュータ「普及の糸ロを探る日本のグループウエア」日経BP社(1991.3. 11) (2)田中英彦’「分散処理アーキテクチャ」情報処理 Vol.28, No.4pp370−376(1987) (3) 上林弥彦.「分散処理技術の基本的課題」情報処理 Vol.28, No.4 pp377−384(1987) ( 4 ) A, P, Werzbicki ”MULTIPLE CRITERIA SOLUTIONS IN NONCOOPERATIVE GAME THEORY PART 1 : MOTIVATIONS AND EXAMPLES” KYOTO INSTI− TUTE OF ECONOMIC RESERCH (1989) (5)A,P, Wierzbicki他:”Decision Support Systems Using Reference Point Optirniza− tion” lnstitute of Automatjc Control Warsaw Universjty of Technology WP (1986) (6)A,T, Lewandowski他:”Decision Support Systems of DIDAS Family(Dynamic Interactive Decision Analysis & Support) ”lnstitute of Automatic Control Warsaw University of Technology WP pp18−41 (1986) (7)A,T, Lewandowski他:”Application of DIDAS Methodology to flood control probrems 一 numeric experiment lnternational lnstitute for Applied Systems WP (1985) (8)R.H.スプレーグ他:「意思決定支援システムDSS 一実効的な構築と運営」東洋経 済(1986) (9)岡田憲夫:「費用割当問題のゲーミング分析」シミュレーション&ゲーミング Vol.1, No, 1 (1990)(10) (11) (12) (13) (14) R,S,ウイナー他:「C++ オブジェクト指向プログラミング」トッパン(1989) 守谷栄一:「企業モデルとシミュレーション」マグロウヒル好学社(1977) 尾碕真他:「経営と情報システム」中部日本教育文化会(1989) 大橋昭一他:「情報化社会と企業経営」中央経済社(1988) A,Kempeピ”An Analysis Geometric Modeling in Database Systems”ACM Cornputing Surveys Vol. 19, No. 1, pp47−91. (1986) (15) クレイグ・パートン「NetWareとLANマネージャとクライアントサーバアプリケー ションと」インタフェース3月号CQ出版社(1991−2)