原 著 〔書女医謙、鵠63巻平蔑讐蒲〕
新生児,未熟児のPrader−Willi症候群の臨床像
1)千葉市立海浜病院新生児科 2)東京女子医科大学小児科 ゴイズミ . ウスイ ノリヒサ オオツカ 小泉ひろみ1)2).・臼井 紀久2)・大塚 イノウエ ダカオ 上尾サワマ キ コ フクヤマ 井上 孝夫1) ・大澤真木子2)・福山 (受付 平成5年6月25日) ハル ミ 春美1)2). ユキオ 幸夫2) Clinical Features of Prader・Willi Syndrome in Premature and Mature Neonates Hi・・mi KolzuMID2㌧Ng・ihi・a usu12㌧H・・umi QTsuKA1叩・k・・INopE1}・ Makiko OSAWA2}and Yukio FUKUYAMA2) 1)Department of Neonatology, Chiba Municipal Kaihin・Hospital 2Department of Pediatrics, Tokyo Women’s Medical College Three floppy neonates including one premature baby were admitted to the NICU of the Chiba Municlpal Kaihin Hospital。 They were diagnosed as having Prader・Willi syndrome on the basis of th6日置 natural histories and the high resolution chromosome banding technique. We observed their clinical features fr6m the early neonatal period. The most revealing neonatal symptoms of Prader−Willi .syndrome were hypopigmen亡ation, inactlvity, lack of expression, excessive sleeping(but not comatose), and a weak cry. Hypotonus was dominant in the axis and extensibility of the limbs was within normal limits. The findings regarding extensibility in the premature Prader−Willi syndrome baby were adequate for his gestational age. In all three, even Ininor anomalies were subject to change according to growth. はじめに Prader−Willi症候群は筋緊張低下,精神薄弱, 性器低形成,肥満を主徴とする疾患であるが,新 生児期には著明な筋緊張低下,哺乳不良,仮死出 生等でHoppy infantとして鑑別を要する.私達は 未熟児を含めた新生児3例を経験し,その臨床所 見の特徴を観察し早期診断に有用であると思われ たので報告する. 症 例(表1) 1.症例1.男児 家族歴:神経筋疾患なし.両親に血族結婚なく, 父26歳,母20歳時の子供.同胞はいない.出生前: 胎動は,特に弱いと感じられてはいなかった.エ コー検査等で,羊水過多は特に指摘されていな かった. 周産期:在胎40週0日,分娩開始するも,骨盤 位,微弱陣痛のため促進剤が使用されて出生した. 出生体重3,100g.アプガースコア5点(1分)8 点(5分目.特に蘇生術は行われなかった.生後11 時間より授乳を開始されたが,哺乳後の無呼吸, チアノーゼのため酸素が投与された.無呼吸発作 と両上肢を動かさないことを主訴に当科に入院と なった. 入院後の経過:診察上,左側優位の両側上腕神 経叢麻痺,左眼瞼下垂を認め,自発運動は少なく 不活発で,睡眠時間が長かった.皮膚色は色白で, 頭髪の色素が薄く,高口蓋を認めた.睾丸は陰の う内にあった.日華8に高精度馴染法にて15番を表1 Prader−Willi症候群の新生児3例の背景 症例1 症例2 症例3
性別 男 児 男 児 男 児 在胎軍手 40週0日 35週1日 37週2日
出生体重 3,100 1,660 2,070
(9) apPropriate一 sma11・for一 sma11−for一
for.dates dates da£es
分娩様式 骨盤位 帝王切開 帝王切開 父の年齢 26歳 35歳 39歳 母の年齢 20歳 34歳 36歳 母妊娠中の な し 気管支喘息 な し 合併症 母の服薬 な し テオフィリン な し 児の合併症 両側上腕神経叢麻痺 胎児仮死 胎児仮死 左動眼神経麻痺? 指定のうえで染色体検査を施行した.その結果は 46,XY, del(15)(qll.1q13)であった. 2.症例2.男児 家族歴:神経筋疾患なし.両親に血族結婚なし. 父35歳,母34歳時の子.同胞なし.母は気管支喘 息にてテオフィリン等を内服中. 出生前:母は気管支喘息があるため,ハイリス ク妊娠として経過観察を受け,また,30週頃より .IUGRを指摘されていた. 周産期:三胎35週1日に,母が喘息重積状態と なり,胎児心拍モニター上,異常が出現したため, 当科医師立会い下に緊急帝王切開にて出生した. アプガースコア4点(1分)7点(5分).ぐった りして町回乏しく,呼吸微弱のため気管内挿管し, 人工呼吸管理となった.出生体重は1,660gの SFD(small−for−dates)児であった. 入院後の経過:自発運動は乏しかったが,人工 呼吸器装着後,その換気条件をすみやかに下げる ことができ,日照4に人工呼吸器より離脱した. 未熟児としてもnoppyで,自発運動に乏しく, 眠っている時間が長かった.色白で,高口蓋,停 留睾:丸があり,昼鳶7に高精度分染法にて染色体 検査施行した.結果は46,XY/46, XY, del(15) (q11.1q11.2)であった. 3.症例3.男児・ 家族歴:神経筋疾患なし.両親に血族結婚はな し.父39歳,母36歳時の子.同胞なし. 出生前:在胎35週5日目胎児エコーにて,頭部 に比して躯幹が小さいことが指摘された.胎動の 異常に気付かれていない.羊水過多の指摘なし. 周産期:野田37週2日,胎児心拍モニター上胎 児仮死徴候出現したため,緊急帝王切開にて出生 した.アプガースコア2点(1分)9点(5分). 出生体重2,0709. 』入院後の経過:筋緊張低下のため,鼻口腔内に 分泌物が貯留すると,動脈血酸素濃度が低下する エピソードがあり,頻回の鼻口腔吸引を必要とし た.酸素を日干11まで使用した.皮膚は色白で, 眼底に白子症があり,停留睾丸をみとめた.通常 の染色体検査では異常を認めなかったが,生後4 ヵ月時の高精度分染型にて46,XY, del(15) (q11.1q11.2)であった. 4.3症例の所見のまとめ 1)新生児期の臨床像 以上の3例の新生児期早期の臨床症状を,神経 所見を中心に表2に示した.Prader−Willi症候群 の新生児期の症例では,筋緊張の低下が著明であ るが,今回の3症例からその低下を詳細に観察す ることができた. 全体の印象は,未熟児としても「動かない,よ く眠る,あまり泣かない,色白の赤ちゃん」であっ た.一見,顔筋罹患を伴う筋疾患を思わせる表情 の乏しさがある.しかし,筋疾患の児と比較する と,筋緊張低下の主体は体幹であり,四肢におい てはhypotonicではあるが,伸展性には充進所見 をあまり認めなかった.heel to carやscarf sign 等は関節の可動性を指標とし,新生児ではその成 熟度から影響を受ける検査であるが,今回の未熟 児の例では在胎週数相当であった. また,仮死で出生した児や抗けいれん剤を大量 に投与された児の筋緊張低下と比較すると,筋緊 張低下の強さの割に呼吸不全の程度が軽く,短時 間ではあるが覚醒がみられ,四肢の低緊張に対し ての体幹の低緊張の程度の割合が強かった.自発 運動が非常に少ないときでも,Prader−Willi症候 群では呼吸筋は保たれており,3例中未熟児の1 例で人工呼吸器を使用し,ほとんど閉眼し全く自 発運動が認められない時点ではあったが,容易に 抜管できた.しかし,PraderWilli症候群の児は 一E159一
表2 新生児期Prader−Willi症候群3例の臨床像
症 例 1 症 例 2 症 例 3
筋力低下の評価
pitched frog position 十 十 ’ 十
100se shoulder ± ± 十
引越し反応 head lag(升) head lag(升) head lag(升)
腹臥位懸垂 inverted U(±) inverted U(±) inverted U(+)
伸展性の評価 スカーフ徴候 一 一 』 踵一耳試験 一 一 一 後肩幅寄せ 一 一 『 関節の過可動性 一 一 一 腱反射 → ↓一→ ↓ 呼吸筋の罹患 * 一 中枢神経 自発運動性 ↓↓ ↓↓ ↓↓ 表情 ↓ ↓ ↓ 哺乳への意欲 ↓ ↓ ↓ 睡眠時間 ↑ .↑ ↑ 泣き方の異常 十 十 十 (弱々しい,持続が短い) 原始反射 把握反射 十 十 十 モロー反射 ** +(↓) ↓↓ その他 皮膚所見 色 白 色白,大理石様変化 色 白 頭髪 やや褐色 黒 やや褐色 眼科的所見 異常なし 異常なし 眼底に白子症 停留睾:丸 富**一 十 十 高口蓋 十 十 十 ボ出生直後人工呼吸器使用するが,容易に離脱. 躰:両側上腕神経叢麻痺あり. 綿*:新生児期以降,著明になる. 仮死で出生することも多く,鑑別には経過観.察が 必要であると考えられた. 皮膚所見としては,3例とも色白で,未熟児例 では大理石様の皮膚になりやすかった.頭髪の色 は成熟児例では色素の薄さがみられた.未熟児で は頭髪の薄い児も多く,今回の例で際立って色が 薄いというわけではなかった.1例では眼底に白 子症がみとめられた. 2)新生児期∼乳児期早期の変化 筋緊張低下に関しては,生後約1年置ら2年半. の経過観察中,3例ともいまだhypotonicである が,体幹に比べ四肢の活動性の改善は比較的早く, 生後約1ヵ月頃には重力に抗わない範囲内で動か せるようになり,3ヵ月頃には重力に抗して四肢 を動かせるようになった.一方,体幹の低緊張は 強く続き,9∼10ヵ月から1歳頃に頚定が見られ たが,引起し反応をみると,後方への下垂が長く 残った. 精神発達としては,3∼6ヵ月頃にあやすと, pの端だ.ッでニッと笑うようになり,8,9ヵ月 頃から小さく短い声を出すようになった.皮膚色 はやはり色白ではあるが,新生児期ほど著明では なくなり,頭髪の色も濃くなってきた. 1例では,睾丸は出生時陰のう内にあったが, その後外来での経過観察中に,陰のうの低形成の 程度が強くなりダ睾:丸は鼠径部に固定された.他 の2例は睾丸の触知が不可能であった.
考 案 新生児期のPrader−Willi症候群は筋緊張低下 が強くHoppy infantとして鑑別を要する疾患で ある.仮死や分娩麻痺の合併や未熟児出生の場合 等,診断が困難な場合が多い.また,特徴的な顔 貌とはいえ,眠っていることの多い病的な新生児 の中にあって,アーモンド様の眼や,飴hmouth 様の口を識別することは,容易ではないD.今回, 高精度旧染法染色体検査にて異常所見の得られた 3例の新生児;期の臨床症状を神経所見を中心にま とめた. 症例1,2では症例3の経験から新生児期早期 に,この疾患を強く疑い15番染色体を指定したう えで,高精度分染法にて染色体検査を施行するこ とができた.両親の承諾を得て行った両親の高精 度分染法による染色体検査では異常はなく,遺伝 子レベルにての由来を検討中である.同じ染色体 異常であっても遺伝子の由来により,Prader− Willi症候群とAngelman症候群を呈することが 知られている2)∼5>が,今回の3例ではその後の臨 床経過からもPrader−Willi症候群と考えられた. Aughtonらは16人のPrader−Willi症候群例を retrospectiveに新生児期の臨床症状をまとめて いるが,我々の例では「色白で,動かない,よく 眠る(意識障害ではない),あまり泣かない」とい う全体の印象が,未熟児でもかなり診断に有用で あった.Aughtonらも,新生児期に顔貌から診断 するのは容易ではない,と述べている6). 新生児期の筋緊張低下の内容であるが,一見全 身の筋を含んでいるような無動性,無表情である が,筋疾患と異なり四肢の大,小の関節の伸展性 は正常範囲であり,未熟児でも在野焼干相当で あった.Hayashiら7)は本症の剖検例で小脳の奇 形性病変を認めており,本症の低緊張は小脳由来 であろうと述べている.今回の3例では,深部腱 反射は新生児期でも2例で弱いながら存在してお り,1例ではほとんど見られなかった.著者の1 人大澤の経験によれぽ,生後4ヵ月過ぎから腱反 射は正常に認められるようになることが多い,』な お,新生児期に2例で筋電図検査が行われ,異常 所見はなかった.筋緊張低下の経過を見ると,新 生児期極く早期には,四肢をほとんど動かさない か,動かしても重力に抗してまでは動かす事はほ とんどないが,早い児では出生数日から少しずつ 動かすようになり,乳児期までには徐々に重力に 抗して四肢を動かぜるようになった.一方,体幹 の筋緊張低下は強く,改善も遅く乳児期には「真 の筋力低下のない筋緊張低下」のグループの臨床 像を呈するようになった.このことから,新生児, 未熟児においても,後の筋力低下の特徴を観察し 得ると思われた. 随伴症状であるが,停留睾丸が後に著明になっ てきた例があることや,また正常の未熟児でも高 口声様にみえることがあるが,この3例ではいず れも徐々に顕著になり,minor anomaHesでさえ 経過観察が必要であると考えられた.一方,体色, 頭髪の色素の薄さは,むしろ徐々に目立たなく なった.このことは,新生児期からPrader・Willi 症候群と考えられたが,染色体検:査に異常なく生 後8ヵ月に急性感染症から死亡した女児の例でも 見られた.成長したPrader・Willi症候群の例では 色素のやや薄い例も,そうでない例もあり8),症状 発現の頻度から考えると新生児期に,より特徴的 かと思われた. 結 語 未熟児を含む新生児期のPrader−Willi症候群 の3症例を経験し,その臨床所見を観察した.2 例では日齢7及び8という早期に,1例では生後 4ヵ月時に,高精度分染法により染色体検査を施 行して異常所見を得た. 新生児期にPrader−Willi症候群を疑うのに最 も有用な所見は,「色白で,動かない,表情が乏し く,よく眠るが意識障害ではない.あまり泣かな い」という全体からの印象であった.その筋緊張 低下は体幹に著明で,四肢では進展性は正常範囲 であり未熟児でも在野週数相当であった. 文 献 1)Wharton RH, Bresnan MJ:Neonatal respi− ratory depression and delay in diagnosis in Prader−Will syndrome. Dev Med Child Neurol 31 :231−236, 1989 2)Kepnerknecht T:Agenetic model for the Prader・Wllli syndrome and its implication for 一E161一
Angelman syndrome. Hum Genet 90I91-98, l992
3) Driscoll DJ, Waters MF, Williams CA et al : A DNA methylation imprint, determined by the sex of the parent, distinguishes the Angelman
and Prader-Willi syndromes. Genomics 13 I 917-924, l992
4) Kirkilionis AJ, Chudley AE, Gregory CA et
al: Molecular and clinical overlap of
man and Prader-Willi syndrome phenotypes. Am J Med Genet 40 : 454-459, 1991
5) Magenis RE, Toth-Fejel S, AIIen LJ et al:
Comparison of the 15q deletion in Prader-Willi
syndrome and Angelman syndrome. Am J Med
Genet 35 : 333"349, 1990 ' '
6) Aughton DJ, Cassidy SB: Physical features of Prader-Willi syndrome in neonates. Am J Dis Child 144:1251-1254, 199Q
7) Hayashi M, Itoh M, Kabasawa Y: A opathological study of a case of the Willi syndrome with an interstitial deletion of the proximal long arm of chromosome 15.
Brain Dev 14l58-62, l992
8) Butler MG: Hypopigmentation: A common
feature of Prader-Willi syndrome. Am J Hum Genet 45:14e-146, 1989