346 学 会 〔東女医大誌 第59巻 第6号頁 804∼806 平成元年6月〕
東京女子医科大学学会 第279回例会抄録
シンポジウム イオン輸送と細胞機能
日時 場所 司会平成元年6月8日差木)午後4時半より
東京女子医科大学 第2臨床講堂
橋本 葉子教授(第1生理学)1.序論
(第2生理)宮崎 俊一 細胞膜でのイオン輸送は,腸管や腎尿細管等の上皮 細胞においては,吸収あるいは再吸収としてイオンの 輸送そのものが細胞機能の一部である.他方,神経細 胞ではイオンの透過に伴う膜電位変化が電気信号とし て機能することになり,筋細胞や分泌細胞の一部では この膜電位変化がCaイオンの細胞内遊離あるいは細 胞外からの流入を誘発し,Ca依存性の収縮や分泌とい う細胞機能の誘因となる.イオンは脂質二重層から成 る細胞膜を透過し難い故に,イオン特異性をもった輸 送体という膜蛋白がこれを担う.本例会ではイオン チャンネルに焦点があてられるはずである,チャンネ ルは当初電気的興奮性の基礎にあるNa+やK+の膜透 過を説明する概念的なものであった.しかし近年,パッ チクランプ法による単位電流(すなわちsingle chan・ nel current)の記録,チャンネル蛋白の単離・精製お よび脂質人工膜での再構成により実体的なものとして とらえられ,さらにcDNAを用いてのアミノ酸配列の決定,cDNAやmRNAの卵細胞内打込みによるチャ
ネルの再構成がなされるに至った. チャンネルはゲート(gate)を備えた小野(pore) を有し,openかclosedかの二状態をとる.ゲート openは,膜電位依存性のもの,1igand−receptor結合に よるもの,細胞内因子による活性化あるいぱリン酸化 によるもの,機械的刺激によるものなどがある.イオ ンの透過は,膜電流としてとらえられるが,実体は openした小孔中のpassive diffusionであり,駆動力 は濃度勾配および電位勾配である.パッチクランプ法 による’ニ,一個のチャンネルを流れるイオン電流は一 定濃度一定膜電位下で一定である.つまりチャンネル は一定電流を流す最小の1ユニットである.したがっ て細胞膜のイオン透過性の大小とは,一個のチャンネ 一804 ルについてはopenの確率の大小であり,細胞膜全体 ではopenしているチャンネルの数の多少である. チャンネルは他の輸送体に比べ輸送体あたりにつき 短時間内で多くのイオンが輸送される.したがって比 較的速い細胞現象と関連する場合が多い.チャンネル は生理・薬理,生化学以外の分野では比較的なじみの うすい対象ではないかと思われる.本例会でチャンネ ルを介するイオン輸送がとりあげられ,細胞機能との 関連において論じられることは意義あることと思われ る. 2.行動異常ミュータントを利用したイオン・チャ ネルの解析 (第1生理)小松 明 D名oso卿惚には様々な行動異常ミュータントがあ るが,そのうちの一部は神経や筋肉の興奮性に影響を 与えることが知られており,イオン・チャネルを解析 するためのプローブとして用いることができる.Na チャネルに影響を与えるものとしてはη砂,卯鵤,妙一 丁麟などがあり,Kチャネルに影響を与えるものに は舗,6㎎;磁,∫Joなどがある.なおSぬはAチャネル をコードしていることが知られ,これを利用して遺伝 子のクローニングが行われ,Aチャネル蛋白の構造が 調べられた. s♂oωヵ。舵(sJo;第3染色体85.0)は38℃で歩行に支 障をぎたし,筋の活動電位の幅が正常の2msecに対し 30msecと延長する.電圧固定法による膜電流測定から幼虫筋には1つの内向きCa電流と4つの外向きK
電流が存在し,4つのK電流のうちの2つはCa感受
性で,ICFおよびICSと呼ばれている. sZoはこのうち ICFの欠損を示すミュータントである. D70∫o擁惚では各遺伝子コピーは同量の遺伝子産 物をもたらすことが知られている(遺伝子量効果).も しsJoがICFチャネル全体をコードしていれば,異型347 接合体s♂o/+ではチャネル密度は正常型の半分とな る.またもしICFチャネルの同形サブユニットをコー ドしているとすれば,slo/+ではサブユニットの組み 合わぜによってモザイク型のチャネルが生じるはずで ある.したがって異型接合体を調べることによって sloがチャネル蛋白をコードしているか否かを確かめ ることができる.実際にsZo/+を用いて電圧固定法で 膜電流を測定したところ電流密度やkineticsは正常 型と変わらなかった.またパッチ・クランプ法を用い て単一チャネル電流を測定しても電流一電圧特性, kinetics, Ca感受性のいずれも正常型と区別できな かった.これらの結果は∫10遺伝子がICFチャネル蛋 白を直接コードしていると考えるよりはその調節系に 関与していることを示唆する. 3.心筋のイオン輸送とリズム形成 (循環器内科)萩原 誠久 心筋のリズム形成を司る主要な部位は洞結節である が,洞結節細胞における自発性興奮のメカニズムは未 だに明確にされていない.その原因の一つは,洞結節 細胞の自動能を司る拡張期脱分極相(ペースメーカー 電位)が,種々の複雑な膜電流系の関与により形成さ れているためである.今回は洞結節細胞のペースメー カー電位における膜電流,特にCa電流の役割につい て述べる. 最近,作業心筋には二種類のCa電流が存在するこ とが報告されている,すなわち,持続時間の長いlong lasting type:ICaLと,一過性のTransient type:
ICaTである,これまで洞結節細胞のCa電流について
は二者を分離した研究はなく,その生理的意義も明か
でなかった.我々は,whole−cell voltage clamp法を
用いて,ウサギ単一洞結節細胞より二種類のCa電流 を分離し,その生理的意義を検討した.実験結果より, 洞結節細胞における二種類のCa電流の中で,特に ICaTは,その活性化領域がペースメーカー電位の領 域と一致することなどから,ペースメーカー電位の形 成にICaTが重要な役割を果たしていることが解明さ れた. 4.培養滑膜細胞の興奮性とイオンチャネル (滋賀医科大学第2生理)村山 公一 全ての細胞に記録される膜電位およびその膜電位変 化は,細胞の膜輸送や細胞機能発現に重要な役割を 担っている,しかし従来は,技術上の問題もあり,細 胞膜の電気生理の研究(静止膜電位,興奮性,膜電位 固定下でのマクロおよび単一チャネル電流の記録・解 析)は,ある限られた細胞で行われてきた。しかし,