中国の格差の現状
畢
滔 滔
1.はじめに
1976年に文化大革命が終焉し、1978年 2 月に開催された中国共産党第11 期中央委員会第 3 回全体会議で 小平氏が実権を握り、経済改革開放路線 を推進し始めた。中国の経済改革が農業から始まったものの、2000年まで 改革開放の重点は都市部、とくに沿海都市部におかれていた。こうした経 済改革開放を行ってきた中国は、1980年代以降目覚しい経済成長を遂げた 一方、地域間に対外開放の程度や工業化・都市化の状況に大きな差異が生 じ、また、都市内部において新しい社会階層が形成し、社会階層間の格差 が拡大した。 例えば、2000年以降、中央政府は「中部崛起計画」や「西部大開発」な ど内陸部の経済振興策を打ち出したにもかかわらず、外資企業の投資は相 変わらず沿海部に集中している。図 1 は2008年中国の31省・直轄市・自治 区における外資企業の固定資産の投資額を示している。図 1 から分かるよ うに、外資企業の固定資産の投資額が上位10位の省・直轄市・自治区のう ち、 8 つの省・直轄市・自治区は沿海部に立地している。一方、外資企業 の固定資産投資額が下位10位(第22位から第31位まで)の省・直轄市・自 治区はすべて中部と西部に立地している。 また、工業化・都市化の進展について地域間に大きな差が生じている。 図 2 は中国の第一次産業の従業者の比率について、2008年末31省・直轄 市・自治区の比率および全国の平均比率を示している。図 2 から分かるよ うに、2008年末中国の第一次産業の従業者が全従業者の40%を占めたが、沿海部の省と直轄市の第一次産業の従業者の比率は全国平均よりはるかに 低く、一方、中部と西部の多くの省と自治区は第一次産業の従業者の比率 が全国平均より高かった。 約三十年間の経済改革開放を行ってきた中国は、(1)地域間と(2)都 市・農村間の格差が拡大した。また、都市内部において新しい社会階層が 形成され、社会階層間の格差が拡大した。本論文では、こうした中国の格 差の現状を、統計データに関する分析を通じて明らかにする。 図 1 省・直轄市・自治区別外資企業の固定資産の投資額(2008年) (注)1.円囲み数字は外資企業による固定資産の投資額のランキングである。数字 は投資金額であり、単位は億元である。 2.香港とマカオは含まれていない。 (出所)『中国統計年鑑』2009年版により筆者が作成。
2.都市・農村間および地域間の所得・消費の格差
図 3 は1985年から2011年まで中国の都市人口と農村人口の比率の推移を 示している。図 3 から分かるように、1980年代以降都市人口の比率が増加 し続け、都市化が進んできたが、2011年に農村人口はまだ総人口の約半分 を占めている1 ) 。 図 4 は1985年から2011年まで中国の都市住民と農村住民の一人あたりの 収入を示している。図 4 から分かるように、都市部と農村部の間に一貫し て収入の格差が存在するが、2000年以降その格差は著しく拡大した。1985 年に都市部住民の一人あたりの可処分所得は690元、農村部住民の一人あ たりの純収入は397元で、前者が後者の1.7倍であったが、2001年に前者が 後者の2.9倍に、2011年に3.1倍に拡大した。2011年に都市住民一人あたり の可処分所得は21,810元に達したのに対して、農村住民の一人あたりの純 図 2 全国および省・直轄市・自治区別第一次産業の従業者の比率(2008年末) % 雲南 チ ベ ッ ト 広 西 海南 甘粛 貴州 新疆 内モ ン ゴ ル 湖南 河南 陝 西 黒竜江 四川 寧夏 吉林 安徽 青海 河北 江西 西山 全国平均 山東 重慶 湖北 遼寧 福建 広東 江蘇 浙江 天津 北京 上海 63 56 55 54 53 5252 51 50 49 47 46 45 45 45 45 45 41 41 41 40 37 37 3533 31 28 21 18 16 6 6 (注)香港とマカオは含まれていない。 (出所)『中国統計年鑑』2009年版。図 3 中国の都市人口と農村人口の比率の推移(1985年から2011年まで) % 都市人口の比率 農村人口の比率 × × 90.0 80.0 70.0 60.0 50.0 40.0 30.0 20.0 10.0 0.0 ◇ ◇ (出所)『中国統計年鑑』1986∼2011年版。 図 4 都市住民と農村住民の所得の推移(1985年から2011年まで) 所得 ( 元 ) 都市住民の一人あたりの可処分所得 農村住民の一人あたりの可処分所得 × × 25,000 20,000 15,000 10,000 5,000 0 ◇ ◇ (出所)『中国統計年鑑』1986∼2011年版。
収入は6,977元に過ぎなかった。図 5 は2008年都市住民の年間収入七分位階 級別一人あたりの平均可処分所得と、農村住民の一人あたりの純収入との 比較を示している。図 5 から分かるように、2008年農村住民の一人あたり の純収入は都市部の最下位層(収入が最も低い10%)の年収とほぼ同じで あった。 こうした収入の格差は、都市部と農村部住民の消費に大きな影響を及ぼ している。2008年に都市家庭のエンゲル係数は37.9%であったのに対して、 農村家庭のエンゲル係数は43.7%ではるかに高かった。また、耐久消費財 の所有状況を見ると、都市住民の所有台数は農村住民よりはるかに高い。 図 6 は2009年都市住民と農村住民の100世帯あたりの耐久消費財の所有台 数の比較を示している。図 6 から分かるように、カラーテレビ、洗濯機、 冷蔵庫、エアコンという主要な家電製品について、農村住民の所有台数は 都市住民より少ない。また、情報通信機器であるパソコンと移動手段であ る乗用車の保有台数について、農村住民と都市住民の差が非常に大きかっ 図 5 都市住民の年間収入七分位階級別一人あたりの平均可処分所得と農村 部住民の一人あたりの純収入との比較(2008年) 都市部 :最低収入世帯 (10% ) 農村部一人 あたりの 純収入 都市部 :低収入世帯 (10% ) 都市部 :中の 下収入世帯 (20% ) 都市部 :中等収入世帯 (20% ) 都市部 :中の 上収入世帯 (20% ) 都市部 :高収入世帯 (10% ) 都市部 :最高収入世帯 (10% ) 4,754 4,761 7,363 10,196 13.984 19,254 26,250 43,614 (出所)『中国統計年鑑』2009年版。
図 6 都市住民と農村住民の100世帯あたりの耐久消費財所有台数の比較 (2009年) カラーテレビ 洗濯機 冷蔵庫 エアコン パソコン 乗用車 都市住民 農村住民 135.6 108.9 96.0 53.1 95.3 37.1 106.8 12.2 65.7 7.5 10.9 0.7 (出所)『中国統計年鑑』2010年版。 図 7 省・直轄市・自治区別第一次産業の従業者比率と年末一人あたりの 貯蓄額(2008年) (出所)『中国統計年鑑』2009年版より筆者が作成。
た。このように、都市住民と比べて、農村住民は情報収集と長距離移動の 能力が大きく制限され、こうした格差は両者の消費行動に大きな影響を与 えると考えられる。 都市人口と農村人口の比率に関して、中国の沿海部、中部と西部の地域 間の差異が大きい。こうした都市化の違いを反映し、住民の所得水準と消 費する能力について地域間の格差が大きい。図 7 は、2008年末中国の31 省・直轄市・自治区における第一次産業の従業者の比率と年末貯蓄額を示 している。図 7 から分かるように、沿海部のほとんどの省と直轄市は、第 一次産業の従業者の比率が全国平均より低く、かつ貯蓄額が全国平均より 高かった。一方、西部地域のほとんどの省と自治区は、第一次産業の従業 者の比率が全国平均より高く、かつ貯蓄額が全国平均より低かった。中部 地域の省・直轄市・自治区の第一次産業の従業者の比率と貯蓄額は、おお よそ沿海部と西部の間に位置づけた。
3.地域間および都市・農村間の教育水準の格差
都市・農村間、また地域間の格差は、所得と消費生活だけではなく、教 育水準にも反映されている。図 8 は、2008年中国の 6 歳以上人口のうち、 高卒以上の人口が占める比率(以下、高卒率と略す)について、各省・直 轄市・自治区および全国平均の比率を示している。図 9 は、2008年中国の 15歳以上人口のうち、非識字人口が占める比率(以下、非識字率と略す) について、各省・直轄市・自治区および全国平均の比率を示している。図 10は、2008年各省・直轄市・自治区の高卒率と非識字率を示している。 図 8 から図10まで分かるように、今日中国の平均教育レベルが必ずしも高 くない一方、地域間の格差が非常に大きい。実際2008年に中国の高卒率は 20.4%に過ぎず、必ずしも高くとはいえない。一方、非識字率は7.8%であ り、成人人口の大きさから考えると非識字人口が多い。各省・直轄市・自図 8 2008年全国および省・直轄市・自治区別高卒以上の人口の比率 (単位:%) 北京 上海 天津 吉林 遼寧 陝 西 湖北 広東 江蘇 浙江 山西 黒竜江 湖南 内モ ン ゴ ル 江 西 新疆 寧夏 全国平均 海南 山東 福建 河南 青海 河北 甘粛 重慶 四川 安徽 広西 貴州 雲南 チベ ッ ト 51.5 47.7 40.2 25.4 25.2 24.3 24.1 24.022.822.1 22.0 21.7 21.6 21.3 21.3 21.3 20.5 20.4 20.4 19.8 18.8 18.2 17.9 16.8 15.9 14.9 14.414.3 13.8 11.0 10.3 5.1 (出所)『中国統計年鑑』2009年版より筆者が計算。 図 9 2008年全国および省・直轄市・自治区別15歳以上の非識字人口の比 率(単位:%) 北京 遼寧 天津 上海 広東 黒竜江 山 西 吉林 新疆 河北 広西 湖南 西江 河南 湖北 全国 重慶 山東 江蘇 内モ ン ゴ ル 陝 西 海南 浙江 寧夏 四川 福建 雲南 安徽 貴州 青海 甘粛 チベ ッ ト 3.1 3.5 3.5 4.0 4.0 4.2 4.24.4 4.6 4.8 5.6 5.9 6.5 7.4 7.7 7.8 7.8 8.0 8.1 8.1 8.2 8.7 9.410.1 10.2 10.4 13.314.5 14.6 16.7 17.8 37.8 (出所)『中国統計年鑑』2009年版より筆者が計算。
治区の状況を見ると、北京、上海と天津という 3 つの直轄市は、高卒率が 全国平均の約 2 倍、非識字率は全国平均の約半分で人口の教育レベルが高 い。一方、山東、福建、青海、甘粛、重慶、四川、安徽、貴州、雲南とチ ベットという10省・直轄市・自治区は、高卒率が全国平均以下で、かつ非 識字率が全国平均以上であった(図10)。これらの10省・直轄市・自治区 は、山東省と福建省を除いてすべてが中部と西部地域に位置している。中 部大都市である重慶市は、中国の 4 つの直轄市のひとつであるにもかかわ らず、教育水準が全国平均より低い。高卒率と非識字率に関する都市住民 と農村住民のデータは公表されていないが、第一次産業の従業者の比率と 非識字率との相関係数は0.41で緩い相関を、第一次産業の従業者の比率と 高卒率との相関係数は−0.81で強い負の相関を示した。 図10 省・直轄市・自治区別高卒以上の人口の比率と15歳以上非識字人口 の比率(2008年) (出所)『中国統計年鑑』2009年版より筆者が計算。
4.都市内部の社会階層構造の変化
地域間、都市・農村間の所得格差と教育水準の差のほか、約三十年間経 済改革開放の結果、中国の都市内部の社会階層構造が大きく変化し、社会 階層間の所得格差が広がった。1970年代終わりまでの中国社会は主に労働 者階級、農民階級と知識人階級といった 3 つの階層から構成されていたが、 経済改革開放によって、新しい社会階層が誕生し、各社会階層の政治・社 会地位と所得状況が大きく変化した。 社会階層構造について中国社会科学院社会学研究所が1999年から2001年 まで全国範囲で行った調査2 ) によると、今日の中国では、職業によって 人々が所有する組織資源、経済資源と文化資源が大きく異なり、職業を基 準にして今日中国社会は10社会階層に分けられることができるという (表 1 、陸学芸、2002)。ここでいう組織資源とは、国家権力・共産党組織 を通じて、人や物質を支配する能力である。経済資源とは、生産手段の所 有権、使用権と経営権である。文化資源とは、学歴や資格など社会に承認 される知識と技能である。 こうした所有資源の差によって、各社会階層の収入が大きく異なる。 表 2 は沿海部大都市である深セン市、中部地域の省都都市である合肥市と、 中部地域の県級市3 )である漢川市(県)といった 3 つの市・県について、 1999年社会階層別一人あたりの月間収入を示している。表 2 から分かるよ うに、 3 つの都市の間に大きな所得格差が存在していたのに加えて、それ ぞれの都市の内部には社会階層間の所得格差が大きかった。各社会階層の 所得水準に次のような特徴がある。 第 1 に、高所得者層について、中部の市・県では、国家行政幹部と企業 経営者は収入がもっとも高い階層であり、一方、沿海部の深セン市では、 企業経営者と私営企業オーナーは収入が最も高い階層であった。社会階層 国家行政幹部 企業経営者 私営企業 オーナー 専門技術者 事務員 零細工商業者 単純技能 労働者 商業・サービ ス業従業員 農業労働者 無職・失業者 社会階層の定義 政治・社会・経済地位 表 1 中国の10社会階層 (中央・直轄市)処長級以上、 (地方)郷長・科長以上の幹部 大中企業の中高級管理者(オー ナーではない) 従業員8人以上を雇っている 私営企業のオーナー 企業や政府部門などの機関で 専門性が高い仕事、技術関連 の仕事を従事する従業員 政府機関の中下層公務員、企 業で非専門的な仕事を従事す る従業員 少量の資本を有し、商業、サ ービス業などの分野で経営活 動を行い、または金融、証券 市場に資本を投じて生活を維 持する人々 主に第二次産業で肉体労働、 半肉体労働を従事する従業員 主に商業とサービス業で単純 労働を従事する従業員 農業を唯一の職業とし、農業 からの収入は唯一の収入源で ある人々 学生を除いて、無職、失業し ている人々 政治地位が高い。 膨大な経営資源を支配し、高学歴、 専門知識が豊富であり、政治・社会 地位が高い。 その高い経済地位と比べ、社会・政 治地位がまだ低い。また、私営企業 の規模のばらつきが大きく、オーナ ーの教育水準のばらつきも大きいた め、この階層の人々の社会地位と名 声はそれぞれ異なる。 中間階級を構成する中核階層である。 この社会階層の人々は社会階層間で 流動する人々である。その一部は国 家行政幹部、企業経営者、専門技術 者階層に上昇する可能性がある一方、 単純技能労働者や農業労働者はこの 階層に流入する可能性もある。 80年代にこの社会階層の多くは農業 労働者や都市の失業者であった。現 在この階層の多くは失業者、出稼ぎ の農業労働者である。 経済改革によって、この社会階層の 社会、経済地位が顕著に低下した。 メンバーの一部は社会人教育、ある いは職業訓練を受けてこの階層から 脱出したが、一部は労働保障がなく なり、精神的な圧力が大きい。 この社会階層の経済状況は第二次産 業の単純技能労働者と似ている。 80年代の農業改革によって、この階 層の生活が大きく改善され、改革の 受益者であった。しかし、97年以降農 産物が売手市場から買手市場に転換 し、農産物の販売難の問題が深刻とな り、この階層の所得が伸び悩んでいる。 (出所)陸学芸(2002)、pp.10-23より筆者が作成。
第 2 に、中間所得層に含まれる社会階層は、深セン市の場合、国家行政 幹部、専門技術者と零細工商業者があり、中部の市・県の場合、私営企業 オーナー、専門技術者、事務員、零細工商業者がある。 第 3 に、低所得者層について、無職・失業者を除き、 3 つの市・県にお いて、商業・サービス業従業員、単純技能労働者と農業労働者は収入が最 も低い階層である。彼らの所得は市の平均所得水準に達していなかった。 さらに、深セン市において、以上の 3 つの階層に加えて、事務員の収入が 非常に低く、彼らは低所得者層になっている。深セン市の被雇用者に関し て、専門知識や技能を必要とする仕事を従事する階層と、そうでない階層 との収入格差が非常に大きい。 第 4 に、中部・西部の市・県と比べ、経済改革開放が最も進んでいる深 セン市は社会階層間の収入格差がより大きい。 社会階層 国家行政幹部 企業経営者 私営企業オーナー 専門技術者 事務員 零細工商業者 商業・サービス業従業員 単純技能労働者 農業労働者 無職・失業者 平均 4,500 7,666 7,572 5,799 3,045 6,014 2,074 1,749 -3,532 深セン市 (沿海部大都市) 1,119 1,117 800 956 868 774 552 584 -734 合肥市 (中部地域の省都) 660 304 631 473 401 417 235 245 181 -265 漢川市(県) (中部地域の県級市) 表 2 1999年3つの市・県における社会階層別一人あたりの月間収入 (単位:元) (注)「 - 」はデータなし。 (出所)陸学芸(2002)、p.27表3。
このように、今日の中国では、農村・都市間や地域間の所得格差に加え て、都市内部の社会階層間の所得格差が大きく、また、その格差は経済改 革開放の進展によって拡大している。国有企業経営者、私営企業オーナー、 国家行政幹部、専門技術者、零細工商業者、事務員(中部・西部都市の場 合)は高所得者層と中間層を構成しており、一方、第一次産業の労働者、 第二次と第三次産業の単純技能労働者および失業者は低所得者層となって いる。 所得格差によって、異なる社会階層の消費能力や情報収集能力が大きく 異なる。図11は1999年深セン市と合肥市における社会階層別パソコンの保 有率を示している。図11から分かるように、パソコンの保有率が61.4%に 達した深セン市に対して、合肥市は省都であるにもかかわらず、パソコン の保有率が深セン市の五分の一で12.5%に過ぎなかった。また、地域間の 格差に加えて、いずれの都市も社会階層間の保有率の差が非常に大きい。 国家行政幹部、企業経営者および専門技術者といった富裕層と中間層のパ 図11 1999年社会階層別パソコンの保有率(深セン市と合肥市) 合肥市 深セン市 平均 農業労働者 単純技能労働者 商業・サービス業従業員 零細工商業者 事務員 専門技術者 私営企業オーナー 企業経営者 国家行政幹部 0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0 80.0 90.0 100.0 22.0 20.6 21.8 26.8 15.9 10.4 10.8 3.9 0.0 12.5 90.0 78.2 75.0 81.3 74.6 44.0 43.7 41.5 0.0 61.4 (出所)陸学芸(2002)、p.28表4により筆者が作成。
ソコン保有率は、市平均よりはるかに高かった。一方、第二次と第三次産 業の単純技能労働者という都市部の低所得者層は、パソコン保有率が市平 均より低く、また、農業労働者のほとんどはパソコンを保有していなかっ た。このように、情報社会において、中国の異なる地域、さらに地域内の 異なる社会階層は、情報にアクセスする能力に大きな格差が存在している。 中国において中間層は都市の最大の社会階層となっているのか。図12は、 経済改革開放が最も早く行われ、中国の先進都市ともいえる深セン市の社 会階層構造を示している。図12から分かるように、所得水準で富裕層と中 間層に分類される企業経営者、私営企業オーナー、専門技術者、零細工商 業者と国家行政幹部は、同市の労働人口の41.9%に占め、半分には達して いなかった。一方、専業主婦を除き、低所得者層に分類される商業・サー ビス業従業員、単純技能労働者、農業労働者と失業者は、同市に労働人口 の54.5%を占め、半分を超えた。 各社会階層は教育水準が大きく異なるため、社会階層間の移動が難しい 図12 深セン市における各社会階層が労働人口に占める比率(1999年) 構成比(%) 国家行政幹部 企業経営者 私営企業オーナー 専門技術者 零細工商業者 事務員 商業・サービス業従業員 単純技能労働者 農業労働者 無職者 (注)深セン市の無職・失業者の内訳は、3.6%は専業主婦、6.9%は失業者である。 (出所)陸学芸(2002)、pp.11-14より筆者作成。 1.0 9.3 4.4 19.9 7.3 23.2 17.2 7.2 0 10.5
と考えられる。表 3 は、上述した深セン市、合肥市、漢川市(県)および、 西部少数民族地区の鎮寧県において、各社会階層が教育を受けた年限を示 している。表 3 から分かるように、それぞれの地域において、各社会階層 が教育を受けた年限には次のような特徴がある。第 1 に、全ての階層につ いて、沿海都市である深セン市は他の市・県より受けた教育年限が長く、 地域間の格差が大きい。第 2 に、 4 つの市・県において、専門技術者、国 家行政幹部、企業経営者が受けた教育年限が最も長い。一方、零細工商業 者、第二次と第三次産業の単純技能労働者、無職・失業者が受けた教育年 限がより短く、農業労働者の教育年数が非常に短い。第 3 に、深セン市・ 合肥市のような大都市と比べ、漢川市・鎮寧県のような小規模な地方都市 は、社会階層間の教育水準の格差が大きく、零細工商業者、農業労働者と 失業者が受けた教育年限が非常に短い。 階層別 国家行政幹部 企業経営者 私営企業オーナー 専門技術者 事務員 零細工商業者 商業・サービス業従業員 単純技能労働者 農業労働者 無職・失業者 平均 13.8 13.5 12.4 14.3 12.9 10.5 11.0 10.7 -9.7 11.9 深セン市 12.8 12.3 10.3 12.9 11.9 9.2 9.9 9.4 -9.4 10.7 合肥市 13.8 11.4 8.5 13.0 10.2 7.9 8.7 7.2 5.4 8.3 8.9 漢川市(県) 12.2 -9.0 12.1 9.4 4.3 8.6 6.3 3.6 3.2 4.1 鎮寧県 表 3 4市・県社会階層別平均教育を受けた年限 (出所)陸学芸(2002)、p.32、表6。
5.おわりに
経済改革開放政策を約三十年間推進してきた中国は、目覚ましい経済成 長を遂げた一方、多くの問題を抱えている。都市化が進んできたものの、 総人口に占める農村人口の比率は約50%でまだ高い。農村人口の多くは収 入水準が低く、情報化社会において情報にアクセスする能力が低い。また、 農村人口の多くは受けた教育年限が非常に短いため、都市に移住しても、 零細工商業を営むこと以外に、中間層の職業に就くことが難しい。こうし た農村部に存在する問題は、農村人口がより高い中部と西部地域において とくに深刻である。 農村部の問題に加えて、都市内部において、第二次と第三次産業の単純 技能労働者は収入が低く、また、教育水準が低いため上の階層に移動しに くいという問題が存在している。今日の中国は、沿海部の先進都市である 深セン市でさえ、低所得者層は労働人口の半分以上を占めており、大きな 中間層が必ずしも形成されていない。こうした地域間、都市・農村間、さ らに社会階層間の格差はいかに解消するかは、中国にとって大きな政策上 の課題となっている。 参考文献Gao, Qin and Riskin, Carl (2006),“Explaining China ,s Changing Income Inequality: Market vs. Social Benefits, ”Revised Version, paper prepared for the workshop on Creating Wealth and Poverty in Contemporary China at Yale University.
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陸学芸(2002)、『当代中国社会階層研究報告』社会科学文献出版社。 『中国統計年鑑』1986∼2011年版。 注 1)2011年に中国の総人口は13億4735万人である(『中国統計年鑑』2011年版に よる)。 2)この調査は中共中央政治局委員、中国社会科学院長(1999年当時)李鉄映 氏の指示の下で始まった調査である。1999年から2001年までの 3 年間、予備 調査として、湖北省漢川市、遼寧省海城市、福建省福清市、貴州省鎮寧県、 安徽省合肥市、江蘇省無錫市、呉江市七都鎮、広東省深セン市などの市、県、 鎮および、北京燕山石化総廠、吉林省長春第一汽車製造廠、天津南開大学な どの企業、学校で質問票調査とインタビュー調査を行い、座談会を開催した。 質問票調査で回収した調査票は約11,000であり、インタビューした人数は約 1,000人であった。こうした予備調査の結果を踏まえて、2001年 6 月から、確 率的サンプリング法を利用して全国12省・直轄市・自治区の72市・県・区で 6,000サンプルを抽出し、質問票調査を実施した。予備調査の結果は、研究チ ームのメンバーである陸学芸氏などが2002年に編集した『当代中国社会階層 研究報告』にまとめられている。 3)中国の県級市は、かつて農村地域であった「県」が、1980年代以降の工業 化と都市化の進展によって、県が廃止され市がおかれた都市である。