[論 文]
個別療育場面における課題からそれる行動に
対する臨床的支援
─課題の間の行動を育てる取り組み─
冨 澤 佳代子
※ Key words:個別療育、課題の間、課題からそれる行動、意識の切り替えはじめに
療育支援場面において、課題と課題の間(以下課題の間)に席から立ち上がる、離席する等の 課題からそれる行動が生じることがある。課題の間や課題の試行と試行の間(以下試行の間)に あらわれやすい課題からそれる行動は臨床上の問題としてとらえられる。 状況理解の難しさや見通しの持ちにくさ、状況を理解していながらも課題からそれる行動が生 じてしまう行動調整の困難さといった発達上の特性が背景にある場合には、視覚的に分かりやす い構造を作ることや使用教材の工夫、その場にあった行動に気づかせ、修正していくという対応 がなされている。 子ども側の要因のほかに、課題の間を空白の時間ととらえて対処方法を検討している流れもあ る。村中ら(2010)は先行研究をあげながら、対象児の逸脱行動の生起をコントロールするため の先行条件の整備を重視した指導プログラムの開発や環境設定のあり方が重要な研究課題となっ ていると述べている。具体的には、課題の間や試行の間を極力短くすることや課題の片づけや準 備といった活動を取り入れることにより逸脱行動が生じにくい状況をつくり、強化する方法が実 践されている。 このように、課題からそれる行動は状況理解の難しさや見通しの持ちにくさといった子ども側 の要因と「間」の存在という要因とに注目して臨床実践上の工夫や研究がおこなわれてきた。そ の多くの研究が課題からそれる行動を防ぐ、生じないようにするという視点での研究であり、本 来求められる行動を作る支援を行った研究はあまり見られなかった。課題の間からそれる行動が 生じにくい環境的配慮は重要であるが、子どもの臨床像によっては、環境を整えた上で課題の間 ※ 淑徳大学兼任講師の行動を作っていくことが必要な場合もあるのではないだろうか。課題の間や試行の間のもつ役 割にそった行動を育てていくという視点や課題の間にあらわれる行動の意味を理解しながら、発 達課題にそった支援について検討していくことも意義があると考える。 そこで、本研究は、課題からそれる行動の意味、課題の間の役割について検討したのちに課題 の間や試行の間に頻繁に課題からそれる行動が生じた対象児への支援経過について報告し、課題 からそれる行動の支援方略について考察することを目的とする。
Ⅰ 課題からそれる行動に対する臨床的理解
1.課題の間の意味 (1)支援者における課題の間と課題からそれる行動 課題の間や試行の間を対象児にとって何もすることのない空白の時間ととらえている場合に は、課題の間はなるべく短くするように求められる。対象児の課題に向かう意識を維持するため や課題からそれる行動を防ぐためには、できるだけ短い時間であった方がよいといえる。しかし、 課題の間は、フィードバックを与え課題の終わりを明確に示し、次の課題に向かうための教材の 準備を行う時間でもある。 療育場面にはいくつかの課題が用意され、対象児がそれぞれの発達水準に応じた能動性を発揮 しながら療育課題に向き合い、課題を通して支援者とやり取りをしていく。療育場面の土台を保 証し維持するためには療育場面全体を支援者がコントロールしていけることが望ましいが、課題 からそれる行動が生じると、着席を促し、改めて課題に向き合う姿勢を作らなければならないだ けでなく、療育場面全体の流れが止まることにつながる。課題からそれる行動はその回数が多け れば多いほど、療育場面の安定性がゆらぎ、支援者がコントロールするのではなく、課題からそ れる行動に療育場面全体が振り回されることにつながる。そのため課題からそれる行動は支援者 にとってはできるだけ防ぎたい行動といえる。 (2)対象児にとっての課題の間と課題からそれる行動 課題の間は動きのない時間になるため課題からそれる行動が生じやすいと考えられる。しか し、課題の間は行った課題の達成感や余韻を感じつつも次の課題に意識を向けていくという、気 もちや意識の切り替えが求められる時間でもある。 村中ら(2010)の研究では、課題の間に待つことだけを指示されると対象児の離席行動の生起 率が高まったことが明らかになっている。待つことだけを指示されると、見通しの持ちにくさや 状況理解の困難さから課題からそれてしまう場合、多動性や衝動性により課題からそれていく場 合が考えられる。そのほかに、課題の難易度があっていないために次の課題への動機付けが低下 して課題からそれる場合や次の課題への期待や楽しみが情動興奮につながり行動がうまく調整できなくなるなど行動の調整が課題になっている場合も考えられる。このように見通しを持ちたい という要求や動きを必要とする状況、動機付けの低下による回避要求、情動興奮による行動調整 困難状況というように課題からそれる行動の背景には様々な要求や状況が想定される。課題から それる行動が生じた場合には、どういった要求や状況の中で生じているものなのかを丁寧に見極 めていく必要があるのではないだろうか。待っていてね、と静観的に待つことを求めることは対 象児の要求や状況を受け止めたとはいいがたい。そのために課題からそれる行動が生じているの ではないだろうか。 また先の村中らの研究では、課題準備に参加しようとした対象児を支援者が制止した場合に制 止の行為が対象児の逸脱行動の生起率を高める効果を持つ可能性が示唆されている。この結果は 二つの意味を含む可能性がある。一つは、課題準備活動を制止されたことによって待つことだけ を指示された時間となり課題からそれる行動が生じた可能性、もう一つは支援者が子どもの行動 を制止、つまり否定的な反応をしたことによって課題からそれる行動が生じた可能性である。梶 ら(2010)による小学校における授業逸脱行動に対する研究では、授業逸脱行動を注意するなど 注目することが逸脱行動の強化維持につながることや、望ましい行動に注目し望ましくない行動 に対しては消去するという働きかけだけでは十分に修正できない行動があり、特性に合わせた直 接的、積極的な支援が有効であることが示されている。このように先行研究からは、子どもの行 動に否定的なフィードバックを与えることが課題からそれる行動を強化すること、課題からそれ る行動に対して注目を与えないだけでなく、その時間の行動を育てていく支援が必要であること がわかる。 (3)子どもの発達臨床像に応じた課題の間の理解 課題からそれる行動の背景には様々な要因が推定される。早川(2002)による「発達障害を持 つ児童が、どのように自分を取り巻く外界からの刺激を受け入れ、それにどう答えながら生活し ているのか、ということを理解したうえで、かかわり方を考えていかなければならない」という 指摘や小林ら(2010)の対象児の発達的理解の重要性と発達的理解に結び付いた構造化によって 支援が効果的となるという研究結果に示されたように、療育場面において生じる様々な行動を子 ども側に立って理解し、そこにある課題と子どもの発達的な理解とを重ね合わせながら必要な支 援を行っていくことが重要である。 発達初期の場合には、感覚を使って受け止め、自ら働きかけていくという行動を作っていく段 階にあり、課題の間という目に見えない時間の流れにどう対処するかを学ぶ段階ではないといえ るし、絵カードなどを示されることによって予測的に対応する力が育ちつつある場合には、状況 の変化による情動の揺れを受け止めはじめ、相手に応じること合わせることを中心に育てていく 段階であり、今の課題から次の課題への姿勢を自ら調整していく段階ではないといえる。これら の発達像の対象児の場合には、課題の間をできるだけ短くすることや課題からそれる行動に拮抗
する行動を行うことが課題からそれる行動への対処方法として効果的である。 他者とイメージが共有でき、集団場面でのルール理解や子ども同士で遊びを展開していくこと がある程度できる発達段階になってくると、次の課題に向かう意識の切り替えをするための時間 として、目に見えない時間の流れにどう対処するのかを学ぶことを検討する段階になってくる。 次の課題に向かう意識の変化がスムーズに行われるよう、課題の間に生じる子どもの要求や行動 を理解したうえで課題の間の行動を作るための積極的な支援が必要で、課題の間に求められる課 題の終わりへの意識と次の課題への気持ちの切り替えを育てていくことが求められる。 2.支援方略と方向性 課題からそれる行動は、立ち上がりや離席などの形であらわれ、頻度が多い場合には動きが多 い、衝動性が高いといった理解がなされることが多い。宇佐川(2007)は「障害児の療育におい て静的な活動と動的な活動の使い分けは重要である。というのは緊張不安の強い子どもは静的な 活動に強い親和性を持ち、動きの激しい子どもにとっては動的な活動に親和性を持ちやすいから である。」と述べ、動きのあるダイナミックで活発な活動である動的活動と座って行う静的活動 とをうまく組み合わせていくことにより、動きの多い子どもの支援を考えていく必要性を指摘す る。また、宇佐川(2007)は、音楽の場合にはセッション中に動的活動と静的活動とを自由に切 り替えて取り入れることが可能であると述べ、音楽療法では子どもの臨床像に応じた多様なかか わりができると指摘する。音の受容、楽器操作による操作性の向上、曲のスピードやリズムに合 わせていく行動の調整というように曲の枠組みにより療育課題の流れを維持しながらそこに様々 な要素を入れていくこと無理なくできるということであろう。 今野(2010)は、刺激に対する過敏性や過剰反応性による、情緒や行動のコントロールの困 難さに対する援助方法として「環境刺激の中に安定した秩序や意味のまとまりを知覚するために は、衝動や不安・緊張などをコントロールし、内的に安定した状態を確立するための援助(「内 的な構造化の援助」)も重要である」として安定した秩序や意味のまとまりがわかりやすく示さ れ、その安定感の中に身を置くことが情緒やコントロールの困難さに対する援助につながると述 べている。 筆者が以前にかかわった学童期の子ども達を対象としたグループ活動においては、活動と活動 の間に子どもたちが活動からそれ、途切れてしまうことが問題となっていた。一度活動から外れ てしまうと、活動が進んでいる等して加わりにくいこと、加われない児童の存在が他児の「刺激」 になり活動からそれる行動が他児にも広がるといったことが生じた。そこで、グループ活動全体 をシナリオ化して流れを作り、そこにいくつかの活動を組み込んでグループ全体の流れを維持し ながら課題に向かう意識や姿勢を維持する支援方法について検討した(東、2002)。 いくつかの療育課題を組み込んだ療育場面の構造全体の流れを維持する機能を持ち、安定した 秩序として支援者と対象児との間での共有しやすい枠組みであるという点で音楽とシナリオ活動
とは共通している。このように、場面全体の流れを維持する機能を持ちながら支援者と対象児と で共有することが可能で、対象児の要求や状況、発達臨床像に応じて柔軟な対応のできる枠組み を導入することにより、課題からそれる行動を軽減することが可能なのではないかと考えた。ま た、対象児の発達臨床像に応じた柔軟な対応が可能な枠組みによって、課題の間における次の課 題に向かう意識の切り替えを促す支援を行うことも可能ではないかと思われた。 音楽は柔軟性をもつ有効な手段として考えられるが、支援者側の技術も必要で、実践できる範 囲が限られている。シナリオ活動の場合には、もともと実施していた療育場面をそのままに療育 課題の間をどう過ごすかが明確に示される方法で実践しやすい。ただし、シナリオの流れを理解 する必要性とシナリオの流れに沿ってセリフを言ったり動いたりするというイメージする力やイ メージの中で行動することを楽しめる発達段階でないと活用することが難しいという問題や複数 メンバーで場面を共有しながら展開する場面に適しており、合わせてくれる大人である支援者と 対象児との一対一の療育場面には適していないことが問題である。そこで、シナリオ活動に変わ る課題として「指令探し」課題を導入して支援を実施した経過を報告し、その結果について検討 を行うこととする。
Ⅱ 事例 指令探し課題を用いた臨床支援
課題と課題の間や試行のわずかな間に「立ち上がる」「身を大きく乗り出してセラピスト(以 下Th)に手を伸ばす」「離席する」「興奮し、Thを叩く、つねる」といった行動がみられた対象児 に対し、「指令探し課題」に取り組むことにより課題に向き合う姿勢を維持しながら新たな課題 への切り替えを行うことを目的とした支援を行った。 1.対 象 (1)対象児 A児:5歳5ヶ月、幼稚園年長の男児である。幼稚園では、適応上の問題は指摘されていなかっ たが、視線が合いにくいことや、他者になれなれしくかかわっていく様子、こだわりがあり何か のきっかけで精神的に混乱すると母親でも手がつけられず対応できないこと、落ち着きがないこ と、急に興奮して大きな声で話すことがある等を気にかけた母親が知人に相談し、知人の紹介に より筆者のかかわる相談機関に通所を希望した。 (2)成育歴および教育支援歴 予定日より1ヶ月早く前置胎盤で出生。座位が12カ月、つかまり立ち16 ヶ月、始歩が24カ月 で運動発達の遅れが認められる。言語コミュニケーション発達については、始語24 ヶ月、2語 文が36 ヶ月と遅れが認められた。三歳児健診時にこだわりの強さを指摘され、個別相談を利用。同時期より地域の療育センターにおいて作業療法士による感覚統合を中心とした療育訓練を受け ていた。また、4歳の頃より吃音、構音障害について言語訓練を受けていた。 (3)初期の臨床評価 身辺自立は問題なく、言語コミュニケーション面においては、多語文を理解し表出することが できていたが、サ行がタ行に変換する構音の困難さが認められ、前後の音韻によっては他の発音 も不明瞭になることがあった。初めて出会った人でも勢いよく近づいていって興奮気味に自分の したいことやいいたいことを言い続けるなどマイペースにかかわろうとする傾向が認められた。 運動は苦手でやりたがらず、歩くことが嫌いで、すぐに座り込んでしまうという。療育場面で は、着席していても姿勢が崩れやすく、目標に向かってボールを転がす場面では、かなり目標に 近づいても意図したところにボールを転がすことは難しかった。 認知面については、療育センターで実施したWIPPSIではVIQ93、PIQ92、IQ91という結果で あった。また通所申し込み時の田中ビネーⅤでは基底年齢は3歳でIQ97という結果であった。 検査実施場面では「早く」「たくさん」できることにモチベーションが上がりやすい傾向が認め られた。 (4)支援期間と支援の構造 20xx年5月∼ 20xx+1年3月まで、約11 ヶ月間にわたって個別療育と集団療育を組み合わせ た週2回3セッションの療育を実施した。 2.研究の視点と方法 筆者が担当する週1回の個別療育指導のうち20xx年5月から20xx+1年1月までの9か月間に おいて取り組んだ「指令探し」課題による支援経過を対象とする。 「指令探し」課題は、課題の終わりに次の課題について書かれた「指令」のある場所が示され、 指示に従って「指令」を探し出し、着席して「指令」を読む課題である。 DVD録画した支援記録、観察記録をもとに、課題の間や試行の間の行動、指令探し課題への 取り組みと療育場面全体における行動を分析した。筆者の指示なく椅子から立ち上がる行動や離 席などを課題からそれる行動とし、次の課題への期待から「早く、早く」といいながら情動が上 がっていき、衝動的行動や離席に至る反応を気早反応として、これらの行動や反応の変化を分析 の視点として結果をまとめた。 3.臨床支援の結果 支援経過を第1期 環境の調整等による行動調整を試みた期間、第2期 指令探し導入期、第 3期 指令探し展開期の3期に分けて述べる。
(1)第1期 環境調整等による行動調整を試みた期間(20xx年5月∼6月) 初回の療育場面では立ち上がりそうになっても離席せずに着席したままTh側に手を伸ばした り、机を叩いたりすることで興奮を表出していた。2回目以降慣れてくると課題からそれる行動 と気早反応が認められた。姿勢の保持の困難さもあったため、環境調整によって行動を調整して いくことを試みた。環境の調整の取り組みと課題の間の様子を表1に示す。 課題の間の反応としては、気早反応と椅子からの立ち上がりが最も多く、椅子からの立ち上が りは、多い時で2∼3分に一回のペースで、机上学習を中心とした療育場面では、療育時間中10 数回立ち上がることが継続的に認められた。しかし、提示された課題に合わせて動きを調整する ことが必要な活動や苦手な活動であっても音楽療法、運動療法のプログラムを実施した際には、 数回のみの立ち上がりであった。 療育時の机や椅子をクッションのあるものや股あてのあるものを使用した際には、体に密着す る療育椅子が不快で課題に取り組む間ももじもじと動くだけでなく、立ち上がりも多くなった。 課題の片づけや準備に参加させるという作業を取り入れると、片づける教材を隠してからかう様 子や速さを競い始めて気早反応が強まる結果となった。 気早反応が生じると情動興奮してしまうだけでなく、課題への取り組みも焦りがちになり、課 題の失敗につながることもあった。課題そのものの難易度を下げると「見ないで」といってThの いる場所を指示した上であわてて取り組んだり、「競争」と決めるなど自分で難易度を上げ、さ らに気早反応が生じることがあった。 表1 第1期 環境調整 取り組み A児の様子 課題の間の反応、様子 その他 療育椅子 の使用、 机の工夫 課題の間にとどまらず、試行ごとに立ち上がる。 療育椅子を使用した際には、2-3分に一回立ち上がり、座っていても、 上半身がそわそわしていた。興奮して机を叩く、机を挟んで向かいに座 るThの方に大きく身を乗り出して叩くことも頻繁。課題に取り組んでい る間も「何かやりたい何かやりたい」「何、何、次何やるの」と次に何を するのかを発しながら興奮していく気早反応が顕著に認められる。股あ て等のない幼児椅子にしたところ立ち上がることは軽減。 課題の取り組みはよいが姿勢が 崩れやすく、椅子から落ちてし まうことがある。 言語で答える質問には「なんで もいい」「しってる」などの決 まったパターンで応答する。 音楽療法、 運動療法 を実施 課題の間や試行の間に、理由もなく立ち上がったり、Th側に大きく手を 伸ばしたり、離席するなどの行動は見られない。 音楽療法では、全身でリズムを とりながら大きく体を動かし取 り組む。Thへの注目は高く、楽 器 操 作 で 情 動 が 上 が る こ と は あっても、ある程度の範囲でと どめられている。 課題の片 づけや次 の課題の 準備 着席を維持した状態で使用した教材をThと片付けながら「早くやろう! 早くやりたい」と大きな声で言いながら興奮。早さを競い始めて、さら に興奮。次の課題を「教えて!早く!」と立ち上がり、繰り返し言うが こちらが教示をする間がない。 片付ける教材を机の下に隠し、なかなか渡さず教材を片付けることでか えって注意をする場面が増えてしまう。 療育後に楽しみにしている出来 事があると、その楽しみが興奮 につながっているときもある。 課題からそれる行動が増えると 課題そのものに集中しにくくな る。
課題の間に現れる情動興奮を伴う課題からそれる行動や気早反応は、次の課題への取り組みに も影響し、課題中にも立ち上がりなどの課題からそれる行動が認められ、結果的に課題の出来に も影響を及ぼした。課題に集中した後に、気持ちがはじけるように体を動かし興奮する姿もみら れ、情動を調整して課題に取り組んだ反動として動いているようにも感じられることがあった。 以上の点からA児の課題からそれる行動には、次の課題への意識の変換の困難さと課題に取り組 んだ反動としての行動の表出、動きたい要求が現れており、動きを保障しつつ次の課題への意識 の変換を支援していくことが必要と考えた。 (2)第2期 指令探し導入期(20xx年7月∼9月) 課題の間の構造を作りその秩序の中で課題の切り替えを育てていくことをねらって「指令探 し」課題を導入した。「指令探し」課題の具体的実施方法は以下のとおりである。 まず、A児の下駄箱に図1のような手紙を入れておき、支援開始前に指令探しが導入されるこ とを伝えた。これは、指令探し導入2回目以降も内容を変えながら提示した。 一つ目の課題の書かれた指令は療育室に入室したA児が見つけやすいよう、机の上などに貼っ ておいた。気が付かない時には、筆者が着席してから「気が付かなかった?」と声をかけ、着席 した状態で周囲を探すように促した。実際に使用した指令の一例を図2に示す。指令は、具体的 な課題名や教材の名前などを示すのではなく、課題が成功するために大切にするポイントを課題 の紹介として示した。指令や手紙のサイズはA4用紙の約6分の1サイズであった。 一つ目の課題に取り組んだ後、使用した教材の片づけを促した。教材をしまう箱等に指令の隠 し場所の書かれた手紙を用意しておき、手紙を見つけたA児が「指令探し課題」に取り組んだ。 指示に従って指令を見つけ、着席して指令を読み、次の課題に取り組む。以降はこの繰り返しで ある。実際に使用した指令の隠し場所について書かれた手紙の一例を図3に示す。 図1 下駄箱に入っている手紙の例 図2 指令の例 図3 隠し場所について書かれた手紙の例
指令を隠す場所は、個別療育室内と、A児の下駄箱から療育室までの導線上の室外を含めた。 動きのある活動の方がTh側への意識が維持されやすいことから、A児にある程度自由な動的活 動を保証することによりこちらの求める課題への集中度を高めること、自由な動的活動の保証に より動きたい要求にこたえることを念頭において、指令の探し場所は部屋の柱の上の方や床の 隅、療育室の外など本児が大きく動きながら探す場所を中心に選んだ。指令探し課題導入期の様 子について表2に示す。 初回に指令探しを導入した際には、手紙や指令を着席して丁寧に一文字ずつ読んでいく姿が印 象的であった。指令を探す行為も面白がってしっかりと意識が向き、指令を探すことで課題から それる行動が生じることはみられなかった。着席した状態で足をバタバタさせるなどの動きは見 られるものの、立ち上がりや気早反応の頻度が減少した。 2回目以降、指令探し課題のやり方の見通しが立ち、教材を片付ける箱に手紙があることは分 かっていても、片づけて手紙を受け取り、読む流れが定着した。Thが一緒に同じ片付けを行う と競争に持ち込みがちな傾向はあるが、競争から気早反応へと移行することはみられなかった。 「早く」ということがあっても、情動興奮が高まりすぎずなぜ早くしたいのか、どういう気持ち なのかをTh主導で話すことができた。難しい課題に「難しい」と言語で伝えられたり、うまく いかない時には机の下に潜るなど、課題に応じた感情反応が豊かに表れるようになった。 (3)第3期 指令探し展開期(20xx年10月∼ 20xx+1年1月) 「指令探し」課題が定着し、課題からそれる行動や気早反応が減少したことから、「指令探し」 表2 第2期 A児の様子 指令探し課題の取り組み、 課題の間の反応様子 課題から逸れる行動 気早反応 その他 指 令 探 し 初 回 指令を丁寧に読んでいる。読んでいる 間は集中している。 手足をその場でバタバタさせることや 頭を手のひらでたたいて自己刺激する 様子が認められる。指令探し以外の場 面では、立ち上がりと離席を合わせて も5回程度と減少する。 難しいと感じる課題の前に 「できるかな」と言葉にした り、発音の苦手な音をThに 伝えて「いえるようになりた い」と伝える。 2 回 目 以 降 指令を丁寧に読み、課題に取り組むこ とができる。教材を片付ける箱などに 指令探し課題が貼ってあることに予測 がついていても、行動が乱れることは なく、落ち着いていることができる。 指令探し課題を7回実施したところで 試しに指令探し課題を抜いて音楽運動 のプログラムを実施すると、「指令がほ しい」とA児自ら求める。 また、療育場面の初めや課題の間にA 児が見たテレビ番組の話や外出の話な ど雑談をA児から話しかけてくるよう にもなる。 期待から身を乗り出すような行動は少 なくなったものの依然として認められ る。 立ち上がりについては、波があり、療 育開始時にすでに興奮状態である時に は立ち上がりや離席が認められるが、 合わせても10回程度にとどまっていた。 気早反応はほとんど認められない。「早 く!」ということがあってもThが「何 かな?知りたいの?」と聞くと「うん」 ということができる。 片づけを共に行う、同じ課題 に一緒に取り組むなど並行し て同じ行動をとると競争にな りがち。 難しい課題には「難しい」と いえるようになったが、間違 えを隠そうとしたり、机の下 にもぐったりと失敗した時の 気持ちを受け止めることが発 達課題となってきた。
課題を展開してくじ引きによる指令探しとあみだくじによる指令探しをそれぞれ複数回にわたっ て行った。 くじ引きによる指令探しとは、大きなボックスに先の図2に示したような指令の書かれた紙を すべて入れておき、A児がくじを引いて出てきた指令に従って課題に取り組むものである。課題 を終えた後には課題の片づけを行い、その後またくじを引いて課題に取り組むことを繰り返した。 あみだくじによる指令探しは、まずはくじによって出てきた番号の指令の書かれた紙をとる、 という方法を用いた。くじ引きから変化をしても手法が大きく変わらないように、線をなぞるだ けではなく紙をとるという着席を維持した状態で動く活動を残した。あみだくじに慣れた後は、 あみだくじを引いたところに指令の内容を書き記しておいた。このように、着席を維持した机上 での取り組みであるが、手の動きの大きさを徐々に変化させて静観的に待つ姿勢に近づけるよう にした。第3期の課題の様子を表3に示す。 課題の間にA児の方からThに話しかけてくることが第2期から見られ始めており、定着しつ つあった。特にこの第3期には、今取り組んだ課題の感想を言いながらくじに向かっていた。以 前なら気早反応を生じていた時間に取り組んだ課題について話をするという、言葉での気持ちの 切り替えができるようになった。療育後の予定によっては療育開始時にかなり興奮していること もあったが、療育開始の場面でそわそわしながらも療育後の予定をThに話すと課題に向かうこ とができた。課題そのものの達成度が通常よりも下がることはあっても課題からそれる行動が頻 発することはなく、課題に取り組もうとする姿勢をA児なりにコントロールして取り組んでいる 姿があった。 表3 第3期 課題 の 展開 A児の様子 指令探し課題の取り組み 課題からそれる行動動 気早反応 その他 く じ 引 き に よ る 指 令 探 し 課題の合間の動的活動はなくなるが着 席を維持した状態で過ごすことができ た。教材の片付けとくじ引きとを両方 行ったほうが落ち着いており、片づけ がない時にはTh側に身を乗り出すよう に手を伸ばすことがあった。 全体としては立ち上がりや離席はほと んど認められない。入室時にすでに興 奮状態であった日は、足をバタバタさ せたり、課題の間に立ち上がることが 認められた。 動きのある課題では激しく動 いたり、楽器操作で力の加減 やコントロールが難しい様子 は見られた。 あ み だ く じ に よ る 指 令 探 し くじの終わりが見えてくるとあわてて そのままゴールへ行こうとすることも あったが、Thが声をかけると、情動を 乱さず元の位置から線をなぞっていく ことができた。回数をこなすと線を意 識して丁寧になぞることができるよう になった。 課題の流れが止まること はなく、スムーズに取り組むことがで きた。課題を終えた感想を言いながら 次の課題を待つことができていた。 療育後の外出が楽しみで着席するなり 「早くやりたい、バカ」と足をふみなら して情動が上がっていく様子が見られ た日は、課題の達成度は低いが、気早 反応は見られず興奮気味ながらも課題 に取り組むことができた。 その日を除いては、課題からそれる行 動はほとんど認められず、あっても大 きく課題の流れを妨げるほどではな かった。 興奮気味であった日は、勝っ た、負けたの発言が多く一人 で競争にする傾向がみられ た。そのほかの日には過剰な 興奮は認められなかった。 勝ち負けのあるゲームに取り 組んだ際には時折興奮して大 きな声が出ることもあった。
(4)まとめ 「指令探し」課題導入前には、椅子や机の工夫や教材の片づけや準備への参加という環境調整 と課題からそれる行動に拮抗する行動の定着を試みたが、いずれもA児の課題からそれる行動や 気早反応を減少させることは難しかった。教材の片づけや準備に参加させる方法は、教材を隠す という新たな課題からそれる行動と、筆者と競って興奮し、気早反応が強まるという結果につな がった。「指令探し」課題を導入すると、指示しなくても着席して手紙や指令を読み、次の課題 に取り組むことができた。課題によっては興奮して立ち上がることはあっても第1期に比べると その頻度は大幅に減少した。 第3期には、指令を探す段階を動きの少ない活動へと展開させていったが、A児から課題の感 想を話すなど意識を切り替えるつなぎの行為が自然と出てくるようになり、課題からそれる行動 や気早反応の頻度は減少したまま変わらなかった。
Ⅲ 考 察
課題からそれる行動や気早反応に対して「指令探し」課題を導入し、支援したところそれらの 行動が減少した。宇佐川(2007)は興奮しすぎた情動を鎮静化するために静的活動を用いること の有効性を指摘し、特に動きの多い子どもの場合には動的活動と静的活動とを交互にくむ流れが プログラムを組みやすいと述べている。本研究において導入した「指令探し」課題は、図4に示 すようなプロセスからなる動的活動と静的活動とを交互に含んだ課題であった。 環境を調整する方法や片付けや準備に参加させる方法との違いは、動的活動1の存在にある。 環境を調整する方法は次の課題に向かうための意識の切り替えを対象児自身が静観性を保ったま ま行うことが求められる。片付けや準備に参加させる方法は、動的活動に含まれる場合もあるが 支援者側の指示に従って動くという受け身の活動である。「指令探し」課題における動的活動1 は、ヒントを頼りに隠された指令を自由探索することが保障された自由な動的活動である。 図4 「指令探し」課題に含まれる活動のタイプ動的活動には、応じる動きのような、運動の調節・調整が求められる動的活動と自由度の高い 自由な動的活動とがある。動的活動1は、指令を探すという枠組みに守られながらある程度自由 に動くことが保障される活動であり、提示された課題に応じることが中心になりがちな療育場面 において遊びの側面も持っている。自由な動的活動の場合には、場面の構造の共有ができてい ないと情動が上がりやすく、活動全体のコントロールが難しくなる場合もあるが、動きの多い対 象児にとっては、自分のペースで自由に動きが取れる時間がリラックスする時間になることもあ り、安定性の高い場面の構造や枠組みの中で自由な動的活動を保障することが静的活動や動的活 動の向き合いやすさを形成できると考える。「指令探し」課題はA児にとって安定性の高い枠組 みであり、動的活動1において動きたい要求を能動的に発露し、構造的に受け止められることが 次の課題に向かうための意識の切り替えにつながったといえるだろう。 静的活動1は、課題の間に入るサインであり、課題を終えたことによる達成感や興奮を鎮静さ せつつ「指令探し」課題という枠組みの中に導入する役割を果たしていた。次に動的活動が動き たい要求と次の課題への期待や楽しみの受け皿となり、最後の静的活動2は「指令探し」という 動的活動の終わりのサインであり、次の課題に向かう意識の切り替えを支援するサインとして機 能していた。このように、静的活動1,2はいずれも課題の始まりや終わりといった区切りを示 すサインとしての機能を持っていた。 第3期には、動的活動1に段階的に変化を加えていった。室内外を探索する自由な動的活動か らくじ引きで指令を選択する調節・調整が求められる動的活動へと移行し、次に線をなぞってい くという調節的に限られた範囲で動かすあみだくじへと展開させ、静的活動に移行していった。 自由な動的活動から調節調整が求められる動的活動を挟み静的活動へ移行すると、A児が自ら課 題の感想や療育終了後の予定などを口にし、課題の達成感や感想といった余韻を言葉で支援者と 共有することや今ここで伝えたいことを言葉で表現するといった行動があらわれた。自由な動的 活動で課題に応じて情動を調節したことの反動としての動きたい要求を受け止め、次の段階とし て自由な動的活動を静的活動に近づけていく方略によって、次の課題への期待や動きたい要求を 調節して次の課題への意識の切り替えに向かう行動の育ちが認められた。 このように、課題の間の意識の切り替えに向けて積極的に支援を行ったことにより、課題の フィードバックを筆者が一方的に伝える関係からお互いにフィードバックをしあい、共有する関 係へと変化し、動的活動をはさまなくても課題の区切りを示されれば次の課題への気持ちの切り 替えができるようになったと考えられる。
Ⅳ むすび
課題の間に生じる課題からそれる行動は療育場面の流れを妨げ、課題遂行に影響することか ら問題行動ととらえられることがあった。支援者にとって課題の間が必要な時間であるのと同様に、発達段階によっては対象児にとっても次の課題へ向かって意識を切り替えていくための必要 な時間となる。動的活動を保障しつつ静的活動へと段階的に切り替えていく支援を行ったことに より、課題の間が課題からそれる行動の生じやすい空白の時間から、次の課題に向かう意識の切 り替えを行う時間として機能するようになり、課題の間に静観性をもって待つ姿勢が育っていく ことが示唆された。 【参考文献並びに引用文献】 早川淳子 2002 運動障害を伴う知的障害児の発達的視点から見た事例研究─パターン認知から行動調整力 の芽生えへ─ 発達臨床研究 20,49-60. 東佳代子 2002 前思春期LD児への臨床的支援に関する研究─小グループでの心理的アプローチの実践か ら─ 発達臨床研究 20,71-81. 梶 正義・藤田継道 2006 通常学級に在籍するLD・ADHD等が疑われる児童への教育的支援─通常学級 担任へのコンサルテーションによる授業逸脱行動の改善─ 特殊教育学研究,44(4),243-252. 小林幸代・小林信篤・佐々木正美 2010 自閉症児への支援技法である構造化における評価の重要性 川崎 医療福祉学会誌 19(2),277-283. 今野義孝 2011 日本特殊教育学会第48回大会シンポジウム報告 発達障害者の主体的な生活支援における 「構造化」の課題と展望─ 「外的な構造化」と「内的な構造化」の調和を目指して─ 特殊教育学研究, 48(5),406-408. 村中智彦・藤原義博 2010 知的障害児の個別指導の在り方に関する検討─課題準備行動が逸脱行動の生起 に及ぼす効果から─ 上越教育大学研究紀要 29,187-196. 宇佐川浩 2007 障害児の発達臨床Ⅰ 感覚と運動の高次化からみた子ども理解 学苑社 宇佐川浩 2007 障害児の発達臨床Ⅱ 感覚と運動の高次化による発達臨床の実際 学苑社 【付記】 本報告は、匿名性への配慮、倫理的配慮の下作成し、研究協力についての承諾をA児の保護者から得ている。