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失われた10年と沖縄経済の長期低迷: 沖縄地域学リポジトリ

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Title

失われた10年と沖縄経済の長期低迷

Author(s)

村上, 敬進; 藤澤, 宜広

Citation

沖縄大学法経学部紀要 = Okinawa University JOURNAL

OF LAW & ECONOMICS(11): 1-10

Issue Date

2008-12-25

URL

http://hdl.handle.net/20.500.12001/5989

(2)

沖縄 大学法経学部紀要 第 11号

失われた

10

年 と沖縄経済の長期低迷*

村 上 敬 進 '・藤 揮 宜 広‡

論文】

要 旨 いわゆる 「失われた10年」問題 の解明は、多 くの研 究者 が取 り組 んでい るが、未 だに定型化 され た事実 (stylized Facts)は得 られ ていない。 その原 因の一つ は、経 済学の古典的課題 と強 く関係 してい る。す なわち、経済動向を分析す る際、需要サイ ドを重視す るか (需要派)、供給サイ ドを 重視す るか (供給派)、需要 と供給 の相互作用 を重視す る立場 を採 るかによって、分析 の視点が異 なって くるのである。本稿 では、1990年代の 日本経済の長期停滞 の原 因を究明 した諸研究 を、 これ ら三方 向か らサーベイ し論争 を整理す る。 更に、供給派は

TFP

低 下説 と労働 市場 にお ける資源配 分の非効率説 に分 けて整理す る。最後 に、国民経済の分析 を、沖縄経済の分析 に適用す るための研 究課題 を明 らかにす る。 キー ワー ド :需要サイ ド、供給サイ ド、需要 と供給の相互作用 1 は じめに 日本の長期停滞 をめ ぐる諸研 究は百家争鳴の状態 にある。 この原因の一つは経済学に とって古 く て新 しい課題 である需要サイ ドと供給サイ ドの論争 にある。需要派 は、90年代 日本経済の長期低迷 を需要不足に求 め、典型的な供給派は、その原 因を 日本経済の全要素生産性

(

TFP)

の低 下である と考える。 需要派の主な主張を整理す ると以下の 3点に絞 られ るであろ うO①金融緩和の程度お よび時期が 遅れた こと。それ に伴いデ フ レ予想が消費や投資の低迷 をもた らした こと。②財政 引き締 めによる 公的需要の減少。③金融仲介機能の低下 (貸 し渋 り) による設備投資の低下。一方で、供給派の主 張を大まかに整理す ると以下の よ うになる。(丑企業部門の生産性 と収益力の低下o②産業構造の調 整の遅れ。③資源配分の非効率化。② と③ については、銀行の追い貸 しによる生産性 の低い企業の 延命 、公共投資が非効率な資源配分 をもた らしてい る、 とい う見解が背景 にある。G)の生産性 の低 下については、90年代に生産性が大 き く低下 した とす る研 究成果 を採用 した として も、その理 由は 何か とい うことまでは、様 々な研 究が行 われ てい る段階であ り、定型化 された事実は存在 していな い。 この よ うな論争の中で、最近 よ うや く、需要派 と供給派の考 え方 を統一 した (

2

つの立場 を整合 的に解釈 した)新 しい研究が提 出 され るよ うになった。本稿 では、需要派 と供給派の考 え方 を整理 した 上で、需要派 と供給派の両面 を考慮 した研究のサーベイを行 う。更に、 これ らの国民経済 を分 析 した先行研 究の成果か ら、沖縄経済の長期低迷の謎 を解 明す るための課題 を明 らかにす る。 -

(3)

1-失われ た10年 と沖縄経済の長期低迷 本稿の構成 は以下の通 りである。 2節 では以下のよ うに諸研究 をサーベイす る。 2- 1で需要派、 2- 2では、主に TFPの低下を長期不況の主犯である と考 える供給派の諸研 究 を整理す る。 2- 3 にお いては、需要派 と供給派の相互作用 を重視す る立場 、 2- 4では市場の非効率的な資源配分 を 重視す る供給派の研 究 をま とめる。 3節 では、 3- 1で沖縄経済 を分析 した先行研 究の特徴 につい て言及 し、 3- 2で、 2節 の全国経済の分析 を沖縄経 済に適用す る方法 を考察す る0 4節 では今後 の研 究課題 を明 らかにす る。 2 失われ た10年 を巡 る諸研究の整理 マ クロ経済学には、経済分析 を短期 と長期の 2つ に分 ける二分法が存在す る。短期分析 では総需 要の大 きさが景気循環 に影響 を及 ぼす と考 え られ ている。 ここで言及 され る景気循環 とは、均斉成 長経路か らの一時的帝離 (経済成長率の時系列デー タが定常である) として理解できるものであるO 一方 で、長期分析 では供給 面 (TFPや 市場構造) が長期 の経 済成長 に影響 を与 えてい ると考 え る。そ して、長期的な経済成長 とは、最適成長モデル を解いて得 られ る均斉成長経路のことを指す。 この経 済学の伝統的な二分法が、90年代のわが国における長期停滞の分析 にも影響 を及ぼ している。 90年代 の長期停滞が需要面 (景気循環要因)か ら生 じた ものなのか、供給 面 (構造要因)に原因が あるのか を巡 り、それ ぞれの立場 で研 究が報告 され てきた0 2- 1 需要派 需 要 派 の研 究 と して以 下の よ うな研 究 が あ る。 原 田 ・岩 田 (2002)、Yoshikawa (2003)、野 口 (2004)、伊藤 ・ワイ ンシュタイ ン (2005)。Yoshikawa (2003)では、総需要の動 向が重要な役割 を 果たす経済成長モデル を提案 してい る。 伊藤 ・ワイ ンシュタイ ン (2005)は、平成不況は総需要不 足が原因であ り、更に、デ フ レが不況の長期化 をもた らした と主張 してい る。伊藤 ・ワインシュタ イ ン(2005)の研 究の背後 には、Krugman (1998)モデルが あ り、不況対策 と してイ ンフ レターゲ ッ ト政策 を提案 している。 2- 2 供給派

供給派の拠 り所 とな る代表的な論文に HayashlandPrescott(2002)があるo HayashlandPrescott

(2002)では、標 準的 な実物的景気循環モデル (RBC)を用 いて シ ミュ レー シ ョン した結果 、産業

全体 の (マ クロ レベル の)TFPは80年代 か ら90年代 にか けて約 2% ポイ ン トも低 下 してお り、 こ

れが 日本経済の低迷の主要因であると指摘 してい る。 同様 な報告 を してい る研究 と して吉川 ・松本

(2001) が あ る。 更 に、Morana (2004)は、生産性 と労働 供給 の VECモデル (Vectorequi一ibrium

correctionmodel) を利用 して HayashiandPrescott (2002)の結果 を支持 している。

それ では、なぜ 、TFPが低 下 したのかにつ いては、現在 、研 究が行われてお り、定型化 され た 事 実は存在 していないo Ohanian (2001) は、アメ リカの大恐慌 の分析 か ら、サプ ライチ ェー ンに お ける組織 資本の喪失 (不況期 にお ける取引先企業の倒産 は、サプ ライチ ェー ンの開拓のために労 働 力 を新 たに割 く必要が ある) が生産性 を低 下 させ た原 因であった してい る。 また、Braunetal. (2006)は、アメ リカの R&D と 4年後の 日本 の TFPに高い相 関を発見 し、アメ リカの技術革新が 日本経 済の生産性 を左右 してい ると結論付 けている。

(4)

沖縄 大学 法経学部紀要 第 11号 更に、権 ・深尾

(

2

0

0

7

)

では、市場か ら退出す る企 業 と市場 に残 る企業の

TFP

を推計 した. 一 般 には、生産性 の低い企業が市場か ら退 出す る と考 え られ、市場-の参入 ・退 出が活発 に行 われれ ば、生産性 が高まる と考 え られ る。 ところが、製造業 ではむ しろ、退 出企業 の

TFP

は産業平均の

TFP

よ りも高い ことが判明 した)。 このため、生産性 の低 い企業が退 出す る とい う市場 の 「新陳代 謝」機能が作用 しなかったため、産業全体の

TFP

が低 下 した と結論付 けてい る。 最後に

、9

0

年代の 日本経 済にお いて推計 され た

TFP

が低 下 した理 由 と して挙げ られ るのが、推 計上の問題 であるO 推計の仕 方が適切 でないため見かけ上

、TFP

が低 下 した とす る ものであるo

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、TFP

が 景 気 と連 動 して 変 動 す る可 能 性 を指 摘 した

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。 その理 由 として考 え られ るのが、主に、①不完全競争 お よび規模 に関す る収穫逓増、② 資本 と労働の稼働率の計測誤差 、である。① で規模 の経済が作用 した場合、実際 に 技術進歩が生 じていな くて も、生産量が増加す る と生産性 が上昇 して しま うことになる。不況期 に この規模 の経済性が作用すれ ば、実際の技術進歩率が低 下 していな くて も、生産量が減少す るにつ れ て、見かけ上の生産性 が低下す ることになる.② の稼働 率の推計が適切 に行 われ ない (生産要素 の投入量が適切 に推 計で きない)場合、不況期 には現実の投入量を過大 に推計 して しま う可能性 が あ り

、TFP

は過

に推 計 され て しま うのである。 以上の研 究か ら

、9

0

年代の不況 の主な原 因は

TFP

の低 下に よるものか、長期不況 を説 明す るの に十分なだけ

TFP

は低 下 したのか、が問われ ることになった。前述の

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では、 日本の

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年代にお けるマ ク ロレベル (全産 業) の

TFP

が十分 に低 下 した

(

8

0

年代 か ら

9

0

年 代にかけて

TFP

2%

ポイ ン ト低 下 した) ことが報告 され てい る。 しか しこの研 究では、労働 の 質の変化、生産要素の稼働率の変化が考慮 され ていなかった ことが知 られ てい る。 このため

、TFP

の低下を過大推計 して しまった と考え られ る。 例 えば

、Ka

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0

0

5

)

は資本稼働 率、労働 時間の変化 、労働努 力の変化 には追加 的 な費用 がかか ると仮定 して産業 レベルの ソロー残差 を推 計 し、経 済全体の

TFP

を推 計 した結果

、9

0

年代 に

TFP

は低 下 していなか った こ とを示 してい る。 宮尾

(

2

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0

6

)

で も資本 と労働 の稼働 率、規模 の 経済性 を考慮 した推計 を行 うと

、TFP

9

0

年代 の低 下は長期 の不況 を説 明す るのに十分 な もので はなかった ことを明 らかに してい る。 その他 に も、宮川 ・梓川 ・滝津

(

2

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7

)

では、産業 レベル の 純粋 な技術進歩 (-規模 の経済性 、稼働 率、労働密度 な どの影響 を取 り除いた後の技術進歩) を推 計 し、 この産業別の技術進歩の集 計か ら経済全体の技術進歩率 を求めた結果 、純粋 な技術進歩率の 平均値 は

、1

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年代か ら

1

9

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年代 にかけて製造業、非製造業 、全産業 ともに、低 下 していない (負 の技術進歩率が、依然 として負 の値 であるが改善 してい る) ことが報告 され た。 更に

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)

は、一般 に、資本稼働 率 を正確 に把握す ることは難 しいため に、資本稼働 率の代理変数 を考 えた。彼 らは、生産過程 で投入 され る原材料や部品な どの 中間投入 財 は

1

0

0

%

稼動す る (使用 され る) ことに注 目し、中間投入量の伸び -資本投入量 (資本 ス トック ×稼働率) の伸 び と仮定 して、推計 を行 ったO その結果 、以下の3点が示 され たO(D純粋 な製造業 の技術進歩率は、景気変動 と連動 しな くな る。②製造業

TFP

の低 下は

9

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年 代 にほ とん ど発 生 して いないO③製造業 と非製造業 を加 えた経済全体の技術進歩水準

(

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年 を

1

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0

とす る) は

、9

0

年代 に 低下 していない (む しろ緩やかに上昇 している)日。

-

(5)

3-失われた10年と沖縄経済の長期低迷

2-3

需要 と供給の相互作用 需要派 と供給派の研 究結果 を、それぞれ概観 してきた。今度 は、供給派に よる需要派批判お よび その逆を整理 し、90年代 の 日本経済の低迷 をよ り説 明可能 なのは、需要派 と供給派 を統合 した考え 方であることを示そ う。 供給派に よる需要派批判 供給派 は、 も し需要不足が原 因であるな らば、需要面の変動は一時的な現象にす ぎないので、元 の均斉成長経路に経 済は直 ぐに戻 るのではないか (長期にわた る経済の低迷 は説明できない) と需 要派 を批判す る。 つま り、長期均衡派 (生産性 の低迷)対短期不均衡派 (景気循環上の需要不足) とい う伝統的な二分法の見解 か ら需要派 を批判 している。 また、需要派が展開す る理論モデルの多 くは、経済主体の最適化 を前提 とす る動学的一一一般均衡モデル ではないために、理論上の正確 さの観 点か らも需要派 は批判 され てい る。 需要派による供給派批判 これ に対 して、需要派 は、以下の よ うに供給派の矛盾 を指摘す る。供給派が主張す るよ うに TFP が低下す ると、総供給 曲線が左- シフ トす ることになる。 その結果、新 しい均衡 ではイ ンフ レと所 得の低下が同時に発生す るはず である。 ところが、現実の90年代の 日本では、均衡所得の低 下とデ フ レがセ ッ トで発生 した。 つま り、供給派が主張す る構造要因は、90年代後半か らのデ フ レ停滞 を 説 明で きない と、需要派は強 く主張 してい る。 更に、供給派が主張す るほ ど TFPは低 下 していな か った とい う実証結果 (前述 の Kawamoto (2005)等) を紹介 し、供給派 に反論 している。 需要 と供給 の相互作用 以上の よ うに、需要派 と供給派の対立は大 きな政策論争- と発展 していったが、最近にな り、両 派 の主張 を統合 しよ うとい う試 み も登場 してきた。 それ らの研 究に、市橋 (2006)、宮尾 (2006)、 ホ リオカ (2007)があるO ホ リオカ (2007)は、需要派 と供給派、お よび需要 と供給の相互作用 を 重視す る立場の先行研 究 を概観 し、需要面 と供給面の相互作用の重要性 を示唆 している。 また、需 要側 のデー タを用 いて GDPを寄与度分解 した結果 、90年代 の長期低迷 の半田は民間総固定資本形 成 の低迷 にあるとしているQ 宮尾 (2006)は供給面か ら需要面- の影響 を考慮 した構造

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モデル を用 いて、90年代 日本の TFPの低 下が持続 的 な GDPギャ ップの拡大 をもた らした ことを明 らか に してい る。 前述 した宮尾 (2006)の推 計か らもわか るよ うに、TFPの90年代の低下は、それ ほ ど大 きな ものではな く、TドP の低 下単独 で、 90年代 の持続 的 な GDPギ ャ ップの拡大 を説 明できないので あ る。 そ こで、宮尾 (2006)では供給面か ら需要面- の影響 を考 えた。 TFPの低 下に よって、家計の恒 常所得や企業の収益見通 しが低 下す る と、消費や設備 投 資が減 少す る。株価 は企業の配 当流列の割 引現在価値 で決定 され るか ら、収益見通 しの低下は、株価 も低 下 させ るのである。 その結果 、TFPの低 下は総需要の低 下 をもた ら し、総需要 曲線 を左- シフ ト させ るO この よ うに して、供給面か ら需要面の影響 を考慮すれ ば、TFPがそれ ほ ど低 下せず総供 給 曲線 が大 き く左- シフ トしていな くて も、総需要 曲線 が十分 に左- シフ トすれば、マイル ドなデ

(6)

沖縄 大学法経学部紀要 第11号 フ レと所得の低下 (GDPギャ ップの拡大) を同時に説明できるのであ る。 一方で、市橋 (2006)では (需要派 も供給派 も含 めた)先行研 究の問題点 を次の よ うに指摘 して いる。つま り、先行研究では、研 究者 によって、証明 したい事柄 に応 じて、利用す る統計が異 な る ため、先行研究の主張を統一的に整理す ることがで きない とい う問題 が存在す るのであるD 更に、需要派の先行研 究では、金融政策 の影響 を重視す るため、実体経 済の分析 が不十分 である ことも指摘 している。 具体的 には、長期不況において、 どの需要項 目の落 ち込みが よ り深刻 な もの であったか、それは どの産業の需要を大 き く低 下 させたか、需要の減少 による所得面-の影響は ど の程度 であったか、 といった経済循環におけ る相対的比較は不十分 であ ると指摘 した。 また、供給 派の先行研究で も、長期不況において、 どの分野 (どの産業)の生産性 が主に低下 し、経済成長率 の低下に寄与 したか、その所得面-の影響 は どの程度 であったか、 といった経済循環 にお ける分析 は不十分であると論 じてい る。 そ こで、市橋 (2006)では、 SNAの長期 系列 を加 工 し、三面等価 の恒等式 を寄与度分解す るこ とで、基礎的 (統計学的)な見地か ら成長率の要因分解 を行 った。つ ま り、不況要因を、供給面だ け、需要面だけではな く、経済三面か ら検証 したのである。経済三面 を総合 した市橋 (2006)の研 究結果 を整理す る と次の よ うになる。(D支出側 :90年代不況の主要因は民間総 固定資本形成 の低 下 であ り、不況の需要不足説 に対 して統計的分析か ら根拠が得 られた。②生産側 :90年代 の不況の主 要因は建設業の落ち込みであ り、90年代後 半か らは卸 ・小売業の落 ち込みが主要因である。 これ ら の業種は、労働生産性の低 さが指摘 されている部門であるため、構造改革論を支持す る根拠 となる。 ③分配側 :営業余剰 の落 ち込みが成長率低 下の主要因であ り、帰属利子の落 ち込みが続 いた ことが 分かる。営業余剰 の低下に よって需要面での固定資本形成 の低 下が発生 した。90年代の帰属利子の 低下には金融業が大 き く寄与 している。 以上 よ り、90年代の不況は、建設業 と卸 ・小売業の生産低下 (生産側 の落 ち込み)-建設 、卸 ・ 小売、金融業の非製造業3部 門の営業余剰 と帰属利子 の落 ち込み を契機 に (分配面の落 ち込み)-それに伴 う設備 投資等固定資本形成の低 下 (支 出側 の落 ち込み)、 とい う経済循環の フ レー ム ワー クで説明可能であるこ とを明 らかに したO ちなみ に、90年代の下支 えになったのはサー ビス業 と電 気機械 の所得の増加 であ り、 これが消費 を支 えた ことが示 され た…。 2-4 もうーつの供給派 :資源配分の非効率性の影響 TFPの低下に経済低迷 の原 因 を求 める と、①本 当に、それ ほ ど TFPは低 下 したか、 とい う推計 上の問題 と、②TFPが長期低迷 をもた らす ほ ど低 下 した として、 TFP低下の要因は何 か、 とい う 問題 に行 き着 く。 同 じ供給 派の考 え方 で も、90年代 の長期不況 を分析す る手法 と して、TFPの変 動 を直接分析対象 とは しないで、市場の歪み を重視す る考え方がある0

Kobayashiand lnaba (2006)及び大津 (2008)では、景気循環会計 (BusinessCycleAccounting)

を用 いて、資源配分の非効率性 (-階の条件か らの帝離)が90年代 の長期低迷 をもた ら した ことを シ ミュ レー シ ョンに よって示 している。景気循環会計 とは、最適経済成長モデルや実物的景気循環 モデルの一般均衡 か ら導 出 され る一階の条件か らの罪離 を、各市場の歪み と して捉 え (労働 市場 に お ける歪み を労働Wedgeと呼び、投資市場 にお ける歪み を投資Wedgeと呼ぶ)、各市場 のWedge が外生的に変化 した場合の景気循環 に対す る効果 を分析す る手法であるO現実に観察 され るデー タ

(7)

5-失われた10年 と沖縄経済の長期低迷 が示す よ うな景気循環 を発生 させ るためには、様 々な市場 において、 どの よ うな歪みが存在すれば 良いか、そ してその歪みが経 済に どの よ うな影響 を与 えるか、 を分析す る手法である^

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及 び大津

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は、バ ブル期の経済成長 は

TFP

の上昇で説 明 され るが

、9

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年 代 の長期不況 を説 明す るのは

、TFP

の低 下ではな く、労働 市場 にお ける歪み (非効率な資源配分) が主要因であることを示 してい る。 その他 に、労働 市場の歪み に着 目した

9

0

年代長期低迷の研 究 と して、宮川 ・襟川 ・滝

揮 (

2

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7

)

があ る。 この論文 では、Lilien

(

1

9

8

1)の労働 再配分モデル を実物 的景気循環理論に組み込んだモ デル を使用 し、た とえ正の技術 シ ョックが発生 して も、部門間で労働者 の移動がスムーズに調整 さ れ ない場合 (硬直的な労働市場)、労働投入量が減少 して しま う可能性 を明 らかに している。 理 由は以 下の よ うであ る。A部 門 (生産性 が高い)、B部 門 (生産性 が低 い) が存在 し、各部門 を労働者 が直 ぐに移動 できない (労働 市場 の硬直性)2部 門モデル において、A部門に生産性 を向 上 させ るよ うな技術 シ ョックが発生 した場合 を考 えよ う。 B部 門か らA部 門-労働者 が直 ちに移 動 で きないた め、A部 門の労働 投入量 は直 ぐに増加 しない。 更 に、生産性 の低 い B部 門では労働 投入 量が減少す るO このため、短期的 に (生産要素の部 門間の移動 ・調整 が遅 い うちは)、経済成 長率が一時的に低 下す る可能性 がある (も し直 ぐに移動 できれば、労働 市場 において効率的な資源 配分が達成 され 、所得が増加す ることにな る)。 故 に、労働 市場が硬 直的な場合、経 済が低迷す る 原 因になることを示 した。 3 沖縄経済長期低迷の課題 3- 1 沖縄経済の先行研究 沖縄 県のマ クロ経済 を分析 した論文及び レポー トは数多 く存在す るが、それ らには大きな特徴が ある。 一言でいえば、政策志向的な論文 ・レポー トが多い ことである。分析手法 と しては、構造方 程式 を用 いて政府支 出等の外生変数 の変化 が沖縄県のマ クロ経済に与える効果 を推定す る研究、や、 産業連 関分析 を用いて外生変数 である総需要の一部 の変化 が、 どれだけ各産業の生産や雇用 を誘発 す るかを分析 した レポー トな どがある、「。 一部 には、沖縄経済の構造 に関す る研 究 も存在す る.県の労働 市場 を分析 した研究は過去 にも幾 つか存在す るが、最近 の文献 を挙 げる と、友利

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)

がある。彼 は

U

V分析 を用いて沖縄県の労 働市場 を推定 した結果 、失業者 の多 くは構造的失業であ り、需要不足 による失業ではない と結論付 けてい る。 しか し

、U

V分析 は多 くの問題 を抱 えてお り'1、 よ り正確 な分析 をす るためにはサーチ や マ ッチ ングの失業理論 を利 用 して

U

V分析 を補 完す る必要が あ るこ とが知 られ てい る (太 田他

(

2

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8

)

)

。 その他 に も、成長会計の手法 を単純 に適用 して

TFP

を計測 した研 究 も存在 していた。

3-2

沖縄経済の分析課題 以上の分析 か ら、沖縄経 済の分析課題 の幾つかを提示 し、今後の研 究の方 向性 を示 したい。 まず 供給 面の分析 か ら課題 を整理す る。 第 1に、沖縄 県 にお け る生産要素 の稼働 率等 を考慮 した

TFP

及び

GDP

ギャ ップの推計 である。純粋 な技術進歩 を示す

TFP

の推移 を観察す ることで県の経済成 長 の要因 を明 らか にできる。 また

、CDP

ギャ ップが定常か ど うか を観 察す るこ とで、需要不足が

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沖縄 大学 法経 学部 紀 要 第11号 存在す る場合 、景気循環上の一一時的な需要不足かそれ とも恒常的な (90年代 の 日本 の よ うな)需要 不足かを検証できるのであるO第2に、権 ・深尾 (2007)にあるよ うに、経済の生産性 を決定す る 上で退 出企業 と市場 に存続す る企業のTFPの大 き さが重要 である。 沖縄 県内企業 の参入 ・退 出に 関す る分析 には金城 (2001)、沖縄県内各地域の企業 と本土の企業の労働生産性等 を分析 した鵜池 ・ 清村 (2004)、沖縄 県内各地域 の企業の付加価値額 を比較 した研 究 には鵜 池 (2007) があ るが、退 出企業 と市場 に存続す る企業のTFP推計 は行 われ ていない。 第 3に、労働 市場 の歪みが、90年代 の長期不況 を説 明す るために、重要であることが知 られ るよ うになってきた。 沖縄経済の労働 市場 の硬直性の検証 も しなけれ ばな らない。更に、沖縄 において金融機 関に よる追い貸 しが発生 したか どうか、そのために資源配分の非効率性 が発生 していないか も検証す る必要がある。 一方で、需要面か らは、公共事業な どの政府 支出に頼 ることのない県内総需要の喚起 を検討 しな けれ ばな らない。沖縄 では観光業の拡大が もた らす効果が、 しば しば推計 され ているが、観 光業 に は季節性 がある上 に観光客 による消費は移 出に計上 され ることになる。年 間を通 じた雇用の確保 と 県 「民」の総需要の増大 を可能 にす る政策 を検討す る必要がある。 4 今後の研究課題 今後の研 究 として、まず取 り組むのが、県内GDPの三面等価 の整理 である。 沖縄 の県内GDP長 期時系列 を三面か ら寄与度分解 し、生産 面、分配面、支出面か ら県の成長 を分析す るこ とで、国民 経済の動向 と対比 させ なが ら、県経済の特徴 を調べ ることが可能 になる。 次に、県内総需要を喚起す る政策 として、移住の経済効果 を、産業連 関分析 を利用 して調査す る。 近年の沖縄県人 口の社会増加 が もた らす経済効果 を明 らかに したい。 最後に将来の研究課題 として、沖縄 のマ クロ経済分析 によく利用 されてきたツール (構造方程式、 産業連 関表、 Uv分析 、単純 な成長会計 に よる分析) 以外 で、研 究 を展 開す る必 要 が あ る。構 造 vARモデル 、景気循環会計、動学的一般均衡 モデル に よるカ リブ レー シ ョン等の、現在 の経済学 で頻繁 に利用 され ている標準的分析手法 を用 いて、県経済の分析 を進 めていかなけれ ばな らない。 注 *本研究は2008年度沖縄大学特別研 究助成費 (「沖縄経済長期低迷 の解 明- 県内GDPの三面等価 か ら見た需要、供給 、移住 の検証- 」)か らの補助 を受 けてい る。 また、村 上は沖縄経済の研 究 に当 た り、沖縄大学法経学部の友利廉教授 か らご助言 を頂 いた。記 して感謝す る。

†沖縄大学法経学部 [email protected] Ⅰ沖縄大学法経学部 [email protected] l生産性 が高い企業 の方が退 出 し、低 い企業 が 市場 に残 る理 由 と して、次 の要 因が考 え られ てい る。生産性 の高い企業は90年代の不況期 に海外進 出や異業種-の転換 の余力があるが、生産性 の低 い企業は、その よ うな事業展開ができず市場 に残 り続 けることになる。海外等-進 出す る場合 、当 然、生産性 の高い労働者や機械設備 を割 り当て ることになるので、従来の国内市場 に残 る部 門 よ り も、退出組 の方が、生産性 が高 くなる傾 向がある と予測 され る。

uこれ らの研 究 に対 して林 (2007)では、Hayashiand Prescott (2002)のモデル が、1財 モデル であ り、lT財 と非lT財の相対価格の急激な変動 を考慮できていなかった ことに着 目し、IT財 と非

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7-失われた10年と沖縄経済の長期低迷 汀 財 の 2部 門モデル を検討 した。 このモデル で推計す る と、TFPは90年代 に低下 してい ることが 示 され 、HayashiandPrescott(2002)の結果 は維持 され る と主張 している。 1uGDPの三面等価 を寄与度分解 して得 られ た これ らの結果 は、 あ くまで も事後的に得 られ た結果 であ り、因果 関係 を示す ものではない。恒等式 を寄与度分解 した、統計学上の分析 にす ぎない とい うことは留意す る必要がある。 1、'景気循環会計の手法は Chari,KehoeandMcGrattan (2007) によって開発 された ものである。 、構造方程式 の推定 に よ り政策効果 を分析 した研究 として吉川 (1981)、安里 (2000、2001)等が ある。 、1産業連 関分析 を用いた研 究には康瀬 (2001)、菅他 (2002)、富川 (2003、2005)等がある。 vl問題 とはつ ぎの よ うな ものであ る.45度線 上の失業率 を構造的失業 とす る根拠 が不明瞭 である こと (景気循環要因が解消 され て も失業率はU=V上に収束す る とは限 らない とい うこと)。構造的 要因のみ な らず景気要因 も UV曲線 をシフ トさせ る要因 として知 られ てい るため、構造的失業 と需 要不足 による失業 を分解す ることは困難 であること。その他 に も説明変数である欠員率の内生性の 問題 、デー タ上の問題 、等がある。 参考文献 英文文献

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