「地域協働演習」におけるケースメソッドの活用
笠木 秀樹(岡山県立大学地域共同研究機構COC+推進室) 要旨:地域志向科目における学生と地域の団体の協働による学びの効果を高めるために,具 体的には「地域協働演習」におけるケース教材を開発し,ケースメソッドの活用の試案を検 討した。その結果,学生によるアンケートによれば,地域資源について理解が深まり,関心 を持って,地域資源の魅力を自ら発信できるようになったなど,学習効果を高めることがで きた。これは,ケースメソッドの活用の有効性を示すものであり,ケースメソッドによる授 業は,興味関心を持って意欲的に取り組める満足度が高い教育方法であるといえる。 キーワード:ケースメソッド,ケース教材,地域資源,観光資源,桃太郎伝説 1.はじめに 近年「地域資源」の発掘・活用に向けた 取り組みが広がっている。本学においても 「知(地)の拠点大学による地方創生推進 事業」による大学教育改革の中で社会貢 献・地域貢献を展開してきた。また,一方 では,中央教育審議会答申(2012)におい て,「学生同士が切磋琢磨し,刺激を受け合 いながら知的に成長することができるよ う,課題解決型の能動的学修(アクティブ・ ラーニング)といった学生の思考や表現を 引き出しその知性を鍛える双方向の授業 を中心とした質の高いものへと転換する 必要がある」とし,本学においてもアクテ ィブ・ラーニングによる授業を実践してき た。 このような社会貢献・地域貢献とアクテ ィブ・ラーニングによる大学教育の質的転 換によって,大学の授業において,地域と 連携して課題解決に取り組むことによっ て,学生の視点により地域資源の価値を再 認識し,提案することで,同時に大学が社 会貢献や地域貢献を果たすということが 想定される。 そこで本稿では,地域資源を題材とした ケース教材を開発し,ケースメソッドによ って学生の意識を高める授業構築の道筋 を示したい。 2.研究の背景と目的 ケースメソッドによる教育は,1870 年, ラングデル(C.C.Langdell )によるロース クールでの教育からはじまり,ハーバー ト・ビジネス・スクール(HBS)においてカ リキュラムに取り入れられた教育方法で ある。参加者が実践的に書かれた内容のケ ース教材をもとに討論を重ねる形式で進 める授業で,実社会で即戦力として通用す るプロフェッショナルなビジネスパーソ ン育成を目的とする。わが国においても 1962 年に慶応大学ビジネススクールに導 入されたことにはじまる。今日では教育分 野でも活用されるようになってきた。ケー スメソッドは,ディスカッションを中心と した授業に有効な手法であるとして,高木 ら(2006)は,ディスカッションは非指示的に学ぶものであり,「学びの共同体」とし て設計することが必要としているなど,学 校経営や学級経営など組織的取組の在り 方について考察した研究が多かった。教育 分野での広まりにつれて,教科教育の実践 力向上をねらったものにまで広がってい る。しかし,大学院や企業研修を対象とし たケース教材はあるものの、ケースメソッ ドの精神である目的や対象の実情に合致 する教材は数少なく,目的や対象の実情に 合致する独自のケース教材の開発が課題 とされている。 本稿では,2 年対象の「地域協働演習」 の実践に基づいて、学生と地域の団体の協 働による学びの効果を高めるために,ケー ス教材を開発し、ケースメソッドの活用に よって学習効果を高める授業の方向性に ついて明らかにする。 3.研究対象 研究対象としての「地域協働演習」の授 業概要は,地域創生コモンズ(総社市,真 庭市,笠岡市,備前市)における地域住民, NPO と協働して,地域の課題解決に取り組 む.学生自身が,地域の課題を認識,発見 し,課題解決への方策を考え,他者との協 働の下で解決に向けた行動を起こすこと の重要性を学び.また,これまでに修得し た学部・学科の専門性が,どのように地域 社会に貢献できるかを自ら考えることに ある。 この授業の最終目的は,次の2点である。 ①地域課題を認識,発見し,解決への方 策を提案し,行動に起こすこと。 ②学修成果(提言)を地域社会に向けて 発信すること。 (1)到達目標 ①地域住民や NPO との協働を通して,地 域資源を発見し,地域課題を見定める こと。 ②地域住民や NPO との協働を通して,リ ーダーシップとフォロワーシップを 適切に発揮し,地域課題の解決,地方 創生に向けた提案をすること。 ③これまでに修得した学部・学科の専門 性が,どのように地域社会に貢献でき るかを自ら考えること。 (2)今年度履修の状況 活動テーマと受講人数は次のとおりで ある。研究対象は,次の吉備路ボランティ ア観光ガイド協会の受講者4名であり,テ ーマは,吉備路の観光資源を活かして,魅 力ある観光地にするためのプランニング てある。 No 市名 団体名 人数 1 総社 英 PLAY 4 2 総社 そうじゃぼっけえ造形の会 10 3 総社 総社商店街筋の古民家を活用する会 5 4 総社 吉備路ボランティア観光ガイド協会 4 5 真庭 木山郷土保存会 10 6 笠岡 六島まちづくり協議会 10 7 備前 片上地区支えあい実行委員会 10 図1 平成元年度「地域協働演習」の受入団体 授業日程は,全体学習である事前・事後 指導2 日と、活動先ごとの 8 日間のプログ ラムの全10 日の教育プログラム(2 単位) である。 (3)成績評価 活動日誌,受入先の評価,担当教員の評 価,事後学習,最終レポートを総合的に評
価する。 4.地域資源と観光資源 地域資源について考える前に,まず地域 資源とは何かを明らかにしておきたい。 地域資源を目瀬(1990)は,地域に固定 され,地域開発に利用可能な資源で資源で あるとしている。自然資源,文化的資源, 人工施設資源,人的資源等を含み,特定の 地域に存在する特徴的なものを資源とし て活用可能なものと捉え,人的資源をも含 む広義の総称と定義している。近年では, ご当地ブーム,町おこし,地域ブランドに 代表される地域活性化の試みにおいて,観 光資源となるものを地域資源として定義 し,活用する考え方が広まっており,本稿 でも,地域資源を「地域内に存在する利用 可能な有形,無形のあらゆる資源」と考え ていく。図2は,地域資源の分類例である。 また,観光資源は,観光客及び観光経営 にとっての資源であって,その資源が観光 的に価値がなければ観光資源とはいえな いという立場で地域資源を観光資源化し ていく。 5.ケースメソッドの導入の意義 ケースメソッドは,①資料としてケース を用いる。②学習のためのスタイルとして 討議型の授業を行うという2つの条件を 満たしている場合を示す。ケースメソッド 図2 地域資源の分類例 (出典:「いちから見直そう!地域資源」) による教育は,個人予習,グループ討議, 全体討議という3つの学習ステップで進 められる。ケースメソッド教育は,この3 つの学習ステップとケース教材,全体討議 で教える講師(ディスカッション・リーダ ー)を1つのシステムとする包括的な教育 活動である。 ケースメソッドの教育的特徴を他の研 修方法と比較したものが表1であり,他の 表1 研修方法の比較 出典:高木ら(2006)「実践!日本型ケースメソッド教育」より編集 気候的条件 … 降水,光,温度,風,潮流 等 地理的条件 … 地質,地勢,位置,陸水,海水 等 人間的条件 … 人口の分布と構成 等 原生的自然資源 … 原生林,自然草地,自然護岸 等 二次的自然資源 … 人工林,里山,農地 等 野生生物 … 希少種,身近な生物 等 鉱物資源 … 化石燃料,鉱物素材 等 エネルギー資源 … 太陽光,風力 等 水資源 … 地下水,表流水,湖沼,海洋 等 環境総体 … 風景,環境の同化能力 等 歴史的資源 … 遺跡,歴史的文化財,歴史的建造 物,歴史的事件,郷土出身者 等 社会経済的資源 … 伝統文化,芸能,民話,祭り 等 人工施設資源 … 構築物,構造物,家屋,市街地,街 路,公園 等 人的資源 … 労働力,技能,技術,知的資源 等 情報資源 … 知恵,ノウハウ,電子情報 等 … 農・林・水産物,同加工品,工業部 品,組立製品 等 … 間伐材,家畜糞尿,下草や落葉,産 業廃棄物,一般廃棄物 等 地 域 条 件 自 然 資 源 人 文 資 源 固 定 資 源 物理的資源 中間生産物 (付随的資源・循環資 源) 流 動 資 源
研修方法に比べていずれの項目も効果が 大きく期待される。ケースメソッドは参加 者が相互に討議することにより、主体的に 問題発見・問題解決を目指す教育方法であ り,よって地域課題を解決する学習方法と しては最適であると考えられる。 6.ケース教材の開発 ケースメソッドによる教育の成否の大 きな比重を占めるのが,授業において使用 されるケース教材である。ケースメソッド の精神である目的や対象の実情に合致す る教材の開発が望まれる。 (1)ケース教材の開発条件 ケース開発にあたって,高木(2006)に よると一般的なケースメソッドにおける 「良いケース」とされる条件として,①目 的にあった教育主題を持っている。②読み やすく興味をひく等,話の展開が優れてい る。③受講者に問題提起していて,受講者 はそれが容易に認識できる。④受講者自身 が分析・考察することができる内容である。 ⑤受講者が意思決定者になりきることが できる内容である。⑥議論をかもし出す内 容である。の6 項目を挙げている。 (2)ケース教材の開発手順 ケースの開発手順としては次のとおり である。 ①現地取材やインタビューなどで体験的 内容の資料を収集。 ②主人公の置かれた立場,ポイントとな る情報・知識,判断に必要な関連情報(背 景,関係者の動向,制約条件等)などの 記載内容を絞り込む。 ③読みやすく,分かり易く,授業時間を考 慮してA4,2枚程度にまとめる。 ④内容を分かり易く説明するために写真 や図表等を挿入する。 ⑤記述内容,情報に過不足,図表や参考資 料は適切性や誤解のない表現の適否な どケース教材としての有用性をチェッ クする。 (3)ケース教材の実際 開発したケース教材は,「地域協働演習」 の総社地区における演習グループの活動 内容をもととして題材にしたものである。 桃から生まれた桃太郎が悪い鬼を退治 したという桃太郎伝説を地域資源として 捉え,「果たして,桃太郎は,正義のヒーロ ーで,鬼は悪者だったのか。」という仮説を もとに,地元の史実や資料から,桃太郎は 大和国の王の命を受けて吉備国を平定し ようと派遣された五十狭芹彦命(後の吉備 津彦命),鬼は吉備国をより栄えさせた温 羅。つまり,桃太郎伝説は吉備津彦命と温 羅の物語の場面を地域資源と関連させて 取り上げた「桃太郎伝説のまち総社」とし て,ケース教材(資料1)を開発した。 7.ケースメソッドによる授業試案 ここで考慮しなければならないことは, 限られた実習時間で,授業の到達目標であ る地域と協働して地域資源を活用して地 域課題に取り組むことである。8 日間の教 育プログラムの中で,一定の成果を生み出 し,PDCA サイクルの中で自己の行動を検 証していくのに適した構成である。 (1)授業の現状 地域協働が進展するに伴い,授業への地 域の期待も大きくなり,地域課題を大学生 が解決してくれるという過大な期待が,協 働の在り方にも影響を与えかねない状態
がみられる。平野誠(2017)は,その点を 捉えて,地域課題には大学生が短期間に解 決などできない多くの問題が顕在化して おり,地域社会が自律的に解決していかな い限り外部交流によるだけではどうにも ならないものを包含しているといい,大学 生と関わることで何らかの内発的成長を 遂げた地域コミュニティのみが,活動の延 長線に解決に近づく成果が生まれるとし ている。つまり,そのような過程を引き起 こすきっかけづくりを担うのが大学生で あり,「身の丈」の中で十分達成できる内容, つまり本学では8 日間の教育プログラムで できる内容であるかが課題となる。 (2)プログラム試案 ケースメソッドによる教育によって,い かに主体的に取り組めるようにするかが ポイントであると認識し,図3のような教 育プログラムの試案を考えた。 図3 教育プログラムの試案 もちろん,地域課題を現場で調査し自ら 見出せることが望ましいが,この教育プロ グラムの試案では,学生の気づきを設計す るうえで,高いパフォーマンスや学習効果 を重視した。そのために思考のプロセスを より内発的動機づけに近づけられるよう に支援をすることが効果的であると判断 し,ケースメソッドにより地域課題を見出 すことができるように工夫した。図3のよ うな一連のプロセスの中で,学生がテーマ を見出し,仮説を立て検証することが短時 間でも可能な内容であると考えられる。 (3)ケースメソッドによる授業 笠木による授業モデル(2017)によって, ケースメソッドを活用した授業を構築し たのが図4である。これは,従来の授業モ デルにケースメソッド教育を取り入れた ものである。総社市の地域資源について, ケース教材によって気づきを誘発し内発 性を高め,日本遺産としての魅力の発掘を 試みることができ,その魅力づくりをどう 具現化するかを考えさせる。 図4 授業モデル(笠木.2017)による試案 (4)フィールドワーク ケースメソッドをもとにプランを練 り,フィールドワークを実施する。この 中で,地域との連携を通じて観光振興だ けでなく,自然環境や文化財の保護,郷 土意識の形成など様々な要素を盛り込 み,地域へのインパクトを図る。 (5)分析と企画 この段階では,地域課題における現象 を,結果として表面的に見るだけの姿勢 から,原因を考え,解決策への気づきを 誘発し主体的な思考で何をしたらいい
かを考えていく道筋に導く必要がある。 そのために,どのような対象をどのよう な点に留意して観察・分析するか。思考 のポイントは何であるかを明確にして 内発性を高める必要がある。 (6)実践・検証 吉備路の観光資源を活かして,魅力あ る観光地にするためのプランニングを おこない,発信することによって,地域 資源に触れる機会を増やしの地域資源 の再認識につなげるような実践に取り 組む。地域資源を再認識することにより, 地域の観光資源として育む活動が重要 となってくる。地域資源のアピールの仕 方等について,その結果を反省し,経験 によって得られたものを整理し,次の課 題につなげていく。 8.成果と課題 ケースメソッドの活用による授業を試 行し,事後に学生に実施したアンケートに よれば,次のような成果がみられた。成果 と課題を考察すると,つぎのとおりである。 (1)成果の考察 ・ケースメソッドを活用することにより, 従来の講義中心型の授業に比べ,学生の 授業への興味・関心が高まり,地域資源 の魅力を自ら発信できるようになった 等,授業に積極的に取り組むことができ た。 ・協働性を重視し,課題に対して主体的に 考察するなど,より授業への関心が高ま り,積極的に取り組むことができた。 ・ケース教材を読み込むことにより,それ ぞれの立場に立った根拠や正当性を思 考・判断し課題解決に向けた考えを表現 することができた。 ・討論する過程で,授業で習得した他人の 意見を聞き入れる力を身に付けること ができた。 ・グループ討論後の発表及び質疑応答を行 うことで,討論した内容と結論に対して, より深い内容で合理的にまとめられる ようになった。また,質問に対する説明 では,短い時間で適切な回答を導き出せ るようになった。 (2)課題の考察 ・授業では,グループ討論や全体討論での 質疑応答において,効果的な解答を導き 出せないことがある。そのための工夫が 必要である。 ・目標とする知識・技術等を身に付けるこ とができ,地域資源の魅力を理解できた ものの,自ら発信する部分では,説明不 足の部分も見受けられた。 ・授業の事前・事後の変容状況を客観的な 数値で把握していきたい。教材開発はも とより指導・評価方法の工夫改善に結び 付けられるようアンケート等の充実に 取り組み,適切な評価規準を設定するこ とが重要であり,授業改善と学習計画の 見直しを行うことが必要である。 ・能動的な授業を円滑に進めるためには, 教員のファシリテーターとしての能力 が求められる。 9.おわりに このように,学生によるアンケートによ れば,地域資源について理解が深まり,関 心を持って,地域資源の魅力を自ら発信で きるようになったなど,学習効果を高める ことができた。これは,ケースメソッドの
活用の有効性を示すものであり,ケースメ ソッドによる授業は,興味関心を持って意 欲的に取り組める満足度が高い指導法で あるといえる。 今後,地域資源が果たす役割について理 解し,関心を持ち,地域資源を発掘してい く過程で観光資源化していく。そして,地 域の観光資源としての魅力を自ら発信で きる力を育む教育プログラムの普及のた め,学生がイメージしやすいケース教材, 学生の思考を深められる教材の作成に取 り組んいきたい。また,学習活動の成果を 実体験できるような体験的学習を多く取 り入れ,自治体や地域団体との連携を図り, 指導の改善に生かすという視点を一層重 視し,より効果的な指導につながる教材作 成および授業構築に生かしていきたい 参考文献
1)Barnes, L. B., Christensen, C. R. and A. J. Hansen (1994) “Teaching and the Case Method:Text,Cases, and Readings”
Harvard Business School Press(高木晴 夫訳(2010)『ケース・メソッド教授法: 世界のビジネス・スクールで採用されて いる』,ダイヤモンド社 2) 高木晴夫ら(2006)「実践日本型ケース メソッド教育」,ダイヤモンド社 3) 高木晴夫(2006)「日本版ケースライテ ィングガイドブック」,テレコンサービ ス 4) 目瀬守男(1990)「地域資源管理学」,現代 農業経済学全集,第20 巻 5) 三 井 情 報 開 発 株 式 会 社 総 合 研 究 所 (2003)「いちから見直そう!地域資源- 資源の付加価値を高める地域づくり」, ぎょうせい 6) 文部科学省中央教育審議会答申(2012) 「新たな未来を築くための大学教育の 質的転換に向けて~生涯学び続け,主体 的に考える力を育成する大学へ~」 7)上森さくらら(2018)「教職大学院におけ るケースメソッドの導入と改善―島根 大学教職大学院での実施例―」,学校教 育実践研究,第1 巻,pp.1-11 8) 大田佳吉(2014)『「ケースメソッド教育」 のススメ~学生は,90 分間座ったままで 良いのか~』,京都学園大学総合研究所 所報,第15 号, pp.10-20 9) 笠木秀樹(2017)「アクティブ・ラーニ ングによる大規模講義科目の授業設計 と評価 : 地域連携授業における実践」, 岡山県立大学教育研究紀要,第2 巻 1 号, pp.71-81 10) 笠木秀樹(2018)「地域資源と観光~観 光振興による地方創生~」,『とうほう navi』第 11 号,pp.9-16 11) 川野 司(2014)「ケースメソッド授業 の研究」,九州女子大学紀要,第50 巻 2 号,pp.31-48 12) 中本龍市(2014)「ケースメソッドを用 いたアクティブラーニング手法の実践」, 『社会とマネジメント』,11 号,pp.59-72 13) 平野真(2017)「大学教育と地域資源開 発―福知山公立大学での PBL 教育事例 を通じて―」,福知山公立大学研究紀要, 第1 巻 1 号,pp.141-168
Utilization of case method in "local collaborative exercises". Hideki KASAGI
Abstract: In order to enhance the effect of learning in regional-oriented subjects by the collaboration between students and local organizations, we specifically examined the development of case teaching materials and the introduction of a case method in "local collaborative exercises".
As a result, according to the results of students’ class evaluation, they have deepened their understanding of the local resources. It is concluded that case method teaching is effective and results in students’ strong motivation and high satisfaction.
Keywords: Case method,Case teaching materials,Local resources,Tourism resources, Legend of Momotarou
資料1「桃太郎伝説のまち総社」 CASE教材
桃太郎伝説のまち総社
あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいた。おじいさんは柴刈りに、おばあさんは洗濯に。おば あさんが洗濯をしていると、大きな桃がドンブラコと流れてきた。おばあさんは桃を拾って家に持ち帰り、お じいさんの帰りを待った。二人は大きな桃を割ってみることにし、桃を割ったらなんと男の子の赤ちゃんが出 てきた。二人は桃から出てきた男の子に「桃太郎」と名づけ育てた。桃太郎はす くすく育ち大きくなっていった。そのころ、村では鬼ヶ島からきた鬼たちが暴れ 村人を困らせていた。そのことを知った桃太郎は鬼ヶ島へ行って鬼を退治すると 宣言する。鬼ヶ島に向かうときに、おばあさんは「きびだんご」を桃太郎に持た せた。桃太郎は道中に犬・猿・雉にきびだんごをあげ、そのかわりに一緒に鬼ヶ 島で鬼退治をしてくれとお願いし、みんなで鬼ヶ島へ行き鬼退治をして鬼が持っ ていた宝を持って村に帰ってきた。めでたし、めでたし。誰もが幼いころに聞い たことのある昔ばなしである。 果たして、桃太郎は、正義のヒーローで、鬼は悪者だったのか。桃から生まれた JR 岡山駅前の「桃太郎像」 桃太郎が悪い鬼を退治したという桃太郎伝説をこの地域の目線で考えてみたい。 全国に伝わる桃太郎の物語は,実は大和朝廷による全国統一の戦いと深く関わっていると考えられている。 吉備国では、吉備津彦命による温羅と呼ばれた鬼を退治した伝説が語り継がれ、昔話桃太郎の原型になったと されている。伝説では、温羅は吉備の山奥にある岩屋にひっそりと住んでいた。温羅は様々な技術を持ってお り、鬼ノ城と呼ばれるお城を建てた。そのころ大和国は日本を統一しようしており、造山古墳や作山古墳など の大きな古墳を持ち勢力のあった吉備国が邪魔な存在だった。そこで大和国の王は吉備国を栄えさせた温羅を 倒すために、五十狭芹彦命を吉備国に派遣した。五十狭芹彦命は楯築墳丘墓から温羅を矢で射り、温羅も鬼ノ 城から岩を投げることで五十狭芹彦命に対抗したが、矢が温羅の左目に刺さり、最終的に温羅の首をはねた。 戦いに勝った五十狭芹彦命は、吉備津神社に神として祀られ、温羅の首は神社の一角にある御釜殿に埋められ ているといわれている。 鬼はいたのか、桃太郎は誰なのか考えると、史実や資料から、桃太郎は大和国の王の命を受けて吉備国を平 定しようと派遣された五十狭芹彦命(後の吉備津彦命)、鬼は吉備国をより栄えさせた温羅。つまり、桃太郎 伝説は吉備津彦命と温羅の物語であると考えられる。 663 年、朝鮮半島では白村江の戦いが行われた。白村江の戦いとは百済と新羅との戦争のことである。この 戦争により負けた百済は新羅から身を守るために吉備国、今の岡山県に身を潜めた。必死の思いで吉備国に逃 げ込んだ百済の人々だったが、百済の頭の温羅は身長が 4.2mもあり、顔や髪は真っ赤であったのでそこに住む村 人たちに恐れられてしまった。そこで温羅は山奥に大きな 石を積んだ岩屋にひっそりとすんでいた。その後、地元の 人々は温羅と少しずつ打ち解けていく。温羅は様々な技術 を持っており、村の人々と力を合わせて万里の長城を模倣 した高さ 6m、長さ約 2.7kmの大きな塀で囲った鬼ノ城と 呼ばれる城を建て、新羅からの攻撃に備えた。 復元、整備された「鬼ノ城」 ※本ケースは,「地域協働演習」において活動をまとめた資料をもとに、笠木秀樹によって教材化された。本ケースは経営管理の巧拙を記述するもの ではなく,グループ討議のための資料としてつくられた。なお,大学生用に1教材,90分で討議できるように作成されている。本ケース開発にあた っては,吉備路観光ガイド協会の協力を得て、多くの資料を得た。記して感謝したい。2019 年 9 月そのころ大和国は日本を統一しようしていた。そのためにはそのころ最も大きな造山古墳と全国で 4 番目に 大きい作山古墳があった吉備国を滅ぼす必要があった。当時古墳は勢力を表す大きな目安であり、その大きな 古墳を持っている吉備国は日本統一において邪魔な存在だったからだ。そこで大和国の王は五十狭芹彦命を吉 備国に派遣した。当時の吉備国の発展は百済の人々である温羅によるものであり、吉備国を滅ぼすには製鉄の 技、土木工事の技、農耕の技等をもって、吉備国を栄えさせた。温羅を倒すことが最も有効だと考えた。 五十狭芹彦命は楯築墳丘墓から鬼ノ城にいる温羅を矢で射る。それに対して温羅も鬼ノ城から岩を投げるこ とで五十狭芹彦命に対抗した。一つ目の矢と岩は空中でぶつ かり、今の矢喰宮という場所に落ちた。二つ目、三つ目も同 様にして矢喰宮に落ちた。しかし四つ目は、五十狭芹彦命が 弓に矢を二本かけてはなったため、一つの矢は温羅が投げた 岩に、もう一つの矢は温羅の左目にあたった。左目を怪我し た温羅はキジに化けて岩屋に逃げ込み、五十狭芹彦命は鷹に 化けてそれを追った。そして追い詰められた温羅は鯉に化け て左目から出た血が流れる血吸川に逃げ、五十狭芹彦命それ を鵜になって追った。そこまでして逃げた温羅だったが、つ いに鯉喰神社で五十狭芹彦命に捕まり首をはねられたという。 出所:吉備路観光案内センター掲示より 戦いに勝った五十狭芹彦命は吉備津彦命と名乗り、吉備津神社に神として祀られ「平賊安民」の額を掲げ た。首をはねられた温羅は、さらし者にされ何年となく唸り続ける。困り果てた命は吉備津神社の境内の一角 にある御釜殿の釜の下 2.4mに埋めるが、なお 13 年間唸りは止まらない。ある夜、命の夢に温羅が現れ、『我 が妻阿曽媛に釜殿で神飯を炊かせよ。若し世の中に幸あれば裕に鳴り、禍あれば荒らかに鳴ろう。命は世を捨 てて後は霊神と現れ給え。』と釜の音で世の吉凶を占うと告げる。命は、「温羅はいい人だった。」と心から思 い温羅の言う通りにしたといわれている。 あなたは、桃太郎は、本当に正義のヒーローで、鬼は悪者だったと考えるか