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自閉症支援現任者の学びと実践に関する認識-インタビュー調査からの考察-

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はじめに  自閉症者への包括的支援プログラムとして,世界 的に認められているものにTEACCHプログラムが ある1).TEACCHプログラムは,米国ノースカロ ライナ大学で開発され,ノースカロライナ州全体 の自閉症者支援プログラムとして発展してきたも のであり,「自閉症の人々の生活(学習,余暇活 動,就労)ができるだけ自立して活動できるよう に支援しながら,一般の人たちと共生・共働してい くことを目指すものである」とされる1).さらに, 「TEACCHスタッフが考える自閉症とは,人間の コミュニケーションをはじめ,認知的,社会的,そ して行動上の機能に重大な混乱や影響を及ぼす複合 的な障害である.この重症性と複合性に対応するた めの療育は,その複合性や重症性に勝るほどに包括 的なプログラムでなければならず,単一次元からの 単純な治療や教育的アプローチでは不十分であると 強調する」とし1),自閉症者の個別性に配慮し,人 生全般にわたる支援を実現している.我が国におい ては,上記TEACCHプログラムに関する書籍が出 版され1-5),自閉症者への支援実践に活かされてい る6)  また,我が国では,自閉症への支援に関する実践 報告なども増えており,自閉症者の行動障害への 支援について報告したものや7),教育機関における 問題行動への対応を報告したものがある8).これら は,自閉症者の特性に配慮した支援により改善を図 ろうとするものであり,その重要性を指摘してい る.また,森本9)は軽度知的障害者における支援困 難事例の特性分析を行い,支援者による自閉症の障 害特性の理解と特性に配慮した支援の必要性を述べ ている.しかし,自閉症支援において,その理解や 配慮の重要性について指摘されているものの支援者 に焦点を当てた文献は少ない10)  筆者らは,上記のような現状を踏まえ,自閉症者 への支援プログラムとしてTEACCHプログラムが 我が国の支援現場でどのように認識されているの かを把握し,今後の支援者養成に資するため,平 成21年度厚生労働省障害保健福祉推進事業助成を 受け,A県内における知的障害者支援事業所におけ るアンケート調査を実施した11).左記調査より, TEACCHプログラムの認知度については低くない ものの,①TEACCHプログラムのアイデアを取り 入れてみようとしたが途中で断念した事業所の存在 や,②自閉症者への特性に配慮した「構造化のアイ デア」のみを見ようみまねで取り入れてみたがうま くいかなかった実感をもつ事業所が少ないことが浮 き彫りとなった.「構造化」とは,「個々子ども 要   約  現在,自閉症者への支援としてTEACCHプログラムにおける構造化のアイデアが評価されてお り,我が国においても取り組む支援者が増加している.しかし,途中でその実践を断念してしまうも のの存在が指摘されていた.そこで,本研究では構造化のアイデアを取り入れた支援に継続的に取り 組んでいる支援者を対象に,その継続の要因を検討するためインタビュー調査を実施した.  インタビュー調査の結果,専門家からの指導の機会と自閉症者支援の指針に立ち返る学びの場の重 要性が示唆された.

*

1 川崎医療福祉大学 医療福祉学部 医療福祉学科 (連絡先)小田桐早苗 〒701-0193 倉敷市松島288 川崎医療福祉大学 E-Mail:sawada.s@mw.kawsaki-m.ac.jp

自閉症支援現任者の学びと実践に関する認識

―インタビュー調査からの考察―

小田桐早苗

*1

 大田 晋

*1 原 著

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小田桐早苗・大田 晋 159 1055364_川崎医療福祉学会誌22巻2号+別冊_5校_村田 By IndCS3<P159>  において重要であったためである.上記の条件で該 当する支援者30人に調査協力を依頼し,3人(支援 者C~E)から調査協力を得られた. 4

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倫理的配慮  調査対象者に対し,本研究の目的,方法,調査内 容,個人情報の管理について,文書及び口頭にて説 明を行い,同意が得られた上でインタビュー調査を 実施した.倫理的配慮として,匿名性,任意性,調 査に協力しないことで不利益を被ることはないこ と,同意は撤回可能であること,録音したデータは 研究者のみが取り扱うこと,音声データおよび逐語 録データは本研究以外には使用しないこと,研究終 了後には破棄することなどを説明した.また,本研 究は川崎医療福祉大学倫理委員会の承認を得て実施 した. 5

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調査内容  調査内容は,①属性(性別,年齢,職種,自閉症 支援現任者トレーニングセミナー受講年,自閉症者 支援実践年数),②構造化のアイデアを取り入れた 支援をはじめたきっかけ,③これまでどのような学 びをしてきたのか,④構造化のアイデアを取り入れ た支援を開始するまでの自身の自閉症者への支援に ついての認識,⑤現在の自分自身の支援に影響を与 えたもの,⑥なぜ構造化のアイデアを取り入れた支 援を学び続けるのか,の以上6点である. 6

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調査結果 6

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1 属性  以下に調査対象者の属性について記述する.属性 については,性別,調査時年齢,職種,支援実践年 数の順に記載する. 支援者C:女性,50歳,小学校教諭,支援年数20年 支援者D:男性,48歳,小学校教諭,支援年数13年 支援者E: 女性,28歳,指導員(障害児支援事業 所),支援年数6年  上記調査対象者3名は,調査当時B大学で実施し た自閉症支援現任者トレーニングセミナーを受講し 2年以上が経過していた. 6

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2 構造化のアイデアを取り入れた支援をはじめ たきっかけ  構造化のアイデアを取り入れた支援を始めたきっ かけについて,各対象者に質問したところ以下のよ うな回答が得られた. (当時,自分の受け持っていた)クラスが混乱 していました.自分のそれまでの経験から積み の自閉症特性を理解したうえで,その子どもが理解 しやすい環境を設定するための工夫」であり2) 個々によって配慮のあり方が異なってくる.しか し,平成21年に実施した調査では,取り組む上で事 業所の方針や管理者等上司の考えなどが影響するだ けでなく,構造化のアイデアを活かした配慮を個々 の自閉症者一律に取り入れてみた結果うまくいかな い等,一つのアイデアをそのまま取り入れてしまっ ている現状があり,それが支援者個人の実践とし て,うまくいかない実感につながっていることが示 唆された.このことから,どのようにTEACCHプ ログラムが提供する支援のアイデアを学ぶのかとい う点について検討する必要があると考えられた.  そこで,本研究では自閉症者への支援実践の中 で,TEACCHプログラムに基づく構造化のアイデ アを取り入れながら継続して支援を行っている支援 者を対象に,その支援の継続の要素と学びの機会の 在り方について検討するためインタビュー調査を実 施した.本研究を通じ,自閉症支援者養成における 在り方について示唆できるものと考える. 2

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研究方法  本研究では,構造化のアイデアを取り入れた支援 の継続の要素を検討するため丁寧に聴き取る必要が あること, TEACCHプログラムに基づく支援の実 践者を対象とした同様の研究がみられないことか ら,半構造化面接法によるインタビュー調査により 詳細を検討することとした.さらに今後,質問紙調 査を行うにあたり質問項目等についても検討するた め,質的研究により仮説の生成を行う必要性がある と考え,本調査方法を採用した.  調査期間は2011年8月1日から8月10日であり,各 対象者2時間程度の調査時間を要した. 3

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調査対象者  B大学で実施されている自閉症支援現任者トレー ニングセミナーを受講した支援者を対象者選定の基 準とした.これは,対象者の実践がTEACCHプロ グラムに基づく支援を基盤としたものであることを 担保するために,その理念から実践までを短期間で 学ぶことができるトレーニングセミナーを受講した 支援者を対象とする必要があったためである.さら に,その中からB大学で実施している自閉症支援に 関するフォローアップセミナーなどを継続的に受講 している支援者に調査対象を絞り,調査協力につい て依頼した.対象者について上記の条件を設けた理 由として,継続的に学ぶ機会がどのように影響して いるのかという点を考察することが,本研究の目的

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上げていたものは,自閉症の子には,どんなに やってもうまくいく実感がもてなかったんで す.そんなときに,B大学のTEACCHモデル実 践報告会で自閉症の子供たちへの実践を知り, 見ようみまねでやってみたら,そのときうまく いったんです.(支援者C) 自分がそれまでやってきたやり方では,本人と のやり取りがうまくいかなかったんですよね. このままではまずいと感じていたんです.本も 読んだし,模索してましたね.そのときに,当 事者の本と出会ったんです.そこで,支援のこ とが書いてあって….(支援者D) 前の職場で,既に構造化とかやっていたんで す.私はそれを見ようみまねで,引き継いだだ けだったんです.それで,うまくいかないとい う実感にぶち当たったんです.うまく伝わらな くて,子どもが混乱してたし,私も困っていま した.そんな中で,コンサルテーションでの指 導者のアドバイスが,状況を変えてくれたんで す.そこからですね.(支援者E)  支援者Eの発言中にでてくる指導者とは,自閉症 支援について専門的に学び,B大学の自閉症支援現 任者トレーニングセミナーにおいてもトレーナーと して指導している者のことであった.このように, 支援者C,Eは,自閉症者への支援が,自分のそれ までの経験を活かした支援ではうまくいかない実感 をもっていたことがきっかけとなっていることが示 された.また,支援者Eにおいては,見ようみまね で実践を行っていたが,うまくいかないという実感 をもっていたことが,専門家のアドバイスにより深 く学ぼうというきっかけとなっていることがうか がえる.このように,それまでの取り組みの難し さが,何か他の方法はないのかという模索につなが り,その中でのプログラムとの出会いから,学びへ の動機につながっていることが示唆された. 6

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3 これまでどのような学びをしてきたのか  次に,調査時点までに,構造化のアイデアを取り 入れた支援についてどのような学びの機会を得てき たのかを,対象者に質問した結果について以下に示 す.  対象者3名ともに,本や近隣で開催される講演会 からの学びを主としていたと回答した.  支援者Cは,「自閉症支援っていう言葉が入って いたら,とにかく参加しましたね.いろいろ手探り ながら,学び続けました.A県はB大学で専門の先 生もいるし,学びやすかったのかもしれないです ね.」と述べている.支援者Dは「とにかく本を読 みあさりました.当時は,いろんな療法なんかも いっぱい勉強しましたね.でも,TEACCHプログ ラムの中の構造化がわかりやすかったんです.こん な風にやるんだなっていうか….」と述べ,支援者 Eからは「本を読んだりしてました.職場にもあっ たし.」と回答が得られた.このように,まずは身 近なところから学びをスタートさせていることがう かがえた. 6

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4 見ようみまねで始めることの壁  6.3で示した話が展開する中で,さらに3人に共通 する内容が得られた.共通点として,対象者はそれ ぞれ本や講演会などに参加し,学びながら各実践現 場で自閉症児者へ見ようみまねの支援を実践してい たが,あるときうまくいかないという実感を得てい たことが示された.具体的な発言を以下に記載す る. とにかく本や講演会で見たりした構造化を当て はめていました.もちろんそれで解決すること もあったんです.でも,それだけではうまくい かなかったんです.書いて示しても全然見てく れなかったり,走り回っていたり….(支援者 C) 手探りながら構造化に取り組みました.一見, うまくいったように思えたんですけど,壁にぶ つかったんです.僕は,一方的にこの子に僕の 要求を押しつけてるだけで,この子の思いを受 け取ってないんじゃないかって思ったんです. (支援者D) 構造化してたらいいんだって思っていたんで す.(前の職場の先輩たちがしているのを) ただまねてたんです.自閉症の子には,絵カー ドって…,そう思ってましたね.でも,やっぱ り一人ひとり違うのに,同じ支援でうまくいく わけないですよね.自閉症の支援イコール構造 化という形だけではうまくいかないという実感 にぶち当たったように思っているんです.(支 援者E)  上記の対象者たちの発言より,「構造化」という アイデアが視覚的に示されることが多いことから, 見たままを支援に取り入れてみてうまくいかなくな るという共通点がみられた.平成21年度に実施し た調査でも同様の内容が指摘されていたが11),異

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1055364_川崎医療福祉学会誌22巻2号+別冊_4校_村田 By IndCS3<P161>  小田桐早苗・大田 晋 161 門家の話を聴いて)ただ得意,不得意な点が はっきりしているだけということを知ったんで す.それで,構造化だけやってるんじゃダメ だって思ったんです.(支援者C) トレセミとか専門家の講演ですね.先生方の話 を聴いたり,姿勢を知っていく中で,ものの見 方…,うん,そう,自閉症の本質をみるように なったんだと思います.価値観が変化したんで す.自分が間違ってたんだっていうか….(支 援者D) コンサルテーションの先生の言葉とかかな…. あと,トレセミで実際にどうやって支援を組み 立てるのかを知ったことも大きかったです.子 ども一人ひとりをみるという評価の視点を学び ました.同じ支援じゃだめなんだっていうか, 一人ひとりをみるより,問題行動にばかり目が 向いてました.(支援者E)  このように,影響を与えたものとして専門家に直 接指導を得られることで,自閉症をどのように捉 え,アセスメントを支援に活かすのかという視点を 学んだことが挙げられる. 6

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7 なぜ学び続けるのか  以下に,対象者が継続的に研修などに参加し学び 続ける理由について質問を行った結果を示す. 本人の世界観を思い出すためかな….うん,現 場でずっと支援してると,客観的じゃなくなっ たり,自分の支援に固執してしまったりする. でも,大切なのは本人だから….現場に埋没し ないためっていうか.それから,同じように学 びあう仲間に出会うこと,同じように頑張って る仲間と久しぶりに出会って,励まされたりと か….(支援者C) 新しいことを多く知ることが教育者の責任だと 思ってます.研修会では,専門家の先生がいろ いろ教えてくれますよね.それを知って実践す るのが大切だと思ってます.…TEACCHプログ ラムは,柔軟な対応ができる.それが魅力だと 思うんです.(支援者D) 自閉症を知るためですね.これまでもそうです けど…,学ぶことで理解が深まるんだと思いま す.再確認できるっていうか….(支援者E) なる点は対象者がここで取り組みをやめずに,さら なる学びの機会に繋がっている点である.「うまく いかなくて,それでトレセミ(自閉症支援現任者ト レーニングセミナーのこと)を受けたんです.」 (支援者C),「本当に悩んでて,そのときに直接 教えてくれるセミナーのこと(自閉症支援現任者ト レーニングセミナーのこと)を知ったんです.」 (支援者D),「コンサルテーションの先生が,ト レセミのことを教えてくれて.参加してみたんで す.」(支援者E)などの回答が得られた. 6

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5 構造化のアイデアを取り入れた支援を開始す るまでの支援についての認識  次に,構造化のアイデアを取り入れた支援を開始 するまでの自身の実践を振り返り,どのように感じ るのかについて得られた回答を以下に記載する. 私は,いかに子どもをコントロールするかとい う視点だったと思うんですね. そう,ほんまに …形や技法を重視していたと思います.今は, 子どもとつながる,同じ人間であるという視点 で考えているんです.(支援者C) 自閉症かそうでない子の区別がわかっていな かったと思う.しかも,こちら側の考えで関 わっていたと思います.本当に…,「違う」と いうことを教わらなければ気がつかなかった. うまくいかなくても,なんでわからないだよっ て,どうして伝わらないのか不思議だった. (支援者D) 本当に一生懸命でしたが,自分の思いをぶつけ ていただけだったと思います.表面だけの場当 たり的な行動をしていたように思います.(支 援者E)  このように,以前の自分を振り返る中で,自閉症 の理解の乏しさと,個別性をどのように捉え支援に 活かすのかという視点がなかったことを挙げている ことが特徴である. 6

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6 現在の実践に影響を与えたもの  次に,現在の自閉症者への支援に影響を与えてい るものについて質問し,得られた回答を以下に示 す. トレセミを含めて専門家の講演や本ですね.そ の中で,自閉症をどのように捉えるのかという 視点が,とても勉強になりました.どこかで自 分とは遠い存在だと思っていたんですが,(専

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 以上から,自閉症についての理解を深め,自分の 指針とするものに立ち返るためという理由が挙げら れた. 7

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考察  以上の結果を踏まえ,構造化のアイデアを取り入 れた支援の継続の要素と学びの機会についての考察 を以下に記述する.結果より,対象者3人について 図1のような共通の流れが確認された.  構造化のアイデアを取り入れた支援への取り組み や学びのスタートとして,それまで自身が実践して きた取り組みではうまくいかないという実感が存在 することが示された.これが発端となり,手探りな がらも支援を模索する過程があり,「構造化」を見 ようみまねで行うというプロセスが存在した.さら に,見ようみまねの「構造化」ではうまくいかない という壁にぶつかり,より専門的な研修へ参加する 機会を通して,自閉症をどのように捉え,支援に活 かすかという視点に気づくことが継続した支援に繋 がっていた.さらに,対象者3人は,継続して学び 続ける理由として,自閉症の支援の指針に立ちかえ りたいという思いがあることが分かった.  平成21年に筆者らが実施した調査では11),構造 化を形だけ取り入れてみたがうまくいかず,取り組 みそのものを断念しているケースが少なくなかっ た.しかし,対象者3人においては,同様の経験を しながらも,取り組みをやめることはなかった.こ の要因として,専門家のもとで直接学ぶ機会があっ たことが挙げられる.書籍という自分なりに解釈し て学ぶ方法だけではなく,自閉症支援現任者トレー ニングセミナーのように専門家から自閉症者への支 援の組み立てについて直接学ぶ機会を得たことで, 直面している「支援のうまくいかなさ」に対する方 向性が見えたものと考えられる.木村12)は,保護 者の家庭での実践に関する調査研究において,同様 のことを示唆している.保護者においても,実践当 初の段階では,子どもの特性ではなく構造化に焦点 をあて,見ようみまねで構造化を取り入れる経験を しており,その失敗に対する支援者の働きかけが理 論にとらわれない子どもに合わせた実践の成功につ ながることを示唆している.以上から,一概に保護 者と支援者を同じ視点では捉えられないが,構造化 のアイデアを取り入れた支援の取り組みを開始する にあたり,自閉症者の評価に基づく支援ではなく, 「構造化」のアイデアにとらわれてしまい一律の 支援を行い易い傾向があると考えられた.内山13) は,自身の経験から「構造化する意味を知ることの 重要性」について,以下のように述べている.  目に見える構造化の手法はわかりやすいの で,構造化の奥にある「なぜそのように構造化 するのか」という視点を忘れて表面的な模倣に なりがちである.「構造化が合わない自閉症が いる」「TEACCHでやったが失敗した」などと されている療育現場をみるとなぜ構造化するの かという視点が忘れられ表面的な構造化の模倣 に陥っていることが多い.  本研究の対象者3人は,内山の示す状況に陥って いたといえる.しかし,表面的な模倣ではうまくい かない実感に対して,専門家から学べる機会を得ら れたことが,取り組みを継続することができた大き な要因であるといえる.専門家がどのように自閉症 支援を組み立て実践しているのかという点につい て,身近で学ぶことができる自閉症支援現任者ト レーニングセミナーの受講が,対象者にとって大き な転機となっていた.このセミナーを通じ,対象者 は自閉症の捉え方を学んでいる.すなわち,それ までの自閉症支援の価値観を大きく転換する機会と なっている.このように実際に直接具体的な指導を 得られることが,書籍では学び得ないものを補完し ているのではないだろうか.さらに,支援者養成に おいて,「構造化」を伝える際,書籍などで記述さ れてはいるが,一律の支援ではなく自閉症者個々の 評価を基盤とした構造化であることを丁寧に伝えて いくことの重要性も示唆された.  また,対象者が学び続けたことの要因について は,立ち返る場の保障が重要であると考える.対象 者の回答の現場に埋没せずに,自分の支援の指針を 再確認する意味がこめられている点に注目すべきで ある.コルブは14),経験の再構成による学びにつ いて指摘している.コルブによると,学びは具体的 自閉症��の支援 学び����� うまくいかない実感 それまでのやり方では壁にぶつ かる 形だけ, なんとか構造化をやってみる →うまくいかない→学ぶ 一律の支援ではなく,自閉症をどのように捉えるかという視 点の重要性に気づく 支援の成功 学び続ける理由 現場に埋没しないため 自閉症支援の指針に立ちかえるため 構 造 化 の ア イ デ ア を 取 り 入 れ た 支 援 と の 出 会 い 図1 学びのプロセス 図1 学びのプロセス

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小田桐早苗・大田 晋 163 1055364_川崎医療福祉学会誌22巻2号+別冊_5校_村田 By IndCS3<P163>  文     献 1) 佐々木正美:自閉症児のためのTEACCHハンドブック改訂新版自閉症ハンドブック.学習研究社,東京,36,37, 2008. 2)E. ショプラー編著:自閉症への親の支援TEACCH入門.初版,黎明書房,愛知,2003. 3)佐々木正美監修:TEACCHプログラムによる日本の自閉症療育.初版,学習研究社,東京,2008. 4)内山登起夫:本当のTEACCH自分がじぶんであるために.初版,学習研究社,東京,19,2006. 5)佐々木正美監修:TEACCHビジュアル図鑑自閉症児のための絵で見る構造化.初版,学習研究社,東京,2004. 6) Yamada S:Effectiveness of the physical structure for an individual with autism.Kawasaki journal of medical

welfare,14(1),23−27,2008. 7) 寺尾孝士:行動障害を示す自閉症の人たちへの支援構造化のアイデアを応用して.川崎医療福祉学会誌,21(1),172− 173,2011. 8) 山口大学教育学部附属特別支援学校:個別の教育支援計画に基づく授業づくり−知的障害のある自閉症男子生徒の自立活 動の指導を例に.学部・附属教育実践研究紀要,10,47−60,2011. 9) 森本久美子:軽度知的障害者に対する相談支援における支援困難事例の特性分析.社会福祉学,52(2),80−93,2011. 10) 永見史織:自閉症児者支援に対する視点変化のプロセス−TEACCHトレーニングセミナーの語りから−.川崎医療福祉 大学大学院医療福祉学研究科医療福祉学専攻修士(医療福祉学)論文集,2010. 11) 大田晋,下田茜,澤田早苗:自閉症等発達障害児・者を支援する施設・事業所におけるTEACCHプログラム導入方策の 調査・研究~施設・事業所、教育・研究機関、行政等の連携の在り方を含めて~.平成21年度 厚生労働省 障害者保健 福祉推進事業助成研究報告書,2010. 12) 木村友香理,小林信篤,佐々木正美:家庭で構造化された指導法を実施する実態およびその実践に影響を与える要因−自 閉症スペクトラム児の親への質問紙調査およびインタビュー調査から−.川崎医療福祉大学大学院医療福祉学研究科医療 福祉学専攻修士(医療福祉学)論文集,2010. 13) 内山登起夫:第1章TEACCHの考え方.佐々木正美編,自閉症のTEACCH実践,初版,岩崎学術出版,東京,26, 2002. 14)赤尾勝己:生涯学習理論を学ぶ人のために.初版,世界思想社,京都,2004. (平成24年11月14日受理) 養成を行う上で重視すべき点を示すことができたも のと考える.支援においては,実践技術のみに視点 を向けるのではなく,その支援の指針に立ち返りな がら支援を展開することが重要である.本調査対象 者らも,学びのサイクルの中で,立ち返ることの重 要性に気付いていたといえる.しかし,本調査では 対象者が少ないため,今後はより多くの支援者を対 象とした調査を展開し,幅広く支援者養成の在り方 について検討を行いたい. 9

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謝辞  本研究は,川崎医療福祉研究の助成を受け実施し たものであり,研究助成選考委員の方々に篤く御礼 申し上げます.さらに,本研究の趣旨をご理解くだ さり,快く協力いただきました3人の研究協力者の 方々に深謝いたします. 経験,反省的観察,抽象的概念化,能動的実験のサ イクルの中で成熟するとしている.この視点で本調 査を振り返ると,研修を通して自閉症者への支援を 具体的に学び体験することで,反省へとつながり, 自身の現場への還元へと繋がっていると考えられ る.一度,セミナーを受けたから正確に間違わずに 支援を展開できるのではなく,日々実践を続ける中 で悩んだときに学べる環境に立ち帰ることで,再確 認しながら支援を実践することができるものと考え られた. 8

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まとめ  本研究では,自閉症支援者が構造化のアイデアを 取り入れた支援に出会い,個人の中でどのような学 びをし,継続した支援につながっているのかという 点について示唆することができた.さらに,支援者

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Department of Social Work Faculty of Health and Welfare

Kawasaki University of Medical Welfare Kurashiki, 701-0193, Japan

E-Mail:sanae.s@mw.kawasaki-m.ac.jp

(Kawasaki Medical Welfare Journal Vol.22, No.2, 2013 158−164) Correspondence to:Sanae ODAGIRI

Abstract

This study's purpose was to identify factors that supporters use in helping those with autism. What were the factors that enabled them to continue adopting structured teaching in their place of work? Three supporters were interviewed.

The process of maintaining a structured teaching environment in their place of work and the factors which influenced it were discussed.

These factors included the supporters' experience, the effectiveness in structured teaching and the supporters' consciousness and motivation and understanding of structured teaching. Moreover, it can be suggested that skilled professionals and specialized agencies are in need of such support staff.

Supporter Recognition or Practice and Learning about People with Autism

−an Interview Survey of Supporters of Autism−

Sanae ODAGIRI and Shin OTA (Accepted Nov. 14, 2012)

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