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手浴による自律神経系の調節的効果の可能性

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そ の 他

手浴による自律神経系の調節的効果の可能性

Possibility of Modulatory Effects on Autonomic Nervous System by Hand Bath

中野 元

)) Hajime Nakano

堀 悦郎

) Etsuro Hori 手浴による自律神経活動のバランス調節効果を検証するために,実験的に交感神経活 動が亢進している状態および副交感神経活動が亢進している状態を誘発し,それぞれの 状態に対する手浴の効果を検討した.健康ボランティア 23 名を対象にした試験では,暗 算負荷による交感神経賦活状態において,手浴では対照にくらべて交感神経の賦活を有 意に抑制していた.一方,安静閉眼による副交感神経賦活状態においては,対照にくら べて手浴では交感神経活動の有意な上昇を認めた.以上から,手浴は交感神経優位な状 態では交感神経活動の上昇を抑制し,副交感神経優位な状態では交感神経活動を亢進さ せ,自律神経のバランスを調節する効果を有することが示された. キーワード:手浴,自律神経,暗算,ストレス

The purpose of this study is to clarify the modulatory effects of hand bath on autonomic nervous system. For that, we tested hand bath on both high sympathetic and high parasympathetic conditions respectively, which induced by experimental intervention. Participants are all healthy volunteers. In the high-sympathetic condition, the hand bath suppressed the sympathetic activation by mental arithmetic task. On the other hand, the hand bath activated sympathetic activity under the parasympathetic activated condition by rest. These findings indicated that the hand bath has modulating effect on autonomic nervous system by suppress the sympathetic activity under high-sympathetic condition, and by activate the sympathetic system under high-parasympathetic condition respectively.

Key words:hand bath,autonomic nervous system,mental arithmetic,stress

Ⅰ.緒言

患者の清潔保持には,清拭や入浴等の全身に対する ケアだけでなく,足浴,手浴等のような部分的なケア 等さまざまな方法がある.看護師は,患者の状態に合 わせた清潔ケアの方法を選択して実施している.この ような清潔ケアのなかでも,手浴はお湯とステンレス ベースンといった簡便な物品で行うことができ,侵襲 もなく行うことができる看護技術である.そのため, 手浴は臨床現場で多く行われている.これまでの手浴 に関する研究から,その効果は本来の手指の清潔保持 (中田ら 2009)だけに留まらず,爽快感を得る,リ ラックス感をもたらす,やる気が向上する等の効果が 明らかにされている(岡田・深井 2003;大塚 2018; 矢野ら 2009).しかし,自律神経系に対する手浴の影 受付日:2020 年  月  日 受理日:2020 年 12 月 11 日

)金城大学 Department of Nursing, Faculty of Nursing, Kinjyo University

)富山大学学術研究部医学系 Behavioral Science, Graduate School of Medicine, University of Toyama 連絡先:堀 悦郎 富山大学学術研究部医学系行動科学 〒930-0194 富山県富山市杉谷 2630

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という報告(許ら 2009)や効果が不明であるとする 報告(栗田ら 2004;西山ら 2008)も混在しており, 見解が一致していない.一方,われわれのこれまでの 研究成果(中野ら 2020)では,心拍変動を指標として 自律神経活動と手浴の関係を調べると,LF/HF=1.0 を境界として交感神経活動が優位な場合は手浴により 交感神経活動が抑制され,副交感神経活動が優位な場 合は手浴により交感神経活動が亢進していた.この結 果から,手浴には自律神経活動のバランス調節効果が ある可能性が考えられた.しかし,この結果はなんら 介入をしていない対象者の自律神経活動により,交感 神経活動が優位な場合と副交感神経が優位な場合を分 けて手浴の効果を論じており,平均への回帰が生じて いる可能性は否定できない.例えば,手浴前の LF/HF が偶然に以下の対象者では,時間が経過すれば LF/HF が境界であるに近づく可能性である.自律 神経活動には日内変動が知られており(清水 2008), その変動のために偶然にも境界付近の状態の場合には, 手浴の効果がなくても境界であるに近づく可能性も 否定できない.したがって,手浴による自律神経のバ ランス調節効果を検証するためには,人為的に交感神 経活動を亢進させた状態および副交感神経活動を亢進 させた状態で,それぞれ手浴の効果を調べる必要があ る.しかし,実験的に自律神経活動を人為的に制御し た状態で手浴の効果を検証した報告はない. そこで本研究では,手浴による自律神経活動のバラ ンス調節効果を検証するため,実験的に交感神経活動 が亢進している状態および副交感神経活動が亢進して いる状態を誘発し,それぞれの状態における手浴の効 果を検討することを目的とした.本研究結果から,手 浴による自律神経活動のバランス調節効果を生理学的 根拠に基づいて証明することができれば,手浴という 看護技術が有している力(顕在的および潜在的な効 果・効能)に対する信頼性が向上するだけでなく,効 果的なケアを提供することができるようになるであろ う.

Ⅱ.研究方法

ઃ.対象 本研究に対して同意を得られた 20 歳代〜30 歳代 (平均 30.3±4.9 歳)の成人健康ボランティア 23 名 られている(藤本ら 1987)ため,性別よりも年齢層 が一定となるよう対象者の選定を行った.また,女性 は,性成熟期女性の大半がなんらかの月経症候群・月 経前不快気分障害をもつとされ,自律神経活動に影響 を与える(松本ら 2008)とされているため,月経中 の実験参加は避けて月経後に実験を行った. ઄.プロトコール 実験は窓がなく,ダウンライトにより薄暗くした実 験室にて行った.対象者は,実験前に実験環境への順 化(約 30 分間)をしてから実験を開始した.室温は, 24±1℃に保持した.実験中,対象者の姿勢は 30°のセ ミファーラー位とした.湯温は,恒温槽(THERMAX TM-3A,AS ONE 社)を用いて 39±0.1℃で管理を 行い,データ記録用ソフトウエア(DAQ Master for As One,AS ONE 社)を用いて温度の記録を行った (図ઃ).本研究においては,手浴の温熱刺激が自律神 経活動に及ぼす影響を検討するため,手浴時にマッ サージ等は行わず,香油等も使用しなかった.自律神 経活動の測定のため,心電図用ディスポーザブル貼付 電極によりワイヤレス生体センサー(RF-ECG,ジー・ エム・エス社)を左胸に装着し,胸部誘導心電図を測 定した. ઃ)交感神経賦活課題 実験的に交感神経活動を賦活する課題として,暗算 負荷を行った.暗算負荷による精神的ストレスは,交 感神経機能を亢進し,副交感神経機能を抑制すること が知られている(浜田ら 2006).手浴実験では,まず 分間以上安静座位にて交感神経活動の指標である LF/HF(後述)が安定しているのを目視にて確認し, その後両手を湯に橈骨茎状突起まで浸ける手浴を分 間行いながら暗算負荷課題(桁の整数から桁の整 数を連続引き算)を行った.なお,暗算時の開眼,閉 眼の指示は特に行わなかった.暗算の結果は,口答に て回答してもらった.手浴の時間を分間とした理由 は,長時間の手浴では全身効果に加えて生体のフィー ドバック機能も作動する可能性,さらには被験者の疲 労による影響も加わる可能性がある.そこで,手浴の 効果に対する生体のフィードバック的な反応ではな く,手浴による次的な自律神経系への効果のみを検 出するため,手浴時間を分間とした.また,心拍変 動による自律神経活動の推定には,最低でも 30 秒以

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上の連続データが必要であり(中川 2016),分では 信頼性がやや低くなると考えられる.このことから も,本研究では手浴の実施時間を分間とした.手浴 終了後,速やかにタオルで手の水分を拭き取り,分 間安静とした.対照実験では手浴をせずに同様の課題 を行った.すなわち,分間安静座位を保ち,その後 に空の手浴槽に分間手を入れながら暗算負荷課題を 行い,その後再び,分間安静座位を行った.人の 対象者に対し手浴実験および対照実験の両方を行い, その順序はカウンターバランスをとった.また,各実 験は手浴の影響を考慮し,時間程度の間隔を空けて 行った(図઄). ઄)副交感神経賦活課題 副交感神経活動を賦活する課題として,最も簡便で ある閉眼を行った.手浴実験では,閉眼した状態にて 分間以上安静座位を保ち,副交感神経活動の指標で ある HF(後述)が上昇し安定しているのを確認した 状態で,左右の橈骨茎状突起までを湯に浸ける手浴を 分間行った.手浴終了後速やかにタオルを用い手の 水分を拭き取り,分間安静とした.対照実験では 分間安静座位を保ち,その後に空の手浴槽に分間手 を入れ,その後再び分間安静座位を行った.人の 対象者に対し手浴実験および対照実験の両方を行い, その順序はカウンターバランスをとった.また,各実 験は手浴の影響を考慮し,時間程度の間隔を空けて 行った(図અ). なお,交感神経賦活課題および副交感神経賦活課題 は,原則として同一日内で時間以上の間隔を空け, 対象者の都合に合わせて午前時から午後 時の間に 実施した. અ.データ解析 記録した心電図から,心拍変動解析用ソフトウエア (MemCalc/Bonaly Light,ジー・エム・エス社)を用 いて心拍数(HR)および心拍変動解析による自律神 経活動の解析を行った.自律神経活動の解析では,心 拍変動の時系列データを最大エントロピー法により周 波数解析し,high frequency 成分(HF:0.15〜0.4 Hz) および low frequency 成分(LF:0.04〜0.15 Hz)の パワー値を求めた.本研究では,LF/HF 成分を交感 神経活動の指標とし,HF 成分を副交感神経活動の指 標とした(Chang et al. 2019;Matsushita et al. 2019).

交感神経賦活課題および副交感神経賦活課題遂行中 の自律神経活動および HR は,課題直前の安静時と比 較するとともに,課題遂行中(分間)の平均値から, 直前の安静時(分間)の平均値を減ずることで相対 的変化値を求めた.また,行動学的なデータとして, 暗算負荷による交感神経活動賦活時の回答数および正 答率を算出した.これら LF/HF,HF,HR および行 動学的データは,すべて平均値±標準偏差で表した. આ.統計解析方法

統計解析は IBM SPSS Statistics 23(日本 IBM)を 用い,Wilcoxon の符号付順位和検定にて課題直前の 安静時と課題遂行中の差,および手浴実験時と対照実 験時の差を調べ,%を有意水準とした. 図અ 副交感神経賦活課題プロトコール 図઄ 交感神経賦活課題プロトコール 図ઃ 実験の様子 体位・心拍変動の測定および手浴方法.

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Ⅲ.倫理的配慮

研究参加者に,研究者が本研究の趣旨を書面と口頭 で説明を行った.また,研究への参加および協力は自 由意思であり,参加および協力は拒否することが可能 であること,拒否した場合にも不利益を被ることがな いことを書面と口頭にて説明を行った.そのうえで, 研究の趣旨に同意が得られた対象者には同意書に直筆 で署名をしてもらった.本研究は,富山大学臨床・疫 学研究等に関する倫理審査委員会の承認を得て実施し た(臨 30-87).

Ⅳ.結果

ઃ.交感神経賦活状態での手浴の効果 表ઃには,交感神経賦活課題前および課題遂行中の LF/HF,HF および HR を示した.対照実験において, 課題前安静時の LF/HF(交感神経活動)が 1.29±1.33 であったのに対し,交感神経賦活時には 2.89±1.94 と有意に上昇していた(P<0.05).一方,手浴実験の LF/HF においては,課題前安静時および交感神経賦 活時でそれぞれ 1.57±1.33 および 2.01±0.67 であり 有意な差を認めなかった(P>0.05).なお,課題前安 静時の LF/HF は,対照実験および手浴実験の間に有 意な差が認められなかった(P>0.05).また,図આに は,交感神経賦活課題遂行中の LF/HF の変化につい て,対照実験と手浴実験で比較して示した.対照実験 では LF/HF が交感神経賦活前の安静時に対して 1.59±1.37 であった.一方,手浴は交感神経賦活前 に対して 0.43±1.27 であった.すなわち,対照実験 および手浴実験のいずれにおいても LF/HF は増加傾 向を示した.しかし,統計学的解析の結果,手浴実験 では対照実験にくらべて LF/HF の増加は有意に低値 を示していた(P<0.05). 副交感神経の指標である HF については,対照実験 の課題前安静時および交感神経賦活時でそれぞれ 492.3±390.7 msec2および 374.8±275.8 msec2であり, 有意な低下を示した(P<0.05)(表ઃ).また,手浴 実験においても課題前安静時および交感神経賦活時が そ れ ぞ れ 561.4±426.1 msec2お よ び 388.3±286.5 msec2であり,有意な低下を示した(P<0.05).なお, 交感神経賦活前の安静時の HF は,対照実験および手 浴実験の間に有意な差を認めなかった(P>0.05). 図ઇには,交感神経賦活課題遂行中の HF の変化値を 課題前安静時 交感神経賦活時 P LF/HF 対照 1.29±1.33 2.89±1.94 * 手浴 1.57±1.33 2.01±0.67 HF 対照 492.3±390.7 374.8±275.8 * (msec2) 手浴 561.4±426.1 388.3±286.5 HR 対照 66.9±9.2 74.5±13.2 * (拍/分) 手浴 66.6±7.7 75.7±13.2 * (*;Wilcoxon の符号付順位和検定 P<0.05) 図આ 交感神経賦活課題遂行中における交感神経指標 (LF/HF)の変化 (*;Wilcoxon の符号付順位和検定 P<0.05) 図ઇ 交感神経賦活課題遂行中における副交感神経指 標(HF)の変化

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示した.対照実験において,HF は交感神経賦活前に 対して−117.5±253.9 msec2であった.一方,手浴実 験において,HF は交感神経賦活前に対して−173.0± 281.9 msec2であった.すなわち,対照実験および手 浴実験のいずれにおいても HF は減少傾向にあった. 統計学的解析の結果,対照実験および手浴実験の間に 有意な差は認めなかった(P>0.05). HR については,対照実験の課題前安静時および交 感神経賦活時でそれぞれ 66.9±9.2 拍/分および 74.5± 13.2 拍/分であり,有意な上昇を示した(P<0.05) (表ઃ).また,手浴実験の課題前安静時および交感神 経賦活時においても,HR がそれぞれ 66.6±7.7 拍/分 および 75.7±13.2 拍/分であり,有意な上昇を認めた (P<0.05).なお,交感神経賦活前の安静時における HR は,対照実験および手浴実験の間に有意な差を認 めなかった(P>0.05).HR 変化値は,対照実験では 交感神経賦活前に対して 7.6±7.8 拍/分と増加傾向で あった.手浴においても,暗算負荷による HR は交感 神経賦活前の安静時に対して 9.1±9.3 拍/分と増加傾 向であった.統計学的解析の結果,対照実験および手 浴実験の間に有意な差は認めなかった(P>0.05). 行動学的解析の結果は,表઄に示した.回答数は, 対照実験で 20.7±9.6 であったのに対し,手浴実験で は 23.5±9.9 であった.統計学的解析の結果,対照実 験および手浴実験の間に有意な差は認めなかった(P> 0.05).一方,正答率は対照実験で 0.80±0.2 であっ たのに対し,手浴実験では 0.91±0.2 であった.統計 学的解析の結果,対照実験にくらべて手浴実験では正 答率が有意に高値を示していた(P<0.05). ઄.副交感神経賦活状態での手浴の効果 表અには,副交感神経賦活課題前および課題遂行中 の LF/HF,HF および HR を示した.対照実験におい て,課題前安静時の LF/HF は 0.97±1.03 であったの に対し,副交感神経賦活時には 0.76±0.74 であり, 有意な変化はみられなかった(P>0.05)(表અ).一 方,手浴実験の LF/HF においては,課題前安静時お よび副交感神経賦活時でそれぞれ 0.96±0.68 および 2.49±3.65 であり有意な上昇を認めた(P<0.05). なお,副交感神経賦活課題時の LF/HF は,対照実験 および手浴実験の間に有意な差が認められなかった (P>0.05).図ઈには,副交感神経賦活課題遂行中の LF/HF の変化値を示した.副交感神経賦活課題遂行 中における対照実験の LF/HF は−0.20±0.88 であり. 若干の減少傾向を示した.一方,手浴実験の LF/HF は 1.52±3.71 であり.増加傾向を示した.統計学的 解析の結果,対照実験にくらべて手浴実験では LF/ HF が有意に高値を示していた(P<0.05). HF については,対照実験の課題前安静時および副 交感神経賦活時でそれぞれ 534.3±440.6 msec2およ び 531.7±441.0 msec2であり,有意な変化は認められ なかった(P>0.05)(表અ).また,手浴実験の HF についても,課題前安静時および副交感神経賦活時で そ れ ぞ れ 512.8±398.7 msec2お よ び 472.9±365.0 msec2であり,有意な変化は認められなかった(P> 0.05).なお,副交感神経賦活課題前の安静時の HF については,対照実験および手浴実験の間に有意な差 を認めなかった(P>0.05).副交感神経賦活課題遂 行中の HF 変化値は,対照実験および手浴実験でそれ ぞ れ −2.6±191.7 msec2お よ び −39.8±171.2 msec2 と減少傾向を示した(図ઉ).統計学的には,対照実 験および手浴実験の HF 変化には有意な差を認めな かった(P>0.05). 対照実験の HR は,課題前安静時および副交感神経 賦活時でそれぞれ 64.6±7.6 拍/分および 63.9±7.3 拍/分であり,有意な変化は認められなかった(P> 0.05)(表અ).しかし,手浴実験の HR は課題前安静 時および副交感神経賦活時でそれぞれ 65.3±6.9 拍/ 分および 66.7±6.8 拍/分であり有意な上昇を認めた 表઄ 交感神経賦活課題(暗算)の回答数およ び正答率 対照 手浴 P 回答数 20.7±9.6 23.5±9.9 正答率 0.80±0.2 0.91±0.2 * (*;Wilcoxon の符号付順位和検定 P<0.05) 表અ 課題前安静時および副交感神経賦活課題遂行中 の測定値 課題前安静時 副交感神経賦活時 P LF/HF 対照 0.97±1.03 0.76±0.74 手浴 0.96±0.68 2.49±3.65 * HF 対照 534.3±440.6 531.7±441.0 (msec2) 手浴 512.8±398.7 472.9±365.0 HR 対照 64.6±7.6 63.9±7.3 (拍/分) 手浴 65.3±6.9 66.7±6.8 * (*;Wilcoxon の符号付順位和検定 P<0.05)

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(P<0.05).なお,副交感神経賦活課題前の安静時の HR については,対照実験および手浴実験の間に有意 な差を認めなかった(P>0.05).副交感神経賦活課題 遂行中における HR の変化値は,対照実験では副交感 神経賦活前に対して−0.7±2.1 拍/分であり,減少傾 向を示した.一方,手浴実験における HR は 1.4±1.9 拍/分であり,副交感神経賦活前に比して増加傾向を 示した.統計学的解析の結果,対照実験にくらべて手 浴実験では HR が有意な高値を示していた(P<0.05).

Ⅴ.考察

ઃ.手浴に対する自律神経系の反応 手浴の効果として,快適感(岡田・深井 2003),リ ラックス感(大塚 2018)を得るなど,副交感神経活 動が優位になると考えられる報告がある一方で,やる 気の向上(矢野ら 2009)といった交感神経活動が優 位になっていると考えられる効果も報告されている. 手浴が自律神経系に対する影響を直接調べた研究報告 については,交感神経活動が低下し(池田ら 2002; 岡田ら 2002),副交感神経活動を亢進するという報告 (加藤ら 2005)がある一方,交感神経活動が亢進する という報告(許ら 2009)があり,結果が一致してい ないのが現状である.これに対し中野ら(2020)は, 交感神経活動が比較的高い被験者の場合は手浴により 交感神経活動が抑制され,副交感神経活動が比較的高 い被験者の場合には手浴により交感神経活動が刺激さ れる可能性を示唆している.しかし,この報告では手 浴実施前の自律神経活動を実験的に制御していないた め,平均への回帰が生じた可能性を否定できていな かった. 本研究の結果,実験的に交感神経活動が優位な状態 で手浴を行った場合には,暗算負荷による交感神経活 動の上昇が対照とくらべて有意に低値を示した.すな わち,手浴には,精神的ストレス負荷による交感神経 活動の上昇を抑制する効果があると考えられる.臨床 において手浴は,爽快感やリラックス効果を目的とし て施される場合があり(宮下・矢野 2008),その根拠 として,本研究で示された手浴による交感神経活動の 上昇抑制効果が考えられる.また,例えば糖尿病患者 では LF/HF が健常者よりも高値を示すことが知られ ており(De Angelis et al. 2001),このような交感神 経活動が優位な対象者に対しても,手浴は交感神経活 動の上昇を抑制する効果がある可能性がある. 一方,副交感神経が優位な安静閉眼状態において, 対照実験では交感神経活動が低下傾向を示したが,手 浴実験では交感神経活動が上昇傾向を示しており,手 浴では対照にくらべて交感神経活動は有意に高値で あった.すなわち,本研究の結果は,手浴が交感神経 活動を亢進する効果も有することを示している.この 結果と同様の結果は,過去にも報告されている.岩崎 ら(2010)は,深夜勤務の看護師を対象に眠気がピー クとなる− 時にアロマオイルを用いた手浴を行い, 覚醒効果が得られたとしている.この結果と本研究の 結果を併せると,手浴には眠気が強く副交感神経優位 な状態に対して,交感神経活動を亢進させる覚醒効果 があると考えられる.脳血管障害患者に対する手浴の 効果として,やる気の向上が報告されている(矢野ら 図ઉ 副交感神経賦活課題遂行中における副交感神経 指標(HF)の変化 図ઈ 副交感神経賦活課題遂行中における交感神経指 標(LF/HF)の変化 (*;Wilcoxon の符号付順位和検定 P<0.05)

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2009)が,その根拠として,この手浴の有する交感神 経活動亢進による覚醒効果が作用している可能性が考 えられる. 本研究で得られたこれらの結果は,手浴の効果が対 象者の自律神経活動の状態によって異なることを示し ている.手浴は,交感神経活動が高い対象者に対して は,交感神経の上昇を抑制する一方,副交感神経活動 が高い対象者に対しては,交感神経系を亢進させると 考えられる.つまり,本研究の結果は,手浴には自律 神経系を一定範囲に保つためバランスをとる効果があ る可能性を示唆している.これまでの手浴に関する研 究報告において自律神経系の変化に一定の見解が得ら れていなかった.その理由の一つとして,手浴を適用 する前における対象者の自律神経活動が,各報告に よって異なっていた可能性が高い.本研究の結果は, これまで見解の一致が得られていなかった手浴の自律 神経系に対する効果を実験的に明らかにしたといえよ う.また,手浴の効果が対象者の自律神経活動の状態 により異なることは,臨床における手浴の効果を考え るうえで,有用な情報である可能性が考えられる.す なわち,手浴には覚醒度が低い対象者の覚醒度を上げ る効果がある一方,ストレス状態の対象者の緊張を緩 和する効果も期待できる.本研究の結果は,これまで 臨床で清潔以外の目的で施されていた手浴のさまざま な効果に対し,生理学的な根拠を与えると考えられる. 一方で,本研究の結果では副交感神経活動に対する 手浴の効果は明確には示されなかった.その理由とし て,実験環境の影響が考えられる.本研究は,すべて の実験を実験室内で行っている.実験室に対する対象 者の順化が十分でない場合は,副交感神経活動の上昇 が抑制される可能性もある.したがって,今後は対象 者の実験室への順化を確認するか,対象者の自宅など でのデータ収集を行い,より副交感神経活動への賦活 が生じやすい環境で手浴の効果を確認する必要がある と思われる. 手浴の自律神経活動への影響は湯温により異なる可 能性が示唆されている(加藤ら 2005).したがって, 本研究で得られた 39℃の手浴中に得られた自律神経 活動のバランス調節効果は,温度により異なる可能性 がある.比較的高めの湯温(42℃)では,手浴中に副 交感神経活動が上昇傾向にあるものの,比較的低めの 湯温(39℃)では手浴実施 20 分後に副交感神経活動 の上昇傾向があるという(加藤ら 2005).これらのこ とから,本研究における 39℃の手浴実施後にもなん らかの効果が持続している可能性も考えられる.本研 究ではこれら湯温の違いによる手浴の効果を確認して おらず,今後の検討課題となっている. 手浴の実施時間(湯への浸漬時間)もまた,今後の 検討課題であろう.手浴の臨床実態を調査した報告に よると,手浴の実施時間は 10〜15 分が多いとされて いる(宮下ら 2008).また,手浴の効果に関する研究 においても,10 分程度の浸漬時間が採用されている (池田ら 2002;岡田・深井 2003;矢野ら 2009).一 方で,分間の手浴でも効果があるとする報告もある (岩崎ら 2010;谷地ら 2014).本研究では,手浴時間 を分間に設定して実施した.これは,前述の通り手 浴の効果に対する生体のフィードバック的な次反応 ではなく,可能な限り手浴による次的な反応を検出 しようとしたためである.また,心拍変動による自律 神経活動の推定には,最低でも 30 秒以上の連続デー タが必要であり(中川 2016),分では信頼性がやや 低くなると考えられる.これらのことから,本研究で は手浴の実施時間を分間とした.臨床で実施されて いる手浴は,ステンレスベースン等を用いているた め,10〜15 分間の手浴実施中に湯温が低下するもの と思われる.そのため,臨床で実施されている手浴を 模したプロトコールを立てる場合,本研究のように恒 温槽を使用せず,)環境温度,)洗面器の素材, )湯温,)浸漬時間,)対象者の体温等につい て変化させた組み合わせが必要となろう.本研究の結 果は,これらの複雑なパラメータの組み合わせの一つ に過ぎない.しかし,臨床で実施されている手浴より も短時間の手浴で自律神経のバランスが調整されてい る可能性を示した本研究結果は,臨床現場でも短時間 の手浴で効果が発現している可能性をも含有してい る.今後は,前述の湯温に加えて時間を制御した実験 プロトコールによる確認が必要であろう.さらに,実 験条件としては特に暗算負荷の程度も考慮するべきで あろう.対象者のなかには,暗算が比較的得意でさほ ど苦痛を感じなかった対象者がいる反面,暗算が苦手 で非常に困惑した対象者もいる可能性がある.今後 は,負荷の程度による手浴の効果についても明らかに する必要があろう. ઄.手浴の心拍数に対する影響 本研究の結果,対照および手浴では交感神経賦活課 題遂行中の HR に有意な差を認めなかったが,ともに 上昇傾向を示した.この結果は,交感神経活動の亢進

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作用していることを示唆している.また,HR では手 浴の効果が見いだせなかったことから,手浴による自 律神経活動への影響は,HR だけでは測定できず,心 拍変動解析を適用しないと測定できない可能性が考え られる.これまでの研究においても,心拍変動は自律 神経機能を反映することが知られている(Egelund 1982;Hyndman & Gregory 1975;伊藤 1988;村田 1991;大須賀ら 1993;鈴木 1995). 一方,副交感神経賦活課題遂行中において,HR は 対照では低下傾向であったものの,手浴では上昇傾向 を示しており,その差は有意であった.この結果は, 交感神経活動(LF/HF)の亢進を反映していると考え られる. これらのことから,HR でも手浴の自律神経系に対 する効果をある程度は測定可能であるが,心拍変動解 析を行った方がより確実に手浴の効果を検出できると 考えられる. અ.交感神経賦活課題および副交感神経賦活課題の妥 当性 本研究では,人為的に交感神経および副交感神経を 賦活し,それぞれの状態で手浴の効果を調べている. そのため,交感神経賦活課題および副交感神経賦活課 題が有効に機能している状態で,手浴の効果を調べる 必要がある.本研究で用いた交感神経賦活課題は,暗 算負荷である.暗算負荷は,精神的なストレスを負荷 する方法として広く用いられており,交感神経機能の 亢進の他,副交感神経機能の抑制,認知的負荷,血圧 上昇などを誘発することが知られている(浜田ら 2006;Hunt et al. 2017).本研究においても,暗算を 負荷した交感神経賦活課題において,対照実験の交感 神経活動(LF/HF)は暗算負荷前の安静時にくらべ て有意に上昇していた(表ઃ).このことは,本研究 においても暗算負荷が効果的に作用したことを示唆し ている. 一方,副交感神経賦活課題においては,対照実験の 副交感神経活動(HF)は課題前安静時とくらべて有 意な変化は認められなかった(表અ).すなわち,直 前の安静時と比較するならば,安静閉眼は副交感神経 賦活課題として有効に機能しているとは言い難い.し かし,直前の安静がすでに副交感神経を賦活している 可能性もあり,フロア効果(floor effect)により課題 た場合には,同時に交感神経活動の指標である LF/HF および HR が有意に上昇している(表અ).また,前 述の通り,実験室は対象者にとって不慣れな環境であ るため,副交感神経が賦活されにくい状況であった可 能性も考えられる.今後,手浴による自律神経系のバ ランス調節効果をより詳細に調べるためには,安静閉 眼より副交感刺激賦活作用の強い方法で副交感神経を 賦活するか,交感神経活動が優位な状態で副交感神経 活動賦活課題を行い,その際の手浴の効果を調べる必 要もあるだろう. આ.手浴による脳機能への効果 15 分から 30 分といった比較的長時間の手浴の効果 は,手に対する局所反応だけではなく,全身の血管を 拡張させるなど,全身反応であることが知られている (美和ら 2016;奴久妻ら 2016).一方,分から分 の比較的短時間の手浴により前頭葉や背外側前頭前野 の活性化が報告されている(小坂ら 2016;中野ら 2020;谷地ら 2014).これらのことから,手浴の効果 は末梢だけでなく,比較的短時間で中枢神経に作用 し,より長時間で中枢神経から全身に及んでいる可能 性が考えられる.本研究では,交感神経賦活課題とし て暗算負荷を分間行った.その結果,対照と比較し て手浴では正答率が有意に高かった.手浴によって活 性化される背外側前頭前野は,前頭葉のなかでも遂行 機能に直接関わる部位とされている(山口 2008).し たがって,本研究で得られた手浴による暗算正答率の 上昇効果は,背外側前頭前野の活性による可能性が考 えられる.しかし,手浴の脳機能に及ぼす影響につい ては,直接的な報告は多くない.今後は,手浴による 自律神経系の調節が生じている際に活動する脳部位が どこで,どのような脳機能に影響を及ぼしているの か,より詳細に調べる必要があろう.

Ⅵ.結論

手浴は,交感神経活動が優位な状態では交感神経活 動を低下させ,副交感神経活動が優位な状態では交感 神経活動を亢進させる可能性が考えられた.このこと から,手浴は自律神経系のバランス調節作用があり, 臨床応用が可能であると考えられた.

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謝辞:今回の研究に快く参加してくださった協力者の 方々に心から感謝いたします.本研究の経費の一部は,科 学研究費補助金(基盤研究(C):18K10141)によるもの です.

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