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国試受験者のデジタル利用ログによる学習分析

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Academic year: 2021

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国試受験者のデジタル利用ログによる学習分析

○田中 雅章

1)

,神田 あづさ

2)

ユマニテク短期大学

1)

,仙台白百合女子大学

2))

510-0066 三重県四日市市南浜田町 4-21

Tel: 059-356-8170 Fax: 059-356-0036

E-mail: [email protected]

An Analysis of National Exam Candidates' Lear

ning Using Digital Textbooks Logs.

TANAKA Masaaki1),KANDA Azusa2)

Humanitec Junior College1), Sendai Shirayuri Women's College2) 4-21, Minamihamadacho, Yokkaichi-shi, Mie 510-0066 Japan Phone: +81-59-356-8170 Fax: +81-59-356-0036 E-mail: [email protected] 【発表概要】 2019年4月より学校教科書法が改正され、2020年の4月から小学校でデジタル教科書の利用 が始まった。筆者が所属する学園の看護師養成課程では、それよりも5年早い2015年からデジタ ル教科書の利用を始めた。ただ、全ての教科書ではなく、50冊中39冊がデジタル教科書、11冊が 従来の紙の教科書から始められた。さらに、2016年からはデジタル教材も追加された。これらのサ ービスは電子書籍配信サービス(以降配信サービス)のシステムを利用することで実現できた。この 配信サービスを利用するには、専用ビューアーアプリをタブレットにインストールする必要がある。 配信サーバーから書籍データをダウンロードすることで、デジタル教科書やデジタル教材が利用で きる。利用者である学生は高校生の時からスマートフォンを所有しており、普段からスマホでマンガ や小説を読む環境に慣れていた。したがって、ほとんどの学生はデジタル教科書になれるのが速 かった。入学時から看護師国家試験受験の時期までの3年間にわたりデジタル利用ログを収集し た。収集した利用ログを同国家試験の合否別に分析した。本稿では国家試験の合否に基づいた 学生の解析結果を報告する。 【キーワード】 デジタル教科書,デジタル教材,学習履歴分析 1. はじめに 2020年から初等教育機関において、デジ タル教科書の導入が始まった[1]。医療系の高 等教育機関において、デジタル教科書やデ ジタル教材の導入が進みつつある[2]。筆者が 所属する学園の看護師養成課程では、2015 年から使用する教科書50冊の内、39冊分の 約80%がデジタル教科書の利用を始めた。さ らに、2016年からは授業で使用するデジタル 教材の利用を開始した。デジタル教材の作成 は学内の教員だけでなく、科目を担当する非 常勤も含めて取り組みを行った結果、390アイ テムが登録された。 このデジタル教科書・デジタル教材の基本 はPDF(Portable Document Format)ファ イルである。PDFファイルに透明テキストを付

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加することでデジタル教科書の本文内の用語 検索が可能になっている。さらにXML(Exte nsible Markup Language)描画をデジタ ル教科書のPDF画像に重ねている。これで紙 の書籍と同様に、目次、しおり、マーカー、フ センメモ、ページメモ、一覧などの機能がデジ タル教科書上で実現されている。 本稿は自動収集された利用ログを活用して、 学生の学習履歴の分析を試みた。学生の学 習実態を把握し、国家試験の合否の理由を 明らかにする。学習指導の基礎データを得る ことを目的とする。 2. 電子書籍配信サービスの概要 この電子書籍等配信サービスを図1に示す。 同サービスは2010年から8大学で行われた電 子学術書利用実験プロジェクトをベースとして 実用化されたシステムである[3] システム概要 図1 電子書籍配信サービスの概要 図1 の左上に示すように既存の紙の教科書 をデジタル化するには、デジタルデータを提 供する教科書会社の協力が必要である。近年 は、教科書データのPDF化が進んでいること が多く、教科書データの提供に係る出版社の 負担は比較的少ない。この配信システムは、 デジタル教科書の利用期間の期限を設けるこ とができる。さらに教科書会社の利益を確保 するために次の運用規則が決められた。デジ タル教科書を利用するためには、従来の紙の 教科書を購入する。さらにデジタル教科書は 期間限定の利用権である。つまり、紙の教科 書を併用する運用である。それでも教科書会 社によっては教科書データの提供を拒否する 場合がある。スタート時にデジタル教科書の 1 00%化が実現できなかった理由は、教科書会 社の協力が得られなかったためである。 図1の左下に示すのは各教育機関が独自 に登録する副読本や授業で使用する講義資 料などのデジタル教材である。このコンテンツ の登録や規則は運用する学校にゆだねられ る。デジタル教材の利用はデジタル教科書と 異なり無償である。さらに利用期限が設けられ てないことが多い。 図 1 の中央に示すサーバー群の一つは電 子著作権管理をDRM(Digital Rights Man agement)によって利用者保護と不正利用の 防止を担っている。さらなる安全性を高めるた め、出版社からの要望で定期的にIDとパスワ ードの入力が求められる。そのため、利用者 から定期的に入力するのは面倒だという苦情 の声もある。 図1の右上に示すようにデジタル教科書や デジタル教材を利用するには、コンテンツ管 理の専用サーバーからコンテンツをタブレット へダウンロードする必要がある。学生は、この 一連の作業を行うことでデジタル教科書やデ ジタル教材が学習コンテンツとして利用可能と なる。このタブレットは常にネットワークにつな がっている必要がない。使用するコンテンツデ ータのダウンロードが完了していれば、オフラ イン環境でも閲覧が可能である。 同配信サービスには、利用ログを自動収集 する機能がある。何らかの操作を行うたびに1 件のログが発生する。このログは、使用デバイ スがネットワークに接続されている時に自動で アップロードするようになっている。 3. 電子書籍配信サービスの特徴 配信サービスのシステムは日々改善される ため、紙の教科書に比べメリットがあるが、デメ リットもある。デジタル化のメリットは教科書や

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教材が 1 台のタブレットに全て収まることであ る。そのため、既存の紙の教科書や教材に比 べ、デジタル教科書や教材は軽量でコンパク トに利用できる。それでいて、紙の教科書や 教材と同様に文字、記号、図表、写真の 掲 載・閲覧が可能である。さらに教材はカラー化 が実現できた。 初期のデジタル教科書は、紙面をそのまま 画面表示に置き換えられた程度であった。し かし、現在のデジタル教科書は情報技術の進 歩により、様々な機能が実現できている。さら にマルチメディアの特性を生かして音声や動 画の学習コンテンツの利用も可能である。 配信サービスアプリを開いた状態を図 2 に 示す。 図2 電子書籍配信サービスアプリ 今回、導入した配信サービスアプリは、主に タブレットで利用することを想定している。教 科書のデジタル化により、フセンメモ、ページ メモ、マーカーやしおりの一覧表が自動で作 られる。これらの一覧表は利便性が高く、使い 勝手も良い。使い方をマスターした学生はよく 使っている傾向が確認できた。もし、ページメ モやマーカーが不要となった場合は紙の教科 書ではできなかった完全消去ができる。必要 に応じて書き換えることも可能である。これは 従来の紙の教科書では不可能であった機能 である。 配信サービスアプリを導入して気づいた課 題を述べる。一つ目はデジタル教科書用とし て導入するタブレットの性能によって、配信サ ービスアプリの能力や安定性が左右されること である。配信サービスアプリの起動時間の速さ、 保存できるデジタル教科書やデジタル教材の コンテンツ量、操作時の応答性の良さはタブ レットの能力で決まる。購入費用を重視するあ まり、ぎりぎりのスペックのタブレットの運用は 利用者の不満を招く危険性が高まる。少なくと も3 年から 4 年間の学習期間は使用すること になる。そのことを配慮するならば予算が許す 限りハイスペックなタブレットを導入した方が好 ましい。処理能力に余裕のあるタブレットの採 用は、利用者が気持ちよく利用できると思わ れる。 実際の運用では入学時に配布されたタブ レットは卒業まで貸与される。デジタル教科書 1 冊当たり、約 50MBの容量が必要である。さ らに、デジタル教科書や電子教材をタブレット で利用するには数GBの作業領域が必要であ る。50 冊程度のデジタル教科書とデジタル教 材を安定して利用するには、本体メモリーは 最低でも64GB、できれば 128GBのモデルを 推奨する。さらにタブレットの画面サイズも重 要である。画面サイズは最低でも9.7 インチは 必要である。このくらいであれば教科書の拡 大操作も不要で見やすい。指による操作も問 題がない。 二つ目は配信サービスの利用者教育とサ ポートが不可欠であることである。まず、教員 向けの勉強会の実施が必要である。主な内容 はPowerPointの操作方法や電子教材の作り 方である。特に使用する画像データはオリジ ナルサイズから、充分に圧縮する必要がある。 PowerPointのファイルがコンパクトになれば、 教材のダウンロード時間が早くなる。 配信サービスが導入された2015 年の調査 では、学生はデジタル教科書だけでなく教材

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のデジタル化を望んだ。それを受け、2016 年 より非常勤も含めた全教員が 390 アイテムの デジタル教材を登録した。この取り組みの結 果、学生の満足度が向上し学習環境の改善 につながった。 さらに学習効果を高める使用方法まで指導 する方が望ましい。デジタル教科書ならでは の効果的な使い方を知らないとその有効性を 発揮することはできない。ほとんどの学生が使 いこなしていると確信が得られるまで、1 年の 習熟期間を必要とした。 4. 利用ログの分析方法 学生約80名が3年間学習した利用ログの総 件数は約550万件以上になった。 4.1 分析対象者 分析対象者は2015年に入学したデジタ ル教科書1期生の中で、看護師国家試験を 受験した52名である。そのうち、47名の合 格群と5名の不合格群に分けて比較した。 4.2 調査期間 調査期間はデジタル利用ログの2015年4 月から2018年3月までである。なお、看護 師国家試験日は2018年2月18日で、同国家 試験の合格発表日は2018年3月26日であっ た。 4.3 データ収集方法 図1の電子書籍配信サービスのユーザー 管理サーバーに利用ログが取集される。こ の利用ログから52名の3年間分をCSVファ イルで出力した。3年間の総ログ数は450万 件になった。 4.4 データ分析手順 ユーザー管理サーバーから抽出したCS Vファイルを個人の月別にサマリー集計し た。集計した個人の月別のサマリーデータ をExcelに読み込んだ。Excelで分析とグラ フ化を行った。 5. 結果 5.1 年間の学習量 図3に利用ログの度数分布のグラフを示 す。1人当たりの平均利用ログ件数は3年間 で、約87,000件であった。3年間で最も利 用ログが多い学生は16万件近くであった。 逆に利用ログが少ない学生は4万件に満た なかった。ある程度の学習量に個人差があ ることは予想していたが、実際はそれ以上 であったことを示している。 図3 デジタル教科書・教材利用頻度 5.2 絶対的学習量 図4に絶対的学習量のグラフを示す。絶 対的学習量に含まれるログは、学生が利用 したデジタル教科書とデジタル教材の利用 ログである。 図4 絶対的学習量(3 年間) 1年目はデジタル教科書のみの利用だっ た。2年目からはデジタル教材の利用が追 加された。その結果、デジタル教科書に加 えデジタル教材(390アイテム)の分が増え たことで、1年目に比べ2年目の利用が2倍 以上に増えている。 このグラフを俯瞰すると2015年8月と20 16年8月の夏休みや冬休みの時期は学習コ ンテンツの利用が少なくなることを示して いる。また、2015年10月から11月、2016年10 月から11月に利用のピークが認められた。こ れは、毎年9月から11月が後期の授業期間で あり、12月から病院における臨地実習が始ま

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るため、11月末までに後期の授業が終わる。1 0月は授業内で小テストを実施する事が多い こととレポートの提出が増える。11月後半は後 期の定期試験が実施される時期である。 学生の学習行動の理由として、デジタル教 科書の利用に慣れたころである2016年11月 に無記名のアンケート調査を行った。得られ た結果の学習コンテンツの利用目的を図5に 示す。学生の80%以上が学習コンテンツを定 期試験対策として活用していると回答している。 定期試験の時期に学習コンテンツの利用が 多い理由を示している。 次いで多いのが、小テストやレポートの作 成のためである。このことから、授業期間中は 学習コンテンツを小テスト、予習・復習、レポ ート作成の利用が多い理由を示している。 図5 学習コンテンツの利用目的 5.3 国試合格群と国試不合格群のログイン 図6に国試合格群と国試不合格群別のログ インのグラフを示す。このグラフは、図4の絶対 的学習量のグラフに似た変化を示している。 特に2016年8月から2016年12月にかけて、3 年間を通して最もログイン数が多くなっている。 これは、入学2年目の9月から11月にかけて後 期の授業が集中的に行われていることが関与 していると考えられる。また、12月から臨地実 習が始まるためログイン数が急激に減少して いる。また、3年間を通してログイン数の増減 をみてみると、8月、12月ではログイン数が大 きく減少している。これは夏季、冬季長期休暇 のためにログイン数が減少していると考えられ る。 合否別のログイン数で大きな違いは、合格 群は2年生の後期授業の時期に頻繁にログイ ンを行っている。つまり、空き時間を見つけて は学習行動を行っていると推測される。それ に対して、不合格群は合格群に比べログイン 回数が少ない。 合格群は臨地実習の時も実習現場で学ん だことや曖昧になっていた知識など、教科書 を通して復習などを行うためにログイン数が大 きく増加していると考えられる。それに対して、 不合格群は5月頃からログイン数が急激に減 少している。つまり、臨地実習期間中は、実習 現場で学んだことや曖昧になっていた知識な ど、教科書を通して復習していないことがうか がえる。 合格群と不合格群の違いは、2年生の後期 からのこまめに学習するかそうでないかの学 習行動の違いが国家試験の結果になった推 測される。 図6 合否別ログイン数(3 年間) 5.4 相対的学習量 合否別相対的学習量を図7 に示す。相対 的学習量とは図4 に示した絶対的学習量の 合格群の 47 名の平均値を基準とし、不合 格の5 名の平均値を比較したものである。 不合格群は合格群に比べ明らかに学習行 動が異なることがみて取れる。 不合格群は1 年生の 5 月から相対的学習 量が上下を繰り返している。最初はデジタ ル教科書に興味を持ち、50%以上多く使用 していた。やがて、デジタル教科書に興味 が薄れたのか、徐々に学習量が減少してい った。2 年生の病院の臨地実習が始まる頃 は臨地実習でいっぱいの様で、実習現場で 学んだことや曖昧になっていた知識など、 教科書を通した学習行動が認められない。 特に3 年生である受験年度は、一番大切 な時期であるにもかかわらず学習量が半分 程度まで減少していることがうかがえる。 その後、増加や現象を繰り返しながら学習 量が増えていることを示す。また、受験直

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前の12 月から 1 月にかけては合格群の 1.6 倍の学習を行っており、体調を崩すことが 心配される様な追い込み的な学習を行って いたことを示した。 図7 相対的学習量(3 年間) 5.5 デジタル教科書化の要望 2016年11月に無記名のアンケート調査を した。得られた結果の教科書の全デジタル化 の要望を図8に示す。2年以上の学習コンテン ツを利用して、77.3%の学生が教科書の全デ ジタル化を望んでいることが確認できた。 図8 教科書の全デジタル化の要望 6. まとめ デジタル教科書の導入した2015年11月の アンケート調査ではデジタル教科書の機能の 使い方をよく理解していない学生が10%以上 いた。さらにそれらの機能を十分に使ってい ない学生が約30%いた。つまり、全体の約4 0%の学生はこのデジタル教科書の機能を有 効活用できていなかったと言える。しかし、20 16年11月の調査では、ほぼ全員の学生がデ ジタル教科書の機能をほぼ使えるようになり、 デジタル教科書の利便性を享受できた。 現在、学生は従来の紙の教科書を持って いるが、学校では主としてデジタル教科書を 使用している。デジタル教科書の運用初期は 学生のタブレットにむだな写真を保存しすぎる 不適切な利用のためメモリー不足に陥り、ア プリが正常に起動しないなどのトラブルが発 生することがあった。 やがて使いなれてくるにつれ、デジタル教 科書が利用できるまでのアプリ起動時間が長 く感じるようになってくる。学生はデジタル教科 書にやや不満はあるものの、それ以上の利便 性を手に入れることができた。 当初、デジタル教科書の導入は学生の学 習環境の向上を図るためだった。デジタル教 科書には利用ログを取得する機能がある。看 護師国家試験の合格群と不合格群に分類し、 蓄積された利用ログを分析することで学習分 析が可能となった。この結果、国試不合格群 の学習行動を示唆することができた。今回の 学習分析の結果から国試に合格させるための 学習指導の基礎資料を得られることが可能と なる。学生の学習分析にはデジタル教科書導 入は有効ではないかと考える。 7. 参考文献 [1] 学習者用デジタル教科書の制度化,文部科学省 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyou kasho/seido/1407731.htm,2020.4.1 [2] 田中雅章, 看護師養成課程で導入が始まって いる電子書籍サービス, 情報処理, Vol.58.№7, pp.630-633,2017.7 [3] 島田貴史,“慶應義塾大学における電子学術書 利用実験プロジェクト最終報告:既刊書・電子学 術書の学術利用の可能性”,情報管理,vol.55, №5,pp.318-328,2012.8

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