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キャリア初期看護師の職業的一人前度に影響する要因

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Academic year: 2021

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原著

キャリア初期看護師の職業的一人前度に影響する要因

白瀧

美由紀 Miyuki Shirataki

A

,城生

弘美 Hiromi Jono

B

池内 眞弓 Mayumi Ikeuchi

C

A 日本赤十字北海道看護大学 Japanese Red Cross Hokkaido College of Nursing

B 東海大学医学部看護学科

Faculty of Nursing,School of Medicine,Tokai University C 東海大学健康学部健康マネジメント学科

Department of Health Management,School of Health Studies,Tokai University

Factors Influencing the Full-Fledged Employee Degree

in Early Career Nurses

キーワード:キャリア初期看護師,職業的一人前度,経験学習

Key words: early career nurses,full-fledged employee degree,experiential learning

抄 録

本研究の目的は,キャリア初期看護師の職業的一人前度に影響する要因を明らか にし,看護の人材育成のための教育的示唆を得ることである.大学病院1施設に勤 務する 696 名の看護師を対象に,職業的一人前尺度(9 因子,45 項目,5 段階リッカ ート法)と看護師の経験学習のカテゴリー(経験 10 要素,知識・スキル 8 要素)に ついて質問紙調査を実施し,回答が得られた 363 名(回収率 52.2%)のうち,無回 答または誤回答が 1 つもない 322 名(有効回答率 88.7%)の中から,臨床経験 1~5 年の看護師 126 名を分析対象とした.多重ロジスティック回帰分析(変数増加法, 尤度比)の結果,キャリア初期看護師の職業的一人前度に影響する臨床での経験学 習の要素は,経験では,職場での指導的役割,患者の急変・死亡,困難な仕事の達 成・業務の改善,先輩からの指導であった.知識・スキルでは,看護観,メンバーシ ップであった.キャリア初期看護師の職業的一人前度の向上は,難易度の高い経験 から学習した内容と他者との関わりに強く影響されるため,困難な状況の経験を看 護師同士で語り合い,相互作用によって内省的観察を抽象概念化させること,つま り,看護観を醸成する支援が必要であることが示唆された.

Abstract

The purpose of this study is to clarify factors that influence of a full-fledged employee degree of early-career nurses, so as to obtain pedagogical suggestions for human resource development for nursing. A questionnaire survey was conducted with 696 nurses at a

university hospital. The survey used a full-fledged employee scale (consisting of 9 factors and 45 items; rated on a 5-point Likert scale) and a category for experiential learning in nurses (consisting of experience 10 elements and knowledge/skill 8 elements). Of the 363 nurses

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(recovery rate: 52.2%), out of 322 valid responses (valid response rate: 88.7%),126 responses from nurses with 1–5 years of clinical experience were analyzed.

Multiple logistic regression analysis (forward stepwise selection, likelihood ratio) indicated that the elements of experiential learning in clinical settings which affect the full-fledged employee degree of early-career nurses in terms of experience are: the leadership role at workplace, sudden change/death of patient, difficult tasks/improving operations, guidance from senior nurses; and in terms of knowledge/skill are: views on nursing, membership. Results suggest that, since the improvement offull-fledged employee degree of early-career nurses is strongly affected by learning from challenging experiences as well as interaction with others, it is necessary to support nurses to consciously discuss the experiences of difficult situations and foster views on nursing.

Ⅰ.緒言

1990 年代以降,家庭や地域社会での教育力の低下, 学習方法のマニュアル化,情報ツールの発達による人 間関係の変化により,若者の就業意識や組織社会化の 問題が指摘されている(経済産業省,2010,pp.21-27; 高橋ら,2011).看護職も同様の問題を抱え,新人看護 師においては,人間関係構築力の低下,メンタル面の弱 さと自己評価の高さとのアンバランス,専門職意識の 低さなどが報告され(箕浦,高橋,2012,pp.2-5),専 門職として看護実践能力を発揮する以前に,職業人と しての基本的な姿勢・態度を形成することが問われて いる.看護師は生涯学び続ける職業であるため,自ら学 び実践能力を向上させていく必要があるが,看護実践 能力は技術力だけではなく,倫理観や他職種との連携, 看護管理や臨床研究など,多様な要素を含むと言われ ている(高瀬ら,2011).これらの要素を最大限発揮す るためには,キャリア発達のプロセスにおいて,キャリ ア初期から職業人としての職務行動と職務意識を身に つけ,所属する集団から「一人前」と認められることが 重要と考える.Benner(1995,pp.18-19)は一人前の看 護師を,類似した状況で 2~3 年仕事をしている看護師 に代表され,技能レベルの効率性が高まり,統率力や偶 発的な出来事に対処,管理する能力を持つとしている. また,先輩看護師が認識する一人前看護師の能力とし て,その日の管理調整能力,必要なケアの予見力,自律 した看護実践能力,判断力であると報告されているが (亀井ら,2009),これらは,一人前看護師の到達すべ き職務能力を示しており,所属する集団から一人前の 職業人として認められるための職務行動と職務意識に ついては言及されていない. 高橋ら(2011)は,どのような職業でも,仕事をする 上で必要な職務行動と職務意識を獲得していることを 「一人前」と説明しており,一般職業人の職務遂行スキ ル測定用具として,職業的一人前尺度を開発した.職業 的一人前尺度は,一人前行動と一人前意識に関する質 問項目から構成され,その向上は,経験学習に強く規定 されると捉えられている.経験学習は,経験を通じた学 習のプロセスであり(Kolb,1984),さまざまな職業領 域で実践能力の向上に有益であることが示されている (松尾,2010;木村ら,2011;松尾,岡本,2013;三輪, 2013;高橋,2015).臨床経験を通して学び続ける看護 師にとっても,経験学習は,看護実践能力を発揮する上 で必要な職務行動と職務意識を向上させることにつな がると考える.しかし,どのような臨床での経験学習 が,キャリア初期看護師の職業的一人前度の向上につ ながるのかを明らかにした研究は見当たらない. したがって,キャリア初期看護師の職業的一人前度 の向上につながる臨床での経験学習を明らかにするこ

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とは,看護実践能力を発揮する上で必要な職務行動と 職務意識の向上や,人材育成支援に役立つと考えた.

Ⅱ.方法

1.用語の定義

1)キャリア初期看護師

看護師のキャリア発達過程の定義に明確なものはな いが,一つの指標として,Benner(1995,pp.10-27)が, ドレイファスモデルを用いて看護師が臨床技能を修得 していく過程を,初心者,新人,一人前,中堅,達人の 5 段階で示している.その中で,質的な経験の飛躍があ り,状況を全体的に捉えることができるとされる中堅 看護師より以前の看護師を,本研究ではキャリア初期 看護師と定義した.また,単に経験年数だけで規定され るものではないが,松尾ら(2008)のキャリア分類に倣 い,臨床経験 1~5 年をキャリア初期とした.

2)職業的一人前度

高橋ら(2011)は,職業的一人前度について,若手従 業員が到達すべき必要最低限の職務行動と職務意識と しているが,一方で,多くの人に認められる職務行動と 職務意識と説明している.したがって,職種や経験年数 に関わらず,職業人の誰もが到達すべき一人前度を示 す.本研究においては,看護実践能力を発揮する上で必 要な,看護師個々の職務行動と職務意識を職業的一人 前度とした.操作的定義として,職業的一人前尺度を用 いて測定した,職業的一人前度の下位尺度である一人 前行動尺度と一人前意識尺度の得点とした.

3)看護師の経験学習

松尾(2014,p.60)は,経験学習について,直接ある いは間接的な経験をすることによって,既存の知識,ス キル,信念の一部が修正されたり追加されたりする変 化としている.本研究においては,看護師自身が,臨床 において成長につながったと捉えている経験と,そこ から獲得したと捉えている知識・スキルを看護師の経 験学習とした.また,操作的定義として,松尾ら(2008) が明らかにした看護師の経験学習のカテゴリー(経験 10 要素,知識・スキル 8 要素)を,研究者らが測定用 具として構成し,得られた得点とした.

2.研究対象

関東圏にある私立大学付属の 500 床以上の特定機能 病院1施設に勤務する,常勤看護師 696 名に質問紙を 配布し,回答が得られた 363 名(回収率 52.2%)のう ち,無回答または誤回答が 1 つもない 322 名(有効回 答率 88.7%)の中から,臨床経験 1~5 年の看護師 126 名を分析対象とした.なお,経験学習は,経験を通じた 学習のプロセスであるため(Kolb,1984),調査時点で 経験学習の機会が少ないと考えられた,臨床経験 1 年 未満の看護師は除外した.

3.調査内容

1)基本属性

年齢,経験年数,性別,最終専門学歴を質問した.

2)職業的一人前尺度

高橋ら(2011)によって開発された職業的一人前尺度 は,職種や経験年数に関わらず,職業人の誰もが到達す べき一人前度を測定し,一人前行動と一人前意識を見 ることで,個々の一人前度を判断する.職業的一人前尺 度の Cronbach,sα係数は,一人前行動尺度はα=0.8 以 上,一人前意識尺度はα=0.7 以上確保されている.基 準関連妥当性として比較した,社会人基礎力尺度(高 橋,谷,2007)の総得点と各因子の合計値の相関係数は, 一人前行動尺度はr=.520~.668(p<.001),一人前 意識尺度はr=.240~.673(p<.001)である.一人前 行動尺度は,6 因子(24 項目,24~120 点)で構成され ている.「困難克服因子(6 項目,6~30 点)」は,困難 な課題を克服しようとする行動,「積極着手因子(6 項

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目,6~30 点)」は,目標達成に必要な計画や準備を積 極的に進める行動,「自己主張因子(3 項目,3~15 点)」 は,自分の意見を積極的に表明する行動,「要求把握因 子(4 項目,4~20 点)」は,周囲からのニーズを把握す る行動,「協働性因子(3 項目,3~15 点)」は,仲間と 協力し合って仕事や活動を進める行動,「業務見通因子 (2 項目,2~10 点)」は,自分の仕事や活動の完成の 見通しを把握する行動である.一人前行動得点は,これ らの6下位尺度得点の合計である.一人前意識尺度は, 3 因子(21 項目,21~105 点)で構成されている.「職 務有用因子(9 項目,9~45 点)」は,やりたくない仕事 が将来の仕事に役に立つという考え,「自己肯定因子(9 項目,9~45 点)」は,やりたくない仕事が自分の達成 感や喜びにつながるという考え,「承認因子(3 項目, 3~15 点)」は,やりたくない仕事をすることが周囲か らの承認や賞賛につながるという考えである.一人前 意識得点は,これらの 3 下位尺度得点の合計である. 一人前行動と一人前意識の各下位尺度得点は,項目の 回答点の合計である.これらの回答は,「全く当てはま らない:1 点」~「非常によく当てはまる:5 点」の 5 件法で,得点が高いほど職業的一人前度の一人前行動 と一人前意識の度合いが高いと判断する.

3)看護師の経験学習のカテゴリー

経験学習とは,直接あるいは間接的な経験をするこ とによって,既存の知識,スキル,信念の一部が修正さ れたり追加されたりする変化である(松尾,2014,p.60). しかし,松尾ら(2008)は,経験特性とそこから獲得さ れる知識・スキルは必ずしも対応しているとは限らず, 両者を概念的に区分する必要があると述べ,10 年以上 の経験を有する看護師を対象に質問紙調査を行った. そこで,看護師の経験学習を経験と知識・スキルにカテ ゴリー化し,それらを構成する要素を内容分析によっ て抽出した.内容的妥当性は研究者らで協議し,確保さ れている.経験は 10 要素で構成され,「部署・施設の 異動」「患者・家族とのポジティブな関わり」「患者・家 族とのネガティブな関わり」「患者の急変・死亡」「難し い症状を持つ患者・家族の担当」「困難な仕事の達成・ 業務の改善」「先輩からの指導」「職場の同僚との関係」 「職場での指導的役割」「研修・研究活動」である.知 識・スキルは 8 要素で構成され,「基礎的看護技術の習 得」「専門的看護技術の習得」「患者・家族とのコミュニ ケーション能力」「看護観」「死生観」「自己管理能力」 「メンバーシップ」「リーダーシップ」である.これら のカテゴリーの要素をもとに研究者らが,看護師自身 が成長につながったと捉えている経験と,そこから獲 得したと捉えている知識・スキルについての設問と回 答方法を作成した.これらの回答は,「全く当てはまら ない:1 点」~「非常によく当てはまる:5 点」の 5 件 法で,得点が高いほど成長につながった経験や,獲得し た知識・スキルの度合いが高いと判断する.測定用具と して構成することについては,看護の専門家 3 名で協 議を繰り返し,内容的妥当性を確認した.さらに,臨床 経験 5~20 年の研究対象者以外の看護師7 名に対して, 質問の意図が通じるか,回答のしやすさ等について意 見を求め,表面的妥当性を確認した.

4.データ収集方法および期間

対象施設の施設長と看護部長に対して,研究の趣旨 を文書と口頭で説明し,実施許可を得た.各看護単位責 任者には,本研究の目的と意義を文書で説明し,対象看 護師への調査票の配布と,調査票を投函する回収袋の 設置を依頼した.その後,調査書類一式と回収袋を各看 護単位に配布し,回答した調査票は厳封のうえ回収袋 に投函してもらった.2 週間経過した後,回収袋は看護 部内の面談室に設置された回収箱に集積してもらい, 集積されたものを研究者が直接受け取った.データ収 集期間は 2015 年 6 月中旬から下旬であった.

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5.分析方法

対象者の傾向を把握するため,記述統計を実施した. 看護師の職業的一人前度の特徴を把握するため,下位 尺度得点を算出した.さらに,高橋ら(2011)の先行研 究に倣い,一人前行動と一人前意識の各下位尺度得点 を項目数で割った回答点の平均を算出し,一般職業人 と比較した.内的整合性を検討するため,下位尺度の Cronbach,sα 係数を算出した.職業的一人前度に最も 強く影響する経験学習の要素を抽出するため,多重ロ ジスティック回帰分析(変数増加法,尤度比)を実施し た.検定をかけるすべての変数の正規性を検定し,差の 検定と相関係数を算出し独立変数を決定した.一人前 行動は年齢と有意な正相関を認めたという先行研究か ら(高橋ら,2011),年齢,経験年数も投入する独立変 数とした.一人前行動得点と一人前意識得点を中央値 で高得点群と低得点群に分け従属変数とし,オッズ比 と 95%信頼区間を算出した.統計解析には SPSSver.23 for Windows を用い,統計的有意水準は 5%とした.

6.倫理的配慮

本研究は,東海大学健康科学部倫理委員会の承認(承 認番号:第 14-29-1 号)を受けて実施した.調査への 協力は自由意思に基づき回答しなくても不利益を受け ることはないこと,結果は統計的に処理し個人が特定 されることはないこと,調査票およびデータの管理は 厳重に行うことを説明書に明記し,回答をもって同意 とみなした.また,職業的一人前尺度および看護師の経 験学習のカテゴリーは,開発者の許諾を得て使用した.

Ⅲ.結果

1.対象者の特徴

1)基本属性(表 1)

対象者の年齢は 25.0±2.6 歳(平均値±標準偏差) であり,経験年数は 2.9±1.4 年(平均値±標準偏差) であった.

2)キャリア初期看護師の職業的一人前度の

下位尺度得点と信頼性係数(表 2)

キャリア初期看護師の職業的一人前度の下位尺度の 平均得点は,一人前行動得点 73.59,一人前意識得点 68.67 であった.一人前行動と一人前意識の各下位尺度 の回答点の平均は,一人前行動は2.73~3.28の範囲で, 一人前意識は 3.05~3.52 の範囲であった.キャリア初 期看護師の職業的一人前度の Cronbach,sα 係数は,一 人前行動尺度は α=.889,一人前意識尺度は α=.828 であり,ともに高い信頼性が確認された.一人前行動の 各下位尺度は,協働性因子 α=.639,業務見通因子 α =.600 であったが,因子の項目数の影響や,一人前行 動尺度全体の信頼性は 2 つの因子を除外しなくても保 たれているため,本研究では許容できる範囲と判断し た.一人前意識の各下位尺度は α=.846~.902 であ り,高い信頼性が確認された.  年齢 25.0(±2.6)  経験年数 2.9(±1.4) 男性 23(18.3) 女性 103(81.7) 2・3年制看護専門学校卒 18(14.3) 2・3年制看護短期大学卒 49(38.9) 看護大学・大学院卒 59(46.8)  性別  最終専門学歴 表1 回答者の基本属性   n =126 度数(%) 平均(標準偏差)  属性 カテゴリー Cronbach, 係数 24 73.59 31.64 27.41 一人前意識 9 自己肯定 承認 職務有用 9 6  平均値  回答点平均 項目数 3 19.69 19.26 8.18 11.76 9.13 5.56 12.66 積極着手 2 3 .889 2.98 2.31 1.74 .902 3.52 1.15 .828 2.78 5.83 11.29 3.28 3.21 2.73 2.94 .813 要求把握 3.16 2.17 21 .639 .600 3.04 68.67 表2 職業的一人前度の下位尺度得点と信頼性係数           n =126 .731 4 3 困難克服 6 .808 .750 職業的一人前度 一人前行動 協働性 業務見通 自己主張 標準偏差 下位尺度 .846 9.61 .881 3.20 2.51 3.05 5.61

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2.職業的一人前度に影響する要因

1)職業的一人前度と基本属性の差の検定

一人前行動得点,一人前意識得点と基本属性におい て差を認めた項目はなかった.

2)職業的一人前度と経験年数,年齢,経験学習

との相関関係(表 3)

一人前行動得点,一人前意識得点は,経験年数,年 齢とは有意な関連はなかった.一人前行動得点と部署・ 施設の異動を除く経験の要素,すべての知識・スキルの 要素は有意な関連があり(p<.01),弱~中等度の正相 関を認めた(r=.250~.501).一人前意識得点と部署・ 施設の異動を除く経験の要素,すべての知識・スキルの 要素は有意な関連があり(p<.05),弱~中等度の正相 関を認めた(r=.219~.523).

3)職業的一人前度に影響する要因の抽出(表4)

一人前行動得点と一人前意識得点を中央値で高得点 群と低得点群に分け,多重ロジスティック回帰分析(変 数増加法,尤度比)を実施した.なお,一人前行動得点 の中央値は 72,得点範囲は高得点群が 73~108 点(n =61),低得点群が 48~72 点(n=65),一人前意識得 点の中央値は 68,得点範囲は高得点群が 69~104 点(n =68),低得点群が 33~68 点(n=58)とした.多重共 線性を避けるため,投入する変数間の相関係数を確認 し,知識・スキルの要素である,基礎的看護技術の習得 と専門的看護技術の習得の間でr=.838 であったため, 基礎的看護技術の習得は投入する変数から除外した. その結果,一人前行動得点に影響する要因として抽出 された経験の要素は,職場での指導的役割(オッズ比 1.766,p=.015),知識・スキルの要素は,看護観(オ ッズ比 2.211,p=.009),メンバーシップ(オッズ比 2.291,p=.013)であった.一人前意識得点に影響する 要因として抽出された経験の要素は,患者の急変・死亡 (オッズ比 .552,p=.022),困難な仕事の達成・業務 の改善(オッズ比 2.037,p=.032),先輩からの指導(オ ッズ比 2.442,p=.007),知識・スキルの要素は,看護 観(オッズ比 2.968,p=.001)であった.

Ⅳ.考察

1.キャリア初期看護師の職業的一人前度の

特徴について

キャリア初期看護師の一人前行動と一人前意識の各 下位尺度の回答点の平均は,一人前行動 2.73~3.28, 一人前意識 3.05~3.52 であった.高橋ら(2011)の調 査で明らかにされた,一般職業人の一人前行動と一人 前意識の各下位尺度の回答点の平均である,一人前行 動 2.94~3.39,一人前意識 3.29~3.74 と比較すると, 類似した得点範囲にあることが示された.したがって, 職業的一人前度の一人前行動と一人前意識は,キャリ ア初期看護師にとっても一般職業人と同様に,職務遂 行のための職務行動と職務意識であると考えられた. 基本属性 年齢 .114 n.s. -.025 n.s. 経験年数 .168 n.s. -.062 n.s. 経験学習 経験  部署・施設の異動 .160 n.s. -.004 n.s.  患者・家族とのポジティブな関わり .353 ** .432 **  患者・家族とのネガティブな関わり .251 ** .333 **  患者の急変・死亡 .286 ** .222 **  難しい症状を持つ患者・家族の担当 .424 ** .397 **  困難な仕事の達成・業務の改善 .492 ** .511 **  先輩からの指導 .250 ** .407 **  職場の同僚との関係 .325 ** .367 **  職場での指導的役割 .342 ** .239 **  研修・研究活動 .337 ** .219 * 知識・スキル  基礎的看護技術の習得 .278 ** .382 **  専門的看護技術の習得 .330 ** .300 **  患者・家族とのコミュニケーション能力 .358 ** .396 **  看護観 .501 ** .523 **  死生観 .431 ** .433 **  自己管理能力 .432 ** .493 **   メンバーシップ .449 ** .332 **   リーダーシップ .346 ** .248 ** 表3 職業的一人前度と経験年数,年齢,経験学習との相関関係       n=126 n.s.=not significant *:p<.05 **:p<.01 Spearmanの順位相関係数 要因 一人前行動得点 一人前意識得点 職業的一人前度 項目

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2.キャリア初期看護師の職業的一人前度に

影響する経験学習について

キャリア初期看護師の職業的一人前度の向上に影 響する経験の要素は,職場での指導的役割,困難な 仕事の達成・業務の改善,先輩からの指導であっ た.職場での指導的役割,困難な仕事の達成・業務 の改善は,難易度の高い経験であり,専門的知識・ スキル,対人関係能力,問題解決能力,マネジメン ト能力などを向上させる必要がある.松尾(2013, pp.49-53)は,新規性のある課題や困難な課題に取 り組むことは,自分が持っていなかった知識やスキ ルを獲得せざるを得ないと述べている.さらに,自 分の経験だけではなく,上司や先輩のアドバイスが 経験の方向づけや意味づけの助けになり,他者の経 験である間接経験をうまく取り込みながら,直接経 験を積むことで成長につながるとしている.今回の 対象者においても,難易度の高い経験をすることで の自己研鑽や,先輩からの指導を受け止め,自分の 状況に照らし合わせ工夫することで,職業的一人前 度を向上させたと考えられた.一方,キャリア初期 看護師の職業的一人前度の向上に負に影響する経験 の要素として,患者の急変・死亡が抽出された.患 者の急変・死亡により,看護師は悲嘆や後悔,自責 の念を伴うような否定的な感情を抱くとも言われ (西田ら,2011,山谷ら,2011),そのネガティブ な感情の経験が,職業的一人前度の向上に負に影響 したと推察する.キャリア初期看護師の職業的一人 前度の向上に影響する知識・スキルの要素は,看護 観,メンバーシップであった.看護観は,体験と向 き合い,看護に対する考え方が広がることに気づき 形成されていくもので,それを意識した看護実践の 積み重ねにより発展することが示されている(畑 中,伊藤,2016).したがって,今回の対象者も, 看護体験を意識して振り返ることの積み重ねが,職 業的一人前度の向上につながったと考えられた.ま た,メンバーシップは,メンバーの活発な相互作用 によって,知の広がりと深まりが起きると言われて おり(陣田,2013),お互いを尊重しつつ目的に向 かって協働することで,職業的一人前度を向上させ たと推察する.

3.キャリア初期看護師の職業的一人前度を

向上させるための支援について

キャリア初期看護師の職業的一人前度の向上は,職 場での指導的役割,困難な仕事の達成・業務の改善, 先輩からの指導の経験と,看護観,メンバーシップの 知識・スキルを獲得する過程で学習した内容に強く影 響されることが本研究で明らかになった.養護教諭の 場合,一人前意識の高さは必ずしも経験年数を積むほ ど上昇するものではなく,自己教育力が影響すると報 知識・スキル 表4 キャリア初期看護師の職業的一人前度に影響する要因            n =126 Hosmer-Lemeshowの検定:一人前行動 p =.262,一人前意識 p =.516 多重ロジスティック回帰分析(変数増加法 尤度比) 看護観 1.766 .022 .920 .032 下限 職業的一人前度 メンバーシップ 2.037 1.064   一人前行動 経験 職場での指導的役割 1.118 2.291 .552 1.190 .331   一人前意識 看護観 オッズ比 p 値 4.413 3.992 上限 .015 .009 .013 2.791 95%信頼区間 4.662 経験学習(カテゴリー) 経験学習(要素) 知識・スキル 患者の急変・死亡 困難な仕事の達成・業務の改善 1.224 2.211 3.900 .007 判別的中率:一人前行動 76.2%,一人前意識 76.2% 経験 先輩からの指導 2.968 1.536 5.737 .001 2.442 1.278 モデルχ2検定:一人前行動 p <.01,一人前意識 p <.01

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告されている(石田,園田,2016).同様に,キャリア 初期看護師の職業的一人前度を向上させるためには, 経験年数を積み重ねるだけではなく,経験から学ぶ力 を育む必要性があると考える.経験から学ぶ力は他者 との関係性を通して成長し,仕事への思いを醸成して いくと言われている(松尾,2013,pp.122-159).患者 の急変・死亡というネガティブな感情を抱く経験も, 他者に気持ちを話すことや,周囲の働きかけによる体 験を意味づける行動が成長に結びつく可能性が示唆 されており(西田ら,2011,山谷ら,2011),経験を意 識的に語り,周囲の支援によって学びにつなげていく ことが重要である.また,高橋(2010)は,具体的経験, 内省的観察,抽象的概念化,積極的実験の経験学習サ イクル(Kolb,1984)を回すたびに,抽象概念化が必 ずしも行われているとは限らないと指摘し,経験者に よる内省的観察の支援が必要であると述べている.し たがって,キャリア初期看護師の職業的一人前度を向 上させるためには,職務上生じる困難な状況の経験に 対峙すること,その経験を看護師同士で語り合い,仲 間や先輩看護師との相互作用によって内省的観察を 抽象概念化させること,つまり,看護観を醸成するた めの支援が必要であることが示唆された.

Ⅴ.本研究の限界と課題

本研究の対象は,研究協力が得られた私立大学付属 病院 1 施設の看護師であったため,今後はさらに対象 者数を増やし一般化していく必要がある.また,看護 師の経験学習のカテゴリーの要素は,10 年以上の経験 を有する看護師という限られた対象から得られた結 果であること,これらの要素を測定用具にするにあた り,統計的な信頼性,妥当性は確保されていないこと から,看護師の経験学習の測定用具として一般化する ことには限界がある.さらに,本研究における職業的 一人前度と経験学習の評価は看護師の主観に委ねら れているため,客観的評価の検討が必要である.

Ⅵ.結論

1.キャリア初期看護師の職業的一人前度に影響する 臨床での経験学習の要素は,経験では,職場での指 導的役割,患者の急変・死亡,困難な仕事の達成・ 業務の改善,先輩からの指導であった.知識・スキ ルでは,看護観,メンバーシップであった. 2.キャリア初期看護師の職業的一人前度の向上は,難 易度の高い経験から学習した内容と他者との関わ りに強く影響されるため,職務上生じる困難な状況 の経験に対峙し,その経験を看護師同士で語り合い, 仲間や先輩看護師との相互作用によって内省的観 察を抽象概念化させること,つまり,看護観を醸成 する支援が必要であることが示唆された.

引用文献

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参照

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