機械学習を用いた掘削土砂の時系列変形予測モデルの構築
全文
(2) 作. 368. 祐 輝. 逢 澤 正 憲. 大 井. 健. 石 上 玄 也. 法を提案する.本手法により,掘削計画における従来のシミュ レーション計算処理や時間のコストを削減しつつも高い検証精 度を保持し,より多くの試行が可能となる.また,それによりオ ンボードでの土砂形状変化予測や予測結果を用いた掘削軌道の 再計画などに応用でき,最終的に作業効率の向上が期待できる. 本稿ではまずブルドージング実験による本提案手法の実行可 能性検証の必要性を述べたのち,作成する学習モデルの構造の 概要を述べる.次に,実験により取得したデータを用いて土砂 変形予測モデルを構築したのち,その評価および考察を行うと ともに,バケットによる掘削時の土砂変形予測モデル構築に向 (a) Snapshot of the testbed. けた展望を述べる.. 2. ブルドージング実験の意義 本研究の最終的な目標は,バケットを用いた掘削実験を行い その前後の土砂変形を予測する学習モデルを作成することであ る.しかし,本研究を進めるにあたり直接掘削による土砂変形 予測モデルの構築に取り組むのではなく,学習モデルフレーム ワークの検討のため,初めに平板を用いたブルドージング実験 を行い,その土砂変形を予測する学習モデルを作成する.つま り,本研究は以下のように分けられ,本稿では Phase 1 および. Phase 2 について述べる. Phase 1: 平板を用いたブルドージング実験を行い,土砂形状 データを複数のステレオカメラで取得する. (b) Schematic view of the testbed. Phase 2: Phase 1 で取得したデータを用い学習用データセッ. Fig. 1 Overview of the testbed. トを作成する.さらに,土砂変形予測モデルを作成すると ともに,モデルの評価を行う.. Phase 3: バケットを用いた掘削実験を行い,土砂形状データ を取得する.. Phase 4: Phase 3 で取得したデータと Phase 2 において得 た知見をもとに,予測モデルを作成し評価を行う. ブルドージング実験は掘削実験に比べ土砂変形現象が単純で. (a) d = 10 [mm]. (b) d = 20 [mm]. (c) d = 30 [mm]. Fig. 2 Depth images of soil deformation. あり,またこれまでの研究によりその定性的・定量的な現象解 明が進められてきた [7].また,掘削を行った場合,平板よりも 複雑な形状を持つバケット部を取得データから除去する必要が. グ実験を行った.なお,平板の幅は 195 [mm] であり,各条件に. あり,さらに接触機械内部において砂の二次的な流動が発生す. おける実験中の平板の移動速度は 100 [mm/s] として一定とし. るため,ブルドージングよりも複雑化してしまう.以上の理由. た.また,実験開始時の土砂平面は整地装置により一様なもの. より,ブルドージング実験による学習モデルを作成することで,. とした.Fig. 1 (b) に示されている FDC-2 の鉛直下方向に対す. 本提案手法の実行可能性を明らかにした後,掘削実験による学. る傾きは θf = 5.8◦ とした.ここで,各沈下量 d において得ら. 習モデル構築に取り組むこととする.ただし,本稿では平板を. れた一連の深度データを時系列データ Dd とよぶこととする.. 用いたブルドージング実験において,平板の前方の土砂変形の. 3. 2 実験結果. みに注目しその予測モデルを構築する.. 各実験で取得したデータのうち,d = 10, 20, 30 [mm] のとき の深度データをヒートマップとして Fig. 2 に示す.各図にお. 3. ブルドージング実験. いて平板の進行方向はそれぞれ下方向であり,青色が低く赤色. 3. 1 実験方法. が高いことを表している.なお,本稿に示されたヒートマップ. ブルドージング実験は Fig. 1 (a) に示すように,著者らの研. の色付けはすべて,各データ内において相対的に行われている.. で同実験装置は珪砂 5 号(平均粒径 0.51 [mm])で満たされてい. Fig. 2 より,平板の沈下量 d が大きくなるほど砂の盛り上がり が大きく拡大していく様子が観察できた.これらの d の違いに. る.Fig. 1 (b) は実験装置を真横から見たときの概略図である.. よる土砂形状変化の差異は,学習を行うのに十分な特徴を有し. 究グループが所有する実験装置に平板を取り付け行った.ここ. 平板の前方には三つのデプスカメラ(Intel RealSense D435). ていると考えられるため,d を 10 [mm] 刻みで変化させ実験を. が,後方には一つのデプスカメラが設置されており,これらの. 行うことは適当であると言える.さらに,一定時間経過すると. うち同図中に FDC-2 と示されたデプスカメラを用いて平板前. 砂の変形が収束していく様子が実験より観察できた.. 方の深度データを取得した. 平板が土砂内に侵入している深さを沈下量 d [mm] とし,d を. 10∼60 [mm] まで 10 [mm] 刻みで変化させ,それぞれの場合で x 軸方向に 1,000 [mm] 平行移動させることによりブルドージン. JRSJ Vol. 39 No. 4. —82—. 4. 土砂変形予測モデルの構築 4. 1 データセット作成 取得したデータを用いて学習用データセットを作成する.こ. May, 2021.
(3) 機械学習を用いた掘削土砂の時系列変形予測モデルの構築. 369. Fig. 4 Relationship between height field data and matrix data for machine learning. Fig. 3 Height field data of soil deformation. こで d = 30 [mm] のときのデータを例とし,データセット作成 の流れを述べる.まず実験により取得した土砂変形に関する深 度データを点群データに変換したのち,ボクセルフィルタを用い てダウンサンプリングを行い,最後に 5 行 5 列のハイトフィー ルドへと変換した(Fig. 3) .以上を Dd の全フレームに適用す るとともに,Dd が含むフレーム数を土砂変形開始から終了まで の 200 フレーム分(1 フレームは約 0.06 秒相当)に統一した. なお本稿におけるハイトフィールドとは,点群データの x − y. (a) General SP(k = 1). 平面を任意のグリッドサイズに分割し,各グリッドに含まれる. (b) SPSTF(k > 1). Fig. 5 Flowchart of sequential prediction of soil deformation. データの z 座標の平均値を算出し抽出したものである.よって ハイトフィールド変換後の x および y 座標は無次元の値であ り,z 座標はデプスカメラから土砂表面までの距離を負の値と して表し,単位は mm となっている. 機械学習にはこのハイトフィールド,つまり 5 行 5 列の行 列データを用いることとし,行番号を m,列番号を n とした. 各時系列データ Dd における i 番めのフレームの行列データを. Z i とすると,. ⎡. z11 ⎢ . ⎢ Z i = ⎣ .. z51. ... .. . .... ⎤ z15 .. ⎥ ⎥ . ⎦ z55. 中央の要素 z53 に注目し,定性的・定量的な評価および考察を 行うこととする. 予測結果を示す前に,高精度な予測を目的とした補習フレー ム(Supplementary Training Frame,以下 STF)の導入につ いて述べる.LSTM を用いた時系列予測を行う場合,あるタイ ムステップにおける予測結果を次のタイムステップの予測のた めの入力に用いる手法(Sequential prediction,以下 SP)が一 般的に利用されている.本研究においては Fig. 5 (a) に示した. (1). ように,初期のフレーム Z 1 のみを入力とし,その後の時間発展. ˆ i は逐次的に予測される.しかし,ブルドージング実験におい Z. となり,時系列データ Dd は,. Dd = [Z 1 , Z 2 , ..., Z i , ..., Z 200 ]. トを行った.ここで,本稿では最も数値の変化が大きい 5 行め. てカメラの z 軸方向の位置は一定であるため,取得された全時 系列データの初期のデータ Z 1 は沈下量 d によらずほぼ等しい. (2). 値を有している.そのため,Fig. 5 (a) のように予測を行った場 と表すことができる.また,行列データとハイトフィールドと してプロットされた 三次元グラフの関係は,Fig. 4 に示した. 合,入力に用いた時系列データ Dd によらずほぼ一定の予測結 果を示してしまうことが予想される.これを解消すべく導入し. ようになっている.同図より,平板から最も遠い行を 1 行めと. たものが STF を用いた SP(SP with STF,以下 SPSTF)で. し,平板の進行方向に対し一番左の列を 1 列めと定義した.. あり,任意の自然数 k を用いて STF に用いるフレーム数を定. 4. 2 予測モデルの構築. 義する.初期のフレーム Z 1 から k 番めのフレーム Z k の範. 作成したデータセットを用いて予測モデルを構築した.使用. 囲の各時系列データを予測テストの入力データとして利用する. する時系列データ Dd が持つ行列データはどれも 5 行 5 列. (Fig. 5 (b)).STF の範囲では SP のように出力を次の入力と. (m = 5, n = 5)であり,予測モデル構築のための訓練データ. して利用するのではなく,常に真値を入力データとして予測を. に D10 , D30 , D50 を用いた.モデルの中間層には再帰型ニュー. 行っている.これにより 1 ≤ i ≤ k の範囲において,Fig. 5 (a). ラルネットワーク(RNN)の拡張系である LSTM を用いた.. よりも誤差の小さい状態へとネットワークを更新していくこと. なお,Fig. 4 に示したように予測モデルは行ごとに作成され,1. ができ,沈下量 d の違いによる土砂形状変化の大きさを予測モ. 行めの予測モデルを Model 1,5 行めを Model 5 とよぶこと. デルに把握させることができると考えた.. とする.よって,各予測モデルにおける入出力の形式は 1 行 5. 4. 4 評価および考察 D20 , D40 , D60 について,k を変化させ予測テストを行った 結果のグラフを Fig. 6 に示す.同図の縦軸は z53 の数値を,横 軸はフレーム番号 i を示しており,黒色の実線が真値 D40 を, 黒色の破線が Fig. 5 (a) で示したような SP(k = 1)を行った ˆ 40 を,その他が各 k の条件下における予測テ ときの出力値 D. 列の行列データとなっており,パラメータチューニングは各モ デルにおいてそれぞれ独立して行われている.. 4. 3 予測モデルの評価概要および補習フレームの導入 構築した予測モデルの精度評価のためのテストデータとして, 未学習のデータセットである D20 , D40 , D60 を用いて予測テス. 日本ロボット学会誌 39 巻 4 号. —83—. 2021 年 5 月.
(4) 作. 370. 祐 輝. (a) d = 20 [mm]. 逢 澤 正 憲. 大 井. 健. 石 上 玄 也. (b) d = 40 [mm]. (c) d = 60 [mm]. Fig. 6 Result of SP and SPSTF for soil deformation with different plate sinkage Table 1 RMSE of prediction results k 1 10 30 50. RMSE Ed E20 E40 8.54 10.3 16.2 4.94 11.9 2.62 8.23 —. するフレーム数が 200 フレーム(約 12 秒分)であることから, およそ 1.8 秒分の実測値でその 5.7 倍に相当する 10.2 秒分の. [mm] E60 20.7 14.1 5.28 —. 時間発展を予測することができたと言える.実際に土木作業現 場において利用する際には,ブルドージングや掘削による実測 値を必要とすることなく,計画された掘削軌道やそこから算出 された制御パラメータなどから土砂形状の変化を予測し出力す るモデルが求められると考えられる.しかし,本稿で示したよ. ˆ 40 を表している.また,各沈下量における真値 ストの出力値 D ˆ Dd と予測値 Dd の Root Mean Squared Error(以下 RMSE). うな初期に少量の実測値を必要とするような予測モデルであっ. を Ed と定義し,k を変化させたときの Ed をそれぞれ示した. ことで,土砂形状変化の開始から終了までのすべてを DEM に. ものが Table 1 である.Fig. 6 (b) および Fig. 6 (c) では,k. よるシミュレーションから取得した場合に比べ,大きく計算処. を増加させることで予測結果が真値に近づいており,予測精度. 理や時間のコストを削減できることも期待できる.. ても,予測に必要な入力データを DEM により取得し利用する. が向上していることが定性的に確認できた.さらに,Table 1. 5. 結. より k を増加させることで E40 および E60 が減少しているこ とから,定量的にも予測精度が向上していることが確認できた.. 言. 本稿では掘削時の作業効率向上の必要性を述べるとともに,. また,このような予測精度の向上は z53 以外の要素(平板の幅. 機械学習を用いた土砂変形の予測手法を提案した.その第 1 段. 方向)についてもほぼ同様の結果が得られることが確認された.. 階としてブルドージング実験を実施し,LSTM を利用した予測. しかし,d = 20 [mm] のときのデータに関する結果(Fig. 6 (a)). モデルを構築したのち,予測テストにより予測モデルの評価を. を見ると,k = 1 のときに比べ k = 10 で一旦精度が悪化し,. 行った.その結果,高精度な土砂変形予測を達成することがで. その後 k = 50 において k = 1 のときの予測精度を上回る結果. き,同時に本提案手法の実行可能性を確認することができた.. になっていることが分かる.この様子は Table 1 における E20. 今後,本研究の知見をもとに,バケット掘削における土砂変. の変化からも確認できる.. 形予測モデルの構築に発展していく予定である.この際,STF. また,各実験条件下における土砂形状変形の形態は,時間と. に用いるべき適切なフレーム数と掘削形態との関係の明確化,. ともに徐々に砂が盛り上がり最終的に一定値に収束するという. 本学習モデルを多様な土砂へ適用する際の実行可能性について. 一次遅れ系の傾向で一致しているが,その中でも D10 および. も検討していく.. D20 はほかのデータに比べ砂の盛り上がる速さが緩やかであり, 予測を実行するためにはやや変化に乏しい可能性があることが 実験より確認されていた.そのため 10 ≤ k ≤ 30 の範囲では. STF が十分な役割を果たすことができず,D30 や D40 に近い 結果が出力されたと考えられる.つまり,d = 20 [mm] におけ るこの予測精度と RMSE の悪化は,予測モデルの訓練に用い たデータのうち,D20 に似た傾向を示すデータが D10 のみであ り,変化の特徴がやや乏しいうえに訓練データが不十分であっ たために,構築された予測モデルが D20 に十分対応できなかっ たことが原因であると考えられる. 本研究にて提案した STF の有用性について D40 を例に挙げ ると,STF として k = 30 ほどまでの実測値が取得できれば, その後の土砂形状変化の時間発展を高精度に予測可能であると 言える.この 30 フレーム分のデータが全体のデータに対しど の程度のものなのかを時間に注目して考察する.1 フレーム当 たりは約 0.06 秒相当であることから,k = 30 にかかる時間は. 参 考 文 献 [ 1 ] 伊藤禎宣,ほか:“無人化施工において遠隔操作の映像環境が作業効率 へ与える影響について”,土木学会論文集 F3(土木情報学),vol.73, no.1, pp.15–24, 2017. [ 2 ] 山元弘,ほか:“動作計画と制御に 3 次元情報を用いた自律油圧ショ ベルプロトタイプの開発”,計測自動制御学会論文集,vol.48, no.8, pp.488–497, 2012. [ 3 ] 茂木正晴,ほか:“油圧ショベルの自律掘削技術の開発”,土木技術資 料,vol.51, no.6, pp.22–25, 2009. [ 4 ] 安本善征,ほか:“土砂の浚渫と投入過程を考慮した 3 次元海浜変形予測 モデル”,土木学会論文集 B2(海岸工学) ,vol.71, no.2, pp.787–792, 2015. [ 5 ] 吉田達哉,ほか:“油圧ショベルの掘削作業における効率向上の検討”, 日本機械学会論文集(C 編) ,vol.78, no.789, pp.1596–1606, 2012. [ 6 ] 長谷川一登,ほか:“機械学習を用いた円柱周り流れのレイノルズ数 依存性の予測”,日本流体力学会,vol.38, pp.81–84, 2019. [ 7 ] G. Ishigami: Terramechanics-based Analysis and Control for Lunar/Planetary Exploration Robots, Tohoku University, Ph.D. thesis, 2008.. 約 1.8 秒であることが分かる.これと時系列データ D40 が有. JRSJ Vol. 39 No. 4. —84—. May, 2021.
(5)
図
関連したドキュメント
1) 境有紀 他:建物被害率の予測を目的とした地震動の 破壊力指標の提案、日本建築学会構造系論文集、第 555 号、pp.85-91、2002. al : Prediction of Damage to
These analysis methods are applied to pre- dicting cutting error caused by thermal expansion and compression in machine tools.. The input variables are reduced from 32 points to
In deformation changes including step-like discontinuities, techniques using a laser beam of single wavelength cannot measure the deformation amounts.. Because the deformation
GoI token passing fixed graph.. B’ham.). Interaction abstract
Theorem A.1. The dynamic GoI machine simulates the call-by-need storeless abstract machine [Danvy & Zerny ’13] in linear cost, i.e. Reversible, irreversible and optimal
1-1 睡眠習慣データの基礎集計 ……… p.4-p.9 1-2 学習習慣データの基礎集計 ……… p.10-p.12 1-3 デジタル機器の活用習慣データの基礎集計………
Finally, coupling the structure subsystem and aerodynamic subsystem represented by the SVM-based ROM, the aeroelastic response can be predicted according to the virtual line loop in
子どもの学習従事時間を Fig.1 に示した。BL 期には学習への注意喚起が 2 回あり,強 化子があっても学習従事時間が 30