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表題部所有者不明土地適正化法の入会地へのインパクトと求められる探索的調査
高村学人*・山下詠子** 表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化法は、字名義地や所有権登記なき記名共有地等の変則型登記の解消を 目指すものであり、入会林野の土地に甚大な影響を与える。本稿前半では、このインパクト推計のため3 つの集計を 行った。1)昭和 49 年全国入会慣行調査の集計から 2 割程度の入会地で所有権登記がないこと、2)2000 年の世界農 林業センサスの慣行共有事業体調査から字名義地が多く含まれるムラ・旧市区町村名義が入会林野の所有名義として 最も割合が高く、全県に存在すること、3)全国の地方法務局で既に探索が開始された表題部所有者不明土地の公示 情報から山林・原野等の地目の割合が25.8%を占めることがわかった。1966 年に制定された入会林野近代化法は、 変則型登記の解消も目的としていたが、期待された効果を発揮できず、その整備実績は低迷が続いているため、今後、 表題部所有者不明土地適正化法の実施を通じて入会地の所有名義の変則解消が進む恐れがある。そのため、本稿後半 では、地方法務局で表題部所有者不明土地適正化法を実施する主任登記官が入会権に関連しうる土地の探索調査や更 正登記をどのような認識のもとで行っているのか、の全国アンケート調査の案を各県庁の入会林野近代化法担当者へ の調査、各市町村の認可地縁団体担当者への調査の案と併せて提示した。 キーワード:入会権、所有者不明土地、変則型登記、慣行共有、認可地縁団体 1. 表題部所有者不明土地適正化法とは何か 1.1 はじめに 入会権は、民法で認められた物権であるが、登 記できない。この矛盾につき、中尾英俊は、登記 は形式にすぎず、大事なのは、入会慣行の実質で あるから、「入会林野の登記にそれほどこだわる 必要はありません」1)と説明してきた。確かに入 会慣行に基づく林野利用が活発な時代は、そこに 尊重すべき慣習があることは、誰の目にも明らか であり2)、登記名義と入会権とのずれや登記名義 の変則は、さほど問題にならなかった3)。しかし、 入会林野の利用が低下し、共有知識としての慣習 が曖昧になってくると、村人達も慣習より登記名 義を重視するようになっていく 4)。この現象は、 社会秩序の法化5)と呼ぶことができるが、昨今の 所有者不明土地問題の隆盛は、登記上の名義を重 視する傾向にさらに拍車をかけることになった。 所有者不明土地問題を背景に2019 年 5 月に制 定された表題部所有者不明土地の登記及び管理 の適正化法(以下、表題部所有者不明土地適正化 法)は、入会慣行に由来する土地に多い字名義地、 所有権登記なき記名共有地を所有者不明土地と 位置づけ、その登記上の変則解消を目指すものと なっている。しかし、この法律は、入会や入会権 という言葉を使わず、登記上の名義からのみ問題 にアプローチするため、入会権を無視する形で法 実施が進む恐れがある。そこで本稿前半では、こ の表題部所有者不明土地適正化法の実施が入会 由来の土地にどのようなインパクトを与えるか、 を既存の統計調査に基づき推計する。後半では、 どのような探索的調査が入会由来の土地の現状 把握のため求められるか、をスケッチする。 1.2 表題部所有者不明土地適正化法と入会権と の関連 まずは、表題部所有者不明土地適正化法が入会 由来の土地にどのように関連してくるか、を説明 していく。既に別稿 6)で詳しく論じているため、 ここでは、その問題の要点を記す。 この法律の制定背景となったのは、所有者不明 土地問題であり、「持ち主がわからない土地が九 州の面積を超えている」とした東京財団の報告書 では、入会林野の全面積が所有者不明土地にカウ ントされている7)。法務省は、2017 年に全国 50 万筆の土地をサンプル調査し、その内、約1%の 土地が登記情報における所有者欄の記載が変則 であるゆえ、登記情報から所有者を特定すること ができない所有者不明土地であるとした8)。3 登記情報は、権利の客体(土地や建物)を同定 する表題部とその客体に対する権利の主体(所有 権者や他の物権の権利者)を示す権利部の二つか ら構成されているが、権利部に何も記載されてお らず、表題部のみとなっているものもある。これ がこの法律が対象とする変則型登記の土地であ り、その解消を地方法務局の登記官が中心となっ てはかっていくのがこの法律の狙いである。 この変則型登記には、①表題部の所有者欄に所 有者の氏名は記載されているが住所がないもの、 ②表題部所有者欄に○○外何名となっている記 名共有地型のもの、③表題部所有者欄が字名義に なっているもの、の3 つがある。入会由来の土地 には、②、③の場合が多いことは、入会権を研究 している者にとっては、自明であり、①も場合に よっては代表者名義で地券を受けた入会地であ る可能性がある。 しかし、表題部所有者不明土地適正化法には、 入会という言葉は使われておらず、法務省民事局 が各地方法務局に示した「表題部所有者不明土地 の解消に係る実施要領を策定するための準備的 作業手順書」9)(以下、準備的作業手順書)でも、 ③の字名義地の場合にのみ、入会総有である可能 性を想定しているに過ぎない。 もちろん変則の解消を登記官の職権で行うに 先立ち、所有者の探索調査が土地家屋調査士等を 探索委員に選任する形で行われ、調査では、当該 土地の占有者・関係者からの聞き取り調査、史料 調査も行うことが登記官宛の準備的作業手順書 で指示されており、所有者の探索を行うべき土地 の選定に際しても慣習等の地域の実情を知る者 が減少する地域を優先することが基準として掲 げられている10)。 しかし、自然集落(村民)による入会総有が認 められる要件としては、市町村長による管理慣行 証明書の発行など、入会林野近代化法に基づく入 会慣行の証明よりも高いハードルが設定されて おり、部落会有のものには、ポツダム政令を適用 するとし、戦後に個人分割がなされていなかった ことが判明すれば、この政令に基づき市町村有と なるといった指針が準備的作業手順書で示され ている。 さらに入会総有が仮に認められた場合でも変 則を解消した後の所有権登記においては、①通常 の共有のように全共有者の持ち分を登記するか、 ②権利能力なき社団として代表者名義で登記す るか、の2 つの道しか予定しておらず、理論的に ①と②の中間に位置する入会集団の団体性を登 記に反映できない形となっている。 以上の問題点があるため、次にこの法律の実施 が入会地にいかなるインパクトを及ぼしそうか、 を既存の統計・資料から推計することにした。 2. 入会地へのインパクトの推計―既存の統計・ 資料から 2.1 前提としての入会林野近代化法の到達点 まずは、1966 年に制定された入会林野近代化 法の到達点を確認しておこう11)。入会林野近代化 法は、入会権という慣習上の権利を近代的な権利 へと転換するだけでなく、入会地の登記名義の変 則解消も都道府県知事の嘱託登記という形で目 指すものであった(法14 条)。しかし、近代化法 に基づく入会林野の近代化が活発に行われたの は、図1 に示されるように法施行から 20 年位の 間であり、平成に入ってからは、整備実績は、低 迷し続けている。今日まで整備できた入会地の総 面積は、法制定時の入会林野の総面積の四分の一 程度に留まる。 ただし、近年でも整備実績は、ゼロとはなって いない。その背景は、定かではないが、国土交通 省が作成した「所有者の所在の把握が難しい土地」 に関する利活用方法のガイドライン12)では、入会 由来の土地を公共事業のため取得するには、入会 林野近代化法を用いて土地所有の名義や権利関 係を明確化する方法も示されており、そういった 理由から近代化法が適用される事例があること を推測させる13)。 入会林野整備事業の実績と、整備未実施で残存 する入会林野の面積は次のように把握されてい る。まず、入会林野近代化法が施行された1966
4 図1 入会林野近代化法による入会林野整備件数の推移(昭和 42 年度〜令和元年度) 出典:林野庁『森林・林業統計要覧』、縦軸は件数、横軸は年度 年時点の入会林野の面積は、山林142 万 ha、原 野43 万 ha で、合計 185 万 ha とされている14)。 一方、1966 年から 2018 年にかけての入会林野整 備の実績は、入会林野近代化法による整備が 58 万ha であるのに対して、これによらない自主整 備が31 万 ha と把握されている。合計で 89 万 ha の入会林野が整備されたことになるため、1966 年時点の185 万 ha からこれを引くと 96 万 ha の 入会林野が残存する計算となる。ただし、林野庁 経営課が把握している入会林野整備意思確認調 査での残面積は45 万 ha にとどまっている15)。 なお、1960 年から 2000 年までの世界農林業セ ンサス(以下、センサス)における慣行共有の総面 積16)を見ていくと、1960 年 157.2 万町歩、1970 年134.3 万町歩、1980 年 117.6 万町歩、1990 年 114.2 万町歩、2000 年 105.5 万町歩となってお り、1960 年から 2000 年にかけて 51.7 万町歩が 減少している。2000 年センサスの 105.5 万 ha と 入会林野整備事業の実績から算出された残面積 96 万 ha はそれほど大きな開きのない数字であ り、約100 万 ha の入会林野が現在も存在すると 考えられる。 2.2 昭和 49 年全国入会慣行調査から見る入会地 の変則型登記 ところで入会林野近代化法の整備実績に関す る資料・統計には、整備前の土地の登記がどのよ うな状態であったか、までは示されていない。そ のため近代化法の実施が変則型登記の解消にど の程度、寄与したか、が定かではない。他方で近 代化法を推進するための基礎研究として黒木三 郎、熊谷開作、中尾英俊が林野庁からの委託調査 として1974 年に実施した全国山林原野入会慣行 調査17)では、調査対象となった入会地の登記の内 容が詳しく調査されている。ここでは、その調査 記録から入会林野の土地登記の状態を再集計し、 入会由来の土地がどの程度、表題部所有者不明土 地適正化法が対象とする変則型登記であるか、を 推計することとしたい18)。 同調査では、調査対象となった入会林野の土地 に所有権登記がなされているか、表題部のみの登 記で所有権登記のない変則型登記となっている か、を調査している。図2 は、それを所有名義別19) にクロス集計したものである。「項目記入なし」と なっているのは、この調査項目が空欄になってお り、所有権登記があるのかないのか、調査記録か らはっきりしないものを指す。これに基づけば、 全体の 18.2%が所有権登記のない変則型登記と なっており、特に名義が字・部落・区である場合 は、表題部のみの変則型登記となっている割合が 半数近くと高くなっている。また記名共有や代表 者名義においても表題部のみのものが 1 割程度 あり、表題部所有者不明土地適正化法による変則 解消の対象となるケースが多く存在することが わかる。 また同調査では、初めて所有権登記された年も 調査している。この年を昭和49 年調査時の所有 名義も示す形でヒストグラムとして描いたもの 13 229 304 344 408 443 403 514 336 371 299 243 220 244 215 285 214 183 152 169 125 109 102 73 63 62 66 41 51 55 39 38 29 25 25 26 28 21 20 22 17 10 15 13 12 12 1 7 16 8 5 9 13 0 100 200 300 400 500 600 S42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 H元 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 R 元
5 図2 昭和 49 年全国入会慣行調査における入会地の所有権登記の有無(名義区分別) 出典:黒木他編(1975)を元に筆者らが作成 図3 昭和 49 年全国入会慣行調査の対象入会地に所有権登記が初めて行われた年 出典:図2 と同じ が図3 である。これに基づけば、多くの入会地で 所有権登記が初めて なされ たのは、地券発行 (1872 年〜)や官民有区分(1876 年〜)の実施、 登記法(1886 年制定)、不動産登記法(1899 年制 定)の施行等が行われた明治期ではなく、①部落 有林野統一が推進された大正期、②ポツダム政令 に基づき部落会が解散となった戦後直後、③国有 林野整備臨時措置法(1951 年)に基づき払い下げ が行われた時期、④昭和の大合併(1953 年〜)が 実施された時期に初めて所有権登記されており、 83.8% 83.8% 80.8% 86.6% 38.8% 81.9% 80.7% 80.0% 74.4% 8.3% 11.4% 19.2% 11.0% 46.0% 7.2% 15.5% 0.0% 18.2% 7.8% 4.8% 0.0% 2.4% 15.2% 10.8% 3.7% 20.0% 7.4% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 代表者名義(n=204) 記名共有(n=587) 社寺(n=26) 各種組合 ・法人(n=82) 字・部落・区(n=289) 財産区(n=83) 市町村(n=161) 国・都道府県(n=5) 合計(n=1437) 所有権登記あり 表題部のみ 項目記入なし
6 その際の形態としては、記名共有が最も多かった ことがわかる。今後、各調査対象事例の詳しい史 料分析が必要であるが、このヒストグラムに示さ れた傾向は、もともと字名義等の変則型登記であ った入会地が部落有林野統一により公有財産と されてしまうことへの抵抗運動を背景に記名共 有による所有権登記が進んだケースが多いこと20)、 昭和の大合併の際も旧村名義や財産区名義の入 会地が新市町村の財産となってしまうことを避 けるために所有権登記が行われた可能性がある ことを推測させる。またポツダム政令が入会地の 名義や個別分割も含めた所有形態に与えた影響、 国有林野整備臨時措置法による薪炭利用の慣行 があった林野の払い下げの規模や影響 21)も併せ て研究する必要があることを示唆する。 これらの実証研究とは別に次の論点について の法学的研究も必要となる。すなわち、今日でも 入会権が成立している字名義地には、表題部所有 者不明土地適正化法の適用ではなく、入会権に基 づく所有権確認および所有権移転登記請求の訴 訟の提起22)、不動産登記法33 条 1 項に基づく表 題部所有者についての更正登記の申請23)、市町村 長の嘱託登記に基づく表題部所有者の変更とい った手段24)も可能性として存在し、これらの手段 が入会権を擁護し、良い形での登記を実現する上 でより優れていないか、を実践的に検討する必要 がある。 2.3 慣行共有事業体のセンサス調査からみる入 会の名義と変則型登記 次に、1960 年センサスの慣行共有編と 2000 年 のそれとの比較から、全国の入会林野の名義がど のようになっているのか見ていく。センサスは 1960 年から 10 年おきに実施されてきており、 2000 年までのセンサスでは林業事業体調査にお いて、「慣行共有」というカテゴリーによって入会 林野を把握していた。しかし、2005 年以降は調査 体系が大きく変わり、慣行共有の区分は廃止され た。 ここでは、入会林野の登記名義の全体像を把握 するために、まずは最も古い1960 年センサス25) を見ていく。入会林野は現在も多数残るものの、 時代とともに村々入会から一村入会へ、一村入会 から個人有へと分割され、解体していく傾向にあ る。このような解体は一般的には不可逆的な変化 となるため、入会林野の全体像を知るには歴史を 遡って見ることが必要になる。加えて、センサス の調査対象客体は、新しい調査になるほど狭まっ てきており、調査から漏れ落ちる事例が増えてき ている。1960 年センサスでは、「所有山林または 所有山林以外の保有山林の面積(合計)が1 反歩 以上」を調査対象としたが、1970 年センサスでは 「保有山林面積(合計)が1 反歩以上」となり、 1980 年と 1990 年は「保有山林のいずれかの筆が 1 反歩以上」へと調査対象の下限面積が上げられ、 さらに、2000 年センサスでは「保有山林面積が 1 町歩以上」へと大きく引き上げられた。よって、 調査対象の下限面積の引き上げにより、捕捉対象 が減った影響も考慮する必要がある。 1960 年の慣行共有の総事業体数は 110,430 で あり26)、保有山林が1 反歩以上の事業体 109,909 の合計保有山林面積は 1,579,737 町歩であった。 名義区分別の事業体数は、多いものから順に、共 有51,313(50.8%)、社寺 21,563(21.3%)、字 (区)17,722(17.5%)、個人 2,992(3.0%)、団 体 2,779(2.7%)、組合 2,093(2.1%)、財産区 2,046(2.0%)、旧市町村 526(0.5%)、会社 56 (0.1%)となっている。上位 3 つ、すなわち共 有、社寺、字(区)の名義で全体の約9 割(89.6%) を占める。その後、回を経る度に、慣行共有の総 事業体数、合計保有山林面積ともに減少を続けて きている。慣行共有に対する最後の調査となった 2000 年センサスでは、慣行共有の総事業体数は 34,029、合計保有山林面積は 1,054,688ha にまで 落ち込んだ。 1960 年と同様に、2000 年センサスにおける名 義区分別の事業体数を見ると、ムラ・旧市区町村 が最多で14,349、共同(個人含む)が 10,271、 各種団体・組合が4,038、社寺が 3,552、財産区が 1,749、そして会社が 70 となっている。
7 図4 各年センサスにおける名義区分別の慣行共有事業体数 出典:世界農林業センサス、横軸は事業体数 全ての年においてムラ・旧市区町村か共有が最 も多く、次いで社寺や各種団体がそれらに次いで いる。1960 年から 1970 年にかけて事業体数は大 きく減少しているが、その後は1970 年から 1980 年にかけて、また1990 年から 2000 年にかけて の減少は、調査対象となる下限面積が引き上げら れて捕捉対象が減った影響も考えられる。1960 年から1970 年にかけての減少は、入会林野整備 事業によって、あるいは自主的に解体すなわち個 人分割等を行ったことが考えられる。 次に、名義区分別に保有山林面積規模を見てい く。表1 に示したように、面積規模が最も小さい のは、1960 年センサスで名義別で全体の 2 割を 占める社寺である。1 町未満で社寺全体の 6 割、 5 町歩未満で 9 割を占めてしまうほど、小規模な ものが多い。慣行共有の社寺は、社寺境内の森林 だけでなく社寺の名義を借りた林野も存在した とも考えられるが、それでも小規模なものが大部 分を占めることがわかる。次に、全体の5 割を占 める共有と個人は似たような傾向を示し、どちら もやはり小規模である。1 町未満で全体の約 45% を占め、5 町歩未満で全体の 3/4 を占める。次に 小規模なものとしては、字(区)、団体、組合がほ ぼ似たような傾向を示している。これらは3 町歩 未満で約6 割を占め、5~20 町歩が全体の約 2 割 ある。次に規模が大きいのは財産区で、10 町歩以 上が 54%を占める。旧市区町村はさらに規模が 大きく、50 町歩以上が約 6 割を占めている。以 上より、個人・共有、社寺、字(区)は小規模な 森林が多く、1 町歩未満のものが過半数を占める ことからも、1980 年、また 2000 年に調査対象の 保有山林面積が引き上げられた際に調査対象外 となり、これらのセンサスで捕捉されていない可 能性がある。特に2000 年センサスでは捕捉され ていない可能性が高い。また、1966 年からの入会 林野整備事業では、整備対象となる入会林野の面 積の目安として10 町歩という基準が設けられて いた。そのため、10 町歩に満たないものは入会林 野整備事業の対象から漏れ落ちている可能性も ある。ただし、これらの漏れ落ちた小規模の森林 であっても所有権登記がない場合、表題部所有者 不明土地適正化法の対象地となりうる。 このセンサスの慣行共有事業体調査での名義 区分であるムラ・旧市区町村の中には、表題部所 有者不明土地適正化法が解消しようとする字名 義地が多いため、表2 では、この名義区分が 2000 年センサス慣行共有事業体の総数の中で占める 割合を都道府県別に集計した27)。慣行共有の全事 3,552 9,802 10,107 12,378 21,563 10,271 18,297 19,291 24,275 54,305 14,349 24,250 25,950 32,557 18,248 0 20,000 40,000 60,000 80,000 100,000 120,000 2000 1990 1980 1970 1960 会社 社寺 共同(個人含む) 各種団体・組合 ムラ・旧市区町村 財産区
8 表1 1960 年センサス慣行共有事業体における名義別の面積規模分布 注:左は実数、右は%。最も割合の高い面積規模を網掛にした。 出典: 1960 年世界農林業センサス 表2 ムラ・旧市区町村(≒字名義)名義が 2000 年慣行共有事業体の中で占める比率(県別) 出典:2000 年世界農林業センサス(N=34,029) の組み替え集計による 業体のうち42.2%がこの名義区分となっており、 鹿児島県が64.6%で最も比率が高く、三重県、佐 賀県、沖縄県がそれに続いた。また全県でこの名 義区分が1 割以上、存在することもわかった。そ のため、表題部所有者不明土地適正化法の実施に おいて字名義地の解消から先に推進しようとす る方針が取られた場合、入会に由来する土地への 影響は、全県で大きくなることが推測される。 3. 表題部所有者不明土地適正化法に基づき探索 調査が開始された土地の集計 ここでは、我々が独自に収集したデータに基づ き、2019 年 5 月に制定され、同年 11 月から施行 された表題部所有者不明土地適正化法に基づく 各地方法務局での表題部所有者不明土地の探索 調査がどのように進展しており、入会林野にどの 程度関係しそうか、を分析していく。各地方法務 局は、HP を通じて所有者探索を開始した土地を 公示している。この公示された情報の集計・分析 をここで行っていく。 まず前提として所有者を探索すべき土地の選 定が各地方法務局でどのように行われているか、 を説明する。法施行に伴い、2019 年度から各都道 府県の地方法務局に対して毎年60 筆程度の表題 部所有者不明土地の探索調査を行うための予算 所有面積 合計 1反未満 58 1.9 0 0.0 80 0.4 937 1.8 108 3.7 19 0.9 398 2.2 17 3.1 1 0.0 8,819 1~3反 553 18.1 13 23.2 5,947 27.5 10,489 20.1 442 15.3 240 11.4 2,845 15.7 30 5.5 39 1.9 20,598 3~5反 329 10.8 3 5.4 2,965 13.7 5,456 10.4 225 7.8 157 7.4 1,406 7.8 18 3.3 36 1.8 10,595 5反~1町 459 15.0 6 10.7 3,848 17.8 7,404 14.2 342 11.8 186 8.8 1,998 11.0 31 5.7 52 2.5 14,326 1~3町 682 22.4 11 19.6 4,909 22.7 11,588 22.2 567 19.6 341 16.1 3,430 18.9 60 11.0 118 5.8 21,706 3~5町 249 8.2 1 1.8 1,434 6.6 4,188 8.0 241 8.3 179 8.5 1,524 8.4 38 7.0 61 3.0 7,915 5~10町 258 8.5 5 8.9 1,256 5.8 4,514 8.6 280 9.7 238 11.3 1,839 10.1 55 10.1 122 6.0 8,567 10~20町 197 6.5 5 8.9 651 3.0 3,289 6.3 215 7.4 237 11.2 1,635 9.0 76 14.0 141 6.9 6,446 20~30町 88 2.9 1 1.8 200 0.9 1,344 2.6 128 4.4 135 6.4 818 4.5 37 6.8 117 5.7 2,868 30~50町 68 2.2 4 7.1 180 0.8 1,247 2.4 95 3.3 113 5.4 810 4.5 55 10.1 177 8.6 2,749 50~100町 61 2.0 4 7.1 101 0.5 1,002 1.9 107 3.7 115 5.4 759 4.2 68 12.5 301 14.7 2,518 100~200町 33 1.1 1 1.8 48 0.2 454 0.9 63 2.2 75 3.6 377 2.1 32 5.9 299 14.6 1,382 200~500町 12 0.4 2 3.6 17 0.1 243 0.5 50 1.7 48 2.3 220 1.2 18 3.3 310 15.1 920 500町〜 3 0.1 0 0.0 7 0.0 95 0.2 24 0.8 29 1.4 61 0.3 8 1.5 273 13.3 500 合計 3,050 100.0 56 100.0 21,643 100.0 52,250 100.0 2,887 100.0 2,112 100.0 18,120 100.0 543 100.0 2,047 100.0 109,909 字(区) 財産区 旧市区町村 個人 会社 社寺 共有 団体 組合 1位 鹿児島 64.6% 25位 静岡 39.4% 2位 三重 61.2% 26位 栃木 39.2% 3位 佐賀 60.6% 27位 鳥取 38.9% 4位 沖縄 58.5% 28位 山形 38.6% 5位 新潟 56.6% 29位 宮崎 38.2% 6位 熊本 55.7% 30位 東京 37.5% 7位 福岡 54.0% 31位 愛知 37.2% 8位 山口 52.8% 32位 岐阜 35.8% 9位 徳島 50.9% 33位 島根 33.7% 10位 秋田 50.4% 34位 石川 26.6% 11位 岡山 50.0% 35位 福井 26.6% 12位 兵庫 49.7% 36位 宮城 25.8% 13位 奈良 48.5% 37位 富山 25.5% 14位 大阪 48.0% 38位 青森 25.3% 15位 高知 46.0% 39位 福島 24.4% 16位 山梨 45.5% 40位 香川 24.0% 17位 和歌山 45.1% 41位 北海道 22.4% 18位 滋賀 44.2% 42位 茨城 19.2% 19位 大分 43.2% 43位 埼玉 17.8% 20位 千葉 43.0% 44位 岩手 17.7% 21位 長崎 43.0% 45位 広島 17.4% 22位 愛媛 42.0% 46位 神奈川 15.4% 23位 京都 40.4% 47位 群馬 12.9% 24位 長野 40.2% 全国 42.2%
9 が措置されることになった。優先して所有者を探 索すべき土地の選定基準としては、①災害リスク やまちづくりの必要性、②地域の実情を知る者が 乏しくなる地域、③不明地が集積している地域と いった基準が通達28)で示されている。 実際の手順としては、地方法務局本局の登記官 から県や市町村に対してこの法の対象とする表 題部所有者不明土地につき優先的に探索して欲 しい土地があれば要望するようにとの伝達がな され、多くの場合、総務課等が中心となって庁内 の各課に対して探索を希望する土地があるかを 照会し、それらを集約したものを地方法務局本局 に回答する形が取られている。 最終的には、地方法務局が所有者を探索すべき 土地を決定し、探索を開始した土地については、 当該土地の①地目、②所在事項(地番)、③地積(面 積)の3 項目を HP を通じて公示する。よって公 示されている情報からは、それが字名義地である か、などの変則型登記の3 種類の内、どれに該当 するかは、わからない。また入会権は、登記でき ない物権であるため、当該土地が入会に由来する か、も公示されている情報からはわからない。よ って以下では、公示されている情報から地目毎の 筆数や面積を集計するに過ぎない。入会林野の地 目としては、山林、原野、牧野、保安林が多いた め、これらの地目が探索が開始された土地の内、 どの程度の割合なのか、を分析することで入会林 野への影響可能性を推計するのがここでの目的 である。 各地方法務局が所有者探索を開始した土地の 公示情報を収集したのは、2020 年 7 月 28 日〜同 年8 月 2 日までの間であり、その時点で合計 9,420 筆(805.4ha)の土地が探索の対象となっていた。 コロナウィルスの感染拡大の影響があるものの、 全ての県で探索が開始されており、平均すると県 あたり約200 筆の土地の探索を開始していた。 図5 表題部所有者不明地として探索調査が開始 された土地の地目別の筆数(N=9,420) 出典:全地方法務局の公示情報を集計 図6 探索調査が開始された土地の地目別の合計 面積 出典:図5 と同じ、横軸単位は 100m2 576 1561 856 24 16 1 50 1437 3 855 2432 102 5 91 378 151 10 140 465 1 221 45 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 田 畑 宅地 学校用地 鉄道用地 鉱泉地 池沼 山林 牧場 原野 墓地 境内地 水道用地 用悪水路 ため池 堤 井溝 保安林 公衆用道路 公園 雑種地 不明 1575 5161 1999 149 19 0 65 37395 232 12076 6104 981 6 127 5668 211 6 5789 1458 1 1369 149 0 10000 20000 30000 40000 田 畑 宅地 学校用地 鉄道用地 鉱泉地 池沼 山林 牧場 原野 墓地 境内地 水道用地 用悪水路 ため池 堤 井溝 保安林 公衆用道路 公園 雑種地 不明
10 全国で探索対象となった土地を地目別に集計 したのが図5 である。筆数で見ると墓地が最も多 く、畑がそれに続き、山林は3 位に留まる。図 6 では、探索対象となった土地の面積を地目別に集 計した。面積で見ると山林が圧倒的に大きな割合 を占め、原野がそれに続く。 地目の種類は、23 種類もあるため、これを中括 りとし、入会林野の地目として多い山林・保安林・ 原野・牧野を一つの区分として総筆数に占める割 合を図7 で集計した。これに基づけば、山林・保 安林・原野・牧野の区分が全体の25.8%を占める が、ここでも地目別の筆数でみると墓地・境内地 の方がこれよりやや多い。 また表3 では、都道府県別にこの山林・保安林・ 原野・牧野の区分が探索対象の土地の中で占める 割合を計算し、割合が高い県から並べた。これに よれば、長野県が67.7%と最も高い割合となり、 首都圏では、この割合が当然ながら低い結果とな った。 もちろん法に基づく所有者探索は、まだ始まっ たばかりであり、山林・原野等の多くが入会に由 来する土地なのか、どうかは、個別に調査しない とわからないことである。率直なところ、墓地、 田畑、ため池等の地目の割合が集計前の予想より も高かった。しかし、これらの土地も村落共同体 の共同支配に服していたため変則型登記となっ た可能性もあり、入会林野に視野を限定せず、こ れらの土地についても適切な探索調査、更正登記 がなされているか、を吟味していく必要がある。 いずれにせよ表題部所有者不明土地適正化法に 基づく所有者の探索、特定、更正登記がどのよう に行われ、そこに地域コミュニティがどの程度関 与できているのか、の実態調査が急務となろう。 4. 求められる探索的調査 4.1 表題部所有者不明土地適正化法の実施状況 ―地方法務局への調査 それでは、表題部所有者不明土地適正化法の実 施が入会林野に大きなインパクトを与えてしま う現状に対してどのような調査を行い、入会林野 図7 地目を中括りにした探索開始地の筆数 の比率 凡例 ① 山林・保安林・牧野・原野 、② ため池・用 悪水路・堤・井溝・鉱泉地・池沼、③ 田・畑、④ 墓地・ 境内地、⑤ 学校用地、鉄道用地、運河用地、水道用地、 公衆用道路、公園、⑥ 宅地 、⑦ その他(雑種地・不 明) 出典:図5 と同じ 表3 ①山林・原野等の地目が探索開始地で 占める比率(県別) 出典:図5 と同じ ①山林・原野・ 牧野, 25.8% ②ため池等水利, 7.2% ③田畑, 22.7% ④墓地・境内地, 26.9% ⑤公共用地, 5.4% ⑥宅地, 9.1% ⑦その他, 2.8% 1位 長野県 67.7% 25位 山梨県 22.1% 2位 秋田県 57.7% 26位 岩手県 21.8% 3位 香川県 52.1% 27位 青森県 19.6% 4位 鳥取県 47.8% 28位 熊本県 19.6% 5位 三重県 46.4% 29位 兵庫県 19.3% 6位 静岡県 46.2% 30位 山口県 19.0% 7位 山形県 46.0% 31位 宮城県 17.3% 8位 島根県 45.5% 32位 和歌山県 16.7% 9位 鹿児島県 42.9% 33位 佐賀県 16.6% 10位 福島県 42.6% 34位 大阪府 15.8% 11位 千葉県 40.6% 35位 茨城県 14.7% 12位 沖縄県 40.1% 36位 長崎県 14.4% 13位 富山県 33.7% 37位 大分県 14.1% 14位 栃木県 33.0% 38位 石川県 13.8% 15位 福井県 31.4% 39位 福岡県 13.5% 16位 徳島県 28.8% 40位 埼玉県 12.2% 17位 滋賀県 28.6% 41位 東京都 11.9% 18位 北海道 28.4% 42位 岡山県 10.1% 19位 新潟県 26.4% 43位 神奈川県 8.8% 20位 奈良県 26.1% 44位 岐阜県 8.4% 21位 群馬県 23.8% 45位 愛媛県 7.4% 22位 宮崎県 23.7% 46位 高知県 5.5% 23位 京都府 23.6% 47位 愛知県 3.4% 24位 広島県 23.6% 全国 25.8%
11 のあるべき登記のあり方をそれに基づき方向づ けていくべきだろうか。以下では表題部所有者不 明土地適正化法の実施状況やその対象となりう る入会林野の近年の動きを知るために、1)地方法 務局の主任登記官、2)都道府県の入会林野近代化 法担当者、3)市町村の認可地縁団体担当課を対象 に行うアンケート調査の案を提示していくこと にしたい。 まずは、表題部所有者不明土地適正化法を実施 する地方法務局へのアンケート調査の案を、実施 した予備調査の内容を記した上で説明する。 全国の地方法務局へのアンケート調査に先立 つ予備調査として、2020 年 9 月に、長野、秋田、 高松、鳥取、横浜の各地方法務局に電話およびメ ール等を用いて下記の項目について照会した。表 3 において探索開始地の地目として山林・原野等 の割合が高いことから、長野、秋田、高松、鳥取 の地方法務局を、逆に割合が低いことから横浜地 方法務局を選定した。予備調査では、(1)探索開 始地の選定方法、(2)探索開始地における変則型 タイプ(①所有者の氏名のみで住所がない、②記 名共有地/○○外何名の登記、③字名義地)の内 訳、(3)字名義の土地での探索作業の実際につい て問い合わせた。 (1)と(3)については、法務省民事局民事第 二課による準備的作業手順書に基づいて選定し、 同作業手順書の規定に基づいた探索作業を行っ ているとのことであった。一方(2)については、 5 つの地方法務局のうち、横浜と長野の地方法務 局から、探索開始地における変則型タイプの内訳 の情報を得ることができた。横浜地方法務局では、 探索対象の169 筆のうち、「氏名のみ(1 名単有)」 が130 筆、記名共有(ただし、持分までは書かれ ていないものもある)が27 筆、「○○外何名」で 「外何名」の名簿がない記名共有地が12 筆であ った。字持地は0 筆だった。外何名の部分は、数 十名から多いと 300 名にも上るとのことであっ た。なお、地目は墓地がほとんどであった。一方、 長野地方法務局では、探索対象の167 筆のうち、 氏名のみ(1 名単有)が 15 筆、記名共有/○○外 何名が5 筆、字持地が 147 筆と、大部分が字持地 であった。横浜地方法務局では字名義が0 に対し て、長野地方法務局では約9 割が字名義と、地域 により変則型タイプの内訳は大きく異なること が推測できる結果となった。 以上の予備調査の結果と表題部所有者不明土 地適正化法の内容を踏まえ、次のような調査項目 を全国の地方法務局にアンケートという形で実 施すべきと考えた。 <アンケート調査内容案> ―地方公共団体から探索の要望のあった地域の 数、要望を出した市町村の割合、県の課名 ―探索の要望の今後の増加の見通 ―探索すべき地域の選定基準 ―不明地の集積度、地域の実情を知る者、森林の 整備の基準の優先度 ―探索を開始した土地における字名義地や記名 共有地の比率 ―任命された所有者等探索委員の資格 ―探索を開始した字名義地や記名共有地等で入 会と思われる土地があったか否か ―ポツダム政令の適用が集落による入会地管理 が存続している場合にも相応しいと思うか否か ―古老・自治会長への聞き取り調査がどのような 場面で実施されているか ―所有者を特定できない旨を登記した事例の数 ―法人でない社団等に属することが判明したが、 登記すべき者が特定できずと登記した事例の数 4.2 入会林野近代化法の状況―都道府県林務課 への調査 次に、表題部所有者不明土地適正化法と同様に 変則型登記を解消しうる方法として、入会林野整 備事業と認可地縁団体制度に着目し、これらの活 用状況を把握するための調査案について述べて いく。まずは、都道府県の林務担当部署の入会林 野整備事業担当課を対象にした調査である。先述 のように、近年の入会林野整備事業の導入実績は 全国で年間10 件前後と低調である。しかし、公
12 共事業のための用地取得などを理由に権利が複 雑化した登記を整備する必要性はあり、入会林野 近代化法に基づく入会林野整備によりこれを解 決する団体が一定数あると推測される。そこで、 以下の調査項目について都道府県の林務担当部 署に対してアンケート調査を行い、入会林野整備 事業の現状と未整備入会林野に対して表題部所 有者不明土地適正化法が与えうる影響を明らか にしたい。 <アンケート調査内容案> ―入会林野整備目標数や計画の策定状況 ―整備目標数を定めた場合は、その理由(選択形 式) ―整備目標数や計画を策定していない場合は、そ の理由(選択形式)。 ―この 5 年間での入会林野整備事業の導入実績 数と打ち切り件数 ―実績がある場合は、その経緯(選択形式) ―整備事業の打ち切りとなった事例があればそ の理由(選択形式) ―未整備入会集団への意思確認調査の実施方法 ―未整備入会林野における森林経営管理制度の 導入について ―2017 年の森林組合法改正に基づく生産森林組 合から認可地縁団体への組織変更の実績 ―2015 年の地方自治法改正による認可地縁団体 の不動産登記特例の導入状況 ―表題部所有者不明土地適正化法についての認 識・検討状況 4.3 認可地縁団体制度の状況―市町村総務課へ の調査 最後に、認可地縁団体制度に関わる調査案につ いて述べる。「地縁による団体」の認可制度は、 1991 年に施行された地方自治法の一部改正(第 260 条の 2)により創設された。一定の要件を満 たした地縁団体が、市町村長の認可により法人格 を取得でき、不動産等の登記名義人になることが できる制度である。総務省によると認可地縁団体 の数は 2002 年には 22,050 団体、2008 年には 35,564 団体、2018 年には 51,030 団体と増加し 続けてきており、地縁団体の総数 276,652 団体 (2018 年)の 18.4%に上る29)。認可地縁団体が 所有する不動産等の登記名義は、認可を受ける前 は代表者名義や共有名義となっていたものが多 かったが、名義変更にあたっては代表者や共有者 の登記名義人・相続人全員の承諾を得る必要があ ることから、多額の費用や労力を要するケースや 制度の活用が困難なケースが少なくなかった。そ れに対して、2015 年に地方自治法一部改正によ り認可地縁団体の登記特例制度が設けられ、認可 地縁団体が所有する土地の所有権の保存又は移 転登記を行おうとする場合、登記申請書に当該特 例制度を受けるための要件全てを満たしている ことを市町村が証明した書類を添付することで、 登記名義人・相続人全員の承諾を得ることなく認 可地縁団体名義で登記することが可能になった。 本特例の活用状況としては、2015~2017 年度の 3 ヶ年において合計 854 団体の申請があり、同期 間中に認可を受けた団体の 21.4%が特例申請を したことになる30)。そのため記名共有等の所有名 義となっている入会林野もこの特例を通じて認 可地縁団体への移行が進んでいる可能性が高い。 総務省は、本制度の創設から現在までに 4~6 年に一度の間隔で本制度の状況等に関する調査 を行っている。その中には認可地縁団体の保有資 産の内容を問う質問も含まれる。具体的には、土 地の所有権と賃借権、また立木の所有権・立木の 抵当権という選択肢が含まれているが、保有資産 に森林がどの程度含まれるかはわからない。 また、総務省の調査では、不動産の名義を認可 地縁団体に変更する前の登記名義についても調 査されている。これによると、2013~2017 年度 の合計で見ると、全体の45.6%が複数の個人名義 から変更、28.1%が単独の個人名義から変更とな っており、全体の7 割が代表者名義または共有名 義から変更していることがわかる。次に多いのは、 単独の地方公共団体名義からの変更が11.1%、単 独の法人名義から変更が 9.5%と続いている。認
13 可地縁団体の多くは代表者名義や共有名義だっ た土地の権利関係を整理するために同制度を活 用していることがわかる。 そこで今後、総務省調査では明らかにされてい ない以下の項目について、市町村の総務担当部署 に対してアンケート調査を行い、認可地縁団体制 度と入会林野との関係について明らかにしたい。 <アンケート調査内容案> ―認可地縁団体の保有資産目録において森林(山 林・原野・保安林等の土地および立木)を持つ 団体の数 ―認可地縁団体が森林を保有することにかかわ る対応(自治体としての指導等があるか) ―認可地縁団体の不動産登記にかかる特例制度 の活用状況 ―複数の個人名義から認可地縁団体名義へと変 更した際の名義人の人数 5. 最後に 本稿で論じたことを振り返った上で必要とな る研究課題を最後に記すことにしたい。表題部所 有者不明土地適正化法の実施は、地域住民の要望 を出発点として進むのではなく、地方法務局との 窓口となる総務課が中心となって探索対象地の 要望がまとめられるため、固定資産税が課税され てない土地の課税適正化、コンプライアンス向上 を重視して推進される可能性がある。 入会に由来する土地には、字・部落・区の名義 だけでなく、代表者名義や記名共有名義のものに も所有権登記がない表題部のみの土地が多い。入 会林野近代化法は、このような変則型登記の解消 も目的の一つとしていたが、実際には、期待され た成果を挙げることができず、全国各地に表題部 所有者不明土地適正化法の対象となってしまう 入会地が多く存在する。表題部所有者不明土地適 正化法の実施マニュアルである準備的作業手順 書では、入会権が認められる要件を入会林野近代 化法よりも狭く設定しており、字名義地には、ポ ツダム政令を適用することで市町村有地とする 指針を基本においている。コロナウィルスの感染 拡大のため地域の慣習を知る者への聞き取り調 査もなされずに事務機械処理的に変則解消の目 標値を達成することが志向された場合、入会権の 存在が知られぬ間に公有地化が一気に拡大する 恐れがある。 表題部所有者不明土地適正化法に基づき所有 者探索が開始された土地についての公示情報か らは、山林・原野等の入会林野に関係しそうな土 地の割合は多いが、同時に墓地、農地の畦道、水 利関係の土地など村落の支配に属していた可能 性が高い土地の割合も高いことがわかった。これ らの土地も含む形で入会権論の射程を広げつつ、 諸法の規定も参照しながら、表題部所有者不明土 地適正化法の実施が法的に適切なものか、他によ り適切な手段がないか、を調査に基づき批判的に 考察していく必要があろう。 入会集団の権利関係の相談の窓口となってき た各都道府県の入会林野担当の課には、大きくわ けて4 つの選択肢があることになる。第一は、入 会権を温存させたまま必要な法的パッチワーク を行うことであり、第二は、従来通りの入会林野 近代化法の適用による整備であり、第三は、4.3 で 見た不動産登記特例も用いた認可地縁団体化へ の誘導であり、第四は、表題部所有者不明土地適 正化法に基づく探索対象地として地方法務局に リクエストすることである。いずれの選択肢にも 課題があるが、第三と第四の選択肢が所有者不明 土地問題を背景に新たに生じ、それが別の部門に より推進されつつあるという認識を林務関係者 もしっかりと持つことが肝要である。この新状況 につき都道府県の入会林野担当者がどのように 考えているのか、4.2 で示した調査から明らかに し、それに基づき本研究会が各県の担当者にどの ような専門的なアドバイスを提供できるのか、を 真剣に考えていく必要があろう。 いずれにせよ、従来の入会権論は、登記の問題 を回避してきたが、それではいけない状況になっ ている31)。そのような認識32)のもと、入会権論を バージョンアップすることを期待したい。
14 注 1)中尾英俊(2003)『入会林野の法律問題 新装版』勁 草書房79 頁. 2)戒能通孝は、入会権の対抗要件は、農民が鎌をもっ て山野に立ち入る入会的労働行為それ自体に求めら れるとし、「毎朝三時か四時に起き、耕作の仕事を始 める前に、草刈にいく農民の姿をみ、声をきくことは 可能である」から、入会権があることは誰の眼にもみ えるとした。(戒能通孝(1956)『民法学概論』日本評 論新社83 頁および 97 頁以下)。 3)入会慣行が「生ける法」として存在した時代の入会 権論の理論構成を今日再検討する必要については、高 村学人(2017)「過少利用時代からの入会権論再読― 実証分析に向けた覚書」『土地総合研究』25 巻 2 号 40 ~68 頁で論じた。 4)このような傾向は、日本に限らず、林野に対する慣 習的権利の登記化を国家が推進するようになったイ ンドネシア等の発展途上国の村落構成員の法意識に おいても観察されている(van Maiji, Toon and von Benda-Beckmann, Franz (eds.) (1999) Property Rights and Economic Development - Land and Natural Resources in Southeast Asia and Oceania, Kegan Paul International, von Benda-Beckmann, F., von Benda-Beckmann, K., & Wiber, M. (eds.) (2009) Changing properties of property. Berghahn Books.)。 また古積健三郎(2021)「入会権の変容と今日的課題 ―登記の問題について」亘理格・内海麻利編『縮退の 時代の「管理型」都市計画』第一法規178~192 頁は、 入会権が成立する土地であっても登記の問題は、今日 無視できないという立場から入会権者による登記請 求権の可能性やその形態につき検討を行っている。 5)六本佳平(1986)『法社会学』有斐閣. 6)高村学人(2020)「所有者不明土地問題と入会権―表 題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化法の実 施に求められること」『入会林野研究』40 号 5~20 頁. 7)東京財団(2014)『国土の不明化・死蔵化の危機―失 われる国土III』東京財団政策研究所 12 頁. 8)村松秀樹・佐藤丈宜・有本祥子(2019)「「表題部所 有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律」 の概要」『NBL』1155 号 4~12 頁. 9)法務省民事局(2019)「表題部所有者不明土地の解消 に係る実施要領を策定するための準備的作業手順書」. 10)法務省民事局第二課・令和元年 10 月 17 日通達(253 号)「表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化 に関する法律第3 条第 1 項に基づく所有者等の探索 の対象地域の選定基準について」. 11)入会林野近代化法への法学者の関与やスタンスに ついては、矢野達雄(2017)「入会林野近代化法の五 十年と研究者の軌跡」『修道法学』40 巻 1 号 1~23 頁 が総括を行っている。 12)所有者の所在の把握が難しい土地への対応方策に 関する検討会(2016)『所有者の所在の把握が難しい 土地に関する探索・利活用のためのガイドライン+事 例集』大成出版社. 13)京都府農林水産部林業振興課の入会林野近代化法 を担当する職員に対して2020 年 12 月 21 日に行った 聞き取り調査(高村学人が実施)でも実際に入会林野 近代化法を用いる場面があるとすれば、公共事業に伴 う用地取得等の関連で土地の権利関係や所有名義を はっきりさせる必要が出てきた場合などではないか、 との回答を得た。 14)林野庁経営課(2019)「令和元年度 入会林野コンサ ルタント中央会議資料」より。なお同資料には、「山 林」は1960 年世界農林業センサスを、「原野」は昭和 30 年公有林野調査の数値を根拠にしている、とある。 15)同上. 16)農林省統計調査部(1962)『1960 年世界農林業セ ンサス 林業調査報告書―慣行共有編』農林省と志賀 和人(2002)「山林保有と森林経営―林業事業体調査 の分析」餅田浩之編『日本林業の構造的変化と再編過 程―2000 年林業センサス分析』82~155 頁を参照。 17)黒木三郎・熊谷開作・中尾英俊編(1975)『昭和49 年 全国山林原野入会慣行調査』青甲社. 18)同上に収録されている全調査事例のデータ化は、金 澤悠介(立命館大学)が行い、金澤からデータ提供を 受ける形で高村学人が登記に関する調査項目を再分 類し、集計を行った。金澤らの入会慣行への理論的な 関心は、林雅秀・金澤悠介(2014)「コモンズ問題の 現代的変容―社会的ジレンマをこえて」『理論と方法』 29 巻 2 号 241~259 頁にまとめられている。 19)一つの入会集団でも入会地が筆毎にさまざまな名 義で登記されている場合があり、同調査では複数の名 義が記載されている事例も多い。ここでは、この項目 で先に挙げられている名義の種類の方がより大きい 面積であると仮定し、先頭名義の種類に基づきクロス 集計した。
15 20)福島正夫・潮見俊隆・渡辺洋三編(1966)『林野入 会権の本質と様相』東京大学出版会83 頁以下では、 岐阜県では部落有林野統一への抵抗が強く、大字や区 などの部落有名義の入会地につき町村長を被告とす る所有権確認および所有権移転登記手続請求を求め る訴訟が多くおこされ、多くの町村長は、このような 訴訟に対してすぐに和解することを選択したため、入 会地の所有権名義の記名共有化が進んだと記されて いる。北條浩(2002)『部落・部落有財産と近代化』 御茶の水書房122 頁でも簡単な記述であるが、「部落 が部落有林野の統一を承諾する前提として、大部分の 林野を部落民に分割したり売却したりしたあとの一 部林野を市・町・村に編入する」事例があったとして いる。部落有林野統一という公有地化と林地統合をは かろうとした事業が逆説的に森林所有権の多数共有 者化、細分化というアンチ・コモンズの悲劇をもたら した可能性があるのは、今日から見て興味深い。 21)林野庁調査課編(1956)『国有林野整備臨時措置法 (法律第247 号)に基く国有林野整備の顛末』林野共 済会がこの点につき詳細な報告を行っていることを 確認できたが、詳しい検討は別の機会としたい。 22)古積・前掲注 4 は、このような可能性を拓こうとし ている。福島他・前掲注20 では、そのような訴訟が 部落有林野統一が推進された時期に多く行われたこ とを示している。 23)山野目章夫(2018)『ストーリーに学ぶ 所有者不明 土地の論点』商事法務184 頁は、不動産登記法 33 条 に基づき、「大字を表題部所有者とする表題登記のみ がなされている場合においては、その大字の所属する 市町村の承諾を得て、その土地を所有する住民らが、 表題部所有者の更正の登記を申請することができる と解されます」としている。 24)また同上 183 頁によれば、地域の住民らが共有す る土地について誤って大字が登記名義人とされてい る場合、その市町村の長は、この登記の抹消を嘱託す ることができることが法務省民事局長の昭和32 年 2 月25 日民甲 372 号の回答でも示されているとしてい る。 25)農林省統計調査部・前掲注 16. 26)調査対象外であった沖縄と、該当数がゼロだった北 海道を除く。 27)農林水産省統計部センサス統計室から科研費研究 17K03335 および 20H00057 に基づき提供をうけた 2000 年世界農林業センサスの林家以外の林業事業体 調査票の個票データを用い、センサスの調査票調査が なされていない事業体も含む客体データ(保有面積 1ha 以上)につき組み替え集計を行った。 28)法務省民事局・前掲注 10. 29)美馬拡人(2019)「「地縁による団体の認可事務の状 況等に関する調査結果」について」『住民行政の窓』 468 号 45~62 頁. 30)同上. 31)本号掲載の鈴木龍也(2021)「権利能力なき社団た る入会―総有権の確認および移転登記等を請求する 訴訟をめぐって」『入会林野研究』41 号も入会集団が 登記を請求する訴訟を提起する可能性を検討してい る。 32)過少利用の時代から中尾英俊に代表される従来の 入会権論を再検討する高村・前掲注3 には、中尾説を 支持する小川竹一(2020)「入会権制度改革論の検討」 『地域研究』(沖縄大学)25 号 29~41 頁から強い批 判がある。本稿が論じた新状況や登記名義の問題につ き、従来の入会権論からどのような法的解決や法的実 践が導かれるか、を提示する続稿も期待したい。 (*立命館大学, **東京農業大学) (受理2021 年 2 月 25 日)