―論 文― Vol. 8, pp. 23—30, 2009
仮想ポテンシャル場を用いた人工衛星の相対軌道計画法に関する研究
∗
1Relative Trajectory Design for Spacecraft
using Virtual Potential Field
永 井 将 貴∗2,∗3・中 須 賀 真 一∗2
Masaki Nagai and Shinichi Nakasuka
Key Words : Astronautics, Formation Flight, Formation Flying, Potential Field
Abstract : This paper proposes relative trajectory designing methods for spacecraft in orbit using the concept of virtual potential field. The potential field is neither a real one, such as gravitational field, nor an arbitrary one without restraint, but the one derived from relative motion equations known as the Hill’s equations. This concept allows us to express the relative motion of satellites with a new set of parameters, leading to easy understanding of the relative motion. Potential field principle is attractive because of its simplicity, which allows us to intuitively reach simple and effective control methods for either single or multiple satellites. In the following part, the basics of the virtual potential field concept are presented as well as some results of applying the methods to relative trajectory designing.
記 号 の 説 明 x : CW座標軸上 動径方向座標 y : CW座標軸上 速度方向座標 z : CW座標軸上 面外方向座標 ω : 軌道角速度 ax : x軸方向の外力加速度(外力・制御力に比例) ay : y軸方向の外力加速度(外力・制御力に比例) az : z軸方向の外力加速度(外力・制御力に比例) φx : x軸方向の仮想ポテンシャル場 φy : y軸方向の仮想ポテンシャル場 t, τ : 時間のパラメータ ∆V : 速度増分の一般的表現 xp : 仮想ポテンシャル場の軸のx座標(振動中心) yp : 仮想ポテンシャル場の軸のy座標(振動中心) A : ポテンシャル場に沿った振動のx軸方向振幅 θ : ポテンシャル場に沿った振動運動の位相 θ0 : tω = 2π× k (k :整数)時のθ (基準位相) θ1 : 制御後のθ0 r : 軌道半径 µ : 地心重力定数 1. は じ め に 近年,軌道上サービスや干渉型合成開口レーダー(InSAR) のように,複数衛星の相対関係が重要となる宇宙ミッション ∗1 C ° 2009 日本航空宇宙学会 平成 20 年 11 月 2 日原稿受理 ∗2東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻 ∗3現 日本電気株式会社 航空宇宙防衛事業本部 が現実味を帯び,衛星間の位置関係を望ましい状態に誘導す る方法論の必要性が増している.その問題に対し,従来は円 軌道を飛ぶ基準物体との相対運動を線形方程式で記述し,そ の厳密解を利用して誘導を行うCW(Clohessy-Wiltshire) 誘導則1) が主として用いられてきた.その場合,相対軌道 はある時刻における位置・速度の6自由度で記述されるこ とが多く,地球周回軌道の軌道6要素のような直感的に理 解しやすい表現法がなかった.また,CW誘導則は増速回 数や増速特性が固定され設計自由度は少ない上,必要増速 低減の設計指針が見えず,消費燃料最小化には移行時間を 時間空間で全数探索するといった高負荷の数値計算が必要 であり,その実問題への適用には問題点があった. これに対し本論文は,移動ロボットの経路設計2) などの 分野で実績のある「ポテンシャル場」の概念を導入し,相 対軌道を記述する新しい枠組みと,それを利用した,設計 自由度が高く簡易で消費燃料低減可能な相対軌道の計画手 法を提案している. 本論文ではまず,従来は位置・速度で記述していた衛星 の相対運動を,放物線形状をしたポテンシャルの軸(振動 中心位置)とポテンシャルに沿った振動運動の振幅・位相 のパラメータで表現している.これはちょうど,地球周回 軌道を衛星の位置・速度ではなく軌道6要素で表現する方 法と似ており,直感的に衛星の相対運動を理解することを 助け,消費燃料低減化の指針を見えやすくしている.次に, 相対軌道の設計問題を,その振幅・位相の変化の設計問題 に翻訳することで,CW誘導則より見通しのよい設計がで きることを示し,その応用として,消費燃料を低減できる 誘導則や,群衛星隊形を維持・変更する誘導側へ適用でき ることを示している.
2. 基 礎 方 程 式 本研究では,基準点周りの相対位置を表現するCW座標 軸(第1図参照)におけるCW方程式1)に基づいた考察を する.CW座標軸は惑星中心の円軌道を周回する点を原点 にとり,x軸を動径方向,y軸を速度方向,z軸を面外方向 にとる.x, y, zを原点近傍の微小変位とおくと,衛星の相 対運動を近似的に表現するCW方程式(式(1)~(3))を得 ることができる. ax= ¨x− 2ω ˙y − 3ω2x (1) ay = ¨y + 2ω ˙x (2) az = ¨z + ω2z (3) 第 1 図 CW 座標軸 仮に,外力加速度が完全に0のとき,衛星運動は解析的 に次のように求まる. x =˙x0 ω sin ωt− µ 3x0+ 2 ˙y0 ω ¶ cos ωt + µ 4x0+ 2 ˙y0 ω ¶ (4) y = µ 6x0+ 4 ˙y0 ω ¶ sin ωt + 2 ˙x0 ω cos ωt − (6ωx0+ 3 ˙y0)t + µ y0− 2 ˙x0 ω ¶ (5) z =− z0ω sin ωt + ˙z0cos ωt (6) これはCW解とも呼ばれ,外力がない場合に衛星運動の 特性を把握するのに使われる3).(添え字0は変数の初期値 を表す.)また,インパルススラストを用いた軌道計画を 立てる場合,スラストが与えられる瞬間に速度が変化する ことに注意すれば,それ以外ではスラストがかからないた め,CW解を用いた解析や軌道計画立案ができる. 3. 仮想ポテンシャル場の導入 ポテンシャル場の概念を導入する理由は2つある.1つ は,本概念は簡易で直感的な方法として,すでに実績があ ることである.2つ目は,力を積分することで得られるポ テンシャル場空間において,軌道を把握するために必要な 「保存量」を見いだせる可能性があることである.軌道運 動を把握する上で,常に変化し続ける位置や速度ではなく, 値が保たれる「保存量」を用いることには利点がある.こ れにより,衛星運動の本質が捉えやすくなり,消費燃料を 減らす指針などが見えやすくなることを狙う. さらに,ポテンシャル場の大きな特徴として,障害物回 避などの要求条件を別のポテンシャル場で表現し,元のポ テンシャル場と重ね合わせることで,簡易に目的の軌道計 画を立てることができる可能性がある.この特徴は,既に 移動ロボットの経路計画に用いられている.この可能性に 関しては,今後の研究課題とし本報告では扱わないが,将 来的な発展も見据えてポテンシャル場概念を用いた基礎理 論を構築する. ここでは運動方程式に基づいたポテンシャルを用いる. 「仮想」と呼んでいるのは,重力場のように実在するポテ ンシャル場ではなく,運動方程式から仮想的にイメージし たポテンシャル場内を衛星が運動していると考えるからで ある. ただ,z軸方向運動は,z = 0を中心とした単なる振動運 動と単純な上,xy平面内運動と独立に考えることができる ため,本研究では議論の対象とはしない.本研究では,互 いにカップリングしており,より複雑なx/y軸方向運動に ついて考察をする. 3.1 x軸方向の運動 式(1),(2)から,x軸方向の運 動は以下の式に従うことが計算される. ax= ¨x + ω2x− 2ω Z aydt (7) この式から,x軸方向の衛星運動は,以下のポテンシャ ル場φxに沿った衛星運動と考えることができる. φx= ω2 x2 2 − 2xω Z aydt (8) このポテンシャルは放物線形状であり,衛星運動は振動 運動となる(第2図参照).角周波数はω であり,その値 は保持される. 一方,y方向の外力加速度ayによりポテ ンシャル場そのものが影響を受け,振動中心xpの位置が変 化する.x方向の外力加速度axは,式(8)には現れないた め,ポテンシャル自身に影響を与えることはないが,衛星 運動自身には影響を与える. 第 2 図 放物線ポテンシャルに沿った衛星運動 (x 軸方向) 3.2 y軸方向の運動 y軸方向運動に関しても同様に, 式(1),(2)から以下の式を導くことができる. ay = ¨y + ω2y + 3ω2 ZZ aydt2+ 2ω Z axdt (9)
よって,y軸方向運動を決定するポテンシャル場は以下 のようになる. φy= ω2 y2 2 + y(3ω 2 ZZ aydt2+ 2ω Z axdt) (10) 第 3 図 放物線ポテンシャルに沿った衛星運動 (y 軸方向) 角周波数はωであり,その値は保持される.振動中心位 置ypは,ay, ax双方の影響を受け変化する.ayに関して は二重積分となっており,制御力を全く加えなくても振動 中心の位置が時間とともに変化する「ドリフト運動」が発 生しうる. 4. ポテンシャル利用の意義 ポテンシャル場の概念を導入する意義の一つは,衛星 の相対運動(z軸方向を除く)を,xy 平面上の位置/速度 (x, y, ˙x, ˙y)で表現する代わりに,ポテンシャルに沿った振 動運動と放物線形状ポテンシャル場の軸(振動中心位置)で 表現できることである.つまり,衛星の相対運動を,以下の 4つのパラメータを用いて表現している.ただし,x軸/y 軸運動のポテンシャルに沿った振動運動はカップリングし ており,どちらか一方,(ここではx軸方向)を把握すれば 十分であることに注意されたい. ポテンシャル場に沿った振動運動 A: x軸方向運動の振幅 θ0: x軸方向振動運動の基準位相(tω = 2π× (整数)時の 位相) 放物線ポテンシャル場の軸位置(振動中心位置) xp: x軸方向振動中心 yp: y軸方向振動中心 一般的に,位相θは時間によって変化するので,時間に よって影響を受けないθ0によって衛星運動を表現すること とする. 保存量となり得るこれら4パラメータによる相対運動表 現ができ,衛星運動を直感的により把握しやすくなる.一 般的に,これら4パラメータから想像できる衛星軌道は, xp= 0の時には第4図のようになる.xp6= 0 の時は,こ の楕円の中心がドリフトすることに注意されたい. そして,これら4パラメータは,計算の結果次のように 表現されることが分かった.従来,外力加速度が任意の関 第 4 図 提案パラメータから想像できる相対衛星軌道 (xp= 0 の時) 数の時,CW解は大変複雑となり,衛星挙動の本質を容易 にとらえられない.そこで,このように任意の外力を式中 に残しながら,軌道パラメータを表現できることには大き な意味がある. xp=xp0+ 2 ω Z aydt (11) yp=yp0− 3 2xp0ωt− 3 ZZ aydt2− 2 ω Z axdt =yp0− 3ω 2 Z xpdt− 2 ω Z axdt (12) ここで,xp0, yp0はそれぞれxp, ypの初期値である.ま た,ポテンシャルに沿った振動運動は,次のように表現で きる.この式は,振幅と基準位相の初期状態A0, θ0と最終 状態A, θ1を関連づけている. A sin(ωt + θ1) = A0sin(ωt + θ0) + 1 ω Z t 0 sin{ω(t − τ )}ax(τ )dτ −ω2 Z t 0 cos{ω(t − τ )}ay(τ )dτ (13) 5. 提案手法の推定効果 さて,以上のような新たなパラメータと,その式表現を 応用することで,軌道計画をする上でどのような効果が期 待できるのか考察をする. 5.1 運動把握の容易性 まず期待される効果は,相対 運動把握の容易性である.従来,相対的衛星運動(z軸方向 除く)は,位置/速度の4パラメータ(x, y, ˙x, ˙y)により捉え られていた.一方,提案手法では,ポテンシャルに沿った 振動運動(振幅Aと基準位相θ0)と,放物線ポテンシャル の軸位置(振動中心位置)(xpとyp)の4パラメータで表現 している.保存量という安定した値で軌道運動を表現でき るほか,x方向とy方向運動,また振動運動と振動中心位 置を分離し,衛星運動を分析できる利点がある. 第1表は,提案された4パラメータを,x/y軸方向,そ して振動中心/振動運動と分離して表している.この分類 は,衛星相対運動を理解する上での助けともなる.なお,y 方向の振動運動は,x軸方向のそれとカップリングしてい るため,必ずしも考慮する必要はないことに注意されたい.
第 1 表 提案された 4 パラメータ 運動 x 軸方向運動 y 軸方向運動 振動中心 xp yp (放物線ポテンシャルの軸) 振動運動 振幅 A 振幅 2A (ポテンシャルに沿った運動) 位相 θ 位相 θ + π/2 5.2 軌道計画法提案の容易性 相対運動の特性を理解 できるようになると,目標の軌道移行を達成するために必 要な条件が見えやすくなる.制御すべき要素とそうでない 要素を分割でき,結果的に必要増速の少ない軌道計画法を 導きだすことにつながる. 実際の軌道計画では,提案された4パラメータと,既存 のパラメータ(軌道6要素や隊形形状)との関係を把握する と良い.第2表ではその関係を表している.これを利用す ることで,目標を達成するための条件が見え,設計者の意 図を反映した軌道計画法を提案しやすくなる.例えば,軌 道周期を調整させたい時,xp を制御すればいいことが分 かる. 第 2 表 提案された 4 パラメータと,軌道 6 要素あるいは隊形形状と の関連の有無 上:提案パラメータ x 方向運動 y 方向運動 下:軌道 6 要素, 隊形要素 振動中心 xp yp 隊形中心位置 軌道長半径,軌道周期 真近点離角 振動運動 A, θ 隊形形状 A: 離心率,隊形サイズ θ: 近地点引数,隊形配置 5.3 軌道計画法の柔軟性 式(11)から(13)では,提案 パラメータは任意の外力加速度を使って表現されている.衛 星運動への外力の影響を把握しやすくなるだけでなく,イ ンパルススラスト以外のスラストにも対応できる.また,式 (11),(12)ではパラメータが外力の積分をつかって表現さ れているが,外力の積分は増速量と直結しており,消費燃 料の把握にもつながる. 6. 誘導則の提案例 新たな相対運動表現やその効果を踏まえ,ミッションに よっては容易に軌道計画法を導いたり,必要増速が小さい 効率的軌道遷移法を実現したりできることを示す. 6.1 ポテンシャル場のイメージによる軌道計画法提案 ポテンシャル場概念の特徴として,ポテンシャルをイメー ジすることで衛星運動を簡単に推定できることがある.仮 にx軸方向のみを考慮すれば良いなら,ポテンシャルのイ メージもより容易になる. 例えば,慣性座標上円軌道から円軌道への単一衛星の軌 道遷移を考える.円軌道を決定するのは軌道長半径と離心 率なので,第2表から,xpとA,つまりx軸方向運動の みを考察すればよいことが分かる. 今,CW座標軸において,第5図のような2軌道がある とし,軌道1から2への遷移を考える.双方の軌道ともx 軸方向の往復運動はなく,つまりポテンシャルに沿った振 動運動はなく,慣性座標上では完全な円軌道である. 軌道1 (x, y, ˙x, ˙y) = (xp0, 0, 0,−3/2ωxp0) 軌道2 (x, y, ˙x, ˙y) = (0, c, 0, 0) (c :任意の値) 第 5 図 2 つの地球周回円軌道の CW 軸上における表現 このような軌道遷移を実現したい場合,通常,インパルス スラストを用いることを前提にCW解を駆使したり,CW 誘導則が用いられる.ただ,双方とも消費燃料最小が保障 されているわけではない.そこで,仮想ポテンシャル場の 概念を用いて,必要増速最小かつ容易な軌道計画を考察す る.まず,軌道高度を変化させる(xp = xp0→ 0)必要が ある.そして,移動後の衛星は振動運動をしない(A = 0). これらの条件を踏まえ,x軸方向のポテンシャルをイメー ジし,以下のような軌道計画を提案する. Step 1: y 軸 方 向 イ ン パ ル ス ス ラ ス ト ∆V1 = |ay∆t| = xp0ω/4を与える(xp= xp0→ xp0/2) Step 2: 半周期(t = π/ω)待機 Step 3: y 軸 方 向 イ ン パ ル ス ス ラ ス ト ∆V2 = |ay∆t| = xp0ω/4を与える(xp= xp0/2→ 0) この軌道計画は,第6図において視覚的に表現されてい る.手順1の後,衛星は移動後のポテンシャルに沿って動 き始める.半周期後,衛星はx = 0に到達し同時に速度 も失う( ˙x = 0)ので,その瞬間にポテンシャル中心位置を xp= 0とし,その場所に衛星を固定できる.この制御計画 では,必要∆V は合計でxp0ω/2となる. ポテンシャル自身の位置移動に伴う必要最低限の速度増 速は,式(11)を踏まえ,式(14)のように求めることがで きる.これは,上記の提案手法で必要とされる増速と一致 し,提案手法が必要最小限の増速しか要求しないことが分 かる. ∆Vmin= ¯ ¯ ¯ ¯ Z aydt ¯ ¯ ¯ ¯ = xp02ω (14)
第 6 図 制御計画 1 6.1.1 ホーマン遷移との比較 この軌道計画の必要増速 最小性が,一般の理論に矛盾しないことを説明する.6.1節 で示した軌道遷移例は,一般にホーマン遷移4)と呼ばれる. ただし,ここではCW座標軸上ごく近傍の衛星運動を扱っ ていることに注意しなければならない. いま,半径r + xp0の円軌道から,半径rの円軌道への 遷移を考える.ただし,xp0¿ rである.ホーマン遷移に 必要な∆V は,以下のようになる. 遠地点での増速 ∆Va = r µ r + xp0 Ã 1− s 2r r + (r + xp0) ! ' r µ r n 1−³1−xp0 4r ´o ' r µ r xp0 4r = ωxp0 4 (15) 近地点での増速 ∆Vp = r µ r Ãs 2(r + xp0) r + (r + xp0)− 1 ! ' r µ r n³ 1 + xp0 2r ´ ³ 1−xp0 4r ´ − 1o ' r µ r xp0 4r = ωxp0 4 (16) x軸のポテンシャル軸位置の変化xp0 を伴うこのホーマ ン遷移に必要な速度増分 ∆V は,提案された軌道計画と 同じになっている.ホーマン遷移は必要増速が理論的に最 も少ないと言われており,提案手法はホーマン軌道遷移と の比較においても必要増速最小性が保たれていることが分 かる. 6.1.2 シミュレーション 本軌道計画が有効かどうか,シ ミュレーションで確認をした.シミュレーション条件は,以 下のようである. 軌道高度 500km 初期軌道 (x, y, ˙x, ˙y) = (10, 0, 0,−3/2ω × 10) 目標軌道 (x, y, ˙x, ˙y) = (0, c, 0, 0) (c :任意の値) シミュレーション時間 10000秒 制御開始時間 1000秒 第7図はシミュレーション結果を表している.確かに,軌 道遷移が問題なく行われていることが分かる. 第 7 図 軌道遷移シミュレーション結果 1 6.2 連続スラスト/低燃費の誘導則例 例えば,軌道周 期を合わせる制御を取り上げる.これは,ある子衛星が,基 準となる親衛星から離れてしまわないようにする誘導則な どに用いられる.軌道周期に関わるパラメータは,第2表 からxpのみであることが分かる.制御対象となるのはxp だけであり扱いやすいのみならず,xpは式(11)で任意の 外力を用いて表現されており,インパルススラストに制限 されない軌道計画につながる. 仮に,ここではxp= xp0→ 0とする調整が必要である とする.式(11)から,以下の式(17)を満足させるように ayを与えればよく,それはインパルススラストでも連続ス ラストでも良い.その上,必要増速は不等記号を使って式 (18)で表現されるため,理論的に必要な最小増速も簡単に 求めることができる. xp = xp0+ 2 ω Z aydt = 0 (17) ∆V = Z |ay|dt ≥ ¯ ¯ ¯ ¯ Z aydt ¯ ¯ ¯ ¯ = ω|x2p0| (18) 結果的に,式(17)を満たし,常に同一符号(常に正か, 常に負)であるayを与えることで,必要最小限の増速で目 的の軌道遷移を達成することができる. 6.3 群衛星の軌道遷移法 本節では,仮想ポテンシャル を用いることで提案されてきたパラメータや考え方を,群 衛星の軌道計画にも応用できることを示す.ただ,群衛星 と一口に言っても,様々な隊形形状がある.ここでは,具 体的なミッションで実際に使われる可能性のある形状や制 御モードを選定し,提案手法の応用を考える. 6.3.1 フォーメーションフライトによるInSAR地球観 測ミッション 文献5)では,衛星の編隊飛行(フォーメー ションフライト)を用いたリアルタイムでの干渉合成開口 レーダー(InSAR)ミッションを提案している.合成開口 レーダー(SAR)を搭載した6つの人工衛星を準回帰軌道
に投入し,高解像度/多角的/広範囲の地球観測を目指して いる.このミッションは,通常時は全地表のデジタル高度 地図(DEM)の作成や極地方観測を行うが,災害時には回 帰軌道に移行し,高頻度/高解像度の災害観測を行う. 文献6),7)によると,このミッションに適した隊形は, 複数衛星が等位相間隔で配置された円・楕円隊形である.提 案された4パラメータで表現すると,すべての衛星でxp, yp,さらにAが同一であり,θが等間隔で複数の衛星が配 置されている隊形となる.(第8図参照) 第 8 図 円・楕円隊形の表現 文献5)でも円隊形(直径500m)を採用している.そし て,これを完全に維持しつつ,軌道高度を変更させる軌道 計画が必要となる.この問題に対し,文献5)では,インパ ルス力を使い,単独衛星に注目した軌道遷移を扱っている にとどまり,連続スラストによる軌道移行の可能性や,隊 形全体を視野にいれた考察は一切されていない. よって,ここでは,本報告で提案した考え方に基づき,イ ンパルススラストに制限されず,さらに群衛星全体に適用 できる制御法を提案したい. 6.3.2 制御則提案 隊形を維持したまま軌道高度を変更 するための要求条件は,提案された4パラメータを用いて 次のように表現できる. 全衛星についてxp, ypが同一: 各衛星の振動中心が同一 xpの変化: 軌道高度の変化に相当 全衛星についてAを制御前後で維持: 隊形のサイズを維持 各衛星の相対的位相関係を維持: 円・楕円隊形内の衛星配 置の維持 この条件を満たす制御方法の一つとして,一定スラスト を,ある特定の時間だけ与える方法を提案する. まず,x軸方向ポテンシャル場の軸位置をxp= xp0→ 0 へ変化させるとする.T時間だけ一定スラストを与えると, 式(11)から,与えるスラストは以下のようになる. 0 = xp0+ 2 ωayT (19) ... ay =− xp0ω 2T (20) また,すべての衛星についてypを一致させる必要があ るため,同一のタイミングで全衛星にスラストを加えはじ める.さらに,式(13)において制御前後でAとθ0を維持 する必要がある.ここで,T = 2π ω (ちょうど1周期分)と すると,式(13)は以下のようになり,制御後のパラメータ A1,θ1が,制御前のA, θ0と一致し,制御前後で隊形が完 全に維持されることが分かる. A sin(ωt + θ1) = A0sin(ωt + θ0) + ax ω Z T 0 sin{ω(t − τ )}dτ −2ay ω Z T 0 cos{ω(t − τ )}dτ (21) = A0sin(ωt + θ0) + ax ω · −ω1 cos{ω(t − τ )} ¸2π ω 0 −2ay ω · 1 ωsin{ω(t − τ )} ¸2π ω 0 (22) = A0sin(ωt + θ0) (23) この時,必要な増速は以下のようになる. ∆V = ayT =− xp0ω 2T T =− xp0ω 2 (24) まとめると,次のような制御方法を提案できる. 衛星による差 強度,タイミングとも完全に同一 制御方向 軌道速度方向(y軸方向) 制御力 一定 制御継続時間 1周期 制御開始時間 任意 衛星隊形 完全に維持される 制御対象 軌道高度(xp) 一定スラストによる隊形維持/高度変更軌道計画のほか, インパルススラストを用いた軌道計画法も提案できる.今, y軸方向に2回のインパルス増速∆V1, ∆V2を与えるとし て,xp= xp0→ 0へ変化させる遷移を考える. −xp0= 2 ω Z aydt = 2 ω(∆V1+ ∆V2) (25) また,全衛星のypの相対位置関係を維持するため,すべ ての衛星について同一のタイミングで同じ制御力を加える. まず,t = 0時に1回目,t = t1時に2回目の増速をする として,各衛星のポテンシャルに沿った運動への影響は以 下のようになる. A sin(ωt + θ1) = A0sin(ωt + θ0)− 2 ω Z cos{ω(t − τ )}ay(τ )dτ = A0sin(ωt + θ0)− 2 ω[cos(ωt)∆V1+ cos{ω(t − t1)}∆V2] (26) 隊形はそのまま維持したいので,式(26)右辺第2項を0 にする必要があり,次の条件を満たせばよいことが分かる. t1= π ω (27) ∆V1= ∆V2 (28)
これらの式から,半周期を挟み,同一強度のスラストを 与えることで,隊形に影響を与えることなくxpを制御で きる.まとめると,次のような軌道遷移方法を提案できる. 衛星による差 強度,タイミングとも完全に同一 制御方向 軌道速度方向(y軸方向) 制御力 同一強度/方向のインパルススラストを2度 制御継続時間 2度のインパルス間は半周期 制御開始時間 任意 衛星隊形 完全に維持される 制御対象 軌道高度(xp) これら2つの軌道計画法を図で表現すると,第9図のよ うになる.特徴的なのは,すべての衛星について同一タイ ミングで同一プロファイルのスラストを与えることである. 定スラストを与える場合は一周期分継続して,インパルス スラストを与える場合は半周期のインターバルをおいて2 度与えることとなる.スラストの大きさは,どれだけの高 度変化を必要とするかで異なる.そして,遷移前の隊形は, 遷移後までも維持されるだけでなく,遷移中も維持される ことが計算の結果分かった.よって,遷移中においても衛 星間の衝突の可能性はない. 第 9 図 隊形維持制御 6.3.3 シミュレーション 今,17衛星からなる群衛星の ポテンシャル位置をxp= 10→ 0へ遷移させ,同時に,隊 形としての相対位置関係は維持したい.定スラスト/単周期 軌道計画を適用し,シミュレーションを通してその有効性 を確認する. 第10図に,シミュレーション結果を示している.数多く の衛星によって構成された隊形が,確かに形状を変えるこ となく,図中左上の位置から右下の位置まで遷移している のが分かる.また,図からは分かりにくいが,遷移中にお いても衛星隊形は維持され,衛星同士の衝突が起きないこ とを確認した. 軌道高度 500km
初期軌道 (x, y, ˙x, ˙y) = (10 + A0sin θ0, 2A0cos θ0,
A0ω cos θ0, −3/2 × 10ω − 2A0ω sin θ0)
目標軌道 (x, y, ˙x, ˙y) = (A0sin θ, c + 2A0cos θ,
A0ω cos θ, −2A0ω sin θ) (c :任意の値)
パラメータ θ0 : 0~315度まで45度おきの8要素,A0 : 4,2,0の3要素,合計17要素(A0 = 0の時は位相に 関わりなく1要素) シミュレーション時間 10000秒 制御開始時間 1000秒 第 10 図 軌道遷移シミュレーション結果 7. ま と め 本報では,仮想的なポテンシャルの概念を導入すること で,衛星相対運動(CW座標軸上での衛星運動)の新たな表 現方法を提案し,その表現方法を含めた手法により,ミッ ションによっては容易に効率的な軌道計画を立てることを 示した.以下にそれらの成果を列挙する.なお,繰り返し になるが,本論文ではCW座標z軸方向運動は,xy平面 内運動から独立した単純な単振動であることから考慮に入 れていない. 新たな衛星運動表現: CW座標軸における衛星運動を,位 置/速度の4パラメータ(x, y, ˙x, ˙y)ではなく,ポテン シャルに沿った振動運動(x軸方向振幅Aと位相θ)と 放物線ポテンシャルの軸の位置(xpとyp)の計4パラ メータで表現した.力を積分したポテンシャル場とい う空間で,軌道運動の理解を助ける保存量を見いだし ている. 簡易な誘導則/必要増速最小の誘導則: 新たなパラメータ により衛星運動を表現しその特性を理解すると,目 標の軌道移行にはどのパラメータをどれだけ変化させ たいのかが見えてくる.制御すべき要素とそうでない 要素を分割することができ,簡易な軌道計画法を導出 できるようになる.また,各パラメータを調整するた めにどれだけの増速が最小限必要か計算し,必要増速 の少ない軌道計画法の導出につなげた.
連続スラストによる誘導則: 式(11)から(13)では,任意 の外力を含めてパラメータが表現されている.CW誘 導則やCW解を用いる従来の方法ではインパルスス ラストのみを想定しているが,ここでは連続スラスト をも用いた軌道計画法の可能性も示した.これにより, スラスタの能力に制限のある場合でも対応できる可能 性を示した. イメージ/作図による誘導則: 6.1節では,ポテンシャルを イメージすることで,高度な数学的計算を経ない軌道 計画が提案されている.これはまさしくポテンシャル 理論の利点と言える. 群衛星の誘導則: 実現可能性がある隊形・ミッションにつ いて,衛星群の遷移法を提案した.制御前後で隊形を 維持する時,インパルススラストを2度与える方法と, 定スラストを1周期継続して与える方法を提案した. 双方とも衛星隊形に影響を与えず,軌道高度を変化さ せられる.遷移後のみならず,遷移中も隊形が維持さ れるため,これらの方法は衛星同士の衝突の危険性が ないことも計算から分かっている. 8. 今 後 の 課 題 今後の課題としては,本研究を発展させ,より一般化し た軌道計画法を提案する必要がある. CW誘導則では,初期状態と目標状態を自由に設定でき る点では一般化されているものの,インパルス増速を前提 とする点で制限があり,さらに必要増速の最適化も探索空 間での数値計算が必要など,その運用には限界があった.ま た,CW解を使った手法では,インパルス増速の制限はない ものの,個々の要求に応じて軌道計画法を組み立てるため, あらゆるミッションに使える一般性は見いだせなかった。 一方,本報告での提案手法では,ミッションを指定した 上での容易で効率的な軌道計画法を提案したものの,あら ゆる初期/目標状態に対応できるように一般化された手法で はない.今後は,効率性,容易性を維持しつつ,CW誘導 則のような応用幅の広い一般的手法を確立する必要がある. また,ポテンシャルの特徴を最大限に生かし,ポテンシャ ルの重ね合わせによる機能追加の実現も今後の課題である. 例えばモバイルロボットの経路設計の分野では,障害物に 付加的な斥力ポテンシャルを,目標点に引力ポテンシャル を設定し重ね合わせることで,障害物回避と目標点到達の 2つの機能を同時,そして簡易に果たす方法2)が用いられ ている. 本研究は文部科学省グローバルCOEプログラム(機械 システムイノベーション)の支援を受けた.ここに感謝の 意を表したい. 参 考 文 献
1) Clohessy, W. H. and Wiltshire, R. S.: Terminal Guidance System for Satellite Rendezvous, Journal of the Aerospace Sciences, 27(1960), pp. 653-658.
2) Y. Koren and J. Borenstein: Potential Field Methods and Their Inherent Limitations for Mobile Robot Naviga-tion, Proceedings of the IEEE International Conference on Robotics and Automation, 1991, pp. 1398-1404.
3) 狼 嘉彰,冨田信之,中須賀真一,松永三郎: 宇宙ステーション 入門 第 2 版,東京大学出版会,東京, 2008, p.109. 4) 茂原正道: 宇宙工学入門 - 衛星とロケットの誘導・制御, 培風館, 東京, 1994, p.26. 5) 金色一賢,桑田良昭,鵜川晋一,石川早苗,中須賀真一: フォー メーションフライトによる 干渉合成開口レーダー (InSAR) 地球 観測ミッションの設計, 電子情報通信学会技術研究報告 宇宙・航 行エレクトロニクス, 101,654(2002), pp. 29-36. 6) 永井将貴, 中須賀真一: 複数衛星による干渉合成開口レーダー (In-SAR) の衛星最適配置 (第 1 報: 衛星間相対運動を考慮しない場 合の最適配置), 日本航空宇宙学会論文集, 56(2008), pp.510-515. 7) 永井将貴, 中須賀真一: 複数衛星による干渉合成開口レーダー (InSAR) の衛星最適配置 (第 2 報: 衛星間相対運動を考慮する場 合の最適配置), 日本航空宇宙学会論文集, 56(2008), pp.516-521.