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保健医療にかかわる公的予算の確保と子どもの権利 国連意見19号勧告に基づいて

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立教女学院短期大学紀要第 50 号(2018)抜刷

保健医療にかかわる公的予算の確保と子どもの権利

山本 智子

Tomoko YAMAMOTO

Public Budgeting for Healthcare and Medicine and Children’s Rights:

Based on the United Nations’ General Comment No.19

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This paper discusses conditions to ensure appropriate healthcare and medicine for children, based on the United Nations’ General Comment No.19.

Public budgeting should conform to the general principles specified in the Convention on the Rights of the Child. Furthermore, in the processes of planning, establishing, and following up, the 5 principles: effectiveness, efficiency, fairness, transparency, and sustainability, should be applied.

Importantly, in order to ensure that children live, develop health, and enjoy optimal benefits, it is necessary to enable them to access information, as well as protecting their right to participate in healthcare and medicine: in the latter, accountability to them is needed.

Child, Healthcare, Right, Budgeting, the Convention on the Rights of the Child

Ⅰ.端 緒

 保健医療への権利は、子どもの権利条約第 24 条を中心に保障された子どもの基本的な権利で ある。第 24 条の基本事項は、「到達可能な最高水準の健康の享受」および「疾病の治療や回復の 便宜」に対する子どもの権利を確保することにある。第 24 条を日本国内で実施する際の問題点 として、法学領域からは、「子どもの医療費を保障する立法が望ましい」こと等が指摘されてき た1)。保健医療の費用負担面で健康・医療への権利が事実上確保されておらず、疾病治療の保障 という点で不十分であるという理由からである。実際に、日本では、子どもの権利条約が批准さ れた 1994 年にも、経済的理由で医療機関を受診できないといった事態が懸念される相対的貧困

─国連意見 19 号勧告に基づいて─

Public Budgeting for Healthcare and Medicine and Children’s Rights:

Based on the United Nations’ General Comment No.19

山本 智子

Tomoko YAMAMOTO

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状況にある子どもが存在した。日本では、国連子どもの権利条約が採択された 1989 年には 20 歳 未満の子どもの相対的貧困率が 12.9%に達しており、1990 年代に上昇して、2004 年には 14.7% であったことが明らかにされ、子どもの相対的貧困率が先進国内では高い水準で推移してきたこ とが指摘された2)  しかし、保健医療への子どもの権利の主たる要請は、経済的理由に起因するものをはじめとし て、あらゆる子どもの保健医療へのアクセスの確保に努めることにあると解釈されるものではな い。到達可能な最高水準の健康の享受や、疾病の治療や回復の便宜に対する子どもの権利を確保 するために、第 24 条を包括的な権利として理解し、実施するとともに、子どもの情報へのアク セス、ならびに、子どもへの説明責任を要請する規定である3)。国連子どもの権利委員会が第 24 条の効果的な理解と実施のために 2013 年に採択した一般的意見 15 号「到達可能な最高水準 の健康を享受する子どもの権利」では、あらゆる子どもの心身にわたる可能性、個性および魅力 の最大限の発達を支援するために、第 24 条を子どもの権利条約全体と不可分かつ相互依存的な 関係にあるもとして実施することが勧告された4)。また、条約の一般原則である第 2 条(差別の 禁止)、第 3 条(子どもの最善の利益)、第 6 条(生命・生存・発達への権利)、第 12 条(子ども の意思の尊重)に基づいて、「差別により子どもの健康が害されないこと」、「個人の子どもおよ び子ども集団の健康に関わるあらゆる決定において子どもの最善の利益が擁護されること」、「子 どもの保健医療に関わるリスクと保護が体系的に関連づけられること」、「子どもが医療に参加す る権利が保障されること」が要請された。さらに、子ども時代の健康に関わる問題を認識するた めに、ライフコースを理解し、先の発達段階への影響を考慮することの必要性も明記された。  もっとも、保健医療への権利は、社会保障への子どもの権利から発展された条項である5)。国 連子どもの権利委員会は、2016 年に、一般的意見 19 号「子どもの権利実現のための公共予算の 編成」(以下「意見 19 号」)を採択し、子どもの権利条約の権利を実現するために、公的な予算 を確保することを勧告した6)  子どもの保健医療に関わる公的予算の確保に関して、先行研究では、イギリスにおける子ども の緩和ケアに関する資金体制等の現状が明らかにされた7)  本稿では、意見 19 号に基づいて、子どもの保健医療に関わる公的予算を確保するための条件 について検討する。

Ⅱ.目的および方法

 本稿の目的は、公的予算の確保に関わる条件の検討をとおして、子どもの保健医療を発展させ ることにある。  以下では、意見 19 号の勧告内容を挙げ、その結果に基づいて、子どもの保健医療に関して公

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的予算を確保するための条件を示す。

Ⅲ.結 果

 意見 19 号で勧告されたことは、子どもの人権の視点に立脚して、公的な予算を編成すること である。特に、病気や障がいのある子どもや、貧困下で生活する子どもなど、権利を侵害され、 被害を被りやすい子どもに十分に注意を払うことが求められている。具体的には、子どもの権利 条約の一般原則との関係に基づいて、四つの段階の過程で、五つの原則を考慮することが要請さ れた。 1.子どもの権利条約の一般原則との関係  意見 19 号では、子どもの権利条約の一般原則に基づいて、公的な予算を確保することが勧告 された。  第 2 条との関係では、子どもを直接的・間接的に差別してはならないことが強調され、病気や 障がい、経済的な背景といった、あらゆる種類の差別から子どもを保護する義務のあることが確 認された。そのうえで、あらゆる子どもに肯定的な成果を確保し、こうした差別を予防するため の積極的な措置を講じることにより、実質的な平等を達成することが求められた。これを実現す るために、予算の一定の部分を増額または最優先化すべく、関連する立法、政策およびプログラ ムの見直しにより、予算の有効性、効率性および公平性を高める必要性が示された。また、どの ような子どもが特別な措置を受ける資格を有しているかを特定するためにも、公的予算を活用す ることが求められた。さらに、市民社会とも連携しながら、資源配分等を通じて、差別されない 子どもの権利を発展させ、子どもが差別されない環境を整備することの重要性も示された。  第 3 条との関係では、子どもの最善の利益を予算を含む手続きに統合し、かつ適用する義務の あることが確認された。また、予算編成過程のすべての段階を通じて、かつ子どもに影響を与え るすべての予算決定において、子どもの最善の利益を第一次的に考慮する必要のあることも強調 された。さらに、評価にあたって、専門家や、学術研究機関をはじめとして、市民社会組織や、 子ども達といった関係者の意見を参考にすることが求められた。  第 6 条との関係では、すべての子どもが生命に対する固有の権利を有していることが改めて確 認され、国の責務として、すべての子どもの生存および発達への権利を保障しなければならない ことが明記された。特に、強調されたのは、乳幼児期からの子どもの発達への投資の重要性であ り、将来の世代にも考慮したうえで、貧困のサイクルを打破し、かつ多くの経済的リターンをも たらすことを評価した予算の編成が要請された。  第 12 条との関係では、子どもに影響を与える予算決定の過程で、情報にアクセスでき、子ど

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も達の意見が恒常的に聴かれることが勧告された。特に、権利を侵害されやすい状況にある子ど もを含めた協議の必要性が強調された。また、多くの国で予算編成過程に子ども達の意味のある 参加を得られていることが評価され、奨励された。そのうえで、意見 19 号では、2015 年に実施 された、子どもに関わる投資に関して協議された国際会議において、71 ヶ国の 2,693 人もの子ど も達から表明された意見が紹介された。子ども達からは、以下のような意見が表明された。  ・ 「きちんとした計画を立ててほしいです。予算に関しては、子ども達のすべての権利に対応 するために十分なお金が用意される必要があると思います。」  ・ 「何に投資すればよいのか、私達(子ども達)にきいてくれなければ、私達に投資すること はできないと思います。私達に尋ねて下さい。」  ・ 「予算についての情報を子ども達にわかりやすい方法で、ソーシャル・メディアなど子ども 達に親しみのあるメディアを通じて提供して下さい。」 2.四つの段階  意見 19 号では、子どもの権利の実現に関わる公的な予算の確保にあたって、「計画」、「策定」、 「執行」および「フォローアップ」という四つの段階を経ることが要請された。  「計画」の段階では、「予算の計画」、「立法、政策およびプログラム」、「資源の動員」および「予 算編成」の項目に関して勧告された。「予算の計画」では、子どもの権利を尊重する観点から、 将来の見通しを含めて、状況を現実的に評価することが求められた。特に、権利を侵害されやす い状況に置かれた子ども達の状況を詳しく検討する必要性が示された。  そのうえで、子ども達の状況に関する、利用者にやさしく、かつ細分化されたデータを、子ど も達を含む市民社会に対して公開することが求められた。「立法、政策およびプログラム」では、 子どもの権利の実現を損なわないために、子どもの権利に関わる影響を評価することが求められ た。「資源の動員」では、国内の資源を動員して、具体的、かつ持続可能な措置を講じることが 求められた。「予算編成」では、利用者にやさしく、子ども達にもアクセスが可能な、予算編成 方針および予算案の公開が求められた。  「策定」の段階では、「立法者による予算案の吟味」および「立法府による予算の策定」の項目 に関して勧告された。「立法者による予算案の吟味」では、子どもの権利の視点から予算案を吟 味し、予算配分が様々な子ども集団にどのように影響を与えうるかを調査することが求められた。 「立法府による予算の策定」では、子どもの権利との関連から、予算の実施の監視を可能にする ことが求められた。

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 「執行」の段階では、「利用可能な資源の移転および支出」、「予算に関する中期報告」および「予 算の執行」の項目に関して勧告された。「利用可能な資源の移転および支出」では、子どもの権 利を前進させるために、資源を浪費し管理を誤る原因および対応を示すことが求められた。「予 算に関する中期報告」では、恒常的な報告を可能にするシステムの活用が必要であることが示さ れた。「予算の執行」では、様々な集団の子どもを対象とした、利用可能性、質およびアクセス 可能性が伴われた、公正な配分が求められた。  「フォローアップ」の段階では、「年度末報告書および評価」および「監査」の項目に関して勧 告された。「年度末報告書および評価」では、子どもを含めて説明責任を果たす基盤になること が求められた。「監査」では、効率性および有効性の観点から調査することが求められた。 3.五つの原則  意見 19 号では、子どもの権利の実現のための公的な予算に関して、「有効性」、「効率性」、「公 平性」、「透明性」および「持続可能性」にわたる五つの原則を確保することが勧告された。  「有効性」の原則では、子どもの権利の実現に関わる課題を克服するために、戦略的に策定し、 これを実施することが求められた。また、予算が様々な集団の子ども達にどのような影響を与え ているかを評価したうえで、権利を侵害されやすい状況に置かれた子どもに特に注意を払うこと が要請された。さらに、予算決定が、最大多数の子ども達にとって、可能な限り最善な結果につ ながることを確保することが求められた。  「効率性」の原則では、子どもの権利を尊重し、保護し、かつ充足する責務を念頭に置いて、 費用に関する価値を確保する必要があることが示された。  「公平性」の原則では、公平な支出とは、子ども達の実質的平等につながるような支出決定を 行うことを意味することが確認された。そのうえで、公的資金の配分および執行に関して、いか なる子ども、または、いかなるカテゴリーに属する子ども達をも差別してはならないことが求め られた。  「透明性」の原則では、透明性が、子どもの権利の増進のために利用可能な公的資源を増やす ことにつながることに言及された。そのうえで、子どもに関連する公的な配分および支出につい ての情報へのアクセスを積極的に促進することをとおして、子ども達を含む市民社会の継続的な 関与を支援し、かつ奨励することの重要性が強調された。  そして、「持続可能性」の原則では、現在および将来の子ども達の最善の利益があらゆる予算 決定において真剣に考慮されることが求められた。

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Ⅳ.考 察

 意見 19 号を基に、保健医療において公的予算を確保するためには、以下の条件に応えること が求められる。  第一の条件は、あらゆる子どもの生命・生存および発達を確保することである。  意見 19 号では、病気や障がいのある子ども、経済的理由で保健医療機関を受診できない子ど もを含む、様々な集団の子ども達を排除することなく、子ども達の実質的な平等につながるよう な公正な予算の配分が要請された。また、予算の支出の決定にあたって、効率性が検討される場 合には、子どもの権利を尊重し、保護し、かつ充足する責務が念頭に置かれる必要性が示された。 特に、権利を侵害されやすい状況に置かれた子どもに注意を払うことが求められ、公的予算を活 用して、予算が様々な集団の子ども達にどのような影響を与えているかを調査し、現実的に評価 すること、ならびに、あらゆる子どもを包摂する環境を整備することが勧告された。  さらに、将来の世代にも考慮された、貧困のサイクルを打破し、かつ多くの経済的リターンを もたらすことを評価した予算の編成に関しては、乳幼児期からの子どもの発達への投資として重 視された。  第二の条件は、子どもの最善の利益を実現することである。  意見 19 号では、子どもに影響を与えるすべての予算決定において、将来の子ども達を含めて、 子どもの最善の利益を第一次的に考慮することが強調された。また、子どもの最善の利益に関わ る評価にあたっては、専門家や、学術研究機関をはじめ、市民社会組織や、子ども達といった関 係者の意見も参考にすることが求められた。  そして、第三の条件は、子どもが健康・医療に参加する権利として確保することである。  意見 19 号では、子どもに影響を与える予算決定の過程で、子ども達が情報にアクセスでき、 子ども達の意見が恒常的に聴かれることが勧告された。特に、権利を侵害されやすい状況にある 子どもを含む協議の重要性が示された。さらに、予算の計画および編成に関わる情報へのアクセ スをめぐっては、子どもの権利の増進のために利用可能な公的資源を増やすことにつながる措置 として評価する必要性が示唆された。また、報告書および評価に関して、子どもを含めて説明責 任を果たすことが求められた。

Ⅴ.結 論

 本稿では、意見 19 号に基づいて、子どもの保健医療に関わる公的な予算の確保に関わる条件

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について検討した。  子どもの保健医療において、公的な予算を確保するためには、「差別の禁止」、「子どもの最善 の利益」、「子どもの意思の尊重」に関して規定した、子どもの権利条約の一般原則との関係に基 づくことが求められる。また、「計画」、「策定」、「執行」、「フォローアップ」の四つの段階にお いて、「有効性」、「効率性」、「公平性」、「透明性」、「持続可能性」の五つの原則を適用する必要 がある。  特に、保健医療に関わる公的予算の確保にあたっては、子どもの生命・生存、さらには、発達 を確保し、子どもの最善の利益を実現するためにも、子どもの情報へのアクセス、ならびに、子 どもへの説明責任を伴って、子どもが医療に参加する権利を保障することが求められる。 [註] 1) 永井憲一・寺脇隆夫編『解説 子どもの権利条約』日本評論社 1990/1995、119 頁。 2) 阿部彩『子どもの貧困─日本の不公平を考える─』岩波書店 2008、51-55 頁。 3) 山本智子『子どもが医療に参加する権利─子どもの権利条約に基づいて─』講談社 2016、68-74 頁。 4) UN Convention on the Rights of the Child Committee on the Rights of the Child. General Comment No.15: The right of

the child to the enjoyment of the highest attainable standard of health. 14 March 2013. 5) UN Economic and Social Council Document E/CN.4/1979/1349.

6) UN Convention on the Rights of the Child Committee on the Rights of the Child. General Comment No.19: Public Budgeting for the Realization of Children’s Right. 20 July 2016.

7) 田中美穂、児玉聡、赤林朗、他「イングランドの小児緩和ケアに関する法政策・統計データ・資金体制・提 供される医療の現状」、『日本公衆衛生雑誌』Vol.60 No.8, 2013, 462-470 頁.

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参照

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