Title
[原著]他覚的耳鳴の3症例
Author(s)
仲程, 一博; 知念, 信雄; 末野, 康平; 野田, 寛; 名渡山, 愛雄
Citation
琉球大学保健学医学雑誌=Ryukyu University Journal of
Health Sciences and Medicine, 5(4): 308-311
Issue Date
1982
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/4205
琉大保医誌 5(4):308-311.1982.
他覚的耳鳴の
3
症例
仲 程 一 博 知 念 信雄末野
康平
野 田
寛
名渡 山愛好
琉球大学医学部附属病 院耳鼻咽喉科 ★那覇市立病 院耳馴 囚喉科 は じ め に 耳 鼻咽 喉 科 の 日常 臨床 の場 で, 耳 鳴の訴 え を 聴 く機 会 はか な り多いか , その ほ とん どは, 忠 者 の み に き こ え る真 性 の 耳 鳴 で あ る. しか し, 時 に は 患 者 自身 の み な らず 他 の 人 もき くこ とが で き る. い わ ゆ る他 覚 的 耳 鳴 の症 例 に遭 遇 す る こ とか あ る. 今 回 わ れ われ は, この よ うな他覚 的 耳 鳴 の3 症 例 を経 験 したの で報 告 す る. 症 例 症 例 l :40-才, 女 主 訴 :右 耳 嶋 既 往 歴 :薬疹 家族 歴 :特 記 す べ き事 項 tJ:し 現病 歴 :昭 和 55年 9月頃 よ リ,何 ら誘 因な く, 右 の 耳 鳴 か 出現 す る. 耳 鳴 は 「ザ ー ザ ー 」 とい う音 で右 側 頚 部 圧 迫 に て軽 快 す る こ とに も気 づ い て い た. 他 に症 状 か な いの で放置 していたか, 増 強 す る傾 向 に あ るため. 昭和 56年 11月 7 R, 榔 覇市 立病 院 耳 鼻 咽 喉 手斗を受 診 した. 初 診 時 所 見 :鼓 膜 は 両耳 共 に正 常. 純 音 聴 力 検 査 では, 両 耳 共 に正 常 範 囲 内 に あ った か 右 耳 の 方 か よ り聴 力 は 良 好 で あ った. イ ン ピー ダ ン ス オー ジ オ メ トリ- では、tympanogra111は両 耳 共 にA型, 耳 小骨 筋 反射 は 検 出 さiL7cLLLか った. 耳部 レ線 検 査 で も異常 所 見 を認 め なか った. 経 過 :初 診 の 時 点 で 中耳 伝 書 系の 何 らか の 障 害 を考 え, しは ら く外来 に て ら.,I,_"馴 空処 乱 耳 管 通 気 tcL・ど を行 って い たか. 耳 鳴 の 消 失 は 得 られ なか った. 初 診 よ り約 2ヵ月経 過 した時 点 で, 患者 本 人 よ り 「自分 の子 供 達 に もきこ え る」 とい う情報 が得 られ た. こ こで初 め て他覚 的 耳鳴 を疑 い, 右 耳 に オ トス コー プ を試 み た ところ,脈川 に一 致 し た 雑 音 が 明 l酎 二聴 取 され , しか も右側 の 頒動 脈 部 の圧 迫 で, この 雑音 は 消失 した. この こ とよ り, 右 耳 r蜘ま血管性 雑 III・と考 え, 血.管造 影 を施 行 した. しか し, 外 頚動脈
, 内勤動脈 jl二に走行 異常 , mass,poolingな どの異常陰影 を認 め ず,F
馴桐「
Ⅰ
に お い て も異常 を認 め なか った. 本症 例 に お いて は,」山管 造;
掛 こて特 に 輿1fJ,を 認 め ず, しか も類 部 の軽 度 の圧 迫 に よって耳 鳴 の 消失 か 認 め られ た こ とか ら, F'酬)
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甘l兼 の他 覚 的 耳 鳴, す な わ ち本態性 他覚的IIJ嶋 と考 え ら れ た. 現 有1 脳 神 経 外科学的検 索 を含め経過観 察 中 で あ る. 症 例2 :7/i一 男 主 訴 二右 叶鳴 既 往 歴 な らび に家族歴 :
特 記す べ き事
項 tcL.し 現 病 歴 :フ己来健 康 で あ ったが、Ll銅 1157年5H 中 旬 頃, 蛸 い右Lr
痛 を覚 え, その3ET後か ら右 側 の耳 鳴 に気 づ くよ うに な った. 甘l畑 ま全 く突 然 に 発生 し, ジュ ジュ とい う評 で数 分持 続 した 後に消 失 す る.叫 畑土1
日に数 ld
出現 し.
母親 i)何 度 か聴 取 して い る. しか しLH崎の ほ か に と くに症 状 を訴 え る こ とは tcLLい. 昭 和57年6ノ」8 日, 右 耳 嶋精 査 の ため に )jl''.FJW J'立病 院 qL),川qL保 科 を受 診 した. 初 診 峠 所 見 :鼓膜 は両叶共 にjl・-_常.純苦聴力
検 査 て・は,TLIJJ耳 共 にJI三常々
r^掴I内 で あ ったか イン他覚的耳鳴の 3症例
ピー タ ン ス オー ジ オ メ トリー では,両耳共 に tympanogramにおけ るpressure peakは除圧に認 め られ た. 経過 :オ トス コ- 70に よる耳鳴の確 認 は で き なか ったが, 経過 よ り, 咽頭 耳管 開 口部 の 筋内 の痩 轡 に よる もの と考 え, 如咽 旺処 置
,
消 炎剤 投与 を行 った とこ ろ, 2週 目頃 よ り叶嶋 の 発生 回数 が著 IJJjに減 少 し,約1ヵ月後には全 く発生 しな くな った.約3
ヵ月間の経過 観察 に て も. II鴫の訴 えは な く治癒 した もの と考 え られ る. 症例 3 :7才 男 主訴 :lll珊川耳鳴既
往歴 な らびに家 族歴 :特 記すべ き串
項 な し 現病 歴 :昭和57年 3月頃 よ り, 両 側の耳 の 中 で時計 の鳴 るよ うな音 がす るの に気づ いた. 耳 鳴 は周匪Jの者 に も聴 取 され,睡眠 中に は消失 す る とい う.他 に症状 を訴 え るこ とは ないが, 精 査 目的の ため, 某 甘め科 よ り琉球 大学 附 属病 院耳
如LlBIT喉fニトを訂Jl
介 され, Ⅰ司年5
月に受 診す る. 初 診時所 見 :鼓膜は両耳 共 に正 常 .純音聴 力 検 査 では,l山j耳共 に正 常 範囲 内 で. イン ピー ダ ンス検 査 では. Iih5月J共 にtympanogramでA型 を 示 した. 叶部 レ線検 査にお いて と くに異常 を認 Flg,.1. T)ck-like mOVemenL Or the sort palate dL‖ingLhc persistence orthe objectJVe tLnmLus・ 309 め なか った.耳鳴 に一 致 Lて軟 Lj蓋 の痩 轡 を認 め た(Fig1). 経 過 :初 診時, 軟 口蓋の痩 撃 に よ る他覚 的叶 嶋 と診 断
し
, 餅 囲陛処 置. 薬物療 法 に て経過 観 察 中 であ る. 考 察 一 般 に, 他覚 的 月1嶋は成瀬 l)によれば.その成 因に よって, 1) 血管性 耳鳴,2)筋 肉性 耳LJ.I.:i. 3)その他 に分 相 され る. 血管性 耳鳴 は さ らに, 心 臓 自体 の障害 に よる もの と.動 脈や 静脈 の輿
常 に よ る もの とに分 け られ る. 筋 肉性 耳鳴 に は, 鼓室 内お よび耳管 内 筋 肉の 痘 撃 に よ る もの と, 軟 口蓋 の症 撃 に よ る もの と が あ る. 症 例 1に お いては, 耳鳴が 脈拍 に 同調 してお I), 空自部 の圧 迫 に て消失 す るこ とよ り. 血管′IyJ三 耳鳴 であ るこ とは疑 いか な い. しか し,血管造 影に よって と くに 輿骨 を認め な い こ と,頭 位 に よる変 化 は 認め られ ないが, 鞠部 を軽度 に圧 迫 す る と消失 す るこ と, 2年 間の経 過 を通 じて著 明 tcL-変化が 出現 してい teL-い こ とな どよ り, 静脈 性 に よる耳l胤 す なわ ち本態性 他覚 的 耳鳴 が 考 え られ た. Crafre2)に よれば,本態性 他覚 的耳鳴の診断基 準 と して次 の 10項El3)が あげ られ て い る. 1.他 の疾 患や 外傷 を伴 わず 急 激 に 発症 す る こ と 2. 1年 以上 変 化せ ず に持 続す るこ と 3.他見 的 耳鳴が は っ き り認め られ る こ と 4.明 らか に一 側性 であ るこ と 5 脈拍 と同期 してい る こ と 6 頭 位 の変化 に よ り耳喝 が変 化 す る こ と 7.頭 蓋 内圧 了亡進症 状 が な い こ と 8.拍動 性 眼球 突 出が tJ:い こ と 9 頭 蓋 外の動 脈 に奇 形が ない こ と 10.脳 血管造 影 て共常 を認め な い こ と 吉 田 ら3)(1977)の報告 では,本邦 での. 血,^ur: 性 他覚 的月1I.r与の症 例 は, 昭和52年 までに56例報 告 され てお り, 成 LkJ別 にみ る と,動 脈性21例 ,310 仲 程 一博 ほか 静 脈 性 11例 , 貧 血 に よ る もの9例 , 腫 壕 に よ る もの4例 , その他 11例 とな って い る. 本 態性 他 覚 的 耳 鳴 は, 静 脈 系 由 来 ではあ るが, 血管 造影 で静 脈 系 に何 ら異常 を認 め ず , また頚 部 の 回転 や 頭 位 の 変 化 に よ って耳 鳴 の性 状 が 変 化 す る こ とか重 要 な 所 見 とされ る. 津 田 ら4)は 3才 の小 児 で の報 告 をお こな って い るが, 本症 例 に お いて も, 先 に述 べ たGraffeの条件 を大 む ね満 た して い る と考 え られ る. 治療 に関 して は, 動 脈 痛 , 動 静 脈 奇 形, 腫壕 に よ る もの な どは, 原疾 患 の 治療 が先 ず優 先 さ れ る.静 脈性 耳 鳴 に対 して も外科 的 治療 が お こ な われ る場 合 もあ る5)が,Hentzer6)は長 期 に わ た る経 過 観 察症 例 を基礎 と して, 数 週 間 か ら,10 年 後 に耳 鳴 が 自然 に消 失 した例 の 多いこ とよ り, 経過 観 察 をす す め て い る. 症 例2は 耳 鳴 が 突 然 に始 ま り, 脈 拍 と一 致せ ず, また突 然 に 消 失 す る こ とよ り, 筋 肉の痘 轡 に よ る耳 鳴 が考 え られ, 症 例3に お いて は, 耳 鳴 が 発生 す る際, 軟 口蓋 の痘 撃 を認 め て い る. 筋 肉性 の他 覚 的 耳 鳴 をお こ し うる音 源 は, 鍾 沢7)らに よれ ば 1.軟 口蓋 a)軟 口蓋 が 咽頭 後 壁 と離 着 す る者
b
) 軟 口蓋 筋 自身 の収 縮 普 2,耳 管a
) 耳 管 管 腔 の 離着 音b
) 耳 管 管 内 の 空 気 の通 過 音 3.鼓 室 :耳 内 筋収 縮 昔 が 考 え られ て い る. 治療 と して, ア ブ ミ骨 筋 に よ る耳 鳴 につ いて は, アブ ミ骨 筋 艇 の切 断 が 有効 で あ る.7)8)軟 口 蓋や 耳 管 の 筋 肉の痩 撃 に よ る耳 鳴 につ い て は, 外科 的療 法 は一 般 に お こ なわ れ ず,鼻咽腔処 嵐 耳管 通 気, トラ ン キ ラ イザ ー の投 与 , 精 神 療 法 な どが 試 み られ て い る.6)9)10) 症例 2お よび 3は, 鼻 咽 腔処 置 お よび消 炎剤 を中心 と した薬 物療 法 で 治療 を試 み たが , 症 例 2は 治療 開始 後1ヵ月 で全 く耳 鳴 の 発生 をみ な くな った.症 例3は, 末 だ効 果 は十 分 で な く, 尚 しば ら くの経過 観 察 が 必要 と考 えて い る. 結 語 他 覚 的 耳 鳴 の3症 例 , す な わ ち 1例 は血管性 耳 鳴 で, 静 脈性 由来 が疑 わ れ た症 例 , 残 りの2 例 は 耳管 部 お よび軟 口蓋 の疫 轡 に よ る筋 肉性 耳 鳴 につ い て臨床 経 過 を述 べ , その 原 因 と治療 に つ い て文 献 的 考 察 を加 えた. 本論 文 の要 旨は, 第17回 日本 耳 鼻咽 喉科 学 会 沖 縄 県地 方部 会学 術 講 演 会 に て 発表 した. 文 献 1)成瀬紀雄 :軟 口蓋間代性痩轡に因る他党的耳 鳴の一例.耳iL上臨床36,239-253,1941. 2)Craffe,W..・ 6) よ り引 用 3)吉 田奉行, 岡本 健,吉 田昭乳 小名 愛, 池田正夫 :血管性他覚的耳鳴について.耳_iJ:,I_ 臨床70,631-640,1977. 4)津 田祥 明,西 田裕明 :血管性他覚 的耳鳴の1 症例 .耳良咽喉科47,619-623,1975. 5)沼倉 昌雄 :血管性他見的耳鳴の 1例.耳馴 囲 喉不斗39,931-935,1967.6)Hentzer,E.:Objectivetinnitusorthe vasculartype-Arollowupstudy.Acta. Oto-laryng.,66,2731281,1968. 7)熊沢忠窮,本庄 巌,本 田啓二, 岡野書博, 末広恵三 :他覚 的隔意的耳鳴の検討.耳厨臨 床66,387-392,1973. 8)渡辺 的,隈上秀伯,津 田神 明 :アブ ミ骨筋 異常収縮に伴 う耳鳴について.Audiology16, 81-88,1973. 9)水野正浩,切替一郎 :アブ ミ骨馴 生耳鳴の1 治験例 .耳由臨床72,745-750,1979. 10)白幡雄一,笠原行書 :軟 口蓋間代性痩撃 を伴 う所謂他覚的耳鳴症 の1
例.
打_L'・-1展望17,231 -239,1974.311
Case Report of Objective Tinnitus
Kazuhiro Nakahodo, Nobuo Chinen, Kohei Sueno,
Yutaka Noda
andYoshio Nadoyama'
Department of Otorhinolaryngology, School of Medicine, University of the Ryukyus 'Department of Otorhinolaryngology, Naha City Hospital
Three cases of objective tinnitus were presented.
Case 1 was 40-year-old female, whose complaint was a pulsative sound of the right ear. The sound was objectively audible by use of an otoscope and was able to stop when her right carotid region was pressed. The sound was the only complaint and the right carotid angiogram revealed no abnormal finding. Therefor the tinnitus the patient complained of was considered to be due to a venous ongm.
Case 2, and case 3 were both 7-year-old children with objective tinnitus originating from the muscular movement. In case 2, the tinnitus disappeared by conservative therapy. In case 3, a tick-like movement of the soft palate was observed during the persistence of the objective tinnitus. And the tinnitus was not audible during sleep.
Clinical findings, diagnostic methods and treatments on three cases of the objective tinnitus were described and the suspected origins of the objective tinnitus were discussed.