27 連載①「わが街の IPW」
わが街の IPW
連載①
栃木県大田原市の多職種間連携
-多職種間連携の中核としての役割期待と行政と
教育の組織間連携-
下井俊典
下井俊典 国際医療福祉大学福岡保健医療学部理学療法学科 〒 831-8501 福岡県大川市榎津 137-1TEL : 0944-89-2000 E-mail : [email protected] 国際医療福祉大学福岡保健医療学部理学療法学科 1.はじめに 栃木県大田原市は県の北東部に位置し,源平合 戦の屋島の戦いで,波で揺れる舟の上に平氏が立 てた扇の的を見事射落としたことで有名な那須与 一ゆかりの地である。平成 17 年 10 月に,黒羽 町,湯津上村と合併して現在に至る。令和 2 年 1 月 1 日現在,人口 70,896 人,高齢者数 20,749 人, 高齢化率 29.27%,要介護認定率 17.59%となっ ており,要介護認定率が県と比較して高い地域で もある。介護保険制度が平成 12 年 4 月に開始さ れて以降,大田原市で行われている地域支援事業 には,市内の国際医療福祉大学との行政 - 教育の 組織間連携を含めて,これまで多くの保健医療福 祉の専門職が多面的に関わってきた。本稿では, 大田原市で実践している特徴的な取り組みにおけ る多職種間連携(IPW)について報告する。 2.大田原市の特徴 ①高齢者ほほえみセンターの整備 大田原市は,地区公民館や自治公民館とは別に, 「高齢者ほほえみセンター」という介護予防の為 の拠点施設を地域に整備した。高齢者ほほえみセ ンターの事業は,地域住民の組織が中心となって 運営され,保健予防活動や生きがい対策事業を実 施している。同センターは小学校区単位に整備を 進め,平成 11 年度に市内4か所からスタートし, 現在は市内 24 か所となっている。 ②行政組織の中に介護予防に特化した係を編成 平成 18 年 4 月からの介護保険法改正における, 予防重視型システムへの転換に対応することを見 越し,平成 17 年の市町村合併と同時に全国でも 珍しい介護予防の推進に特化する部署として「介 護予防係」が編成された。この介護予防係は,保 健師,看護師,理学療法士,管理栄養士等の専門 職だけで構成される専門職集団で,現在は,地域 支援係として,介護予防・日常生活支援総合事業 と包括的支援事業等を中心とした事業を展開して いる。 3.介護予防普及啓発事業 介護予防事業を実施するにあたり,既に介護予
28 保健医療福祉連携 13 巻 1 号 防の拠点施設として整備していた高齢者ほほえみ センターを中心に,平成 18 年度から介護予防普 及啓発事業を実施してきた。予防重視型システム の介護予防事業として,住民に対する普及啓発を 行い,運動器の機能維持・向上を目的とした運動 (通称「与一いきいき体操」)を柱とした事業を展 開した。この与一いきいき体操は,平成 16 年度 に市と国際医療福祉大学とが協働して作成したも のである。また運動器の機能向上のみでなく,低 栄養予防,口腔ケア,認知症予防,フットケア等, 多方面の知識の普及啓発を行った。 同事業では,市の介護予防係が中心となり,国 際医療福祉大学から理学療法士,作業療法士,言 語聴覚士,栃木県歯科衛生士会から歯科衛生士等, 様々な専門職が携わっている。さらに,介護予防 に関する市民アンケート結果によって,白内障な ど,目の病気についての課題が大きいことが明ら かとなったため,平成 26 年度からは同大学の視 能訓練士が同事業に加わった。 現在は,リハビリテーション専門職が参加者に 対して介入している内容について,他職種間で年 に1回情報を共有している。互いの職種がどのよ うに普及啓発を行っているかを知ることで,より 質の高い事業が実施できていると考える。また, 行政だけでなく,大学と協働することで,体力測 定結果の参加者へのフィードバックや事業評価を 適時的に行うことが可能となっている。 4.自立支援型介護予防ケアマネジメント検 討会 介護保険法の改正に伴い,平成 27 年度から, 地域ケア個別推進会議として「自立支援型介護予 防ケアマネジメント検討会」を開催している。同 検討会は,要介護認定の軽度認定者(要支援1・2, 要介護1)に介護予防ケアマネジメントから個別 課題の確認と,生活行為の現状評価と予後予測を 行い,自立した生活を送るための支援について検 討する会議である。 リハビリテーション専門職は運動機能や精神機 能の能力を鑑みて,今後その機能は改善する余地 があるのか,改善しないのであればどのような支 援が必要であるかを予後予測できる。そのため, ケアマネジャーはリハビリテーション専門職と相 談しながら支援を進めていくことが重要であり, この検討会がその役割の一つとなっている。また, 同じ事例であっても,職種によって注目する視点 が異なるため,ケアマネジャーだけでなく,参加 者全員にとって様々な気付きにつながっている。 現在は,理学療法士,作業療法士,主任ケアマネ ジャーがアドバイザーの中心となり,さらに生活 支援コーディネータ―,認知症地域支援推進員, 事例の対象者にサービスを提供している介護サー ビス事業所の職員が検討会に加わることもある。 今後はアドバイザーとして薬剤師が参加していく 予定となっている。本検討会で高齢者への適切な 支援を図るために必要な検討を行い,高齢者が住 み慣れた地域で自立した日常生活を営むための支 援体制を構築していく計画となっている。 5.在宅医療・介護連携推進事業における多 職種連携会議 大田原市では,予防事業に加えて,平成 27 年 11 月に医療・介護の専門職及び,行政の代表者 が集まり「大田原市地域包括ケアを考える会」を 発足させた。本事業は,医療と介護の両方を必要 とする状態の高齢者が,住み慣れた地域で自分ら しい暮らしを人生の最後まで続けることができる よう,在宅医療と介護を一体的に提供するために 医療機関と介護事業所等の関係者の連携を推進す ることを目的にしている。医療・介護サービス提 供者が現場レベルで「顔の見える関係」を構築し, 地域課題を抽出し必要なサービスにつなげられる よう,多職種連携のきっかけとなる会として実施 している。 現在は,「医療・介護顔の見える関係会議」も 開催しており,医師,歯科医師,薬剤師,訪問看 護師,ケアマネジャー,介護サービス事業所,基 幹病院地域連携室職員,理学療法士,作業療法士, 言語聴覚士,地域包括支援センター職員,社会福 祉協議会職員,行政職員等を対象にしており,参 加者からは「多職種の方と交流することで地域の 連携について関係が深まった」などの意見があり, 他職種の考えを取り入れることで自分の考えを深 めるよい機会となっている。
29 連載①「わが街の IPW」 【おわりに】 大田原市は,市内に国際医療福祉大学を有し, 医療や福祉の専門職が揃っていたことから,様々 な職種が地域の介護予防事業等に関わることがで きた。さらに保健師,看護師だけでなく,リハビ リテーション専門職である理学療法士が行政職と して採用されていたことが,大田原市が多職種連 携をスムーズに進められてきた要因の一つである と考える。 平成 30 年度の地域包括ケアシステム構築状況 調査において,大田原市は総合評価県内1位と なった。行政 - 教育間の組織間を含めた多職種連 携がこの要因の一つとなっていると考える。 また地域包括ケアシステムの構築を行っていく 上で,保健医療福祉の連携は必須である。行政は 医療職や介護職などが連携協働できるような場を 積極的に提供することで,地域における病院や施 設を超えた多職種間連携(IPW)を推進する役割 を期待されている。今後は,このような取り組み に,多職種が積極的に関わることで,質の高い保 健医療福祉サービスの提供につなげていきたい。