1. はじめに
近 年 は 無 人 航 空 機(UAV:Unmanned Aerial Vehicle)としてマルチコプター(回転翼機)の性 能が向上し,自然災害調査の分野で活用性が検討さ れている1)。また,写真の二次元イメージから三次 元 の 構 造を 推 定 する技 術(SfM:Structure from Motion)が開発され,低価格となった画像処理ソフ トウェアを用いて PC 上で三次元モデルの作成が可 能となっている。ソフトウェアでは三次元モデルか ら正射投影の写真(オルソ)や地表面の標高モデル (DSM:Digital Surface Model)が作成できること から,SfMの災害調査への活用性2)や地形学的な 応用3)が検討され,UAV で撮影した複数の写真を SfM 処理することで地形の三次元的なモデリングが 可能となっている4)。 積雪の分野では,無雪期と積雪期に UAV で撮影 した写真を SfM 処理して作成した 2 時期の三次元モ デルを比較した調査5)~ 11 )や,積雪期に UAV で撮 影した写真を SfM 処理して作成した DSMと無雪期 の測量データを比較した調査12 )13 )によって,積雪深 の推定が行われている。また,建築の分野では屋根 雪の積雪深調査に UAV が活用されている14 )~ 16 )。 雪崩に関しては,2014(平成 26 )年 2月の関東甲信 大雪時に航空機で撮影した空中写真を用いて,SfM による雪崩発生状況の解析が行われている17 )。また, 人工的に発生させた雪崩の静止画と動画を UAV で技術論文
日本雪工学会論文集 J. of Snow Eng. of Japan Vol.37 No.2, 17-28, April 2021Original
小型UAVを用いた全層雪崩と雪崩デブリの測定
Measurement of Full-depth Avalanches and Avalanche Debris
using Small Unmanned Aerial Vehicles
秋 山 一 弥
*1・松 下 拓 樹
*2・塚 原 直 幸
*3Kazuya Akiyama
Hiroki Matsushita Naoyuki Tsukahara
※本論文は第 35 回寒地技術シンポジウムで発表した内容25 )を基本として,加筆修正を行ったものである。 * 1 前 土木研究所雪崩・地すべり研究センター / 筑波大学生命環境系(現 砂防フロンティア整備推進機構) * 2 前 土木研究所雪崩・地すべり研究センター(現 寒地土木研究所) * 3 前 筑波大学生命環境系(現 日本海コンサルタント) [本稿受理:2020 年 7 月 26 日,修正原稿受理:2021 年 2 月 7 日,討論期限:2022 年 2 月 6 日]SYNOPSIS
The authors surveyed two wet slab full-depth avalanches using two quad-rotor unmanned helicopters as a small UAV (unmanned aerial vehicle) in Myoko, Niigata Prefecture. Three-dimensional model of avalanche was created with SfM (Structure from Motion) software from aerial photographs taken by UAVs, and geometry of avalanches, such as the inclination of release or deposit zone and horizontal run-out distance was measured with GIS software using orthophoto and DSM (Digital Surface Model) data. In addition, 500 snowball particles of avalanche debris were analyzed with freeware ImageJ from one aerial photograph. As a result, numerical information of avalanche geometry and snowball particles of avalanche debris can be acquired with UAV-based aerial photographs and SfM software. Although further verification is necessary, UAVs are useful in avalanche surveys because of low cost, high mobility and obtaining numerical data.
keywords: Full-depth avalanche, Unmanned aerial vehicle (UAV), Structure from Motion (SfM), Geometry of avalanche, Avalanche debris
撮影して,雪崩の動態解析18 )や数値シミュレーショ ンに関する調査19 )20 )が行われている。栃木県那須町 で 2017(平成 29 )年 3 月に発生した表層雪崩災害で は,UAV で撮影した写真をSfM 処理して作成した DSMと無雪期の測量データを用いた調査21 )22 )が行 われ,DSM は雪崩の数値シミュレーションにも活用 されている23 )24 )。 雪崩の現地調査を実施する場合,発生区は到達が 困難なうえ危険を伴うため,通常は堆積区の周辺で 行うことが多い。また,痕跡が長期間残る土砂災害 と異なり,雪崩の痕跡は降雪や融雪によって短期間 で変化するため,迅速に調査を行う必要がある。航 空機やヘリコプターを用いた調査に比べて UAV は 経済的で機動性に優れ,低空で飛行するため撮影し た写真の解像度が高く,雪崩の発生区から堆積区ま での状況を詳細に把握する有力な調査手法として期 待される。しかし,UAVを用いた雪崩の調査事例は 少なく,災害時の調査などに必要な雪崩の数値情報 の取得についての知見が不足している状況である。 このため,本研究では新潟県妙高市内の 2 箇所で 発生した全層雪崩を対象として,小型の UAV であ るマルチコプターを用いて全層雪崩と雪崩堆積物 (雪崩デブリ)の測定を行い,雪崩に関する数値情報 を取得するとともに,UAV 調査の有用性と課題を明 らかにすることを目的とした25 )。
2.調査地域と雪崩の概要
調査地域は新潟県妙高市の南方に位置する土路 (どろ)地区と樽本地区で,それぞれの地区で発生 した雪崩を調査の対象とした(図 1 )。現地調査では 雪崩の状況を目視や踏査で確認して,積雪の状況を 把握するために雪崩の堆積区周辺で積雪断面観測を 行った。UAVの調査では,現地で上空から雪崩とそ の周辺を撮影した後に,室内で PCを用いた作業を 行った。なお,調査はできるだけ経済的に行うこと を念頭において,UAV は一般でも入手可能な市販 のマルチコプターを用いるとともに,現地では軽量 で簡易な機材を用いて 2 ~ 3 名の人員で調査を行っ た。 2.1 土路地区で発生した雪崩の状況 土路地区では 2015(平成 27 )年 3 月 5 日に雪崩の 痕跡を確認したが,雪崩は発生区の地表が露出して いる状態で,谷状の斜面の上部から発生して水田を 覆う積雪上に堆積していた(写真 1 )。現地調査とし て,翌日の 3 月 6 日に雪崩の堆積区末端から発生区 直下までの区間を踏査するとともに,写真 1に示す 堆積区付近の斜面(標高 448m)で積雪断面観測を 行った。観測の結果は図2のとおり積雪深は 269cm, 雪温は全層が 0 ℃,雪質は全てざらめ雪で,スノー サンプラーで測定した全層平均密度は 388kg/m3で あった。以上の状況から,発生した雪崩の種類は面 発生湿雪全層雪崩である。 次に,雪崩の発生を確認した 3 月 5 日前後の気象に ついて,土路地区から北西へ約 5 kmに位置するアメ 図1 調査地域(新潟県妙高市土路・樽本地区) 写真1 土路地区で発生した雪崩の状況 ( 2015 年 3 月 5 日 16 時)ダス関山(図 1 )の気温と積雪( 1 時間値)の推移を 図 3 に示す。なお,降雪量は 1 時間あたりの積雪深差 (増加分)である。雪崩の発生を確認した 3 月 5 日の 直前は 2 月 27 日と 3 月 2 日以外にまとまった降雪はな く,3 月 3 日以降は気温が連続的に 0 ℃を上回り,最 高気温は 8.4℃( 3 月 4 日)であった。雪崩の発生を 確認した 3 月 5 日の時点では,発生区や走路,堆積区 に積もった降雪がなかったことから(写真 1 ),3 月 2 日の降雪終了後から 5 日の現地確認までの期間に全 層雪崩が発生したと推定された。 2.2 樽本地区で発生した雪崩の状況 樽本地区では 2017(平成 29 )年 3 月27日に雪崩の 痕跡を確認したが,雪崩は発生区の地表が露出して いる状態で,平滑状の斜面の上部から発生して斜面の 下部に堆積していた(写真 2 )。翌日の 3 月28日に現 地調査を行ったが,斜面の直下に川が流れていて到 達が困難なため踏査は行わず,堆積区から水平方向 に離れた平地(写真 2 を撮影した標高 602mの位置) で積雪断面観測を実施した。観測の結果は図 4 のと おり積雪深は 182cm,雪温は全層が 0 ℃で,雪質は 新雪( 1 %),こしまり雪( 2 %),しまり雪( 21%), 図2 積雪断面の状況と雪温・雪質(土路地区) 図3 アメダス関山における気温・積雪の推移と 土路地区で発生した全層雪崩の関係 写真2 樽本地区で発生した雪崩の状況 ( 2017 年 3 月 27 日 17 時 ) 図4 積雪断面の状況と雪温・雪質(樽本地区)
ざらめ雪と氷板( 76%)から構成されていた。なお, 全層平均密度は測定する機材が準備できなかったた め不明である。以上の状況から,発生した雪崩の種 類は土路地区と同様に面発生湿雪全層雪崩である。 次に,雪崩の発生を確認した 3 月 27 日前後の気象 について,樽本地区から北西へ約 7 kmに位置するア メダス関山(図 1 )の気温と積雪( 1 時間値)の推 移を図 5 に示す。雪崩の発生を確認した 3 月 27 日の 直前は 3 月 23 日から 24 日の期間以外にまとまった降 雪はなく,3 月 25 日と 26 日の夜間以外は気温が 0℃ を上回り,最高気温は 9.2℃( 3 月 26 日)であった。 雪崩の発生を確認した 3 月 27 日の時点では,発生区 や走路,堆積区に積もった降雪がなかったことから (写真 2 ),3 月 24 日の降雪終了後から 27 日の現地確 認までの期間に全層雪崩が発生したと推定された。
3.UAV を用いた調査の方法
3.1 UAV の撮影とオルソ・DSM の作成方法 UAVを用いた調査では,次の手順で現地の撮影 と室内の PCを用いた作業を行い,オルソとDSMを 作成した。 (1) 雪崩の発生区から堆積区までの区域とその周辺 を網羅するように UAV を飛行させて,鉛直方向 の撮影を行った。 (2) 二次元のイメージから三次元シーンの構造を推 定可能な3 DモデリングソフトのAgisoft PhotoScan Professional Ver.1.2(以下,PhotoScan と略記) を用いて,複数の写真から三次元モデルを作成した。 (3) 座標の基準として PhotoScan で三次元モデルに複数の基準点(GCP:Ground Control Point) を設定し,平面直角座標(新潟県の座標はⅧ系) を付与してオルソと DSM を作成した。 ここで GCPについては,( 1 )の撮影前に現地で 対空標識を設置して写真上の標識に座標を付与する 方法と,( 3 )のオルソ上にある特定の地物に座標を 付与する方法がある。なお,高精度の DSM を作成 するには,最低でも対象とする範囲の4隅と中心の 5 点にGCPを設定することが理想である。 3.2 雪崩の地形的な要素と規模に関する数値の取得 方法 前述の 3.1 で作成したオルソとDSMを用いて,次 の手順で雪崩の地形的な要素(以下,地形要素と略 記)と規模に関する数値を取得した。
(1) オ ル ソと DSM を GIS ソフトの ArcGIS Ver. 10.5(以下,ArcGIS と略記)にロードして,オル ソから全層雪崩の痕跡の判読を行った。 (2) ArcGIS を用いて,雪崩の発生区や走路,堆積 区の外周を多辺図形(ポリゴン),雪崩の経路とし て発生区の上端から堆積区の下端までの中心線を 線(ライン)で図形化した。 (3) ArcGIS を用いて,ポリゴンとラインから図 6 に示す雪崩の地形要素や規模に関する数値を取得 した。 雪崩の地形要素については,発生区の標高(発生 区上端の位置)・勾配・面積(水平投影),堆積区 の標高(堆積区下端の位置)・勾配および到達距離 (水平投影),走路の幅を測定の対象とした。なお, 標高と長さは空中写真判読による調査結果26 )と同様 に m 単位で取得し,雪崩の落差や直接見通し角は標 高や到達距離から計算した。 雪崩の規模としての発生量については,発生区面 積(水平投影)を発生区勾配の余弦(cos)で除した 実際の発生区面積に発生深さを乗じて算定した(図 6 )。雪崩の発生深さの調査事例として,海外と国内 の比較的規模の大きい約 200 件の面発生雪崩の雪崩 層の厚さは最大 4.2m であり27 ),国内の記録では最 図5 アメダス関山における気温・積雪の推移と 樽本地区で発生した全層雪崩の関係
大級である面発生乾雪表層雪崩の始動積雪深は 3.4m であった28 )。本研究では面発生の全層雪崩が対象 で,雪崩の発生深さは発生区の積雪深と同一で数 m 程度と考えられるが,深さを m 単位で取得すると整 数値しか算定できず発生量の誤差が大きくなること から,20cm 単位で取得することを目標とした。 3.3 土路地区で実施した UAV 調査の方法 土路地区で使用した小型UAVはDJI製のPhantom 2 Vision+ で,雪崩の撮影は 2015 年 3 月 9 日に行った (写真 3 )。撮影時点では飛行や撮影を自動的に制御 する純正のアプリがなかったため,手動で飛行して 約 10 分間の鉛直方向の動画を撮影し,PC で動画か ら 1 秒毎に画像をキャプチャして 562 枚の写真を作成 した。 座標の基準となるGCPについては,UAVの撮影 前に GCP 用の標識を現地に設置できなかったため, 562 枚の写真からPhotoScan で作成したオルソ上の 地物を GCPとした。雪崩とその周辺にGCPとなる ような目印がオルソ上になかったことから,道路の 路面で目印となる 6 点の位置にGCPを設定し,Web 上で緯度・経度と高度の値が取得可能な地理院地 図と比較して座標を決定し,平面直角座標に変換し た。雪崩の地形要素に関する数値については,オル ソ上の GCPに座標を付与して DSMを作成し,前述 した 3.2 の( 1 )~( 3 )の手順で取得した。なお, Phantom 2 Vision+に標準搭載のカメラは広角で写 真の周囲に歪みが生じるが,特に補正は行わずに PhotoScanの自動補正機能でオルソを作成した。 ただし,調査後の 2016 年にUAV 公共測量マニュ アル(案)が発行され29 ),最近では動画から写真を 作成したり,撮影後に GCPを設定する方法はほと んど用いられていない。雪崩の地形要素に関する数 値は,発生区の深さを除いて取得することが可能で あったが,数値の検証は直接見通し角のみであった ため,詳細は既発表の内容25 )を参照されたい。 次に,雪崩の堆積区には写真 1のとおり雪崩デブ リが最大で約 5 mの厚さで堆積していたが,デブリ の表面には多数の雪塊がみられたため,雪塊の形 状に関する調査を行った。雪崩デブリの雪塊の調 査には,踏査によって直接測定する方法や,写真を 撮影して測定する方法30 )があるが,土路地区では UAV で堆積区全体の鉛直方向の写真を撮影して雪 塊の測定を行った。撮影時には雪崩デブリ上に 2 本 の測量用ポール( 20cm ずつ色分けされた伸縮性の 機材)をL字型に配置して,対空目盛として寸法の 基準とした。なお,撮影した写真の歪みについては, 図6 雪崩の地形要素(下図は発生区と 堆積区の詳細) 写真3 土路地区で使用した UAV (DJI Phantom 2 Vision+)
Adobe PhotoshopのCamera Rawプラグインを用い て補正を行った。 撮影した雪崩デブリの雪塊の測定には,画像処理 のフリーソフトであるImageJを用いた。ImageJに は粒子を自動的に認識して,粒子の外周を楕円に近 似して数値を取得する機能があるが,雪塊の自動抽 出は困難であったため,500 個の雪塊の外周を手動 で描画してポリゴンとして図形化し,写真上の測量 ポールの寸法を付与して測定を行った。 3.4 樽本地区で実施した UAV 調査の方法 樽本地区では,雪崩の発生を確認した翌日の 2017 年 3 月 28 日に現地で 2 点の基準点(対空標識)を設 置した。また,雪崩の発生区から堆積区までの区間 において,目視で残雪などの目印を計測点として 10 点設定し,基準点と計測点の合計で 12 点をGCPに 設定して簡易測量を行った(図 7 )。使用した機材は 写真 4 のとおりで,山岳地で使用するため軽量で可 搬性が良好な機材を準備した。 各機材の詳細は次のとおりである。 ① レーザ距離計(短距離用)・② レーザ距離計 (長距離用):測定可能範囲は順に約 200m,1000m で,測定精度は①が 1 mm,②は高質な目標物の 場合は 30cm,低質な目標物の場合は 1 m である。 ③ GPS:ハンディタイプのGPS であり,GNSS 測 量機よりも絶対的な座標の測定精度は劣るが,④ の基準点の平均位置測定を連続的に 5 回行い,5 回 目の測定値を採用した。なお,ハンディタイプの GPS は高度の誤差が大きいため, Web 上の地理院 地図に測定した緯度と経度を入力して地表面の標 高を決定して,測定地点の積雪深を加えて標高値 とした。 ④ 基準点(対空標識):雪崩の堆積区から水平方 向に離れた平地を覆う積雪の雪面上において,基 準点として対空標識を 2 点設置した(図 7 )。 ⑤ 方位計・コンパスグラス:④の基準点間の方位 を測定する機器で,0.5°まで読み取った。 ⑥ スタッフ(標尺):2 点の対空標識の上にスタッ フを垂直に立てて,基準点間の測定に用いた。 簡易測量では,局地座標として初めに基準点 1 を GPS で測定して原点の位置を決定し,基準点 2 との 間をレーザ距離計と方位計で測定して局地座標系で 用いる測量の基線とした。次に,レーザ距離計で各 基準点から 10 点の計測点を測定して,合計で 12 点の 緯度・経度と高度の座標を取得して平面直角座標に 変換し,調査範囲で用いる局地座標として設定した。 なお,屋外でレーザ距離計を使用する場合は測定 可能範囲が短くなるため,基準点間の測定では①を, 基準点から計測点の測定では②の機材を使用した。 現地では①が mm,②は mの単位まで測定できたた め,基準点間の距離の精度は 1 mm,各基準点から 10 点の計測点間における距離の精度は 1 m である。 図7 基準点と計測点の設定状況 写真4 樽本地区で使用した簡易測量の機材
樽本地区で使用した小型 UAV は DJI 製のMavic Pro で,雪崩の撮影は 2017 年 3 月 29 日に行った(写 真 5 )。飛行や撮影を自動的に制御するアプリは 2017 年 1 月 に 公 開 さ れ た DJI 製 のGround Station Pro (Ver.1.0 )を用いて,撮影のオーバーラップ率は 90%,サイドラップ率は 65%に設定して,自動で 2 経路を約 9 分間飛行して鉛直方向の写真を 70 枚撮影 した。次に,撮影した写真からPhotoScan でオルソ を作成したが,写真の歪みを高精度で補正するため, PhotoScanに付属するソフトウェアのAgisoft Lens で Mavic Proのカメラの歪みを補正するパラメータ を取得して作業に適用した。雪崩の地形要素に関す る数値については,オルソ上の 12 点のGCPに簡易 測量で得られた座標を付与して DSMを作成し,前 述した 3.2 の( 1 )~( 3 )の手順で取得した。 なお,樽本地区で発生した雪崩は到達が困難なう え,雪崩が小規模で堆積区の雪崩デブリが少なかっ たことから(写真 2 ),土路地区と同様の雪崩デブリ を対象とした調査は行わなかった。
4. 土路地区のUAV 調査で得られた雪崩デブ
リの雪塊の特徴
雪崩デブリの表面に分布する 500 個の雪塊につい て,ImageJを用いた解析の状況を図 8 に示す。堆積 区の上部に大きい径の雪塊は少ないが,全体的に大 きさに関係なく乱雑に堆積している状態で,人工雪 崩による雪崩デブリの雪塊の調査結果31 )と同様に, 雪崩デブリ先端からの距離によらず雪塊の大きさは ほぼ一様に分布していた。 次に,500 個の雪塊の円形度と長軸・短軸の長さ, 長軸の方位の頻度について,それぞれ図 9(a)~ (c)に示す。円形度は( 4 π×面積 / 輪郭長の 2 乗) 写真5 樽本地区で使用したUAV(DJI Mavic Pro) 図8 ImageJを用いた雪塊の解析状況で計算される値で,1 が正円で複雑な形状ほど値は 小さくなるが,頻度は 0.7 ~ 0.8 が最も高く雪塊はや や凹凸のある形状であった(図 9(a))。雪塊の長軸 の長さは最大 1.6m,最小 0.13m,平均値 0.54m で, 長軸と短軸の長さはいずれも 0.2 ~ 0.4mの頻度が最 も高かった(図 9(b))。一般的に,雪塊の大きさは 乾雪雪崩よりも湿雪雪崩の方が粒径分布の幅が広く 平均値も大きいが31 ),このような特徴が現れている と考えられる。雪塊の長軸の方位について,30°間隔 の頻度は図 9(c)のとおり雪崩の流下方向に対して 時計回りで- 30 ~ 0°の割合が 23%と最も多く,次 いで 0 ~ 30°は 19%で,雪崩の流下方向の割合が大 きい傾向であった。これは,流水によって礫が流向 に配列する覆瓦(ふくが)構造(インブリケーショ ン)と同様に,発生区で破断した全層雪崩の雪塊が 堆積する過程で流れによる作用を受けた可能性があ るが,雪崩の堆積状況だけで判断しているため,水 分が媒体となったのかは不明である。 以上のとおり,UAV は低空で撮影するため雪崩デ ブリの表面に分布する雪塊を明瞭に認識することが 可能で,多数の雪塊を測定する効率的な手法と考え られる。ただし,ImageJ では雪塊の外周を手動で 描画したため極めて小さい雪塊は抽出が困難で,図 9(b)の頻度は 0 ~ 0.2m が最も高くなる可能性があ る。また,写真の歪みを補正したものの,図 8 のと おり右下の電柱などが写真の周囲側に倒れ込んでい て歪みが残っている状態のため,図 9 の結果は若干 の誤差があると考えられる。
5.樽本地区で実施した UAV 調査の結果
UAV で撮影した写真からPhotoScan でオルソを 作成して,オルソ上の 12 点のGCPに座標を付与し た状況を図 10 に示す。雪崩の発生区から堆積区まで の範囲に GCP が設定されていて,DSMのメッシュ 図9 雪崩デブリの表面に分布する雪塊の円形度(a), 長軸・短軸の長さ(b),長軸の方位(c)の頻度 (Xは雪崩の流下方向) 図10 樽本地区におけるPhotoScan の作業状況サイズは 4.5cmとなった。オルソとDSMをArcGIS にロードして,オルソ上で雪崩を判読して外周のポ リゴンと経路のラインを作成し,1 m間隔の等高線を 重ねた結果を図 11に示す。なお,雪崩の痕跡を確認 した 2007 年 3 月 27 日は雪崩の発生区から堆積区まで が明瞭であったが(写真 2 ),簡易測量を行った 3 月 28 日には融雪によって発生区と走路の地表が露出し 始めていた.UAV で撮影した 3 月 29 日にはさらに地 表が露出する状況であったため,オルソ上の雪崩は 写真 2 の状況と比較しながら判読を行なった.等高 線が乱れている部分は樹木(ほとんどが落葉樹)が 分布する範囲で(写真 2 ),積雪や地表の表面ではな く枝や葉の位置で DSM が作成されたと考えられる が,雪崩の範囲は等高線の状況から積雪面と地表面 の DSM は正常に作成されたと判断した。 雪崩の地形要素を ArcGIS で測定した結果は表 1 のとおりで,標高や長さは m 単位で数値化が可能で あった。なお,検証として現地で雪崩の発生区上端 と堆積区下端をレーザ距離計で実測した結果,落差 と到達距離(水平最短)はそれぞれ 114mと 140m で,ArcGISの測定値と比較すると前者は同じであっ たが,後者は 1 mの差異があった。雪崩の発生深さ 図 11 樽本地区で発生した全層雪崩のオルソ(雪崩のポリゴン・ラインおよび 1m 間隔の等高線と標高値を重ねて表示し,四角の枠は図 12 の範囲) ඬ߶ ̾ ޱഓ ˅ ʤਭฑ౦Ӫʥ P ͠ ̾ ඬ߶ ̾ ޱഓ ˅ ʛ ̾ ̾ ̾ ̾ ˅ ˅ ؔંݡ௪ֱ͢ ਫ਼ۢ ۢ ౺ୣړʤਭฑ౦Ӫʥ ཚࠫ ંݡ௪ֱ͢ ૺ࿑ ౺ୣړʤਭฑ࠹ʥ 表1 樽本地区で発生した全層雪崩の地形要素 図 12 樽本地区で発生した全層雪崩の破断面付近の オルソ( 20cm 間隔の等高線を重ねて表示)
については,ArcGIS で発生区とその周辺の範囲(図 11 で示した四角の枠内)を対象として 20cmの間隔 で等高線を描いたところ,図 12 のとおり雪崩の破断 面付近で等高線が密となって段差が表現され,1.2m と算定された。ArcGIS で測定した発生深さは積雪 断面観測による平地の積雪深(図 4 )よりも小さい が,雪崩が発生した斜面と平地では一般的に積雪の 状況は異なるため,算定された 1.2mを発生深さの真 値と考えて雪崩の発生量は 228m3と推定された。な お,全層平均密度が測定できなかったため,雪崩の 質量は不明である。 以上のとおり,UAVを用いた撮影で雪崩の地形要 素だけでなく規模に関する数値の取得が可能で,写 真には UAVのGPS で取得した位置情報があること から,PhotoScanの処理は短時間( 1 日以内)で終 了した。レーザ距離計の測定精度および残雪などの 目印を計測点として決定したことから判断すると誤 差は 1mを超える可能性が高いが,雪崩の地形要素 は m 単位,発生深さは 20cm 単位で取得が可能で, UAV は雪崩の測定手法として活用度が高いと考えら れる。
6.まとめと課題
土路地区で発生した雪崩を対象とした UAVの調 査では,雪崩デブリに関しては良好な結果が得られ た。土路地区の地形要素に関する調査結果の詳細25 ) は本論で記載しなかったが,上空から写真を連続的 に撮影して,写真上の地物を基準点として座標を与 えて数値情報を把握することは可能で,例えば災害 時などの緊急的な概略調査として活用できると考え られる。 樽本地区で発生した雪崩を対象とした UAVの調 査では,雪崩の地形要素や規模に関して良好な結果 が得られた。雪崩の分野で UAVを用いた調査は経 済性に優れているうえ,機動性が高く迅速に調査が 可能で,SfM 処理で客観的な雪崩の数値情報を取得 できることから活用度は高いと考えられる。ただし, UAVを用いた調査で得られた測定値と現地での実 測値との比較は雪崩の落差と到達距離(水平最短) だけで不十分のため,今後の調査により様々な地形 要素で比較して精度を検証する必要がある。なお, 雪崩の種類の決定や質量の算定には積雪断面観測が 必須で,現地では UAVの撮影と同時に最低でも積 雪深,雪温,雪質,全層平均密度の 4 項目を測定す る必要がある。 UAVを用いた雪崩調査について,今後の課題は 次のとおりである。 1)調査に必要な機材の選定 現在では,人工衛星から送信された電波を利用す るGNSS 測量機が普及していて精度の高い座標が得 られるため,雪崩の周辺に GCPとして対空標識を 多数設置して測量できれば精度が向上する。また, 飛行位置を正確に把握することが可能な業務用の UAVを用いるとGCPの設定は不要で,撮影だけの 作業となり効率的である。ただし,これらの機材は 高価なうえ操作方法の習熟が必要で,対空標識を発 生区とその周辺に設置することは困難な場合が多い ことを踏まえて,調査に必要な機材は経済性や作業 人員を考慮して選定する必要がある。 2)雪崩デブリの表面に分布する雪塊の調査 土路地区では UAV で上空から雪崩デブリの撮影 を行ったが,表面に分布する雪塊を二次元で測定し た結果であり,表面の小さい雪塊や雪崩デブリ内部 の情報は得られていない。雪崩デブリに含まれる雪 塊全体を調査するには,UAVによる上空からの撮影 に加えて雪崩デブリの表面やデブリを掘削した断面 を地上で撮影して,それぞれの写真を ImageJ で解 析して結果を合成する方法が考えられる。 3)表層雪崩の調査 本研究で対象とした全層雪崩は発生区の地表が露 出していて,堆積区の雪崩デブリに土砂が混入する など,オルソを判読して雪崩の範囲を決定すること が容易であった。しかし,表層雪崩は色調の関係で 発生区自体が不明な場合が多く,雪崩の発生深さが 小さい場合は深さの算定が困難と考えられるため, 今後は調査事例を蓄積する必要がある。 なお,図 1の背景地図は地理院地図(国土地理院) から配信されたものであり,本論文は第 35 回寒地技 術シンポジウム(札幌市)で発表した内容25 )を加 筆・修正したものである。謝辞
土路地区の調査では,中村絵美氏と牧田孝一氏に 協力を頂いた。参考文献
1 ) 井上公,内山庄一郎,鈴木比奈子:自然災害調 査研究のためのマルチコプター空撮技術,防災 科学技術研究所研究報告,Vol.81,2014 年 2 月, pp.61-98. 2 ) 内山庄一郎,井上公,鈴木比奈子:SfM を用 いた三次元モデルの生成と災害調査への活用可 能性に関する研究,防災科学技術研究所研究報 告,Vol.81,2014 年 2 月,pp.37-60. 3 ) 早川裕弌,小花和宏之,齋藤仁,内山庄一郎: SfM 多視点ステレオ写真測量の地形学的応用, 地形,Vol.37,No.3,2016 年 7 月,pp.321-343. 4 ) 小花和宏之,早川裕弌,ゴメスクリストファー: UAV 空 撮と SfM を用いたアクセス困 難 地の 3 D モデリング,地形,Vol.35,No.3,2014 年 7 月,pp.283-294. 5 ) 内山庄一郎,上石勲,井上公,鈴木比奈子,丸 小有沙:SfM による積雪環境の三次元モデリン グと積雪深推定,雪氷研究大会( 2014・八戸) 講演要旨集,2014 年 9 月,p.259. 6 ) 小 花 和宏 之,河島 克 久,大前 宏 和:UAV リ モートセンシングによる積雪面の 3 次元計測お よび 積雪深の推定 - SfM-MVS 技術を用い て推定した積雪深の精度検証-,雪氷研究大会 ( 2015・松本)講演要旨集,2015 年 9 月,p.267. 7 ) 小花和宏之,河島克久,松元高峰,伊豫部勉, 大前宏和:小型 UAV を用いた積雪分布の 3 次 元 計 測, 雪 氷, Vol.78, No. 5, 2016年9月, pp.317- 328. 8 ) 松山洋,泉岳樹,酒井健吾,南里翔平:小型 無人航空機(UAV)を用いた積雪深分布の推 定と検証 -新潟県巻機山周辺を事例に-,日 本地理学会秋季学術大会発表要旨集,2016 年 9 月,p.85. 9 ) 荒川逸人,金高義,友松岳士:UAV 撮影画像 を用いた昭和基地の積雪深分布,雪氷研究大会 ( 2017・十日町)講演要旨集,2017 年 9 月,p.68. 10 ) 泉岳樹, 南里翔平, 松山洋:無人航空機 (UAV) を用いた積雪深分布の推定と検証 -新潟県巻 機山周辺を事例に-,日本地理学会秋季学術大 会発表要旨集,2017 年 9 月,p.107. 11 ) 和田直也,山田武,トラン・ディン・トゥン, 楠本成寿,杉浦幸之助:小型航空無人機を用い た写真測量による積雪深推定 -立山高山帯に おける事例-,雪氷研究大会( 2019・山形)講 演要旨集,2019 年 9 月,p.15. 12 ) 高橋浩司,長沼芳樹,本田秀樹,白川龍生:小 型 UAV による空撮画像を用いた積雪断面測定, 雪 氷 研 究 大 会( 2017・十日町 )講 演 要旨 集, 2017 年 9 月,p.284. 13 ) 沖田竜馬,河島克久,松元高峰 , 小花和宏之: UAV-SfM 測量データと航空レーザ測量デー タを用いた積雪深分布図の作成,雪氷研究大会 ( 2018・札幌)講演要旨集,2018 年 9 月,p.68. 14 ) 千 葉 隆 弘,Thomas Thiis, 高 橋 徹, 苫 米 地 司:デジタル画像を用いた写真測量による屋根 上積雪深の測定精度について,雪氷研究大会 ( 2015・松本)講演要旨集,2015 年 9 月,p.279. 15 ) 千葉隆弘,苫米地司:空撮画像を用いた写真測 量による屋根上積雪深の測定精度,寒地技術 論 文・ 報 告 集,Vol.33,2017 年 11 月,pp.202-205. 16 ) 千葉隆弘:デジタル画像を用いた写真測量によ る屋根上積雪深の推定 -陸屋根と勾配屋根の 屋根形状係数-,雪氷研究大会( 2019・山形) 講演要旨集,2019 年 9 月,p.265. 17 ) 内山庄一郎,上石勲:平成 26 年 2 月豪雪での山 梨県早川町における SfM による雪崩発生状況解 析,寒地技術・論文報告集,Vol.30,2014 年 2 月,pp.43-46. 18 ) 齋藤佳彦,西村浩一,伊藤陽一,新谷暁生,斉 藤翔吾,木村一郎,今井俊昭,イセンコ・エフ ゲーニー:人工雪崩実験による雪崩ダイナミク スの解明 -その2 UAV 撮影画像による雪 崩動態解析-,雪氷研究大会( 2016・名古屋) 講演要旨集,2016 年 9 月,p.130. 19 ) 斉藤翔吾,西村浩一,齋藤佳彦,木村一郎:人 工雪崩実験における雪崩ダイナミクスの解明-その3 雪崩数値シミュレーションによる再 現計算-,雪氷研究大会( 2016・名古屋)講演 要旨集,2016 年 9 月,p.131. 20 ) 斉藤翔吾,齋藤佳彦,西村浩一,木村一郎:北 海道ニセコ町における大規模人工雪崩実験とそ の粒子法による数値シミュレーション,土木学 会論文集 B1(水工学),Vol.73,No.4,2017 年 2 月,pp.I_31-I_36. 21 ) 内山庄一郎,鈴木比奈子,中村一樹,上石勲: 無人航空機と SfM 写真測量による 2017 年 3 月 27 日栃木県那須町の雪崩災害調査,雪氷研究大 会( 2017・十日町)講演要旨集,2017 年 9 月, p.74. 22 ) 内山庄一郎,鈴木比奈子,上石勲,中村一樹: 雪崩災害調査への UAV-SfM の適用:2017 年那 須町雪崩災害の事例,自然災害科学,Vol.37 特 別号,2018 年 10 月,pp.119-135. 23 ) 小田憲一,高瀬慎介,森口周二,上石勲,内山 庄一郎,中村一樹,阿部直樹:3 月 27 日に発生 した那須雪崩の再現を目的とした3次元流動解 析,雪氷研究大会( 2017・十日町)講演要旨 集,2017 年 9 月,p.75. 24 ) 中村一樹,上石勲,内山庄一郎,山口悟,伊藤 陽一,安達聖,阿部直樹,齋藤佳彦:2017 年 3 月 27 日に発生した那須岳の表層雪崩 -新た な解析結果の報告-,雪氷研究大会( 2019・山 形)講演要旨集,2019 年 9 月,p.61. 25 ) 秋山一弥:小型 UAV による全層雪崩の三次元 測定と数値化について,寒地技術論文・報告 集,Vol.35,2019 年 11 月,pp.79-84. 26 ) 秋山一弥,関口辰夫:Google Earth の広域写真 判読で得られた雪崩の特徴と発生規模・発生数 の関係,日本雪工学会論文集,Vol.34,No.1, 2018 年 1 月,pp.1-12.
27 ) Perla, R. : Slab avalanche measurements, Canadian Geotechnical Journal, Vol.14, No.2,
1977.5, pp.206-213. 28 ) 社団法人日本雪氷学会:日本最大の雪崩はいか にして起こったか 3.27 左俣谷雪崩災害調査報 告書,2001 年 3 月,p.14. 29 ) 国土交通省国土地理院:UAV を用いた公共測 量マニュアル,2016 年 3 月,pp.9-10. 30 ) 黒部峡谷雪崩実験観測研究グループ:黒部ホウ 雪崩 -黒部峡谷乾雪表層雪崩の研究-,富山 大学立山研究室,1989 年 2 月,pp.45-48. 31 ) 西村浩一:雪崩の内部構造と流動機構,なが れ,Vol.34,No.5,2015 年 10 月,pp.333-338.